広い世界の小さな森で

小説トップ
第一章
森の怪物
ここは世界で最も広い森。

遥か昔から多くのポケモンが存在し、草木が生い茂っている。

人間の文明でも、この広すぎる森をくまなく探索するには、困難を極めるだろう。

故に、この森には人間にも知られていない多くの事実があるのだ。

そしてこの森のとある場所には怪物の噂がある。

これは、とある悪ポケモンとブイズたちの物語。

 * * * * *

(まったく、こんな依頼が来るとは、俺も随分有名になったものだな。)

俺はそう喜ばしく思いながら森を奥に進む。

GPSがあるので、迷う心配もない。

俺は腕利きの弓使い。

その腕を買われて悪いポケモンを退治するハンターになったのがもう何年も前の話だ。

数々の依頼をこなし、数々のポケモンを退治してきた。

今回も、決して例外ではない。

この森の怪物の噂は耳にしていた。

森の南端、南側から森に入ると、必ず怪物に襲われるのだ。

襲われるといっても、最近は逃げ帰ってくるだけで死傷者はいないが。

俺はその怪物を退治するためにやってきたのだった。

ふと、気配を感じて足を止める。

いる。

何かは分からないが、10メートルほど先の木の裏に、気配を感じる。

(長年の勘を甘く見るなよ…?)

俺は矢を取り、弓を構える。

そして走り出す。

木の裏側に回り、矢を放とうと…。

「俺!?」

そこには俺がいた。まぎれもない自分自身だ。

俺は立ちすくむ。訳が分からない。

するとその「俺」が優しく微笑んだ。

俺もその場で苦笑いをする。

すると、突然目の前の「俺」がどろどろと溶け始める。

現れたのは、三つ目の、この世のものとは思えないような化け物。

「う、うわあああ!!」

俺は驚いて腰が抜ける。

とっさに持っていた弓で怪物めがけて矢を放つ。

だが、狙いも定まっていない矢は怪物の遥か頭上を飛んで行った。

その怪物は手なのか何なのか分からないような体の一部で、俺の弓と矢を取り上げた。

「こんなものでこの俺をやっつけようなど、片腹痛いわ!」

「そこまでして食われたいのか。なら…!」

怪物が先を言う前に、俺は背を向けて走り出していた。

背中の矢が何本か散らばったが、気にしてられなかった。

俺は来た道をあらん限りの全速力で駆け戻る。

「受けるんじゃなかったぜ全くよぉ…。」

俺は涙目で村に逃げ帰るのだった。

 * * * * *

(まったく、愚かだな。人間ってやつは。)

そう蔑みつつ、俺は高い木に登り、南側から弓と矢を背負った青年が森を進むのを見つめる。

(この俺を退治するどころか、目視すらできるはずがないというのによ…。)

いつもと同じように適当に脅して逃げ帰らせるか。

そう思うと俺は“イリュージョン”を発動させる。

人間に同じ姿を見せてやった後、この世のものではない、俺が想像で作った怪物を見せる。

矢を打ち込まれても、幻であるからダメージもない。

まあ、当たりすらしなかったが。

青年は尻尾を巻いて逃げていく。

見えなくなった後、俺は散らばった道具を見る。

(何かに使えるかもしれねぇな…。)

俺はその矢を横目に木の実集めを始めた。

 * * * * *

俺はルカリオ。どこからどう見てもルカリオだ。

だが、実際は違う。

赤い鬣に水色の瞳。

俺は孤高の一匹狼、ゾロアーク。

いつ頃からだろうか、この森の南側一帯に住み着いたのは。

この森の南側の両端には崖があり、夜は東側にある洞窟に、昼は森で食料を取ったりしている。

ゾロアークという種族は、一言で言うと、評判が悪い。

見たことのある生物に化け、特定の相手に幻影を見せることのできる特性、“イリュージョン”の能力を使っては、他を騙し、生きてきたからだ。

俺は独り立ちして以来、誰とも会わないように徹してきた。

他のポケモンや人間が来ると、“イリュージョン”で追い払っていた。

俺がいつもルカリオに化けているのは、万が一誰かに見られたとしても、ゾロアークではないと思わせるためだった。

怪物がゾロアークだと誰かにバレれば、すぐに広まり、他のポケモンが怪物を恐れなくなってしまうからだ。

そのため、怪物の噂は広まっていき、南側にはほとんど誰も寄り付かなくなった。

ゾロアークは元より、群れないポケモンだ。

俺には友達や兄弟関係もなければ、親も子もいない。

こんな生活が当たり前。なんなら死ぬまでこの暮らしが続くと本気で思っていた。

思っていたのだが…。

 * * * * *

俺は木の実を両手で抱えきれなくなるくらいまで持ち、寝床にしている洞窟に戻る。

森はまだ明るいが、夕方になると急激に暗くなるから早めに戻る。

俺は洞窟に入って一度床に木の実を置いた。

すると洞窟の奥、数メートル先に水色のポケモンが眠っていた。

俺は動揺して転びそうになる。

人間どころかポケモンも寄らないこの南側の俺の洞窟で、どうしてポケモンが眠っているのだろうか。

俺はあまりに突然で想定外の出来事にどうしていいのか分からず、唖然とする。

それは俺が自分以外の生物と関わってこなかったから、とも言えるだろう。

(他と関わるのは御免なんだがな…。)

しかし、どかさなければ今日は寝ることができない。

それに、長年使ってきたこの場所をそう易々と明け渡すわけにはいかない。

俺は自分の姿が青いことを確認して、そいつの体を揺さぶろうと近づく。

手をかけた時、そのポケモンが苦しそうな顔をしていることに気づく。

背中からは血が流れ出て、十センチほどの池を作っている。

奥には血の付いた一本の矢。

(さっきの人間の…。)

俺は察した。先ほど怪物に化けて人間が撃った矢が、偶然こいつに命中したのではないか。

見たことのない顔から、迷い込んでこの森の南側に来ていた可能性は十分にある。

そして矢を受けたこいつはとりあえず安全な場所に移動してそのまま気を失っている。

そう俺は推理した。

しかし、ならば問題はむしろ減るのではないか?

このまま放置しておけば、勝手にくたばってくれるのだから。

むしろラッキーだ…

(俺がいなかったら、こいつは死ななかった。)

頭の中で誰かが話しかけてくるように言葉が跳ね返る。

(俺のせいだ。)

知らない。俺じゃない。やったのは人間だ…

(俺が呼び寄せた。俺のせいだ。)

何度も木霊する。

(俺のせい…俺のせい…)

「あーもう!」

俺は頭を抱え込んで叫ぶ。

俺は洞窟の奥にしまっておいた薬草、“復活草”を取り出し、いつものように薬を作る。

傷は、ポケモンの修復力を考慮すれば、完全に元通りになる程度のものだ。

出来上がった薬をそのポケモンの傷に塗り込み、余りは水に溶かしてコップに入れ、そこらに置いておく。

一通りの作業が全て終わった後、俺は奥に行って、復活草の残りを調べるために保存している薬草やら木の実やらを漁る。

どうやら、あれで最後だったようだ。

「チッ…。」

復活草は床にでもあるわけではなく、探すのも一苦労なのだ。

俺は取りに行こうと思ったが、このまま長くなればすぐに森は暗くなり、右も左も分からなくなってしまう。

俺は諦め、貯めてある木の枝を数本取ってあのポケモンがいるところに戻り、“火炎放射”で焚火を起こす。

熱くはないように遠くに焚火を設置した。

俺は焚火の近くで他のポケモンを隣に座っているこの何とも不思議な事態を実感する。

全く、迷惑な話だ。

俺はしばらくボーッとしながらこの変な状況を独り噛みしめるのだった。

 * * * * *

森の天井は赤みがかって、だんだんと暗くなってきた頃、俺は壁にもたれかかり、ウトウトしていた。

すると、さっきのポケモンが突然目を覚ます。

「ここは!?」

「洞窟だよ。見りゃ分かるだろ。」

俺はそいつを横目に太い声で答える。

「あんた誰?」

「俺は…ルカリオだ。」

厳密に言えば、ルカリオに化けたゾロアークだが、そんなことをこいつに言ってやることはない。

「ここに住んでるの?」

「そうだが?」

「ふーん。窮屈なところね。」

「あ?」

俺は突然の失礼な言葉に怒りを覚える。

が、それも束の間、そのポケモンは復活草の処置に気づく。

「これ…あんたがやったの?」

「そうだ。」

「はぁ…最悪。」

俺は一瞬頭が止まる。喜ばれるかお礼を言われるシーンだと思うのは俺のコミュニケーションの経験がほとんどないからなのだろうか。

「どうしてよりにもよってルカリオに助けられるのかしら…。」

グレイシアは小声で呟く。

「どういう意味だ。」

「そのまんまの意味よ。」

俺は怒りを顔に出さないように話す。

「まるで俺がルカリオじゃなきゃいいみたいな言い草だな。」

「あんたには関係ない。」

助けてやったのに何なんだこいつは。

(こんなことなら、放置しておけばよかった…)

「ねえ。おなかがすいたんだけど。」

グレイシアは俺が昼間集めた木の実を指して言う。

「知らねぇよ。自分で勝手にすればいいだろ。」

「自分で処置した傷の具合も分からないの?」

「うるせぇなぁ…。」

俺は採ってきた木の実の山のところに行き、適当に取って投げる。

「これでも食っとけ。」

俺はオボンの実を投げる。

「う…。私これ苦手なんだけど。」

つくづく何なんだこいつは。

この期に及んでまだ好き嫌いまでしやがるのか。

「じゃあ何がいいんだよ。」

「その曲がったピンクの実がいいわ。」

俺は二個ほどしかない実を投げる。

そいつは手に取るや否や、すぐに食べ始めた。

俺が木の実を選んで座った時には、もう食べ終わっていた。

「ごちそうさま。」

「私はグレイシアよ。」

「あんた、どうして怪物の住む南側なんかに住んでるのよ。」

「何だっていいだろ別に。」

俺も木の実をすぐに食べ終える。

「よくないわよ。ここには入ってこれないだろうけど昼間は襲われるわよ。」

「見たことないの?」

「あるには…あるが…。」

俺はバツが悪くなって下を向く。

「じゃあとっとと避難しないと食われるわよ。」

「私の友達の知り合いがいくつも食われたらしいわ。」

(食ってねぇよ…。)

俺は心の中でツッコミを入れる。

最近は追い払うだけで、食いもケガさせもしていない。

「こんなところ脱出するわよ。」

「い、いや、ほら、ここにはなんだか知らねぇけど寄り付かないんだよ。」

「本当に?」

「ああ。だからこの洞窟も壊されちゃいないし、俺も襲われたことはない。」

「だからお前だけ帰…。」

「そう。じゃあ安心ね。ここに住むことにするわ。」

「……は?」

俺はグレイシアを二度見する。

「ここに住む。よくよく考えたら私、帰る場所ないし。」

「いや、誰が許可したっていうんだよ。」

俺は真顔で拒否する。

「出てけ。」

「嫌よ。安全なんでしょ、ここ。」

彼女もその拒否を真顔で拒否する。

「それとも何?傷も癒えないまま外に出て怪物に食われろって言うのかしら?」

「私を助けた行動と矛盾しているけれど?」

「く…。」

言い返す言葉が出てこない。

「傷が癒えたら出てけよな。」

「考えておくわ。」

 * * * * *

俺たちは気が付けば眠っていた。

森はすっかり明るくなっている。

「はぁ…分かってはいたけれど、寝心地最悪ね。」

俺はグレイシアの言うことを無視して朝飯を木の実の山から漁る。

俺は癖でオッカの実を軽く火炎放射で炙る。

「火炎放射使えるのね。」

グレイシアが俺の行動を見て話しかけてくる。

(し、しまった…つい癖が…!)

多分だが、ルカリオは火炎放射は使えない。

俺が真っ青な顔をしていると、グレイシアは首をかしげる。

「何?」

どうやら、ルカリオの覚えられる技までは把握していない様だ。

俺はほっとして適当に答える。

「まあ…色々と便利だからな。」

俺たちは朝飯を食べ終えた後、暇になった。

俺は復活草を取りにいかなければならないことを思い出す。

「どこ行くのよ。」

「昨日お前に使った復活草で最後だったんだ。採りに行かねぇと。」

「バカ!死にたいの!?」

グレイシアは信じられないといった高い声を上げる。

「あんたも見たなら知ってるでしょ!?あの怪物。」

「見つかったらただじゃ…」

(めんどくせぇ…)

俺は思った。自分が怪物の正体なのだから、襲われるはずもない。

いつ必要になるか分からないから、早く取りにいかなければ。

「ああ…怪物なら今日はだいたいどの辺にいるとか分かるからいいんだよ。」

「だてに長いこと住んでるわけじゃねぇし。」

「でも…私のせいで…そんな危険な…。」

グレイシアはしばらく考えた後、俺に言う。

「分かったわ。私も連れて行きなさい。」

(は?)

「作業効率も二倍になるじゃない。いざとなったら私が…」

「いらねぇよ。邪魔だ。第一ケガ治りたてで何ができるってんだ。」

「大人しくここで寝てろ。」

「私だけの時にここに来たらどうするのよ!」

「ここには来ねぇって昨日も言ったろ。」

グレイシアは食い下がる。

「私のせいで危険を冒すのに、寝てられるわけないでしょ!?」

立ち上がって大声を上げるが、すぐに黙ってその場に座り込む。

「はぁ…もうホント最悪。」

グレイシアは悪態をつく。

「しょうがねぇな……」

俺はそこまでして拒否するなら、連れて行った方がマシだという考え方に変わった。

「とっとと探してとっとと戻るぞ。」

 * * * * *

俺たちは森の木の根元辺りを探し回る。

グレイシアは周りをキョロキョロ見まわしながら復活草を探している。

いっそ怪物を見せて南側から追い払って…

いや、ここで追い払ったとしても、また俺を探しに来るかもしれない。

(下手なことはしない方がいいな…。)

「ねぇ!本当に大丈夫なの?」

グレイシアが遠くから話しかけてくる。

「ああ。この辺には今日は来ねぇよ。」

適当に流すと、俺の洞窟側の崖の少し上ったところの岩に束になった復活草を見つけた。

俺はジャンプしてみる。

届きそうで届かない高さだ。

俺は崖の出っ張りを利用すれば届くことに気づく。

俺は崖を蹴って復活草を何とか三つほど手に入れた。

「おい!復活草あったから帰るぞ!」

返事はない。

(北側に逃げ帰ったか…?)

ニヤついて想像していると、さっきグレイシアがいた場所よりも更に奥で物音が聞こえた。

俺は小走りで物音のする方に近づく。

「お前が怪物か?随分小さいな…?」

「うぐ…ゲホっ!」

ポケモンの声…だが、彼女のではない。

そこにいたのは、ドラピオンだった。

ドラピオンは、彼女の首を絞めて持ち上げていた。

俺はとっさに“気合玉”をそいつめがけて打ち込む。

攻撃を食らったドラピオンはグレイシアを放し、俺の方を見る。

俺はそいつが言葉を発するよりも前に、気合玉をもう一つお見舞いする。

ドラピオンは腕でガードする。

俺は飛び込んで“辻斬り”を顔面に食らわせる。

ドラピオンはよろけて倒れた。

気を失ったようだ。

俺はグレイシアを覗く。

こいつも気を失っているようだ。

後ろのドラピオンが起き上がる。

俺は戦闘姿勢を見せる。

それを見て弱腰になったのか、ドラピオンは後退りをした。

「お、お、お前は怪物なのか!?この森の!?」

「さあな。」

俺は答えてやらない。

「どっちであろうと、俺の縄張りを荒らすことは許さない。」

「ヒッ!!」

ドラピオンは南側に向かって逃げ帰っていく。

(人間のポケモンか…?)

南側には、人の集落がある。

そこから来たと推測するのが普通だろう。

俺は復活草と一緒に彼女を抱きかかえ、洞窟を目指す。

戻ってくると、俺は彼女を寝かせた。

まだ意識が戻らないようだった。

「おい起きろ!グレイシア!」

俺はまさかと思い、口元に手を当てたり腹辺りに耳を近づけたりしてみるが、呼吸は正常だ。

「あーーっ!やっと見つけたぁ!」

俺は突然の大声に驚いて、後ろを振り返る。

その声の主は、洞窟の入り口で、俺とグレイシアを凝視する一匹のニンフィアだった。



To Be Continued…
BACK | INDEX | NEXT

■筆者メッセージ
ポケモンと人間が存在する、普通の世界のとある森のお話。
ぽっきー ( 2022/06/01(水) 02:07 )