蔦蛇探検記
三つの正義
三つの正義
「はぁ……白陽探検隊のところに行ってたら、すっかり遅くなっちゃった。ニーケ待ってるかな」
 太陽が沈み、星が綺麗な夜空が見える時間に、一匹のツタージャが森の中を走っていた。
「急がないと……わっ!」
 薄暗くなって足場が見えにくくなっているため、ツタージャは崖の先に足を踏み入れ、そのまま転落してしまった。
 慌てて蔓を出し、木に引っかけようとするツタージャだったが、崖の近くに木がなかったためかける事が出来ず、蔓も一緒に虚しく落ちていった。
「僕に掴まって!」
「えっ!」
 ツタージャは驚き、声のする場所を見る。
 暗くてよく見えないが、そこには確かにポケモンがいて、ツタージャに向けて手を出していた。
 そのポケモンに向けて、ツタージャは蔓を飛ばす。蔓を掴み、そのポケモンはツタージャを引っ張って森へ戻した。
「ふぅ……助かったわ。ピカチュウ、どうもありがとう」
 自分を助けたポケモンに、丁寧にお礼を言った。
 ツタージャを助けたのは、ピカチュウだった。
「どういたしまして。怪我とかしてない?」
 ピカチュウはツタージャの体を心配し、言った。
「大丈夫よ。私はボア。探検隊のリーダーをやっているの」
 ツタージャはピカチュウに、自己紹介をした。
 ボアという名のメスのツタージャは、探検隊という職業のリーダーを勤めている。
 探検隊とは、困っているポケモンの依頼を受け解決し、その報酬をもらうことで生活する職業のことだ。
「そうなんだ! 僕はシンテル。偶然だね、僕も探検隊のリーダーだよ」
 シンテルという名のオスのピカチュウは、ボアの話を聞いて明るく言う。
 ボアと同じく、シンテルも探検隊のリーダーだった。
「あら、シンテル、その傷……」
 シンテルのお腹を指し、ボアは驚いている。
 そのお腹には、なにか強い衝撃を受けたような深い傷があった。
「これ? あるポケモンと戦ってるときに、つけられた傷だよ。ボアのお腹の模様も、普通のツタージャとちょっと違うよね?」
 ボアの体には、お腹から尻尾にかけてキャタピラのような横線が刻まれている。
「私のこの模様は生まれつきなの。……あ! シンテル、私急いで帰らないといけないんだった」
 ボアは自分の用を思い出し、少し焦っている。
「もっといろいろお話ししたいけど……」
「じゃあ、また明日遊びに来てよ。この森の近くに、僕の家があるから」
 焦るボアに対し、シンテルは優しい笑顔で言った。
「ええ、じゃあまた明日来るわね!」
 シンテルに手を振りながら、ボアは森を抜けていった。

 * * *

「ニーケ、おはよう」
 翌朝、ボアは自分の家で、共に探検隊を組んでいるロコンに挨拶をした。
「おはようボア。昨日は先に寝ちゃってごめんね。帰ってくるまで起きてようと思ってたんだけど」
 ニーケという名のオスのロコンが、申し訳なさそうに言う。
 昨日の夜、ボアが家に帰ってくると、ニーケは既に眠りについていたのだ。
「いえ、いいのよ。昨日帰ってきたときは夜遅くだったから。もう気にしないでね」
 落ち込んでいる様子のニーケに、ボアは優しく言った。
 ボアの言葉を聞き、ニーケも笑顔を見せる。
「じゃあ、これが今日届いた依頼だよ」
 ニーケは、今朝ポストに届いた依頼書を、ボアに渡した。
「うーん……今日はどうしようかしら」
 じっくりと依頼を見ながら、ボアは慎重に選んでいる。
 そしてしばらくすると、ある依頼を見て、ボアは目を疑った。
「ニーケ、これ見て」
 ボアはニーケに、その依頼を見せる。
「なに?」
 不思議そうな表情を浮かべ、ニーケは依頼を見る。
 依頼を見た直後、ニーケの表情は更に曇り気味になった。
「なにこれ、ちょっと怖い」
 その依頼には、大きな文字で《助ケテクダサイ》と書かれており、場所は電波塔と書いてあった。
 さらにその文字は、電気で書いたような焦げ後が残っている。
「カタカナだし、焦げてるし……なんか、ただならない出来事があった予感がするわね」
 文字を見て、この依頼者が複雑な事件に巻き込まれたのではないかと、ボアは考えている。
「助けに行きましょ!」
 ボアは、ニーケに同意を求めるように言った。
「わかった! 電波塔だね!」
 ボアの意見にニーケが同意し、この日最初の依頼が決まった。

 * * *

「電波塔って、ここよね」
「うん、間違いないよ」
 ボアの発言に、ニーケが地図を見ながら言った。
 蔦蛇探検隊はすぐに出発し、電波塔の前まで来ている。
「ボア、電波塔に入る前に、一つ聞いても良いかな?」
 少し言いにくそうな様子で、ニーケが尋ねる。
「ええ、なに?」
「この依頼って、報酬はなんなの?」
 ニーケの問いかけを聞き、ボアは依頼書を確認する。
「依頼の報酬は……書いてないわね」
 何度も依頼書を読み直し、ボアは意外な様子で言った。
 助けてほしいというメッセージと、場所のみが書かれている依頼書。しかしその文字のインパクトが強かったため、ボアは報酬の事を確認していなかったのである。
「でも本当に大事件に巻き込まれていたなら、報酬なんて用意できないわよ」
 ボアは報酬が記載されていない事に対し、自分なりの解釈を言った。
「それはそうだね。それにもう来ちゃったし……」
 ボアの言うことに、ニーケは納得している。
「じゃあ、行きましょっ!」
「うん!」
 ボアとニーケは息を合わせ、電波塔に入っていった。
 電波塔の中は大部分が鋼鉄で出来ており、ところどころで電磁波や火花が散っている。
 ニーケが持つ特性の一つ、日照りによって、電波塔に日差しが強く差し込んだ。
 電波塔を、慎重に進む二匹。しかし突如、体に異変が起こりだした。
「うっ……体が……」
「ニーケもそうなの?」
 ボアとニーケの体は、電気の技を受けているのだ。
「なんなの?」
 電気タイプに抵抗を持つボアは、ニーケに比べると受けているダメージは少ないため、少し走って奥を確認した。
「ギギギギギ……」
「あっ、あれは!」
 奥からやってくるポケモンの声とシルエットを見て、ボアは驚いている。
 やってきたのは、放電を放ちながら進む、数匹のギギギアルであった。
「うっ、放電って部屋全体に効くのね」
 放電を全身に受けながら、ボアはニーケのもとに戻る。
「ニーケ、あれやるわよ!」
「うん、わかった!」
 ボアの気合いが入った誘いに、ニーケも気合いを入れる。
 ニーケは、全身に炎をためはじめた。
「それっ」
 ニーケの動きを確認すると、ボアは天井に向かってジャンプをした。
「この技も全体攻撃だ! 噴煙!」
 ニーケは黒煙を放ちながら、三百六十度の円を描くように、周囲に炎を放った。
 噴煙は味方も巻き込む技だが、ジャンプして空中にいるボアには、攻撃は届いていない。
 炎タイプの噴煙は、鋼タイプを持つギギギアルに効果抜群であるため、数匹いるギギギアル全てに致命的なダメージを与えた。
 それでもまだ、放電を放てるほどの体力は残っているため、空中にいるボアが攻撃の準備を始める。
「メテオプラント!」
 ボアは空中で体を回転させ、無数のトゲがついた球体の植物を、隕石のように降らせた。
 回転する体から猛スピードで放たれる植物は軌道が読めず、ギギギアルたちはボアの攻撃を受け続けている。
「ふぅ……どうかしら。私たちのコンボは」
 攻撃を終えたボアは、目の前で動けないギギギアルに対して言った。
 ボアが覚えている技は、全て彼女が独学で覚えたものだ。かなり長い年月と努力を費やして習得した技に、ボアは絶対的な自信を持っている。
「ニーケ、やったわね!」
 ボアは後ろを振り返り、ニーケに言った。
「うん! それじゃあ先にっ……」
「えっ! ……ニーケ!」
 ボアのもとまで走ってくるニーケだったが、突然黒い電気の塊が、ニーケの体に直撃する。
「ニーケ!」
 技を受け、壁まで吹き飛ばされたニーケのもとへ、ボアは走る。
「ニーケ、大丈夫?」
「うん、大丈……うっ」
 話そうとするニーケだったが、体が痺れてうまく喋れないようだ。
「麻痺してるのね。恐らくさっきの技は、電磁砲……。命中率は低いけど、当たったら必ず麻痺状態になる技……いったい誰が」
 ボアはニーケを気にしながら、周囲を見渡す。
 ニーケの噴煙、ボアのメテオプラントを受けたギギギアルは、既に動けないほどのダメージを負っている。すなわち、ニーケに電磁砲を放ったのは、ギギギアルではない誰かという事だ。
「……ん?」
 ボアは、進行方向の道からやってくる影を発見し、じっと見ている。
「ジジジジ……」
「あれはジバコイル……あいつね、電磁砲を放ったのは」
 攻撃態勢でゆっくり前進してくるジバコイルを見て、ボアは呟く。
「ニーケ、危ないからここにいてね」
 ニーケに優しく言うと、ボアは尻尾を金色に光らせた。
「ゴールドライン!」
 金色に光る尻尾を、ボアはその場で縦に振り下ろした。
 その尻尾からは金色の一線が放たれ、ジバコイル目掛けて一直線に飛んでいった。
「ラスターカノン!」
 ボアが技を放った事を確認すると、ジバコイルも鋼エネルギーの大砲である、ラスターカノンを放つ。
 金色の線と銀色の球体はぶつかり合い、お互いを相殺した。
「ココヘ何ノ用ダ」
 目の前にいるボアに、ジバコイルは尋ねた。
「……ふっ」
 ジバコイルの問いかけを無視し、ボアは体から何本も蔓を出した。
「ニーケに手を出したことを、後悔するのね」
 ボアはそう言うと、ジバコイルに向かって走っていった。
「ンン? ドコニ行ッタ!」
 ボアは素早く移動し、ジバコイルの視界から消える。
「ふふっ、私はここよ」
 ジバコイルの背後に移動していたボアは、軽く笑いながら言った。
 振り返ろうとするジバコイルの背後で、ボアは攻撃の準備をする。
「超・統合……」
 ボアの体から出た何本もの蔓は、紫色のエネルギーに包まれた。
「イツノ間ニ……」
「サイコスネーク!」
 振り返り、ボアの姿を確認しようとするジバコイルだったが、それよりも早くボアの技が直撃した。
 紫色のエネルギーをまとったボアの蔓は、生物のような動きをしながらジバコイルの体を何度も叩き、ジバコイルを戦闘不能の状態にさせた。
「……他にいないかしら」
 ジバコイルが気を失っていることを確認すると、ボアは慎重に周囲を見渡す。
「大丈夫そうね」
「ボア!」
 ボアが呟いた直後、ニーケが走ってやってきた。
「ニーケ、ちゃんと歩けるの?」
 電磁砲により麻痺状態になっているはずのニーケが、何事もなかったかのように走ってくるのを見て、ボアは少し驚く。
「うん、麻痺は自分で治したから」
「自分で治したって……あっ!」
 ニーケの発言にしばらく考え、ボアは何かを思い出したように声を出す。
「そうね、忘れてたわ。じゃあ、今の内に進みましょ」
「うん!」
 全ての敵を倒し、ボアとニーケは最上階を目指して進んでいった……。

 * * *

「ここ……なに?」
「変な部屋ね」
 電波塔の最上階に到着したボアとニーケは、目の前の光景を見て驚いている。
 黒い筒のような大きい機械が何本もあり、その周りには青白い電磁波が流れていた。
「本当にこんな部屋に、依頼者がいるのかしら……」
 ボアとニーケは目を凝らしながら、ゆっくりと辺りを探す。
「……うぅ……誰?」
「え?」
 奥にある、四角い檻のような場所の中から、声がする。
 ボアとニーケは、その檻に近づいた。
「そこに、誰かいるの?」
 ボアはそう言いながら、そっと檻に近づいた。
「誰でもいいから……助けて……」
 ボアの声に反応し、檻の中から返事が返ってきた。
「もしかして、依頼者がこの中に……待ってて、今助けるわ!」
 ボアは檻から少し離れ、檻に向けて技を放った。
「メテオプラント!」
 ボアの体から放たれた球体の植物は、一直線に檻に向かい、激突した。
 空中で放ったときはボアが回転していたため、植物は様々な方向に飛んでいったが、今はボアの意志によって、狙った方向に飛ばしている。
 植物が激突し、檻は粉々に砕けている。
「ハァ……ありがとう……」
 砕けた檻から、傷だらけのポリゴンZが出てきた。
「この依頼を出したのは、あなたで間違いない?」
 ボアは冷静に、ポリゴンZに尋ねた。
「はい……そうです……」
「ボア、このポケモン麻痺してるよ!」
 ニーケは、傷だらけのポリゴンZを見て言った。
 その一言に、ボアも状態以上を確認する。
「ニーケ、急いで治してあげましょ」
「うん! 待っててね」
 ニーケはポリゴンZに優しく言うと、体に太陽のエネルギーをためる。
 次第にニーケ自身も光だし、光が収まった頃にはその姿が変化していた。
「……?」
 姿を変えたニーケを、ポリゴンZは不思議そうに見ている。
 ニーケの尻尾はピンクの花びらのような形に変形し、頭の毛も同様に、植物状になっている。
 植物になった尻尾から、ニーケは緑色の暖かい光を出した。
「……!」
 その光を受けたポリゴンZは、体の痺れがとれた。
「ニーケのアロマセラピーよ。状態異常を回復させることができるの」
 戸惑うポリゴンZに、ボアは優しく説明した。
「どうして、変形が?」
 ポリゴンZはニーケを指し、ボアに尋ねる。
「ニーケは炎タイプのポケモンなんだけど、強力な草タイプの養分を植えつける果実を口にしちゃったから、こうして草タイプの姿にもフォルムチェンジができるようになったの」
 ボアが説明している間に、ニーケは元の姿に戻った。
「状態異常は治せても、体力の回復はできないんだ。ごめんね」
 傷を負うポリゴンZに、ニーケは申し訳なさそうに言う。
 ポリゴンZは首を横に振り、話し始めた。
「あれから出してもらえただけで、ありがたいです」
 自分が入っていた檻を指し、ポリゴンZは言う。
 ポリゴンZは自身をゼットと名乗り、ボアとニーケにお礼を言った。
「それにしてもゼット、あの檻から、自分の力で脱出できなかったの?」
 ボアは、気になった事を尋ねた。
「あの檻にいるポケモンは、一切技が出せないんだ。壊してくれて助かったよ。これ、お礼です」
 ゼットはそう言うと、ボアと同じ大きさに膨らんでいる袋を渡した。
「……! これって!」
 中身を確認したボアは、とても驚いている。
「うわっ! 凄い額だよこれ」
 ボアに続いて、ニーケも驚いた。
 袋いっぱいに入っていたのは、この世界の通貨だった。
「本当に良いの? こんなにたくさん」
 ボアは戸惑いながら、ゼットに尋ねる。
 今までたくさんの依頼をこなし、報酬をもらってきたボアがここまで驚くということは、よっぽどの額が袋の中に入っているという事だ。
「うん! だってボアとニーケが助けに来てくれなかったら、まだあの檻に閉じ込められたままだったもん。そうだ、これもあげる」
 ゼットはボアに、黄色い玉を渡した。
「これ、なに?」
 黄色い玉を受けとったボアは、素直に尋ねる。
「あるポケモンとの戦いで奪った道具だよ。でも持ってても効果ないみたいだから、一緒にあげる」
「そう……じゃあ、もらうわね。どうもありがとう!」
 無事に依頼を達成したボアとニーケは、ゼットからのお礼を持って、家に帰っていった。

 * * *

「ニーケ、これなんだと思う?」
 ボアはゼットにもらった黄色い玉を見て、ニーケの意見を求めた。
「うーん……」
 黄色い玉をじっと見ながら、ニーケは考えている。
「不思議玉の一種かな?」
 考えた末、ニーケは自分の答えを言った。
 不思議玉とは、使う事でその場の状況を変化させる道具である。
 日照り玉は、その場を日差しが強い状態にさせることができ、雨玉はその場に雨を降らせる。他にも素早さを逆転させるものや、道具が使えなくなるもの、一定期間能力値を上げるものなどが存在し、その種類の数は解明されていない。
 不思議玉は色が塗られたガラス製の球体なので、似た特徴を持つその玉を見て、ニーケはそれの一種ではないかと判断したのだ。
「確かに有り得るわね。今度探検に行ったときに、効果を確かめてみましょ」
 ボアは、黄色い玉を鞄にしまった。
「ねえニーケ、この後の予定とかある?」
 改まった様子で、ボアはニーケに尋ねた。
「この後? ……特にないけど」
「そう、よかった」
 ニーケの返事を聞き、ボアはほっとした様子で言った。
「よかったって?」
 ボアの言葉に反応し、ニーケは尋ねる。
「実は昨日の夜……」
 シンテルという名のピカチュウに助けられ、もう一度会いに行く約束をしたという事を、ニーケに伝えた。
「そんな事があったんだ。それで、今から会いに行くの?」
「ええ、そのつもりよ。一緒に来る?」
「うん、もちろん!」
 ボアの問いかけに、ニーケは即答した。
「じゃあ早速、行きましょっ」
 ボアは鞄を背負い、ニーケと共に家を出た。

 * * *

「ゼットって、これをあるポケモンから奪ったと言ってたわよね」
 ボアは黄色い玉を手に取り、ニーケに尋ねる。
「うん、確かそう言ってた」
 ボアとニーケは、電波塔でのゼットとの会話を思い出しながら、道を歩いていた。
「その割には、持ってても意味ないと言ってたし……じゃあ、なんで奪う必要があったのかしら」
 ボアは喋りながら、ニーケの意見を求めている。
「うーん……あれ」
 考えるニーケだったが、目の前の景色を見て立ち止まる。
「おうお前ら」
 ボアとニーケの進行方向に、アーボックがいた。
「あ、コバロ……」
 アーボックを見て、ボアが呟く。
 このアーボックの名はコバロといい、毒蛇探検隊のリーダーを勤めている存在だ。
 毒蛇探検隊は、蔦蛇探検隊と何度も決闘したことがある、ライバルのような探検隊である。
「なにか用?」
 ボアは感情を込めず、コバロに冷たく言う。
「なんだ? 今日はあいつはいないのか」
 ボアとニーケを見て、コバロは意外そうに言った。
「あいつ? ……あ、ちょうどよかった。そこにいて」
 ボアは何かを閃いた様子で、コバロに言う。
「あ? なんだよ!」
「それっ!」
 目の前にいるコバロに、ボアは手に黄色い玉を投げつけた。
「ん? あぁぁっ!」
 黄色い玉は、コバロの体に当たった途端、強い電撃を放出した。
 その電撃を受け、コバロは麻痺状態になっている。
「なにこれ、こんな不思議玉があるのね」
 再び黄色い玉を手に取り、ボアは呟く。
「おいボア……いきなりなにしやがる……」
 痺れた体で、コバロは言った。
「この不思議玉の効果を確かめたかったのよ。まさか、相手を麻痺にする不思議玉だったなんて……」
 コバロの言葉に反応し、ボアは淡々と話す。
 だがコバロの状態を見かねたニーケが、アロマセラピーで麻痺を治した。
「おい、ボア!」
 体の痺れがなくなり、コバロはボアに叫んでいる。
「うるさいわね。だいたいあなた、こんなところで何してるのよ!」
 ボアは、うんざりした様子で言った。
 もともとボアとコバロは、昔同じ南国の島にいた過去を持っている。まだコバロが進化していなかった頃、その島の姫となっていたボアを倒そうと何度も戦いを挑むも、全て返り討ちに会っているのだ。
 同じ島にいたこともあり、ボアもより感情的になりやすい相手なのかもしれない。
「先に攻撃したのはお前だろ! それに俺は、ただ散歩をしてただけだ。それよりお前ら、もう一匹の仲間はどうしたんだ?」
 頭を整理させ、コバロは聞きたいことを話した。
「もう一匹?」
 コバロの話を聞き、ニーケは首を傾げている。
「蔦蛇探検隊は、私とニーケだけよ」
「……そんなはずないだろ。いつも一緒にいるあのヒメグマは、仲間じゃないのか?」
 ボアの発言を聞き、コバロは疑問をぶつけた。
「あっ、メグの事ね。あの子は私たちにハチミツを届けてほしいと依頼したポケモンで、それからよく一緒に探検してるの。私たちの友達ね」
「……ボア、ニーケ」
 ボアの説明を聞き終え、コバロはおとなしく話しかける。
「後ろ見てみろ」
「後ろ?」
 コバロに言われ、ボアとニーケは後ろを振り返った。
「うわっ! メグ!」
 ニーケは、驚いて声を出した。
 いつの間にかボアとニーケの背後に、メグがいたのだ。
「もう、言っちゃダメだよー」
 メグという名のオスのヒメグマは、少し残念そうにコバロに言った。
「メグ、どうしてここに?」
 ボアは冷静に、メグに話しかける。
「ボアとニーケがいたから、来たんだ」
「そうなの……」
 納得しているのか呆れているのかわからないようなトーンで、ボアは言った。
「あれー? ボア、それどうしたのー?」
 ボアが持っている黄色い玉を見て、メグは興味を示している。
「依頼の報酬で、もらったの。不思議玉の一種みたいだけど、知ってる?」
「それって確か、ピカチュウが持つと効果を発揮する、電気玉って道具じゃないかなー?」
 メグは、その道具の詳細を伝えた。
 ボアが報酬でもらった黄色い玉は、ピカチュウ専用の道具である電気玉だったようだ。
「ピカチュウが持つと効果を発揮する道具……」
 メグが言ったことを自然に繰り返しながら、ボアは電気玉を見つめる。
「でもメグ、この玉はさっきボアがコバロに投げたときも効果を発揮したよ?」
 少し前の出来事を思い出し、ニーケは不思議そうに言った。
 確かに、ボアがコバロに電気玉を投げたとき、強力な電撃がコバロを麻痺させた。ピカチュウ専用の道具であるなら、ボアが投げたときに相手を麻痺状態にするのは変だと、ニーケは言う。
「うん、だってそれは、その玉を使って攻撃したからでしょー?」
「攻撃?」
 メグの発言に、ボアは首を傾げている。
「相手に投げつけた時の衝撃で、その玉の中のエネルギーが一時的に解放されたんだ。それは電気玉本来の効果ではなく、電気玉の性質を応用した効果なんだよー」
「……という事は、電気玉の効果は他にあるのね」
 メグの話を自分なりに解釈し、ボアは言った。
「そうだよー。それより、今からどこかに行くのー?」
 電気玉の話を終え、メグは自分の疑問を尋ねた。
「ええ、黄色の森って場所に」
「黄色の森? ……そうなんだ。気をつけてねー」
 メグは手を振りながら、ボアとニーケを見送る。
 それを見たボアとニーケも、手を振って歩いていった。
「それで……」
 ボアとニーケが見えなくなると、メグは話し始めた。
「キミはここで、なにしてるのー?」
 コバロと向き合い、メグは疑問を持った様子で言った。
「あいつと同じような事言ってんじゃねーよ。俺はただの散歩だ」
「ふーん……」
 メグは表情を変えず、あまり興味がなさそうなトーンで言った。
「お前はいいのか? 一緒に行かなくて。友達なんだろ?」
「……」
 コバロの問いかけを聞き、メグは少し黙り込む。
「友達だよ。でも、ボクはこれから行きたい場所があるんだ。じゃーねー」
 それだけ言うと、メグはその場から去っていった。
「行きたい場所? どこだよ」
 誰もいないその場所で、コバロは呟いた。

 * * *

 同じ頃、ボアとニーケは黄色の森に到着していた。
「えっと……あれかしら」
 黄色の森付近にある家を発見し、ボアはドアを開けた。
「こんにちは」
「あっ、ボア! いらっしゃい!」
 ボアが中に入ると、昨夜友達になったシンテルが、ボアを明るく迎え入れた。
「その子は、ボアの仲間?」
 ボアの後ろにいるニーケを見て、シンテルは言う。
「ええ、パートナーのニーケよ」
「シンテル、よろしく!」
 ニーケは元気よく、シンテルに挨拶をした。
 それを聞いたシンテルも、ニーケに挨拶をする。
「じゃあ、忘れない内に昨日のお礼を」
 ボアはそう言いながら、鞄から電気玉を取り出す。
「あ、それは……」
 電気玉を見たシンテルは、驚いて固まっている。
「もしかして、もう持ってる?」
 シンテルの表情を見て、ボアは恐る恐る言った。
 電気玉はピカチュウ専用の道具であるため、シンテルが持っている可能性も高い。
 しかしシンテルは、首を横に振ってこう言った。
「欲しかったんだ! 僕にくれるの?」
 シンテルは目を輝かせ、ボアに近づく。
 その様子を見て、シンテルが電気玉を持っていないと知り、ボアはほっとしている。
「ええ、昨日はどうもありがとっ」
 ボアはニッコリと微笑みながら、シンテルに電気玉を渡した。
「よかった……。電気玉は持ってたんだけど、ちょっと前になくちゃって」
「えっ、そうなの?」
 シンテルの呟きを聞き、ボアは意外そうに言った。
「うん、だからボアが電気玉を鞄から出したとき、凄い偶然だなって思ったよ。ちなみにこの電気玉、どこで拾ったの?」
「拾ったんじゃないわ。依頼の報酬でもらったのよ」
「電気玉を報酬に? そうなんだ。それって、どんな依頼だったの?」
 電気玉を手に持ちながら、シンテルは興味津々に尋ねる。
「檻から出られなくなったポリゴンZを、助ける依頼よ」
「えっ……」
 ボアのその発言を聞き、シンテルは表情を曇らせた。
「あれ、どうしたの?」
 シンテルの表情を見て、ニーケが尋ねる。
「もしかしてそのポケモンの名前って、ゼットだったりする?」
 シンテルは表情を変えず、ボアとニーケに恐る恐る尋ねた。
「ええ、そうよ。知り合いなの?」
「知り合いもなにも……ゼットは、僕のお腹に傷をつけた張本人だよ」
 声を震わせながら、シンテルは語る。
 自分のお腹の傷は、ゼットの攻撃を受けてついたものだと……。
「ゼットがお腹に傷をつけた張本人?」
 ボアとニーケはシンテルの話を聞き、顔を向き合わせてゼットの言葉を思い出している。

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「そうだ、これもあげる」
「これ、なに?」
「あるポケモンとの戦いで奪った道具だよ」

 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆

「ゼットは電気玉を渡すときに、あるポケモンと戦って奪った道具と言ってたわ。もしかしてそのポケモンって……」
 ゼットの言葉をシンテルに伝え、ボアは真実を確かめようとしている。
「僕のことだよ。電気玉はピカチュウが放つ技の威力を二倍にしてくれる道具なんだ。ゼットは僕の火力を落とすために、攻撃をしながら電気玉を盗む作戦に出たんだ」
 シンテルは、ゼットと戦ったときの話を、ボアとニーケに語り始めた。
「ゼットは、僕が過去に戦ったポケモンの中でも相当の実力者だった。特にゼットが放つ破壊光線は、とてつもない威力を持ってるんだ」
「お腹に傷をつけたのも、その技なの?」
 ボアは話を聞き、浮かんだ疑問を尋ねた。
「うん、そうだよ。破壊光線をまともに受けたときは、もうダメかと思ったけど……この電気玉をおとりにして、なんとかゼットを檻に閉じこめたんだ。でも……」
「シンテル、そもそもなんでゼットと戦う必要があったの?」
 黙って話を聞いていたニーケが、思ったことを尋ねる。
「ゼットはこの土地一面に、機械の活動を狂わせる妨害電波を放ってたんだ。僕は依頼で、電波塔に妨害電波の調査に言ったんだけど……そこにいたのが、暴走したゼットだった。あいつは悪者なんだ!」
 シンテルは強く言うと、何かを決心した様子で立ち上がった。
「ボア達は悪くないよ。ただ依頼をこなしただけだもん。電気玉が戻ってきたことにも感謝してる。でも、悪が復活したのなら、また止めに行かなければいけないんだ」
 シンテルはそう言いながら、家のドアを開ける。
「待ってシンテル! ゼットは妨害電波なんか」
「ボア、ニーケ……」
 引き止めるボアの言葉を遮り、シンテルは話す。
「もし気が向いたら……電波塔に来て」
 シンテルはそれだけを言い残し、去っていった。
 シンテルの部屋に残されたボアとニーケは、重い空気に包まれている。
「ニーケ……私、間違ったことしたのかな」
 重い空気の中で、ボアがゆっくりと口を開く。
「でもシンテルは、ボアは悪くないって言ってたじゃん」
 ボアを不安そうに見つめながら、ニーケが言う。
「だけど結果を見れば、シンテルの仕事を増やしたのよ。シンテルだって、あれが本心かどうかも分からないし……」
「ボア……」
 蔦蛇探検隊のリーダーであり、いつもどんな時でも前向きで、隊を支えているボア。そんなボアが酷く落ち込んでいる様子を見て、ニーケはかける言葉を見つけ出せずにいる。
「シンテルは昨日、崖から落ちた私を助けてくれた友達。ゼットは今日、依頼を達成して感謝を表し、報酬をくれた相手。もしも本当にゼットが悪者なら、感謝して報酬なんてくれないはず。でもシンテルが、私に嘘を言うとも考えられない……かと言って、ゼットが妨害電波を放つ悪いポケモンにも思えないし……」
 いろいろな感情に襲われ頭の中がごちゃごちゃになっているボアは、思っている事を全て口に出している。
「ねえ、ニーケ」
「……なに?」
 ボアに呼ばれ、ニーケは心配そうに返事をする。
「私探検隊は、依頼を受けて報酬をもらうだけのものだと思ってた……。あなたが海岸で倒れていた私を、探検隊に誘ってくれたときからずっと。でも今日の出来事で、探検隊の仕事はそんなに軽いものじゃないってわかったわ。私が受けた依頼のせいで、友達を苦しめるなんて」
「ボア!」
 黙って聞いていたニーケが、ボアの話を遮った。
「……なんで、そんなに落ち込む必要があるの? 今までずっと、ボアは自分が正しいと思ったことをやってきただけだよ。僕だって、ゼットとシンテルのどっちが正義なのかわからない。でも、これだけは言える」
 ニーケは少し黙り込み、ボアの目を見て再び話し始めた。
「僕はこの世界の誰よりも、ボアが正義だと思ってる。ずっとそう信じてる! だから……元気だして」
「ニーケ……」
 ボアはニーケの発言で、少し目に涙をためている。
 ニーケにばれないように目をこすり、ボアは顔を上げた。
「ニーケ、ありがとっ!」
 ボアは、満点の笑みで言った。もうその表情からは、さっきまでの迷いは感じられない。
「よかった。ボアが笑ってる」
 ボアの表情を見て、ニーケも安心している。
「私はこれから、自分のやったことが正しかったかどうか、確かめに行くわ」
 ボアはそう決心し、出発の準備をする。
「あなたは、どうする?」
 ニーケと向き合い、ボアは尋ねた。
「決まってるじゃん。もちろん、一緒に行くよ!」
 ニーケは気合いを入れた表情で、はっきりと答えた。
「じゃあ、行きましょ。電波塔へ……」
 ボアとニーケは真実を確かめるため、再び電波塔へ向かった。

 * * *

「……もう少しね」
「うん」
 快晴の電波塔を走り、頂上を目指すボアとニーケ。
 もともと高い身体能力に加えて、新緑・葉緑素・リーフガードの三つの特性を持つボアは、一瞬でダンジョン内のポケモンを倒し、頂上に近づいていた。
「はぁ……はぁ……着いたわ! ゼットとシンテルは……!」
 頂上に着いたボアは息を切らしながら、周囲を見渡す。
 そのボアの目には、驚きの光景が映っていた。
 ゼットとシンテルは互いに傷を負い、それでもなお戦闘態勢で向き合っている。
「ゼット! シンテル!」
 ボアは二匹に聞こえるように、大声で叫ぶ。
「「ボア!」」
 ボアの声を聞き、ゼットとシンテルは同時にボアの姿を確認し、同時に声を発した。
「ボア、ニーケ、来てくれたんだ! お願い、一緒にあのポケモンと戦って! あいつが檻に閉じこめた張本人なんだ!」
 ゼットはシンテルを指し、ボアとニーケに呼びかける。
「待ってゼット、私は」
「ボア、ニーケ、騙されちゃダメだ!」
 ゼットと話そうとするボアを遮り、シンテルが話し始めた。
「あのポケモンを、もう一度檻に閉じこめるために、力を貸して!」
「シンテル、そうじゃなくて私は、ここに話し合いにきたの!」
 ボアは二匹の意見を無視し、自分の目的を伝えた。
「……?」
「話し合い?」
 ゼットもシンテルも、ボアの発言に疑問を浮かべている。
「ボア、相手は話し合いの通じない悪者なんだ!」
「誰が悪者だ! そっちの方が悪者じゃないか!」
 ボアの言葉も虚しく、二匹は激しい討論を始めた。
「こうしてても時間がもったいない。覚悟しろ、ゼット!」
 シンテルは激しい電気を身にまとい、攻撃を構える。
「望むところだ! 返り討ちにしてやる!」
 ゼットも赤い光エネルギーをため、攻撃の準備をする。
「あの二匹、ボアの話を全然聞いてくれない……どうしようボア」
 戦闘本能をむき出しにする二匹を見て、ニーケは言う。
「今、あの二匹に何を言っても無駄みたいね」
 ボアは、呆れた様子で話し始めた。
「あの二匹が自分の正義をかけて戦うなら……私も、自分の正義を証明してみせる」
 ボアの尻尾は青白く光り、そこから青色の炎を噴き出し始めた。
「ボア! 尻尾が……」
 初めて見るボアの現象に、ニーケは驚いている。
「隠しててごめんなさい。これが白陽探検隊のリーダーに教わった、四つ目の技よ」
 尻尾から炎を放ちながら、ボアはニーケに言う。
 そうしている間にも、ゼットは真っ赤な光線を放ち、シンテルは巨大な電撃をまとって走っている。
「ヘビーフレイム!」
 ボアは炎を操り、二匹の間に巨大な青い炎を落とした。
「……!」
「ボア、一体何を……」
 尻尾から炎を出しているボアを見て、ゼットもシンテルも驚く。
「あなた達が私の話を聞いてくれないなら……力ずくでいかせてもらうわ!」
 ボアは真剣な表情で、二匹に言った。
 そう話すボアの隣で、ニーケも姿を変えている。
「ボア、僕も協力するよ!」
 ニーケも戦闘態勢で、気合いを入れて言った。
「ニーケはシンテルをお願い。私は、ゼットを止める!」
「うん、わかった!」
 ボアの指示を聞き、ニーケはシンテル目掛けて走り出した。
「行くわよニーケ! メテオプラント!」
 ボアはニーケに、刺が無数についた球体の植物を放った。
 そして植物はニーケに当たった途端、体に吸収されたにである。
「ニーケ、君はなんなんだ?」
 自分の方に向かってくるニーケを見て、シンテルは戸惑っている。
「今の僕は、草食も持ってるんだ! フレアドライブ!」
「くっ、ボルテッカー!」
 体に炎をまとったニーケと、体に電撃をまとったシンテルは、ぶつかり合って爆発を生み出した。
「頼んだわよ、ニーケ」
 ニーケを見てそう呟き、ボアはゼットのもとに走っていった。
「ありがとう! 一緒に戦ってくれるんだね!」
 ニーケがシンテルを相手にしているのを見て、ゼットはボアとニーケが自分の味方になったと思っている。
「バカ言わないで」
 ボアは尻尾の炎を消し、尻尾を金色に光らせた。
「あなたの相手は、私よ。ゴールドライン!」
 ボアは尻尾を振り下ろし、金色の一線を放った。
 ボア対ゼット、ニーケ対シンテル……それぞれの正義を掲げ、電波塔での決戦が始まった。

 * * *

 電波塔での決戦は続く。
 シンテルのボルテッカーを受け、ニーケは麻痺状態になっていた。
「ニーケ、もうやめよう! 僕とニーケが戦う理由なんてない。こんな戦いは無駄なだけだよ!」
 麻痺で苦しんでいるニーケに、シンテルは必死に訴える。
「……そうかもしれないけど」
 ニーケはアロマセラピーを使い、体の痺れを消し去った。
「僕がシンテルと戦うのを止めたら、シンテルはまたゼットと戦うでしょ?」
 ニーケは前足で地面を叩き、その場所から炎を発生させた。
 炎はシンテルに向かって進み、シンテルの体を炎で包み込む。
「あぁっ!」
「戦いを止めさせたかったボアの話を聞かずに、戦いを続けてるからこうなったんだ」
 炎に包まれて火傷を負ったシンテルに、ニーケが悲しそうに言う。
「僕とボアの目的は、君とゼットを戦わせないこと……君が戦意をなくしたら、僕は攻撃を止めるよ」
 ニーケは口から、植物の種を放った。
 種はシンテルに当たると弾け、中から出てきた蔓が、シンテルの体に巻きつく。
「うぅっ、これは……」
 巻きついた蔦を解こうとするシンテルだが、激しく動けば動くほど、蔓は絡まっていった。
「ニーケ、君は一体、どっちの味方なんだ!」
「……宿り木の火種!」
 シンテルの発言を聞きながら、ニーケは巻きつく蔓を発火させた。
 炎の蔓に絡まれ、シンテルは徐々に体力を削り取られている。
「シンテルでも、ゼットでもない……僕は、ボアの味方だよ」
 ニーケはそう呟き、ボアの戦いを見る。
 ボアとゼットの戦いは、かなり激しいものとなっていた。
「……はぁっ!」
 ゼットはボアに、真っ赤な光線を放つ。
「メテオプラント!」
 ボアは空中から球体の植物を出し、破壊光線にぶつける。
「……あっ!」
 ボアが放ったメテオプラントは、ゼットの破壊光線に飲み込まれた。
「ゴールドライン!」
 慌てて尻尾を前に出し、盾を作るボア。
 金色に光る尻尾は破壊光線の直撃を防いだが、爆風によりボアは地面にたたき落とされた。
「はぁ……はぁ……」
 ダメージを受け、息を切らせるボア。
 ゼットは攻撃の反動で、しばらく動けずにいる。
 その隙をつき、ボアはゼットの背後に移動した。
「ヘビーフレイム!」
 尻尾から炎を噴き出し、ゼットにぶつけると、ボアは再び空中に跳び上がった。
「メテオプラント!」
 ボアは空中から植物を無数に放ち、ゼットにぶつけようとする。
「はぁっ!」
 反動がなくなったゼットは、ボアを目掛けて破壊光線を放つ。
 ボアが放ったメテオプラントも、全て破壊光線に飲み込まれて消えてしまった。
「やっぱりダメね」
 破壊光線に消されたメテオプラントを見て、ボアは呟く。
 それと同時に、後ろにあった柱を蹴り、ボアは破壊光線を避けた。
 ボアが攻撃を避けたため、破壊光線は柱に当たる。
「……!」
 破壊光線が柱に当たったことを見て、ゼットは驚く。
 それと同時に柱が七色に光り、警告のサイレンと共にアナウンスが流れた。
《攻撃感知。妨害電波を発射します》
「……え?」
 そのアナウンスを聞き、その場にいた全員が驚いた。
 アナウンスが終わると、柱からは電気のようなものが流れて始めている。
「妨害電波を……発射?」
 ニーケの攻撃を受けて倒れているシンテルは、そのアナウンスに疑問を持つ。
「ゼット、これって……ゼット?」
 柱から流れる電気を見て、ボアはゼットに尋ねる。
 しかしその時、ゼットは何もせずに棒立ちしていた。
「ゼット、今妨害電波がどうって言ってたけど、何なの?」
 ボアはゼットに近づき、再度疑問を尋ねる。
「……ボア、キミヲ、排除スル」
「えっ」
 ゼット一言に、軽く驚くボア。
 しかし次の瞬間、ボアはゼットの破壊光線を受けて吹き飛んでいた。
「ボア!」
 戦いの様子を見ていたニーケが、思わず叫ぶ。
「うぅっ……」
 破壊光線を正面から受けたボアは、とてつもないダメージを受けて苦しんでいる。
「危ない! ボア!」
「え?」
 ニーケの言葉を聞き、ボアは周囲を確認する。
「あっ!」
 ボアは、上を見て驚いた。
 先ほど破壊光線を撃ったゼットが、自分の真上から再び破壊光線を撃とうと構えている。
 急いでその場から離れようとするボアだが、破壊光線のダメージの影響で体が思うように動かない。
 そうしている間にも、ゼットは破壊光線を発射しようとしていた。
「ボアァッ! ……え?」
 必死に叫んだニーケは、目の前の光景を見て驚いた。
 ボアに破壊光線を撃とうとしたゼットは、金色の光に攻撃され、壁まで吹き飛ばされていた。
「まったく、無茶しやがって」
 ニーケの背後から、聞き覚えのある声が聞こえる。
「……コバロ!」
 ニーケは後ろを振り返り、思わず声を出した。
 そこにいたのは、毒蛇探検隊のリーダー・コバロだった。
「あ、ボア……」
 コバロの尻尾には、傷を負ったボアが巻かれている。
「あなた……どうしてここに?」
 ボアは尻尾で巻かれたまま、コバロに尋ねた。
「あいつについてきたら、ここに来ただけだ」
「あいつ?」
 ボアとニーケは、前方を見た。
「ボクの友達に攻撃するなんて、許さない!」
「え、メグ!」
 ニーケは驚き、声を出した。
 ボアも、メグがこの場にいることに驚いている。
 ゼットの攻撃からボアを守ったのは、メグだった。
「メグ……一体どうなってるの?」
 ボアはその場で、小さく呟く。
 ボアの体力が徐々に回復している様子を見て、コバロはボアを解放した。
「邪魔者ハ、排除スル!」
 ゼットはエネルギーをため、メグに破壊光線を放つ。
「あのゼット……なにか変」
 メグと戦うゼットを見て、ボアは言った。
 ゼットが放った破壊光線を軽く避け、メグは爪でゼットを攻撃する。
「ちょっとだけ、おとなしくしててねー」
 メグは爪に金色の液体を流し、そのままゼットに攻撃した。
「アッ……ウゥ……」
 メグの攻撃を受けたゼットはしばらくの間苦しみ、時間が経つと眠りについていった。
「ボア、大丈夫?」
 メグはボアに近づき、体を心配している。
「ええ、メグのおかげで。それより、どうしてここに?」
 ボアは少し微笑んで返事をすると、自分の疑問を尋ねた。
「電波塔を調べに来たんだ。最近妨害電波っていうものが流れてるらしいからねー」
「妨害電波は、ゼットの仕業だよ」
 ニーケの攻撃で傷だらけのシンテルが、メグに言う。
「んー? そんなわけないじゃん。あのポケモンは、妨害電波の被害者だよー?」
「……え?」
 メグの発言を聞き、シンテルは驚いて固まる。
「妨害電波の原因は、ただの故障だよー。さっきボクが直したんだけど、あのポケモン攻撃でまた発動しちゃったみたいだね」
 ゼットが破壊光線を当てた柱に近づき、メグは言う。
「それで、何があったのか気になって見に来たら、ボアとニーケがいたってこと。あとついでに、そのポケモンも来たらしいけどねー」
 ボアとニーケの後ろにいるコバロを指して、メグは言った。
「あのあとこっそり後をつけて来たつもりだったが……気づかれてたか」
 メグの話を聞き、コバロは悔しそうに呟く。
「ねえメグ、さっきゼットが妨害電波の被害者って言ってたけど……ゼットってやっぱり、暴走してたのね」
「そういう事だねー。ポリゴンZにも、妨害電波が効いてしまって、暴走させたって感じかな?」
 ボアの発言を聞き、メグは自分の推測を言った。
「じゃあ僕があの時見たのは……妨害電波で暴走したゼットって事?」
 ボアとメグの会話を聞いたシンテルは、自分で自分の問いかけをした。
「僕は……ゼットになんてことを……」
 シンテルは自分の行為を見つめ直し、反省している。
 その様子を見たボアは、シンテルに近づいて話しかけた。
「シンテルは、それが正しいと思ってやったんでしょ? 大丈夫、ゼットもきっと、謝れば許してくれるわ」
「ボア……わかった」
 シンテルは顔を上げ、ゼットのもとにゆっくりと歩いていった。
 メグの攻撃を受けて眠りについていたゼットは目を覚まし、目の前にやってきたシンテルを、じっと見つめている。
「ゼット……僕は君に、勝手に無実の罪を被せていた。状況も確認せず、ただ君が妨害電波を放った張本人だとばかり思ってた。ごめん……本当に、ごめんなさい!」
 シンテルはそう言って、その場で頭を下げて謝った。
 ゼットは何も言わず、シンテルをじっと見つめている。
「これだけの事をしておいて、許してくれなんて言わない! ただ……本当に反省してるんだ。これだけは信じてほしい」
 シンテルは頭を下げたまま、ゼットに話す。
 その話を聞いてしばらくすると、ゼットは口を開いた。
「いいよ、もう。もともと、君と戦う理由なんてなかったんだから」
「……ゼット」
 ゼットの話を聞き、シンテルは頭を上げる。
「電波塔から妨害電波が出てることは知ってたんだ。一応この塔の主だから、何とか直そうとしたんだけど……電波を受けたら、暴走しちゃうんだね。知らなかったよ」
 電波塔の主であるゼットは、電波塔から妨害電波が出ている事をいち早く察知していた。しかしその妨害電波に近づきすぎると、自分までおかしくなってしまう事は知らなかったのである。
 妨害電波を止めようと柱に近づいたゼットは暴走してしまい、偶然その様子をシンテルが見てしまったため、ゼットが妨害電波を出しているものだと捉えてしまった。
 今回の出来事は、その食い違いから発生したものなのだ。
「はーい、柱も直したから、これでもう妨害電波は出ないよー」
 ゼットが破壊光線をぶつけた部分を修理し、メグはボア達に近づいた。
「……まだ、この塔に用があるのー?」
 メグは不思議そうに、ボアとニーケに尋ねる。
「ゼットとシンテルが戦うのをやめたから、私はもう、なにもないわ」
「うん、僕も」
 メグの問いかけに、ボアとニーケは本音で答える。
「俺はあいつらが待ってるから、先に帰るぞ。じゃーな」
 自分の仲間を思い浮かべ、コバロは去っていった。
「コバロも、素直じゃないわね」
 誰よりも先に帰るコバロを見ながら、ボアは呟いた。
「じゃー、ボク達も帰ろー」
 メグは明るく言うと、元気よく電波塔を下りていった。
「行こっか、ニーケ」
「……うん!」
 ボアとニーケも、メグに続いて電波塔を下りようとする。
「ボア! ニーケ!」
 シンテルが大声で、ボアとニーケを呼ぶ。
 その声を聞き、二匹は振り返らずに足を止めた。
「今日は僕のせいで迷惑かけちゃったけど、またいつか……遊びに来てくれる?」
 シンテルは恐れながら、ボアとニーケに尋ねる。
 それを聞いたボアは、ゆっくりと振り返った。
「もちろんよ。もう私たちは、みんな友達なんだから!」
 ボアはにっこり笑ってそう言うと、ニーケと共に電波塔を下りていった。
 みんな友達……ボアが最後にはなったこの言葉には、様々な意味が込められていたのである……。

 * * *

 電波塔の帰り道、ボアとニーケとメグ三匹は、仲良く話しながら歩いていた。
「だからやっぱり、ボアの行動は正解だったんだよ。あそこでボアが破壊光線を避けたから、結果的に妨害電波の原因がゼットじゃないとわかったんだもん」
「でもそれは、ただ偶然よ」
 ニーケに発言に、ボアは少し笑っている。
「じゃあ、ボクこっちだからー」
 分かれ道の手前で、メグは手を振りながら言った。
「うん、またね」
 手を振るメグに、ニーケも手を振り返す。
「メグ……待って」
 何かを決心した様子で、ボアはメグを引き止める。
「なにー?」
「ねえメグ、私の……仲間にならない?」
 ボアはメグを、蔦蛇探検隊に誘った。
「あ、それいいね! メグがいたら楽しさも増すよ!」
 ボアの提案を聞き、ニーケは賛成している。
「うーん……ごめん。今は無理なんだ」
 メグは少し考えた後、あっさりとした様子で答えた。
「今は無理って、どういう事よ?」
 イマイチすっきりしない返事を聞き、ボアは不満そうに尋ねている。
「ボクは今、問題を抱えてるんだ。その問題に、これ以上友達を巻き込むわけにいかないよ。……その問題が解決したらちゃんと教えるから、それまで待ってて。じゃーねー」
 メグはそう言い残すと、手を振りながらその場から去っていった。
「残念ね。てっきりメグも賛成してくれると思ったけど……」
 メグが見えなくなるまで去った後、ボアは落ち込んだ様子で呟いた。
「でも、抱えてる問題が解決したら、教えてくれるって言ってたじゃん」
 落ち込むボアを、ニーケは励ますように言う。
「……そうね。私たちに問題を知られたくないみたいだったし……それまで待ちましょっか」
 ニーケの一言で元気を取り戻し、ボアは笑顔で言った。
 蔦蛇探検隊は明日からもまた、自分の正義を信じて依頼をこなすのであった……。

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天導菜々蜜 ( 2013/03/18(月) 11:20 )