7日のサクラ
僕はフライゴン。みんなからは、「ソラ」って呼ばれてる。ポケモンだけが住む自然豊かな平和な森の中にある洞窟で生活をしている。僕は花が好きだ。森の中に住むロゼリアやチェリム、花の好きなポケモン達と花畑を作っていた。
冬が過ぎ、この森に春が来た。何もなく枝だけだった木々に桜が芽吹き、木を彩る。その下で遠方から来たトレーナーやポケモン達が花見をする。僕は、人が大勢いる所は苦手でお気に入りの場所へと向かった。そこは、森を抜けた先にある丘である。嫌な事があるとそこへ行き、木の下で昼寝をする。神秘的な石柱が立っており、森全域を見渡せる景色と良く調和していた。そして、静かなそよ風、しかもここの木も桜なので春になれば桜を独占できてしまう。ここには誰も住んでいないから僕にとって無くてはならない場所へとなっていた。
いつも通りにお気に入りの場所へと向かっていると、丘の木の下に水色の何かが見えた。まさかと思いながらソラは、丘に近づくと、そこにいたのは色違いのフライゴンだった。もっと近づいてみると、メスだということが分かった。どうやら、眠っているらしくその寝顔がとてつもなく可愛い。何年に一度の美女じゃないかというくらい可愛い。ソラは、頬を染めジッと見ていると、そのフライゴンの目が開いた。
「わっ!」
あまりに、急だったので僕は声を出して驚いてしまった。相手も驚き、身体を震わせている。
「驚かせてごめん!僕は近くの森に住んでるソラ。何もしないから怖がらないで!」
ソラはフライゴンの目を見た。フライゴンもソラの目を見る。そして、フライゴンが、こくんと頷き、警戒を解いてくれた。僕はホッと胸をなでおろした。
「き…君、名前は?」
フライゴンは桜の木を指差した。
「サクラ?」
フライゴンは頷いた。
「へぇ〜。サクラちゃんって言うのか、可愛いね」
「可愛いね」と言われたのが嬉しかったのかサクラは頬を染めた。
「サクラちゃんはどこから来たの?」
その質問にサクラは、地面に向かって指を差した。
「えっ?地面??」
サクラはニッコリと頷くが、ソラは苦笑い。そして、ソラは、彼女が何かおかしい事に気づいた。さっきから、ずっと声を出さず、指で返答しているのだ。
「あの、サクラちゃん…もしかして…喋れない?」
ソラの質問にサクラは頷いた。それから、ソラは色々とサクラに質問を続けた。時に地面に絵を描いたりして、色々とサクラについて知ることが出来た。サクラは、遠い場所から来たらしく、綺麗な桜の木を見つけたから、この場所で一休みしていたらしい。僕は出会ってすぐに彼女に好意を持った。これは、僕にとって初めての恋だった。
夕方になり、「夜になると冷えるから僕の家に泊まっていきなよ」と、ソラはサクラを自分の住んでいる洞窟に招待した。朝になり、二匹で朝食を食べている時、ソラはサクラに今後の予定を聞いた。サクラは首を横に振り、ソラは「いつでもここにいていいよ」と言った。それからソラとサクラは、毎日一緒に過ごした。一緒に本を読んだり、散歩したり、ご飯を食べたり、寝たりした。4日目、サクラは、花畑の手伝いをしてくれるようになった。サクラは良く働いてくれて、とても助かっている。時間はあっという間に過ぎていき、気づくと出会って6日経っていた。花畑の手入れが終わって、休んでいると、ニヤニヤしながら、ロゼリアがソラに近づいてきた。
「ねね、サクラちゃんって、ソラ君の彼女?」
「いや、違いますよ!一緒に生活しているだけです」
「告っちゃいないよ!あんな娘、これから先、出会えないかもよ〜」
「告白…かぁ…」
ソラはサクラを見た。小さいポケモン達を背に乗せ、楽しく遊んでいた。花畑の仕事も終わり、二匹は洞窟に帰った。そして、ソラはドキドキしながらサクラに声を掛けた。
「サクラちゃん!あの……その……聞いてほしいことがあるんだ!」
サクラは、笑顔でソラを見る。ソラは後ろに隠していた、プレゼントをサクラに渡した。それは、水色のスカーフで桜の花びらが描かれていた。サクラは目を輝かせて、ソラに抱きついた。
「サクラちゃん…あの……もし良かったら…ずっと…僕と一緒にいてくれないかな…」
サクラは、ソラの言ったことに驚く。暫くして、サクラはソラの顔を見て頷いた。ソラは大喜び。サクラを強く抱きしめた。
次の日の朝…ソラが起きると、隣で寝ていたサクラの姿がなかった。ソラは森中を探した。ロゼリア達もサクラを見ていないと言っていた。暫く探していると、ソラはある場所を思い出した。すぐにその場所へと向かうと、そこにサクラはいた。サクラはほぼ散った桜の木を見ていた。
「サクラちゃん!どうして、急にいなくなっちゃった…」
ソラはサクラが泣いていることに気づいた。
「どうしたの!?どこか痛いの!?」
ソラはサクラに近づいた。彼女は、首を横に振る。ソラはホッとし、サクラを抱きしめた。
「心配したんだよ?無事で良かった…さぁ、家に帰ろ」
ソラはサクラの手を掴んだ…が、感覚がない。ソラはもう一度、掴もうとしたが、掴めない。サクラを見ると、彼女の身体が薄くなっていた。いや…消えかかっていた。
「サクラちゃん!!どうしたの、その身体!?」
フライゴンは、焦った。すると、声が聞こえた。
「ソ………ラ………」
「サクラ…ちゃん?」
なんと、サクラが喋ったのだ。サクラは、にこやかに笑いながら一生懸命話し始めた。
「ワタシ………モウ………カエラナクチャ………イケナイ………」
「帰る?どこに?」
「ココ………トオイ………チ………」
「なんで!!ずっと一緒に……居てくれるって……」
「ゴメン………モウ………オワカレ………プレ………ゼント………アリガ………ト………ソ………ラ………ダイ………スキ………マタ………アエルト………」
彼女の身体は、言い終わる前に光となって消えた。その場に残ったのは、ソラがプレゼントしたスカーフだけだった。
「サクラちゃん……ううっ……うわぁああああああッッ」
ソラは泣いた。一日中、その場で泣き崩れていた。暫くして、落ち着きを取り戻し、家に帰った。ソラは、テーブルの上に一冊の本がある事に気づいた。この本はここに来た時、ロゼリアから貰ったこの森の歴史の本だった。ページをめくっていくと、ある1ページに目が止まった。それは、ソラがよく知っている場所…サクラと出会った桜の木だった。
あそこは、何百年もの昔に縄張りを決めるためのポケモン達の戦争があった。多くのポケモン達が、戦場を駆け巡り、血と涙を流した。そして、とある神殿の巫女をしていたポケモンが戦争をやめるよう説得したが、両者とも聞く耳を持たず、巫女は自身の命と引き換えにこの戦争を終わらせた。神殿は巫女の身体と共に地中深く沈み、あの丘が出来たという。
フライゴンは、その巫女の事が気になったソラは、更にページをめくった。すると…ページをめくるソラの手が止まった。
「サクラちゃん…!」
それは、絵で描かれた色違いのフライゴン。よく見てると、サクラとよく似ていた。
「サクラちゃん…君はずっと…何百年前から…そこにいたんだね」
こうして、ソラとサクラの生活はたった7日で終わった。暫くして、ソラは洞窟から出て、あの丘の上に家を建て、住むようになった。ここに引っ越せば、なんとなくサクラがいるような感じがしたからだった。
そして一年後、ソラは一匹のナックラーを抱きかかえて、空を飛んでいた。
「クウ?楽しいかい?」
「うん!お父さん!もっと、高く飛んでー!」
ソラは、群れと離れ離れになった、オスのナックラーと出会い、ソラはナックラーを「クウ」と名づけ、二匹で仲良く生活をしていた。ある日、この森に再び春がやってきた。丘の桜の木も満開で、なんとも美しい桜だった。ソラが昼食の支度をしていると、クウが家のドアを開けて入ってきた。
「お父さん!大変だよ!」
「どうしたんだい?クウ?」
「丘の桜の木に、お父さんと同じ…だけど色の違うフライゴンが倒れてるんだ!」
「色の違う…フライゴン?」
ソラは持っていた、皿を落とした。皿は割れ、それと同時にソラは、外へ飛び出た。そして、その場所へと辿り着くと、そこに可愛らしい顔で寝ている色違いのフライゴンがいた。
「サクラ…ちゃん」
フライゴンは目を覚ました。目の前にいた、ソラに気づいた、フライゴンは…ゆっくりと片言で声を出した。
「ソ………ラ………」
聞き覚えのある声……やっぱり。ソラは涙を流しながら、笑顔で言った。
「サクラ…おかえり!」
「タダイ………マ」
サクラも涙を流しながら、笑顔で言った。そして、再開を喜ぶかのように二匹は抱きしめあった。すると、風が吹くと同時に桜が舞った。再び、再開することのできた二匹を祝福するかのように。