本編
Meraviglia Mondo
これは、とあるミミロルの不思議な物語である…




周りが広大な草原の中にある道を一匹のミミロルのペロミアは小さなバスケットの中にミミロップのぬいぐるみを入れて、スキップをしていた。

「おつかい♪おつかい♪リンジュちゃんとおつかい楽しいな〜♪」

と、歌いながらお使いのため、ぬいぐるみのリンジュと道を走っていた。すると突然、強風が吹き、ペロミアが持っていたバスケットが風で飛ばされてしまった。

「大変!!はやく取りにいかないと!」

急いで、バスケットを追いかけると木のてっぺんにある枝に引っかかってしまった。ペロミアは木を登ろうとしたが登れず、ジャンプして取ろうとしたがもうちょっとの所で届かない。ペロミアは泣き出しそうになると、バスケットが頭上に落ちてきた。木の上を見ると、眼鏡をかけ、懐中時計を持った雄のミミロップがいたのだった。

「あの、バスケット取ってくれてありがとう!」

「…」

ペロミアはお礼を言うが、ミミロップは無言で近くにある草むらへと入っていった。ペロミアは、草をかき分けながら追いかけるが見失ってしまった。

「彼はどこに行ったんだろ…まだそんなに遠くには…わわっ!!」

ペロミアの目の前に突然大きな穴が現れた。落ちるのを耐えるが足場が崩れ、穴の中へと落ちていった。

きゃあああああああああああっっ!!!!


〜〜〜



ペロミアは、ゆっくりと目を開けた。上には、先程落ちたと思われる穴が小さく見える。体を起こすとベットの上に落ちており、ベットが衝撃を吸収してくれたようだ。

「ここは…」

周りは、天井も壁も床も黄色と白のストライプの柄の一室。ペロミアはバスケットを持ち、ベットから降りた。部屋のドアへ向かい、開いた。開いた先は、一本の長い通路になっており、奥にドアが見えた。ここも黄色と白のストライプで、気分が悪くなってくる。

「気分悪い…でも進まないと…ここがどこか分からないし、誰か探して地上に出る方法を教えてもらわないと」

ペロミアは長い通路を歩き始めた。気分が悪いのは変わらなかったが、何事もなくドアまでたどり着いた。ドアを開けると、そこは白い空間に真ん中に黒の丸テーブルと椅子が置かれていた。

「ここは…どこだろ」

中まで入り、部屋中を見渡す。

『やあ!そこの可愛いミミロルちゃん!何しに来たんだい?』

「だっ、誰!?」

突然、誰もいない空間から声がし、ミミロルはもう一度部屋中を見渡した。しかし、さっきと変わらず誰もいない。

『僕はケイト。この不思議の世界の住人さ。君は誰だい?』

「私は…ペロミアって言うの」

『ペロミア!可愛い名前だねぇ〜!君にピッタリだ』

「どこにいるの?」

『君の目の前にあるドアの先さ』

「ドアって…来た時のドアしか…!!」

ペロミアは、部屋に入った時にはなかったドアが目の前にあるのに驚く。

『待ってるよ…ペロミアちゃん』

ケイトの声は消え、部屋に静寂が流れはじめた。ペロミアは恐る恐る、目の前にあるドアをゆっくりと開けた。開けた先には、地面の下だとは思わない光景が目に飛び込んできた。黄色と白の花、丁寧に整えられた緑の芝生、雲が一つもない青い青空、暖かい光を放つ赤い太陽がある部屋だった。それを見た、ペロミアは目を輝かせる。

「わぁ…地面の下にこんな場所があったんだ!!」

部屋の中に入ったぺロミアは周りを見渡した。すると、後ろから何か毛深いものにに触られた感じがした。

「キャッ!!何!?」

『ごめ〜ん、驚かせちゃったね』

「ケイト!?どこにいるの?」

『ここだよ〜』

ぺロミアの目の前に、何かが動いたように見えた。すると、その場に頭からケイトの顔が現れた。次に前足、胴体、後足、尻尾と次々と見えてきた。首には、ミュウのぬいぐるみに赤い宝玉をぶら下げたニャビーだった。

「改めて、自己紹介!僕は、この不思議の世界の住人、ぬいぐるみを作る仕事をしている不思議なニャビーのケイトだよ。宜しくね、ペロミアちゃん」

「よ、よろしく」

ニヤッと笑うケイトを見て、ぺロミアは苦笑い。ケイトはペロミアの前に進み、「ここを案内してあげる。おいで」と言うと前へ進みだした。ケイトについて行くことを決め、後を追い始めた。ぺロミアはふと持っていたバスケットを見る。バスケットの中にミミロップのぬいぐるみがないのだ。

「あれっ!?リンジュちゃんがいない!!」

「リンジュちゃん?」

「うん!ミミロップのぬいぐるみなの!知らない?」

「知らないなぁ……あっ、もしかしたらあそこにあるかも」

「あそこ?」

「うん、ついてきなよ。案内どころじゃなくなっちゃったね」

再び歩き始めたケイトを追ってペロミアも、後を追った。歩き出して、数十分が経つ頃、二匹の目の前に赤い一つの扉が見えた。その扉は、何種類もの宝石で装飾され、キラキラと輝いていた。

「この先に、ペロミアちゃんのぬいぐるみが…もしかしたらあると思うよ」

「リンジュちゃん…まっててね!!」

「それじゃ、いくよー!!」


〜〜〜



ケイトが扉を開ると、向こうの部屋の光がこちら側に漏れてくる。扉が完全に開き、ペロミアの目に飛び込んできたのは、目を疑う光景だった。その光景はなんも変哲もない家が建ち並ぶ住宅街とお店が立ち並ぶ商店街なのだが、そこに生活しているポケモンたちの姿がぬいぐるみということに驚いたのだ。しかし、ペロミアの表情は驚きから、満面の笑みにへと変わった。

「可愛いー!!!ここのポケモンは全員ぬいぐるみなの?」

「そうだよ。ここ、不思議の世界は殆どがポケモンの姿をしたぬいぐるみなんだ。僕は地上からここに来て、色々あって、ここでぬいぐるみを作ってるんだけど、それで出来たぬいぐるみを女王様に命を与えてもらっているんだ」

「女王?」

「そう、この世界を管理しているゼルネアスの加護を承けたビークイン様だよ」

ケイトは山にある巨大な渦巻き状の建築物を指差した。

「あ、あそこに私のリンジュちゃんがいるの?」

「もしかしたらだけどね。さあ、城へと向かおうか」

ペロミアとケイトは住宅街を抜け、商店街に入った。様々な店があり賑わっている。ぬいぐるみのポケモン達はがペロミアを珍しそうに見つめる者もいれば「地上の子?」「ここになんの用かしらね」と会話する者もいた。彼女は緊張し、目を合わせないように下をうつむきながらケイトの後を追っていった。

「みんなに見られてたから、緊張したぁ〜」

「この世界では、君は珍しいからね。さぁ、もう少しだよ」

2匹は歩き続け、山の麓まで来ると大きな門が見え始めた。門の前には、門番らしき大きなカメックスのぬいぐるみが立っていた。

「カメックスさん、久しぶりー」

「ケイトさん!女王様に何かご用ですか?」

「ペロミアのミミロップのぬいぐるみを探してるんだよ。だから、通してくれる?」

カメックスはペロミアを見る。彼女は、カメックスの威圧感に思わずケイトの後に隠れる。

「なるほど、分かりました!では、どうぞ」

カメックスは門を開けた先には、1匹のランクルスのぬいぐるみが浮かんでいた。ランクルスは、笑顔で頭を下げる。

「ここからは、私があなた達を城へとお連れいたします」

「ランクルスさん!久しぶりー。もう、大丈夫なの?」

「ケイト様、お久しぶりでございます。もう、解れた所は直してもらったので大丈夫ですよ。ご心配をお掛けいたしました」

「良かった。それじゃ、城までよろしく」

「はい。それでは」

ランクルスは、サイコキネシスを発動。ペロミアとケイトの体が浮かび、山頂にある城へと向かい始めた。

「ところで、今日はどのような用で?」

「あぁ、ペロミアのミミロップのぬいぐるみを探しに来たんだよ。多分、あそこにあるかなって」

「あのお方のですか…気をつけてくださいね」

「分かってる。ペロミア、僕に任せてね」

「う、うん」

ペロミアはケイトとランクルスの会話に嫌な予感がしていた。しばらくして、山の頂上へとたどり着いた。遠くから見るのと違って、近くで見ると、空を突き抜けるのではないかと思うほど、でかい。

「でっかーい!!ここに女王様がいるの?」

「そうだよ」

ランクルスは、降下を始め、城門の前まで来るとペロミアとケイトを降ろし、門を開けた。

「ここから先は、歩いて行ってください。どうぞ、お気をつけて」

「ありがとう、ランクルスさん!帰りもよろしくねー」

2匹は城門を通り、城の前まで来るとエントランスホールに通じる門が開いた。中に入ると、1匹のミツハニーのぬいぐるみが飛んできた。

「ようこそ、ケイト様!…あれ?ケイト様、こちらのお子様は…」

ミツハニーが珍しそうにペロミアを見る。

「ミツハニー可愛い!!」

ペロミアは、ミツハニーに飛びつく。ミツハニーは「わわっ!!やめてください!!」と言うがまんざらでもない表情だ。ケイトはミツハニーに事情を説明。事情が分かったミツハニーは「では、女王様の所へと案内いたします」と言うと大階段の方へと向かっていった。様々な置き物や絵画が飾られた大廊下を通り、ミツハニーは大きな扉の前に止まった。

「ここです。少々お待ちを…」

ミツハニーは扉に設置されたベルを鳴らす。そして、後から「入りなさい」と優しい声が聞こえてきた。「しつれいします」と言ってミツハニーは扉を開けた。ペロミアは彼から降り、ケイトと一緒に入る。部屋は甘い匂いがし、奥の玉座にはビークインが座っていた。

「いらっしゃい、ケイト。ちょっと甘い匂いがするけどさっきまで、趣味の蜜作りしてたからごめんなさいね」

「いや、大丈夫ですよ。女王もご体調はいかがですか?」

「見ての通りよ。元気いっぱい!今なら、ぬいぐるみを100体に心をを与えることが出来そうなくらい」

「あまり無理しないでくださいよ。今日はぬいぐるみじゃなくて、この子のぬいぐるみを探してるんです。もしかしたら、あそこにあるかなって…」

「あの子の所に?分かったわ、行ってみましょう。ついてきなさい。あっ、ミツハニー。この蜜を隣国のビークインに届けてくれるかしら」

「お任せください!」

先程、通った大廊下を通り、別棟へと通じる渡り廊下を渡り、大階段を上がるとビークインのいた部屋と同じような扉があった。

「王子!中に入りますよ」

ビークインが扉を開けると、ぬいぐるみが雪崩のように崩れてきた。中はぬいぐるみでいっぱいだった。

「また、こんなにためこんで…」

すると、ペロミアは奥に王子らしきミツハニーがぬいぐるみに囲まれて眠っているのが分かった。その隣に見覚えのあるぬいぐるみに目が止まった。

「リンジュちゃんだ!!」

ペロミアはミミロップのぬいぐるみの元へ跳ねた。ぬいぐるみを手に取った瞬間、ミツハニーの目が開いた。彼は、ペロミアがぬいぐるみを持っていることに気がつくと目にも止まらぬ速さで奪われた。

「盗っちゃだめー!!!」

部屋の隅へと移動したミツハニーは目に涙を浮かべながら、ペロミアを警戒している。

「それ、私のぬいぐるみなの!返して!」

「やだっ!!」

すると、ぬいぐるみの山の中からぬいぐるみのワンリキーが現れ、ペロミアに空手チョップを繰り出してきたのを間一髪で避ける。

「ペロミア!大丈夫!?」

ペロミアはビークインに近づく。顔は今にも泣き出しそうなくらい涙を浮かべていた。

「女王様…どうしたらリンジュちゃんを取り戻す事が出来るんですか…」

「残念ながら…親である私でも無理なのです。お恥ずかしい話で一度、ぬいぐるみを取り上げたら、さっきのワンリキーに空手チョップを何度も…」

「そんなぁ…」

「女王様、急がないとやばいんじゃないですか?」

「そうね…ペロミアさんが来てからどれくらいが経つの?」

「約5時間ですね」

「5時間!?大変じゃない!」

「そんなに大変な事なんですか?」

驚くビークインに不思議に思ったペロミアはその理由を聞いてみた。

「大変ですよ!!ここの世界の時間はものすごくゆっくりで、こちらの1時間は地上では一ヶ月も時が流れているのです!つまり、あちらではあなたは約半年の間、行方不明者となっているはずです!それだけじゃ、ありません!あなたが入ってきたと思われる穴はあと30分で塞がれてしまうのです!」

「ええええっ!!?ちょっと、ケイト!なんで、その事を黙ってたの!」

「いやー。僕とした事が忘れてた」

「ケイトォォォォ!!あぁ、もうどうしよー!!!」

「とりあえず!急いで取り返しましょう!王子!ペロミアさんにそのぬいぐるみをお返ししなさい!」

ビークインは、ミツハニーの元へと向かっていったがワンリキーが立ち塞がる。

「くっ…王子!!いいかげんにしなさい!!」

「ここにあるぬいぐるみは全部、僕なの!誰にも渡さない!」

「もう!リンジュちゃんを返してー!!」

ペロミアがぬいぐるみの名を叫んだ瞬間、ミミロップのぬいぐるみが光りだした。

「女王様…あれは?」

「分からない…」

「リンジュちゃん…」

次の瞬間、ぬいぐるみは目が眩むほどの光を放った。ペロミアが目を開くと、そこにいたのは見覚えのメガネと懐中時計を持ったミミロップだった。

「あの時の…もしかして、リンジュちゃん?」

「…そうだよ、ペロミア。僕を探しに来てくれてありがとう」

ペロミアはリンジュに飛びつき、涙を流した。

「リンジュちゃんのバカァ!!どこに行ってたのよ!心配したでしょ!」

「ごめんね。バスケットを落としたあと、僕がぬいぐるみのリンジュだとバレたらダメだったからここへ逃げたんだ。何故か、落ちた先が王子の部屋で困ってたけど、ペロミアが探しに来てくれて本当に助かったよ」

「でも、なんでぬいぐるみのミミロップじゃないの?」

リンジュの体を見ると、ぬいぐるみ特有のもふもふ感がしない事に気づいた、ペロミアは不思議に思った。

「僕が、地上で作られたぬいぐるみだからかな?詳しくは分からないけど。とりあえず、一秒でも早く地上へ帰ろう」

「うん」

「行かせない!!」

扉から出ようとしたペロミア達をミツハニーが立ち塞がる。

「言っただろ!ここにあるぬいぐるみは全部、僕のものって…そのミミロップも僕のものだ!」

「違う!リンジュちゃんは私の大切な友達よ!」

「ペロミア…」

「うるさい!こうなったら、力づくでも取り返してやる!行けー!!」

すると、部屋の中のぬいぐるみ達が一斉に立ち上がり、襲ってきた。リンジュは、飛び跳ね一気に扉の方まで移動した。

「ペロミア!しっかり、捕まっててね!!」

リンジュは城の窓を突き破り、外へ飛び出した。

「きゃあああああああああああああ!!!」

悲鳴をあげる、ペロミアをしっかりと抱き寄せ、城の庭へと着地する。そして、白の壁を軽々と越えていった。

「みんな!!あの、ミミロップを捕まえるんだ!!」

「させないわ!!!」

扉から出ようとする、ぬいぐるみ達を受け止めたビークイン。それでも、出ようとするぬいぐるみ達に苦戦していた。

「女王様!!」

「ケイト!!ペロミアさん達の手助けに行きなさい!」

「でも…」

「行きなさい!!」

「…くっ!!」

ケイトはペロミアたちの後を追うため、全速力で走り出した。ケイトを見送ったビークインは全力でぬいぐるみたちを受け止め続けた。だが…

「母上…入り口はここだけじゃないんだ!みんな、窓を突き破って追いかけろー!」

「しまった!」

ミツハニーの掛け声でぬいぐるみ達は方向転換。部屋に後退し、窓を突き破り続々とぬいぐるみたちは外へと出て行く。

「母上…僕を子供だからって甘く見ないでください」

「それはどうでしょうな?」

「えっ?」

外から声が聞こえた、ミツハニーは後ろを見た。窓から現れたのは、ランクルスとカメックスだった。宙にはランクルスのサイコキネシスによってぬいぐるみ達が浮かんでいる。

「王子、他ポケの物を盗るなど言語道断ですよ!」

「うるさい!部屋の中にあるぬいぐるみは全部、ぼくのだー!」

ランクルスに体当たりをし、ランクルスはサイコキネシスを解除してしまった。浮いていたぬいぐるみが落ちていき、ミツハニーと共にペロミア達を追いかける。

「王子…くっ、カメックス!女王様を頼む!」

「おう!」

ランクルスは、ミツハニーとぬいぐるみ達を追って行った。一方、ペロミア達は住宅街へ入っていた。

「リンジュちゃん、速いね」

「すごいでしょ。あっ、追手が来たね…」

後から、ぬいぐるみのグラエナやギャロップ、ファイアローがやって来た。

「リンジュちゃん…」

「大丈夫、怖がらないで!」

リンジュは、走るスピードを速くするが、振り切れない。

「くそ…このままじゃ追いつかれるかも…」

「私にまかせて!私だって、やれば出来るんだから」

そう言うと、リンジュの肩まで上り息をためた。

「冷凍ビーム!!」

地面に冷凍ビームを放ち、グラエナとギャロップは滑って、道から外れた。残るは空を飛ぶ、ファイアローのみ。ペロミアは狙いを定め冷凍ビームを再び放つが避けられてしまった。ファイアローは、ニトロチャージで突っ込んできた。

「リンジュちゃん!ファイアローがニトロチャージしてきた!」

「捕まって!」

リンジュは、脚に力を入れファイアローよりも高く飛び上がり、ファイアローの背に蹴りをいれた。勢い良く草木の中に入り、出ようとするが、枝に引っかかり抜け出せずにいた。

「リンジュちゃん、すごーい!」

「さっ、地上への出口までもう少しだ」

「ペロミアー!!」

後から彼女の名を呼ぶケイトの声がした。ケイトはリンジュ達に追いつき、息を整え話しはじめた。

「すぐに、地上への出口に行く方法がある…これ使って!」

ケイトは赤い宝玉のついたミュウのぬいぐるみをリンジュに持たせた。

「インビジブルワープ玉F型だ。普通の奴と違ってワープは勿論、透明になれる機能があって永遠に使えるからな。これで、出口の方まで行けるぞ」

「ケイト!ありがとう!」

「ペロミア、あっちでも元気でやるんだぞ!またいつか会いに来てくれよ!」

「うん!」

「行くぞ!」

リンジュは玉を叩きつけると、ペロミアと共に消えた。その場で、ケイトは立ち尽くしていた。

「また…会えたらいいな。その時はたくさんぬいぐるみ作っててあげなきゃな」



〜〜〜



ワープ玉によって、ペロミアが落ちてきた場所へと戻ってきた。穴を見ると、地上はすでに夜中で入ってきた時よりも小さくなっているが分かる。

「ペロミア、行くよ!」

リンジュはベットに上がり、飛び跳ねた。しかし、あとちょっとの所で届かなかった。

「リンジュちゃん!頑張って!」

「もう一回行くよ!そりゃ!!」

リンジュは、もう一度脚に力を込め飛び跳ねた。

「これなら、地上に届く!」

地上の地面に手を掛けた、リンジュは先にペロミアを地面に置いた。

「リンジュちゃんも早く!」

「わかってる!よいっ…うわっ!!」

リンジュの姿が急に見えなくなった事に驚いたペロミアは穴を覗いた。そこには、穴の下からリンジュの脚を引っ張るワンリキーがいた。

「あのワンリキーだ!」

「くそっ、離せ!うわっ!!」

振り払おうとするが、下から引っ張るぬいぐるみが増えてくる。リンジュは、苦痛の顔を浮かべた。

「く…そぉ!!」

「みんな!あのミミロップを連れ戻せー!」

下では、ミツハニーが追いついていた。ペロミアは必死になって手を伸ばした。

「リンジュちゃん!!」

ペロミアはリンジュの手を取り、引っ張り上げようとするが、重すぎるせいで持ち上げられない。

「絶対に…リンジュちゃんは渡さない!」

「お嬢ちゃーん!」

穴を見ると、下には門番のカメックスが手を振っていた。

「門番のカメックスさん!」

「そのぬいぐるみ達は俺に任せろ!ハイドロポンプ!!」

ぬいぐるみ達に、水をかけるとぬいぐるみ達は、嫌がっているのか次々と下に落ちていく。しかし、ワンリキーだけは手を離さない。それどころか、穴がどんどん小さくなっていくのだ。

(くそっ、このままじゃ…ペロミアまで一緒に落ちてしまう…)

リンジュは、ペロミアに顔を向けた。

「ペロミア、手を離してくれ!このままじゃ、ペロミアも落ちてしまう」

「嫌だ!!ここまで来たんだから一緒に家に帰ろう!!諦めないで!」

「ペロミア…」

リンジュは、今までのペロミアとの思い出を思い出した。一緒に遊んだこと。一緒におやつを食べたこと。一緒に寝たこと。リンジュは…覚悟を決めた。

「ペロミア…僕はいつも君のそばにいて楽しかった」

「何言ってるの、リンジュちゃん!」

「これだけは覚えてて。いつか…友達との別れが来るんだ…さよなら」

リンジュはペロミアの手を離し、壁を蹴り下に落ちていく。

「リンジュちゃーーーん!!!!!」

(これで良かったんだ…)

リンジュは目を閉じた。ペロミアと共にいた時の頃が映しだされた。それを見た、リンジュは涙を流した。

「大好きだよ…ペロミア…」

諦めてんじゃねぇぞ!!小僧!!

下から叫び声がしたと思うと、足から掴まれていた感覚が消え、次に背中から衝撃を感じた。カメックスがリンジュの脚にを掴んでいたワンリキーを引き離し、ハイドロカノンで地上までぶっ飛ばしたのだ。

「水に濡れたら…!!」

リンジュの体は光に包まれ、小さくなっていった。そして、元のぬいぐるみへと戻った。

「僕のぬいぐるみー!!」

ミツハニーが追いかけようとしたが、カメックスが捕まえた。

「離せー!」

「王子!!いいかげんにしてください!!!!これ以上何かをしたら、私の堪忍袋の緒が切れますよ!!!」

カメックスの一喝でミツハニーの動きが止まる。そして、涙が浮かんだと思うと泣き出してしまった。

地上では、小さくなっていく穴の前で泣き崩れているペロミアの姿があった。小さい声で「リンジュちゃん…」と、何度も言っていたのだ。すると、どこからか声が聞こえた。

『ペロミア…』

ペロミアは聞き覚えのある声を聞き、顔をあげた。穴の中から、リンジュが飛び出してきたのだ。ペロミアは歓喜し、

「リンジュちゃーん!!!」

ペロミアはリンジュをギュッと抱きしめた。

『ペロミア…く、苦しい…』

「リンジュちゃんのバカァ!!!!さよならなんて、もう二度と言わないで!!」

『ごめん…』

涙を拭いたペロミアは大事そうにリンジュを抱えた。

「さっ、私達の家に帰ろ」

星空が輝く真夜中の道を歩いていると、リンジュが口を開いた。

『ペロミア…』

「何?」

『いや…なんでもない』

「これからも、ずっと一緒だからね。あと、私もリンジュちゃんの事大好きだよ」

『き、聞こえてたの!?』

「うん!」

『は、恥ずかしい…///』

「ふふっ。さっ、家に帰ろう」

こうして、ペロミアは半年ぶりに家へと帰った。親は泣きながら、娘の帰宅を喜んだ。親はお使いから帰ってこないペロミアを必死に探したが見つからず、警察に頼んで探していたがそれでも見つからなかったという。「一体、何があったんだ?」と親に聞かれたペロミアは適当に「誘拐された」と嘘をつき、不思議の世界の事は言わなかった。普段の日常に戻り、穴があった場所へ行っても開いておらず、不思議の世界へ行くことは出来なくなった。そして、しばらくしてテレパシーで話すことの出来ていたリンジュも話すことが出来なくなった。それでも、ペロミアはまた行けると信じ続け、毎日通い、いつかまた話してくれる事を信じて、どこかに出かける時もリンジュとずっと一緒なのでした。































































■筆者メッセージ
準公式企画の短編集です。

暗歌 ( 2016/12/20(火) 23:04 )