本編
Abri
Abri

どれくらいの年月が経ったのだろう…

洞窟の奥深くにある泉の中で暮らす一匹のユレイドルはふとそう思った。洞窟の外に出た事がない彼は毎日、陸に上がるといつも箱の中にある物を眺めていた。それはオレンジ色のディスク…の裏からチラリと見える七色の光。それに魅せられたユレイドルは周りの事を見れなくなるくらい魅入り、いつも宝物のように大切にしていた。

そんなある日、いつものようにユレイドルはディスクに魅入っていると泉の入り口に一人のトレーナーとオンバットがやって来た。彼等はユレイドルの持つディスクに気づき大喜び。それでもユレイドルは彼等の存在に気づかない。彼等は自分達の存在に気づかないユレイドルの姿に戸惑い始め、ふとトレーナーはオンバットに一言。それに頷き、オンバットはユレイドルに近づいていった。

(ユ…ユレイドル〜?)

(……………)

オンバットは恐る恐るユレイドルに声を掛けた。しかしディスクに魅入っているユレイドルはオンバットの声にも存在にも気づかない。彼は何度もユレイドルに声を掛けるがまったく気づく気配すらしない。

(ユレイドルさ〜〜〜ん!!!)

(うわぁぁぁっっ!!)

我慢出来ずに大声で呼んでしまったオンバット。その声は超音波のように洞窟内で反響し、思いもしない爆音にユレイドルは驚き、トレーナーは耳を塞ぎ地面を転がっていた。

(な、ななな、何ッ!?)

(やっと気づいた!)

頬を膨らませた見知らぬオンバットに気づいたユレイドルは洞窟の壁まで後退する。

(ど…どなたですか!?)

(私はオンバット!ここにはある目的で来ました。それは貴方の持っているそれ!ひでんマシンです!)

オンバットはユレイドルの持つディスクを指差した。オンバットによると、これはわざマシン【いわくだき】の技の記録の入ったディスクらしい。しかも外の世界アローラ地方では存在しない八つの中のひでんマシンの一つだという。普通のいわくだきのわざマシンとは違うらしく幻の存在だと言われているらしい。オンバットのトレーナーはポケモンリーグチャンピオンになる為の旅の途中で、幻のわざマシンがあるという噂を聞いてここにきたという。

(そんなにすごい物なんだね…僕はこれが何なのか分からなかったけど、この裏からチラリと見える七色の光がとても綺麗で……はぁ)

(そうなのです!単刀直入で言います。それを私達に…って話聞いてください!)

再び自分の世界に入ってしまったユレイドルにオンバットは怒鳴る。二度目の爆音にユレイドルは驚き、トレーナーはぐったりとしていた。(無理もない)

(な、なんですか!)

(もう一度言います。それを私達に譲っていただけませんか?)

(これを…君達に?)

コクリと頷くオンバット。少ししてユレイドルは激しく首を横に振った。

(ダメダメダメ!!これは僕の宝物なんだから絶対ダメ!)

急いで宝箱の中にわざマシンをしまうユレイドル。オンバットは何度も頭を下げユレイドルに交渉する。

(そ…そこをなんとか!出来たら何かと交換もいうのはどうでしょうか?)

(ダメったらダメ!)

カッとなったユレイドルは【げんしのちから】を発動。予想もしなかった攻撃オンバットは無数の岩を避けることもできずほぼ零距離から技を受け、岩とともに壁に叩きつけられた。

(はぁ…はぁ…あっ…オンバット!)

我に返ったユレイドルは青ざめ、急いでオンバットが飛ばされた壁まで向かった。岩を退かしオンバットを助け出した。呼吸は虫の息で、急がなければ命を落としかねないほどの重体だった。ユレイドルは急いで落とさないように抱えてトレーナーの方へ向かった。トレーナーはモンスターボールを取り出し、オンバットを中に戻し急いで洞窟の外へと出ようとした瞬間、上から無数の岩が落ちてきた。先程の技の衝撃で落ちてきたであろうその岩は外に出るための入り口を塞いでしまった。立ち往生するトレーナーを見てユレイドルは宝箱の前に行き、わざマシンを取り出しトレーナーの元へ戻り、渡した。

(これを使えば出られるんじゃないのか?使い方を教えてくれ)

ユレイドルはトレーナーを見つめた。彼はユレイドルが何を言っているのか分からなかったが、ユレイドルの眼を見て何を伝えたいのか分かった。…そうと分かれば迷いはない。トレーナーはわざマシンをユレイドルの頭に向かって刺した。 

(痛ったぁああああああああああッッッ!!!)

頭が割れるような激痛に涙目になりながら、意識を保つユレイドル。わざマシンはズズッと頭に入り込んでいき完全に入り切ると同時に頭の中に何か聞こえた。

───【いわくだき】を覚えますか?───

(覚える!!早くこの岩を壊してオンバットを……)

───技を4つ覚えているのでどれか一つ忘れてください───

(あぁもう!!面倒くさいな!【ようかいえき】忘れるから早くして!早く!)

───ユレイドルは【ようかいえき】を忘れて……───

(長ったらしいんじゃい!はよ、覚えさせろや!)

───黙りなさい、このフレーズを言わないと覚えられませんよ?───

(分かったから早くしろよ!)

────コホン…ユレイドルは【ようかいえき】を忘れて【いわくだき】を覚えた────

(よし…)

頭を触手で丸めた…ただひたすらにギュッと力強く。標的は入り口を塞ぐ無数の岩…その前に立ったユレイドルは頭を大きく振りかぶる。トレーナーはユレイドルに指示を出した。

「ユレイドル!!いわくだき!!」

(うおおおおおおおおおおッッッッ)

洞窟内に響き渡る指示と共にユレイドルは渾身の一撃を岩にぶつけた。そして、あらゆる方向に岩が飛び散り、塞がれていた入り口が通れるようになった。トレーナーはすぐに洞窟の外へと向かい、ユレイドルもその後をついていく。暫く走っていると向こうから一筋の光が見えた。

(眩しっ!!なんだ…あれ)

わざマシンの七色の光よりも眩しい光に思わず目を塞ぐユレイドル。気がつくとユレイドルは初めて洞窟の外に出ていた。周りは崖で覆われ、目の前には海が広がり、地平線から朝日が昇っていた。トレーナーの姿を探すと、彼はリザードンに乗って陸を離れていた。ユレイドルはトレーナーを見送った後、数時間はじめて見る太陽をジッと見ていた。

それから数日後…

ユレイドルは外に出ることが多くなった。シェルターのような狭い空間より外の広い世界に興味を持ち始めた。朝は太陽、雲を見つめ、夜は満点の星空を見上げる…わざマシンの七色の光よりもさらに綺麗な景色に目を奪われ、また幸せな毎日が続いた。

(綺麗だな〜…)

(ユレイドルさぁぁぁぁぁん!!)

(うひゃああああ!!!)

聞き覚えのある大声。隣を見るとオンバットとそのトレーナーが立っていた。

(オンバット!この前はごめんね…)

(いいんです!私達がしつこかった事もありますし…それよりユレイドルさんにお願いがあってきたんです!)

(お願い?)

(はい!)

するとトレーナーがユレイドルの前に歩み寄り手に持っていた物を地面に置く。それはモンスターボールだった。

(私達と一緒に旅をしませんか?今、この世界のポケモンリーグチャンピオンになるために旅をしてるんです!)

(ポケモンリーグ…チャンピオン…)

(あの時のユレイドルさんの力はすごかったです!あの力を私達に貸していただけませんか?)

(………)

ユレイドルは黙りこんだ。トレーナーとオンバットは何か気に触る事でも言ったのだろうかと思い込み戸惑っている。

(ねぇ…もしついていったらわざマシンの七色の光よりももっと綺麗な景色や物を見る事は出来るの?)

(えっ…?)

(僕はこの世に産まれて多分何千…いや何万年もこの洞窟で住んでいたんだ。僕にとって君達についていくことは初めてな事ばかり…)

(………)

(教えて…この世界は…ここから出た事がない僕を飽きさせないかい?)

(…もちろん。貴方を飽きさせる事はまずないでしょう…!)

(そうか…)

ユレイドルは頭を上げた。この世界は自分の知らない事だらけで溢れている。この洞窟の中よりもあのわざマシンの七色の光よりも。今、目の前に広がるのはただ広い世界。そう考えるだけで迷う事はなかった。

(行こう…僕の満足させてくれるならね)

(ユレイドルさん…!あっ、じゃあこれはお返しを…)

オンバットはトレーナーからユレイドルが大事にしていたわざマシンを受け取り返そうとしたがユレイドルは首を振った。

(もういいよ。それはトレーナーさんが好きに使って)

ユレイドルはモンスターボールに頭を当てた。するとボールの中に吸い込まれ、ボールはすぐに大人しくなった。ボールの中でユレイドルはボール越しにトレーナーを見つめた。

(さぁ、トレーナーさん。僕に世界を見せておくれよ。この洞窟よりも広いこの世界を…!)

それからニ年後………

トレーナーは広い大広間の王座に座っていた。両隣には彼のポケモン達が並んでいた。
ガオガエン、シロナデス、オンバーン、ラランテス、ケケンカニ…
すると目の前の階段から挑戦者が上がってきた。彼はチャンピオンになり、今まで無敗のままこの王座を守っている。彼は腰から一つのモンスターボールを取り出し場に出した。挑戦者はいつもこのポケモンを破れずに負けている。緑の体、鋭い黄色の目、岩ならず鋼をも粉砕する力を持ったアローラ図鑑に載っていないポケモン…ユレイドルに。
















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■筆者メッセージ
色んな不幸が重なってものすごく遅くなりました。ごめんなさい。ほんとごめんなさい。無理矢理感があって意味分かんないかもだけど許してください。
暗歌 ( 2018/03/20(火) 03:02 )