vsジュペッタ
ケラケラと笑った黒い人形はチャックの口に布のような体、手で、首には上半分が赤、下半分が白の球体を掛けている。
「お前…喋れんのか?てか、人形じゃねーのか?」
「ケラケラ」
「……会話になんねーな、じゃあな。」
ユウキは黒い人形のような生物を置いて、海岸へと走っていった。
海岸に着くとホリは先に着いていた。雨がひどく、二人ともジャンバーのフードを被った。夕方にも関わらず、雨雲に太陽が隠され真っ暗だった。
「あれ、見ろよ。」
ユウキはホリの指差した方を見る。ぼんやりだが、やはりくじらのような生物だ。
「何なんだあいつ…」
ホリはラジオを聞いている。
「トクサネが津波で襲われたらしいぞ。ルネは大丈夫だろうけどさ。」
ルネは周りを高い壁で囲まれているためだ。
「じゃあ、ここも危ないんじゃねーのか?」
「もしかしたらな…高いところへ行こう。」
「ああ。」
高いところと言ってもミナモデパートの近くしか無い。
「父さん…大丈夫かな…」
「大丈夫だって!」
ホリがいつになくユウキを励ます。
「ありがとう…」
その感謝の言葉を打ち消すように波が海沿いの壁へと打ち付けた。
「ちょ…ヤバイんじゃねぇの…」
ホリが心配そうに言う。
「かもな…」
ユウキも同じく言った。
「そろそろ帰るか…?」
「そうだな。」
ユウキがそう言った瞬間、とても大きい波がミナモに向かってきた。
「これはどうしようもないんじゃねーか…」
「逃げるぞ!」
ユウキとホリは走り出した。もちろん、間に合う訳もない。
津波はもう海岸まで迫っていた。
「「う、うわーーーー!!」」
「ケラケラ」
そのとき、棒読みのあの不気味な鳴き声が聞こえた。あの黒い人形だ。
「ケラケラ」
とだけ言い、両手の間に黒い球体を作り、津波に向けて放った。
「ザヴァーン…」
津波は弾け消え、被害は最小限となった。
ユウキとホリはその黒い人形に向かって走っていった。
「お前…強いんだな…」
「ケラケラ」
やっぱりそうとしか答えない。
「そいつ、なんなの?」
「なんか家の前に置いてあって…じゃなくて、いたんだ。」
「ケラケラ」
「まあ、とりあえずありがとな。」
「ケラケラ」
「てかさ、そのボールはなんなの?」
「さあ、中にこいつが入っちゃうんじゃね?」
ユウキはそう言い、球体の中心のボタンのようなところに触れると、黒い人形はみるみる吸い込まれていった。
「え?まじか…」
「本当だったんだな…」
「…これ大丈夫か?」
ホリがそう言ってユウキは心配した。
「もう一回ここかな…?」
ユウキはその球体の真ん中のスイッチを押した。
「ケラケラ」
「よかったー…出てきた…」
ユウキはホッとした。
「へぇー、これ面白いな。」
ホリはその球体をいじっていた。すると、
「ケラケラ!」
黒い人形は怒ったようにホリから球体を奪い取り、ユウキに自分の持っていた紙と一緒に渡した。
「なんだこの紙?」
ユウキは紙を広げ、ホリもそれを覗きこんだ。
『おめでとう!このモンスターボールにジュペッタをおさめた君はジュペッタのおやとなった!』
「なんだこれ?」
ユウキがホリとジュペッタと呼ばれる生物に聞いた。
「さぁ?」
「ケラケラ」
ジュペッタからは聞きあきた反応ばかりが返ってくる。
「今日はもう帰ろうぜ。忘れてたけど、あいつのこともあるし。」
ホリが指差した方にはあのくじらのような生物が暴れていた。
「そうだな…で、ジュペッタだっけ?はどうすんの?」
「紙に書かれている感じではなんかお前がおやらしいからお前が連れてけよ。」
「ケラケラ」
ジュペッタはユウキにすりよる。
「分かったよ。じゃあな。」
「おう、じゃ。」
ユウキは家に着いた。母さんが帰っていて、その人形はどうしたの?って言われたため、かわいそうだったから。と、苦し紛れの言い訳をした。
「さぁて、どうしようか…」
「ケラケラ」
「まず、お前の名前はジュペッタ。次に、この紅白のボールがモンスターボール、と、言うんだな?」
「ケラケラ」
ジュペッタはうなずいた。
「そして最後に、お前は危ない!」
「ケラケラ?」
「あの津波をあっさり跳ね返すその力は危険だ!まあ、助かったんだけどさ。」
「ケラケラ?」
「まあ、とりあえずありがとな。」
「ケラケラ!」
ジュペッタはユウキの胸に飛び込んできた。
「すっかりなついちゃったな…。なんか食いもん持ってきてやるよ。ちょっと待ってろよ。」
「ケラケラ。」
人間の言葉もある程度は分かるらしい。
ユウキとジュペッタはユウキの部屋で一緒に夕食を食べて、ジュペッタを隠しながら風呂に入り、隠しながら寝た。
朝になり、ユウキは目が覚めた。ジュペッタの方をチラッと見ると、まだすやすやと寝ている。今日は休みなので、もう少し寝ようと思い、ベッドに潜り込むと、インターホンが鳴った。家にはもう母さんが仕事に行ってしまったのでユウキしかおらず、階段を降り、扉を開けた。
「おはよう。君がユウキくんかな?」
そこには見知らぬ男が立っていた。
「はい、そうですけど…?」
「少し来てもらえるかな?君のポケモンを連れて。」
「ポケモン…てなんですか?」
「今君の後ろにいるおばけくんのことさ。」
「ケラケラ…」
ジュペッタは怯えていた。