vsチョンチー
前例の無い巨大な隕石が落ちたのはイッシュとシンオウの間にある広い海だった。不思議なことに海に住む生物にはなんの影響も無く、調べていた科学者が何人集まっても解決せず、ただ首をかしげるのみだった。
その不思議な隕石は『グラン・メテオ』と名付けられた。
そのおよそ1年後、『グラン・メテオ』が落ちた海に変わった生体反応があり、何人かの科学者が改めて調べた。
一見チョウチンアンコウのようだが、体つきもたくましくはなく、そのチョウチンからは電気がパリパリと放たれている。
「何なんだ…こいつは…?」
ほとんど全ての科学者が同じ意見を持った。しかし、一人は
「この地球で何が起きているんだ…」
今でなく未来を予測し、心配する科学者がいた。
彼はユウキの父だった。
それ以降は特に変化は無いように思われた。
話はさらに1年後に移る。
「それでは、さようなら!」
「「さようなら!」」
先生の声に教室充の生徒が揃って繰り返した。
「ふぅー…」
ユウキはため息を漏らした。
「どうした?ため息なんかついて?またパパが帰って来なくて寂しいのか?」
ユウキのクラスメイトのホリが聞く。
「そんなんじゃねぇよ。」
「フッ…」
「鼻で笑うな。」
ユウキはホリの鼻をつまんだ。ホリは苦しそうに
「分かったよ。」
と鼻声で答える。
ユウキとホリはホウエン地方のミナモシティに住む中学生だ。
二人とも部活はやっていないため、すぐに家へと向かう。
「いやー、なんかつまんねぇなー。」
ホリが前触れも無く、いきなり話しだした。
「おっと、どうしたいきなり?」
「だってよぉ、学校はつまんねぇし、暇だしさ。」
ユウキもずっとそう思っていた。最初の頃は部活に入ろうとも考えていたが、ユウキは小学校でいじめられたことのある経験があり、どうしても人と関わるのが辛く感じ、入部を諦めた。
深く考えすぎて分かれ道まで沈黙が続いた。
「じゃあなー。」
ユウキはホリに軽く手を振る。
「そういえば、確かになぁ…」
ユウキの父さんは新しい生物が発見された後、一切帰ってきていない。科学者からしたらやはり素晴らしい発見なんだろうが、所詮中学生から見たら生き物がちょっと増えただけのようなことにしか思えなかった。
色々考えている間に家に着いた。
「ただいまー!」
いつも父さんがいないか、わずかばかり期待を抱いて帰宅する。もう帰って来ないんじゃないか、そんなことを考えるときも少なくない。
ユウキは部屋のベッドに飛び込み、横になりながらテレビを見る。カラスの鳴く夕方16時ぐらいとなると番組はニュースばかりだった。宿題もする気にはまだならず、少しの間眠りについた。
「んん…」
ザヴァーン!
海の表面が切り裂かれ、巨大なくじらのような生物が体を出した。その時に起きた大きな波が船を襲った。その船の中には父さんがいた。海の水が口に入り、悶えて溺れている。
「グルアアアアアア!」
その強大な鳴き声とともに海には渦が巻き、父さん達が飲まれていく。
「やめろーーーーー!」
そう叫びそうになったところで、目が覚めた。体には汗がびっしょりとしたっていた。時計をちらりと見ると16:50を示していた。あまり眠れなかったようだ。
「ハアハア…夢か、なんだったんだ…」
ユウキは洗面所にタオルを取りに行った時、父さんの部屋の前を通った。あの夢のこともあり、少し気になって普段は禁じられているが、入ってみた。
そこで見たのは何とも驚く光景だった。夢にみたあの生物がポスターのように貼られていた。
「えっ…なんで?」
独り言はあまり言わないタイプだが、自問してしまった。それほどに衝撃的なことだった。
他にも色々調べてみる、あのチョウチンアンコウのような生物がチョンチーという名前がつけられていること。他にもまだたくさん同じような生物が生きているということ。など、一般には知らされていない事実がいくつか分かった。
部屋に戻ると携帯電話がヴーヴー震えていた。ホリからの電話だった。
「もしもし、どうした?」
「お前今テレビ見てるか!?」
すごい驚いた声でユウキに遠回しにテレビを見ろと言った。
「今つけたよ。」
「ニュースを見てみろ!」
ユウキはリモコンを手に取り、番組を変えた。そして再び驚く光景を目の当たりにした。夢にも見た、父さんの部屋でも見たあの青いくじらのようなポケモンが暴れているのだ。空撮するヘリコプターもぐらぐら揺れている。
「あれ…お前の父さんの乗ってる船だったよな…?」
ユウキはテレビの側面に手を当てて改めてまじまじと見た。
「MK-011…!?」
MK-011とは、ユウキの父さんが乗っている船の番号だった。その船が大きな波に何度も呑まれている。まるでさっき見た夢のようだった。
「確か今はトクサネ近海にいたはず…ちょっと見てくる!」
「待て!俺も行く!いつもの海岸に集合だ!」
「分かった。」
ユウキはジャンバーを着て、すぐに外へと出た。
なぜかドアの前に黒い人形が置いてあった。不気味ではあったが、今はそれどころではないと思い、無視して行こうとした。そのとき、
「ケラケラ」
ユウキの目の前に現れた黒い人形のような生物が喋った。