ポケモン不思議のダンジョン空の探検隊 エンジェル〜黒と白の12の翼〜







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第六章 レイヴン
第七十七話 ハッピーエンドじゃないけど
 狂気を理解し立ち向かうミル。絶体絶命のピンチの中、記憶を頼りに機転を利かせ、見事クウコに攻撃を当て――?






〜☆〜



 ――周囲一帯を吹き飛ばす大爆発が、辺りを襲う。
 火炎を飲み込む光の奔流は、相反するエネルギー同士爆発する。その威力は周囲の岩石を砕き、小さな石が地面を削る速度で吹き飛ぶほどの物だった。

 ミルとクウコの技による爆発は一般人からしてみれば災害と何ら変わらない。弱っている二人でこれなのだから、英雄はどれほどの力を持っているのか――そう思うほどだった。

 そんな爆発によって巻き起こった土煙は二人を勝敗の結果とともに隠す。立ち込める土煙は、数秒、数十秒たっても収まる気配を見せない。
 だが所詮、一時の風により舞うだけの煙だ。風が止めば地面に戻り、隠していた結果が露になる。
 果たして、たっているのは――、

「……」

「……や、った?」

 ――茶色の体毛に、兎を思わす長い耳。
 間違いなくイーブイという種族のそのポケモンが立っているということは、つまり勝者は――ミル・フィーア。
 しかも傷は少ない。理由は、搾り出したシャインロアーの勢いが強すぎて、作用反作用の法則により後ろへ飛び、結果あまりダメージを受けずに済んだのだ。

「やった……やったんだ……」

 後ろを向いた状態での、バトンタッチ。
 フィリアがバトンタッチを利用した攻撃方法を利用したのを思い出し、ミルなりにアレンジしたのだ。向きは変わらないバトンタッチの効果により、クウコがミルにお尻を向ける位置関係になる。
 そこに攻撃を当てる。ある意味、ロックオンや心の目と並ぶ技を必中にさせる戦法になりそうだ。

「……う、ぐ」

「!」

 喜ぶミルの顔が、すぐに険しい物へと変わる。
 呻き声をあげながら、顔を苦痛に歪ませながら、それでもなお立ち上がろうとする狂人――否、常人の姿があったからだ。

「か、はぁ……あなたさえ、い、いなけれ、ばぁ……!!」

「……」

 体力は残りわずか、体中にダメージを負い満身創痍でありながら、その瞳の眼光には一片の曇りも見えず、憎しみと悔しさだけが爛々と輝いていた。

「……あなたはもう、戦えない。私たちの勝ちだよ」

「まだ、終わってないぃ……!」

「終わったよ、もう。……あなたの負け、だよ」

 理解のできた狂人を、ミルは怖がらない。
 愛故に凶行に走り、愛故に狂い、愛故に――そんな一途な愛を向けられるクウコを、どうして狂人と言えようか。
 勿論行き過ぎとも言える。だがミルにはどうしても、クウコを狂人とは捉えられない。

「なん、で、なんでなんでなんでなんで、あなた如きにぃ……!!」

「あなたが一人で来たからだよ。誰かといっしょだったら、きっと負けてたと思う」

 例えば親衛隊の誰か一人でも連れてきたのなら、難易度はぐっと上がっていたはずだ。それだけ英雄を甘く見ていなかったという事だが、如何せん甘く見なさすぎだ。
 更にヒイロとシルガを相討ちにさせたことで、より一層油断してしまい、更にはミルの共感への憤怒――冷静に徹し切れなかったことが、今回最大の敗因でもあった。

「……そう、ね。結局、プライドを履き違えたのが、最大の、敗因だったわね」

「……うん」

 そしてクウコも、素直にそれを認めた。
 いつまでも否定し続けても意味はない。無駄な誇りは捨てるべき物だ。誇りと傲慢は似て非なるもの、それが分からずレイヴンの知能担当は名乗れない。

「……あなたには捕まってもらうよ。罪を償ってもらうために」

「情報を引き出そうとは、考えない、のね」

「……あっ!」

「……こんな馬鹿に、負けたなんて」

 そういって、クウコは笑みを見せた。
 だがそれは、純粋な笑みではない。もっと自虐的で、自分への馬鹿らしさからきた物だ。

「皆重症だし……他の人呼んでくるから、あなたはここで待って……?」

 周囲を見渡し、シルガやヒイロ、フィリアやレインの怪我を見たミルは、急いで治療しなければと、とりあえずクウコに待っておくように言う――そこで、異変にようやっと気がついた。

「……あれ? なんか、地面に沈んでるように見えるんだけど……?」

「……」

「見えるんじゃない! あれ、これ確か前にどこかで……そうだ! オカマさんのときの!」

 オカマファイヤーフィレアが一瞬で消えたとき、なにやら暗闇が小さく佇んでいたのを思い出す。その時の暗闇に、クウコを飲み込む大地――正確には影が、一致しているのだ。

「今頃気付いても、もう遅いわ……ボスは私を手放さない。だって、私はボスを大事にしてるもの。ボスも同じはずよ」

「まま、待ってよ!」

「じゃあ、ね。か弱くてお強い、兎さん」

 別れの言葉を告げた後、クウコは影に飲み込まれるようにして消えていく。どこまでも続いているような暗闇。そこにはもう、クウコの姿など微塵もなかった。
 やがて光を遮るものすらないのに維持していた影は、ゆっくりとその姿を変えていき、やがてミルの足跡よりも小さくなると初めから何も無かったかのように、痕跡残さず消えていってしまった。

「……」

 唖然、ミルの今の状態を一言で表すのなら、正にそれだ。
 テレポートのように一瞬でどこかへ空間転移した訳でも無い。まるでそこに見えない道があるかのように、クウコはそこを通ってどこか別の場所へ行ってしまったかのように、ゆっくりと消えていったという事実。
 ミルの頭は悪い訳では無いがいい訳でも無い。この吃驚仰天な事実を受け止める事はできても、理由を理解することは到底不可能だった。

 そんなミルが今できることといえば、

「……あ! 助けを呼んでこなくちゃ!」

 戦闘不能になった皆を助けるべく、救助を呼ぶ事だけだった。




〜☆〜




 ――体が鉛のように重い。
 暗闇の中浮上して行く意識がまず掴み取ったのは、体に掛かる重圧だった。
 全身がぴくりとも動かせないのもそうだが、体――特にお腹部分にかかる重さは尋常じゃなく、何か錘が乗っているのではと思うほどだった。

 その重さに、ようやく意識が記憶を手繰り寄せた。
 体がぴくりとも動かないのは、体を酷使しすぎたからだ。あの状態から助かったのは奇跡に近いが、一体誰が助けてくれたのだろうか。
 思考を重ねていくうちに急浮上する意識は、遂に目蓋を開け、見るという行為を成功させ――、

「……もー駄目だよー、ラルドは私の奴隷なんだからー……むにゃむにゃ」

「豪く物騒なこと言ってんなぁ!?」

 ――突っ込みという行為を果たす事で、ラルドの意識は完全覚醒した。

「あ、起きたんだ」

「おぉ、その声はフィリアか。なぁちょっとこいつを退かしてくれないか? 重くて重くて仕方が無いんだよ」

「千ポケからどうぞ」

「金取るの!?」

 首が固定され動かせないピカチュウ、ラルドは声だけでフィリアだと判断し、助けを求める。が、どうやら有料らしい。

「解せぬ!」

「下種」

「そんな無茶言われても……あれ、今理解しろって意味で言ったの? それとも罵詈雑言?」

「下種」

「バリバリ雑言だこれ……」

 目覚めて早々、弄られるというのも新鮮で実に悪い。が、ラルドの意識が更に目覚めるいい手助けでもあった。
 とはいえ寝起きで誰かにのしかかられ、その上悪口を言われても嬉しくもなんともないのだが、そこは寛大な心で受け止めるべきだろう。

「……しかし、お医者さんの言葉だと後数日は意識が無くてもおかしくない状態だったらしいんだけど、まさか三日で起きるとはね」

「そりゃ俺の自慢体質に回復が通常の三倍のスピード! ってのがあるからな。当たり前だろ」

「の割には三日」

「常人なら九日寝たきりだったということでここは一つ……」

 そう、常人が百%の身体能力を使用した際の体力減少の速度は猛毒状態よりも更に速い。常人がラルドと同じ状態になったら、まず間違いなく体に何らかの障害が残るだろう。解放とは、それだけ恐ろしいのだ。

「しっかし、三日か……三日の朝のだから実質二日じゃないか?」

「どうでもいいね」

「どうでもいいよなぁ。ところでこの駄兎どうにかしてくれないか? 正直体がまだ癒えきってないから痛いんですけど」

 そういって、ラルドはちらりと自らの上に圧し掛かる駄兎こと、ミルを見た。
 おそらく看病してくれていたのだろう。それは分かる。
 だがどうやったら上に圧し掛かる事が、無意識のうちにできるのか。ミルの寝相の悪さはある種スキルの一つだと言えるのかもしれない――だからどうしたという程度のスキルなのが、残念さを漂わせている。

「そういわないで、ミルもミルなりに皆の看病をしたんだ。傷はエンジェル内で一番浅かったからってね」

「……そうか」

 ラルドは、エンジェルの残りメンバーがどんな戦いを繰り広げ、自分と同じく病院にいるかは分からない。
 だが皆が皆、激戦を繰り広げ、肉体精神ともに磨耗したのであろうことはわかる。
 そんな状態で皆の看病を徹夜でするとは――ミルの優しさは底なしなのか。

「……そういえば、お前や他の皆は大丈夫なのか?」

「僕は、正直ずっと立ってるのは疲れるけど、それだけだよ。爆裂の種で削られるのは、結局体力だけだからね」

「度を過ぎれば危険だぞ」

「そこは現代の医学で、ね。他の皆なら、レインはそこまで酷くはないね。もうほぼ治りかけだよ。シルガとヒイロは……君より少しマシな怪我で、君以下の治癒速度だからね」

「……そうか」

 シルガもヒイロも、恐らく死闘を繰り広げ、その末に大怪我を負ったのだろう。どんな理由、どんな敵と戦ったかは知らないが、それでも二人がどれだけがんばって戦ってくれたかは、怪我の大きさで理解できた。
 そしてその二人が、そんな怪我を負ってしまった事実に、少し、ラルドの胸がちくりと痛んだ。

「君のせいじゃないよ。ただ、敵が一枚上手だったんだよ……そんな敵を倒してくれたミルには、君も感謝しておいたほうが良いね」

「……えっ!? ミルが四天王倒したの!?」

 アリシア、フィレア、フルド――何れもエンジェルのうち、誰か一人でも欠けたら勝てなかったであろう強敵だっただけに、その言葉にラルドは目を見開き、自分の上でぐーすかと眠っているミルを見て、軽症という言葉に納得する。

「そうか……本当に、ミルが倒してくれたんだな」

「そうだね。僕の捨て身の作戦でも倒せなかったらしいから、本当にミルはよくやってくれたよ。……普段はあんなだけど、ミルもちゃんと成長しているんだね」

「そりゃそうだろ」

 ラルドは知らないが、ミルの底抜けの優しさはあのクウコの狂気すら理解し、更正させようとしたほどだ。結果的に逃げられたとはいえ、逃げられなかったら、きっとミルはクウコにも付きっ切りになっていただろう。
 この事を知らないラルドでさえミルの優しさを認め、臆病を完璧じゃないにせよ克服し、成長していると断言しているのだ。ミルの成長は、それほど著しいものだった。

「ま、これだけ冒険して、成長しない奴なんていないだろ。……それに、ミルは特にな」

 ディアルガとの戦い、そしてラルドとの別れ。幾度も修羅場を乗り越えてきたミルが暗く落ち込み、以前の笑顔が見れなくなったという状態を経験して、恐らくミルの精神はかなりの成長を遂げたはずだ。
 臆病を克服した、とは言い難いが、若干という言葉をプラスするとしたら、一応合っていると言えるだろう。

「しかしまぁ、俺もまだまだだよな。あんな奴ら相手に負けるなんて」

「七百もの大群のうち、四百も倒したんだからいいと思うけどね」

 解放の使用時間の短さを考慮せず、ただ愚直に攻めた結果があれだ。もっと考え、“電気活性《アクティベーション》”やその改を使えば、或いは七百の大群を打ち破る事ができたかもしれない。

「……でもまぁ、無事に終わったんだしいいか」

「そうだね……本当、その通りだよ」

 そういうと、フィリアは目を瞑る。睡魔が襲ってきたのだろう。抗うことなく、まどろんでいく。
 話し相手がいなくなったラルドは退屈で何かしようと、首を回して辺りに何かないかを探す。が、何もない。

「藁のベッドじゃなくて、メリープの毛のベッドなだけマシか……いや暇なことに変わりないけど」

 何かゲームのようなものはないのだろうか。しかしあったところで、ミルが上に乗っているので結局取れないという事実。
 圧迫されて少し苦しく、恨みをこれでもかとつめた視線をミルにおく――りはしない。流石に今回の事件最大の功績を持つミルに、そんなことはできない。

「……本当、よくやってくれたよ。ありがとな、ミル」

 ミルがいなかったら、今回は本当に不味かったのだろう。こちらの被害状況から予測は容易だ。
 きっとおきたら、褒めて褒めてと五月蝿くなるのだろう。その時は素直に褒められないだろう。なので、今のうちに。

「褒めるんだし……撫でる、でいいか」

 幸せそうな顔で眠っているミルの頭を、起こさないように優しく撫でる。ミルは普段から、戦いにおいて劣等感を抱いている節があった。それが今回の件で少しでも自信を持てたらいいなと、ラルドは密かに願う。

「本当に……ありがとう、ミル」

 幸せな夢を見ているのだろう。だらしのない笑みを浮かべた寝顔を見て、ラルドは気楽だなと言って、手をおろし――、

「――って涎ついてるぅ!?」

 ――涎まみれになった体と手をどうしようかと、呼び出しのボタンがあることに気付くまで数時間悩み続けた。




〜☆〜




 ――数週間がたち、無事に退院することができたエンジェル。
 だが無理は禁物という事で、しばらく絶対安静を言付かっている。ラルドにとって、それは呼吸を止められるも同じ、でもないので普通に受け入れる。
 無茶をしすぎて体にガタが来てしまったら終わりだ。幾らラルドでも、そこまで短慮な行動はしない。

「というわけで、探検はしないからダンバル、間違えたダンベルとか貸してくれたら嬉しいかな、と!」

「あんた、体ぶっ壊れてもおかしくなかったのに、よくそんなことできるわね……逆に感心するわ」

「どうせならメタングやメタグロスの方がいいと思うよ!」

「凄い勘違いができるね」

 訂正はあくまでも聞かない方針なのだろうか。ミルの天然っぷりには時々驚かされる事がある。

「だってリハビリはしたけどさ、やっぱり体がなまって仕方が無いんだよ! 解放維持をできるだけ伸ばすとか! 対フルド用の素早さ上昇の技とか! 色々やらなきゃいけないことは山積みなんだぞ!?」

「あんた自分の体の状況分からないの? フラケンシュタインよ? マミーよ? デスカーンの中にいてもおかしくないミイラっぷりよ?」

「いや、それは……」

 ラルドはちらり、ミルの方を見ると、

「ラルド、包帯いる?」

「こいつが事あるごとに包帯巻いてくるせいなんですけど?」

「この子は包帯を回復アイテムか何かと勘違いしてるから……」

「そんな残念な子じゃないよ!? ただラルドの為を思って……!」

「その結果が包帯代だけでの出費1000ポケなんだけどね」

 因みに包帯代はラルドの自己負担だ。財布の中身はすっからかん、ちくわしか持ってねぇ――なんてことにはなっていない。

 それはひとえに『レイヴン支部の破壊』の功績のお陰だ。

「いいだろ、報酬で300000ポケ貰えたんだから」

「寧ろ安すぎよね。私の頑張りに見合ってないわ」

「レインはシルガの攻撃の余波で吹き飛んで目回しただけじゃ……?」

「ミル、それ以上いけない」

 体育座りで涙目になりながらへのへのもへじを描くレインを見るに、どうやらフィリアの制止は遅かったらしい。
 操られた挙句に何とも言えない倒され方をしたレインに黙祷していると、後ろから「ハッ」と嘲笑の声が上がる。

「あの程度の攻撃の余波で倒れていては、この先が心配になってくるな」

「キーッ! アンタらみたいな化け物目線で考えるないでくれるかしら!」

「喚くな、傷に響く」

「ほとんど治ってるくせにィ!!」

 そう、ミイラだ。
 違うシルガだ。
 シルガもまたラルドに比肩する負傷を負っていた。その結果が包帯まきまき包帯まきまき巻−いて巻−いてとんとんとん、なミイラ姿。
 ミルに無理やり包帯を巻かれた哀れな姿だ。

「けど、シルガも傷の治り早い方だよね。あんなに酷い切り傷だったのに」

「切り傷って言うと迫力なくなるな……」

「実際失血はほとんどなかったからね。――まぁ、傷口を焼かれる痛みや痕のことを考えるとどっちの方がマシとは言えないけど」

「案ずるな。大した怪我じゃない」

 そういって、シルガは腕をぐるぐる回し――お約束の「傷口が開いた!」イベントが起こることもなく、体が正常に戻りつつあることを示した。
 
「未来世界ではポケモンより傷の治りの遅い人間体でもっとひどい重傷を負うこともあった。慣れている」

「俺も慣れてる」

「私も慣れてる」

「記憶喪失の人と余波で気絶した人が言っても説得力ないよ」

 罵倒にも慣れてる。これは本当。

 なんて笑いながら、またいつもの日常を甘んじて享受している一方で。
 ラルドはどうしても、この場にいない欠けた六人目のことを頭の中から消すことはできなかった。

「……ヒイロ、大丈夫なのかな」

 ふいに漏らしたのはミルだ。
 そしてその言葉を聞いた四人は、みな同じ表情を浮かべる。
 即ち哀しみ、即ち暗い表情だ。

 ――ヒイロは、意識が戻ってからずっとふさぎこんでいた。
 当然だろう。敵の精神攻撃にかかって仲間に、フィリアに手を出したのだ。しかも自分のせいで危うく全滅の危機すらあったと聞かされた時の心境は、とても考えられなほどの苦痛に塗れていただろう。

 自分が。自分のせいで。自分が弱いから。
 自分を否定する言葉が滝のように心を打つ。そんなヒイロの現状を想像するのは難くなかった。

「いつもどこにいるか、知ってる?」

「さぁ……報告会の時はいたんだけどね」

 ヒイロの怪我の大部分は打撲によるものだった。
 それもシルガが後遺症が残ったりしないよう配慮しながら攻撃したからか、治療を受け、安静にしていたら割とすぐに治ったのだ。
 とはいえ重傷は重傷。安静にしておいた方がよかったのに、ヒイロが自ら申し出たのだ。

「自分も報告会に出させてくれ」と。

「まぁ細かいすり合わせやらはまだあるから、中央都市には残り続けることになるんだけど」

「それにしてもヒイロはどうだったんだ? 報告会なんて……あいつにとっては醜態をさらすようなもんだろ」

「そうだね。事実ヒイロは落ち込みながら報告していたよ」

 自分が操られたこと。
 そのせいで皆に迷惑をかけたこと。
 そのせいで暗い報告会になったそうだが――それは置いといて。

「四天王を倒したり、支部を潰せたのは大きいけど……こっちもそれなりの爪痕を残されたな」

 人魂火山。
 奴らがそこを拠点の一つとしていたのは間違いなく、またその理由が廃棄された支部所々に見られる『採掘跡』や『ジュエルの欠片』から、様々なジュエルを採掘するためということが分かった。
 また人魂火山に流れていたオカルトも四天王による操作だと判明し、知らず知らずのうちに加担させられていた一般人も保護された。

 大損害を与えられた。
 それは与えることができたという意味であり、同時に受けたという意味でもある。

「このキーキー女のように軽く済ませておけばいいものを」

「あ? 殺すわよ? 寝てる間に水技で窒息死させるわよ?」

「地味に怖いこと言うのやめろ」

 などと茶化す気分にもなれない。
 どう対応すればいいのかどん詰まり、そのまま今に至る。

「フィリアの言葉にも耳を傾けないんじゃ、もうどうしようもないんじゃない?」

「傷を受け入れる時間が必要なのだろう。放っておけ」

「そうは言うけど、心配で……」

 どうにかしたいのに、どうにもできない。
 そんな閉塞感が、にぎやかなエンジェルに陰鬱とした影を齎している。
 ラルドもリーダーとしてできることは考えているが、どうにも考え付かないのだ。

「本当、どうすればいいんだろうな」

 得たものは確かにあった。
 しかし引き換えとしてヒイロが心に傷を負い、その結果ニートに――はならないだろうが、そんな感じの結末を迎えてしまっては敗北もいいところだ。
 
 行き詰まりの苦悩に再び頭を悩ませていると、不意に「パァン」と音がする。

「えっ」

「考えるのは結構! でも、悩むのは良くないと思うよ」

 その音の主はフィリアだった。
 手を叩いてみんなの意識を集中させたのだ。 
 そうして視線を集めると、話を続ける。

「そりゃ、ヒイロのこととか、そのほかのこと……得たモノと失ったモノを計るととてもハッピーエンドとは言えないけどさ」

「――――」

「でも、誰も命の危機には瀕しなかった」

 ラルドは数日意識がなかったがこうして目覚め。
 ミルは軽症で数日も経たずに完治し。
 フィリアもまた爆裂により限界まで下がった体力を取り戻し。
 シルガは刀傷、火傷、その他諸々酷いありさまだったのが治りかけ。
 レインは寝て起きたら大体完治していた。
 
 ヒイロも――心の傷はともかく、体は無事だった。

「みんなが無事だった。ひとまずは、そのことを祝おう」

 なんて、もう二週間以上経ってるんだけどね。
 なんておどけてみせるフィリアに、ラルドたちは息を吐くと、

「そっか……そうだよな。その通りだ、うん」

「流石フィリア、いいこと言うね!」

「それほどでもあるよ」

「あるのね……」

 なんて会話をしたりして。




 ハッピーエンドじゃないけど。
 バッドエンドでもない結末を、ひとまずは祝おう。

 ラルドは心強く、そう思った。










「――俺ァ、弱ェ」

 そんな決意も。
 蚊帳の外にいるヒイロは、知る由もなかった。












次回「羽ばたける黒翼」

■筆者メッセージ
数年の歳月を経て思うこと
「文章力下がったな…」とか
「色々オリ技考えてて纏めるの大変だな…」とか
「ストーリー構成下手だな…」とか
「こうやって何気ないあとがきにすれば誤魔化せるやろ…」とか

という訳で四年ぶりの更新です
ものずき ( 2018/05/05(土) 04:13 )