第七十五話 天才の本領
クウコの謎を解明し、後は答えあわせだけとなった第三ラウンド。これから始まる逆転劇の末、立っているのは果たして誰なのか――?
〜☆〜
――爆風をバリアが防ぎ、火炎を光が薙ぎ払う。
ミルとクウコの戦いは、ミルの防戦一方となっている。あたればクウコもただではすまないミルの攻撃だが、当たらなければ意味がない。
攻撃の機会を得る前に、或いは得た瞬間に攻撃され、その度に回避なり防御なりしなければならない。
光の奔流は激しい炎によって相殺され、逆に向こうの火炎を完全に防ぐ術をこちらは持ち合わせていない。
ジリ貧――そんな言葉が似合うであろう状況は、終わりを迎える。
「ミル! もういいから、下がるんだ!」
「そんなこと言っても、この人が……!」
「そんな簡単に逃がすだなんて、思われてるのかしら?」
火炎の球は、的確にミルを狙って放たれる。
エネルギーが尽きるのを待つにも、クウコはピーピーマックスを隠し持っている。ミルは知っていた物の、だから何かが出来る訳でも無し、逃げ回る他選択肢は無かった。
「別に思ってないよ。でも君の動揺を誘う物は、もう準備できてある」
「私の謎を解けたと? ……寝言は寝なきゃ言えないわ。大体解けたとしても、私にこの戦いにおいてはさして重要じゃないと――」
「――いや、重要さ。謎が解かれると、君たちはどうやら相当困るようだからね。それに、この答えは、恐らく正解だ」
「……あなた達を帰さなければいい話よ」
「精神面は、時に戦況を大きく左右する。それは君にもよくわかっているはずだ。仮にもレイヴンの頭脳担当を任されているなら、士気というものの力を知らないはずがない」
「だとしても、よ。あなた達が、それこそ私の予想もつかないような作戦でも間枯れない限り、私の勝利は揺るがない。そこの兎さんの攻撃でようやく私に重症を負わせられるでしょうけど、当たらないなら意味ないわ」
確かに、全て事実だ。
仮に相手の士気が下がる、或いは怒りや焦りで判断が鈍ろうと、クウコが二人に負ける可能性はかなり少ない。それこそ、回避不可能絶対命中で、ミルのシャインロアークラスの技を直撃させない限り、逆転の芽は開かない。
だがそれでも。
それでも敗北を受け入れるという事は、絶対に駄目だ。
逆転の可能性が、希望の芽がある限り勝利を諦めてはならない。レジギガスとの戦いで、それを学んだではないか。
だから、フィリアは言う。
「そろそろ、僕たちも勝って終わらせたいんだ――君の祟りから、七百人を救うために」
その言葉に、クウコの息が止まる。
目が、普通なら気付かない程度に見開かれ、フィリアの双眸を強くにらみつける。
深紅の瞳は、怒りを携えていた。
「そこは、妖術なんかの方が分かりやすいと思うけど」
「誤魔化しは必要ないよ。君が神通力で作った“道”は、祟りの効果を触れないでも発生させるため……僕は隠す目的もあったんじゃとは言ったけど、それはミスリードだ。技である以上、強力であればあるほど可視化する。ゴーストタイプの技だと思い込ませるために、わざと肯定したんじゃないかな」
「祟り……キュウコン伝説の、あれね。でも本当に信用してるの? 技とは違い、正真正銘のオカルトなのよ?」
「だからこそ、だよ。そんなオカルトじみた力、あるわけない。あったとしても、人間からポケモンになってない……僕もラルドのポケモン化を調べるために呼んで気になったんだけど、祟りと呼称される災いはなにもそれだけじゃないんだ」
キュウコン伝説の話の一部始終を纏めると、こうだ。
とある人間がふざけてキュウコンの尻尾を触り、キュウコンは激怒。人間に祟りをかけるが、人間の相棒だったポケモンが肩代わりする。人間は逃げ、キュウコンは「あの人間がポケモンに転生するとき、世界のバランスは崩れる」という予言を残す――。
それが原因で起こったのが数年前の世界滅亡騒ぎ、巨大隕石衝突事件だ。
レックウザという伝説のポケモンがその隕石を破壊し、世界は救われたらしい。そして、そのレックウザに隕石破壊を頼み込んだ人物こそが数年前の英雄だ。
「その人間と数年前の英雄が同一人物かどうかは分からないけど、少なくともそれは事実だと英雄自身からも語られている。つまり、キュウコンの祟りは実在するんだ」
「……だから、なに? 確かに祟りはあったようね。でも、人を糸人形のように操る祟りなんてあると思ってるの? その話は私も知ってるわ。でも、そのキュウコンは千年近く生きた、言わばキュウコンの中でも特に力を持つ人物でしょうね。私とは、文字通り桁が違うわ」
キュウコンは千年生きると言われている。
そして長く生きれば生きるほどに祟りの力は強くなり、先程の話で出てきたキュウコンになると人間をポケモンを転生させるという、時空を越える際の事故と同等レベルの事象を引き起こせる、伝説ポケモンといわれても信じるクラスの力だ。
だが祟りはそれだけではないのだ。
「いや、君の祟りは操りだなんて生易しいものじゃないはずだ。もっと恐ろしくて、もっと抗いがたいもののはずだよ」
「……」
「沈黙は肯定と受け取るよ。……君の祟りは、恐らく“神代空狐を一番にする”という効果のはずだ。君の命令は絶対遵守するようになり、理性も失われる。それが祟りそのものの効果なのか、はたまた祟りの副作用だったのか……それは分からないけどね」
祟りによって、クウコは祟りをかけられた人にとっての絶対的な存在となる。
理性がなかったのは、七百人の人質から考えるに祟りが完全に定着したら元通りになるはずだ。でなければ、もぐりこませてもすぐにバレてしまう。
「君が尻尾を操っていたのは、現在進行形で操っていると見せかけて効果を誤認させる意味と、もう一つは指示を送るというのもあったんじゃないかな? 口で言ったら、何をしようとしているかバレちゃうもんね」
一々口で説明せずにすむなら、普通はその方法をとる。口頭で説明するなど、行動を先回りしてくれと言っているようなものだ。
「君は本来尻尾に直接触れられなければ発動させることのできないはずの祟りを、“神通力”で作った道で対称と繋がり、掛ける……それが君の“何か”の、操りの正体だ!」
人魂火山で見かけられる虚ろな目をしたポケモンも、恐らくはクウコの支配下におかれている状態だったのだろう。
祟り――俄かには信じ難く、嘘だと思われるかもしれない。
だが実際に数年前の英雄により、その存在は肯定されている。尚且つ人からポケモンへなるほどの祟りということも肯定したという事は、つまり。
「君の祟りは触らなくても掛かってしまう、ミルでもわかるように噛み砕いてゲル状にして言えば、断ることの難しい悪徳詐欺……そう言い換えることもできるだろうね」
「随分、酷く言うわね」
「……認めた、ということでいいのかい?」
「いいえ? 私は正解を話すような真似はしないし、例え答えを言われた所で肯定はしない……私が言わない限り、それが真実だと、人は確信できない――それに」
余裕のこもった笑みを浮かべて、フィリアを見る。
「何度も言うようだけれど、だから何なのかしら。例え私の術の根幹の位置するのが祟りだとしても、あなた達がどうにかする術はない」
「いや、まだあるはずだ。君の術に対抗するための、何かが」
「あったとしても、今この場のあなた達がどうにかできるとでも? ……無理ね。私の術の効く効かないは、ある意味で一番変わりにくいもの」
確かに、そうだ。
ヒイロが効きやすかったということから色々考えていたが、フィリアは効く効かないの条件が分かっていない。何故、ミルに効かないのか。分かりもしない。
それにシルガはミルには効かないと言っていたが、シルガやフィリアには効かないとは言っていない。
もし何らかの相性がフィリアとクウコでは悪く、操るのに時間が掛かったとしても、いつか操られてしまうかもしれない。
そうなる前に、必ず謎を全て解き明かさなければならないのだ。
今この場で倒しても、今までのように逃げ切られたときのために、厄介な術の内容を解き、後の挑戦者たちに伝える。
それだけでも、十分意味があるのだから。
「……どうして、ヒイロは操りやすかったのか。聞かせてくれはしないのかい?」
「さぁね。……まぁでも、これに関してはバレようがどうでもいいし、ヒントだけはあげましょうか?」
「術の秘密は、バラさないんじゃなかったのかい?」
「問題ないもの。……でも面倒ね、やっぱりやめるわ」
一瞬期待したフィリアだが、クウコの言葉に少し落胆する。
だが謎の解明を諦めた訳では無い。必ず、突き止めるのだ。
「……ミル、今回の謎は正直解くことができるかわからない。だから、二人で協力してクウコを倒そう。」
「えっ、あ、う、うん。で、でもどうやって?」
「それは僕が考える。だからミルは、とにかく攻撃か防御をするんだ。決め手となりそうなシィインロアー一発や二発は使えるくらいには、エネルギーは残しておいて」
「う、うん。分かった」
長く術についての説明を聞いていたせいで、不意に話しかけられて驚くミル。だが長年、ではなく半年の経験によって飲み込む速度はそれなりに速い。
理解不能なフィリアの話は理解せずに置いておき、即座に戦闘体勢へと移る。
「お別れの言葉は済んだ?」
「お別れなんてしないよ。君を倒して、ハッピーエンドになるんだから」
「あら、叶うといいわね。その妄言」
クウコがふふっ、と含んだ笑みを見せた、その瞬間。
――二人の間の地面が、爆ぜた。
「ッ!?」
「きゃ、で、“電光石火”!」
溶岩とともに吹き飛んだ岩が地面に落ちて、砕け、地面を溶かす。
“サイコキネシス”による先制攻撃により、戦闘初めのペースの主導権を握ったのはクウコとなった。
「どうかしら、小手先の技を食らった気分は」
「とてもとても厄介で見破りにくいよ! “エナジーボール”!」
クウコに大ダメージを与えられるのは、ミルの“シャインロアー”だけだ。
となれば当然、その機会を一つでも多く作るのが勝利への道だ。フィリアの攻撃は、居合い切り等のノーマル系以外、クウコには効果はいまひとつ。
「だから君にも、小手先戦法でいかせてもらうよ」
「ッ!」
フィリアの放った“エナジーボール”は、寸分狂わぬ命中精度でクウコの眼前の地面と衝突。黒煙と爆風を生み、クウコの視界を阻害する。
一瞬の隙を狙った一撃だったがクウコも、大技を当てる気だということくらいはとっくの昔から予測済みだ。念動力の嵐で黒煙を撒き散らすと、今度は自分の番だとでも言わんばかりに“不知火”の九連撃。
一発一発が火炎放射を凝縮したような威力を持つそれは、ただでさえ強力な上に連射可能な存在だ。その分、クウコのエネルギー消費が激しいが、そこは四天王。常人を遥かに上回る総量は、未だに底を見せない。
「ピーピーマックスの類は、持って無さそうだし……単純に総量が多いのかな」
フィリアはエネルギー切れも狙っているのだが、どうやらそれは無理なようだ。やはりシャインロアーをぶつけるしかないと、それだけをメインに作戦を考える。
「“バトンタッチ”は警戒されて使えない、煙幕も無理……」
ミルの攻撃は強力な分、溜め時間が必要だ。といってもほんの四、五秒だけだが、それだけあれば射線を見極めて避けるのに十分すぎる。
特に相手は四天王。基本スペックではミルよりもかなり格上だろう、そんな相手に回避行動の準備をする暇など与えてはならない。
「中々に厄介だね、これは」
だが回避行動を邪魔しようにも、フィリアの攻撃は草タイプがほとんど。ノーマルタイプの技もあるが、それでとまるクウコではないだろう。
正に糠に釘状態の現在、フィリアに求められる力は唯一“作戦”のみだ。
「止めを刺そうにも、クウコの現在の体力はかなりある……肉体的疲労も、ヒイロに戦闘の大部分を任せていたから、そこまでないはずだ」
つまり今必要なのは、“止めを刺す”ことではなく“止めを刺す布石を打つ”ことだ。分かりやすくいえば、ダメージだ。
ヒイロが倒れ、計画に支障が出ている以上、この戦闘は既に当初クウコが計画していた筋から大きくそれている。ということは、どこかに隙があるはずだ。
「多分、ヒイロには飛び道具なんかを防いだり、クウコが対処しきれない部分をカバーするって役割もあったはず……」
となれば盾だ。ヒイロにはクウコが対処しきれない場面をカバーする、補助道具とも言い換えられる役割があったのだ。
そして盾が必要という事は、恐らくクウコ自身の防御は低いと考えられる。
だからこそラルドを遠ざけ、ヒイロを操りシルガと相打ちにさせたのだろう。相打ちは予想外だったようだが、倒せたという点では成功だ。
クウコが言っていた作戦の四段階目に、今フィリアとミル達はいる。
「といっても盾がなくなった所で、僕たちじゃ……」
肉弾戦をメインとするヒイロやシルガ、近距離中距離遠距離全てを万能にこなすオールラウンダーであるラルドはともかく、二人は近距離戦に慣れていない。
その原因は、先に挙げた三人の存在だ。女性陣はひ弱で、一般と比べれば強いもののどうしても化け物組とは大きな差がついてしまう。
だから邪魔をしないようにと遠距離支援に徹していたのだが、それが遂に崩れた。
「やっぱり、地道にダメージを与えるしかないのかい……!」
目の前で何度も繰り広げられている小規模の爆発による爆風が、フィリアの小さな体を吹き飛ばさんと襲い掛かる。
フィリアは両足で踏ん張り、少々後退したものの堪えることはできた。
光と炎、念動力と影、ミルの特性“適応力”により底上げされた強大なエネルギーはクウコの得意な技とも十分張り合え、厄介な不可視の“サイコキネシス”も“シャドーボール”系統の技を放つ事で逃れ、傍から見れば互角と言える戦いだ。
だが冷静に見れば、ミルは押されている。防戦一方、と言い換えたほうがよいだろう。ピーピーマックスやオレンの実による回復がなければ、後一分足らずで全滅だろう。それほど、クウコは強い。
「討伐隊のうち、誰か一人でも来てくれたら勝てるんだけど、そんな美味しい展開は流石にないよね」
特にプリルが来てくれたら余計な作戦を考えずとも、文字通り一瞬で終わらせてくれるだろう。マッハ二の衝撃波というのは、例え“神速”だろうと回避は難しい。
とはいえ、プリルが来るまでにフィリアたちがやられる確率のほうが高い。より確実に生き残るために、無い物ねだりという思考停止は排除すべきだ。
余計な願望を捨てつつ、作戦を幾つも創造する。
「本当、厄介な敵だよ。神代空狐」
祟り、頭脳、そしてフィリアやミルが束になっても叶わない程度の実力。
化け物組がいるせいで女性陣は弱く見えるが、ミルやフィリア、レインですらも一般の探検隊よりは強い。
でないと緊急招集に呼ばれもしないだろう。
そんな二人を相手取って勝てる実力もまた、クウコを四天王足らしめているのだ。
「作戦も、クウコ相手には防がれる可能性が多いのしか思い浮かばない……何か、ないのかな……?」
クウコを視界に入れつつ、逆転の秘策となり得るものを探すも、そんな都合のいいものはない。岩石か、マグマしかこの場にはないのだ。
当然岩石を投げつけようと倒せるはずもない。マグマも、そもそも触れる事ができない。
フィリアのバッグの中身も、回復系の道具ばかりだ。唯一の不思議玉も、何故入っていたのか分からない“引き寄せの玉”のみ。
詰んだかもしれない――フィリアの頭にそんな考えが過ぎる。
(でも、まだ負けては居ない。逆転の芽は、どこかにあるはずなんだ……!)
今までも、こういったピンチは幾度となくあった。
そのたびに切り抜けてきたのだ。今までとは状況は多少、いやかなり違うとはいえ、それは変わらないだろう。
だが焦りがあるのも事実。焦燥は考えを鈍らせ、ネガティブを引き寄せる。心なしか、汗が多い気がした。
気持ちを強く持とうと、現実は厳しい。勝てないのかという考えが頭を支配し始めた、その時。
――ぷにっとした何かが、足に引っ掛かった。
「わっ……!?」
危うく転びそうになったが、そこはフィリア。咄嗟に手をつき、バック転をして体勢を立て直す。
ふぅ、と安堵を息を漏らし、転ぶ原因となった者を見る。
すると、そこには。
「れ、レイン……?」
シルガの高所からの“波動掌”による衝撃波で戦闘不能となった、レインの姿があった。
ヒイロやシルガと比べて大分傷は浅く、意識を失っているとはいえ酷い状態ではないようだ。ただ吹き飛ばされたときに頭を打った可能性があるので、動かしてはならないだろう。
「レインが操られてなかったら、もうちょっと楽になったんだろうね」
正直、フィリアは今でもレインが操られた事が信じられなかった。
クウコの祟りは精神状態によって左右される――ヒイロが最も操りやすいという言葉からそう考えているフィリアだが、レインに関しては疑問だった。
レインの精神状態がヒイロについで悪かったとは夢にも思わなかったのだ。いつもの、年上ぶってはいるが実は子供染みた、そんなレインが操られたのだ。
「何か、隠し事があるのかな……」
人生、いやなことは幾らでもある。フィリアも嫌なことがあったからこそ、家出を決意したのだ。
いつか全てを曝け出そうと思ってはいたが、まさかこんな所で、“精神状態”という点を突かれるとは思ってもみなかった。
「……あれ?」
そんなことを思っていると、足元に何かが転がっているのを見つける。
黄色のそれは、ころころと転がっていたが、やがてとまる。不思議に思ったフィリアはそれを手に取ると、種であることが判明する。
レインの側に落ちている種――十中八九、“爆裂の種”だろう。
「そういえば、一個も使ってなかったよね。……クウコには、効かないか」
一瞬、クウコに投げようかとも思ったが、無駄に終わるだろう。それどころか“サイコキネシス”でこちらに返されるかもしれない。
使えないだろうと判断すると、地面へ投げ捨て、また別の作戦を――
「――待てよ?」
一歩を踏み出す寸前、フィリアは自らのバッグに手を入れると、そこから“引き寄せの玉”を取り出す。
あらゆる道具が物体を貫通してでも自分の元へ集まってくるこの道具は、犯罪にも使われる事が多い。
だがダンジョンで行われる犯罪は大抵カクレオンの出張店が多く、その場合カクレオンは鬼のような強さで取り返しに来るため、失敗に終わるケースがほとんどだ。
そんな不思議玉を、フィリアはまじまじと見つめる。すると何か思いついたのか、頭の上に電球ができたかのように爆裂の種を拾い上げると。
「そうだ……使えるじゃないか」
名案。正しくそう呼べるこの作戦は、クウコを必ず倒せるものだ。
誰かが犠牲にならなければいけないが、クウコを倒せるのだ。なりふり構っている暇はない。ミルがやられてしまうのも時間の問題だ。
早速、フィリアはレインをバッグから爆裂の種を全て取ると、地面に置く。クウコにはばれないよう、そして技の爆発にゆうばくしないよう、バッグで隠す。
引き寄せの玉をバッグの、いつでも取り出せる場所において、準備完了だ。
「これで、終わる……この戦いも終わるんだ」
燃ゆる炎が地面を焼き焦がし、光が地面を抉る。
二人の戦いで足場が悪くなった地面は、所々が赤熱している。マグマの熱が到達する位置まで削れたのだろう。
これ以上、足場が悪くなったら終わりだ。その前に、終わらせなければならない。
「クウコ、君の攻略法――見つけたよ」
――この、戦いを。
次回「か弱く強い兎さん」