ポケモン不思議のダンジョン空の探検隊 エンジェル〜黒と白の12の翼〜 - 第六章 レイヴン
第六十九話 乱戦スクランブルB
 七百という数の集団とラルド一人の戦いの序章は終わり、新たなステップへと進む。一方、ヒイロを除いたエンジェルの四人は四天王の下へと――?






〜☆〜



 唸るデルビルは、飛来した電撃によって即座に戦闘不能状態に陥り、一匹、また一匹と倒されていく仲間を見てレイヴンの下っ端たちは慎重にならざるを得ない。
 赤い電気袋が一部剥き出しになっている頬から普段のラルドからは考えられないほどの放電がされていて、荒ぶる雷神を思わせる。

「残り、五百……ッ!!」

 戦闘開始から三十五分。一斉にラルドへ飛び掛って返り討ちにあった下っ端たちで足場は埋まり、その上にラルドは立っていた。
 解放も十五分を過ぎ、体の節々が悲鳴を上げる。リミッター解除の恩恵の代わりに潰れるであろうからだを、体力の減少へと変換してくれる解放にも限界がある。
 長時間の使用は最高でも一時間――それを越えたら、体が本当に壊れかねない。

「さ、まだまだ半数以上も残ってるんだ。倒させてもらうぜ、下っ端どもォ!!」

 地面を踏み砕き、一気に加速すると下っ端の一人であるポケモン“リザード”――ヒトカゲの進化系である、大きな爪と鍛え上げられた真っ赤な肉体を持つトカゲポケモンのお腹を“雷パンチ”で殴り、吹き飛ばす。
 直後にラルドを火炎が襲ったが、それを薙ぎ払う形で放った十万ボルトで相殺。煙と衝撃が発生するが、もう同じ手はくわない。

「爆裂の種!」

 叫び、手に持った爆裂の種を地面に叩きつけると、衝撃で煙が吹き飛ばされる。
 食べれば口から火を吹き、投げて使えば爆発を引き起こす爆裂の種は、瞬間的に強い衝撃を受けると、爆発は起きずに代わりに衝撃が起きる、という仕組みになっている。
 これが分かったとき、ラルドは更に爆裂の種道へとのめり込んだが、それはまた別の話。

「っし、どうだ! 何回煙出そうが、俺の爆裂の種は無限じゃないけどそれなりにあるぜ!」

 緊急用にと持ってきた爆裂の種十五個がまさかこんなところで役に立つとは。ラルドは幸運だと安堵した。
 しかし、爆裂の種の数は十五。煙を晴らせる回数も、また自然と十五回に限られてくる。

「ってことで早期決着させてもらいたいんだけど、“雷”!」

「ッ!?」

 後ろから音もなく迫ってきていたヘルガーを、“雷”の一撃で倒す。
 黒煙を体から上げて倒れたヘルガーを、ラルドは全方位から囲むようにして放たれた“火炎放射”を防ぐための盾代わりにする。結果、“貰い火”を特性に持つ盾によって炎を全て防ぐと、お返しにと“電撃連波”を放つ。
 全方位へ向けて放たれた電撃の波は周辺の下っ端を一掃する。
 この時点で、十二人は倒している。五百から引くと残る敵は四百八十八。最初を考えると、かなり減ってきている。

「そろそろ、降参の宣言は――」

「ある訳ねぇだろ! “オーバーヒート”ォ!」

「だよなやっぱり! “十万ボルト”!」

 洞窟内を照らす電撃と、両腕の発射口から放たれた二つの火炎放射が一つに合わさった巨大な白き炎は激突すると、莫大なエネルギー波と熱を発生させ、衝突した直下の地面を軽く融解させる。
 電撃と炎は互いに相殺。その際の爆発は融解した地面ごと周りにいた下っ端を吹き飛ばし、一部を戦闘不能にまで追い込む。
 ここまでの炎を放てる敵など、確認するまでもない。

「やっとこさ来たか、ブーバーン野郎!」

「当たり前だ。ここまでやられりゃ、黙っとく訳にはいかねぇよ!」

 白みがかった体が汗を流し、砲口と間違えてしまいそうな右腕をラルドに向けて、いつでも炎を発射できるように構える。
 一方のラルドは、体中から大量の汗を流すも、疲労はあまり見えない。オーバーヒート二発などという暴力的な威力の技を十万ボルト一発で相殺したことに怯えて逃げ出そうとしたワカシャモを余所見できる、そんな余裕すらある。

「それが解放か……オーバーヒート二発を十万ボルト一発で相殺するだけのことはある、ってことか」

「それだけじゃないぞ? 寧ろ解放の真骨頂は身体能力の向上にあるんだ。気を引き締めてないと気色悪い顔面が更に気色悪くなるぜ?」

「テメェ……そんな口利いてられんのも、今のうちだぜ!?」

「なにを……って!?」

 裂いたような笑みを浮かべるブーバーンに、ラルドは周囲を見渡す。すると真後ろに音もなく忍び寄っていたムウマージがラルド目掛けて“シャドーボール”を放っていた事に気付き、慌てて“電光石火”で避ける。
 目標を失ったシャドーボールは地面に触れると、途端に爆発。衝撃と煙を発生させ、雲散する。

「あれぇ? これ避けるなんて、凄いね」

「さっきも言ったろ。解放の真骨頂は、身体能力の向上にあるって」

 消えて見えるとまでは行かないが、並みのポケモンなら追いつくだけで精一杯な速度と、岩をも砕く――簡単に言えば一t以上のパワーを有するようになる。
 最弱とまで言われるコイキングでも、解放さえ行える事が出来ればポケモンという広い枠組みの中でも強者に位置することが可能だろう。そう思える能力だ。

「うんうん。確かに凄い。電光石火と併用したからか、消えて見えたよ。……でもま、注意力はその分落ちるのかな?」

「ッ!?」

 再び思わせぶりな発言をするムウマージ。
 例えラルドが振り向いた隙に攻撃をしようとも、今のラルドならば直に反応できる。後ろを振り向き、何があるのかと確認する。
 視界の中に入ったのは、砂塵を巻き上げながら猛進する岩石の如き肉体を持つポケモン。ドサイドンが鈍足な種族とは思えないスピードでラルドの元へ向かっていた。

「速ッ……!?」

 避けられる速度だが、素早さと引き換えに攻撃力を増加したのがドサイドンという種族なのだとラルドは思っていた。ゆえに、この速さは少々驚きだ。
 とはいえ、心当たりがない訳でも無い。

「“ロックカット”か!」

「ご名答! そして、これが速さと重さを兼ね備えた一撃だ!」

 その速さのまま、ドサイドンは跳躍する。
 最高到達地点は高かったが、しかしドサイドン。重さによって直に下降する。
 だが、これでいい。

 ラルドの真上まで跳ぶ事に成功したドサイドンは、両腕あわせると腕に力を入れる。岩石の如き腕は更に膨れ、相当力をこめている事が見て取れる。
 ロックカット時のドサイドンの速さを超える速度で下降するドサイドンは腕を振り上げる。

「これが最大威力“アームハンマー”だ!!」

 地面を砕くであろう一撃は、ギリギリまで力を溜めるつもりらしい。血走った目でラルドを睨む。
 が、そんなものを態々受けてやる必要もない。ラルドは即座に“電光石火”の体勢に移ると、地面を蹴って発動を――、

「残念、“金縛り”!」

「!?」

 直前、ムウマージの“金縛り”によって動きを止められる。
 解放中のラルドでさえ解けない捕縛力は、アームハンマーを確実に当てるために発動されたものだ。ラルドでさえ分かる単純なこと。
 だがその単純な事がラルドを苦しめ、文字通り縛る。このままでは、骨が全壊どころか内蔵と肉片が辺りに散らばる大惨事だ。
 
 焦るラルド。だが敵は待ったをくれることなく、無情にも“アームハンマー”の両腕を振り下ろす。地面を砕く一撃の直前、金縛りが解ける。
 しかしもう遅い。風を切る勢いのアームハンマーは、ラルドに触れる一センチ前まで迫り、

「間に合え……ッ!!」

 解けた瞬間、ラルドはバッグへと手を入れる。
 指定した物が何故か都合よく手に取れる設計のトレジャーバッグは、普段と変わりなくラルドの望む道具をラルドの手に渡してくれる。
 その道具を自慢の握力で砕くと、

「――ッ!?」

「成功!」

 ラルドとドサイドン。二人の位置が、刹那のうちに入れ替わる。
 突然の事態にドサイドンは困惑し、アームハンマーを止める事も出来ずにそのまま振り下ろす。
 比喩したとおりに地面を砕いたドサイドンは、しかしそれを誇ることはできない。
 目的であるラルドにまんまと攻撃を避けられたのだから。フルドの元で鍛錬を積んだドサイドンには、受け止めなければならない事実がより一層重くなる。
 だがこのまま黙っているわけにはいかない。過ぎた事は仕方ないと、自分の真上にいるであろう英雄に向けて豪腕を振り――直後、地面へと突っ伏していた。

「は……ッ!?」

 疑問の声が肺から漏れ出す空気と共に出てくる。
 片腕はラルド目掛けて振ったが、片腕は地面につき、加えて言うならば力も入っていた。それでも耐えられない打撃などありえない。
 混乱した思考はエラーを出し、直後に来る攻撃への対処ということも思いつかない。

 ラルドの“メガトンパンチ”に倒れたドサイドンは、重力を味方につけた“メガトンキック”によって呆気なく意識を失った。

「っし……これで、厄介な特性持ちは倒したァ!!」

 四十分。このドサイドンと二百名越えの下っ端を倒すために要した時間だ。

「俺と相性いい親衛隊もこの程度。お前らなら屁でもねぇ!!」

 半分にまで減った自身の体力を搾り出すかのように、大声で勝利への雄叫びを上げる。勝つ事を諦めるどころか確信しているラルドに、下っ端たちは恐怖で身を引く。
 英雄VSレイヴン所属の七百三名の戦いは、終盤を迎えた。






〜☆〜



 時はさかのぼり、ラルドとヒイロを除いたエンジェルの四人。
 探検隊バッジによって転送されたのは、暗い洞窟の中。地熱によって多少は熱いが、所々に埋め込まれた溶けない氷によって洞窟内は比較的涼しい。
 しかし裏を返せば、それは敵が周辺に潜んでいるという事にもなる。

「ここに四天王が居るの?」

「でも、こんなところに本当に居るのかしら。寧ろフルドが待ち構えている可能性のほうが高そうよ」

 高い天井を見て、レインが呟く。
 確かにマグマによって熱され、固められた岩で出来たこの洞窟だ。加えて天井も高いとなれば、フルドの最高の戦闘場だろう。
 幅が広いのがフルドにとっては少し不利だろうが、それだけだ。

「でも、フルドが態々出てくるかな? 僕らが四人ってのは、敵も分かってないだろうしさ」

「甘いな。もし敵がラルドとヒイロと俺たちを分断する作戦を実行していたらどうする。俺たちだけで、フルドは倒せんぞ」

「あら、そうかしら?」

「そうだと言っているだろう。レジギガスとの戦いで強くなった自信はあるが、奴の解放と謎の進化は驚異的なパワーアップだ。解放だけの俺では勝てん」

 ラルドが謎の石をプリルに渡して、今は中央都市に聳え立つ塔の科学者たちによって研究されているらしい。
 ラルドが直感的に感じたのは進化だそうだが、ポケモンは光の泉やそれと同系統の力を持つ何かによってでしか進化はできないと証明されている。

「とにもかくにも、皆。気を引き締めていこう!」

「おー!」

「この戦いが終わったら、私は銀の針を買い占めるんだ!」

「金欠になって貯金に手を染めるお前が簡単に思い浮かぶ」

「さ、最近は手出してないから!」

 第二のミルとも恐れられてしばらくはヨワマルにレインにお金を渡すなとフィリア直々に言うほど、レインは金を盗んだ事がある。
 原因は鉄のトゲの減少だ。使い捨てではないが、壁に撃って威力検証をしてみたりダンジョンで大量に使うとやはり少なくなってくる。
 そこで目をつけたのが貯金、というのが運の尽き。化け物組三人による徹底的なまでに甘さを捨てた鍛錬を積まされ、レインは虚ろな目をしながら二日を過ごした。ということが少し前にあったのだ。

「懐かしいよね。あの時のレインの顔は面白かったよ!」

「今でこそ笑えているだけで当時、ミルはレインのことをかなり心配していたじゃないか」

「あ、あれは冗談! うそ! レインに情けをかけることでまだ自分はやれるって思い込ませるためのうそ!」

「具体的に言われたら勘違いしそうなんですけど。そうじゃないわよね?」

「多分……あ、ううん! 絶対! 神様に誓う!」

「よろしい」

 何も言わず、だが威圧感で物を語る。
 それだけ聞くと凄い何かを想像してしまうが、実際は自分の失敗を言葉にさせまいとしているだけの鼠だ。その一般人らしさに共感こそすれど、尊敬は欠片もしない。

「……そうそうフィリア。聞きたいことが一つあるんだけど」

「なにかな?」

「あの馬鹿鼠が昨日の夜に話してたんだけど、この火山ってホラースポットなのよね。それで虚ろな目で歩いている人をよく見かけるって話なんだけど」

「関係あるのか、ってこと?」

「そうそうそれそれ!」

 火山周辺を歩く、虚ろな目をした人――これだけ聞けば催眠術で操られているのでは、という結論に至るが、もしかしたら人魂火山で痛い目を見た探検隊が再挑戦時にそのことを思い出して虚ろな目になったのかもしれない。
 というのは置いておくとして、もしそれが四天王に関係有るとしたなら、最後の四天王はエスパータイプ――それもカラマネロのような強力な催眠術を扱う種族だと推測できる。
 とはいえあくまで推測、それも関係あるかないかの不確かな状況証拠によるものだ。十中八九間違いだろう。

「ま、出会うまで分からないんだ。気を引き締めなきゃいけないってのは変わらないよ」

「でっすよね」

 間違いのない正当な言葉だ、とレインは素直に頷く。
 どんな能力を持つにせよ、少なくとも正体が分かるまでは気を抜いてはならない。正体が分かったとしても、もしエスパータイプの中でも強者の位置に君臨する、例えばフーディンやエルレイド、メタグロスといったポケモンなら倒すまで気を抜くなんて馬鹿にすることだ。

「でも、正体が分かったら対策の使用はある。シルガ、君の波導で探知はできないかな?」

「無理だな。……いや、正確には探知しても、並みの波導ならば簡単に覆い隠せる波導がこの先に満ちていて探知できん」

「敵さんにも波導使いがいるってこと?」

「そうではない。ただ、波動で覆い隠しているだけ……波動とは万物に宿る代物だ。当然強弱もある。強い波動の中から出ている弱い波動を探知するのは容易ではない。それは、今この場でも同じことがいえる」

「つまり、木を隠すなら森の中、ってことかな。……ますます油断は禁物になっちゃったね」

「うぅ、これから戦いだと思うと憂鬱……」

 ミルの臆病な性格は、探検を続けて早半年。今でこそナリを潜めているが、臆病な性格が完全に治った訳では無い。
 度胸がついた分、臆病さが見えにくくなっているだけで、臆病というのは変わることはない。一歩進むたびに憂鬱が増すが、そうも言っていられない。

「……ねぇ、フィリア」

「なんだい?」

「レイヴン倒したら……みんなで一緒に、楽しい探検しようね!」

「……そうだね。でも、六人は無理だよ?」

「そ、そこはちょっと、ほら、ラルドの権力で何とか!」

「世界救ったから、大丈夫だとは思うけどね。あの馬鹿なら、四人はリーダーバッジで安全に一緒に転送できるから原則四人なだけで、簡単なダンジョンなら連盟も有る程度は黙認していることも知っていそうだからね」

 笑いながら答えるフィリア。
 実際、ラルドはその事実を知っている。探検隊が四人限定――正確に言えば体の大きさで決まってくるのは、転送できる量の限界にある。
 例えばディアルガレベルの大きさをしたポケモンが二人居たとしても、それらを一度に転送することは不可能だ。
 が、比較的安全なダンジョンならその心配も必要ない。小さな原っぱ辺りなら、攻撃を受けてもかすり傷程度にしかならないだろう。

「そこ後ろ二人。フラグは折るものであって立てるものじゃないわよ」

「俺が探知しているからとはいえ、油断はするな。敵はいつ何時、俺たちを襲うとも分からんのだぞ」

「はーい!」

「分かっているよ」

 注意され、元気な声と普段と変わりない声の返事が洞窟内で反響する。
 緊張感は少し足りないが、緊張しすぎるのもよくない。
 
「あら、ここら辺ちょっと明るくないかしら?」

「そう?」

「そうだね。影が少し薄い」

 そもそも、フィリア達が居た場所は暗かったとはいえ、見えるという事は光が差している証明に他ならない。
 つまり、

「……近づいてきたか。敵の下へと」

 敵が、四天王が佇む戦場が、目と鼻の先にあるということだ。
 歩くたびに薄くなっていく影が、緊張感を張り巡らせていく。
 暑さによってか、はたまた緊張によってか。流れ落ちる汗の量が段々と増えていく。

 一歩、また一歩と戦場に近づき。
 光がさす元――四天王が居る場所への入り口を、四人は潜った。






〜☆〜



 残る人数、四百人。
 親衛隊の一人を倒し、ラルドは心置きなく電撃が使えるようになった。それはつまり、封じていた英雄の本領が発揮されるという事だ。
 触れるだけで体の芯まで痺れる電撃を全方位に放ち、雷が落ちたような等々力が洞窟内に響き渡り、岩をも砕く一撃が直撃する。

 “解放”という未知の能力を使用したラルドは、タイプ相性を無視できるという力を持つ。それによって、バクーダなどの地面タイプも周りと同じ様に電撃がそのまま一撃必殺へと変化する。
 一人で三百三人ものポケモンをなぎ倒した英雄――エメラルドは、翡翠色のオーラを身に纏いながら、大量の汗を撒き散らし、近づく者も近づかない者も全て電撃で焼き払っていた。

「っ、“ディスチャージ”ィッ!!」

 だが、限界はある。
 解放使用から、既に二十五分が経過している。幾ら英雄と呼ばれ、並みのポケモンなら一撃で倒せるほどの力を持ったラルドでも、限界というものがくれば戦闘能力はがくん、と落ちてしまう。
 滝のように流れ出る汗もそのためだ。体の節々が錆びた機械のように動かなくなり、電気袋は過度の負荷でボロボロになっている。

 だが、やめない。

「“暴雷”!!」

 暴れ狂う双雷は下っ端三十名を一撃で戦闘不能にする。
 だが、普通の雷でこれほどの範囲全てをカバーできる訳では無い。その分、電気を増やしているだけだ。
 となれば当然、電気消費も激しくなる一方だ。ピーピーマックスで何とかなっているが、今にも切れそうだ。

「後、三百五十人……!!」

 既に半分にまで減った下っ端たち。それでもなお立ち向かってくる勇気は、悪の組織ながら目を見張るものがある。
 とはいえ敵は敵。手加減する事のない大放電で十七名を倒すと、次なる標的へと体を向ける。
 こんな所で立ち止まってはいられないのだ。苦しみも、痛みも、覚悟の上だ。

「五人で四天王と対峙なんて、負けを認めてるようなもんだ……!」

 あの三人の強さは、戦ったラルドがよく知っている。だからこそ、五人だけで戦わせてはならないとわかる。
 それに加えて今回の敵は最後の四天王だ。それも敵はラルドを罠にかけたことから、それ相応の力を持った者を用意しているはず。

「だから――俺の邪魔をする奴は、ぶっ倒す!」

 怒りと共に放たれた電撃は半径十メートルもの範囲を余さず焦がしつくし、下っ端五十四名を一撃で下す。
 ディスチャージに更に力をこめた、大規模放電だ。こめられた電力に見合う範囲と威力で、レイヴンの士気をも殺す。

「オイオイ……冗談じゃねぇぞ。四百人、もう倒されてんじゃねぇか!?」

「そうだねぇ。僕たち、ちょっと英雄の実力を履き違えたみたい」

 親衛隊はフルド相手に六人がかりでようやっと勝ったという事実から勝てる見込みもあると踏んでいたが、それは大きな間違いだ。
 ラルドの苦手なタイプはスピードタイプ。しかもフルドはパワーも兼ね備えていて、尚且つ謎の進化を遂げて全能力上昇と加速という新たな特性を得た。
 逆に言えば、そこまでしなければエンジェルは誰一人倒れることなくフルドを倒すことができていた、ということだ。
 しかも今現在七百人総出で相手しているのは英雄エメラルド。全解放を使用できなくとも、下っ端程度なら楽々倒せる。

「ちっ、これ以上好き勝手はさせねぇぞ! “火炎放射”!」

 砲口のような腕から放たれた火炎は、地面を焼き尽くし、翡翠のオーラを纏うラルドへと一直線に向かって進んで――、

「“メガトンパンチ”!」

 オーラによって保護されたラルドの右腕から繰り出されるメガトンパンチによって、地面を焦がした炎が呆気なく破壊、雲散される。
 空気中に消え去った炎エネルギーを、ブーバーンやムウマージはただ見る事しかできず、

「……化け物」

 ぽつり、そう呟いた。
 幾ら自慢の二千度もの炎ではなく、ただの足止め用の威力だとしても目の前の事実はあまりにも衝撃過ぎた。
 ピカチュウという種族でさえも、自身の能力を百%使用できたら化け物のような強さになるのか。ブーバーンとムウマージは、その事実に思わず後ずさってしまう。

 しかし、そんなことをラルドが読み取れるはずがない。焦りに満ちた表情からは、焦燥感しか見て取れない。
 目の前の二人も片付けておこうと、既に自らの強すぎる電気で傷つきすぎた電気袋から“雷”を放出し――そこで、動きが止まった。

「……あ?」

「……ぎ、が」

 一瞬前まで膨大な雷を生み出していたラルドは、突如動きを止めるとその身から放出していた雷を跡形もなく消し去った。
 否、消し去ったのではない――消えてしまったのだ。

「し、ま……った」

 体がさび付いたように動かなくなり、痛みで意識は飛ぶ寸前だ。
 この症状に、ラルドは覚えがある。解放の長時間使用による過度の肉体疲労だ。
 解放は身体能力完全解放の恩恵を授ける能力だが、なにもデメリットがない訳では無い。十分以上使用すれば体は痛み、三十分以上使用すれば体には耐えがたい激痛が走り、一時間が経てば肉体が限界を覚えて自動解除してしまう。

 それが何故、三十分しか経過していない今になって――、

「……まさか」

 困惑するラルドだが、すぐに答えにたどり着く。
 解放の自動解除は、肉体が無意識のうちにやってしまうことだ。そしてそのトリガーを引く要因となるものは、“肉体の限界”――
 つまりラルドは、焦るばかり自らの体を省みずに暴れまわった。それが解放解除を早める原因になってしまった。

「っ……あ」

 震える足は、自身の体重を支える事すら出来ず、ラルドの膝はカクンといとも容易く曲がると、尻餅をついてしまう。
 すると今度は座る事すらできなくなってきたのか、自然と体は横になる。
 体力も、限界に近い。

「……あぁ? なんだ、寝転びやがったぞ。オイ」

「なんのつもりなんですかね。まさか、舐めているんじゃないんですか?」

「……ふざけてんなら、あの体に一発ぶち込んでやる……あんまり俺たちを舐めてんじゃねぇぞ、英雄!!」

 怒号は反響し、ラルドの耳にも届く。直後向けられた砲口が、今では死の恐怖を感じさせて仕方がない。
 恐怖し恐怖し、それでも動かない。今まで一騎当千の強さを誇ってきたラルドだったが、体が動かなければその強さも形無しだ。

「喰らえ、“オーバーヒート”……ッ!」

 発射口が光り輝き、岩をも溶かす炎を見せる。
 ブーバーンの体はほんのり白く光り、ムウマージが離れてもなお熱そうに体を揺らすほどに、周りの温度も上昇する。

 ブーバーンという種族は、二千度を越す炎を発射する際、体がほんのりと白く光るという体質を持っている。
 ということは、今ブーバーンが放とうとしているのは二千度もの炎。それも、弱っているラルドにとってはオーバーキルすぎる一撃だ。

「……く、そ……!」

 悔しさに歯軋りをする力さえ、今のラルドには残っていない。
 迫り来る、炎が当たるまで時間という形で知らされる死へのカウントダウン。それだけでも絶望がそこまで迫っていると認識するには十分だが、ブーバーンは炎を限界まで溜めているのか、更に時間がかかっている。

「は、ぁ……う」

 荒い呼吸は止まることなく続き、熱気が喉を焼く。
 比較的が冷たい地面が唯一の味方とも思えた、次の瞬間。

「俺様の炎、特と味わえ! 英雄ゥ!!」

 全てを溶かす紅蓮の炎が、ブーバーンの右腕から発射される。
 ブーバーンからラルドまでの距離、およそ五メートル。生物の身長としては高いが、距離としては短い。
 そんな距離を燃え盛る炎が埋め尽くすのに、そこまでの時間は必要ない。
 時間にして三秒。ラルドの目の前にまで迫った炎は、圧倒的なまでの熱というラルドへの死の宣告を告げる。

 ラルドを焼き尽くすまで、必要な時間は一秒といったところか。
 二千度もの炎を前に、ラルドは諦めて目を閉じ、





 ――諦めるなという声より速く、マッハ二の速さで到達した衝撃波が炎を跡形もなく消し去った。





次回「それぞれの戦い」

ものずき ( 2014/05/10(土) 21:56 )