ポケモン不思議のダンジョン空の探検隊 エンジェル〜黒と白の12の翼〜







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第六章 レイヴン
第六十六話 火山に潜む者達
 遂に始まったレイヴン討伐計画。不安と緊張を胸に、十五名の探検隊たちは“人魂火山”へと足を運び――?






〜☆〜



 ――一体、何時間こうして馬車の中で寝ていただろうか。

 レイヴンの本拠地へと向かう途中だ。昨日のように走るなど、疲れを余計ためるだけだと、フィリアから止められている。
 フィリアからの命令ということは、つまりヒイロもそれに従うというわけだ。結果、首筋に鋭い切れ味を持つ剣を向けられ、眠ろうにも寝返りで一歩間違えれば死の危険が待ち構えているので眠れない。

 そうして、出発から早二時間――再び電気エンジン全開のゼブライカ車に揺られ、ラルドはこみ上げる嘔吐感を必死に抑えていた。

「お、おぅえ……」

 反省していたはずだった。
 今回も乗るのはゼブライカ車と聞かされ、前回のことを踏まえて、きちんと反省していたはずだった。

 が、反省しただけで、注意はしていなかった。
 気付けばシルガとの喧嘩で電撃を放ち、そのうちの二つが、見事に前のゼブライカ二人に直撃。特性電気エンジンの恩恵を受け、地獄の速さがラルドを襲っていた。

「お願い、馬車、止めて……」

「やぁーよ。面倒くさいもの」

「別に、速ければそれはそれでいいじゃないか」

「よくないの、俺が本当によくないの……!」

 嘔吐感を飲み込んでいるが、時間の問題だ。
 地面を転がりながら嘔吐したあの時よりは醜態ではないだろうが、それでも吐くというのは醜い行為だとラルドの中ではされている。

「絶対おかしい。俺たち、先陣切るとか言ってたプリルよりも先に着いちゃうぞ。プリルが涙目で俺たちを非難してくるかもしれな、おえっ」

「……急に吐こうとするな、オゲロン」

「そのネタいつまで引き摺るんだよ! ……うぇ」

 ラルドお得意の突っ込みも、やはり馬車の中では効果も半減。どれだけラルドが強かろうと、嘔吐感は抑えるので精一杯なのだ。

「というか、珍しいわね。こんな馬鹿鼠が見れるってのに、ミルは何にも言わないなんて」

「えっ、え!? あ、うん! 馬鹿鼠だね!」

「人権侵害だね!」

「えっ、あ、ごめん!」

 ミルにしては珍しくあたふたと、それも弄られが理由ではなく、単純に突然の話題に混乱しているのだろう。
 しかし、そんなことが今まで一度でもあったのかもしれないが、それでもミルにしては珍しいといわざるを得ない。

 慌ててラルドのフォローに移るミル。そんなミルをフィリアとレインは訝しげな目で見るも、ミルも年頃。何か悩みがあるのだろうと、追求せずに放っておいた。

「……」

「ヒイロも珍しいね。君も、ラルドを弄っていそうなんだけど」

「あ、あァ。はっ、俺も遂に子供にゃァ感けてられねェ大人になったってェことよォ。フィリアも、俺の大人の魅力にほれてもいいんだぜェ?」

「遠慮しておくよ」

「酷ェ!」

 フィリアの即答に、ヒイロは嘆き叫ぶ。
 ――だが、フィリアはその姿を見て、思った。

「……なーんか、おかしいな」

 ラルドに謝り続けるミルと、思い出したかのようにフィリアへと求愛を示すヒイロ。
 二人の行動は、どこかおかしかった。
 例えば、ミルの場合。

「お、おいミル。そんなに謝らなくてもいいんだぞ? 別に怒ってないから、な?」

「御免なさい! 御免なさい! 生まれてきて御免なさい!」

「ラルド、あんた……」

「なんで俺が非難されるの!? どっちかといえばミルの方ってあぁ! 謝んなくていいから!」

 と、普段ならば軽く謝罪している所を、今日に限って、土下座までして謝っている。その謝罪も、フィリアからでも分かるほどに一生懸命で、それでいて中身の篭っていない謝り方だった。シルガならば、「謝意なき謝罪は必要ない」と一言で以って一蹴していただろう。

 そして、ヒイロの場合。

「あァ、疲れたァ」

「そうかい? なんなら、肩でも揉んであげようか?」

「たの……あ、フィリアはいいんだァ! 座って休んでてくれよォ!!」

「でも、今から始まるのは大事な大事なレイヴンの掃討作戦だ。疲労が残っているなら、僕に任せて――」

「い、いいんだよォ!!」

 大声を張り上げ、フィリアを強引に座らせるヒイロ。
 強引で、尚且つ荒いその行動は、とてもではないが普段ヒイロがフィリアに接している態度、そして行動とは思えなかった。

 事実、ラルドもレインも、シルガでさえもヒイロの行動に目を丸くし、驚愕の表情を浮かべている。

「……ふむ」

 フィリアは一連の行動を頭の中で整理し、結論を導き出した。

「二人とも、どこか……いつもと様子が違うね? ミル、ヒイロ?」

「「!?」」

 フィリアの一言で、二人の動きが止まる。
 頭を下げて謝り続けていたミルの口はストップし、ヒイロも焦りを隠すようにしていた剣の手入れをピタッと止め、心なしか震えているようにも見える。

「君達、やはりどこかがおかしい。対決前だからこそ言うけど、なにかあったのかな?」

「……い、いや? なにも?」

「俺ァ、フィリアにはなにも隠してないぜェ……?」

「本当に? 嘘だったら僕、眠らせてから口の中に爆裂の種を入れるけど?」

「怖いこといわないでよ!」

「ほ、本当だからうやめてくれェ!」

 フィリアがいった行動を予想したのか、ミルとヒイロは青褪めながら否定する。
 しかし、それをそのまま素直に信じるフィリアではない。行動の裏に隠された僅かな違いから、二人の異常を確認し――、

「……その異常が分からないから意味ないか」

 静かに呟いた。








 ――それから一時間が過ぎ。
 黒煙と熱気に空気が汚れ揺れ、絶賛活動中の火山ダンジョン――名称、“人魂火山”がラルド達を迎え入れた。




〜☆〜




 噴火している訳では無いが、その圧倒的な迫力と大きさは、それだけでどこかラルド達を圧倒する物があった。
 といっても、それで回れ右して帰る訳にもいかない。このダンジョンには、レイヴンというエンジェルにとっては最低最悪の組織がいるのだから。
 
「でも、それほど危なっかしい場所でもなさそうね。火山って言うから、もっとバンバン噴火してるの予想してたんだけど」

「活動中の火山とはいえ、頻度が高い訳でも無い。でも噴火の危険性などを考慮して、誰も寄り付かないようなダンジョン。だからこそ、レイヴンもここを選んだんじゃないかな?」

「じゃあ、どうやって噴火したときの溶岩を防いでるんだよ」

「さぁ? それこそ例の基地消失のように、一時的に安全な場所へと移動させてるんじゃないかな?」

「ならば早急に行動するぞ。敵が見張っていないわけがない。影滝島の時はどうにかなったが、今度もそう上手く行くとは思えん」

 シルガの言うことは尤もな意見だ。影滝島の時は広範囲に渡る電磁波、“電磁周波”のお陰でどうにかなったが、ここは火山。隠れる場所が多いのは向こうだって同じだ。
 それも影滝島のように建物などの影に隠れるだけではなく、道の凸凹にだって隠れられる。

「じゃ、もう一度お浚いだ。連盟長が言っていたことは覚えてるよね?」

「当たり前だ」

「確か、撹乱役のチャームズやフィアーレが見張りをひきつけている間、プリルが攻撃して混乱を招く。招けなくても、その後は変わらず三人一組になって行動――だったか?」

「もうちょっと慎重になるべきじゃない? って思うんだけど、その辺どうなの?」

「僕もそう思ったけど、でも最低限のことはしている。それに敵の基地や四天王が逃げ出さないように、この作戦では第一に速さが鍵となってくるんだ」

「だからこそのあのウインディやアブソルといった四足歩行ポケモンの選抜だ。加えて、ここは火山。炎ポケモンが多いであろうことが考慮される。そこであのマフォクシーだ。奴に勝てるレイヴンの下っ端や親衛隊は居ない」

「そう。……ま、ぶち壊させてもらうけどね」

 そういって、フィリアは火山を見る。
 この作戦の要となるのは、間違いなく撹乱役とウィンだ。敵を撹乱して総数を減らし、ウィンが敵の主力である四天王を見つけ、プリルとエンジェルが倒す。
 
 が、エンジェルは予想外に早く着いてしまった。どこかに身を隠すにしても、隠れるにも発見の危険が付きまとい、合流にも危険が存在する。
 ならば、エンジェルのみで突撃すればいい。

「どういう訳かは知らないけど、敵は僕たちを狙っている。正確に言うならラルドだけど、そんな目標が自分たちの縄張りに来てくれるんだ。始末する選択肢こそあれど、逃げる選択肢は一切ないよね」

「ま、普通はそうだよな」

 フィリアの考えに、ラルドは否定する事もなく頷く。
 実際、フィリアの意見は尤もだ。加えて、敵も今までの戦いから四天王などといった例外を除き、基本エンジェルが残酷非道なまでに止めを刺すという行為はしない、ということが分かっているはずだ。
 となれば自然、退却という選択肢が残されているレイヴンには、始末という選択肢が優先されるはず。

 考え、ここらでヒイロのフィリア称賛でもあるのだろうと、ラルドは耳を傾け――いつまで経っても聞こえない賛美の声に、首を傾げた。

「……」

「……? おい、ヒイロ。お前が愛するフィリア様のご丁寧な説明だぞ?」

「えっ、お、おォ。な、なんだァ?」

 ラルドの問いに、ヒイロは狼狽する。普段ならばフィリアの魅力を一から千まで一晩中語り続けそうな勢いで喋るであろうヒイロの口は、疑問と誤魔化しの為にしか動いていなかった。

「あのな、今、フィリアが話をしてたんだよ。分かる?」

「お、おォ。分かるぜェ。すっげェ分かる。要するにフィリアは賢いってこったろォ?」

「こんなときにいつもの調子発揮すんなよ……ま、お前がなに考えてるのかは知らないけど、それで倒されるとかはなしだぞ」

「ったりめェだろォ? 俺ァ、テメェよりかァ強ェからなァ」

「本当かぁ? 案外、簡単に負けたりしてな。なぁ、ミル?」

「えっ、うん! そうだね! 簡単だよね!」

「よォし、ちィっと歯ァ食い縛れェ。ぶん殴ってやるゥ!」

「えぇ!?」

 憤怒の表情に、ミルは驚いて尻餅をついてしまう。
 右の拳を左の拳で掴んでクラッキングをする。それだけで並大抵の者ならば恐怖で体が震えるだろう。事実、並大抵以下のミルは体を震わせ頭隠して尻隠さず状態になっていた。
 それを見たヒイロは、深く息を吐くと、

「尻ぺんぺん、だなァ!」

「うぎゃぁー!!!」

 片手だけでも腕力を鍛え上げた者と同等に剣を振れるヒイロの腕力は、解放と自身のエネルギーを外で形成、それを再び飲み込み体を無理矢理活性化させる火飲みと合わせれば、“電気活性≪アクティベーション≫改”状態のラルドを軽く越す。

 それが解放も火飲みもしていないとはいえ、思い切り振り下ろされればどうなるか。

「や、やめ――ッ!?」

 直後、乾いた音が辺りに響き渡り。

 甲高い悲鳴が、火山の空気を揺らした。





 ――人魂火山一階。
 そこには数多の炎ポケモンや、マグマが所々に存在している。
 レインの初手水の波動で牽制とある程度のダメージを稼ぐと、後は五人のうちの誰かが追撃、倒すという攻略法だ。
 ただ、フィリアでは追撃の威力が若干心許ないため、比較的強い技になってしまう。が、今から向かうのはレイヴンのアジト。それでは駄目だ。

「だからってさ、お前だけ休むのは筋違いだと思うんだけど」

「違ってないね」

「ラルドも、いい加減諦めなよ。フィリアじゃタイプ相性が悪いんだから」

「み、ミルがそれっぽいこと言ってる……!? レイン、救急車! 脳を解剖だ!」

「死んじゃうわよ」

「私に対する侮辱だ!」

 いつものように戻ったミルに、ラルドはようやくこれだ、という感覚が戻ってくる。
 いつものエンジェル。いつもの関係。緊張感も丁度よくほぐされ、探検もいつものように潤滑に進んでいる。

「あ、“水の波動”!」

「ギャッ!?」

 レインは何かに気付き、通路の方向へ水の波動を打ち出す。
 それは的確に炎タイプポケモンの“ヘルガー”の顔に直撃。一瞬の混乱を招くと同時、ラルドの“十万ボルト”によって倒される。

「よし……それにしても、このダンジョンの敵はそこまで強くないな」

「ま、難関ダンジョンでもないし、どちらかというと実力を付け始めた探検隊たちが挑んで実力を確かめるようなダンジョンだからね」

「レインくらいの人達が苦戦するレベルってことだよね!」

「ミルが毒舌だなんて!」

「諦めろ。あいつはもう、俺たちの手の届かない所へ行ってしまったんだ……」

「馬鹿か」

 ふざける二人を、シルガが一刀両断。
 エンジェルは今、全体的に緊張感が足りなさ過ぎる。それでもシルガが周囲の情報キャッチをそれほど行っていないのは、やはりこのダンジョンの敵が弱くもなければ強くもない、中程度の力量だからだ。

「でも、なんでレイヴンはこんなダンジョンに基地を作ったのかな? もっと強いダンジョンの方がいいんじゃない?」

「それはここが最適な場所だからだよ。中程度だから強い探検隊はほぼ絶対と言っていいほど来ないし、火山地帯に態々遊びに行ったりする人なんて居ないし、その時点でもうここに来るのはほぼ誰も居ない」

「それに確か、ここってあれだろ? ダンジョンと自然が混ざってるんだったっけか? だから丁度いいんだろ」

「そうだね。ま、それも今日でお仕舞いさ。レイヴンは十五名の探検隊に壊滅させられるんだよ」

「油断はするな。いつ何時も、一瞬たりとも気を抜くな」

「固いけど、それも事実だからな。ま、シルガに頼らせてもらうぜ。探知役はお前だ」

 先行して歩くシルガの肩を、ラルドはぽん、と叩く。
 軽く言っているが、シルガの探知能力は本物だ。波動に限らず、僅かな物音や気配で察知したりと、人間をやめている節がある。実際、人間をやめてポケモンをやっているが。

「ま、確かにシルガがいなかったら、私たち今頃どうなってたか分からないもんね」

「流石に死んだりとかはなかっただろうけど、大ダメージ食らうとかはありそうだよな」

「私、多分不意打ちで倒されちゃうよ!」

「お前らは……はぁ」

 気軽に言う三人に、シルガは額に手を置き溜息をつく。
 確かにシルガは自身の探知能力を優れた物だと自覚しているが、それに頼りきるようではエンジェルは進化しない。
 この場合の進化は、ポケモンの進化ではない。探検隊としての進化だ。

「お前たちは一度、俺抜きで難関ダンジョンを踏破してみろ。……そうだな。ゼロの島はどうだ? 難関ダンジョンの最たる例だぞ」

「中央ならまだしも、北とかになってくると無理だな」

「私、中央でも無理だと思うよ!」

「断言しなくても……って、また敵が来たわよ」

 レインの声に、ヒイロを除く全員の顔が正面を向く。
 通路から現れるは、橙色を基調とした体色を持ち、体の側面には丸い的のような水色の輪がある。
 背中にはコブがあり、熱気で空気が揺らいでいる。コブの中に高熱のなにかがあることを証明している。

 体内にマグマを宿す、炎と地面タイプのポケモン――火山ポケモンのバクーダだ。

「あらやだ。バクーダってハードロック持ちじゃない。水の波動で牽制しても意味ないじゃないの」

「んじゃ、高威力技で一気に倒すか」

「……じゃ、私倒す!」

 バクーダの特性“ハードロック”は、効果抜群の技に限り、受けたダメージを半減するというものだ。
 それは当然水の波動にも効果が及び、牽制というレインの役割を完全に殺している。
 ならば威力の高い技で一揆に片をつければいいだけの話なのだが――意外にも、ミルがその役を買って出た。

「お、おい。いいのか?」

「まさか、ミルが……!?」

「二人とも、驚きすぎだよ! 私だってやるときはやるんだから!」

「どうでもいいけど、敵さんは待っていてはくれないよ。ほら」

「グオォ!!」

 血走った目でこちらをにらみつけるバクーダは、口に炎を生成する。
 “火炎放射”と呼ばれるその技は、溶岩によって熱気が篭る部屋に更なる熱気を呼び込み、発射される。
 まともに見るだけでも目が焼かれてしまいそうな炎を、ミルはじっと見つめる。そして炎がミルに直撃する瞬間、“守る”で作り出された緑色の壁が、迫り来る炎を完璧にシャットダウンする。

 驚愕に見開かれるバクーダの目。それを瞬時に察知したミルは、口元に光を束ね、やがて一つの球体――“シャインボール”へと昇華させると、バクーダへ向けて放った。
 ミルの適応力によって威力が二倍になったシャインボールは、バクーダに寸分狂わず命中。ハードロックの効果範囲外の攻撃なので半減もされず、一撃で倒れる。

「よし……やったよ!」

「やるじゃないの」

「こう見えてもレインよりは強いからね!」

「ま、そりゃそうだ。なんたって、いっしょにディアルガ倒したからな!」

「うわぁ、正論だけど腹立つ。ミルのおやつ食べちゃうわよ?」

「や、やめてぇ!」

 ふふん、と胸を張るミルに、レインはおやつ横取りという酷い脅しでミルを涙目にする。
 もちろん、それはミルを怖がらせて涙目にするための脅しだ。決して本当に食べる訳では無い。

「あーあ。これからレイヴンと戦うって思ったら、やっぱり素直に探検を面白がれないよな。早く壊滅させたい」

「といっても、返り討ちにされる危険性もある。十分に気をつけるべきだ」

「分かってるよ」

 とはいえ、レイヴンの下っ端たちではラルド達には勝てない。親衛隊と言っていたコークでさえレインとフィリアに、片方にはタイプ相性で有利だったのに負けていたのだ。そこまで深く考える必要は、四天王以外ではない。

「……お、階段だ」

「気をつけなさいよ。次、六階よ」

「ああ、確か六階だったっけ。チャームズが基地を発見したのって」

 六階へ上がり、チャームズは自然の火山に到達。そこでレイヴンの基地を見つけたらしい。

「それにしても、どうやってレイヴンの基地だって分かったんだろうな」

「念力で察知できるような人がいるチームだから、まぁなんかやったんじゃないの」

「そのなにかを聞いてるんだよ?」

「ああ見えて、レイヴンも旗か何かを持っているのかもしれないよ。自分たちがレイヴンだと報せるためにね」

「なんのためにだよ」

「自分たちはレイヴンなんだから、もし旗を見られてもそのまま乗り込んできたりはしないだろうと見越しての事だね。実際、こうして作戦を立てて来てるじゃないか」

「俺たちがぶち壊したけどな」

 電気エンジン全開のゼブライカの速度は、ぶっちぎりの一位で人魂火山に到着するほどだ。一時間も走ると、ミルでさえプリルたちの姿が見えなくなっていたのだ。

「本当、影滝島の時みたく、すでに気付かれるとかはなしにしてくれよ……?」

 ダンジョンの出口である階段の一段を踏みしめ、ラルドはそう願い――、





 ――階段を抜けると、そこには赤で染められた建物が立ち並んでいた。




〜☆〜




 迂闊だった。
 チャームズが六階に上がり、探索した結果レイヴンの基地だと分かったというのは、基地から離れた場所から探索をスタートしたからだ。

 しかし、ダンジョンの出口は階層こそ同一であれど、場所は同一でない。
 それは基本中の基本であり、同時、入るたびに地形が変わるダンジョンでは忘れられがちなことだった。

 そしてそれは、探検暦半年の大型新米探検隊である“エンジェル”にも言えることで。

「ちょ、ちょちょ、ここってまさか……!?」

「基地のど真ん中、じゃなくても、基地内部だろうね」

 流石に影滝島の廃墟のようには崩れていないが、それでも人が普通に住めるかと言われれば、即座に首を横に振る。そんな建物が、数十軒は見られる。
 
「し、シルガ。波動で探知。急げ!」

「大声を出すな。……周囲に十名。そのまた周囲に四十名――ここを取り囲むようにいる」

「え、俺たちバレてるの!?」

「いや、そうとは限らないよ。例えば見張りはここを守るために、包囲してるとか……ね」

「そんな馬鹿な。な、ミル?」

「う、うん。そんな展開はないと思うよ。それにそんな重要な場所だったら、外の見張りと連絡できる人が常に見張ってると思うし……」

「あ」

 ミルのこんなときだけ回る頭は、一つのフラグを立てた。
 古来より、フラグというものは人の予想を超える数の的中率を誇ってきた。
 予知夢などという不可思議現象も、フラグとして捉えることもできる。

 つまり、なにがいいたいかというと。

「……チュ?」

「で、デデンネ?」

 フラグというのものは、時に最悪の事態を招き起こす。

「こんな所に電気タイプのポケモンってのも珍しいな……なんというか、俺に似てる」

「ピカチュウに似てるって言いなさいよ」

「……ヂュー?」

 少し低い鳴き声をあげながら、こちらへ小走りでやってくるデデンネ。
 エンジェル全員の、正確に言えば俯いていて顔が分からなかったヒイロを除いた全員の顔を見ると、頬のアンテナにような髭をぴくぴく、と動かす。
 小動物のような可愛さに、ミルは近づこうと足を伸ばす。

 ――ここで一つ、デデンネの生態を勉強しておこう。
 デデンネの長い髭はアンテナの役割をしていて、電波を受信する事で仲間同士の意思疎通が可能になる。しかも電気タイプというカテゴリーに収まっているなら、誰とでもできるという。

 そんなデデンネが電波を放出、受信するとき、髭は痙攣するように動くという。
 とどのつまりが、

「――侵入者発見。十分後、全戦力をこちらへ移動させてください」

「え゛」

 レイヴン基地侵入から三十秒。
 エンジェルは呆気なく発見されたのであった。





次回「乱戦スクランブル」

ものずき ( 2014/05/03(土) 16:35 )