第六十五話 肥えた鴉
中央都市に存在する探検隊連盟本部。そこへ呼ばれたエンジェルは、緊急招集の衝撃の事実を聞かされ――?
〜☆〜
「れ、レイヴン!?」
グレンの言葉に、思わずラルドは叫んでしまう。が、仕方ないことだ。
ラルドにとって――否、エンジェルにとって、レイヴンとはそれほど大きく、そして厄介な存在だ。
行く先々で、まるでエンジェルの先回りをしているかのように出没し、或いはとある島に支部を作ったりと、調査の依頼が出る事から、連盟の中でもその存在は大きいのだろう、とは思っていた。
だが、まさか緊急招集にまで至るとは、全くの予想外だ。野球で、ストレートかと思ったら魔球だったくらい、予想外だ。
しかし、それをしらないほかの探検家たちからすれば、何だこいつと思われても仕方ない。実際、奇妙なものを見る目で見つめられたラルドは、急いで椅子に座る。
「ふむ。まぁ気にする事はない。君の反応は想定の範囲内だ――最近、巷で噂と称したが、その厄介さは連盟も頭を悩ませている。ジュエルを盗み、何人かの優秀な探検家を襲ったりと、その危険度は今やランク八にまで及んでいる」
「はちぃ!?」
再び、ラルドは叫ぶ。
フィレアの依頼の時は、まだ七――ウルトラランク級の探検家なら、楽々とこなせるか少し手こずる程度の幅のレベルだったはずだ。
だが、それが八ともなれば、九には及ばない物の厄介度はそれに近い。
「本来ならば、緊急招集とはランク九の中でも大物、若しくはランク十のみ発動可能だが、レイヴンの将来世界に及ぼす危険度を考慮し、緊急招集を開いた」
「成るほど。私たちが呼ばれたのは、そのためですの」
「そーなの?」
「ったりめぇだ。グレンさんの言う事は神の言う事も同然だぜ」
「成るほど。レイヴン……肥大化した組織を潰すために我輩を呼んだというわけか。納得した。確かに神速の異名を持つ我輩ならば、百万光年よりも早くレイヴンなど壊滅させられる」
「ねぇメイリー。光年は距離の単位だって、教えてあげたほうがいいのかな?」
「別に一般的なことでもありませんし、勘違いしたとしても無理はありません。ここはノータッチで」
それぞれの反応をする探検家たち。
しかしレイヴンをしらないものは一人たりともいないことから、如何にレイヴンが有名かが分かる。
「そう、レイヴンは排除すべき存在だ。だからこそ、我々はその存在を潰さなければならない。そのため、諸君らが呼ばれた」
「……ですが、そのためには少々足りません事? 十分に準備をし、加えて言うならばレイダースやレイチェルといった強力な探検隊もメンバーに加入させるべきかと」
「いや、チャンスは今しかない。レイダースもレイチェルも、今は遠方に出払っている……そうだな。諸君らは信じられないかもしれないが、一つ話をしよう」
グレンは息を吐き、ラルドの目を見る。
岩をも切り裂くのではと思わせるほど、鋭き眼光は、自然とラルドの体を強張らせる。
「エンジェルの諸君らは知っていると思うが、影滝島にてレイヴンの支部が発見された。そして、エンジェルがそれを見事壊滅。残った証拠を探そうと、すぐさま別の探検隊を派遣したのだが」
そこまで言って、息を吐く。溜息だ。
何故今、と思い、その理由はすぐさまラルド達に知らされる。
「――消えていた。滝の裏に隠されていた基地ごと消え、エンジェルが潜入した基地はただの洞穴へと変貌していた」
「……なっ!?」
全員が、驚愕の表情を浮かべた。
「隅々まで捜索した結果、君が壊したという壁は見つかった。だがしかし、基地はなくなっていた。……何故だかわかるか?」
――基地の消失。
消え去った基地の証拠は、ほぼ消え去っていたらしい。ラルドが潜入した図書館のような空間すら消え去り、ただの空洞が残っていただけだった。
突然、そのようなことが起こった理由を証明する手立てはない。しかし、岩壁の状態や洞窟を調べていくうちに、状況証拠から一つの推測が立てられた。
「空間跳躍。つまり“テレポート”ということだが……それが行われた可能性が高い」
「しかし待ってください。私もサーナイトという種族だからこそ、テレポートをそんな広範囲に、しかも正確に行う事は不可能だと知っています。それは何かの間違いでは?」
「いいや、間違いない。岩壁は整備されたように凹凸がなくなり、且つあそこまえ綺麗になくなっているとすれば、それしか考えられまい」
相反する二つの意見。
メイリーはエスパータイプの、それも非常事態に陥ると超重力の渦を作り出せるほどのサイコパワーを持つ種族だけに、その技術の不可能を提唱した。
だが、状況を見ればテレポートは確実ということは間違いがないと、科学者たちが口をそろえて言っているとグレンも反論する。
事実と事実がぶつかり合い、謎はより深まっていく。
だが一つ。ただ一つだけ言ううとするならば、
「分かっただろう? 敵は何かしらの力を使い、基地を転移させた。そして、それはいつでも逃げられるという事だ」
「だからこそ、今しか叩く時はないということでござるな」
「でもさ、敵さんにはこの作戦ばれてないんでしょ? なら別にレディアちゃんの言うとおり、準備してもいいんじゃないかな?」
「無駄だと思いますよ。なにせ――連盟に所属するうちの凡そ七百人は、レイヴンと密接な関係にありますから」
「……裏切り者がいるのは知っていたが、七百人とは些か信じがたい数字だな。それは真か?」
「敵の幹部からの情報なので、ほぼ間違いないかと」
フィリアが捕まったレインと、同じく単純なミスで捕まったミルを助けるために態と捕まったとき、折角だから手土産にとフィレアを誘導して聞き出した情報だ。
探検隊連盟約千名。具体的に言えば、千五十九名の探検家のうち、七割がレイヴンと繋がっている。
約七百人が繋がっているとすれば、それはいつか情報漏洩へと繋がっていくだろう。
「成るほど、理解した。これは一刻も早く、敵陣へと乗り込む必要があるな」
「ですが場所は? 場所が分からなければ、乗り込めないかと」
ロフィがグレンへと質問をする。
その意見は至極まともなものだ。確かに、場所が分からなければ、そもそも乗り込むということができない。
「それに関しては抜かりはない。今回の目的達成のためにはこなさなければならない問題の一つだった。……チャームズ」
「は」
グレンが呼ぶと、メイリーが前へ出る。
丁度、メイリーが座っていた椅子とグレンの位置の真ん中辺りまで来ると、片膝をつき頭を下げて、口を開いた。
「我々チャームズは先日の探検にて、レイヴンの本拠地を発見する事に、無事に成功しました」
「そ、それは真でござるか!?」
「はい。我々は連盟長からの指示通り、最近噂のホラースポット。『人魂火山』にて、レイヴンの本拠地を発見しました」
「だが、それは真実か? 虚飾に塗れた偽りの事実ではないだろうな?」
「んっと、つまり囮じゃないのー? ってことだよ」
「それはないかと。きちんと私の念力で察知した所、百名近いポケモンがその周辺を見回っておりました」
百名――影滝島にいたポケモンの総勢も、たしかそのくらいだったはずだと、ラルドは自分の記憶を探る。
だが、メイリーが察知したのは本拠地全てのポケモンではないだろう。そうと分かれば自然、それよりも多い数の見張りや親衛隊――あのアーボックやマグカルゴと同じような存在がいるのだろう。
そして、
「そうとなれば、自然と最後の一人がいるってことになるか」
「ま、そうなんじゃない?」
「えぇ、私、もうあんな強い人たちとは戦えないよー」
「……参考までに、その強い人とやらを教えてくださりませんこと?」
エンジェル内で四天王の事について話していると、レディアが不機嫌そうに問いかけてくる。
周りの探検家たちもこちらを見ている事から、少なからず興味を抱いているのだろう。敵の情報をこの中で最も知りえているのだ。当然、情報を提供する義務のようなものも存在する。
「ああ、分かった。……実はレイヴンの中にも、かなり強い奴がいてさ」
「それは誰かなぁ?」
「四天王と呼ばれる奴らだ。グレイシアを初めとして、俺たちが戦ってきたのはそいつを含めたファイヤーとバシャーモ」
「ほう? 聞き捨てならんな。ファイヤーといえば、不死鳥伝説、もしくは火の鳥伝説に出てくる、伝説のポケモンではないか」
「はっ、んなモンどうでもいいぜ。災い察知できる俺からすりゃぁ、ファイヤーなんざ俺が見てきた中でも中堅程度の伝説だしな」
「その口ぶりだと、伝説のポケモンを何度か見た事があるようでござるな?」
「ったりめぇよ。俺は災いを察知できるからな。つまり災いと判断されるほどの伝説ポケモン、例えばルギアとかは見た事あんのさ。ま、そこの英雄君の話してた、ディアルガとかそういうのは見た事ねぇけどな」
ロフィの種族、アブソルとは災いを察知する事に長けている。
それはつまり、災いと判断されるレベルのポケモンの存在を察知する事もできるというわけだ。
流石に異空間に存在する時限の塔に住むディアルガの存在は無理だろうが、ルギア、伝説の鳥ポケモンくらいならば見たこともあるのだ。
「実際、俺たちも倒してるからな。ま、参考程度に訊いてくれればそれで――」
「――いや、一つ言い忘れていることがあるぞ」
ラルドが軽く、四天王についての話題を終わらせようとした時。
シルガが横から、音もなくラルドよりも前へ出たかと思うと、話題ストップをストップした。
「おい、なんだよ。別にもう語ることはほとんどないだろ?」
「何を言っている。大有りだ。……ここにいる、プリル以外の全員。良く聞け」
いつもどおり、淡々とした口調で話し、全員を見渡すシルガ。
疑問の念を瞳に宿す全員を見ると、シルガは静かに吐息を漏らし、言った。
「貴様ら全員、慢心もいい加減にしろ」
「え、ちょ!?」
突然、高圧的な態度で説教を始めたシルガ。
いきなりすぎて対応もできず、何とか口を塞ごうと手をシルガの口へと動かすが、軽くいなされて転がる。
「先程から貴様らの波動を読んでやっていたが、慢心を抱くのも、度が過ぎれば馬鹿だ。そこの四人の探検家たちは特にな」
「……あら」
「あぁ!?」
「俺たちが全力を振り絞り、やっと勝てたような存在が四人だ。貴様ら一人では、相性がよくても勝てないだろう」
「言わせておけば……小僧、我輩は神速を完全に扱いこなす、時代の申し子。故に、貴様の態度は少しばかり癪にさわる」
「図星だからこその故に、だろう? ――もう一度言おう。貴様ら全員、温すぎると」
そう、言い切ったシルガ。だがその瞳に反省や後悔の色はなく、寧ろ清々したとでも言わんばかりに息を吐いた。
シルガをにらんでいた四人も、赤い、闇夜に浮かぶ野獣のような目をしたシルガの、絶対零度の冷徹な刃のような眼光に、或いは図星を指されたからか何も言わなかった。
シルガの気迫は本物だ。食料の入手すら困難な未来世界で生き抜いただけあって、この中で誰よりも死という概念と近かった。
だからこそ言える事実だ。
連盟長室は無言に包まれ、再び静寂が部屋を支配する。
誰も何も言わない。否、いえない。
何を言えばいいのか分からず、なにを言うべきなのか分からない。
そのまま時間が過ぎようとする中、拍手の音が、その静寂を打ち破った。
「いやぁ。あれだね。とぉっても、勉強になったよ」
「……プリル」
拍手の主は、プリルだった。
この状況の中、変わることなく笑みを浮かべるプリルの翡翠色の瞳は、直後に細く閉じられると、
「みんな心配だね? 僕も、エンジェルよりも強いかもしれない敵と戦うのは手こずっちゃうけど、でも心配しないで!」
穢れのない、純粋な笑顔で言った。
「――ぼぉくぅが! 先陣きって進むから!」
その言葉は、絶対安心の激励になりえた。
〜☆〜
あの後。
グレンは作戦の詳しい内容は当日――明日に伝えると、早々に探検家たちを用意してあった部屋へと案内させた。もちろん、その役は連盟所属メイドの二人だ。
ラルド達は二階の一番端の一室にて、なにを話すわけでもなく、ぼーっとしていた。
「……なぁ、みんな」
「なによ」
「明日、レイヴンを壊滅させに行くわけだけど……今回のメンバー、個性的すぎじゃないか?」
「それは私も思った! いきなり炎を撃つ人もいきなり解放する人も居て信じられないくらい吃驚したよ!」
「さりげなく俺を批判するミルの批判スキルの高さには正直傷つく」
さりげない毒舌に、ラルドの強化ガラス製のハートは容易く砕け散った。
床でへのへのもへじを書いていじけているラルドを無視して、ミルはバッグから取り出した林檎を咀嚼し、飲み込む。
少し早いおやつタイムの始まりだ。
「最近、みんなの俺に対する敬意とか、そういうのが少ない気がするんだけど」
「はなからないもの強請っても意味ないでしょうに」
「そういって俺が酷いって言うのもなんだか多くなってきた気がするのは気のせい?」
「気のせいじゃないね」
フィリアの一刀両断は、砕け散ったガラスのハートを粉塵へと変えた。
「くそ、お前ら本当に人の心を持ってるのか!?」
「レインやシルガや君はともかく、僕らポケモンだからね」
「テメェらたァ、元がちげェんだよ」
「糞ヒイロめ! ……こうなったら未来組で、華やかにぱーっと騒ごうぜ!」
「勝手に仲間にするな」
「私、本読んでるから邪魔しないでくれる?」
「そして誰もいなくなった!」
消え去った味方。この中で仲間と呼べる存在は、自分ひとりのみ。
そんな漫画を作ったら面白いのではと脱線する思考は、いつも通りの通常運行だった。
「……ねぇ、今何時?」
「家を出たのが十一時。中央都市に着いたのが十三時。そこからここまでで、一時間半はかかってるから、二時半っていったところだろうね」
「二時半かぁー……私、後六時間半も待てないよ」
「なーにが六時間半なんだよ。ナマケロよりも怠けてる癖して」
「! べ、別になんでもないよ!?」
慌てて否定するところがまた怪しいのだが、本人が言いたくない事だ。無理に追求する必要もないと、そうかと言ってラルドは天井を見上げる。
白い煉瓦で作られた天井は、いつ落ちてこないかと冷や冷やしそうだったが、そこら辺は最近噂のドテッコツ建設という凄腕の建築家たちによって作られたものだから安心できるとフィリアは言っていた。
見る限りでは何で接着しているのかは分からないが、ダンジョンには建築に使える素材が落ちていると聞いたことがある。加えて、その建築家はさぞかし腕が立つのだろう。くっ付いている場所がどこなのか、ぱっと見ただけでは分からない。
そんなことを思いながら、ラルドもミルのように早めのおやつを食す。
林檎の味としか形容のできないラルドの少ない語彙だが、美味しいという単語だけで大抵の感想はいける。実際、林檎は美味しい物だ。
それでもただ一つ、不満があるとすれば。
「本当、暇だなぁ」
溜息交じりで、そう言ったのであった。
〜☆〜
――皆が就寝し、月明かりが夜空を照らす夜の九時。
無駄に騒いで疲れて、早々に寝たエンジェルだった。
が、何故か眠れない。尻尾の炎も通常時と同じ様に燃えており、それが自身の眠気が少ないという事を表していた。
「あァ……暇だ」
今ならば、馬鹿鼠が言った事も理解ができそうだ。
心の中でそう笑っていると、ふと足を止める。
「……なんだァ?」
曲がり角の向こうから、声が聞こえた。
この先はテラスとなっていて、連盟本部の裏側のみだが、中央都市を見る事もできる。
ヒイロも、暇を紛らわそうとそこへ向かっていたのだが、なにやら高い声が聞こえる。それも、聞き覚えがある声が二つ。
「――私は――」
「――でも――」
片方は、聞き馴染んでいる声。もう片方は、覚えがあるだけでそれほど馴染み深い声ではない。
だが、声の主の正体などどうでもいい。
テラスで口論をしているのなら、無理に行く必要もない。何かに巻き込まれるのは御免だと、静かに踵を返した。
「……外で剣でも振っとくかァ」
眠ろうにも、眠くなければ眠れない。
明日に備えて休まなければならないのはわかるが、眠れないのだ。仕方ない。と、自分に言い聞かせる。
早速外へ出ようと、石畳の廊下を歩く。静かなこともあって、踏んだときのわずかな音でさえ反響する。
二つの剣があることを確かめつつ、一歩、また一歩と石畳の上を歩いていく。
「……」
窓から入る月の光が、ヒイロを照らす。
かと思えばまた暗闇に姿が隠れ、と続く。
静寂に満ちた夜に、ヒイロの尻尾に灯る炎の音だけが聞こえ、暗闇を照らしている。しかし完全に照らしている訳では無い。
「っとォ、もう階段かァ」
色々と考え事をしているうちに、どうやら階段に着いてしまっていたらしい。
思考に没頭しすぎだったと、ヒイロは頭を振る。特に意味はないが、そうした。
「さてとォ、どこでやろうか――」
「――何を、だ?」
動きが止まる。
どこで剣を振るか、その思考が完全にストップし、ただ自分の傍にいる声の主――グレン・ラリュートへと、意識を集中させていた。
「……テメェ、なんでここにいやがる」
「私がいては駄目か? ……それにしても、見なくても私だと分かるとは。随分と父親好きな子だ」
「っざけんじゃねェぞォ。なんで、声をかけたか訊いてんだァ」
「それにしては質問の意味が違うな。……ふむ、なぜかと言われれば、それは仕事が終わって我が子に声をかけたくなったと言う所だ」
「縁を切った野郎が、なにほざいてやがる」
「縁を切ったとはいえ、それは一時的なものだ。お前が嫌いになってやった訳では無い。……時に、お前は探検隊が好きか?」
「……俺が何でエンジェルにいるか、じゃねェのかァ?」
「フィリアさんがいるからな。理由は分かる。さ、楽しいかどうか言いなさい」
縁を切っても親、ということなのだろう。息子のことを聞きたがる姿は、どう見ても連盟の長という立場を忘れさせられる。
だがヒイロは舌打ちを一つすると、素っ気無く返した。
「楽しいこたァ楽しいなァ。せまっ苦しい家で雑魚共と鍛錬するよりかァ、よっぽど強くならァ」
「……そうか。楽しいか」
笑みを零すグレン。
息子が楽しくやっていると聞いて、素っ気無かろうとも嬉しくはなる。それが自分のやっている探険と来れば、親心が擽られるのも無理はない。
――だが、直後にヒイロを見つめていた温かい目は、冷たい物へと変わる。
「だが、期限は十六歳までだ。それを過ぎれば、お前は王にならねばならん」
「正確にゃァ候補だろうがァ。……ま、理解はしてらァ。俺も、約束を破るような、不誠実な野郎に育てられちゃァいねェからなァ」
「……そうか」
窓から入ってくる月明かりに照らされた二人の姿は、たしかに親子という物を感じられて。
グレンが見せた笑みは、どこか悲しげだった。
〜☆〜
――翌日の九時。
既に選ばれた探検隊、ハニービを除いた十五名は準備を終えて、連盟長室にいた。
演台に肘をついて指を組むグレンを、十五人の探検隊は静かに見つめる。出発の合図が出るまで、じっと。
それを見たグレンは、最終確認とでも言わんばかりに十五名を右から左へ見ていくと、組んだ指を解き、すぅっと息を吸うと、
「緊急招集の目的。“レイヴン”の討伐を開始する――肥えた鴉の翼を、諸君らの手でもぎ取れ!!」
――レイヴン討伐作戦が、遂に始まった。
次回「火山に潜む者達」