ポケモン不思議のダンジョン空の探検隊 エンジェル〜黒と白の12の翼〜







小説トップ
第六章 レイヴン
第六十四話 緊急召集の意味
 探検隊連盟本部へと足を運んだエンジェル。緊張を胸に、階段を上り終えた先にいた者は――?






〜☆〜



 ――一目見た瞬間の感想は、青と赤の何かだった。
 ラルドよりは確実に小さい二人は、頬にそれぞれ赤いプラスと青いマイナスの印があって、耳も三分の二以上が青と赤に染まっていた。

 それを見て、ラルドは一瞬硬直する。流石に、目の前にいきなりポケモンがいるとは考えなかったからだ。
 しかし、冷静になれば種族もわかる。

「えっと……たしか」

「はい! ワタクシ、プラスルのプランと申します!」

「そしてワタクシ、マイナンのマインと申します!」

 ラルドが言うより先に、二人組みは自身の種族名と名前を大声で喋る。
 見た限り、筋肉もそれほどついていないので、少なくとも探検隊ではないだろう。

「ああ、よろしく。……で、俺は」

「どうも、プラマイさんたち。僕はフィリア・レヴェリハートです……覚えているかな?」

「もちろんですともフィリア様!」

「ワタクシたちがフィリア様を忘れるはずがありません! 例え星が滅んだとしても! そしてあなたも!」

「え、あ、うん?」

 マイナン――マインと名乗ったポケモンは、やや興奮気味で、更に大声で言い放ちながら、指でラルドをさす。

「あなた様はもしかしなくとも、英雄エメラルド様ですよね? ああ、言わなくとも分かります。今指を差したことに対する謝罪を求めているのでしょう? すいません、ワタクシ、あなた様のファンでして……数々の非礼、ご迷惑を」

「ちょっと待って! 数々も糞もかに味噌もないから! 謝んなくていいから!」

「ほう、どうやらエメラルド様はワタクシたちを許してくれるそうです、プラン」

「別にぼ……ワタクシは怒らせていません」

「あはは、君たちは面白いねぇ」

「待って。いや待ってって何回言ったか覚えられないけど、ちょっと待って」

 いきなりのことに、ラルドも動揺を隠し切れない。
 階段を上った先には、プランとマインと名乗るプラスルマイナンコンビが、さも当たり前のようにして自分を迎えた――纏めると、こうだ。

「ラルドー、なんか五月蝿いけどなにかあったの?」

「あぁ!! あなた様はもしかしなくとも、英雄の付き人様!」

「ミルフィーア――」

「ああぁ!! 言わなくていい、言わなくていいからぁ!! そう、私がミルです!」

「……? なんだ、騒々しい」

「耳がいいってのもメンドくさいわね」

「どうせェ、プラマイコンビが騒いでるだけだろォ」

 慌ててマインの口を塞ぐミルに続いて、シルガ、レイン、ヒイロ、と次々に階段を上り終え、二階へと足を踏み入れる。
 冷静にあたりを見終えた未来組二人の感想は、一階と大差がない、だった。

「いやいや、まさか世界を救った人々とこうして会えるとは……実に光栄です!」

「ワタクシも光栄です!」

「お、おぉ……?」

 曇りないどころか、若干光っているのではないかと勘ぐるほどに純粋な瞳と尊敬に、ラルドも後退してしまう。
 その理由の大部分は、単純に今まで受けた事のないまっすぐな尊敬のむず痒さによるもの、だ。
 それは後ろのエンジェルメンバー――より詳しく言うと、ミルとフィリアも同じだった。表情に出ないシルガと直接的にはあまり関与していないと思っているレインも、喜んではいた。
 ほぼ無関係のヒイロはつまらなそうに欠伸をした。

「ワタクシたちよりと同じ歳の、それもフィリアお嬢様を加えたチームが世界を救う! 神からワタクシ達に、この者を尊敬せよというお告げが下ったも同然です!」

「同然ではないよな。俺確かにファン欲しいけど、同然じゃないよな」

「あなた様を表す言葉は、正に神がふさわしい! その神々しいお姿といったら、なんとおっしゃればよいのか……まさか、神様の血が流れているのでは!?」

「!」

「そんな今思いついたような褒め言葉……おいレイン、なんで笑ってんだ」

「お、思い出しわら……いよ」

「焦ってた!? ねぇ、今焦って笑いとめた!?」

 体を揺さぶって問いかけるも、レインは顔をうつむかせたまま上げようとしない。
 その内、ラルドは揺さぶるのをやめた――もちろん、それで終わりではない。

「人権侵害だ! 法的手段も辞さないぞ!」

「罵倒されたからといって、訴えられる世界じゃないよ」

「裁判長!」

 フィリアの鋭い突っ込みに、ラルドも思わず突っ込みを入れる。
 言葉の刃はときに人の心を引き裂く。それが分からぬと申すか――聞こえもしない心の声だが。

「……ねぇ、馬鹿鼠」

「いい加減、お前らはリーダーの尊さを理解しろ。……で?」

「ここ入り口。目的は召集」

「……ほう!」

 すっかり忘れていた事実に、ラルドは驚愕の声を上げた。

「忘れていたよ! やったね俺、信頼がゼロになるよ!」

「いや、向こうもここまで早く来るとは思ってないから、多少話してもいいと思うけど」

「え、そうなの? まさか最初っから気付いて!?」

「気付くも何も、ね」

「忘れっぽいね、ラルドは! 子供だね!」

「くそ、今に見てろ……優越感に浸れる今がお前の最後の勝利だ……!」

「どうでもいいが、さっさといくぞ」

 ラルドの脳内から矢継ぎ早に口から繰り出される中身のない言葉を無視して、シルガは先へと進む。
 忘れてはいけない。ラルド達がいるのは、階段を昇りきって直そこだ。つまり、階段を使用する者にとっては迷惑なことこの上ない。

「……そういえば、冷静になってふと気になったんだけどさ、お二人さん」

「はい?」

「フィリアと親しいけど、なんでなのか教えてくれるか?」

「……ふふ、分かりました。こちらも気になるワードがありますので、とりあえず歩きながら話しましょうか」

 プランとマインは笑顔を浮かべて歩き出す。その背中を追いかけて、フィリアも歩き出す。
 それを見て、ラルドは目的を忘れていたという羞恥に顔を染めないように堪えながら、後ろの三人を連れて一歩を踏み出した。




〜☆〜




 フィリア・レヴェリハートは元ニートである。
 十一歳からニートを始め、十四歳からニート脱却を決意して家出した、たった三年間しかニートをやっていない、プロからすればにわかだ。

 しかし、子供のうちからそれはない。外を怖がって出れないや、そもそも親が箱入り娘にしてました、ならともかくとして、彼女には家の書庫にある無限ともいえる本があり、そのほとんど全てから得た知識を総合すれば彼女は大人にも引けをとらない精神と頭脳を持っていた。

 もちろん、その中にはニートというものを悪しとする書物もあった――しかし、それでもフィリアはニートになった。
 外が怖かった訳では無い。寧ろ、未知が多く存在する『外』には好感を持っていた。
 それでも出なかった。

 そんな娘に、親はもちろん悩む。それに加えてフィリアの家は一番を目指すほどの貴族だ。娘がニートということは周りから馬鹿にされる要因にもなりえた。
 だからこそ力を入れてニート脱却をさせようとしたものの、一向によくならない。

 そんな時に生まれた、名案と言える策が――同年代のメイドを使って、悩みを解消するという物だった。

「――結果、私達は家に縛られたフィリア様の家出をお手伝いしたのです。といっても、お荷物を纏めただけですが」

「あの時のフィリア様は凄かったとしか言いようがありません。世界を舞台にした鬼ごっこなどと言えるほどの器の持ち主です。きっと、将来は世界をまたにかけるお人になるのでしょう」

「おっとべた褒め。……まぁでも、これに関しては分からんでもないからなぁ」

 フィリアの頭脳は確かに同世代の子供より抜きん出ている。
 メタグロスやフーディンなどといった元から人知を超えた頭脳の持ち主には程遠いが、それでも重宝される存在だ。
 事実、エンジェルもフィリアの頭脳には何度も助けてもらっている。小さなことは一日のうちに何度も、大きなことといえばフィレア戦やレジギガス戦だろうか。

「はい……時に、お聞きしたいのですが」

「なになに? なんでも聞いていいよ!」

「お前には聞いてないだろ」

 どう考えても話しているラルドにといけていたが――視力がいいと、頭は反比例に悪くなっていくのだろうか。
 因みに、シルガはまっすぐに前を歩き、レインは床の素材に興味を持ち、ヒイロは欠伸をしながら歩いている。

「召集、とはなんでしょうか? ワタクシ、ここではそれなりに高い地位にいるのですが、聞いても居ません」

「メイドなのに?」

「メイドだからです。しかし、あなた様方は有名ですが子供。英雄という名目もありますし、あまり扱き使うような仕事は回さないという話だったはずですが……」

「――ならば、扱き使うような仕事ではないという事だろう」

 ふと足を止めたシルガが、静かに口を動かした。
 その言葉は、なるほどその通りだとラルドも、ミルですら納得できた。

「貴様ら二人は知らないだろうが、俺たちが呼ばれたのはただの召集ではなく『緊急招集』。つまりそれほど重大で、且つ早急にこなしたい用事があるということだ」

「確かに……というか俺たちって扱き使えないの? 信頼ないの?」

「話を聞いてなかったの?」

「自分も理解してないくせに威張るな!」

「……はぁ。逆だよ、逆。成した功績の質が高すぎるからこそ、下手に扱き使えない」

 フィリアは溜息とともに口を開き、続ける。

「そりゃ、皆があこがれるヒーローが扱き使われている姿を見れば、誰でも幻滅するよね。つまりはそういうことさ」

「なるほどオーケー。三行でオーケー」

「これでも理解できなかったのかい……!?」

 なるべく自分としては短く纏めたつもりだけど、とフィリアが言おうとして、とめる。
 なぜなら、目の前にはちんぷんかんぷんという言葉を顔に描いてるかのように解かり易く、ミルが頭を傾げて悩んでいるからだ。

「……僕たち尊敬されてる。英雄イメージあるから下っ端みたいな扱いできない。なので下手な依頼も出せない。オーケー?」

「分かった!」

 満面の笑みで答えるミル。これで理解できなかったら、ラルドは多少なりとも引いていただろう。フィリアの短く、それでいて解かり易い三行説明はとてもじゃないがラルドにはまねできそうになかった、といいたいたが、真似はできそうだ。

「それにしても緊急招集、ですか」

「ワタクシ達も聞いたことはありますが、体験した事はありませんね。……ですが、心当たりはありましたね」

「心当たり?」

「はい。最近、有名な探検隊が本部に来る頻度が増えたのです。チャームズやレイダース、そしてついさっき、かのギルドマスターランク探検隊、“プリル・クリム”様も、連盟長にお逢いしたいと、ここへ」

「あ、やっぱり来てたのか」

 そもそもラルド達を絶対に連れてこいとペルーに命令したのはプリルだ。手紙にもエンジェルが来るようにと書いてあった。

 が、それではエンジェルを絶対に連れてこいとプリルが言う証拠にはならない。もしかしたら連盟の命令は絶対で、逆らえば命はない――などといった場合ならば適切だが、そういうわけでもなし。

「ホント、何が目的なのかしらね。戦闘系なら私、戦力外だとおもうけど」

「そんなことはない。お前には、狡賢さと盾としての有用性と荷物運び、三つの役割が存在している」

「雑用じゃない! しかも盾ってなに!」

「ら、ラルド……思い返せば、私が本当の盾要員な気がしてきたよ……!?」

「あ、安心しろ! 守る以外でもお前は役に立ってるって! ほら、ばかげた視力で敵の動きを観察して弱点を探るとか!」

「役に立ったことは?」

「一ヶ月に数回あれば奇跡……はっ」

 見事な誘導尋問。つい本音を喋ってしまったラルドは、ミルの心に百のダメージを与えた。

「酷いよ! ラルドは普段から私のことを盾としか思ってたかったんだね!」

「確定!? いやちょっと待て。最高のパートナーというのに偽りはないぞ!」

「パートナーって言ったって、都合よく盾にできるから煽ててるだけなんでしょ!」

「ひねくれすぎだろ、その考え」

 ネガティブも度が過ぎるとこうなるかと、ラルドは心に刻んでおいた。
 因みに、ミルに関しては放っておけばその内静かになるので大丈夫だ。

「……しかし緊急招集ですか。ならば進むべき道はそのままですね」

「あ、そうそう。俺たちの目的も聞いてないのに、一体どこに向かってんだろうな、って思ってたんだけど。どこに向かってるんだ?」

「連盟長室です」

「げェっ、連盟長いんじゃねェかァ」

「そうですね。いますね。いなければいけませんからね」

「……連盟長?」

 突然の新ワードに、思わずラルドの足が止まる。
 字面だけ見れば連盟のトップなのかと思うのが普通だろうが、そもそもラルドは探検隊連盟という組織の仕組みを完全に理解していない。
 もしかしたらなにか予想を裏切るものがあるではと、ラルドはフィリアに問う。

「連盟長って、字面どおりに受け取ればいいのか?」

「当たらずとも遠からず。そもそも君は連盟という言葉の意味を知っているかい?」

「馬鹿にするなよ。確か……あれだろ? 協力する事」

「ま、簡単に言えばそうだけど、ちょっと詳しく言えば『共通の目的の為に同一の行動をすることを誓ってできた団体』って意味さ。探検隊連盟でいえば、探検隊のルールを決めるための連盟という訳だ」

 少し戸惑ったが、ラルドはなんとか納得する。

 要は目的へ向けて手を取り合い、それが大きくなってできた団体。その目的が『探検隊のルールを決める、もしくは手助けをすること』になっているのが探検隊連盟といえる。
 目的を細分化すればキリがないが、大体はこれだろうとフィリアは話を続ける。

 そうして手を取り合って――しかし、それだけではやはりどこかで歯車がずれ、連盟の崩壊を招く事になる。
 王がいなければ国が成り立たないように、トップがいなければ組織は成り立たない。少なくとも、当初の連盟はその状態だったらしい。

「だからこそ、トップができた。この場合はリーダーシップがあるもの――つまり連盟の誓いを立てた探検隊のリーダー同士で一番を決めて、一番となった者がリーダーとなったのさ」

「以来、連盟は安定を手に入れました。それは救助隊連盟も、わくわく冒険協会も同じです。……わくわく冒険協会の方は、実質的リーダーが名実ともにリーダーになっただけ、と聞きましたが」

「一番ってどうやって決めたのか、そこんとこ詳しく」

「さぁ? 議論だったり戦闘だったり、後は上に立つ能力だね。探検隊でトップだからって長になれるとは限らない。もし探検隊トップイコール連盟長なら、プリルが連盟長やってなきゃおかしいよ」

「長ったらしい説明どうも」

 フィリアと補足説明をしてくれたプランのお陰で、ラルドも大体は理解できた。
 つまり、長がいるから組織は成り立ち、安定は手に入り、最強はプリル。
 最後だけおかしい気もするが事実だ。仕方がないと、ラルドは誰に言うでもなく、心の中で言い訳をしておいた。

 それから、数分歩いて――、

「皆さん。着きましたよ」

「ここが連盟長室です」

 プランとマインが、まるで一人が喋っているのではないかと聞いているだけだと錯覚してしまいそうなほど、流れるようなリズムで報せる。
 簡素な木の扉の上に連盟長室と書かれたプレートがかけてあるだけだが、どこか圧倒されるような威圧感が、扉から漏れ出している。
 そんな気が、幻だろうがしたのだ。

「……内装って、どうなってるの?」

「内装が無いそうですよ!」

「ギャグはいいから寒いから」

「ふふっ……ですがワタクシからはなにも。自分で見て感じた物が事実です。……と、フィリア様が言ってらっしゃったのを思い出しました」

「プラン!」

「すいません」

 親が子を見るような、そんな笑みを浮かべつつ、プランはフィリアに軽く謝罪をする。

「ですが、今言った事は本当です。……それと、入るならば背筋を伸ばして礼儀正しく入るのがよろしいかと」

「え? あ、うん。分かってるよ」

 連盟長室ということは、当然ながら連盟長もいるのだろう。
 そんな場所へ猫背で面倒くさそうに入っていけば、もれなく礼儀知らずの世間知らずというレッテルが貼られ、ラルドの信頼は失墜、地に落ちてしまうだろう。

「俺、そんな礼儀知らずの田舎者じゃないぜ」

「考えた方によっては一歳児にもなってない君が? よく言うね」

「ち、知識とかあるから……一歳じゃなくて十四歳だから……!」

「どうでもいいけど、さっさと入りなさいよ」

 冷静なレインの言葉に、ラルドはフィリアから目を背けて扉へと向けると、深く、呼吸をする。
 過度の緊張感は解れ、適度な物へと変わる。手をドアへと伸ばすと、ゆっくりと開けて――、

「――来たか」

 奥のポケモンが、そうつぶやくと同時。
 椅子に座った、十人ものポケモンが、こちらを向いた。




〜☆〜




「では、無事に全員揃った所で、始めようか」

 演台に両肘をつき、指を口の前で組む。
 恐らくは連盟長と思われるポケモン――背に大剣を携えたリザードンが、鋭い眼光を十名の探検隊へ向ける。
 会議テーブルに、狭すぎず広すぎず、無駄ない間隔でおかれた椅子の上に座る十六人の探検隊も、同様に視線を向ける。
 刺すような威圧感を合図に、緊急招集の本題が開始され――、

「ちょ、ちょっと待ってくれ……ください!」

「ほう。なんだね、英雄エメラルドくん」

「いや……俺、いや僕は……この場にいる探検隊をあまり詳しく知りません」

「ふむ……知っているのは何名だ?」

「プリル・クリムと……後は」

 ラルドはロボットのようにぎこちない態度で横を見る。視界に入ったのは、こちらを見る女性三人。
 “チャームズ”の三人だった。

「チャームズの三人です」

「なるほど。確か、チャームズの三人は数週間前にプクリンのギルドへと赴いていたな。その時か?」

「はい。それと、『番人の洞窟』をエンジェルとともに攻略しました」

「初耳だが、報告を聞く時間を作らなかったのはこちらのミスだ。チャームズの三人には帰って来て直に仕事をこなしてもらった。この依頼をこなした後で、ゆっくりと報告を聞かせてもらうことにしよう」

「はい」

 それだけ聞くと、連盟長はラルドの眼をじっと見つめる。
 ラルドも、それを強く見る。なにか試しているのか、はたまた別の意図があるのか。

「……そうだな。君は子供だ。探検隊にも、知らない者たちがいるのも無理はない」

「は、はい」

「そう堅くなるな。……しかし名を知らぬという事は今回の依頼において、致命的だ。ということで、ここはまず自己紹介と行こうか……まずは、私からだな」

 強者の風格を漂わせる、戦士という言葉がこの上なく似合うリザードンは、ゆっくりと立ち上がると、重々しく口を開けた。

「私の名前は“グレン・ラリュート”。既に探検隊は引退し、今は連盟の長を務めている……すまんな、自己紹介は苦手なんだ」

「いやぁ、別にいいんじゃないかなぁ? 必要なことは言ったじゃないか。ねぇ?」

「……チッ」

 誰に対しても変わる事のないプリルの態度に感心するラルド。しかし、実績を考えれば当然だった。
 それよりも気になったのは、ラルドの隣で舌打ちをしたヒイロ――より詳しく言えば、そのヒイロを好奇に満ちた目で見るプリルだ。

「ねぇ、ラルド」

「なんだよ。私語は慎めとお母さんから習わなかったのか?」

「違うけど……ラリュートって、ヒイロの苗字だよね」

「なにを当たり前まえ前田さんなことを……ん?」

 今、連盟長が名乗った苗字もラリュート。ヒイロの苗字もラリュート。
 この事実が示すことは――親族、というわけで。

「えぇッ!? まさか、この馬鹿と親子なの!? いやなんですか!?」

 びっくり仰天。今日日聞かない例えだが、今のラルドを表すにはピッタリだった。
 雰囲気は似ていないが、種族、顔立ち、そして剣。似通っているところが多い。
 それに加えて、ヒイロの舌打ちとプリルの好奇心のみがこもった視線。それらが意味するのは、一つしかたどり着けない。

「そう驚くことではない。そこの馬鹿と私は、確かに血縁関係にある。しかし現在、そいつが一人前になるまでは縁を切るという約束だ。故に、今現在その答えには当たらずとも遠からず、としか答える事ができないな」

「な、長ったらしい説明をありがとうございます。……しまった!」

「別に気にしては居ない。確かに敬語という物は必要だが、この場では気にしなくてもよい。私が許す」

「そ、そうなんですか、そうですか……」

「ああ。では、次はプリル・クリムだ。頼むぞ」

「任せといて!」

「プリル殿。少しはラルド殿を見習ったほうがよいのでは……」

「別に敬語使ってもいいんだけど、それだと皆のほうが違和感ありまくりになるでしょ? という訳で、プリル・クリムだよー!」

 プリルの隣に座っていた、赤色が主な体色のポケモンであるハッサム――ラルドの見覚えがある、恐らくはブレドだと思われるポケモンから注意されようともプリルはその態度を崩す事がない。
 それはたんに敬語が面倒くさいからなのか、それとも場の雰囲気を和ませようとしてくれているのか。正直な所は不明だ。

「では次」

「は、では拙者が。……拙者は“ブレド・インセクト”と申す。二十年の長い眠りから覚め、今ではシークレットランク特別隊員として……」

「うおっほん! ……次、頼む」

 連盟長――グレンは言ってはいけない部分をかき消すようにわざとらしく咳きをすると、次の自己紹介へと強制的に移らせる。
 ブレドはまだ言い足りなさそうだったが、渋々と席につく。

(ってか、ブレドいたのかよ)

 チャームズとプリルの存在感は凄まじいものがあるので、直に分かった。方向性に違いはあれど、強烈なものには違いない。
 しかし、ブレドがいるとは予想外だった。考えてみればシークレットランクという、プリルでさえ知らないランクに位置する探検家なのだ。

「じゃあ、次は私の番ね」

「カロス」

「分かってるわよ。……私の名前はカロス・テーションです。以後、お見知りおきを」

「……」

「べ、別に気に障るようなのじゃなかったからいいじゃない……」

 無言でにらむメイリーに、小声でか弱い反論をしつつ、椅子に座る。
 その後のチャームズ二人の自己紹介も淡々とした物だった。
 ラルドがギルドで見たハイテンションぶりは影を潜めていて、間違っても「よろしくてよ!」なんて言いそうにもなかった。

 そしてメイリー、ニンファが終わり、次なる自己紹介は――ラルドの知らない、五人の探検家たちへと移った。

「では、ワタクシが」

 声を上げたのは、狐という言葉がロコンやキュウコン以上に似合う、耳に赤い炎に似た毛を生やし、ローブのような下半身からはスレンダーな黒い足が見える、狐の魔女という言葉が真っ先に脳内で作り上げられるポケモン――マフォクシーと呼ばれる炎、エスパータイプのポケモンだった。

「ワタクシの名前は“レディア・グリモラ”。よろしくお願いしますわ」

 普通、なんとも普通な自己紹介だった。
 強いて言うならば、フィリア以上に女王やお姫様を連想させる言葉遣いが印象に残ったが、それだけだ。
 やはり探検隊の集まり、それでも緊急招集の意味が話されようとしている場だ。
 空気を読めないような自己紹介は、羞恥心を倍増させるだけだ。
 と、次のポケモンへ目を向けようとした瞬間だった。

「――なんて挨拶、ワタクシには似合いませんわね」

 不意に、熱気が頬を焼いた。
 気がつくと、レディア・グリモラと名乗るマフォクシーの女性は、ラルドへと木製の杖、のようなものを振りかざし――摂氏三千度もの炎を、念力で作り出し、発射した。

「はあぁ!!?」

 それは、触れれば比喩ではく、骨も残らず消し去るほどの熱量を持っていた。
 当然、同じピカチュウの中では高い身長のラルドとはいえ、全体から見れば小さなポケモンだ。触れて防ぐなど、とても考えられない。

 迫る炎熱。しかし、防ぐ術は一つしかない。
 それも周りの椅子や机が吹き飛ぶどころか、これほどまでの近距離ならばバラバラになってしまいそうだが、死ぬよりはマシだと割り切る。

「ッ、“解放”!」

 目測で五センチ。肌を焼くような感覚がラルドを襲った瞬間、ラルドから強力すぎるエネルギー波が解放される。
 全てを薙ぎ払うエネルギー波は、エンジェルのメンバーはもちろん、近くの探検家たちを全員吹き飛ばし――炎を消し去った。

 無事に炎が消えた事を確認すると、ラルドは解放を解いて、元凶であるレディアを睨む。

「お前……ヒイロでも直撃すりゃ死んでたぞ! なんだ、殺人か!? 跡形も残らず殺しますってのが煽り文句の殺し屋か!?」

「あら、面白いですわね。ですがそんなことより、見事ですわ。ワタクシの炎を真っ向から打ち破り、あろうことか二次災害も……」

「人聞き悪いからやめろ! ……というかグレンさん、だっけ? なんでこんな奴を呼んだんだよ! 連盟長って肩書きあるから事件はもみ消せますとでも言ったのか!?」

「すまん……私も驚いている」

 激怒するラルド、謝るグレン。しかしその怒りは正当で真っ当なものだ。
 いきなり殺されかけて、今度からは気をつけてくださいよ、なんてことを言えるのは狂人かしになれた人しかいない。

「レディア。お前の腕は買っている。だからこそ、この召集にも呼んだ。……だが忘れるなよ。私は、いつでもお前を八つ裂きにできる」

「分かっていますわ。ですが、世界規模で有名な英雄という者の実力を知りたいと思う好奇心、知識欲は、寧ろ当然のものだと思いますわよ?」

「その知識欲だかなんだかで殺されたらたまったもんじゃねーよ!」

 確かにラルドは一度この世界から姿を消したが、なにも死んだ訳では無いし、記憶も皆の中に残っていた。
 普通ならな最初からいなかったことになるんだろうが、それだとこの世界自体が成り立たない。パラドックス自体が歴史に織り込み済みだった、とシルガは言っていたが、そんな哲学の域に達する推察はともかくとして、

「次からは気をつけてくれよ。後、次もその次もそのまた次の人も!」

「分かっていますわ」

 ちょこんと、スカートのような何かの端を摘み、妖艶な笑みを浮かべつつ、頭を下げるレディア。その動作は、一つ一つが美しいといえた。
 そんな動作も殺されかけた憤怒の前ではたいした意味もなく、余計にふざけているのかと、ラルドの怒りを募らせただけだった。

「とりあえず、椅子に座りたければ座れ。今更元の位置に戻して再開するのも、時間がもったいない。では次」

「じゃ、仕切り直しって意味も兼て、私が行っちゃうよ!」

「……ッ!?」

 軽い、とても軽い声。
 声に軽いも糞もあるかと突っ込まれれば終わりだが、その特徴は軽い、例えるならば子供を預かる施設のお姉さん。そんなイメージがぴったり似合う声。
 後ろ、丁度ミルの席から小さな声が聞こえてきたが、それすらも直に忘れてしまう。

 手足や耳、尻尾に葉っぱが生えていて、全体的な体色はクリーム色。どこかほんわかとした雰囲気が、どこかの耳長兎と似ていた。

「どうも! リーフィアの“フィアーレ・レイチェル”です!」

 リーフィア――ますます耳長兎と似てきたと感じる、イーブイの進化系であるリーフィアと呼ばれる種族の、フィアーレ・レイチェルと名乗る彼女は、元気一杯の声で叫んだ。
 レイチェルとどこかで見たことがあるような苗字は、ラルドの斜め後ろで静かに立っていたフィリアの顔を、大きく歪ませた。

「レイチェルって……あの、探検一家のレイチェルですか?」

「そうだよー。物知りだね、あなた……フィリア・レヴェリハートちゃんだっけ? 皇女様がこんな所でなにしてるのかな?」

「ちょっと待って。本当に事態飲み込めない。え、なに。探検一家ってなに?」

「昔から名を轟かせてる探検家たちさ。その名の通り一家全員が探検家で、しかもほぼ全員が才能溢れる将来有望な子供たち。確か、その中から選ばれた四人組は代々“レイチェル”というチーム名で活動しているんだ」

「でもでも、私は性格的にも合わないし、実力もあんまりないからねー。二人合わせてあぶれ者なんだ!」

 笑顔でそう告げる顔には、どこか影が差していることもなく、ただただ事実を述べるようだった。

「一家総出で探検隊か……あれ、二人合わせて?」

「次、よろしくねー!」

 ラルドが、二人合わせて、とまるでもう一人がこの場にいるのかと思わせる発言に小首を傾げると、まるで慌てるようにしてフィアーレは次なる自己紹介へと注目をそらす。
 疑問に思ったラルドだが、人には聞かれたくないことがある。自分にも、きっとそんなことがあるはずだと、スルーする。

 そうして注目された先にいたのは、後ろ足は座り、前足は伸ばした状態の犬らしい座り方で居た、ウインディ――伝説ポケモンと呼ばれる種族だった。

「む? 我輩の自己紹介か?」

「そうですよー」

「仕方ない。聞かせてやろう! ……我輩の名は“ウィン・マグシム”! 神速の名を持ちし、時代の申し子よ!」

 高笑いをあげながらの上機嫌な、ハイテンションすぎる自己紹介を、犬座りのポーズでしている。それだけで失笑ものだが、ここで笑えば失礼な奴だと思われてしまう。ラルドの中に残る常識が、必死に笑いを抑えていた。

 だが、色々とさっきからの自己紹介を思い出してみるが、あまりにも個性的すぎやしないだろうかと、突っ込みを入れたくなってしまう。
 連盟長やプリル、チャームズやブレドはさも当然といった様子でたっているが、さすがにこれは予想していなかった。
 いきなり人を殺そうとする性悪狐魔女や、ほんわかドッグに中二犬。

 エンジェルにも個性的なメンバーは勢ぞろいだが、これにはラルドも驚いた。

「次」

 椅子と会議テーブルは吹き飛び、床はこげ、それどころかなくなっている箇所さえある。
 それでも冷静に淡々と自己紹介を促す連盟長は、相当急いでいるのか、それともこんな非日常が日常茶飯事なのか――考えたくもなかった。

「は、仰せのままに」

 そして目を開けた先には、頭を下げている“アブソル”と呼ばれているポケモンが、連盟長、即ちグレンへの忠誠心を隠す事もなく、自己紹介を続けていた。
 しかし、礼儀正しさをかもし出す雰囲気は、高そうな忠誠心以外はまともだということを表して――、

「テメェら、良く聞け! 俺様の名前は“ロフィ・ストロフ”! 聞けただけでも感謝しなぁ! ……これでいいですか、グレン様」

「満点どころか五十点だが、緊急事態だ。いたしかたあるまい」

 諦めたように溜息をつくグレンだが、ロフィと名乗るアブソルには空気の振動がどこかで間違ったのか褒め言葉に聞こえたらしい。更に頭を下げ、服従度は反比例して上がっているように思えた。

 流石に最後の一人くらいはまともだろうと、ラルドは顔を上げて、自己紹介を始めようとしているものの顔を見て、

「どうも! ワタクシ名前はハニービ・ベアイス! 考古学者でもあり、ジュエルを専門に研究を重ねている生粋のジュエルマニアでして」

「お前かよォ!!?」

 可愛らしい顔立ちのヒメグマから、止まるということを知らない口から流れ出す言葉は、ラルドの最後の望みを断ち切ったのであった。




〜☆〜




 その後、エンジェル全員の自己紹介も無事といえなくはないが終わり、再び鋭い威圧感に体を刺されるような錯覚が、全員を襲う。
 今までのお気楽ムードはどこへ行ったのか。ボロボロとなった連盟長室がなければ、ラルドは先程の惨劇を一瞬にして忘れていたかもしれない。

「さて、諸君らに集まってもらった真の理由。つまりは緊急招集の意味だが」

 グレンの刃のように鋭い目が、全員を見る。
 十人十色、様々な表情や仕草を見せる探検隊たちは、グレンの次の一言を待っている。

 ラルドは次に発せられるであろう言葉を何通りか想定し、咄嗟に声を漏らしてしまわないようにと気をつけ――、

「――巷で噂のレイヴン打倒。それが諸君らに課せられた使命だ」

「へぁ!?」

 呆気なく漏らしてしまった。





次回「肥えた鴉」

■筆者メッセージ
長くてつまらなくて詰め込みすぎな六十四話、どうだったでしょうか?
新キャラが一気に八人! しかも既存キャラとのつながりがありそうなキャラが四名と、流石に出しすぎですね。
早く、早くバトルシーンを書かせてくれ…!

次回「肥えた鴉」お楽しみに!
ものずき ( 2014/04/23(水) 20:13 )