第六十話 また
フィリアの作戦とラルドの頑張りによってレジギガスに最後の一撃を与えることに成功するが、果たして――?
〜☆〜
耳を劈く爆発音が、洞窟内に響く。
爆風によって吹き飛ばされたラルドは、強靭な足腰で何とか踏ん張って着地に成功すると、目の前の光景を見る。
強大なエネルギーを受けたレジギガスは、果たして倒れているか、それとも――?
「……倒れて、る」
煙が晴れ、見えたものは正しく倒れる巨人の姿だ。
エネルギーの直撃には耐え切ったのだろうが、直後の爆発には耐え切る事ができなかったのだろう。
大きな音と共に倒れると、あまりの重量に地面が罅割れる。どれだけ重いんだ、という突っ込みがラルドの心の中でされる。
唯一、目の前のことから分かるのは、
――勝利という二文字が、自分たちに微笑んだということだ。
「……い、よっしゃあぁ!」
「やった!」
「倒した……ね」
「長かったな」
「まさか、本当に倒しちゃうなんてね」
「疲れたァ」
手を上げ、跳躍しながら叫ぶラルド。そんなラルドと一緒に騒ぐミル。なんともお似合いな二人を見つつ、残る四人も勝利の感覚を味わう。
その横で、チャームズも勝利の達成感を味わっていた。
「やっと、終わったさねぇ」
「ええ。私も、最後にちゃんと活躍できたから満足よ」
「子供っぽいんですから……それにしても」
小さな笑みを浮かべながら、メイリーはエンジェルの方を見る。
ラルドとミルが騒ぎ、それをシルガが五月蝿いと一言。それに同意するレインに、ラルドが突っかかり、最終的にはフィリアの睡眠の種という凶器によって静まる。
「あの子達は、本当に強い……私達も、このままうかうかしている訳にはいきませんね」
「ええ、そうね。あの子達を見ていると本当に思うわ。……マスターランクっていっても、やっぱりこの程度なのね」
「でも、アタイは負ける気はしないよ。今回は相手があんな化け物だったから見せ場は少なかったけど、それでも一対一なら」
「私達の方が経験あるんだから、当然でしょ」
経験というのはそれだけ武器となるのは、常識中の常識だろう。
長い間戦ってくると、それなりに共通する癖を見つけることもできる。それに、歴戦の兵レベルになってくると、種族としての癖も熟知しているらしい。
マスターランクとはいえチャームズはまだ若い。そんなことを知っているはずがない。だが場数を踏んだという点においては、エンジェルを大きく上回っている。
「それにニンファ。大切なのは一人一人の実力だけじゃないわ。それは分かるでしょう?」
「当たり前ですよ。そんなこと、態々言わなくても分かっていますよ。ねぇ?」
「……あ、当たり前さね」
目線を右上に逸らし、掠れるような声で言ったニンファ。
人は嘘をつくときに目を右上へと寄せる癖があるそうだが、それはポケモンでも言えることらしい。そんなことを知るはずもないカロスとメイリーは、昔からの癖だという事でどっちにしろ見破っていた。
勝利にワイワイ盛り上がる全体を、ラルドは手を叩いて注目を寄せると、
「さて、と。探検は終わったし、帰ろうぜ!」
「うん! ……私、帰ったらご飯食べたーい。ヒイロ、なにか作ってー」
「はァ? なんで俺が何でンなこと」
「僕もお腹がすいたね。ヒイロ、よろしく頼むよ」
「しない訳にゃァいかねェなァ。フィリアのためなら、なんでも作るぜ!」
「お前黙れ! じゃ、転送――」
騒ぐヒイロを一喝すると、ラルドはリーダーの証でもあるリーダーバッジを掲げて、メンバー転送ボタンを――、
「そういえば、宝ってどうなったの?」
レインの一言により、その手がぴたっと止まる。
清々しい表情は一変して、顔は青ざめて汗が流れている。大きく開いた口は閉じようともせず、ただ動きが止まったままで小刻みに震えている。
つまるところが、忘れていたのだ。頭の中からすっぽりと、綺麗なまでに。
「……ぜ、全員! 宝探しに余力を尽くせ!」
「ラルド、いつもと口調変わってるよ?」
「人は誤魔化そうとすると、かえってそれっぽい口調になるものなんだよ」
「へー」
「納得するなぁ!!」
指して注意するラルドに、ミルが笑い、九人全員が笑う。
どうやら、探検はまだまだ終わりではないようだ。
――チャームズの面々は上の方を、フィリア、ヒイロ、シルガは下の方を、残るラルド、ミル、レインは中心周辺を主に探索する事になる。
「ねぇ、そっち見つかったー?」
「見つかったら言ってる」
「ラルド、なんか錆びてる剣があるんだけど」
「んなものは捨てろ……って、えぇ!?」
古びた剣といった、古代人らしき者達が使っていた武器といった物はある。
だがしかし、肝心の『莫大な財宝』は探せども探せども見つからず、完全に焦っていた。
シルガの波動で探知してみるも、なにもない。物だから波動なんてないんじゃないか? と問いかけてみると、物にでも波動は備わっていると答えられた。
ならば、もう探す所などないのではないか。
「大体、フィオネの雫と違って曖昧な伝承みたいなものだからなぁ。多分、開かずの扉の奥には幽霊がいるとか、そういう突拍子もない噂話と同じものだろ」
ギルドでも良く聞いた、夜中に大きな唸り声を上げる幽霊とか、夜な夜なギルドに鳴り響く大きな音とか、思わず逃げ出してしまいそうになる叫び声とか。
ちなみに正体は既に判明している。唸り声を上げる幽霊は赤字に悩むペルーの寝言、鳴り響く大きな音の正体は親方がたまに発するハイパーボイスの寝言、叫び声の正体はあまりのオーバーワークにやけくそになって叫ぶペルーだ。
「全部検証した結果がこれかってことで、そこまで面白くは無かったんだよな」
思い出す、事実を部屋で暴露したあの日。
あれだけ気になっていたミルも大して面白くない真相に、素直に面白くないと一蹴。フィリアはペルーに胃薬を上げようかな、とかなんとか言っていて、シルガは興味がないのか寝転んでいて、折角睡眠時間削ってまで真相確かめた意味って、と一人嘆いたあの日。
「ま、それと同じだと思うんだよな。大体、開かずの扉って時点でどんな情報も憶測でしかないし、俺も番人がこんなに出てくるって分かってんならもっと準備して行ってたんだけどな。こいつは特に」
歩いていると、レジギガスが目に入ったのでなんとなくそう言った。そもそもこの巨体だ。上でも向いていない限り、ラルドがいる場所を歩いているならば確実に目に入るだろう。
戦闘開始から戦闘終了まで、幾度となくラルド達を苦しめてきた巨腕。倒れている今でもどこか圧倒される、それほどのものだった。
「それにしても……やっぱり、こうこいつが倒れている姿を見てると、勝ったって感じがしていいんだよなぁ。こう、倒れ伏す敵に足を乗っけて、剣を掲げて我々の勝利だ! みたいな?」
勝手な妄想を垂れ流すラルドは目を瞑ってその光景を想像しながら、レジギガスの黄色い顔のような部分へ同じく黄色い手で触れる。
何気ない、本当に何気ない行動。それがまさか、あんな事になろうとは想像していなかった。
――突如、ラルドがいる場所。その地面が、大きく揺れる。
「!」
「な、なになに!?」
「地面が揺れている……?」
「め、メイリー! なんでそんな冷静なの!?」
その震動は大地を伝わって全員へと知れ渡る。危機感を感じていない者もいる中、ラルドはほぼ直感でここから退かなければ、と反射的に“電光石火”で走る。
直後、地面が盛り上がる。
盛り上がるといっても、ほんの少しだけだ。それ以降は地面から突き破るようして出てきた“何か”によって目立たない小さなものへと変化した。
実際に小さくなったのではない。その“何か”があまりにも大きく、そう見えただけだ。
地面を突き破って出てきたのは、天井にまで届くのでないかという擦れ擦れの所までのびた、赤く巨大な石碑。
そして、刻まれているはアンノーン文字――ここまで来ると、ラルドも、見る限りではミルも気付いている。
入り口の石碑――ラルドの中で今つけた名称。番人と戦う場所への道を封じる、まさに扉とも言える存在。
その赤く巨大なバージョンが、ラルドの目の前にそびえ立っていた。
「一体、これって……どういうことなのかな、ラルド?」
「俺に聞くな」
目の前にそびえ立つものが石碑の別バージョンだということは理解しているが、それが何故いきなり出てきたのか、それがなんの役割を果たしているものなのか。
それを理解するだけの情報と頭脳を、生憎とラルドとミルは持っていなかった。
「どういうこと……ねぇ、分からないの?」
「お前まで俺に聞くな! 俺は別に知恵の実食べたわけでもない只の一般人! 神様でもなければそれに準ずる何かでもない!」
そういうことはフィリアが専門だろう、とラルドが言うと、レインは役立たずと一言呟いてフィリアの方へと歩いていく。
腹の底から怒り狂ったラルドだが、今はそんな激情を子供らしくぶつけている暇ではないと、自制する。
「ねぇ、フィリア。これが何か分からない?」
「さぁ? でも、石碑だからね。共通部分はあるだろうから……」
「ねぇメイリー、なんであの石碑が赤くて巨大になって出てきたか、わからない?」
「さぁ? でも、石碑ですから。共通部分は……」
聞き耳を立てていると、同じ様な会話がチャームズとレイン、フィリアの間であった。なんとも言えない感覚に、ラルドは本当に何もいえなくなる。
だがしかし、聞き耳を立てているだけあって収穫はあった。どれだけ違っても、この石碑は入り口の石碑と同じだろう、ということだ。
推測でしかないことだが、それでも試す選択肢はそれ一つしかない。
「共通部分、って言ったら、やっぱりあれしかないか」
「どうしたの? いきなりなんか呟いて」
「いや、考えてるだけ。……やってみるか」
共通点――といえば、それは目の前の石碑を見て、入り口の石碑三つを比較すると一つしかない。
アンノーン石の窪みがない石碑と三つの石碑が共通する点、それは、
「触れて、なんか聞こえてくるならアタリだ」
今までどの石碑も、触れてからしか反応しない造りだった。
ならば、目の前の赤い石碑も同じではないか? と、恐らくフィリアもメイリーも同じ推測だろうと考えた所で、ヒントを貰わねば思いつかなかった点で自分は二人に叶わないと、心の中で溜息をついてしまう。
勿論、それは心の中での話だ。体はちゃんと動き、巨大な赤い石碑の前へと到着すると、早速触れる。
すると、頭の中に声が響く。
――目を瞑り、汝の波動を大地へ伝えよ。
「あ、そっか。瞑ってなかったな」
すっかり忘れていたと、ラルドは言われたとおりに目を瞑る。
直後、地響きが部屋を襲う。脆い部屋は地響きによって所々が崩れ、このままでは不味いと、ラルドが手を離そうとした瞬間、
「――」
「! きゃ、きゃあ!?」
後ろで響く、ミルの悲鳴。
思わず振り返ると、そこには――立ち上がる巨体の姿があった。
「皆さん、レジギガスが!」
「ま、まだ戦うっていうのの!?」
メイリー、カロスが叫ぶ。
再び立ち上がったレジギガスは、あの強大な威圧感を発することなく、手を大きく振り上げる。それも、明らかに力をこめている。
自分がやられると思ったのか、ミルは“電光石火”で距離をとる。それは勿論、かなり近い距離にいたラルドも同じだ。
だが行こうにも、前に壁があって迂回しなければならない。
焦るラルドなど気にせず、レジギガスはその豪腕を振り下ろす。ラルドと同じく壁の妨害にあったミルも、終わりだと目を瞑る。
振り下ろされた豪腕は、地面を砕き、地層に皹を入れ――、
直後に起きた大地震により、ラルド達は洞窟の外へと出ざるをえなくなった。
〜☆〜
「こっちです!」
先導するフィリアを目標に、ラルド達は出口目掛けて走る。
一緒に来ていたギルドの仲間たちは既に脱出していたのか、その姿はどこにも見当たらなかった。
アイスの間を越え、光が漏れる出口があと少しだということを知る。自然、走る速度も上がっていく。
高鳴る鼓動を感じつつ、ラルドはなれない光に目を細め――外へと、出た。
「なんとか抜けれたねぇ!」
「ええ、本当」
荒い息を、深呼吸をしてなんとか落ち着かせる。
何度かそうするうちに、目も光に慣れてきたのか少しずつ開いていく。
目を開けていくうちに見えてきた物は、到底信じられる物ではない。それは周りも同じだったのか、驚愕に満ちた表情でそれを見ていた。
「……嘘だろ」
小さく呟いた、ラルドの黒い双眸の先にあるもの――隆起する地面を、突き破って出てきた、巨大な巨大な遺跡。
言うなれば、隠された遺跡だろうか。その遺跡が、大きな土煙を上げて地震とともに天へと向かって突きあがっていく。
「これって、どういうこと?」
「なんでもかんでも人に聞くなよミル。俺が何でも知ってると思ったら大間違いだ。知識なら、あそこのニートが一番あるだろ」
「聞こえてるよ」
蔓の鞭でラルドの頭を叩くフィリア。ちょっと強めの一撃に、ラルドは叩かれた場所をさする。
蔓の鞭で叩く、なんて軽々しく言っているが、ようは技だ。技を無防備な状態で食らうなど、力量が離れていない限り必ずダメージを受ける。
「痛い! くそっ、軽々しく叩きやがって、痛いんだぞ!」
「君が夜中に技の練習なんてするから、僕は最近寝不足なんだ。その仕返しだよ」
「……えっ、起きてんの?」
「そりゃあ一週間に一回、夜中に電撃の音やらなんやら、挙句の果てには爆発音まで聞かされたらね」
電撃は恐らく“暴雷”や“十万ボルト”で、爆発音は“バーストパンチ”の練習だろう、とラルドは推測する。
とはいっても、バーストパンチはそこまで練習していない。形になった頃は、一回で右手がしばらく上手く動かせなくなるからだ。
「いやでも、最近は抑えてきてるというか、やっぱり迷惑かな、と」
「どうでもいいけど、遺跡をみなよ」
言い訳するラルドを、興味なさげに一蹴するフィリア。
ラルドは負の感情を垂れ流しながら遺跡へ目を向けると、地響きは収まってきていて、その全貌が露になっていた。
全体的に遺跡っぽさをかもし出していて、そして何より特徴的なのは、その巨大さだ。
遠目からでも巨大と分かるのだ。これが直近くならいざ知れず、遺跡があるのは何百メートル先で微かに見えている程度。あれをハッキリと見る事ができるのは、この中では化け物視力を持つミルだけだろう。
「あれが、番人たちが守っていた『莫大な財宝』なのかしら」
「その可能性は限りなく高いと思われます。レジギガスが地面を殴り、起こった地響きによって、あれが出てきたとなると……」
「……莫大な財宝かァ」
ヒイロが呟いた言葉に、皆が遺跡に注目する。ここまで来た目的である『莫大な財宝』が、あの遺跡か、もしくは遺跡の中にあるのだ。
探検隊としては、誰よりも先に探検したい、財宝を手に入れたいと思うのが普通――なのだが、
「凄いわね。だけど、私達があそこのダンジョンを探検する権利は、ないわね?」
「そうですね」
「当たり前じゃないか」
「……えっ!?」
カロスの言葉に耳を疑ったラルドは、残るチャームズの二人のさも当然といわんばかりの答えに思わず声を漏らしてしまう。
「ちょ、ちょっと待て。お前らマスターランクのトレジャーハンターなんだろ? なら普通、手柄は横取りさせてもらうぜ! とか言ってでも探検したいんじゃないのか?」
「なんで私達がそんなことをしなければならないの? ……あれは、紛れもなく穴たちが勝ち取った財宝よ。知ってる? 探検隊連盟が設けた探検隊である以上、絶対に守らなきゃならない規則。他人の所有する宝物などを奪っちゃいけないって」
「知ってるし、探検隊以前の法律だろ」
窃盗は、どの世界でも禁忌とされることだ。勿論、窃盗にも種類がある。生きるためにどうしても奪わなければいけない場合もあり、完全に遊び気分や、当然のように窃盗する場合もある。
だが、窃盗にこれはいい、これは駄目、などはない。それは常識だ。
ラルドが言いたいのはそこではなく――、
「お前ら、レジギガス戦で頑張っただろ? レジスチル相手にボロ負け……かは知らないけど、それでも……」
「あら、忘れちゃった? 私達、レジスチルに負けたときから探検は諦めてるわ。レジギガスも番人たちも、全部あなたたちを手助けするため。……ね?」
そう、ドヤ顔で言うカロスにラルドは若干の怒りを覚えるも、言い返すことはできないので心の中で抑える。
だが、本当にいいのだろうか? という思いがラルドの中にある。自分だってチャームズの立場なら同じことをしたと思うが、まさかされた側がここまで気を使う事になるとは、思ってもみなかった。
だがカロスに引く気はないと顔を見れば分かる。メイリーもニンファも同様だ。
「……分かったよ。あの遺跡は俺たちのものってことで。皆もそれでいいよな?」
「いいもなにも、引き下がる意味がないんですけど」
「私はあんなおっきいダンジョン、探検したくないから反対ー」
「僕はどうでもいいよ」
「どうせダンジョンだからな」
「俺も、フィリアがいいならどォでもいい」
「……お前ら」
誰一人としてまともな意見がないことに、絶句してしまう。唯一まともそうな意見をしているレインも、なにいってんだ当たり前だろ、という感じだ。
このチームは本当に大丈夫だろうか、という今更感が拭えない不安に頭を悩ませると、数十秒で納得する。
「んじゃ、あれは俺たちのってことで」
「ええ」
納得したラルドにカロスは微笑みながらそう答えた。
「んじゃ、探検も終わって財宝も手に入れたし、そろそろ帰りますか!」
「早く帰って寝転びたい。疲れた」
「レイン、だらしないよ?」
「体力を常日頃からつけていないからそうなる。自業自得だ」
「私はあんたらと違って知能担当なの」
「狡賢いという点においては認めるが、知能……ふっ」
「あー! 今鼻で笑ったわね!」
「なぁ、いい加減に終わりはきちっとやろうぜ」
いつもと変わらないメンバーに、ラルドは呆れつつも心の中でシルガに同意する。
遺跡も見つけ、探検は終了。となれば自然、今まで無意識のうちに作られていた堅い空気も、軟らかい自然な空気となるわけだ。
息抜きは帰ってからやって欲しいと、ラルドは切実に思う。それがブーメランとなって帰って来ていることには気付いていないが。
「はぁ……今度こそ帰るぞ。んじゃ、チャームズも一緒に――」
「ああ、私達はトレジャータウンへは帰らないわよ?」
さも当然のように言うカロスに、ラルドはああそう、と返してバッジを取り出し――そこで気付く。
「え、えぇ!? 帰らないのか!?」
「ええ。だって私達、流浪の旅人よ? それに用事もあるから」
「探検隊連盟に呼ばれたので、元から探検が終わったら中央都市へと赴く予定だったのですよ」
「それが、まさかこんなボロボロな状態で行く事になるなんてねぇ!」
「ニンファったら。ここから中央都市まで、一日はかかるわよ?」
笑いあうチャームズを見て、ラルドもふっ、と笑みを零す。
カロスが好き勝手に動き、ニンファもそれについていく。メイリーが注意すると、二人とも文句は言いつつも言う事はちゃんと聞く。
見ていると、なんだか自分たちを思い出してくる。
「……んじゃ、これでお別れってことか」
「ええ。尊敬すべきマスターランクのチャームズ様たちは、ここでお別れよ」
胸を張って言うカロス。強ち間違ってはいないので、ラルドも言い返すことはない。
カロス、メイリー、ニンファ。最初は知らなかった三人も、この探検を通じて知り合い、対決し、共闘もした。
たったこれだけの時間で、ここまで気を解いて話せるようになる。
探検とは不思議なものだと、ラルドは思う。三人と出会えたのも、探検のお陰。
「思えば、短い探検だったけど色々あったよな。勝負に三回連続でマスターランクさんが負けたり? 挙句の果てには敗北したり? り?」
「ちょっとお灸をすえなければいけないようね」
「あ、ぐりぐりは! ぐりぐりは止めてください!」
ジェスチャーで拳をぐりぐりするカロスに、実際されてはいないがされたときの痛みを思い出す。それとともに、出会ったときのことも。
「じゃ、俺たちはもう帰るよ」
「そう。じゃあまたね」
「ああ。また」
たったそれだけ。
それだけの別れの言葉。
再会の約束を契り、ラルドは騒ぐ三人と傍観を決め込む二人を見て苦笑しながら、バジの一斉転送ボタンを押した。
「ねぇ、メイリー」
「なんですか?」
「エンジェルって……面白いわね」
「そうですね」
「アタイも同感だねぇ! あの子達は、きっと立派な探検隊になるよ!」
「そうね。立派な……プリルも越える、最年少ギルドマスターランクになるかもね」
番人の洞窟の前で、カロスは微笑みながらそう言った。
次回「夏の終わりの怪談話」