ポケモン不思議のダンジョン空の探検隊 エンジェル〜黒と白の12の翼〜







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第五章 右腕と番人
第五十九話 希望の芽が開くとき
 圧倒的な巨体と強さを持つレジギガスの本気を垣間見た九人。果たして、巨神を倒す事はできるのだろうか――?






〜☆〜



 膝をつく。
 その原因は分かりきっている。只の疲労だ。
 探検に加えてレジアイス、レジスチル、更にはレジギガスとの拮抗した勝負で、疲労が溜まったのだろう。
 しかし、ラルドはそれだけとは思えなかった。

 マンガなどでよくある、膝と手をつき、地面を見下ろし、絶望しているシーン。そんなシーンと今の自分が、どうしても重なって見えてしまう。
 絶望――その言葉がここまで似合う状況は、ディアルガ戦くらいだろうか。

「……はぁ、はぁ」

 改めて自分の状態を見て、気付く。
 足は震え、体は疲労で重く、息は荒く、早い。
 どこからどう見ても、疲れきった人だ。

「……ここまで、とはな」

「強すぎんだろォ……!?」

「も、もう無理だよ……!」

「……」

 全体の士気が、急降下する。
 みながみな、目の前の巨体に圧倒され、ネガティブな気持ちになってしまう。悲観的になってしまう。
 このままでは、負ける――。


 ――今まで皆を引っ張ってきた自分が、これでどうする。

「……ふぅ! 皆、まだ諦めるな! 相手の力が強いだけで、まだ勝機は……」

「有った所で、無意味じゃない?」

「……え?」

 励まし、立ち上がらせようと声をだしたラルドに、否定する声が上がる。

「なんでそんなこというんだよ……レイン」

「だってそうじゃない? このままじゃ負けるか、勝ったとしても秘宝なんてどこにも見当たらないし、無意味じゃない」

「そんなこと、やってみるまで分からないだろ」

 やってみるまで分からない。それは、間違ってはいない。
 ただこの状況でのその言葉は、あまりにも希望が見出せない。

「大体、あれに勝とうなんて、あんたが全解放でもしなきゃ無理でしょ。バーストパンチとその真似事を三人でやったところで、シルガはともかくヒイロはどうなるか……って! “電光石火”!」

「えっ……! “高速移動”!!」

 レインが驚きの声を上げ、それにつられてラルドはレインの視線の方を見る。
 すると、巨大な拳がラルド達目掛けて放たれている所だった。

「っ!?」

 高速移動の恩恵を受け、スピードを増したラルドは拳の脅威からは逃れられた物の、拳から発せられる衝撃波や石のつぶて、風圧からも逃れきれるわけではない。
 普通に要ればダメージを受けるだけのそれを、ラルドは距離をとるために利用し、流れに身を任せて思い切り吹き飛ぶ。

 結果、少しのダメージは受けた物の、なんとかレジギガスから離れる事はできた。

「ああもうっ! 待ってなさいよ、空気読めないわね!! ……とにかく、私はこれ以上戦うのは反対よ! なんか凄い策があるならともかく!」

「凄い策って……!」

 凄い策。
 フィリアでさえ、ラルドと同じ結論に至ったのだ。
 自分の頭がどれくらいか、それはよく分かっている。だからこそ、凄い策なんて思い浮かばない事も分かっていた。

 悩むラルドに、再び巨体が迫る。

「ラルド!」

「くそっ、“高速移動”!」

「ギガアアアァァス!!!」

 ミルの忠告もあってか、早い段階で気付けたラルドは二度目の高速移動でより加速したスピードで、“メガトンパンチ”を完璧に避ける。
 ホッとするラルドは、メガトンパンチによって凹んだ地面を見て、気付く。
 レジギガスの拳を避けた数だけ、地面が凹んでいるという事に。

「足場が悪くなってるぞ……」

 凹んでるだけとはいえ、亀裂や少しの段差を甘く見てはいけない。高速移動や電光石火中にこけると、それはもう凄い勢いで転ぶのだ。
 ここにきて、ラルドは自分たちの状況がかなり悪化していることを知った。

「ラルド、大丈夫!?」

「ああ。大丈夫だ。……オレンの実っと」

 バッグからオレンの実を取り出し、丸ごと口の中に入れる。
 咀嚼するのも時間の無駄だと思い、ある程度噛むと一気に飲み込む。すると、足の震えがピタッと止まる。

「はぁ、はぁ……ふぅ。心配してくれて有り難う、ミル」

「うん……でも、大丈夫?」

「大丈夫、とは言い切れないけど、でもリーダーだからな。先頭切って、皆を引っ張らなくちゃ」

 体力が回復しても、肉体的疲労は回復しない。自分はそこまで疲れていないと思っているのに、何故か体が動かない、なんてこともありうる。
 目の前の敵を倒すためには必ず解放が必要――そう考えれば、自ずとタイムリミットが近づいているということが分かってくる。

「ラルド、気負いすぎたらだめだよ? リラックスしなきゃ!」

「分かってるよ」

 張り詰めすぎた空気の中で戦うなど、馬鹿がすることだ。
 緊張は程々が一番ということは、ラルド自身分かっている。だが、ふと息を吐いてみると、案外胸が軽くなる。
 それでも今は、それほど緊張していないはずだ。

「んじゃ、行くぞ……“十万ボルト”!!」

 レジギガスへ向けて放たれた電撃は、リラックスしていたからなのか安定している。
 レジギガスも、普通よりも数段強力な電撃に、力をこめて本気で振り払って防ぐ。

「っし……シルガ! ヒイロ! 一回、俺たちで解放同時攻撃だ!!」

「……ああ」

「お、おう!!」

 ラルドの呼びかけに、今まで目の前の相手に多少なりとも意気消沈していたシルガとヒイロは、はっとする。

「解放」

「解放!!」

「解放!」

 三人同時の解放に、強力な衝撃波がそれぞれで発生する。
 翡翠のオーラと瞳を持つ、ラルド。
 蒼いオーラと銀の瞳を持つ、シルガ。
 真紅のオーラと瞳を持つ、ヒイロ。

 エンジェル化け物組の、本領発揮だ。

「全員の一斉攻撃で相手が本気出さざるをえないなら、俺たちの同時攻撃ならもしかしたら破れるかもしれない……行くぞ!!」

「ああ!」

「おぉ!!」

 勢いを取り戻したとまではいかないものの、なんとかいつものようになったヒイロとシルガ。
 そんな二人に安心しつつ、ラルドは自分が持てる最強の遠距離攻撃を放つ。

「“暴雷”!!!」

「“波動弓モルフォス――貫通型”」

「“紅蓮の斬波”ァ!!!」

 凶暴なる二つの雷、巨大な波動の矢、燃え盛る紅蓮の斬撃。その三つが合わさった一撃は、先程のものと同等か、それ以上の威力は有った。
 そんな一撃に、レジギガスも本気を出さざるをえなくなる。両腕に力をこめると、思い切り突き出す。
 白い豪腕と、巨大なエネルギー波。拮抗する二つの力は、段々と豪腕が押され始める。

 やれる――そう思った三人の期待を裏切るように、レジギガスは最後の防衛法で、攻撃をやり過ごす。

「ギ……ガアアアァァァス!!!」

「! まさか……!」

「逸らしたァ!?」

「ちっ」

 右手をエネルギー波の横へ移動させ、左手で押しのけるようにして、エネルギー波を見事に逸らす。
 逸らされたエネルギー波は、そのまま直進すると壁へ激突し、巨大なクレーターを作り出す。それでも壊れない洞窟に、多少の尊敬を抱くラルド。
 が、今起こったことをどう乗り越えるかと考えると、そんなふざけた気持ちもなくなってしまう。

「普通の攻撃なら腕でかき消して、強い攻撃なら受け止めて握りつぶして、今みたいに握りつぶしきれないと分かったら、逸らす……」

 何重にも張り巡らされた防御方法に、頭が痛くなってくる。
 一番手っ取り早い方法は、勿論レジギガスが逸らしきれない攻撃を繰り出す事だが、それができないから悩んでいる。

 レインの言うとおり、ラルドが全解放でもすれば、確実に倒せるのだろう。だが、全解放には条件もあって、なおかつ数%の確率でしか発動できない事は、そのレインを通じて知っていた。
 八方塞、ここまで今の状況を表すにふさわしい言葉は、恐らくないだろう。

「シルガ、なんか作戦ない?」

「ない」

「ヒイロ……は無理だな」

「あァ!?」

 聞くついでに場を和ませると、ラルドは益々目の前の敵の厄介さに、思わずしたうちをする。
 チラッと後ろのフィリアを見るも、アイコンタクトで「なにも思い浮かばない」と言われた。
 レインを納得させられるような凄い策、それを何とかひねり出そうと頭をフル回転させる。

 そんな状態のラルドが、狙われない訳がない。

「ギガアアァァァス!!!!」

「っとォ!!」

「……おいラルド!」

「えっ、お、うおっ!?」

 思考の海に潜っていたラルドは、シルガの一声により意識を浮上させ、慌ててその場から立ち退く。
 瞬間、その場を巨大な拳が地面を貫く。その威力は、余波や惨状を見れば嫌でも分かってしまう。
 思考に没頭していたラルドの気をつかせてくれたシルガに、ラルドは礼を言った。

「ありがとう、シルガ」

「……さっきから、お前は何を考えている?」

「……え?」

 確かに、先程から自分は考えることに没頭していた。
 そのせいで攻撃を受けそうになったこともあったが――まさか、そのことを攻めているのだろうか?

「何を考えているのか、大体想像はつく。が、今は戦闘中だ。……それに、万が一直撃などでもしてみろ。木っ端微塵になるぞ」

「……そ、想像したくねー」

 辺りが血だらけで、自分の肉片が飛ぶ光景――想像してみると、かなりグロテスクでショッキングだ。

「……とにかく、何か考える暇があれば攻撃をしろ。お前も、リーダーらしく振舞うのはいいが……一度、猪突猛進するのもいいぞ」

「猪突猛進、か」

 まっすぐまっすぐ、ひたすらまっすぐ。そう考えると、昔の自分を思い出す。
 何もということはないが、とにかく攻撃あるのみなスタイルだった自分。それに比べ、今の自分は成長したのか、色々考えてはいる。
 いるが、成果も出ず、逆に足を引っ張っている状態だ。みんなを引っ張っていくと言っても、足を引っ張っては意味がない。

 一度、なにも考えずに向かっていってもいいかもしれない。

「よし……! シルガ、ヒイロ! お前らは中距離か近距離でアシスト!!」

「テメェのかァ?」

「当たり前だろ! ――頼むぜ、蜥蜴と駄犬!」

 ただ純粋にやってみる。そうすれば、何か道は開けるだろうか。
 勿論、開けない可能性の方が高い。下手をすれば、バッドエンドルートへ直行してしまうかもしれない。
 それでも、何もせずにバッドエンドになるよりは、遥かにマシだ。

「テメェ!」

「後ろから狙い撃ちしてやろうか……!」

 憎しみの念を飛ばしてくる二人を無視しつつ、ラルドは“電気活性≪アクティベーション≫”を発動する。勿論、三人とも解放は解除済みだ。

「なにも考えるな、俺……心を真っ白にするんだ」

 余計なことは考えなくていい。
 無駄な事はすべて削ぎ落とし、ただ目の前のことに集中する。

「行くぞ、“十万ボルト”ォ!!」

 勢いを取り戻したラルドの電撃は、より強力なものとなって巨体へ向かう。
 そんな電撃を、レジギガスは右手を薙ぎ払って電撃を防ごうとする。
 だが、そんな行動はとっくの昔から予測済みだ。

「甘いんだよ!!」

 豪腕を避けるようにして進んだ電撃は、驚くレジギガスを気にせず進んでいく。
 ならば、左腕で――とレジギガスがもう一方の豪腕を動かしたときにはもう遅く、見事に電撃が命中する。

「よっしゃぁ!!」

「うおォ!? やりやがったァ!?」

「や、やった!?」

「これは……!」

 ヒイロもミルも、カロスでさえも目を見開いて驚く、ラルドの攻撃。
 驚異的な電撃のコントロールを誇るラルドだからこそできた、常識はずれの攻撃だ。

「っし! ……後は、問題を解決するだけだ」

 自分が解決すべき問題は、打倒レジギガスの作戦と、そして全体の勢いを取り戻す事だ。
 皆、攻撃はしているものの、気合の入っていない攻撃ではレジギガスにダメージは与えられない。自分だけが勢いを取り戻しても、意味はないのだ。

 ラルドは両手を口の両側に持っていくと、大声を張り上げる。

「……良く聞け!!」

「は、はい!」

「ミル、びくってしなくてもいいわよ……で、なによ?」

 気の強いレインが、ラルドをにらみつけ、いきなりの大声の真意を問う。
 疲弊した皆を、これ以上無益な戦いに晒すことはない。レインの言い分は最もだ。
 しかし、それでは終われない。ここまで来た以上、諦める事は惜しい。
 何より、皆の目に、絶望はあってもあきらめはない――それを見ると、不思議とやる気が湧いてくる。

「今、俺はあいつに攻撃を当てた。それも、正攻法でだ! 搦め手でもなんでもない。あんな化け物相手に、普通に攻撃を当てた!」

「……」

「できるんだよ! 諦めなければ、なんとかなる! 希望は見出せるんだよ! ……それに、まだ俺たち、戦いを楽しめてない!」

「戦いを楽しむって……どういう」

「そのまんまだよ。バトルって、楽しい物だろ。相手が強すぎて、絶望しかけたけど……乗り越えたら、楽しくなってくる!」

 ディアルガのときは、使命感もあって、楽しくなってきたのは最後の最後だ。それも、湧き上がるようなものではなかった。
 でも今は違う。攻撃を当てられたことに、純粋な喜びを感じた。

 楽しいと思う事は、それだけ勢いを高められる。嫌なことよりも、よっぽどいい。

「だから俺は戦うぜ……あの巨体を、ぶっ倒してやる!」

「ギガアアアァァァァス!!!!」

 ラルドの言葉が、レジギガスに聞こえたのだろうか。
 両腕を天へと上げ、雄たけびをあげると、その巨大な歩幅を生かした高速の走行で、ラルドへ迫る。

 しかし、それでは終わらない。体を右に少しねじると、左腕を右へ持っていき、そのまま左肩で全てをなぎ倒そうと迫る――重量であればあるほど威力を増す、“ヘビーボンバー”だ。

「来いよ、デカブツ!!」

 ラルドの表情に、先程までの疲れや絶望といったマイナスの感情はない。
 未知なる探検という要素に探究心をくすぐられ、純粋に楽しんでいた、あの頃――いや、いつものように。

 自分ひとりで考える必要はない。何のために仲間がいる。
 そういうことはフィリアに任せて、自分はただひたすら敵を弱らせる。
 伝説相手だからと、尻込みする必要はない。ディアルガと比べれば、目の前の敵など可愛いものだ。

「おおぉ!!!」

 迫る巨体を、ギリギリまでひきつける。
 ギリギリ、本当のギリギリまでひきつけると、巨体の足に触れるか触れないかのラインを、見事に走り抜ける。

「ギガアアアァァス!!!?」

「どうだ!」

 驚くレジギガスに、してやったりと満足なラルド。
 勿論、あんな巨体が全速力で走っているのだ。衝撃も、風も、なにもかもがラルドを苦しめる。
 けれども、直撃するよりはマシだと割り切る。

「難しい策なんて必要ない! ただ普通に、戦えばいいんだ!」

「ギガアアアァァァァス!!!!」

 吠えるラルドを、レジギガスは遂に危険人物だと認識する。
 周りからの痒い攻撃など気にせず、この侵入者を初めに排除すべきと、豪腕を上げ、拳を思い切り振り下ろす。

 巨神の鉄槌とでもいうべきそれは、風を切る音と共にラルドへ振りおろされ――横から放たれた、格闘エネルギーの塊によって、ラルドからかなりずれた位置へと逸らされる。

「これは、“気合球”……ってことは!」

「ふふっ……後輩ばっかりにいい顔、してもらっては困るわ。……それに、三回も励まされたら、やる気を見せない訳にはいかないものね!」

「ギガアアァァス……!」

 レジギガスの目に、二人の危険人物が映る。
 ピカチュウと、ミミロップ。一人増えた危険人物を潰そうと、右手を振り上げ――られなかった。

「ガァァァァス!!!?」

「私たちを忘れてもらっては」

「困るねぇ!!」

「メイリー、ニンファ」

「ええ。私達も、負けてはいられません」

「そうさねぇ! 先輩として負けちゃいられないよ! ……どうだい、アタイたちの“サイコキネシス”は! ピタリとも動かないだろう!」

「ギガアアアァァァス!!!!」

 必死に右腕を動かそうとするレジギガスだが、動かせない。
 青白い光に包まれた右腕は、脳の命令とは裏腹に、一ミリたりとも動かせない。レジギガスの力をもってしてこれなのだから、チャームズという者達の実力の高さが見て取れる。

「……ここまでやられちゃ、僕らも出ないわけにはいかないよね。ミル、レイン」

「……もう! やればいいんでしょ、やれば!」

「分かったよ!」

 そんな周りを見て、黙っている女性陣でもなく。
 フィリアは太陽光を、レインは水を、ミルは光をそれぞれ集めると、一気に解き放つ。

 眩い一撃が、細い水の一撃が、光の奔流が、レジギガスへと放たれる。
 三つの同時攻撃は、化け物組の同時攻撃よりは弱い。しかし、今大切なのは技の威力ではない。
 全員の心が一致団結したこと、それこそ、今この場で最も重要な出来事だ。

「皆……俺の思いが通じたか!」

「周りにつられたからよ」

「……くそぅ!!」

 感動に満ちたラルドの言葉を、素っ気無い態度でレインが返す。
 これでいい。これでいいのだ。
 戦闘中にでも軽口を叩き合う。それは確かに隙を生むかもしれないが、それ以上に緊張を解し、言いようのない安心感を得る。
 
 それを見た四人と、ラルドとレインはレジギガス戦が始まって以来、初めて感じる。
 エンジェルが、元通りになったと。そう感じたのだ。

「さ、これからは激しくなるよ。ラルド! 僕は自分の持てる限りの力で、なんとか作戦を立ててみる! だから君たちは、」

「その間の時間稼ぎやっとけって言うんだろ? 分かってるよ! だから……頼むぜ、エンジェルの参謀役!」

「了解」

 小さく呟くように言うと、フィリアはレジギガスをじっと観察する。
 その間、ラルド達は弱点を見つけるか作戦が立てられるまで、ずっと時間稼ぎだ――それも、なんだか今はエンジェルっぽさを感じられて、いい。

 疲労した体が、吠えて枯れた喉が、回復していく。
 黒い双眸が見つめる先には、巨神の姿がある。先程までは圧倒的で、勝てないとさえ思えた、絶望を振り撒いた巨神の姿が。

 でも今は、そうは思えない。
 士気が上がったからではない。いつもどおり、いつもどおりになれたからこそ、ラルドは勝てると思えた。

「さぁ、いつもどおりにチャームズ加えて強くなった俺たちだ。そう簡単に勝てると思うなよ? レジギガス!!」

「ギガアアアァァァァス!!!!!」

 吠える、巨体が大音量の雄叫びを上げる。
 思わず後退してしまう、そんな雄叫びに、ラルドは少し息が止まってしまう。目の前の巨神の気迫と威圧感に、ごくっ、と息を呑む。

 それでも、立ち止まらない。この程度では、絶望しない。
 こんな淡い絶望より、よっぽど強い絶望を味わったことがあるのだ。そう易々と、望みが絶たれたなどとは思わない。

「行くぞ……“十万ボルト”!!」

「“波動弾”」

「“気合球”!」

 三つ同時の攻撃を、レジギガスは薙ぎ払う。
 ラルドだけならともかく、三つの、それも別々の攻撃だ。それらを自分の電撃だけで操れるほど、ラルドは生物止めては居ない。

 かき消された一撃に、絶望して攻撃を止めるわけがない。
 防がれたなら、次を。それも防がれたなら、相手が防げなくなるまで次を。
 そうすれば、自然、攻撃は当たる。

「まだまだ! ここで終わるほど、俺たちは弱くないんでね!!」

「“シャインボール”!!」

「“シーストライク”!」

「“ムーンフォース”」

 複数個の光球に、レジギガスは右腕を使って防ぐ。その行動は、今までの防御で分かっていたことだ。
 残るは左腕。水の一撃と月のエネルギーを集めた攻撃は、確かに化け物組の同時攻撃と比べれば幾分か威力は落ちるも、それでも岩を砕くほどの威力は持っている。

 そんな攻撃を、左腕に力をこめずに薙ぎ払って防ぐレジギガス――それも、予想していた。

「“クイックショット”」

「ギガアアァァス!!?」

 右腕、左腕。両腕は薙ぎ払った直後で、まるで胴体を曝け出しているようなポーズだ。が、一見空きだらけのこの体勢に、実はほぼ隙がない事は既に判明している。
 驚異的な反射神経を持つレジギガスに、隙などない。そんな訳はない。

 普通の攻撃で駄目ならば、高速の攻撃ならば当たるだろう。そう思い、ラルドはシルガに指示を出していた。
 この攻撃を相手が防ぎ終わった瞬間、クイックショットで攻撃しろ、と。

 結果、たいしたダメージを与えられた訳では無いものの、シルガはレジギガスの懐へと潜り込むことに成功する。

「行くぞ……“解放”!」

「ガアアァァス!!?」

 蒼いオーラ、銀の瞳。そんな変化と共に放たれる、発動の合図とでも言うべきエネルギー波は、レジギガスへかなりのダメージを与える。
 しかし、それで終わりのはずがない。むしろこれは、メインディッシュの前の前座に過ぎない。

 シルガは自身の右手をレジギガスにピタリと触れ、左手で抑える。
 集中すると共に、蒼い光がシルガの手を包んでいく。それはとても幻想的な光景で、暴力的な光景の前兆でもあった。

「行くぞ、“波動解放≪バースト≫”!」

「ギガアアアァァス!!!?」

 瞬間、強力な波動と衝撃波が、レジギガスを襲った。
 シルガの手から放たれた技は、波動の衝撃波とでも言うべきものだ。その威力は、ラルドの暴雷には劣っている物の、それでも並みのポケモンならな一撃で気絶させられる程度の威力はあり、シルガの中でもかなりの威力を誇る技だ。
 そんな攻撃を、ゼロ距離で、さらには効果が抜群という、シルガにとっては最高でレジギガスにとっては最悪な相性もあって、耳を劈くような叫び声を上げ、レジギガスは一歩、二歩と後退していく。

「ふっ……どうだ、巨人よ。俺の攻撃は、辛いだろう?」

「ギガアァァス……!!」

 唸り声を上げ、目の前の忌々しい小さな敵を、顔なのか分からない部位で、見る。
 今の一撃は、レジギガスにとってかなりの痛手だった。
 効果抜群に加え、攻撃自体の威力も申し分なく高い。これだけの要素があれば、痛手となるのは当然とも言える。

 だが、このままやられっ放しでは、番人の名が廃る。

「ギガアアァァァァス!!!!」

「! 来たか……!」

 巨体が吠え、大気が振動する。刺すような威圧感が、肌をなぞる。
 今目の前にいる巨体は、本気も出さずに相手していた存在を、全力で相手しなければ負ける存在だと認めたのだ。
 それは多大な達成感を得ると同時に、厄介な状況へと変化する要因だ。

「ギガアアアアァァァァァス!!!!!!」

 右腕に、これでもかという力をこめると、拳がそれぞれ三色のエネルギーに包まれる。
 炎、雷、氷、三つを総称して三色パンチとも呼ばれる技を、レジギガスは自身の右拳に一纏めに集める。
 反発しあうはずのエネルギーは、混ざり、一つの強大なエネルギーへと変換する。

「うわぁ、絶対あれ強いぞ」

「擬似トライアタック、とでも言うべきか」

「そんな悠長なこと言ってる場合じゃないよ! ど、どうするの!?」

「避けるか防ぐしかないだろ」

「えぇ!?」

 平然と答えるラルドに、驚くミル。
 あんな技、どうやって防ぐのか。ミルの思考はフル回転でその問題の答えを導き出そうとするが、どうやっても無理と脳からの答えが出る。

「無理無理! 防ぎっこないよ!」

「んじゃ避けるしかないな」

「ったりめェだ。あんな反則技、防ぎっこねェよ」

 解放したとしても、やはり種族としての差は重くのしかかる。
 まして、相手は伝説、それも攻撃特化の巨神だ。真正面から正々堂々防ごうものなら、肉片となって辺りに飛び散るのは目に見えている。

「ギガアアアァァァァス!!!!」

「来るわよ!!」

「皆さん、落ち着いて対処して下さいね」

「わかってらァ!!」

 そんなやりとりをしている最中でも、レジギガスは待たずに三色のエネルギーが幻想的な光を紡ぐ拳を振り上げると、跳躍し、叩きつける。

「のわあぁぁぁ!!!!?」

「な、なにこれぇ!?」

「毛が乱れちゃうじゃない!」

「カロス、そんなこと気にしている場合じゃないさね!」

 凄まじいエネルギーと衝撃波に、後ろで作戦を練っていたフィリア以外の全員が、足に力を入れているというのに少し後退してしまう。
 体感では長く、実際には短い時間を終えると、惨状が目に入った。
 エネルギー波によってレジギガスの拳が叩きつけられた地面は大きく抉れ、パワーも重なって皹どころか、砕けていた。

「トライアタックのパンチ版だから、トライパンチ……? でも安直だよなぁ」

「安直って問題じゃないよ、ラルド。……ちゃんと戦わなきゃ」

「分かってるって。“雷”!」

 強烈な電撃は、レジギガスの腕を避けるようにして進む。
 が、レジギガスも同じ手に乗るほど馬鹿ではない。右腕を避けたばかりの電撃を、素早く左腕で握りつぶす。

「くそ、やっぱり同じ手はあんまり通用しないな……だったら!」

「何故走る」

「それは勿論、近距離戦をしようと思ってるからだよ!」

「ナイスアイデア、とは、とても言いがたい判断ですね……ああ、もう行ってしまわれましたか」

「猪突猛進になれとは言ったが、普段よりもタガが外れているぞ……馬鹿め」

 馬鹿にするように呟くシルガ。
 勿論ながらラルドが知るはずもなく、遠距離攻撃をやりやすくする為という至極当然な、珍しくまともな理由で近距離戦に持ち込もうとするラルドは、“電光石火”を使用してあっと言う間にレジギガスの元へと着く。

「さ、ここからは俺だけに集中してもらうぞ……“電気活性≪アクティベーション≫改”!」

「ギガアアァァァス!!!!」

 レジギガスと近接するのに、素早さはそれほどいらないと判断したラルドは電気活性≪アクティベーション≫を改へと変化させる。
 力と素早さをほぼ均等に強化していた通常時とは違い、力のみを強化した今の状態は、レジギガスには遠く及ばないだろうが、それでも驚異的なパワーを誇る。

 強化したラルドへ、レジギガスは“冷凍パンチ”を放つ。
 強大な冷気に包まれた拳は、地面へぶつけられた瞬間、砕かれた地面を凍らせる。しかし、そこにラルドはいない。

 ならばどこかと、レジギガスが辺りを見回そうと顔を動かした瞬間、強烈な衝撃に思わず膝をついてしまう。
 見ると、電撃を纏った拳――“爆雷パンチ”を、ラルドがレジギガスの足へとお見舞いしていた。

「どうだ! これで、お前からワンダウン奪ったぞ!!」

「……ギガアアアアァァァァス!!!!!」

 片膝つかされたことに、レジギガスは明確な怒りを覚える。
 侵入者――ただそれだけの、矮小な存在に、ここまで手こずらされる。ここまで手を煩わされる。
 怒り。レジギガスに湧いた感情を、怒りとよぶ。

 怒りは視野を狭め、暴走を呼ぶ。しかし、そんな代償を払うだけの価値はある。
 脳内リミッターをある程度はずし、驚異的な力を得る。
 それがただの一般ポケモンならともかく、今怒りを覚えているのはレジギガス。それもファイヤーなどといった伝説のポケモンと語り継がれるだけの存在ではない。れっきとした、本物の伝説とよぶべき存在だ。

 そんな伝説が、本気を超えた本気を出せばどうなるか。

「ギガアアアァァァァァス!!!!!」

「……!」

 肌にびりびりとくる、この感覚。

 強大な雄叫び、ただそこにいるだけで怖気づいて逃げ出したくなってしまいそうな威圧感。その二つを、同時にラルドは受けていた。
 肌を突き刺すような空気に、ラルドは力を入れる。

「遂に本気か……って、うおっ!?」

 強大な威圧感を出すレジギガスへ、後方からの攻撃が飛んでくる。
 波動弾、シャインボール、、シーストライク、気合球、ムーンフォース、サイコキネシス。強力な攻撃が全て直撃する。

「援護射撃サンキュー!」

「お前が俺たちの手助けをする側だろう。“波動弾”!」

「だよねぇ!」

 シルガからの援護射撃と援護口撃を受け、若干緊張が解ける。

 防ぐ間もない攻撃に大ダメージを負ったレジギガス。増幅された怒りは、勿論ラルドで発散する事になる。
 燃え盛る拳は、風を切りながらラルドへ向けて放たれた。
 “炎のパンチ”は、ラルドが飛びのいた後の地面を砕き、焼く。黒焦げになる地面に、ラルドは当たらなくてよかった、と息をふぅ、と吐いて安堵する。

「近距離も、まだ五分も経ってないけど疲れてきたな……フィリア! 作戦プリーズ!!」

「まだだよー!」

「くそぅ!!」

 怒る巨神に、ラルドは少し不味いと思い始める。
 近距離戦で挑んだのはいいものの、それは相手の得意分野中の得意分野。今までは離れていたため、近づいてくる間になんらかの対処はできた。

 だが、今は自分が近づいている。距離はほとんどないといえる。
 もし転びでもすれば、その瞬間に足で踏み潰されるか豪腕の鉄槌で骨ごとぺしゃんこだろう。

「っと!」

「ギガアアァァァス!!!!」

 “雷パンチ”、“炎のパンチ”。様々なパンチ技が、地面を砕き、飛礫を生む。
 その度に減る足場に、ラルドは思わず舌打ちをする。少ない足場で対応できるほど、レジギガスは甘い相手ではない。

 巨大な拳を避け、電撃を放つ。それを驚異的な反射神経で左腕を動かし、防ぐと、今度は“冷凍パンチ”で攻撃する。
 当たるわけには、必ずいかない技に、ラルドは“電光石火”を使って、慌てて避ける。

「くそっ、中々思い通りにいかない……解放を使うべきか……!?」

 後方からの攻撃をやりやすくする為、解放を使うべきかと悩むラルド。
 圧倒的巨体は、怒りという要素を得たことで更なるパワーアップを遂げている。気を抜けば、人生終了だ。
 だからこそ疲労が尋常じゃない“電気活性≪アクティベーション≫改”をずっと発動しているのだが、それも限界に近づいてきている。

「ギガアアアァァァァァス!!!!!」

「人が考え事してるときに、大声上げんじゃねーよ!! “雷”!!」

 叫ぶ巨体に、ラルドは半ばやつあたりもこめて“雷”を撃つ。
 眩い電撃に、レジギガスは防ぐ間もなく直撃し――そのまま、右腕でラルドを掴んだ。

「え、ちょ、うわぁ!?」

「ラルド!?」

「ハァ!?」

「なにをしている……!」

「不味いわよ、メイリー!」

「こういう時だけは絶対に私に頼るんですから……はぁ」

「溜息ついてる場合じゃないんですけどぉ!?」

 レジギガスの巨大な手に捕まれたラルドは、さながら人形のようだ。
 普通ならありえない光景も、レジギガスほどの巨大さがあるからこそ、できる芸当だ。
 そんな常識はずれの芸当に、当人であるラルドは焦りに焦りまくっていた。

「不味い不味い不味い! どうすりゃいい……!?」

 冷却していた脳を、再びフル回転させる。
 即座にオーバーヒートしそうなほど、ラルド史上最高の速さで様々な思考を浮かべる脳も、突破口を見つけられなければ意味がない。
 焦るラルドを、レジギガスはゆっくりと自身の顔へと近づける。

 何とか助けようと放つ後方からの攻撃も、レジギガスは左腕のみで弾く。零れ弾があろうと決して離さない姿は、ラルドを最優先で倒すべきというレジギガスの意思の表れだった。
 やがて、ラルドを不気味な顔で見つめると、段々と力をこめていく。
 
 締め付けられるような感覚に、内臓が圧迫され、骨がきしむ。吐き気がしそうな状態で、なおも思考を続ける。
 思考を手放せば、そこで終わる――それだけは、御免こうむる。

「そんならッ……“ディスチャージ”!!」

 轟音を撒き散らす、強力な放電。“ディスチャージ”を放つ。
 握っているのだから、威力はそのままで当たる。そうなれば、レジギガスの力も緩むのではないか――と、淡い期待を持って放ったディスチャージは、レジギガスにたいしたダメージを与えることなく、放出が終わると今度は左手も追加される。

「これでも駄目か……ぐふっ!?」

 空気が肺から強制的に押し出され、息が苦しくなる。鼓動が早くなる。
 酸素不足でうまく働かない脳を、それでも動かし続けるラルド。突破口は必ずあると信じて。

 だが、そうしている間にも力はどんどん強くなってくる。一気にやればいいものを、まるで死の恐怖を味あわせてやろうとでも言わんばかりの行動に、腹が立つ。
 
「がっ……ぁ……!?」

 考える。
 抜け出した後の事など考えず、ひたすらに抜け出す事だけを考える。
 ただひたすらに、思考の波に飲まれるがままに、突破口を――、

「……そう、だ……!」

 見つけた。

「この忌々しい手、怪我させてやる……はぁ、“解放”!!」

「!?!?!??」

 瞬間、レジギガスの手がラルドから勢いよく離れる。
 悲鳴を上げ、怒り狂っているのか暴れている。
 そんなレジギガスを見上げながら、ラルドはにっと笑い、着地する。

 ラルドが考えた作戦はこうだ。
 レジギガスに握られている間、幾ら“電気活性≪アクティベーション≫改”をしているからといって、身動きができるはずもない。
 ならば仲間からの攻撃で助けてもらう、というのも無理だ。レジギガスはラルドが知る限り、賢い。あそこで攻撃を防ぐより、自分を倒した方が結果的にはいいと分かっていたはずだ。

 ならば、自分で拘束を解くしかない。
 しかし、近距離の電撃にも耐える化け物だ。一体どうやって――と、そこで思い浮かんだのが、解放だ。
 解放が発するエネルギーは、発動時が最も大きく、強い。それを一点に集中したバーストパンチの威力を見れば、どれほどのものか分かるだろう。

 そんな強いエネルギーならば、レジギガスの拘束も解けるはず。
 
「結果、こうして無事にできた……火事場の馬鹿知能、じゃ駄目だな」

「ら、ラルド! 大丈夫!?」

「大丈夫……とはいえないけど、まだ戦うことはできるな」

「よかった……ふぅ」

「心配してくれてありがとう、ってぇ!?」

「えっ……えぇ!!!?」

 心配してくれたミルに礼を言い、レジギガスの方へ向きなおす。
 すると、弾いた手はもう握りこぶしを作っていて、右腕を大きく振りかぶってラルド達を狙っている状態だった。

「避けられ、ない!」

 スタートダッシュを切るのと、同じタイミングで拳はラルド達を潰す。
 このままでは死ぬ――そうおもったのは、ラルドだけではなく、

「あ、あ……ぽ、“ポースシールド”!!」

 死の恐怖を感じたミルは、咄嗟に“ポースシールド”をラルドを含んだ自分の周辺に張る。
 しかし、レジギガスのパワーに、ミルの防御は叶わない。
 触れた瞬間、光の一層を突き破り、二層目となる守るのバリアへと――

「お願い!」

 ――触れた瞬間、拳が滑るようにして逸れる。

「はぁ!?」

「えぇっ!?」

 逸らした本人であるはずのミルですら驚いたその光景に、勿論ラルドも驚く。
 レジギガスのパワーは、先程握りつぶされかけたラルドがその身を以ってよく知っている。普通のバリアじゃ、触れた瞬間に粉々だろう。
 それを何故、と思っている時間はない。巨神は、左腕を既に振り上げている。

「っ、ミル! “電光石火”!」

「あ、う、うん! “電光石火”!」

 ミルへの指示と同時に技を発動するラルド。それに遅れて、ミルも“電光石火”を発動する。
 その名の通り電光石火の速さでレジギガスから距離をとった二人は、大きく息を吐く。

「はぁ……し、死ぬかと思った」

「本当だよぉ……」

「死ななかったんだからいいじゃない」

「うるへー! ……で、フィリア。作戦は?」

「できたよ。あ、一応聞くけど、君、爆雷バレットだっけ? できる?」

「後の事を考えなけりゃ、まぁなんとか」

 爆雷バレットの負担は、バーストパンチほどではないが、それでもかなりかかる。
 レジギガスの“握りつぶす”でかなりの負担がかかった今の状態では、撃てて一、二回が限界だろう。

「よし。じゃ、皆! 鉄のトゲを持ってる人はレインに渡して! レインは、持ってる鉄のトゲを全部出して」

「はい!?」

 突然のことに、レインは驚きを隠せない。
 何を隠そう、レインのバッグの中身は爆裂の種や他種や木の実を除く全てが鉄のトゲだ。銀のハリも中にはあるが、それも数本のみ。
 全部となると、三十近くはある。

「私、十本あるわよ」

「アタイは持ってないねぇ」

「五本あります」

 全ての鉄のトゲをレインに預けているエンジェルは論外だが、チャームズの二人は数本持っていたようだ。

「なら、早速今からいう作業にとりかかって。あ、ラルドとレイン協力してね。それ以外の皆は相手をこっちへ近づけないようにして、かく乱もお願い。技は、あんまり使わないで」

「注文が多いぞ」

「テメェ、フィリアに意見すんのかァ!? あァ!?」

「しないから、黙っとけって! ……で、作業って?」

「鉄のトゲ全部に、マイナスの電気を纏わせて。あ、全部均等にお願いするよ」

「……りょーかい」

「鉄のトゲがこうやって並べられると、使いたくないんですけど……はぁ」

 愚痴を零しつつ、渋々といった感じで作業にとりかかる二人。
 その間、フィリアが言う通りにするなら、敵と一定の距離を保ちつつ、尚且つかく乱する必要があるのだが――、

「かく乱は、私がやるわ」

「カロス」

「後輩たちばかりにいい顔はさせないって、さっきから言ってるでしょう? でも、一向に役立つ気配はないし。私だけでもいい顔したいもの」

「ずるいですね」

「同感さね」

「……お願いします。私としても、身軽な人に頼みたかったので」

「ふふっ、任せておきなさい。チャームズの実力、見せてあげてよ!」

 カロスは両足に力をこめると、ジャンプする。
 ミミロップが得意とする跳躍は、カロスの武器でもあり、盾でもある。
 
 兎のように飛び跳ねるカロスは、レジギガスの周りを跳ねる。
 それを捕まえようと、ラルド達を苦しめてきた反射神経を利用して腕を伸ばすレジギガスだったが、カロスの素早い動きに、捕まえられない。

「ギガアアアァァァス!!!!」

「ふふっ、お怒りかしら?」

 煽るように、いや、煽りながらレジギガスの周りを跳ね回るカロスを見て、メイリーは声を零す。

「カロスは、いつも通りですね」

「そうさねぇ」

「いつも通りって、どういう意味なの……ですか?」

「敬語じゃなくてもいいですよ。いつも通りというのは、言葉通りです。カロスがかく乱し、私たちが攻撃する……私たちを狙おうにも、カロスは攻撃力もありますからね。中々行かせてくれません」

「煽りスキルも高いからねぇ。アタイも、何度か突っかかった事もあったよ」

「へぇ……」

 昔の事を思い出したのか、目を閉じて、うんうんと頷く。
 その横で、ミルはその姿からは思えないカロスの一面に、声を漏らす。

「さぁ! まだまだこれからよ!」

「ギガアアアァァァァァス!!!!!!」

 怒気を含む咆哮は、カロスの動きを一瞬止める。
 その隙を狙ってのびた手も、“気合球”の一撃で勢いが弱まり、捕まるには至らなかった。

「その程度じゃ、私は捕まらないわよ! ……蛇のお嬢さん! いつまでこうしていればいいのかしら!?」

「……後、十秒くらいお願いします!」

「オッケー!」

 レジギガスの巨腕に怯むことなく避け、挑発するように腕へ乗ったり、激しい動きを繰り返す。
 十秒と言う短い時間も、当人たちにとっては長い時間だ。
 
 そんな時間も、とうとう終わりを迎える。

「カロスさん! 準備は終わりましたので、すぐにこちらへ!」

「分かったわ! じゃ、最後に一発……“飛び蹴り”!」

「ギガアアァァァス!!!!!」

 今まで跳ねた勢いをこめた飛び蹴りは、見事にレジギガスの右足に直撃すると、その反動を利用してくるくると空中で回転しながら、ラルド達のいる場所へと戻ってくる。
 すたっと綺麗に着地したカロスは、どこか満足そうな顔だ。

「ふふっ、後輩にいいところ見せれたでしょう?」

「あなたの汚点を離しておきましたので、相殺されたかと」

「!?」

「わ、私はなにも聞いてません! 実は口が悪いなんて、一言も聞いてません!」

「聞いてるわね……しっかりと」

「あっ!」

 慌てて口を塞ぐミルだったが、時既に遅し。
 落ち込むカロスを、メイリーはまぁまぁといって宥める。

「大丈夫ですよ。あなたの勇姿は、しっかりと後輩たちの目に焼き付けられましたから」

「本当? 信じるわよ?」

「はいはい。……子供っぽいんですから。フィリアさん……でしたっけ? 準備完了したんですよね?」

「あ、はい。後は……一斉攻撃を仕掛けるのと、ちょっとした小細工を少々するだけです」

 にやりと笑うフィリアに、同じくメイリーも微笑する。
 遂に、目の前の巨神に痛い目を見せるときが来たのだ。
 苦戦させられただけに、その喜びは大きいものとなる。

「さ、小手先の準備は大体完了しました……皆! 出し惜しみせず、全力攻撃を仕掛けて!!」

「了解。……“解放”」

「分かったぜェ、“解放”!!」

「俺も解放……してたわ」

 全力を出し尽くすため、二人は再び解放をする。
 銀の瞳、真紅の瞳、翡翠の瞳。
 それらが映すは、目の前に在る巨神レジギガス。

「さぁ、レジギガス。散々苦しめられたし、俺もちょこぉっと絶望しかけたが……これで、そっちもこっちも最後だ!!」

「ギガアアアアァァァァァァス!!!!!!」

 レジギガスに、その言葉が通じたのか分からない。
 ただ、通じているように見える。それだけで十分だ。

 全員が全員、自分が今持てる最大の技を持って、相手を倒す。
 長い戦いに、終止符を打つために、最高で最大の合体攻撃を撃つ。

「これが俺の、俺たちの、全力だぁ!!!」

 眩い光が、辺りを照らし――、

「“暴雷”!!」

「“シャインロアー”!」

「“ソーラービーム”!!」

「“波動弓モルフォス貫通型”」

「“シーストライク”!」

「“紅蓮の斬波”ァ!!!」

「“破壊光線”!」

「“ムーンフォース”!!」

「“サイコキネシス”!!」

 九つの、今までにない強大なエネルギーの嵐が、一つの巨大なエネルギーとなって、触れる地面を消し去りながらレジギガスへ向かっていく。
 その圧倒的な質量を前に、レジギガスも本気を出さなければやられると直感で理解したのか、力をこめて真正面から受け止める。

 が、そのエネルギーは解放組三人だけが放った物ではない。全員の力が真に合わさった一撃は、レジギガスの力を超えていた。
 だからこそ、最終防衛手段である逸らすことへ、レジギガスは受け止めてから一秒も経たないうちに移行する。

 それこそが、フィリアが知るレジギガス最大の隙だ。

「今だよ、ラルド!」

「分かってるよ! “電磁波N”!!」

 ラルドから放たれた太く、赤い電磁波は、レジギガスの右足へ纏わりつくと吸い付くようにして消える。
 直後、ラルドとレインが協力してSの電磁波を纏わりつかせた鉄のトゲ、時々銀のハリが、一斉にして右足に吸い込まれるように飛んでいく。

 勿論、エネルギーを目の前にして何とか逸らそうとしているレジギガスに、そんなものが見えるはずもない。
 全てのトゲが、右足に刺さる。

「ギ、ガアアアアアァァァァァァス!!!!!!」

 勢いよく刺さった鉄のトゲは、三十本という数もあってレジギガスの右足に多大なダメージを与える。
 血を吹く右足の膝をつくレジギガス。そうなれば当然、受け止めるために踏ん張る力がなくなり、エネルギーを逸らす事はできなくなる。

「いっけぇぇぇぇ!!!!!」

 ラルドの声と共に進むエネルギーは、レジギガスに今度こそ直撃――せず、レジギガスの右腕と左腕に、上と下から抱え込むようにしてギリギリ止められる。
 決して負けない。そんな気迫が感じられる巨体に、ラルドは思わずたじろいでしまう。

 だが、こちらとて負けられない。負けるわけにはいかない。
 やっと見えた勝利への光明を、ここで失うわけにはいかないのだ。

「どうすりゃいい……!?」

 締め付けられた時のように、考えるラルド。

 攻撃して後押ししようにも、皆、この攻撃に全てを注いでいる。もう、あれを後押しできるほどの攻撃はできないだろう。
 ならば負けるか? いや、ここで負けることは許されない。自身の中で上手く言葉にはできないが、感覚的にそう思うのだ。

「どうすれば……!?」

「簡単じゃないか」

「えっ!?」

 悩むラルドの考えを見抜いたのか、フィリアが横から声をかける。

「どうすればいいんだよ。教えてくれ!」

「簡単じゃないか……後押しするにあたって、なにも拳を使っちゃいけないルールはない」

「……それって」

 フィリアの意図に気付くラルド。それと同時に、顔がどんどん青褪めて行く。
 ようは、拳で後押しをしろということだ。それを、ラルドにやらせようとしている。

 そこで思い出す。フィリアが爆雷バレットは使えるかどうか聞いてきたことを。
 そこまで思い出して、溜息をつきながら、ラルドは腰を低くし、走る体勢を取る。

「分かったよ。……勝つためなら、やってやるよ!!」

「それでこそ我がリーダー。さ、行ってらっしゃい」

「すぅ……“電光石火”!!」

「……えっ、ら、ラルドォ!?」

 “高速移動”と“電光石火”。重ねるたびに早くなる高速移動は確かに強いが、今この状況で頼りになるのは電光石火のほうだろうと考え、走る。
 驚くミルのことは気にも留めず、ただ走る。
 負担を考え、解放は途中で解除する。それと同時に、自分の中にある残り少ない電撃を、右手に全て纏わせる。

 正真正銘、これが最後だ。

 走る手足に、汗が生じる。その汗で滑りそうになるも、ただひたすら鍛えた握力でなんとか堪え、走り続ける。
 リミッターが解除されてない今、少しでも力を高めようと、大声を上げる。

 体中に汗が流れる。鼓動が早まる。息が荒くなる。
 最後の一撃に、緊張が体を支配する。

 でもそれ以上に、ラルドを支配する物があった。

「レジギガスゥゥゥ!!!」

「ギガアアアァァァァァス!!!!!!」

 魂と魂のぶつかり合い。
 咆哮と咆哮のぶつかり合い。

 その勝負を制したのは、

「“爆雷バレット”ォ!!!!」

「ギ、ガアアァァァァァァァァス!!!!!!!」

 押し込まれるエネルギー。それを必死に止めようと力をこめるレジギガス。
 大陸を引っ張るとまで言われた腕力。だが、ラルドも負けては居ない。
 段々と、押し込まれる。エネルギー。それはレジギガスの敗北が地位かづいているという証でもあり、ラルド達の勝利が近づいているという証でも在る。

 長い長い、短い短い、そんな勝負も終わりを告げる。

「これで、終わりだァ!!!」

「ギ」

 声をかき消すほどのエネルギーは、レジギガスの体に直撃して、




 勝負を制したのは、ちっぽけで矮小な――侵入者たちだった。





次回「また」

■筆者メッセージ
今回はかなり早く仕上がったと思います。自分にとってはですけど。
どうしてもゲームの誘惑に勝てない…何故だ。

次回「また」次回もお楽しみに!
ものずき ( 2014/03/23(日) 23:10 )