第五十八話 強大すぎる巨大
石像から現れた、十二体もの番人たちを難なく撃退した九人。しかしそれは余興に過ぎず、遂に巨人“レジギガス”が――?
〜☆〜
冷気を放ちながら、岩を落としながら現れたソレは、圧倒的過ぎるその巨体を、ゆっくりと、同じく巨大な足で持ち上げる。
レジスチルなどとは比較にもならない豪腕、巨体、脚、全てが巨大として言いようのない、完璧な肉体を持つ巨人。
それが、最後の番人“レジギガス”。
「――」
ラルドはソレを、最初戸惑いながら見るしかなかった。
巨大、強大――あらゆる言葉が、ソレを見ていると脳内で自動的に復唱される。勝てるのか? などという問いかけも、自分の中でした。
だが、それすらレジギガスの強さを考え、それと戦うのを理解した瞬間、消えうせる。
「――みんな!! これが最後だぁ!!」
『おぉ!!』
ラルドの一言で、全員の士気が高まる。
落ちかけていた士気が、たかが一言で高まってしまう。
これが、エメラルド――エンジェルのリーダーの持つ、“信頼”というものから成り立つ一つの“技”だ。
「……ふふっ、やる気満々といった所ね」
「なら、私達も行きましょうか」
「そうだねぇ! この探検の最後の戦いだから、先輩らしく行くよ!!」
ソレと共に、チャームズもレジギガスへの戦意を高める。
そう、この九人に絶望など似合わない。
例え絶望したとしても、はいてはいて、何度挫折したとして――立ち上がっていくのが、エンジェルだ。
「ギガ、レジギガス」
だからこそ、レジギガスも全力を以って排除する。
目の前の敵を、番人の勘で強いと見切ったレジギガスは、顔にある点を点滅させる。
戦闘、開始だ。
「“十万ボルト”ォ!!」
「“シャインロアー”!」
ラルドの電撃と、ミルの光の咆哮がレジギガスへ向けて放たれる。
白い咆哮と雷が融合した一撃は、通り過ぎた地面の一部を融解させるほどだ。
レジギガスはそれを見て、手を前に突き出すと――受け止めた。
「ギガァアアアス!!」
「ちっ!」
「う、受け止められた!?」
白い豪腕は、見ての通りの力を誇る。
大陸を引っ張るかどうかは定かではないが、そんな伝説が残るという事は、つまりそれだけの何かをしたということだ。
伝説の豪腕は岩をも砕くであろう一撃を、それも本気ではないというのに軽がると受け止める。
「ならば、これはどうだ! “波動弾”!」
「“炎の斬波”ァ!!」
「“枝垂桜”!」
「“ムーンフォース”!!」
四つのエネルギーが合わさり、先程よりも高密度で高純度なエネルギーの塊となってレジギガスへ向かっていく。
地面を抉りながら進むエネルギーの塊は、レジギガスへと向かっていき――今度は両手で、しっかりと受け止められた。
「なっ!?」
「これでも、駄目なのかよォ!?」
「……これは、予想外だね」
「厳しい、わね。どう見る? メイリー、ニンファ」
「……考えたくは有りませんが、まだ相手が本気を出していないので、本気を出していると仮定して……ここにいる全員が力を合わせて、やっと互角という所でしょうか」
「アタイも、それくらいだと思うよ」
驚愕の表情で満ちるエンジェルと、目の前の敵の強さを冷静に分析し、予想するチャームズ。
ここに経験の差ということが出ているのだが、そんなことを気にしている暇はない。
早速、意気消沈する皆を見てラルドは何とかしなければならないと、叫ぶ。
「確かに強い……でも、やるっきゃない! 大丈夫だ。今までだって、なんとかなってきた。なんとかなる!」
「……その通りだ」
「あァ、やるしかないな」
「……で、でも。相手、あんなに強いんだよ?」
「なんでディアルガと対峙したお前が弱気になってんだよ! もっと自身持てよ! 第二の英雄さん!」
「ぷ、プレッシャーかけないでよぉ……!」
涙目になりながらも、先程よりは幾分か活力を取り戻しかように見えるミル。
そのやり取りを見ていた周りも、心にかかっていた黒い絶望感が晴れる。そして、希望の芽が生えてくる。
ラルドのがんばりで、全員の士気が再び高まったのだ。
「さ、やるぞ! ここで悩んでたって変わらない! まずは一撃! それさえ入れれば、勢いは俺たちの物だ」
「分かって、らァ! “炎の斬波”ァ!!」
ラルドが言うと同時に、炎の渦と斬撃のあわせ技、“炎の斬波”がレジギガスを襲う。が、巨体はその炎を、まるでゆっくりと飛んで来たボールをキャッチするかのように受け止めると、握りつぶす。
「チィッ、防がれたかァ!!」
「ふん、貴様の軟弱な技だからそうなる。“波動連弾”」
十、二十、それすら超えるであろう波動弾が、レジギガスへ向かって一定の速度で飛んでいく。
前と後ろ、同じ速度で飛んでいるので、当然タイムラグもある。そんなタイムラグに、レジギガスも攻撃を受けてしまうのではないかと、希望を抱いて攻撃を放つ。
が、レジギガスにそんな小手先の業は通用しない。
左、右。両方の腕で薙ぎ払うようにして波動弾をすべてかき消すと、自らを襲う攻撃をすべて防いだ。
「ハッ、テメェの軟弱弾も防がれてんじゃねェか!!」
「……ちっ」
「喧嘩している場合じゃないでしょう? “気合球”!」
「“十万ボルト”!」
カロスの気合球、ラルドの十万ボルトも、レジギガスの右腕の前には無力だった。
薙ぎ払われるようにしてかき消され、それどころかレジギガスの左腕から繰り出される“メガトンパンチ”によって、ラルド達が居たであろう場所がひび割れ、少しめり込む。
よけていたからよかった物の、まともに受けていれば骨が全部粉々になっていたかもしれない。それほど威力の高いものだった。
「……まだだ!! “雷”!!」
「“十字火”!!」
十字状の火と、雷は、互いに合わさりレジギガスへと向かっていく。
それも、同じようにして防がれる。
「くそっ……ミル! ヒイロ!」
「うん。“シャインロアー”!」
「“雷”!」
「“炎の斬波”ァ!!」
三つの同時攻撃。それすら、レジギガスにとっては先程と変わりないものなのか、右腕のみで受け止められる。
攻撃が、通じない――実際、ダメージは受けてはいるんだろう。但し、とても目に見えるほどではないのは、目に見えて明らかだ。
諦めたい――それでも諦めるという言葉が出なかったのは、達成感を求める気持ちと、リーダーとしての責任感からだろうか。
「まだ、まだだ! “暴雷”!!」
二つの、暴れ馬の如く疾走する雷も、レジギガスの巨大な右手の前には無力。
だからといって、諦めたくはない。だからといって、叶う術が有る訳でも無い。
――いや、ある。
あるといえば、ある。しかし、それは一発限りで、なにより目の前の巨体が一撃で倒れてくれるか分からない。
その一撃、“バーストパンチ”に繋げるためにはどうすればいいのかも、頭の中では出来上がっている。ただ全員の攻撃を受け止めさせている間に、ラルドが近づいて放てばいいだけだ。
だが、自身がレジギガスへ近づいて発動するまでに、果たして受け止めさせていられるのだろうか?
見ると、皆も疲労がたまってきている。自分もレジアイスとレジスチル戦を通し、チャームズに至っては一度倒されているのだ。
疲労がたまれば、それだけ人の心も弱る。心と体は、親密な状態にある。
全体の勢いが、今途切れようとしていた。
「……ッ。まだだ……強いけど、確かに強いけど」
それでもディアルガと比べれば、どうということはない。
自分ひとりが諦めなければ、きっとなんとかなる。
そう信じて、ラルドはすぅっと深呼吸をすると、目を見開いて技の発動体制に入る。
「終わっちゃいないから、まだ戦える! “十万ボルト”!」
「ギガアアアァァス!!!」
迸る電撃も、巨人の拳の前には無力。
“メガトンパンチ”の一撃によって弾き飛ばされた電撃は、拳の勢いを止めることすら叶わず、ラルドはメガトンパンチを辛うじてよける。
「みんな! さっきも言っただろ! ……攻撃し続けりゃ、なんとかなる! 戦い続けりゃ、弱点も見えてくる。そこの役立たずの蛇さんが、絶対弱点を見つける!」
「それは心外だね」
「ホラ見ろ、こんな奴でも、諦めてはいないぞ。だから頑張れ! だから睡眠の種はしまえよ馬鹿!」
「……」
本当に食べさせてレジギガスに制裁してもらおうかと思ったフィリアだが、一応皆の励ましをしているので怒るに怒れない。
なにより、悪ふざけをしているようで、ラルドの顔は至って真剣だ。
「……なにを言っている」
「えっ……」
シルガが零した言葉に、ラルドは自分の言葉が届かなかったのかと、思わず声を出してしまう。
しかし、その後に出た言葉はまったく正反対のものだった。
「俺が、いつ諦めた? 俺が諦めた事といえば、人生のうち、数えても五回に満たない程度……そのくらいだ」
「し、シルガ……っと、“電光石火”!」
「“神速”」
ラルドが励ましていようと、レジギガスはそんなことはお構いなしに豪腕から繰り出す拳で、ラルド達を狙う。
話している間はまつ、なんてことをしてくれるほど、敵は親切ではないのだ。
「俺から言うのはここまでだ。さ……諦めずに、頑張ろうぜ! “十万ボルト”!!」
「……ハッ!! 俺がいつ、諦めた、なんて言ったよォ糞鼠ィ!! “炎の斬波”!」
叫びながら放った一撃は、レジギガスがきちんと右手で受け止める。しかし、こんな所で全力の攻撃をするとは思ってもいなかったのか、握りつぶせた物の少しだけ傷を負ってしまう。
「ハッ……どうだ、俺が、最初に傷をつけてやったぞォ!!!」
咆哮するヒイロを、ラルドは小さくガッツポーズすることで、感謝の意を伝える。それが、無事に伝わったかどうかは、神のみぞ知る事だが。
持ち直しただけの勢いが、ヒイロによって後押しされ、再び強い流れとなって、レジギガスを苦しめる。
今ここに、こちら側優勢の図が完成した。
「なら後は、勢いに乗るだけだ。みんな、やるぞ!!」
おぉ、という掛け声が響くと同時に、レジギガスへ無数のエネルギー弾が放たれる。
人というものは単純で、だからこそ強い。
勢いが弱まれば自然と力強さも無くなっていき、逆に勢いが強ければ、普段以上の実力を発揮する事だって可能だ。
そんな九人を相手に、さすがのレジギガスも劣勢に立たされざるをえなかった。
「“十万ボルト”!」
「“シャインボール”!」
「“ムーンフォース”!」
放たれる数々の技に、自然とレジギガスに化け物じみた反応速度にも、遅れという物が生じる。
両腕の妨害を抜け、レジギガスへダメージを与える回数は目に見えて増えた。
これならば、今の状態なら、確実に倒せる――はずだった。
それが確実でなくなったのは、戦闘開始から五分。丁度、今から三十秒後の話だ。
「……?」
そのことに気付いたのは、フィリアとメイリーが最初だった。
レジギガスから放たれる威圧感、その鋭さが、増したのだ。
そのとたんに、レジギガスの反応速度が、目に見えて速くなる。遅れという物が生じていたはずの反応速度が、再び攻撃を防ぎ始めたのだ。
それだけではない。
パワーが、明らかに増していたのだ。
強力な攻撃は、更に強力な物へと変化し、拳は地を割り空を穿つ。
「っとォ!! ……なんか、強くなってねェかァ!?」
「“十万ボルト”! っ、無駄口叩く暇あったら、少しは攻撃しろ!」
「分かってらァ、“線火”!」
強力な攻撃ではだめならば、数で勝負――そう思ったヒイロは、炎に包まれた両の剣から、線のように細い炎の斬撃を複数個飛ばす。
広範囲に放たれた技も、しかしレジギガスの巨大な手の前には無意味で、全てがかき消され、両手でもかき消しきれなかった炎は、驚異的な速度で右腕を戻すと、体に当たる前に握りつぶす。
明らかに、パワー、スピードが上がっていた。
「チィッ!!」
「……何故、今になって急に……奴は本気を出していなかったのか……?」
「わ、私、いよいよ役立たずになってきた……?」
「……」
立ち込めるレジギガスという名の暗雲に、再び心が折れそうになる。それは、ラルドも皆も同じだ。
だが、諦めない。ここで諦めれば、今までの何もかもが終わるのだ。
なにより――ここで諦めたら、ラルドはリーダーとして、自信をもてなくなる気がする。そうなれば、探検の失敗へとつながる可能性もある。
たった一回の探検でと、普通ならば考えられない。でも今は、そんな気がしてならない。
それは避けたい。
「……フィリア。レジギガスの弱点、なんか見つかったか?」
「鈍足って訳でも無いし、挙動が遅い訳でも無い。強いて言うならば遠距離攻撃を持っていない、あるいは使ってこないってだけだね……今の変化で、かなりの隙が減った」
フィリアの双眸が見つめる先には、ヒイロとシルガ、ニンファと近距離を得意とする者達を豪腕で相手する、巨神の姿があった。
白がベースの体は、所々に黒い模様のようなものがついていて、胸の辺りには三色の石のようなものが左右対称についていて、黄色い顔に太い腕。
苔に包まれたような足を持つ、どこか神々しさを感じる巨体は、今にもラルド達を全滅せんとばかりに、その豪腕を振るっている。
「弱点が見つからないなら……作戦か」
「まぁ、そうなるね」
本当は弱点を知った上での作戦が好ましいのだが、そういっていられる事態でもない。
重い敵ほど威力が増す“けたぐり”も、レジギガスには少しも効いていないように見える。豪腕には見た目どおりの馬鹿力が、その姿から想像もつかないような速度が、そして巨体に見合うだけの体力。
それら全てが、ラルド達を苦しめる。
「君のバーストパンチ、それとシルガとヒイロにもそれの真似事をやってもらいたいと考えている。それがあれば、レジギガスといえど一溜まりもないと思ってね」
「流石フィリア。俺の考えている事と同じ! ……じゃ、どうすればいいかも考えてるよな」
「僕たちで注意をひきつける。……でもその前に、確実にそれを当てるための準備が必要だ。今からやったところで、みんな疲労も溜まっているし、万が一外れたり、相手が奥の手を持っていたら一溜まりもない」
「そこらへんは考えてなかった。……じゃ、やってくる!!」
「行ってらっしゃーい」
手を振るフィリアを見ることなく、ラルドは頬の電気袋を放電させる。
バチバチと鳴る電気は、やがて一つの電撃へと姿を変え、レジギガスへ向けて放たれる。
「“十万ボルト”!」
ラルドの十八番、十万ボルトはいつもよりもこめられた電力が強いのか、レジギガスも薙ぎ払うのではなく、受け止め、握りつぶす。
「みんな!! とりあえず言っとくと、弱点見つかんない!」
「はい!?」
レインが零した驚愕の声。その中に含まれる絶望は、すぐに伝染し、不安を煽る。
それだけなら、そのままバッドエンドルート直行だ。しかし、まだ言うべきことはある。
「弱点見つからない……から、フィリアと俺とで最適じゃないだろうけど作戦立てた! そのために、時間稼ぎだ! 相手の手の内を、俺たちで暴いてやろうぜ。ってこと!」
「なるほど、そういうことか」
「手の内って、でもどうやって?」
「それは追い詰めりゃ、相手も出さざるをえないだろ。それでも駄目なりゃ、そこまで役に立ってない先輩方の意見を頂戴」
「怒るわよ?」
「すいません。でもやっぱり場の雰囲気を和らげるには誰かを馬鹿にするしかなかったんですすいません」
一応謝ってはいるが、棒読みなので普通ならばここで“ピヨピヨパンチ”の一発でも叩き込まれた所で、文句も言えない。
が、今は雰囲気を和らげるという目的があり、それは必要なことだった。
怒るに怒れないとは、まさにこのことだ。
とりあえず平謝りを済ませると、ラルドはレジギガスへと向き直る。
「――さ、希望は見えた。やろうぜ、みんな!」
おぉ、という掛け声とともに、幾つもの攻撃がレジギガスを襲う。
電撃、光の弾、波動の弾、炎の斬撃、水の一撃、気合球、念動力、などのエネルギーが、次々にレジギガスに傷をつくる。
しかしレジギガスも負けては居ない。先程までならば劣勢にたたされている所だが、今は特性“スロースタート”の呪縛から解き放たれ、全力――ではないが、それでも本来の実力は出せている。
スロースタートという特性は、強大すぎる力を封じるためのようなもので、戦闘が始まって五分――正確に言えば、自身の闘争心が一定以上まで達した瞬間から、五分がたつまで本気を出せないという特性だ。
幾つもの攻撃を防ぎ、それを見ても諦めずラルド達は攻撃を続ける。
「“十万ボルト”!」
「“気合球”!」
「“シーストライク”!」
「ギガアアァス!!!!」
“炎のパンチ”と三つのエネルギーのぶつかり合いは、強い衝撃はを生み、互いに相殺しあう。
勢いが高まり、闘争心が上がり、それに比例して技の威力も上昇したのだろう。人間、思い込んだら多少は強くなるものだ。
「相手を追い込んで、手の内を見る! そうすりゃ、対抗策も思い浮かぶはず。……頑張ろうぜ!!」
「うん! ……私も、やれる気がしてきたよ!」
「その意気だ! 頑張ってくれよ、副リーダー」
「だからプレッシャーかけないでよ……“シャインロアー”!」
「“波動連弾”」
光の咆哮は単発でレジギガスが右腕で防がざるをえない威力を誇り、その隙を狙って波動の連弾がレジギガスを襲う。
光によって視界が妨げられていたレジギガスは、突如現れたかのように見えた波動弾の数々に驚き、対処する間もなく直撃する。
「やった!」
「見てた!? 私のお陰だよ!」
「俺のお陰だろう、馬鹿か」
「うーっ!!」
はしゃぐミルを、横から馬鹿にするように、というより馬鹿にするシルガ。
そんな二人を見つつ、ラルドは“十万ボルト”で迎撃する。
「これなら行けそうじゃない? ね、ニンファ?」
「そうさねぇ」
チャームズでさえも、現状はこちら側が少し有利だと思っている。
それはその通りで、レジギガスは確かに自分たち九人より強い。しかし、勢いにより全員の士気が上がり、イコールとはいえないが全体が強くなる。
今現在、五分五分の戦いを繰り広げているのだ。伝説のポケモンという、一般のポケモンとはそもそも種族からして格の違う、そんなポケモンに。
「いける……今度こそ!」
さっきとは違い、目標ができた。
さっきとは違い、向こうも本気だ。
さっきとは違い、勢いが自分たちを大きく後押ししている。
「目標達成する為に、見せてもらうぜ。お前の手の内――一斉攻撃!」
「分かったわ!」
ラルドは電撃を、ミルは光を、フィリアは太陽光線を、シルガは波動を、レインは水を、ヒイロは炎を、カロスは格闘エネルギーを、メイリーは月の力を、ニンファは念動力を、それぞれ放つ。
「食らえ、“暴雷”!!」
「“シャインロアー”!」
「“ソーラービーム”!」
「“波動連弾”」
「“シーストライク”!」
「“炎の斬波”ァ!!」
「“気合球”!」
「“ムーンフォース”!」
「“サイコキネシス”!」
九つ。計九つのエネルギー波が、集束し、レジギガスへと向かっていく。
地面を抉り、一部は融解し、赤々と光る。
束ねられたエネルギーは白く光りながら、その巨体を吹き飛ばさんとばかりに向かっていく。
レジギガスはそれを、自身の両の豪腕で受け止める。だが、全員の力が合わさった一撃は、流石のレジギガスも握りつぶしきれず、このままでは力負けしてしまう。
このままでは力負けしてしまい、大ダメージを受ける――
ならば、このままでいなければいい。
「ギガアアアアァァァス!!!!」
白い豪腕が、一回り大きくなる。
それは、力をこめたときに起きる現象で――それを見た事がないということがどういうことか、全員が直感的に理解した。
エネルギー球は、やがて段々と小さくなっていくと、まるで大量の蛍が散り散りになって飛んでいくかのように、雲散していく。
白い光の粒子が空へと消えていくのを見て、ラルドは震える足では体を支えきれず、膝をついてしまう。
目の前の巨神の脅威は、まだまだ終わらない――。
次回「希望の芽が開くとき」