ポケモン不思議のダンジョン空の探検隊 エンジェル〜黒と白の12の翼〜







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第五章 右腕と番人
第五十七話 番人たちとの戦い
 鋼鉄の番人レジスチルを倒し、チャームズを助け出したエンジェル。チャームズの手助けを受け、今、最後の間へと――?






〜☆〜


 ――最後の間へのダンジョンにて。
 襲い掛かるアンノーンや、その他のカイリキー、クロバットなどのポケモンからの猛攻を掻い潜りぬけ、エンジェルとチャームズは順調に最後の間を目指していた。

「“十万ボルト”!」

「“シャドーボール”!」

 チャームズの目の前だということもあってか、エンジェルは一層張り切っていた。あのミルでさえも、積極的に攻撃をしているのだ。
 マスターランク探検隊にいいところを見せたいというのは、探検隊として当然の心理だ。

「へぇ、凄いじゃない」

「ほぼ一撃、ですね」

「それに、不意打ちも喰らってないねぇ!」

「シルガの波導がありますから。ああやって周囲の情報をキャッチして、不意打ちを未然に防いでいるんです」

「面白い事をするわね。……あ、かしこまらなくてもいいわよ」

「いえ、お気になさらず」

 フィリアの敬語に、カロスはやめるように伝えるも流石に目上の相手ということもあって、フィリアはやめない。
 ただ敬語といっても万年ニートだったフィリアだ。幾ら記憶力が優れているからといって、数年も使ってこなかった物だ。不完全に決まっている。
 それでもやめないというのは、フィリアなりの敬意の表し、なのだろうか。

 女性探検家にとって、チャームズとは憧れの存在である。
 強さ、賢さ、美しさ、女性にとって必要なものが揃ったチャームズは、それはもう人気で、一般人にさえもファンがいるほどだ。
 フィリアも、敬意を払わなければならないと思ったのだろう。

 そんなことを気にする事も鳴く、ラルドは得意技の“十万ボルト”を向かってくる敵すべてに放つ。
 無尽蔵ともいえる電気量に、近づく敵たちは皆、倒れていき――順調に、最後の間へと進んでいった。




〜☆〜




 ――初めにラルド達を迎えたのは、ひんやりとした空気だった。
 日光などとは無縁の場所の空気は、それはもう冷たく、まるで冬のようだった。
 更には明かりも差さず、できれば回れ右をしたい所だが、突如その場に光が差す。
 周囲へ無意識に十万ボルトを放つというリスクを背負った、ラルドの強烈な“フラッシュ”だ。

「っ……一気に明るくなったのね」

「僕たちのリーダーは、どうにもフラッシュの調節は苦手みたいなんです」

 フラッシュによる全方位の無差別十万ボルトは、ミルの“守る”によって防がれている。

 急激な光の変化に、目を細めざるをえなかった九人だったが、やがてその眩しさに目が慣れると、ゆっくりと目を開けていく。
 眩い光に照らされて見えたのは、古代遺跡といえなくもない、いや言えるような場所だった。
 所々欠け、しかし自身の役割をきちんと果たしている柱。柱と同じ様に欠けているも、どこか威圧感を感じる壁。

 そして中央には、四つの柱が四角形の頂点にそれぞれ立っていて、それを繋ぐようにある一つの線。
 まるでバトルフィールドのようなそこには、合計十三体の石像が立っていた。

「あれは……せきぞうね」

「それに、形が六つずつで違っています。サワムラーと、ドータクン。それぞれ六つの石像があって……あの、奥にある、巨大な石像はなんでしょうか」

「メイリーも分からないってのかい?」

「残念ながら……しかし、レジスチルに、どことなく似てますね」

「それはそうでしょう。あの石像はおそらく、レジギガスと呼ばれる巨人です」

「あら? こちらのお嬢さんは、なにか知っているみたいね?」

 チャームズの三人が、奥で一際存在感を放つ巨像の正体に頭を悩ませていると、フィリアが声をかけながら前へ出る。

「レジギガスって、なにか知っているの?」

「さっすがフィリア! 聡明! 賢者! 俺が剣士だから、フィリアは賢士だな!!」

「少し黙りなよ、ヒイロ。……レジギガスとは、とある神話に出てくる巨人の名です。大陸を引っ張ったといわれる、伝説の巨人。……あの三体が立て続けに番人として出てきたので、まさか、とは思いましたが」

 第一の番人は、マイナス200度の体を持ち、強力な冷気を操るレジアイス。
 第二の番人は、決して死なぬ岩石の肉体を持つ、並の鋼鉄よりも強固なレジロック。
 第三の番人は、伸縮自在、そして重く、硬い鋼の肉体を持つレジスチル。

 ならば、もし最後の番人として出てくるならば、レジギガスだとフィリアは予想していたのだが――、

「その肝心のレジギガスが石像では、恐らくレジスチルで番人は打ち止めでしょう」

「……そうとも限らないわよ?」

「……?」

 横から口を挟むレインに、フィリアは疑問を抱く。
 目の前の石像以外に、この場所に存在しているものは柱や壁、そして自分たちのみだ。地面に隠れるか、透明になるか、隠れていない限りはすぐに見つけられるはずだ。

「まさか、隠れていると?」

「別に? ただ、決め付けるのは早いんじゃないって。チャームズの皆さんも、そう思うでしょう?」

「ま、この程度で終わるようなダンジョンではないと思うわよ?」

「でも、一体どこに……? 私も念力で辺りを探しましたが、見当たりませんよ?」

「“オーラ”も、アタイら以外はないしねぇ」

「波導も、なにも探知できないな」

 サイコパワーによる念力探知は自分たち以外、何も捉えず、またニンファの感じるオーラ――感情によって変わる気のようなものも、同様だ。
 シルガの安心と信頼の波導すら、同様の結果に落ち着いているのだ。

「……どこにも、いないだろ?」

「わ、私も目をこらしてるけど……私達以外は、誰も居ないよ?」

「俺ァ分かんねェなァ」

「……これ以上の警戒は、無意味だよ。どこにもいないんだから、気を張るだけ無駄じゃないかな?」

「うーん……なんか、気配を感じたんだけどねぇ」

「気配!?」

「そうよ、何が悪いのよ。言っとくけど、これでも私、未来世界では予感的中100発100宙だったんだから」

「本当か?」

「……残念ながら、こいつは狡賢さと勘だけは優れている」

 と、言っても、本当にラルド達には誰も居ない。強いて言うならば、石像十三体がぽつんと立っているだけだ。
 それが動くわけがあるまいと、ラルド達はそれらを無視して周りを見る。だが、いくら見たところで誰も居ない。

「やっぱりなにもないって。今までの探検で、疑心暗鬼にでもなってんじゃないのか? な、ミル?」

「うん。なにも見えないし……それよりも、なにかないか探そうよ。今回って、莫大な財宝を見つけるための探検でしょ?」

「……それもそうね」

「そうですね。元は、このダンジョンに眠る財宝を見つけるためでしたから。それに、無駄な戦闘は疲労をためるだけです」

「おとなしく、財宝を見つけろってことですね」

 どこを探しても居ないレインの勘が囁く敵の存在に、ラルド達は諦めて本来の目的である『莫大な財宝』の在り処を探していた。
 ラルドはそこまで興味はないが、折角だ。探してみる価値はあるだろう。

 すっかり緊張感も解け、各自でこの部屋を調べる事になる。
 フィリアはヒイロといっしょに入り口周辺を探し、レインとシルガは偶然にも同じ、奥の方を調べる。
 チャームズも色々な場所を調べていく中、ラルドとミルは二人で石像が置いてある場所へ、調べに向かう。

「俺思うんだよ。やっぱり、秘宝とかってのは、こういう場所に隠し階段が出てきて、その奥にあるんだって」

「でもラルド、隠し階段なんてどうやって見つけるの?」

「それはあれだよ、ほら、よくあるだろ? 探検中七不思議のひとつで。うっかり転んだら、変な階段が急に現れて、奇妙な空間に飛ばされたって奴」

「……この部屋、全部踏んでくの?」

「イエス!」

 断言するラルドにミルは呆れつつ、その四本足で地面を踏んでいく。

「って言ったって、隠し階段なんかないよー。それよりも、みんなを手伝おうよ!」

「いーや! なんか鍵が必要なのかもしれない! 探せぇ! この世のすべてが、そこに置いてあるはずだぁ!!」

「それはない! ……そこまで言うんだったら、この石像のしたにあるって言うの?」

「……ナイスアイデア!」

「えっ。……ちょっと待って、動かすの!?」

 ミルの発言に、ラルドは思いつきもしなかったのか手をぽん、と叩くと早速石像を移動させようと、近づく。
 近づいて、サワムラーの石像に触れたとき――、

「――“電光石火”!」

「――ムラァ!!」

 突如、石像の足に皹が入り、サワムラーの特徴とも言える自由自在にのびる足がッラルドを襲う。
 間一髪、ラルドはそれを“電光石火”によって避ける。

「え……えぇっ!?」

「せ、石像が……石像が動いたぁ!!?」

 ――そんな、驚愕に満ちた叫び声は、すぐさま空気を伝わってこの部屋にいる全員の耳へと届いた。

「! 生命反応が一つ増えた」

「ハァ!? あんたの波導、故障してんじゃないのってぎゃああぁ!!? 石像が動いてる!?」

「あ、あれは!?」

「ハァ!?」

「……メイリー、あれって石像だったわよね?」

「ええ、間違いなく」

「……? となると、ほかの石像も……」

 カロスの疑問が混じった声に、まるで反応したかのように石像に皹が入っていく。
 ぴし、という音とともに、奥の巨像を除いた12の石像が罅割れていき――やがて、その中から解き放たれる。

「――ギャアアァ!!!」

 最後の間にて立ちふさがる、番人たちが。

「ちっ、おい! 今すぐ戦闘準備だ!」

「わァってるが、いきなりすぎんだよォ!!」

「やっぱり! こんなことだと思ったわ!」

「まさか、俺の波導を潜り抜けるとは……!」

「きゃ、きゃああああ!!!??」

「君達! いつもマイペースだけど、今回はチャームズの皆さんもいるんだよ。気を引き締めて、連携して戦ってもらうよ!」

「なんでお前が命令してんだよ! ……分かってるけど!」

 ラルドはその身を青白く光らせ、シルガは波動で身を包み、ヒイロは先程の戦いのダメージも考え、身体強化技は使わないようにする。
 各々も準備を整え――完璧、とまではいかなくとも、これでいつでも戦えるようになった。

 チャームズも、珍しい戦闘準備をするエンジェルの二人を見つつ、戦闘準備を終える。

「ギャァア!!」

 そこへ、一匹のサワムラーがバネのように伸びる足を使った、範囲が大きすぎる“回し蹴り”を放つ。
 それとともに――戦闘が、始まった。

「“アシストパワー”!!」

 絶大な範囲を誇るサワムラーの“回し蹴り”を、メイリーは自身の能力によって威力が変動するエスパー技、“アシストパワー”で防ぐ。
 弾き飛ばされた足は、大きく弧を描きながらサワムラーの元へと戻っていく。
 追撃にと、更にミルが“シャインボール”を放つ。しかし六体のうち三体のドータクンの“念力”によりすべてが当たる前に爆発する。

「惜しい!」

「その調子よ、兎ちゃん! 番人さんたち、それで終わりじゃないわよ! “気合球”!!」

 ミルが悔しがる中、カロスは格闘タイプの中でもかなりの威力を誇る特殊技、“気合球”で大ダメージを与えようと放つ。
 しかし、それすらもドータクンの念力バリアーの前にはたいした意味をなさず、見えない壁にぶつかり爆発する。

 その爆発を利用して、サワムラーは煙の中からのびる“メガトンキック”で不意打ちを行う。
 が、対象がミルだったため、“守る”で容易に防がれた。

「くそっ、これじゃ攻撃が!」

「流石エスパータイプね。味方だとかなりの戦力だけど、敵になるとこんなに厄介だとは……メイリー!」

「はいはい。分かっていますよ」

 メイリーは念力バリアーを注意深く観察すると、なにやらぶつぶつと呟きながら、その白い手に同じく念力によって作り出されたエネルギー弾を作り出す。
 呟くごとに大きさ、またはエネルギー量が変わっていくそれは、メイリーが目を見開いた瞬間に変化をやめた。
 と、同時に、メイリーはその念力弾をバリアーへと向けて放つ。

「ギャァ!!」

 低い、重低音な声で鳴くドータクンは、その念力弾を念力バリアーで防ごうとする。
 が、念力弾はバリアーを無いかのように素通りすると、驚いた表情のサワムラーに直撃、相性もあって、そのサワムラーは既にふらふらだ。

「ナイスよ、メイリー!!」

「どうも」

「……今のは、なんですか?」

「そうですね。簡単に言えば、あれをバリアーの一部だと思わせたんですよ」

 ポケモンの技にもバリアーというのはあるが、それは防御をあげ、自分へのダメージを軽減する物だ。
 あの念力バリアーは、普通に念力で造られた壁、だ。
 ならばそれとまったく、念波も質量も、全く同じ念力弾を放つ事で、壁と同じ弾にドータクンは混乱し、その隙を突いて突破できたという訳だ。

「まぁ、一発限りですけどね。あくまで混乱です。全く同じ念力の弾を放った所で、壁を通り抜けるというわけではありません。ただ、混乱を誘っただけです。向こうもこんな手を考えられるくらいですし、もう次はないでしょう」

「では、どうするのですか?」

「ふふっ。最初に壁を破ったのは私達……なら、次はあなたたちの番ではなくて?」

「……なるほど」

 フィリアの問いかけに、カロスは答える。
 その答えにフィリアはふぅ、と溜息をつくと、ラルド達に叫ぶ。

「みんな! チャームズの皆さんがバリアを破ったから、次はあんた達が敗れるべきではなくて? ま、無理でしょうけど。って言ってたよー!!」

「ハァ!? 上等だ、度肝抜いてやらァ!!」

「くそっ! おばさんって言ったのまだ根にもってやがったのか! 見とけ、俺の拳の百万ボルトはすべてを焼き尽くすぜ!」

「ラルド、中二病って知ってる?」

「勢いに身を任せた結果だ、気にするな!」

 そんな、フィリアのでまかせによって勢いが増すエンジェルを、カロスが口を手で押さえて驚きの表情で見ていると、

「どうです? うちの馬鹿共は。……単純ですが、勢いづいたら誰にも止められませんよ」

「……ええ、面白いわ。でも、私たちを悪役にするのは頂けないわよ?」

「悪役? そんなことありませんよ。ただ、自分よりも格上の相手に馬鹿にされたから見返す、それだけです」

「なんだか、子供みたいだねぇ」

「子供ですからね。……僕も、そろそろ戦おうかな」

 ラルドが先頭を切って走り出し、念力バリアーへ向けて“十万ボルト”を放つ。
 だが、念力バリアーはカロスの“気合球”すら弾くものだ。十万ボルトはバリアに阻まれ、十二体の番人の元へたどり着く事はできない。
 十万ボルトが途切れた瞬間を狙って、サワムラー二体の“回し蹴り”が左右からラルドへ襲い掛かる。

 部屋全体を巻き込むそれは、ラルドだけではなく全員が危ないのだが、ラルドは“十万ボルト”をその足へと二つ放つと、ダメージを与えるとともに攻撃を中断せざるを得なくする。
 電撃に包まれる二体のサワムラーから、他の十匹が離れていく。

「――見つけたよ。この念力バリアーの弱点を」

 それを見たフィリアは、このバリアーの弱点を見破る。
 そもそも、この弱点は、少し見て考えれば誰にでも解けるものだ。

「ラルド! 敵の攻撃の隙を突くんだ! そうすれば、攻撃があたるよ!」

「……そういうことか!」

「どういうことだァ!?」

「……そっか! 敵が攻撃するときは、バリアーとかなきゃ向こうも攻撃できないや!」

「そういうことね。じゃ、行くわよ! “電棘”!!」

 腕を交差するようにして放った二つの鉄のトゲは、通常のスピードよりも速く飛ぶ。
 そんな鉄のトゲも、念力バリアーに阻まれ――カウンターを仕掛けてくる。

「いまだ!!」

 カウンターとして仕掛けてきた、三匹のサワムラーによるミルを狙った一斉“メガトンキック”。
 それは、並みの守るでは防げず、ミルの守るですら怪しいだろう。
 もう一段階上がなければ、ミルは大ダメージを受けていたはずだ。

「“ポースシールド”!」

 自身のエネルギーで守るを外内両方でコーティングすることにより、三重のバリアを展開する光のバリア、“ポースシールド”。
 それは一層を犠牲に、二層目で三匹のメガトンキックをとめる。

「ギャア!?」

「よし! いまだ!」

「分かってらァ!!」

「言われずとも」

 驚き、一瞬動きが止まったサワムラーたちを、ラルドは見逃さない。
 合図を出し、ヒイロとシルガと共に駆け出すと、その足を掴む。
 そうなればドータクンたちはバリアーを展開する事はできず、いくらでも攻撃を叩き込む事ができる。

 つまり、

「俺たちの、勝ちだ!!」

「“シーストライク”!!」

「“枝垂桜”!!」

「“気合球”!」

「“ムーンフォース”!」

「“サイコキネシス”!」

 五つのエネルギーが合わさり、強大なエネルギーとなって十二の番人たちを――爆発と共に、吹き飛ばした。

「――」

 悲鳴とも取れなくもないなにかが、黒煙の中から聞こえる。
 その瞬間、番人たちが全員倒れた事を、ラルド達は直感で理解した。

「……ふぅ」

「苦戦って言う苦戦もしなかったねー。戦いが続いても、こんなのばっかりだといいのに」

「無理でしょ。こいつの顔見てみなさいよ」

「……もの足りねェ」

「第二の戦闘狂か。全く、戦闘は少ないほうがいいに決まっているだろう」

「そうだねぇ」

 いつもどおり、戦闘後に緊張を解くラルド達。
 それを見て、カロスたちも緊張が解けたのか、溜息と共に座り込む。

 これで、終わったのだろう。
 もしかしたら、まだ地中になにかいたり、壁からなにか出てくるかもしれない。
 石像が動き出した事によって、そんな普段はありえないと一笑に付すようなことも、完全否定はできないが、しかし目の前の事態は終わりを告げたのだ。
 そうすれば、気付かぬうちに緊張は解ける物だ。

「それにしても、まさか石像が動き出すなんてな」

「でも、そこまで強くはなかったわ。多分、最後だからここを作った奴らも甘くしたんじゃない?」

「そうだったら嬉しいなぁ」

「寧ろ、今までが強すぎた、と考えるべきかもしれないね。僕たちの目的は探検なのに、最近は強敵と戦う事が多すぎる」

「いいことじゃねェか」

「……ねぇ、リオルのあなた。エンジェルは個性的でマイペース、なんて訊いてたけど……本当なの?」

「残念ながら。……ちっ、甘やかしが過ぎたか。今度は態と敵を襲い掛からせ、いつ何時も緊張感を解く事は許されないという事をあいつらの体に刻み込むべきか……おい、なんだ。その目は」

「いえ……噂も、馬鹿にできないと思いまして」

 噂も馬鹿にできない、つまり捉えようによっては馬鹿にされているといってもいいが、シルガは自分が個性的、と言えるととして、マイペースではないと思っているのでそのまま聞き流す。
 きちんと全員、個性的でマイペースだというのに、だ。

「……あれ、でもあの巨像は動いてないわよ?」

「お、おい、不吉なこと言うなよ。いいか? そういうこといったら、あの巨像が動き出すんだぞ」

「え、えぇ!!?」

「……だとすりゃァ、好都合だ。あんな巨体と戦えるなんざァ、普通の探検してたらほとんどねェ」

「ホエルオー」

「ノーカンだ」

 ヒイロの中では、ポケモン一の大きさを誇っているといわれるホエルオーですら、満足ではないらしい。
 ならば一体なにで満足ができるのだろうか。それは永遠の謎でもなく、ただ強者と戦えればいいだけだ。

 ヒイロは笑いながら、その巨像を見て――足元に近づいた瞬間、気付く。

「……あァ? ここ、なんか皹ィ入ってんじゃねェかァ?」

「お、おい! 本当に止めろよ! もうつかれてんだよ!」

「わ、私も、もうへとへとで……くたくたー」

「いや、本当なんだがよォ……あァ?」

 ラルド達のほうへ振り向き、返事をする。
 再び顔を巨像の皹のほうへ向けると、なんだか先程よりも皹が大きくなっている気がして、

「……こりゃァ」

 いやな予感が、した。
 ヒイロの、生命の象徴といえる尻尾の炎によって熱され熱くなっている背中に、ふと冷たいなにかが通り過ぎる。
 気のせいではなく、本当の冷気だ。

「――!?」

 気付いたときにはもう遅い。
 次に、ヒイロの頭上に大きな岩が形成されていき、落とされる。
 幾つもの岩石を上空に作り出し、それを雪崩のように落とす。“岩雪崩”という、岩タイプの中でもそこそこの威力を持つ技だ。

 それに気付いたヒイロは、その範囲を瞬時に見極め、避けきれないと判断したのか、鞘に収めた一刀を即座に抜くと炎を纏わせ、その岩石の雪崩を、自分に被害を及ぼすもののみを的確に、それでいて早く真っ二つに切る。

 ヒイロを押しつぶすように真上に落ちてきた岩石は、真っ二つに割れるとヒイロの左右の地面に落ちる。

「えぇ!?」

「ま、また!?」

「岩、ってことはレジロックかい!?」

「でも、さっきから感じるこの冷気……レジアイス、と取れなくもないわよ!」

「私達、そのうちレジスチルとしか戦った事はないけれど……レジスチルから感じる雰囲気を、感じてるわ」

「私も、それに似たなにかが目覚めようとしているのを感じます」

「アタイも、レジスチルに似たオーラを感じるねぇ……!」

 緊張が解かれた瞬間を、まるで突いたかのように現れる雰囲気。
 正体不明で気のせいとも考えられ、しかし明確に感じられるその威圧感は、全員――ヒイロを除いた――の体を硬直させていた。

 一体、どこから――いや、直感的には全員が分かっていたのだろう。
 目の前にある、巨人の像。
 フィリアの記憶が正しいとするならば、“レジギガス”と呼ばれる、大陸を引っ張ると言い伝えられている巨人ポケモン。
 その像の全身に、皹が広がっていく。

 ピシッ、ピシッ、とゆっくり罅割れていく光景と音は、ラルド達の緊張感を余計に昂らせていた。
 ピシッ、ピシッと――やがてそれは終わり、

「ギガァアアアアス!!!」

 低い、うなり声のような音が、辺りに鳴り響いた。






次回「強大すぎる巨大」

ものずき ( 2014/03/03(月) 02:39 )