第五十五話 鋼鉄の番人
第二の番人レジロックと対峙するはフィリアチーム。最強の防御を持つレジロック相手に苦戦するも、最後は相手の自滅覚悟の大爆発を凌ぎ――?
〜☆〜
周囲を見渡す。
そこにあるのは、先程の爆発の圧倒的エネルギーによるものと、それによる爆風による被害の結果があった。
地面はえぐれ、壁は所々が壊れ、かなりの大惨事を想像するほどのものだった。
ただ、その中でも唯一えぐれなかった地面がある。
その部分だけ抉れていない――つまり誰かがその爆発を守りきったということで。
「……ど、どうなったの?」
「僕達は倒れていない。……僕達の勝ちさ」
吹き荒れる砂煙が晴れたとき、そこにたっていたのは三人――フィリア達だった。
レジロックは全身の岩が辺りに飛び散り、中には砕けているものもある。これは、瀕死どころか死んだのではないか、と思うだろう。
だがレジロックに、その程度のことは死とはならない。
全身が全身、岩でできている者のそれは心臓も、血すらもなくただの岩の集合体だ。
おそらく、小一時間もすれば元通りになるだろう。
「あいつは、倒れたんだよなァ?」
「ああ。僕たちの勝ちだよ。……こんなに、番人という物は強かったのか」
ラルド達の戦いの後を見ていた三人だったが、まさかこれほどのものだとは思わなかった。
部屋中氷で覆われていた戦場とは違い、ここは部屋中が抉れている。
辺りに岩も転がっている。惨状の方向性が違うものの、規模はほぼ同じだった。
「レジロック、か。あちらの方はレジアイスといっていたよね」
「氷に岩。さァ、次はどんな相手が来るんだろうなァ?」
「も、もういやだよ!」
だが、その可能性は十分ある。いや、その可能性しかないだろう。
フィリアの頭の中では、とある伝説が思い出されていた。
――大陸を縄で縛って引っ張ったという伝説の巨人が、粘土、氷、鉄で三体の巨人を作った、という伝説が。
もしもそれが今のレジロック、レジアイスだとすれば、確実に次は鉄が来る。
「……ま、ここでなにか言っていても仕方がないね。先へ進もうか」
「おー!」
「フィリアが言うんなら」
三人はオレンの実を取り出して食べ、ヒイロは剣を鞘へ収めるとレジロックが守っていた道へと向き直る。
そして、番人を倒した証を以って、その道へと進んで――
〜☆〜
進んだ先の間は、重々しい雰囲気が漂っていた。
石碑にはスチルの間と書かれていて、ここが三つ目の間だということが分かる。
暗く、重々しい空気で満ちていたスチルの間は、三人の緊張を再び取り戻す程だった。
レジロックを倒して、それで安堵していられる時間はもう過ぎた、ということだ。
フィリアは静かに石碑に歩み寄ると、そこにあるくぼみの形を見る。
「……この石碑のくぼみにあるのは、STEEL、だね」
ICE。ROCK。そしてSTEEL。
アンノーン文字にそれなりに精通しておらず、其の上アンノーン文字のさらに特殊な読み方を知らなければ、意味が理解できない文字の羅列だ。
実際、フィリアも氷、岩と来て次が鋼だろうと予測し、やっとなんとなく気がついたレベルだ。
「氷、岩、そしておそらく鋼……レジロック、レジアイス、レジスチル」
フィリアが知る、伝説のポケモン。
名前が消失し、伝説だけが残っている巨人。
その巨人から作られたという、三匹のポケモン。
レジロック、レジアイス、そしてレジスチル。
レジアイスも、レジロックも実在したとなると、やはりレジスチルも実在する、ということになる。
「もし、あの二匹とレジスチルを創造した巨人もいるのなら、これはかなり重大な事実だね」
伝説だけが残る四匹の巨人の伝説。
そのうち二匹が存在した、ならばもう二匹も存在していると見て、まず間違いはないだろう。
「ねぇフィリア。……番人って、後何人いると思う?」
「……僕の想像通りだったら、後二人だろうね」
「げェ。あんな厄介な奴ともう一戦交えなきゃいけねェのかよ」
ヒイロは、言葉では嫌そうだが声では寧ろ喜んでいるように思える。
ヒイロも、ラルドと同じ様に戦闘を楽しんでいるのだ。いや、戦闘ではなく『バトル』を、だ。
「僕たちの手元に、この石は存在しない。……まぁ、運便りだね」
「フィリアの強運なら、またすぐに取れるだろ」
「そうとも限らない。この仕組みに関しては、アンノーンの出現が大きく関わってくる。つまり運だ」
「確かに。私達、一番弱いもんね」
「アァ!? 俺が、あの化け物鼠はともかく駄犬に負けてるだァ!?」
「ヒイロ、落ち着いて。総合力の話だよ」
向こうには、頭のおかしい治癒速度と戦闘力を持つラルドに、力はヒイロには及ばないが相手の力をほぼ完璧に受け流せ、異常なまでの探知能力を持ったシルガがいる。
それだけでも厄介だというのに、向こうにはレインがいる。
フィリアほど頭がよくないとはいえ、レインはレインで誰も発想しないような考えを、たまにする。
未来組と現代組の総合力は、未来組の方が高いのだ。
「それでも、総合力の話だよ。戦いには運も絡んでくる。多少の差なら、作戦と運で乗り切れる場合もあるからね」
「それでもそうだな。ハッ! あんな奴ら、俺とフィリアのスーパーコンビネーションの前にゃァ、塵と同じだぜ!」
「私をそうやって省くのはやめてよー!」
少し緊張感が和らぐ、いつものやり取り。
しかしここで緊張感を抜きすぎてはいけない。
その気の緩みは、時には自分たちを助けてくれる事もあるが、やはり刃を向けることのほうが多い。
油断は禁物だ。
「忘れちゃいけないけど、今はあの二チームとの勝負中だよ。集めるべき石も分かったし、早速――」
行こうか、とフィリアが言いかけた瞬間。
階段の方から、黄色い物体が飛び出してきた。
それはギザギザな尻尾があって、耳の部分は少し黒く……、
というか、ラルドだった。
「ああああぁぁぁぁぁ!!!??」
ラルドは顔面から地面へダイブした。
「お、おぉ……痛ぇ!! おいなにすんだ、このウサミミ野郎!!」
「あら、これはあなたが悪いわよ。よりにもよって、おばさん扱いするなんて」
「そうね。これは全面的にあんたが悪いわ」
「いやだって、プリルって見た目から二十台後半だろ? なら一緒くらいのこいつっておばさん……ちょっと待って、なんでシャドウボクシングしてるんだ?」
「ピヨピヨパンチよ。知らない?」
「知ってるから! 知ってるから落ち着け!」
カロスの軽やかなフットワークから繰り出される拳は、さぞ痛いだろう。
ラルドは必死にカロスを落ち着かせようとするが、元凶が今更なにをしようが無駄だ。
ラルドに、カロスの鉄拳制裁が下された。
「ぐふっ……あー、ここはどこ? 私は誰?」
「ここは洞窟の中。お前は溝鼠、俺の僕だ」
「ああ、そう。……混乱のふりしてるって、気付いた?」
「元から」
「……君たちは、相変わらずだね」
賑やかで、こんな重々しい空気が漂う場所では、正に場違いな行動をしている集団。
ラルドチームとチャームズだった。
チャームズのカロスは、何故だかラルドに怒り心頭だ。
「エンジェルのリーダーって、とても強くて優しいと聞いたわ。……訂正しとかなくちゃ。強くて優しいお正直者だってね」
「なんだよ。正直はいいだろ。おば……カロス」
「よろしい。年上の人を、そう怒らせるもんじゃないわよ。できればさんをつけてほしかったけど」
「カロスは、もう……それくらい我慢すればいいでしょうに」
「嫌に決まってるじゃない。私はまだまだ現役よ。……あら、可愛いツタージャちゃんじゃない。あなたたちが、今回の勝利者ね?」
「どうも」
フィリアはお辞儀をすると、カロスと視線を合わせる。
こちらをどんな者かと探っている目だと、フィリアは一瞬で見破る。
元々、トップレベルの貴族であるフィリアは、その天性の賢さもあってか他人からこういう風に見られるのは慣れているのだ。
それに他の貴族の嫉妬の視線と比べれば、カロスの視線はまだいいと、フィリアは思った。
そんなことを微塵も表情には出さず、ただ微笑みだけを浮かべるフィリアを見て、カロスは笑った。
「……? どうか、しましたか?」
「いえ。ただ、エンジェルは個性的なメンバーで構成されているという噂は本当だということが分かった、というだけの話よ」
「そうかい? アタイからしたら、プリルの方がよっぽど個性的だと思うけどねぇ」
「アレは個性的、なんて言葉で収められるほどのものではありませんよ。似てますが、もっと別のなにかです」
「……」
そこまで言われるプリルに、フィリアは少し同情したが、考えてみるとプリルなら「そーかなぁ? えへへー♪」などと、全然傷つかなさそうなのでやめた。
と、そんなことを思っていると、カロスは表情を変えて言った。
「さてと。前回は英雄のチームに負け、今回はそこお嬢ちゃんに負けた。なら次は私たちが勝つ、そうよね? メイリー、ニンファ」
「……ええ。当たり前です」
「アタイら、まだ一勝もしてないからねぇ。先輩として、なによりマスターランクとしての威厳を保つ為にも」
「次は、私たちが勝つ。……よろしくて?」
挑発のような笑みで、エンジェルを見渡すカロス。
それを見たラルドとフィリアは互いに顔を見比べると、頷き、一歩前へ出ると、
「「よろしくない」」
そういった。
その言葉を聞き、なにより当たり前だとでも言わんばかりの二人の表情に、カロスは笑みを浮かべると、
「ふふっ。面白いわね。……二人とも、この子たちに先を越されないよう、先に行きましょ」
「はいはい」
「分かってるよ」
そういって、スチルの間のダンジョンへ向かった。
その後姿を見ながら、ラルドとフィリアはふっ、と息を零す。
互いが言葉を交わす必要もないことを、二人は知っている。
ラルドチームとフィリアチームは、言葉を交わすことなくチャームズに続いてスチルの間ダンジョンへ向かう。
――三チームによる最終決戦が、今始まった。
〜☆〜
「“十万ボルト”!!」
「“真空波”!」
「“シーストライク”!」
電撃が、真空の衝撃波が、水の一撃がそれぞれアンノーンを吹き飛ばす。
三つのアンノーンはA、H、Rと、どれも今回の鍵となる石を持つアンノーンではない。
なので勿論、必要となる石は落とさず、また石すら落とさない者もいた。
これが、この洞窟最大の難関だといえる。
簡単に言えばこのダンジョン、最速攻略をしようにも、それには運がかかってくるのだ。
運がよければ一回で石を集められるが、運が悪いとアンノーンに出くわさないまま階段を見つけてしまう。
「おいシルガ。集まったのは、どの石だ?」
「STEELの内、EとLだ。……後はSTEだな」
「げ。まだそんなにあるの?」
「ま、しょうがない。地道にやってくしかないだろ」
既にこれで二週目に突入している。それでも、まだ二つだ。
ここから先、俺たち以外の探検隊も、この収集に苦しめられるんだろうなと思いつつ、ラルドは歩いていた。
勿論、シルガの探知能力でアンノーンは決して逃さない。
「――“波動弾”」
「!!?」
後ろから迫ってきたアンノーンを、シルガは逆に不意打ちの波動弾で倒す。
アンノーンはそれに対処ができず、直撃を受けて倒れてしまう。
そのアンノーンの形は、Sだった。
「Sか……石は、持っているな」
「んじゃ、あとETか」
「……後一週はしないとね。あー面倒くさい」
溜息をつくレインだが、ここまで来たのだ。後戻りはできない。
ラルドはトレジャーバッグにSの石を入れると、再び歩き出す。
「行こうか」
「あァ?」
「お」
スチルの間へ戻ると、そこにはフィリアチームがいた。
こちらと同じ様に、どうやら今戻ってきたところらしい。
いきなりの合流に少し戸惑うも、こんなこともあるにはあるだろう。それよりも、気になる事を聞いてみた。
「よう、お前ら。……石、何個集まった?」
「EとTだね。君たちは?」
「俺たちはS、E、Lだ。丁度、俺たちの石を合わせりゃ通れるのか」
確かに、二つのチームの所持している石を合わせてはめこめば、番人の間へと行くことができるだろう。
だが、それは許されない。
争っているのに手を貸しあうなど、共通の敵がいない限りはないからだ。
「数は僕達の方が少ないね。でも、こればかりは運だ。僕達の方がいいと信じてるけどね」
「はっ。料理もある程度できて、戦いは英雄と呼ばれるレベルの俺だ。当然運もいいはずだな」
「あんたの強いのは悪運じゃないの?」
「言えてる!」
「そこの兎と鼠、後で焦がしてやるからな」
ラルドが電撃を見せつつ距離をつめると、レインとミルは後ろへ下がる。
と、そこでラルドは気付く。
自分の足元に、紙が落ちている事に。
「……? なんだ、これ」
「紙だね。……チャームズ、と書いてあるね」
その時点で、もう嫌な予感しかしなかった。
ラルドは急いで、裏面を読む。
すると、そこに書いてあったのは、
『残念だけど、今回は私たちが先に行かせてもらうわ』
という一文とだけだった。
ただ、それはつまり先を越されたという事で。
「……共通の敵、できたな」
「そう、だね」
敵の敵は味方ということで。
さっきまでの競い合いはどこへ行ったやら。
二チームのリーダーは、それぞれ持っている石を同時に石碑にはめこんだ。
〜☆〜
――階段を下りると、そこには冷たい空気がまっていた。
ひんやりとした空気が肌を包み、それは思わず身震いしてしまう程だった。
その原因は分からないが、きっと戦闘中、使った技のうちに氷タイプの技でもあったのだろうと思い、六人は進む。
するとそこには。
「……ジ、スチル」
全身――顔らしき部分と腕を除く――が鉄で包まれたポケモン。
その昔、とある巨人が鋼鉄から生み出し、マグマで鍛えられた鉄の体を持つポケモン。
くろがねポケモン、レジスチルがいた。
「えっ? ……ねぇ、番人って、こんな短時間で復活する物なの?」
「さぁ……それは、どうかな?」
「少なくとも、今まで戦ってきた番人はそれほど早くに復活はしていなかったな」
レジロックはともかく、レジアイスはそんな早くに復活する事はできない。
チャームズが先に行ったというならば、番人を突破していないとおかしいわけで。
つまり。
「チャームズが、負けた?」
「そんなまさか。チャームズといえば、マスターランクの探検隊だよ。解放した君とも渡り合えるんじゃないかな?」
「そんなに強い人たちなら、負けるかな……?」
「……目の前の相手が強ければ、それも分からんぞ」
シルガのその言葉に、全員の動きが一瞬止まる。
だが、すぐに動き出す。チャームズが負けたのは、恐らくだが本当だろう。復活の種というものはあるが、あれは瀕死状態から一気に回復する、なんて代物じゃない。
六人が身構えていると、レジスチルが動き出した。
「ココヨリ先ニ進ミタケレバ、ソノ力ヲ我――レジスチルニ示セ」
始まる。
今までの二匹とは違う、冷たい威圧感を放つポケモン、レジスチルとの勝負が。
始まる――番人と冒険者の、戦いが。
「“十万ボルト”!!」
「“火炎放射”!」
「“波動弾”!」
先手は、化け物組の攻撃からだった。
それぞれが得意とする遠距離技の攻撃は、慣れもあってか威力は高い。
三つの攻撃は、ほぼ一緒のスピードで向かっていく。
しかもそのうち二つは、レジスチルにとって苦手な属性だ。いくらなんでも、補助技を使用して防御系能力を上げるなり守るなりでダメージを軽減するはずだ。
だが、レジスチルはそれをしなかった。
「レジ、スチル」
「!?」
「う、受けきったァ!?」
三人同時の攻撃は、レジスチルが両腕を交差して防ぎきる。
多少のダメージはありそうだが、それも誤差の範囲で留まる程度。塵も積もれば山となるが、山となる前に塵を積めなくなってしまえば意味がない。
「ちっ、ならば今度は物理だ……“波動掌”!」
「レ、ジ」
波動を纏った蒼いはっけいは、レジスチルの前まで到達するとその威力を発揮した。
岩をも砕くその一撃は、レジスチルの体に大ダメージを与え――なかった。
微量のダメージは受けだろうが、先ほどの攻撃よりも楽そうに受けきった。
つまり、特殊も物理も同じく通らない、ということで。
「レジ、スチル」
「! ラスターカノンか!」
レジスチルがシルガを離そうと、光るエネルギー球“ラスターカノン”を放つ。
その威力は、決して高いとはいえないものだった。だが、シルガを引き離そうとするには十分すぎる威力だった。
シルガは発射される前に、その場から離れ、ラスターカノンは地面に当たって雲散するだけに終わる。
「ちっ、面倒だ」
「特殊も物理も硬かったな……レジアイスとレジスチルのいいとこどりか?」
「いや、レジロックよりは、まだ通ると思うよ」
「私も、特殊はレジアイスよりはとおると思うわ。……だから、多少劣化するけど、まぁいいとこどりは間違っちゃいないわね」
多少劣化するが、レジアイスとレジロックのいいところどり。
それでも十分脅威だ。
あの二匹の防御は、それこど化け物レベルだった。レジロックにいたっては全ポケモン中ナンバーワンといってもいいくらいのものだ。
それが多少劣化したとはいえ、脅威でなくなるはずがない。
「レジ、ル」
「みんな、なにかくるよ!」
レジスチルは手を上げると、そこに光るエネルギーを集める。
自身の体から抽出したエネルギーをだんだんと集めて造るそれは、間違いなく強力な威力を誇るのだろう。
「ジ、スチル」
その、数秒後。
完成したらしいその球体を、レジスチルがラルド達目掛けて投げてくる。
「! “十万ボルト”!」
それに逸早く反応したラルドの電撃を浴びるも、その球体は勢いを弱める事はない。
回転もせず、平行に進んでいるはずなのに落ちていると錯覚するソレは、正に重い鉄球のようで。
「……!?」
前でいつでも対処できるようにといたヒイロのお腹を、直撃した。
「がっ……ふ……ッ!?」
まるで重い、とても重い鉄球がお腹に直撃したように思えるその一撃は、ヒイロの体力を大きく奪った。
片膝をつき、むせるヒイロのところへフィリアが慌てて走る。
だがそれすらも、レジスチルは許さない。
「レジ、チ」
「なんだ、今度はなにをする気だ?」
足をこちらに向けたレジスチルは、なにやら足に力をこめる。
すると――突然、足が伸びた。
「は、はぁ!?」
「そんなこともできるのか……ッ!?」
「え、えぇ!?」
「なにそれェッ!?」
あんな重そうな鉄の足をどうやってあげているのかなど、今の六人には関係ない。
ただ、その重たい鉄の足が伸びたことの方が、今の六人にとっては重要だった。
先ほどの重たいエネルギー球ではなく、今度は本物の重い鉄の足だ。よけられないほどではないが、今は片膝をついて動けないヒイロを狙っている。
ラルドが十万ボルトで止めようとしても、その勢いは止まらない。
ヒイロが焦って剣を抜き、杖のようにして自分を立ち上がらせると、急いで横へジャンプする。
それから一秒遅れで、その場所を鉄の足が通った。
「くそっ、攻撃力を重さで補ってるってことかァ!?」
「そうだろうな」
攻撃力を重さで補う、というのは単純だが脅威だ。
攻撃力は単純な力、硬さ、重さ、スピードによって変化する。
その点、レジスチルは種族としての力は低い物の、硬さと重さはある。速度も、決して速いとは言えないがそれなりにある。
「レジ、ル」
目の前のレジスチルは、今度は両手の爪を硬化させていた。
“メタルクロー”だ。
鉄の爪から繰り出される一撃は、強いとは言えないが攻撃力を上昇される。連続で繰り出されたとすれば、攻撃力の上昇を手助けするだろう。
「単純だが、それほど厄介なものはない」
「たしかにね。絡め手なら突破口も色々あるけど、こういう純粋で単純なものなら、それだけ突破口も狭まるからね」
突破口が狭まっている訳では無い。
ただ、純粋すぎて突破口が増えていないだけなのだ。
「レジス、チ」
「来たよ!」
「ここも、今までの番人とは違うな……!」
今までの番人は、ほぼ動かなかった。
それが弱点ともなった――が、目の前の番人は違う。
動き、向かってくるのだ。メタルクローを当てに、自分から走る。その速度は決して速いものだとはいえないが、それでも向かってくるだけ違いがよく分かる。
それは何故か? 理由は、後ろの道がふさがっているからだろう。
だからこそ、番人も全力で戦える。
「レジ、チ」
「チィッ!! “火切”!」
メタルクローと、火の刀の激突。
それはほぼ同じ威力であり、レジスチルの重さとヒイロのタイプ優勢も重なって拮抗していた。
「手助けしてやろう、“波動纏装――」
その間に、シルガはレジスチルの背後に歩み寄る。
そして、両手を重ねてレジスチルの背中らしき部分に置くと、
「――解放《バースト》”」
「!!??」
「お、おぉっ!?」
波動の衝撃波に、流石のレジスチルも耐え切れなかったのか前に倒れる。
ヒイロは慌ててその場から離れ、レジスチルをよける。
「あ、危ねェなァ!!!」
「これくらいでないと、奴にダメージは与えられん。俺のバーストショットも、流石に一日何発も撃てるような代物ではない」
「俺のバーストパンチは、一日一回だ。右手が使い物になるだけじゃなくて、体にも影響があるからな」
バーストパンチは右手一回左手一回の計二回、ではない。
蛹に衝撃を与える、ほどではないがそんなものといえるバーストパンチは、つまりそれだけのダメージが自分にも帰ってくるという事だ。
それこそ、ボルテッカーなんて比じゃないダメージが。
そんな状態でも超帯電《ボルテックス》や電気活性《アクティベーション》をかけられるのは、やはりラルドが我慢強いからだろう。
「ならば、どうする?」
「俺とテメェのタイプは、あいつに有利だぜ?」
「それにお前らは攻撃力も高い。……よし、フィリア、ミル、レイン。お前らは俺といっしょに、この二人の援護だ! お前らは、シルガが相手の攻撃をいなしてその隙をヒイロが突く、って感じで頼む!」
ラルドの言葉に、全員がうなずく。
それが一番、とまではいかなくてもいい方法だからだ。ヒイロとシルガは良くも悪くも真反対な戦い方をする。
それはつまり、二人で戦えば自分の弱点を補えるということだ。
ヒイロは攻撃特化で、シルガは柔術特化。一撃は強いが相手の攻撃を相殺するか避ける以外防御法がなく、シルガは生来の反射神経と見切りによって回避と受け流しは得意だが、攻撃力が不足している。
レジスチル相手には、この二人が鍵になりそうだ。
「じゃ、行くぞ! “超帯電《ボルテックス》”!」
「“波動纏装”」
ラルドの体は青白く、シルガの体に波動が纏う。
同時にラルドの特性“静電気”がなくなってしまうが、レジスチル相手にそれはあまり関係がないだろう。
ラルドはレジスチルに体を向けると、小手調べとでも言わんばかりの電撃を放つ。
「“十万ボルト”!」
「レジ、ル」
レジスチルはそれを、のびる鉄の足を伸ばして、それを一気に縮めて急降下プレスすることで電撃を踏みつけて防ぐ。
踏みつけの強力版のようなもので、見ると踏まれた地面が足型に陥没している。
「うわっ、強烈」
「踏まれたら、圧死コースへまっしぐらだろうね」
「冗談じゃねェ!」
あの足によるプレスは、六人にとっては圧死コースへの招待状とも言うべきか。
どちらにせよ、受けたらそこには確実に死が待っているだろう。
「レジアイスで爆裂の種は尽きてるし、レジロックはどうやって対処したんだ?」
「あァ? そりゃあ、遠距離攻撃やら龍の怒りやら……あ?」
「ちっ、じゃああいつ相手に効き目は無さそうだな。一から攻略法を考えるしか……っと!」
レジスチルのラスターカノンを十万ボルトで相殺するラルドの前で、ヒイロは立ち止まったまま、なにかを考えている。
シルガはそんなヒイロを叩いて意識を戻してやろうと、近づいた瞬間。
「そうだ、この手があったなァ!!」
「!? ……一体なんだ」
「ハッ、いくらあいつが硬かろうが、それを無視されちゃあ堪んねぇだろうなァ……おいワン公、あの糞鼠に伝えてくれ。あいつらとの戦いに、絶対にヒントはあるってなァ!!」
「……世話の焼ける蜥蜴だ。……溝鼠!」
「なんだ!?」
レジスチルの攻撃を食い止めていたラルドは一旦手を止めると、シルガの方へ向く。
「奴らとの戦いを思い出せ。さすれば、道は開かれる……あの世話焼け蜥蜴の遺言だ。俺が言いたいのはこれだけだ、じゃあな」
「お、おい! 遺言なんて不吉なこと言うな! ……というか、あいつがんな言い方するわけないだろ。……あいつらとの戦いを、思い出せ?」
そういわれても、ラルドが覚えている限り、レジアイスとレジスチルに似通っている部分はあっても、弱点が似通っているとは思えないのだ。
防御無視の爆裂の種も、すべて尽きてしまっている。
「一体、どういうことだ……!?」
そう思い、どういうことかとヒイロに尋ねようと目を向ける。
すると、そこには。
「喰らいやがれェ!! 双刀“龍の怒刀”!!」
「レジ、チル」
「!?」
龍の怒りを纏いし剣を振り回すヒトカゲの姿が、そこにはあった。
連続で、それも防御無視の剣に切りつけられるのは、流石のレジスチルであっても苦しいのだろう。悲鳴とも取れる鳴き声が聞こえてくる。
だが、そんなことはお構いなしにと剣をふるヒイロは、本当に楽しそうで。
「……ヒントがあるかどうかはともかく、やってみるっきゃないか」
ヒイロは一見馬鹿で脳みそ筋肉かと思われがちだが、実際は戦闘になると周りのことを思った以上に見ている。
ただそれは、戦闘に限った話だが。
「とは言っても、俺はレジロックの戦闘はよく知らないからな」
精々、遠距離攻撃で追い詰めて大爆発で自滅、くらいしか知らない。
ならば――、
「レジアイスとレジロックの共通点を、見つけ出すしかない、か」
そのためには、目の前の敵の行動を。
「そのためには、レジスチルとの共通点も、見つけ出さなきゃいけない……援護はするから、頼むぜ。二人とも!」
そう叫ぶと、ラルドは全力で雷を放つ。
それはレジスチルに見事直撃するが、しかしたいしたダメージにはなっていないようだ。
「ナイス援護だァ、糞鼠ィッ!!」
「当たり前だ! これでも俺は、史上最強の英雄なんだぜ!?」
「俺を倒したんだ、ったりめェかァ。よーし、なら俺もお前を追い詰めたんだ、しっかりやってやるよ!」
ヒイロはそう叫ぶと、二刀のうち、一刀を鞘へ納める。
そして、左手に自身の拳より一回り大きいサイズの火球を作り出した。
「いくぜ、“火飲み”!」
そして、それを――飲んだ。
「はいぃ!?」
「……なにを」
「ななな、なにしてんのあいつ!?」
「さぁ?」
「あ、熱くないの!? 炎を飲み込んで熱くないの!?」
ミルの疑問は、炎タイプなので問題といえる。
だがこの行動の真意、それはここにいる誰にも分からなかった。
使用者である、ヒイロ以外は。
「ふぅ……さ、行くぜ?」
次の瞬間。
ヒイロの尻尾の炎が、先程までとは比べ物にならないほど、より強大に、そしてより巨大な炎へと変貌を遂げた。
「な、なんだ!?」
「これこそ、俺様が考案した身体強化技! 自分のエネルギーを自分で取り込んで、体を一時的に活性化させるんだよ!」
「そ、そんな無茶苦茶ありぃ!?」
「ありなんだろうね、彼は」
そんなことをすれば、身体にも相当な負担がかかる。それだけリスクがあるということだ。
だがそんなこと、ラルドの超帯電《ボルテックス》とて同じ。寧ろこれくらいでへこたれていては、いつまでたってもラルドどころかシルガさえも超えられない。
「行くぜ、鋼鉄野郎。その粒々の目ん玉に、風穴あけてやるからよ! “火斬”!」
「レジ、ル」
鋼鉄の体に、炎の斬撃はあまり意味を成さない。
「それが、どうした! “噴火斬”!」
「ジ」
連続の斬撃に、流石のレジスチルも後退せざるをえない。
しかし一対一なら、それは大きな隙とはいえないだろう。
一対一ならば、の話に限った事だが。
「“波動弾”!」
「“エナジーボール”!」
「“シャインボール”!」
「“十万ボルト”!」
しかし、これは一対六。
一瞬の油断が隙を生み、敗北を招く結果になる。
勿論、この程度で倒れるような相手ならば、エンジェルは苦戦などしていないだろうが。
「レジ、スチル」
「チィッ、やっぱりダメージが通らねェッ!!」
「いや、通ってはいるようだよ! ただ……それが微量なだけだ」
「なら意味無いよ!?」
エンジェルの攻撃も、レジスチルの硬さには通用しない。
しかし、ヒイロの龍の怒刀は違う。固定ダメージを与えるソレを、連続で切りつけられたらどうなるか。
そんなもの、レジスチルでなくても恐ろしいだろう。
「レジ、レジスチル」
だから潰す。
レジスチルは、自分の防御を突破して攻撃してくるヒイロを倒すために、その剣を手で掴む。
鋼鉄の体より幾分柔らかいとはいえ、ヒイロの剣を掴めないことはない。
「なッ!?」
「レジ、スチル」
それにより動揺し、一瞬の隙ができたヒイロをレジスチルは突く。
片手を離して、その片手に電気の弾を作り出す。
これは流石に不味いと感じたヒイロは、剣を手放して離れようと――したが、手放す寸前で剣を逆に手放され、体勢が崩れる。
そして目の前には電気の球、“電磁砲”がある。
「しまった――」
「レジ」
体勢を立て直そうとするが、もう遅い。
なんとか剣を交差して電磁砲を受け止めるが、それもすぐに破られてしまい、電磁砲の直撃を受けてしまう。
「ぐ、がああぁぁ……!!?」
「ヒイロ!」
「ちっ、“波動弾”!」
電撃に苦しむヒイロをとどめをさそうとするレジスチルから引き離すため、シルガはレジスチルに波動弾を放ち、即座にヒイロを回収する。
「大丈夫か?」
「ああ……ちっ、火飲みのリスクがここで一気にきやがったか」
「リスク、だと?」
「ったりめェだろ? エネルギーを体内にもう一度取り込んで、体を活性化させるんだぜ? それだけ、体にもダメージがあるってことだよ」
「……なるほど」
それに加え、電磁砲の一撃だ。
幾らタイプ一致ではないとはいえ、元々威力の高い電磁砲。さらに、追加効果でヒイロは今麻痺状態だ。
しばらく、後ろで休んでおく必要がある。
「クソッ、展開とか雰囲気とか、完全に俺が活躍する勢いだったってのによォ。こりゃないぜ」
「雰囲気も展開も、これは現実だ。幾らでも覆る。それより、今は休め……あの糞鼠は、必ずお前の敵を討ってくれるだろう。……悔しいがな」
「はっ、んなこたァ、百も承知だよ。……それより俺の敵って、なんか俺が死んだみたいじゃねェかァ?」
「知るか」
シルガはヒイロを、なるべく戦闘の余波が届かない階段のところへ寝かせてやると、すぐさまレジスチルへと走り出す。
ヒイロはそんなシルガに手を振って、自分は体力の回復に努めた。
そして、ラルドは。
「……レジスチル」
「ジ、レジ」
「本気、出させてもらうぞ……!!」
全身の筋肉を電気にて刺激し、身体能力を向上させる。
それらをパワーすべてに変換する、ラルドの技、“電気活性《アクティベーション》改”が発動される。
全身の至る所から、漏れ出した電気がバチバチと言っており、その姿には威圧感さえ覚える。
「ふぅ……“爆雷パンチ”!」
「レジ」
ラルドが放つパンチ系の技で、かなりの強さを誇る爆雷パンチ。
それはヒイロでさえ突破できなかったレジスチルの硬さを貫き、思い切り吹き飛ばした。
「ジ――」
しかしレジスチルの重さは本物だ。すぐに背中から地面へ落ちると、体勢を整える。
だがあの一撃をもろに食らったのだ。レジスチルとて、無傷で住むとは思えない。実際、微量とはいえないダメージを負っている。
それは、ラルドも同じだった。
「痛っ……!」
あの硬さに全力で拳を叩き込んだのだ。
拳からは、少量の血が流れていた。
「おい、大丈夫か? ……“波動弾”」
「大丈夫、とはいえないな。あいつ硬すぎるぞ……爆雷バレットしなくてよかった。絶対に拳が砕けてたぞ」
「あのグレイシアと、どっちが硬い?」
「こっち」
「なるほど」
グレイシアのアリシアが使う、絶対氷壁。
あれも恐ろしい硬さだったが、こちらは鋼鉄、しかもあれだけの攻撃で少しの傷もつかないほどの硬さだ。
「ダメージも、当然跳ね返ってくるのはこっちの方が大きいよな。“電気活性《アクティベーション》”」
攻撃技では、逆にこちらがダメージを受けてしまうと考えたラルドは、普通の電気活性《アクティベーション》へ戻す。
攻撃と素早さが同時に上昇するこちらの方が、レジスチル相手には有効だと思ったからだ。
「レジ、スチ」
「アイアンヘッドか」
そんなことはお構いなしに、レジスチルは鋼鉄の体を活かした頭突き、“アイアンヘッド”でラルドを攻撃する。
しかし、速度が上昇したラルドはそれを難なく避けると、すれ違いざまに十万ボルト”を放つ。
強力な電撃が鋼鉄の体に直撃するも、たいしたダメージにもならずレジスチルは急停止する。
「レジ、レジスチル」
「化け物耐久も、そろそろ倒れてもらおうか。シルガ!」
「なんだ」
「ちょっとこっちへ来い。あいつの重さ、逆手に取ってやる……三人は、レジスチルを10秒でもいいから止めてくれ!」
『おぉ!!』
電棘、エナジーボール、シャドーボール。
それら全てが直撃しても、レジスチルには傷の一つもつかない。
だが、足止めはできる。
「いいか、俺が時間を稼ぐ。だから――」
ラルドはシルガの耳に口を近づけ、小さい声で話す。
「これが、俺の考えた作戦だ。後ろの三人にも伝えてくれ。あいつらがいないと無理だ」
「……なるほど」
全てをいい終わると、ラルドはシルガの耳から口を離し、後ろの三人にも伝えて欲しいと言った。
シルガは普段無表情な顔に笑みを浮かべつつ、了解、と一言つぶやいて後ろへ走る。
その間、援護は一応あるが、接近戦ではラルドとレジスチルの一対一だ。
「レジスチル。もうすぐで、お前は倒れる。だからその前に、俺と戦ってもらうぞ?」
「レジ、ジ。レジスチル」
レジスチルの点が、ピコピコと光る。
「さ、行くぞ……“十万ボルト”!!」
「レジ」
ラルドが愛用する技、十万ボルト。
信頼されたその一撃は、レジスチルに微量のダメージを与えるにとどまる。
「まだまだぁ!! “暴雷”!!」
「レジ、スチ」
その次、ラルドから放たれたのは二つの雷球だった。
暴れ狂い、地面を削りながら進むそれは、確実にレジスチルへと向かっていった。
そんな一撃に、流石のレジスチルも不味い、と思ったのだろうか。寸前、咄嗟に腕を交差させると、直撃する。
「どうだ、参ったか!?」
「……レジ、スチル」
「ちっ、多少の傷だけで済んだか。……ド忘れでも、使ったのか?」
雷二発、それもラルドが放つものだ。
十万ボルトの二倍か、それ以上の威力を持つはずだ。それを、レジスチルはほとんど傷がなく、致命的な致命傷になっているようにも見えない。
腕を交差する直前か、同時に、特殊防御をあげるド忘れでも使ったのだろう。
これほど硬い相手を確実に足止めするにはどうしたものかと、一瞬悩んだラルドの隙を突いて、レジスチルを片足をラルドに向けて上げる。
「レジ、ル」
「! あのけりか!!」
鋼鉄の伸びる足を使った、重い一撃。
その威力は先程の踏みつけを見た上で考えて、直撃すれば骨一本は確実に持って行かれるレベルだろう。
地面をへこませる程ではないだろうが、それでもあたれば大ダメージだ。
ラルドはそれを間一髪で避けると、それを掴んで零距離で先程の暴雷よりも多い電量を流し込む。
鋼鉄の体にも、流石にそれは効いたのか、顔の点が小さく点滅する。
「よし、これは効いたか……!」
ラルドが足を離してその場から飛びのくと、その場をラスターカノンが通り過ぎる。
「レジ、レジスチ」
「はっ! どうだ、このくず鉄野郎! お前の硬さなんて、すぐに攻略できるんだよ!」
「レジ、レジスチル」
そんな悪口も、感情をほぼ持たないレジスチルには通用しない。
レジスチルは右手をラルドに向けると、電撃を放った。
「挑発は通用しない、か。……しかもチャージビームまで撃ってきやがったぞ」
その電撃はチャージビーム、ダメージを与えると同時に自らの特殊攻撃を上昇させる威力が低めの電気攻撃だ。
ラルドは冷静に、右手にそれ以上の電撃を纏わせると、チャージビームを掴んで逸らした。
「レジ、スチル」
「どうだ! 無駄に電撃で相殺する以外に、こういう方法もあるんだよ!」
チャージビーム以上の電撃を纏う事で、電撃を掴んで逸らせることが可能になる。
それをいつ思いついたのか? と問われれば、それはヒイロがフィレアの巨大火球を炎の剣で逸らしたとき、と答えるだろう。
勿論、逸らした事によってレジスチルの特殊攻撃は上がっていない。
チャージビームのお返しにと、ラルドが十万ボルトを放とうとした――寸前、声をかけられる。
「終わったぞ」
「オーケー。……どれぐらいたった?」
「30秒か40秒だな」
30秒か40秒、そう聞いてラルドはそんなものかと思った。
どんな戦闘も、振り返ってみれば短い物だという認識を再確認することになった。
だが、短いからこそ、その一瞬一瞬は楽しく、輝くものだ。
「そんな戦闘も、五分かそこらで終わらせるぞ。さ……最終ラウンド、開幕だ!」
「ッ、“神速”!」
ラルドの叫び声と同時、シルガは神の如き速さを誇る技、“神速”を発動する。
不完全ながらもかなりの速度を誇るそれは、あっという間にレジスチルのへと到達する。
「行くぞ、“けたぐり”!!」
「???」
シルガが放ったけたぐり。
それは決して難しい技でもなく、そこらのワンリキーでも使える技だ。
しかし、重い相手――レジスチルのような重い相手にのみ、真価を発揮する。
「重い相手ほど、この技の威力は上がる。重さを利用するからな……硬いだけでは、防ぎきれないぞ?」
「レジ」
片足を、重さを利用したけりを食らって、レジスチルは片膝をつく。
その隙を、ラルドは突く。
「今だ、レイン!!!」
「分かってるわ、よ! “電磁波N”!!」
レインから放たれた赤い電磁波が、レジスチルへと放たれ――
次回「最後の間へ」