第五十三話 謎解きは戦闘の前に
超有名な探検隊チャームズに挑発され、番人の洞窟へと向かう事になったラルド。そして、いざ番人の洞窟へと――?
〜☆〜
ここは南東にある、不思議のダンジョン化した洞窟、“番人の洞窟”だ。
洞窟といっても、何者かの手が施されていて、入り口は鍵がかかっていて開かない仕組みとなっている。
そんな入り口を、チャームズが昔プリルと一緒に発見した鍵で開け――未知のダンジョンへの、扉が、今正に開いた。
「――到着!」
「あら、案外早いのね」
「そりゃ、何にも分からない未知のダンジョンを攻略するんだ。早く来て当然!」
入り口を抜けると、なにやら石碑のようなものが置いてある部屋があり、そこにチャームズはいた。
勿論ビーグやソーワなど、ギルドの弟子達も来ている。ここまで一緒に来たのだ。
「……この先が、番人の洞窟のダンジョンか」
「ええ。この先は、誰も挑んだ事のない未知の世界……考えただけでワクワクしてくるわね」
「ヘイヘーイ! この石碑なんか、凄く怪しいぜ!」
「なんか窪みみたいなのがあるでゲス!」
「きっと何か仕掛けがあるんだろうねぇ……絶対に解き明かして見せるよー!」
こうしてみると、やはり探検隊は探検隊だ。未知の謎にワクワクし、そしてそれを解き明かす事に必死となる。
勿論、生活する為に探検をやっているとか、そういう人もいるだろう。しかし、ロマンを求めてこそ、一流の探検隊への道は開けるというものだ。
「俺が絶対、初めにこの謎を解いてやるぞ!」
「君じゃ無理だね。僕でも、この窪みが何かがわからないのに」
「……見た事あるような気がするんだけどね。なんだっけ?」
「……! ククッ、悪いな、俺はもうわかってしまったぞ」
「えっ、本当か!?」
そんなやり取りをして、エンジェルの好奇心は益々増す。
待ちきれないと、そんな思いが、この場にいる全員にあった。シルガも例外ではない。どれだけ冷静だろうが、こういう好奇心は持ち合わせているものだ。
「じゃ、そろそろ行きましょうか。誰が一番先にお宝を手に入れるか……ま、当然私たちが頂く事になると思うけどね、ふふ♪」
「では、皆さん。お互いがんばりましょう」
「先に行ってるよっ!」
そういって、チャームズは飛び出していった。待ちきれなかったのだろう、やはりこういうところはチャームズも変わらないのだ。
それを追うようにして、弟子たちも番人の洞窟へと挑んでいく。
勿論、エンジェルもそうだ。
「さて、と……番人の洞窟攻略、開始だ!!」
『おー!』
〜☆〜
「……と、意気込んでみたはいいけど、なんだここ……アンノーンしか出ないぞ」
「たまにズバットやゴルバットが出るけど、あんたたちが苦戦するレベルでもないしね」
かなり意気込んで探検を開始したラルドチームだったが、先程からアンノーンしか出ない。ズバット系統が一応出てくるも、それも苦戦するほどではない。
しかもアンノーンを倒すと、高確率でなにかの石のようなものを落とすのだ。
「……? これ、なんだろうな」
「落とした石、全部アンノーンの形と似たような石だけど……それがどうしたって話よね」
例えばAの形のアンノーンを倒した、するとAのアンノーンから高確率でAの形をしたアンノーンの石が手に入るのだ。
現在持ち合わせているのは、A、C、F、V、Tの石だ。しかしあまり意味はない。
「一体、どういうことなんでしょうね……」
レインが顎に手を当てて考える。
しかし、なにも浮かんでこない。アンノーン文字――ラルドからすればローマ字のこれは、一体なんの意味を持つのかすら分からない。
「古代遺跡で、確かあったよな……あ、階段だ」
既に二回、階段を下りている。計算すると、次で四階だ。
「まぁいいや。とりあえず進めばわかるだろ」
そうして、俺たちはあの石碑の事を話しながら階段を下ると――目の前に、その石碑が見えた。
「えっ」
「は」
「……?」
そんなはずはない。今、自分たちはダンジョンを攻略していたのだ。
それがいつの間にか、こんなところに戻っているなんて――と、しばらく突っ立っていると、後ろから声を掛けられる。
「あら、エンジェルじゃない。あなたたちも戻されたの?」
「あ、チャームズ!」
「私たち、これで二回目よ。……どうやら、そこの石碑が今回の探検の鍵を握っているようね?」
部屋の中央にぽつんと置かれた、謎の石碑。間違いなく本当の道への入り口だろう。
しかしその道へ行く方法も分からない。
「石碑にある窪み……そして洞窟内に大量に潜むアンノーン……これはなにか関係がありそうですね」
「これより先に進みたければ、目を閉じて、その証を示せ、か……目を閉じてもなにもないのは、その証とやらがないからでしょうね」
「それじゃ、アタイたちはもう一度探索してくるよ」
「ああ……精々、先を越されないように気をつけるんだな?」
「ふふっ、ご忠告ありがとう。じゃあね」
そういって、チャームズは立ち去る。
……これより先に進みたければ、目を閉じて、その証を示せ……その言葉は普通の言葉でかかれている。
しかし、肝心の「その証」とやらの記述がないため、一体なにが証なのかが分からない。
そうやって、ラルドが何度も石碑と睨めっこをしていると……。
「おい、この石、この窪みと一致しないか?」
「どれどれ? ……あら、本当」
「Cの石だったな……ならばこの窪みもC……ふ、やはり俺の考えは正しかったか」
「考え?」
「最初に見たとき、アンノーン文字だと直に分かった。……そして、この石を見たときピンときた」
シルガの話は、こうだ。
アンノーン文字型の窪みだと分かれば、後は簡単だ。アンノーンが落とした石、あれをこの窪みに入れ込むのではないかと、シルガは思ったのだ。
「なるほど、確かにそれなら……」
「この石碑の窪みはICEだ。そして、それに該当する石を、ここにはめ込む」
「そしたら道が開ける! 流石シルガね、無駄に頭がいいわ」
「五月蝿い! ……だが、この程度奴らも解けただろう。ならば後は」
「どっちが早く石を取れるか、ってことか。なるほど把握した!」
そうと分かれば、早速行動だ。
幸い手持ちにCの石はある。残る石は、IとEのみ。
「じゃ、行くか!」
アンノーン自体の強さはどこまで高いわけでもなく、ラルド達が負けるわけでもなく。
ラルドたちは必死に残りの石が出るまで、アンノーンを倒し続けるのであった。
〜☆〜
――あれから数分後。
運がよかったのもあり、ラルドチームは無事に残りの石を手に入れる事ができた。出会う確率は、それこそアンノーンのいる数分の一なのでかなり低確率だが、それでもなんとか一回の探検だけで集めることができた。
そして、石碑の前。
「……よし、やるぞ!」
「さっさとやりなさいよ。私達が一番になって、全員に自慢してやるのよ!」
「馬鹿め」
「なによ!」
レインが後ろでシルガとぎゃーぎゃー喧嘩していて五月蝿いが、それも今のラルドには聞こえない。
もしこの謎解きが正解だったのであれば、未知のダンジョンへ道が切り開かれる――それほど、ラルドにとってワクワクすることなのだ。
「じゃ、やるぞ」
ラルドはごく、と息を呑むと、石碑に触れて目を閉じる。
――すると、バッグの中の石、ICEが反応する。
それと呼応するかのように、石碑は光り輝く。段々と増していく光は、たがて辺りを包み込み……光が収まると、なんと階段が目の前に出現していた。
「……わーお」
「これが、本当の道か……」
「さっさと行くぞ。時間が惜しい」
「ああ」
好奇心を抑えられず、急いで階段を駆け下りるラルド。
意外と長い階段を駆け下りきって、次のダンジョンへと繋がっているらしき広間へと出て――そこで、背中を悪寒が走る。
「……ッ!?」
不意に立ち止まった、その真ん前。
謎の冷気が、ラルドが通るはずであった道を横なぎに駆け抜け、完璧に凍らせていった。
「ちょっと、あんた早すぎよ……って、なにこれ!?」
「……氷?」
「一体、なんだ……!?」
この一撃は、完全にラルドを氷付けにする為に放たれたものだろう。ならば敵か――と、その冷気が発射された方向を見ると、
「……ジ、ジ」
全身が氷ででき、顔だろう位置に点がたくさんある謎のポケモン、それがまるでこの先へは行かせないとでも言うように、立ちふさがっていた。
「コレヨリ先ニ進ミタケレバ、ソノ力ヲ我――レジアイスニ示セ」
「――!」
そんなことを、目の前のポケモンが言った瞬間。
――強力な冷凍ビームが、ラルドが立っていたところを通り過ぎていった。
「ッ、危なッ!?」
勿論、ラルドは自分の勘に任せてその射線上から避けていたが、しかし一番冷凍ビームに近かった右腕が少し凍りついてしまう。
「くそっ! いきなりなんだ!?」
「これより先に進みたければ、その力を我に示せ……つまり奴を倒せばいいというわけか」
「あら、そんなら私達の得意分野じゃない。……あんた達に任せるわよ」
「ふざけるな、お前も戦えクズ! “十万ボルト”!」
レインへの非難をしつつ、目の前の敵、レジアイスへと得意の十万ボルトを放つ。
しかしレジアイスはそれを避けようともせず、ただ受ける。それを見て、ラルドはよし! とガッツポーズをとる……が、煙が晴れて出てきたレジアイスの姿を見て、なんの冗談かと自分の目を疑う。
「ジ……ジ……」
「あいつ、俺の十万ボルト受けてもほとんどダメージ受けてないぞ!?」
そう、ラルドの十万ボルトは強力だ。長年愛用した技は、熟練度の関係かはわからないが、威力が高くなるという事がある。
ラルドは十万ボルトとはかれこれ長い関係で、ラルド自身の攻撃力も高い。なのに目の前の相手はほぼ傷一つついていない。
「これ、厄介な長期戦になるんじゃないの? “電棘”!」
「ジ……レ、ジ」
レインの電棘も、レジアイスの冷気の前にはなす術なく、たどり着く前に凍って砕けてしまう。あの様子では、近づいたらだけで凍り付いてしまうだろう。
「“波動弾”!」
「“十万ボルト”!」
「レジ……ジ」
それに加えて、特殊攻撃も申し分ない強さだ。ラルドとシルガの攻撃が、“冷凍ビーム”の一撃で貫かれてしまう。
「強い……ってか、強すぎだろ!」
「特殊攻撃も防御も、かなり高いと見て問題ないな」
「それに、あいつ私の電棘をなんの技も使わず凍らせたし……近づくのは無理そうね」
こんなとき、ヒイロでもいればまた話は変わっているのだろう。だが今ここにいるのは未来組の三人だ。
この三人での突破口を探らなければ、おそらく勝てはしない。
「全解放なんかが偶然くることはないよな……!」
「……言っとくけど、あれ条件揃ってても100分の1以下の確率でしかできないからね?」
「はい!? あれってそんな確率低かったのか!? というのかなんだよ条件って!」
ディアルガ戦も、レインが色々ラルドの精神に仕掛けを施してやっとできたという感じだ。そのレインが外にいるのだ、できる確率は限りなく低い。
「ちっ……“超帯電《ボルテックス》”! “電気活性《アクティベーション》”!」
「“波動纏装”」
このままでは確実に埒が明かなくなると考え、二人は強化技を使う。ラルドは電気量、身体能力が増加され、シルガは全攻撃に波動が纏わり威力アップ状態だ。しかも若干身体能力も上がる。
これなら大抵の敵はすぐに倒せる。だが、相手はフルドレベルかもしれないのだ。そうとすれば、こちらはかなりのふりだ。
「なるべく、早い段階で倒すか……“暴雷”!」
「“波動連弾”!」
「ジ……!」
相手を引き裂く二つの雷と、波動弾の嵐はレジアイスに向かって寸分狂わず命中する。
しかしレジアイスも、そんな高威力技をただで受けてやるはずがない。直前、“ド忘れ”で特殊防御をぐーんと上げると、二つの攻撃を少ないダメージで耐える。
「ド忘れ!? よりもよって、あんな耐久化け物がさらに積んだぞ!?」
「これで、益々特殊技の効果が減ったが……」
「無理よ無理! 鉄のトゲがなにもされてないのに、近づいただけで凍ったのよ!? 近づけるわけないじゃない!」
そう、それが問題だ。
鉄のトゲに関しては、本当にレジアイスはなにもしていない。ただマイナス200度の体から漏れ出す冷気が、鉄のトゲを凍りつかせたのだ。
勿論、そんな温度のものに近づいて、尚且つ触れようものなら凍傷どころではすまない。
「一応、エネルギーは通るみたいだけど……」
それすらも、相手が本気を出せばどうか分からない。もしかすれば、フィレアがエネルギーを燃やすガスを出したように、レジアイスもエネルギーを凍りつかせるかもしれない。そうなればこちらの負けだ。
「とにかく、地道に削っていくしかない! “暴雷”!」
「“波動連弾”!」
「“シーストライク”!」
引き裂く雷も、波動の連弾も、水の一撃も、すべてレジアイスの前には微量のダメージしか与える事ができない。
それもそうだ。只でさえ化け物なレジアイスが、さらにド忘れを積んだのだ。特殊攻撃では、間違いなく勝てない。
仮に向こうが攻撃せずずっと動かないで居てくれたとしても、おそらく何時間もかかる。
「ジ、ジ……レジ、アイス」
「! “吹雪”か!」
勿論、相手が倒れるまで待っていてくれるなんてことはないわけで。
レジアイスは強力な氷エネルギーで作り出した吹雪を放つと、部屋の所々を凍りつかせる。それは、ラルドが咄嗟に電撃バリアで少し防いでいなかったら今頃三人は凍り付いていただろうというくらいだ。
「ッ……一回でも直接攻撃できれば、“バーストパンチ”で倒せるのに……!」
幾ら相手が化け物耐久だとは言え、自身とは約6mも差があるギャラドスを楽々と吹き飛ばせるパンチだ。耐えられるとは思えない。
勿論、一撃必殺ではないのでもしかしたら耐えられるかもしれないが、それでも大ダメージは与えられるだろう。デメリットは大きいが。
右手が使用不能になること、それは確実に大きな影響を及ぼす。
「レジ、ジ……アイス」
冷凍ビームでラルド達の足場を段々となくしていき、それをラルド達も分かっているので、なんとか砕こうとするが相手はマイナス200℃の冷気を操るのだ。
そんな冷気の冷凍ビームからなせる氷は、生半可な攻撃じゃ壊されない。
「なんだ、この糞厄介な相手……フルドよりも勝機が見えないぞ!」
フルドは素早いが、攻撃は普通に受けていた。
しかしこのレジアイスは違う、攻撃も高けりゃ防御も高い。攻撃は最大の防御というが、攻撃も防御を兼ね備えていたらそれはもう無敵だ。
「ただ鈍間でよかった……あれで早かったら、俺逃げてるぞ」
「そんなポケモン、いるわけないでしょ。攻撃も防御も素早さも高いなんて、それどこのチートよ」
「神様レベルじゃないと無理だろうな……」
あのディアルガでも、攻撃も防御もかなりのものだったがその分鈍間だった。それにいたとしても、それは万能ではなく中途半端だろう。
「っと、そんな話をしている場合じゃない。あいつの攻略法を考えなきゃな……」
「特殊攻撃、防御はともに高いな。防御もある程度は高いだろう」
「チートじゃねぇか!」
それだけ聞くと、本当に倒す手段が見当たらない。
とにかく、なにか考えるだけの時間が――と、レインを見て、思い出す。
「そうだレイン! あの……爆裂の種のバブル光線で包んだ奴! あれをやれ!」
「? ……ああ、そういうこと。了解!」
爆裂の種は、確かに一つ一つでは弱い。しかしレインのように一回にたくさん使えば、それはもう鬼のような性能を発揮する。
詳しくはわからないが、爆裂の種はどんなポケモンにも等しく同じダメージを与える。それが大量に爆発すれば、いかにレジアイスとてただではすまないだろう。
「とりあえず、15個は持ってきたけど……7個でいいわね。“バブル光線”!」
爆裂の種を両手で投げると同時に、それをバブル光線でコーティングする。それをレジアイスは脅威とみなしていないのか、防ごうともしない。
――チャンスだ。
バブル光線がレジアイスに近づき、そして内一つがレジアイスに見事ぶつかった瞬間。
「エクスプロージョン!」
そんなレインの掛け声とともに、爆裂の種は連鎖的に爆発。レジアイスを吹き飛ばした。
「……やっぱり、爆発はいいな」
「爆発狂信者が今更なにを」
「なにを! お前、男なら爆発にロマンを求めるのが普通だろ!?」
「まぁ確かに、派手な演出とそれに見合った火力があるものね」
爆発にロマンを求めてこそ、真なる男の道が開かれる……わけでもなく、ただの爆発信者の言う事だ。気にするだけ無駄だ。
ただこの話し合い中にも、勿論気は抜かない。あの程度の爆発でレジアイスが倒れるわけがないからだ。
「……レジ、アイ、ス」
そしてレジアイスも、この程度は効かないといったような表情で煙から出てくる。レジアイスには表情はないが、そういう風に見えたのだ。
しかしこれでダメージを与えられたのも事実。レジアイスはより一層警戒すると、“冷凍ビーム”を槍のようにして射出する。
「大きいな!」
それは速度も大きさも威力も申し分なく、ラルド達が避けた先にあったこの広間への入り口を、易々と凍りつかせる。
しかもエネルギーが接触したときのダメージも大きいのか、氷の中の階段が一部壊れている。
「レジ、ジ、ス」
「今度は連射!? そんなこともできるのかよ!」
「ちっ……“見切り”!」
「きゃっ、“水の波動”!」
先ほどとは逆に、細く威力も低いが連射する冷凍ビームを放ってくる。これは先程のよりも厄介で、シルガでさえも見切りを使わなければ避けられなかった。
……そしてここでラルドは一つの考えへといたる。
「なぁ、これ……勝てるのか?」
「難しいだろうな」
「爆裂の種七つ……結構なダメージ与えてると思うんだけどねぇ」
本格的に勝利が危うくなってくる。確かに攻撃も怖いが、一番の問題はレジアイスへ対しての決定打や、そうでなくとも確実にダメージを与える技が無い事だ。
ソニックブームなんて誰も覚えていない、龍の怒りもヒイロがいないので除外だ。こうしてみると、ヒイロもなんだかんだで役に立つ。
「真空斬りは?」
「フィリア」
「ああくそっ! なんでこうも相性の悪い奴がこんな所で!」
逃げようにも、階段が凍らされているので無理だ。
これは確実に積んだんじゃないかと、ラルドは心の中で思っていた。諦めては居ないが、流石に状況も相手も悪すぎる。なにせ足場が少ない上にダメージも碌に当てられないのだ。
「これじゃ、倒しようも――ん?」
そこで、少し気付いた。
レジアイスが、初期位置からほとんど動いていない事に。
「……煙から出るときは動いてたよな?」
なのに、今ではまた初期位置に戻っている。初期位置が確実に今レジアイスが要る所だとは断定できないが、十中八九そうだろう。
「そういやここ、番人の洞窟って言うんだよな……あいつが番人ってことか?」
となると、あの奥にある道を守っているのだろう。
……そして、ラルドはとある策を思いつく。
「レイン! 残りの爆裂の種、確か8つだったよな?」
「ええ。十五個も持ってきて、7個使ったから。そうね」
「んじゃ俺の爆裂の種をやる。これを、俺が合図した瞬間に全部使ってくれ。勿論お前の手持ちも全部だ」
「……ハァ!? アンタこれ、15個もあるじゃない! なんで爆裂の種を主戦力としてないアンタがこんなに持ってきてんのよ!」
「『僕』に負けてられないと思って、最近増やしてみた。……それより宜しく頼むぞ! シルガ、あいつを抑えとけよ!」
「了解」
シルガも前で聞いていたのだろう。了解とだけ言っておくと、すぐまたレジアイスへの攻撃を始める。
そう――チャンスは一回限りだ。一回すれば、幾ら相手が不気味で謎なポケモンとはいえ警戒もするはず、それに失敗すれば爆裂の種がなくなり、実質そこでゲームオーバーだ。
「成功させるぞ……“穴を掘る”!」
レジアイスに察知されないよう、念のため端っこの方で、かなり深くまでもぐる。
それを見たシルガは、レジアイスの気を引こうと色々な技を放つ。
「“波動連弾”!」
「ジ、ジ……!」
それも連射冷凍ビームの前には意味をなさず、すべて相殺される。だが、シルガは諦めずに技を放ち続ける。
ラルドがシルガを認めているように、またシルガもラルドを強者として、リーダーとして認めているのだ。だからこそ、二人は妙な信頼がある。
「レジ、アイス」
「吹雪か」
手元に強力な氷エネルギーを作り出したのを見て、シルガはそれが吹雪とよんだ。
ならば――こちらも強力な技で、完璧に相殺するほかない。
「波動纏装……解除」
「レジ、ジ、アイス」
シルガが波動纏装を解除すると同時に、レジアイスの強力な吹雪が発射される。
先ほどはかなりの電熱を帯びたラルドを電気バリアでなんとか持ちこたえていた物の、そのラルドが居ない今、マイナス200℃の吹雪に対抗する手段は――ある。
「舐めるなよ。あのチートパンチの元を教えてやったのは、誰だと思っている」
吹雪はあたり一体をすべて凍てつかさんとばかりに吹き荒れ、遂にシルガの目と鼻の先まで来ると、
「“リベレーション――ショット”」
解放のエネルギーを収束させ、それを放った。
その威力はラルドのバーストパンチよりは、ゼロ距離でもなく、また収束する時点でかなりのエネルギーは消えているがそれでもかなりのものだ。
マイナス200℃の吹雪をものともせず、吹き荒れる吹雪を逆に吹き荒れるエネルギーで吹き飛ばすと、レジアイスにダメージを与える。
「これで俺の役目は終えたぞ、レイン。準備をしておけ」
「了解。っと、落ちそうになるわね」
「ちゃんと持っておけ……こちらはいつでもいけるぞ。溝鼠!」
その声がラルドに届いたのかは分からない。
だが何の偶然か、その声が発せられた瞬間――レジアイスが守護していた道の真ん前へと、ラルドは出てきた。
「――レジ、アイス」
それを見て、レジアイスこれ以上は行かせないとラルドの動きを止めるため槍型の冷凍ビームを放つ。
そしてそうなると、当然レジアイスはレインの背中を向けているわけで、
「――やれェッ!!」
「“バブル光線”!」
本日二度目となるバブル光線は、爆裂の種を包み込むとレジアイスへ向かって一直線に飛んでいく。
そしてラルドに冷凍ビームが当たる、まさにその瞬間、
「――エクスプロージョン!!」
「――――!!!!??」
辺り一体を巻き込む、合計23個もの爆裂の種からなせる爆発は、あの硬い、とても硬いレジアイスを――吹き飛ばした。
次回「最硬の岩石」