ポケモン不思議のダンジョン空の探検隊 エンジェル〜黒と白の12の翼〜







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第五章 右腕と番人
第四十九話 加速する疾風
 四天王フルド・ムルジムと戦う事になったラルドとミル。その強力な攻撃やスピードに圧倒されるが、間一髪エンジェルが全員集合。それと同時に、フルドも――?






〜☆〜


 黒い瘴気を纏った目の前の敵は、尋常じゃない程の威圧感を放ち、たっている。
 エンジェルが全員集合したことによって、本気を出したフルド・ムルジムは手首から炎を噴出させ、更にエンジェルを睨みつける。
 そんなフルドを前に、エンジェルは――

「ハッ! あの焼き鳥野郎と比べりゃ、地上にいる分攻撃も当たるぜ! “エアスラッシュ”!」

 ヒイロのエアスラッシュ、それによって、戦いの第二ラウンドは開幕を告げる。
 ヒイロの両方の剣から放たれる空気の刃は、フルドを狙って、かなりのスピードで放たれる。
 フルドはそれを、地面を蹴り天井へ移動することによって回避する。

「こんなスピード、我にとっては赤子同然だ」

「ちっ、やっぱり早ぇ!」

 しかし、空中で身動きをとることは不可能だ、とヒイロは思い、再びエアスラッシュを放つ。
 だが勿論、フルドにとって天井があるということは、空中でも身動きが取れるということで。

「ハァッ!!」

「は、はぁ!? 天井を蹴った!?」

「気をつけろみんな! こいつ、天井も地面も壁も蹴って、加速するぞ!」

「それはまた、厄介なことだね」

 しかも先程とは違い、今のフルドは瘴気を纏っている。脚力もスピードも上昇し、目で追うのはかなり厳しい。
 しかし、技が当てられないということはない。

「“波動弾”」

「ぬっ、“炎のパンチ”!」

 絶対必中の波動弾は、高速で移動するフルドに向かって進んでいく。それはシルガの動体視力も合わさってか、かなり正確に向かっていく。
 フルドはそれに一瞬驚くが、直に冷静になると炎のパンチで波動弾をかき消す。

「……ほう、我に防御を取らせるとは、そこのリオル――シルガ・ルウスと言ったか。やるではないか」

「当たり前だ」

 元々探知能力に優れているシルガは、見切りと波導による感知能力を併合する事によって相手の動きを先読みすることができる。
 勿論、見切りなので連続使用は不可能だ。

「どうやら我と貴様は相性が少し悪いらしい。英雄よりも厄介だ」

「俺にとっては良いがな」

 両者は互いを睨みつけあい、相手が動くのを待っている。

「……あれ、俺の方が厄介じゃないって……」

「相性の問題を考えなさいよ。あんた、スピードタイプとこの上なく相性悪いじゃない」

「まぁ確かに」

 ラルドは確かに高速移動やら電気活性≪アクティベーション≫やらを覚えているが、それを超えるほどのスピードの相手に対する戦闘方法は持ち合わせていない。
 今までは自分が対処できない程の早さのものがあまりいなかったので、気にしてはいなかったが、ここでそれは致命的な弱点となる。
 
 そんなことをラルドは考えていると、不意にフルドが動き出す。

「ッ――ぬぅ!!」

「よけたか。だが、ギリギリといったところか」

 どうやらシルガの“神速”をよけたらしい。だが、それもギリギリだ。流石に加速していない状態で神速をよけるのは、スピードタイプのフルドであろうと、かなり難しいのだろう。

「……なるほど、今回の相手に対しての切り札は、シルガだね」

「私もそれは分かるけど……でも、神速よけられちゃってるよ?」

「それに、あいつはパワーもあるぞ? 下手に攻め込んだらやり返される」

「フィリアの言う事に間違いがあると思ってんのか? あ?」

「いや、確かに下手な接近戦では、シルガは体格的にも厳しいだろうけどね。でも、足止めには確実になるよ」

「確かにそうね。シルガはあの程度の速さなら対応できるものね」

 目の前で攻撃すればよけられ、向こうが攻撃してきたらよけ、を繰り返して全く入り込むスキがない高速戦闘をしているシルガを見て、五人全員が納得する。
 今のフルドは、シルガしか目に入っていない。つまり今がチャンスだ。

「そうとなれば、遠慮なくやらせてもらうぞ! “十万ボルト”!」

 シルガに集中しているフルドは、ラルドが放った十万ボルトに反応していない――しかしシルガは違う。
 波導の探知能力によって、ラルドの電撃を感知したシルガはギリギリで十万ボルトの射程上から身を逸らす。当然、フルドはいきなりの電撃をよける事もできずに直撃する。

「ぐっ……!!?」

「どうだ、うちのリーダーの電撃は。身が焦げるだろう?」

「ぬぅ、こんなもの……我には効かん!!」

 直後、フルドは脚に力をこめて炎を纏わせると、回し蹴りで十万ボルトを弾く。

「げっ、あんたの十万ボルト、弾かれてるじゃない!」

「それでもダメージは与えられたし、攻撃を当てる方法も確立できたからな」

「これで少しは前進しただろうね。“枝垂桜”!」

 シルガがフルドの移動を止めている間に、こちらが攻撃する。
 複数対一は汚いともいえるが、それも仕方がない。こうでもしないと、おそらくフルドは倒せないだろう。

「“波動掌”」

「“ブレイズキック”!」

 炎の蹴りと、波動を纏ったはっけい。両方の力は互角で、二人とも弾かれる。
 だがフルドは脚で、シルガは手。フルドがバランスを崩したスキを狙って、シルガは波動弾を放つ。
 しかしフルドも慌てずに、もう一方の足で地面をけり、天井へ移動する事によって掠るだけで済む。

「ッ!」

「そんなもの、“波動弾”!」

 再び立体移動に移るフルドを狙い、シルガは波動弾を放つ。が、フルドも一度やられた攻撃を、再び受けるわけがない。
 フルドは波動弾を掴むと、そのまま炎を纏った両手で握りつぶす。そしてその衝撃を利用し、速度は維持したままだ。

「ッ!?」

「は、波動弾を握りつぶしやがった!?」

「え、えぇ!?」

 しかも速度は殺さず、立体移動は続けたままだ。
 瘴気を纏い、更に高速移動を使う事によってシルガでさえもフルドを追うことが難しくなっている。

「ね、ねぇ、これやばいんじゃないの?」

「やばいもなにも、そりゃ危機的状況なのは明らかだね。相手の次の動きを、僕達は見る事すら叶わない」

 フィリアでさえも、今のフルドを止める策は思いつかないらしい。
 エンジェルは固まりつつ、なんとか次の攻撃に対処できるよう身構える。

「“ブレイズドロップ”!」

 その直後、フルドの声とともに爆炎に包まれた足の踵が、エンジェルの集まる真ん中の地面を砕いた。
 高速の一撃は強く、踏ん張る事もできなかったため、その衝撃と炎で体重の軽いエンジェルの全員は吹き飛ばされる。

「ぐっ、ッ!」

 だが、ラルドは電気活性《アクティベーション》により他の者よりも持ちこたえる。そして見た。フルドが炎を纏った足で、回し蹴りをしようとしている所を。

「させるかッ!」

「ぬ!」

 フルドが回し蹴りを開始したと同時に、ラルドはフルドのもう片方の足に電撃を打ち込み、バランスを崩して回し蹴りを防ぐ。
 その隙を突いてもう一度電撃を放つが、それはしっかりと防御されて、ダメージがあまり入らなかった。

「貴様だけを倒そうと加減はしたつもりだが、予想以上に粘ったか」

「はっ、あれくらいの衝撃で体勢崩されるほど、俺は弱くは無いぜ」

「あァ!? それは俺へのあてつけかァ!!」

「違うに決まってるだろ!」

「どうでもいいけど、こんな相手によそ見してる場合じゃないわよ! “電棘”!」

 ラルドが一瞬気をそらした隙をカバーする為、レインは電棘を放つ。
 しかしフルドにそんな技は通用しない。微動だにせず、冷静に鉄のトゲを掴むと、その握力で粉々に握りつぶした。

「はぁ!? 脚力だけじゃなくて握力まであんなに強いの!?」

「は、反則だよ!」

「確かに脚だけじゃ、移動する際に強力な攻撃を見舞われたら対処できない場合もあるからね」

「俺の波動弾を握りつぶした時点で、奴の握力は計り知れない。うっかり掴まれて骨を粉々に握りつぶされるなよ」

「おっかなさすぎるわよ」

 そう軽口を叩くレインだったが、それを否定することはしない。レインも一度捕まれたら最後、化け物組でもない限り脱出する事も防ぐ事も不可能だと分かっているからだ。
 ミルならば、もしかしたらシャインボールで弾く事もできるかもしれないが、その前に握りつぶされるのが関の山だろう。

 そしてラルドとフルドの戦闘はというと。

「“爆雷パンチ”!」

「“ブレイズキック”!」

 拳とけりの激突は、どこからどう見ても、体格差も脚と手の力の違いも含めて拳が負けると――普通の者同士の対決ならばそう思う事だろう。
 だが拳で脚を相手しているのは、英雄と謳われるピカチュウだ。更に電気活性《アクティベーション》もかけている中、力比べでそうそう簡単に負けるはずがない。

「ぐ、ぬぅうう!!!」

「おおぉぉ――おぉ!!」

 かなり強力な力のぶつかり合いが続く。だが、決着は必ずつくものだ。
 本来ならば脚の方が強いはずが、力が互角ということで、両足で踏ん張れるラルドの方が段々とフルドを押していく
 そして遂に。

「ぐ!?」

 単純な力比べでラルドは勝ち、フルドの体勢を崩す。
 更に天井で逃げられないように、ラルドは十万ボルトで片方の足を薙ぎ払った。
 つまり、今がチャンスだということだ。

「――いまだ! 全員、撃てぇっ!!!」

 その一声と同時に全員がそれぞれ、手に、剣に、口に、尻尾に、体に、エネルギーをチャージする。
 そして、フルドが脚を地面につけた瞬間。

「“波動弾”!」

「“エアスラッシュ”!」

「“シャインロアー”!」

「“枝垂桜”!」

「“シーストライク”!」

「“雷”ィッ!!」

 六種類のエネルギーたちが、フルドへと一斉に向かっていって――




〜☆〜




 強力な爆発音とともに、爆風がエンジェルを襲う。
 この廃坑は、廃坑と世間一般的には言われているものの実際は使われていて、また爆裂の種の爆発ではビクともしない程の頑強さと、高さもフルドが跳びまわれるほどには高く、崩落の心配はないだろう。

 煙と爆音が周りの状況をシャットダウンし、エンジェルに少しばかりの不安を齎せる。だが、あれだけの一斉攻撃を普通のポケモンが耐えられるはずもないだろう。
 そして、煙が晴れる。

「……やったか!?」

「おい、それはフラグだ」

 と、こうはいう物のラルドもほぼ気を抜いている。フィレアは耐えきったが、フルドは普通のポケモンだ。
 しかもあの総攻撃だ。幾ら咄嗟の防御をしていたとしても、防ぎきれるエネルギーではない。

「ちょっと苦戦したけど、これで倒せたか?」

「僕、あんまり活躍できてないね」

「そりゃあ、あのタイプはあんたと相性悪いでしょうに。実力的にも、場所的にも、戦闘方法的にも」

「いや、放電などの範囲攻撃なら分からないよ。それに……」

「ま、確かにこの敵は純粋な実力も無かったらつらい相手だからな。俺でも苦戦するんだ。お前らじゃ無理無理」

「そうだろうね」

 この中でも、確かに相性があるとはいえ随一の実力を持つラルドでさえ苦戦したのだ。そして、相性がいいはずのシルガでさえも、苦戦しそうだった。
 そんな相手に女性陣の三人が勝てるはずもない。純粋な技と技とのぶつかり合いだけならばミルが要るためわからないが。

「肝試し目的で来たけどもう無理だからな、帰るか」

「早く帰って休みてェ……」

 そういって、ラルドはバッグからリーダーバッジを取り出そうと――

「――“火炎放射”」

「! “電光石火”!」

 した所を、何者かの火炎放射により邪魔される。
 幸いラルドは咄嗟に電光石火でその場を離れたため、ダメージは受けていない。それよりも、だ。

「……まさか!」

「その、まさかだ」

 揺ら揺らと、傷だらけの体を両の脚で支え、立ち上がってきたのは――紛れもなく、フルド・ムルジムだった。

「あ、あんな攻撃を受けたのに、まだ立てるの!?」

「確かに直撃を受けていれば危なかっただろう、が。……我の移動手段は、何も足のみとは限らない」

 あの状態、あの状況で足以外のなにかで、天井へ向かってジャンプして直撃を避けたのだろう。
 ならば、一つしかない。

「手、か」

「厳密に言えば、手と我の炎だ。手により地面を押し、更に火炎放射により勢いを増し、間一髪直撃を避けたのだ」

 それはフルドの超人的な反射神経がなせた、異常な回避方法だった。
 普通、あの状態で、あの攻撃をよけるなどラルドであっても難しく、シルガでさえ直撃を避けるのは難しいだろう。
 それを目の前のバシャーモは、あの一瞬で見事やってのけたのだ。

「やっぱり、四天王で、お前らのボスの右腕って名乗ってるだけはあるな」

「あんだけの攻撃を避けられるとはなァ」

「当たり前だ。……しかし、ダメージをかなり受けているのは事実……! 我も少し、覚悟を決めさせてもらおう」

「なんの覚悟よ?」

「勿論――わが身がどうなろうといい、という覚悟だ」

 瞬間。
 ――フルドの足元が、弾けた。

「!?」

「この跳躍力は……“飛び跳ねる”!」

「その通り。英雄よ、中々見る目がある……そして!」

 直後、天井をけったかと思うと、一瞬で壁が蹴られて凹み、更にまた天井、壁、地面、と今までよりもかなり早くなっている。

「どういうことだ、これは!」

「飛び跳ねるで初速を上げ、更に高速移動を積み重ねる事でここまでスピードを上げた、としか考えようがないね」

「でも、そんな無茶したら……」

「まァ、十中八九、この鼠以外は体がヤバいことになるなァ」

「確かにな」

 幾ら早さが強みだとしても、今のフルドの速さは尋常じゃない速さだ。
 姿は辛うじて見えても、それを追おうと体を動かす前に、フルドは既に壁を蹴っている。つまり先読みでもしない限り、攻撃があたらないのだ。
 そんな速さともなれば、当然体にもかなり負担がかかるわけで。

「……なら、早めに倒すしかないよな」

「貴様らに、それができるとは思えん。……“ブレイズドロップ”!」

「うおォ!? 危ねェッ!?」

 高速の踵落としは、どうやらヒイロを狙ったようだ。
 ヒイロは本当の擦れ擦れで回避すると、即座に剣を抜き反撃に出る。しかしフルドは攻撃を避けられた瞬間、もう片方の足で既に飛び跳ねて離脱していた。

「くそっ! これじゃ、どんな攻撃も当たらねぇぞ!!」

「当たり前だ。長年積み上げてきた我が力、そう易々と破られるわけにはいかん。“ブレイズキック”!」

「“見切り”――ぐっ」

 シルガの見切りですら、見切るのが精一杯で体がそれについていかず、少しばかりダメージを貰う。
 この中でもかなり早く、避ける事に関しては最高のシルガでこれだ。もし次に女性陣が狙われるとすれば、確実に避けられないだろう。
 そしてそれは、勿論フルドも理解していたのだろう。

「……なるほど、貴様らを手っ取り早く下すには、やはりこうするのが一番だろう」

「なにがだ!」

「こうすれば、より効率よく狩れるといっただけだ……“切り裂く”!」

「きゃっ!?」

「ミル!」

 フルドはまずミルを狙って切り裂くを当てると、再び飛び跳ねて立体移動に移る。
 探知に優れるシルガでさえも追う事が難しいそれは、天井も地面も壁も、全てを利用して速度を上げ、エンジェル全員の不安感を煽る。
 一体どこから、と、警戒していると。

「うっ、ぐぅ!」

「フィリア!?」

 今度はフィリアが吹き飛ばされ、ヒイロが慌ててキャッチする。体に少し炎に焼かれた跡があるので、恐らくは“ブレイズキック”だろう。

「この野郎がァ……舐めんじゃねェぞォッ!!!」

「ヒイロ! ここで焦ってしまえば、ますます敵の思う壺だよ!」

「幾らフィリアのいう事だからって、そう簡単にはいと済ませられることじゃねェ! “火焔霊”!」

「面白い……ッ!」

 怒るヒイロから放たれた十もの火の弾は、全方位に向けられているため一つくらいはフルドに当たるだろうと放たれたそれは、一つもフルドに当たらずに壁に直撃する。

「ちィッ! 避けやがったか!!」

「このスピードの前でそんな技、当てる方が難しいだろう……そして!」

 その直後、勢いよく壁が蹴られたかと思うと――ヒイロの体が、勢いよく吹き飛んでいた。

「ごはっ……!?」

「“二度蹴り”だ。貴様のような馬鹿には、それで十分」

「このッ……“枝垂桜”!」

「“飛び跳ねる”」

 ヒイロを吹き飛ばした隙を狙い、放たれたフィリアの枝垂桜。それすらもフルドの脚力を以ってして繰り出される“飛び跳ねる”の速度の前には叶わず、斬撃は虚空を切り裂き、雲散する。

「ダメだ! これじゃ、攻撃が当たらない!」

「フィリア、いい策は……ないよな」

「シルガの先読みも、生半可な攻撃じゃ意味がない。先読みして、着地地点を攻撃しようにも相手が地面を離れてから一秒にも満たない間に、着地地点を攻撃出来る訳もないからね……ヒイロ、大丈夫かい?」

「あァ、咄嗟のところで剣で防げたぜ」

「……ヒイロでも、防ぐのが精一杯か」

 あの素早さに、エンジェルは覚悟を決める。これからの戦いは、今までよりもかなり激しくなる。それを耐え抜くための覚悟だ。
 とはいっても、覚悟だけでこの戦いに勝利する事が出来る訳でもなく、なんとか打開策を考えていると、ふと、ラルドの頭に一つの技が思い浮かぶ。

「いける、か?」

「なにかあるのかい?」

「ああ、成功するかどうかは分からないけど、まぁやってみるしかないな」

 それは以前から考えていた事だ。
 電気というのは色々な使用方法があり、便利だ。電気活性《アクティベーション》も、もし自分がピカチュウ以外のポケモンになっていたとすれば無理な話だろう。
 そして色々考えていくうちに、NとSの電気。それを使って、ロックオンや心の目と似たようなことができないかと思っていたのだ。

「その前の準備だ、ちょっと止まってもらうぞ……! ミル、守るでみんなを守れ!」

「うん! みんな、集まって……“守る”!」

 ラルドの声を聞き、みんながミルの元へと集まると、ミルは早速緑色のバリアを展開する。
 そしてラルドはそれを見ると、直に体内にたまった莫大な電撃を、一気に放出する。

「英雄一人だけが守るに入っていない……まさかッ!?」

「気付いたか、でも遅いぜ。“ディスチャージ”!」

 敵もラルドが一人守るのなかにいないことを疑問に思い、そこで初めて気付く。だが、もう遅い。
 ラルドのディスチャージは守るで防がれるが、移動中のフルドを捕らえ、痺れさせる。

「ぐおぉ……!」

 それは空中であたり、フルドは地面へ向かって落下する。
 勿論、フルドのことだ。落下してダメージを受ける、なんてことにはならないだろう。だがこの一瞬、隙が生まれてくれればいい、ラルドの狙いはそれだ。

「くらえ……ッ、“ステップトリーダー”!!」

「ぬぅ……?」

 ラルドから放たれた微弱な電撃は、見事フルドに当たる。だがそれが麻痺を引き起こすわけでもなく、微量のダメージも与えられていない。
 しかし、流石にこんな大きな隙ができたのに、攻撃せず態々使ってきたのだ。フルドも有る程度警戒する。

「はっ、これでようやく、お前に痛い目見せる準備が整ったぜ。ミル! 守るを解除してもいいぞ」

「ラルドのディスチャージ防ぎ終わったときから解除してたよ」

「なら、今から起こる出来事、全部その目に焼き付けとけよ!」

 そういって、自信満々なラルドの頬は、先程あれだけの電撃を放出したばかりだというのに既にバチバチと、電撃を溢れさせている。
 その言葉を不審に思うフルドだが、気に留めても意味はないだろうと判断し、再び飛び跳ねた。

「なにをしようと、無駄だ……ッ!」

「それは、どうかな?」

「ふん、貴様に我のスピードに対抗する手段など、ない!」

 確かにフルドのスピードは厄介だ。着地地点を壊すなんて、早すぎてできない。思えばラルドのライトニングボルテッカーも、あの時は蹴る場所を壊せばいいとおもっていたが、ディアルガはしたくてもできない状態だったのか、とラルドは思い出す。
 そして……頬袋が、大きく音を鳴らした瞬間。

「喰らえ、フルチャージの“暴雷”を!!」

「そんな小回りの利かぬ大技如き、容易く避け……ッ!?」

 ラルドが二つの雷球を打ち出した、その瞬間。
 ――二つの雷球は、フルドを追うようにして急に方向転換した。

「こ、これは……ッ!?」

「どうだ! 見たか、俺の技!」

「こんなもの、雲散するまで避け続ければ……ぬぅ!?」

 ロックオンのような技でフルドを追い続ける暴雷だが、確かに雲散するまで逃げ続けられたのならば意味がない。
 ……但し、逃げ続けられたら、の話だが。

「お前の思ってるのほど、簡単に攻略できるものじゃないぞ。俺がさっきお前にはなったあの電気。あれは俺の体とつながってるんだよ」

「なにッ!?」

「つまりだな。今もこうして、俺とお前はつながっている。三分はつながってるし、その間なら、俺から放たれる雷は確実にお前を狙い続ける」

 どれだけ縦横無尽に動こうが、この技を受けた時点で、もうラルドから発せられる電撃を避けるには走り続けなければ避けられないだろう。
 立体移動で避けるフルドだが、二つの雷の前では無意味だ。

「――ッ! しま」

 フルドが油断した、その一瞬。
 もう一つの雷球が、フルドに直撃し、更にもう一つの雷がフルドを引き裂く。



 ――その直撃を受けたフルドの体は、ゆっくりと、静かに、地面へと落ちていった。




〜☆〜



 フルドが地面へと落ちていく姿は、酷くゆっくりに思えた。
 今までフルドの速さを目で見ていたのが原因なのかは分からないが、六人の目には、若干の差があるものの普通の人が見るよりもゆっくりと、遅く見えていた。
 そして、フルドが地面へ落ちたとき、そのゆっくりで、遅い時間は終わりを告げる。

「……やった、のか?」

「これでやっていければ、それこそ化け物だろう」

「結局、僕はほとんど活躍していないね」

「私も……」

「仕方ないわよ。二人とも、スピード系の敵は苦手でしょ?」

 ミルは守るで守って、敵から離れて攻撃、または近づいて大ダメージを食らわせるなど、バランス的で攻守ともに優れる。その代わり自分よりも接近戦になれているものに近づかれたら終わりだ。
 フィリアも、確かに策自体はいいがフィリア自体の戦闘力はそこまで優れている訳でも無い。特に自慢のスピードを、それを上回る相手ならばなお更だ。

「こうしてみると、私達ホントにスピード相手に弱いわね」

「ま、俺らが対処できねェほど速ェ奴なんざ、今まで現れなかったからなァ」

「これからはまじめに考えていくか。はぁ、気が重い」

 電気活性《アクティベーション》改は何とかできたが、その逆の素早さに10を振る……つまり電気活性《アクティベーション》改の素早さバージョンは今のラルドではできないだろう。
 技術があっても、まず発想がない。あったとしても、それはかなり危険だからだ。

 と、考えていたときだった。
 かなりふらふらで、今にも倒れそうだが……後ろを見ると、フルドがたっていたのだ。

「……まだ、立てるのか」

「当然」

 体を雷で引き裂かれ、ボロボロの肉体はあちこちから血が出ている。これ以上無理に戦うと、ラルドでもない限りは一ヶ月は入院だ。

「右腕って言ってたな。そこまで傷を負ってるのに、ボスとやらのために戦うのか?」

「当然だ。我の使命は、ボスの使命。我が生まれ変わったその日から、それは既に決定している」

「それは間違ってるって言っても、聞かなそうだな」

「間違ってはいない。……我は、負けん」

 その心意気に関しては、ラルドも認めざるをえない。ここまでボスに尽くし、これだけボロボロになってまで戦うのは、正しく右腕のプライドだ。
 だが。

「諦めろ。お前はアリシアみたいな防御壁があるわけでもない。空中戦が得意な訳でも無い。……そんなボロボロな状態で、勝てるはずもないだろ」

「……それは、どうだろうか」

「?」

「奥の手は、まだある」

「疑似解放、あの黒いオーラのことか? それならなお更……」

「確かにそれもあるが……そうではない」

 フルドは懐から、なにやら見慣れない石を取り出す。
 それはカラフルというか、なんというか、なんとも言いがたいような色の石で、当然、ラルド以外の者は、みんなそれがなにか理解していなかった。

 ――ほんの数日前、その石を拾ったことがあるラルド以外は。

「なにそれ、そんな石ころで私たちを倒せると思ったら大間違いね」

「ここまでボロボロだと、流石に僕でも倒せるよ。さ、おとなしく捕まって――」

「みんな! 逃げろ、今すぐに! あいつから離れろ!」

 ラルドは戦慄し、そして叫ぶ。
 あれは、あの石は、間違いない。あの時、奇跡の海最深部で戦った、妙な進化を遂げたギャラドスが持っていた石で。
 そして、あれとほぼ同じもので、更に相手が切り札としてだしたものだ。間違いなく同じ物だ。

「なんだ。まさかあんなボロボロの奴に臆しているのか?」

「ハッ。情けねェ。本当に男かよ、いっぺん確かめてやろうかァ?」

「そんなこと言ってる場合じゃないぞ! 解放だけならまだしも……」

 妙な進化をするんだ、といいかけたそのときだ。
 
「英雄、そしてその他の者どもよ。まさか、こんな短時間で決着がつくとは。そして、貴様らにあまり傷をつけることができなかったとは。アリシアを鼻で笑ったが、貴様ら……いや、貴殿らを二名も負傷させたアリシアを、我は尊敬するべきかも知れぬ」

「何を意味不明なことを……!」

「だが、これからの戦いは別だ。これから我は理性を捨て、自分が持てる力全てを引き出す。……勿論、全てだ」

 そういって、フルドは右手に黒い結晶を、左手にあの石を持つと、同時にその両方の秘められた力を解放する。
 すると黒い結晶からは、フルドの体を覆う黒いオーラが噴出される。それに関してはエンジェル全員が想定内だ。
 だが、もう一つの石の効果をしるのは、エンジェル内ではラルドのみ。

「バッジを……」

「貴殿らの実力は確かに高い! だが……もう一段階の進化を遂げ、力を全て解放した我を倒せるか……!」

「ハッ、こっちには化け物三人ついてんのよ。負ける気なんてハナからないわよ!」

「ならば見るといい。我が真の実力を!」

「みんな、バッジを……!」

 その、直後だった。
 フルドの左手にあった石が光ると同時に、フルドがなにかのエネルギーに包まれ、やがてそれは光の膜へと変化を遂げる。
 その膜も、渦巻くエネルギーには耐え切れなかったのか、ひび割れ、光を零す。
 そして、膜が砕け散ったかと思うと――

「ッシャァァァァアアアアア!!!!!!」

 ――謎の紋章を浮かび上がらせ、姿形が変わったフルド・ムルジムが、そこにはいた。




次回「紅い疾風もやがて止み」

ものずき ( 2013/12/14(土) 21:20 )