ポケモン不思議のダンジョン空の探検隊 エンジェル〜黒と白の12の翼〜







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第五章 右腕と番人
第四十七話 幽霊廃坑
 マーレとの辛い別れを体験し、また一歩成長したラルド。そしてまた、いつものラルドへと戻りつつあり――?






〜☆〜


 あれから四週間が経った。
 夏の日差しが照りつける今、普段なら日差しがうまく遮断されるサメハダ岩も、例年通りにはいかない今年の日差しは遮断できないようで。
 エンジェルは夏の暑さに負け、ほぼ全員が家からは出掛けていた。

「……あー、暑い」

「はっ、これくらいで暑いなんざぁ、鍛え方が足りねぇんだよ」

「五月蝿いお前は炎タイプだろうが。……いや、フィリアもやけに元気だったな」

「日差しが強すぎて、光合成しすぎたらしいぜ」

「あー、なるほど」

 この暑さだ。草タイプのフィリアの元気はマッハでなくなっていく。
 だから光合成をしたんだろうけど、この日差しの強さじゃまぁ……かなりの光合成をしたんだろうな。

「で、お前なんで俺についてきてるの?」

「テメェについていきゃあ、なんか面白ぇもんがあるかと思ったんだよ。結果は見ての通り」

「ふざけんな教育するぞ、このやろう」

「お? やる気か? 丁度いい、俺もあの焦げ鳥との戦いでパワーアップしてんだ。今ならあいつみたいなのが来てもへっちゃらだぜ」

「ほーう。その気になれば、俺はお前なんか一撃必殺だぜ? オーバーキルのバーストパンチがあるからな。それでもやるか?」

 とはいっても、動く相手にはほぼ当たらない。しかもかなりの耐久を誇る奴には耐えられる可能性もある。威力は高いが一撃必殺というほどでもない、でも命中率は一撃必殺級の中途半端だけど。
 それでもこいつには十分だろう。

 俺とヒイロは、互いに警戒しながら、それぞれ利き足に力をこめると、一気に飛び出して……!

「こんなに暑い中、君達もよくやるね」

「ん、フィリアか――ぶほぉ!!?」

「バトル中に余所見たァ、いい度胸してやがんな!」

「と、咄嗟に炎のパンチに切り替えてくれたのはありがたいけど! そんなのよりも攻撃中止とかあるだろ!? ……ああぁ! 夏の暑さでさっき攻撃された所が!!」

 ヒリヒリする! ヒリヒリする!
 とかなんとか悶絶していると、フィリアが蔓で俺の肩を叩く。

「ああぁー……なんだ、一体。俺のヒリヒリを治せるのか? 治せたら感謝料として500Pやるよ」

「林檎20個分か。悪いけど僕は今、喉の渇きを早急に潤したいんだ。林檎でもできるけど、やはりこの炎天下の中に飲む水やジュースは格別だろうね」

 ……フィリアの手に持っているのは木の実。
 そしてジュースといえばパッチールのカフェだ。

「つまりカフェに行くぞと。素直に言えよ、ほら行くぞ」

「テメェ、フィリアに対してなんて態度だ!」

「あ、あぁ!! ヒリヒリしてるところを! あぁ!!」

 その前にこいつぶん殴る!!




〜☆〜




「……なんだ溝鼠か」

「溝鼠ね」

「やっほーラルド。元気?」

「全員、テーブルに突っ伏しながらなに言ってんだよ……」

 ミルに至っては恐怖すら感じるぞ。なんだよ、その体勢でのその言動。

「流石に暑さには勝てん」

「心頭滅却してないからよ。波動使いの癖に生意気よ」

「それは流石に無理があるだろ」

 心頭滅却しても暑い事には変わりないって、はっきり分かんだね。催眠術レベルの思い込みとかは無視しておく。
 ……それにしても皆、このクソ暑い中、カフェにはあんまりいないな。

「あのね、皆がここに集まるからかえって暑くなっちゃったから、皆、自分の家に帰ったりしてるんだよ」

「なるほど。それでこんなにもがらがらなのか」

 タルイーズの二人も、いつもここにいるはずなのにいないとは。
 タルイーズさえ動く気になるこの夏の暑さ。流石に異常すぎるぞ。

「……あ、そうそうラルド。聞いたんだけどね、面白い噂」

「いい加減、テーブルに突っ伏しながら喋るのやめろよ。気味が悪いぞ」

 不気味というのか、こんな状態でシリアスな話しやられても笑う事しかできないぞ、俺。

「いいじゃん。でね、実はトレジャータウンからちょっと西に行ったところにね、有名な廃坑があるんだって」

「それが?」

「でねでね、そこね。……出るんだよ」

「幽霊?」

「夜中になると、ひゅーどろろって……ネタバレしないでよ! 折角最後まで聞けた珍しい怖い話なのに!」

 ミル基準での最後までといえば、全人類が少しも恐怖心をあおられないレベルの話だろうに。こいつはなに言ってんだ。

「で、その廃坑ってどこなんだ?」

「えっとね。ここから西に歩いて一時間だって。結構近いね」

「なら、走ったら直か」

 奇跡の海まで走って一時間の俺に死角はなかった。
 ……あ、でも色々なドーピングや強化しまくりだったからなぁ。あの痛みを味わうくりなら歩いていくか。うん。

「……? ラルド、行くの?」

「なに言ってんだ。肝試しに行くって話しだろ?」

「……!?」

 怖い話じゃ物足りない。だから肝試しというものがある。
 幸い、西の方は森があるから行きも帰りも結構雰囲気あるだろうし、決まりだな。

「なるほど、肝試しか」

「私は行くわ。久々に人間らしいことして見たいもの」

「僕も、久々にそういうことをしてみたくなったよ」

「フィリアが行くなら俺もだ!」

「え、ちょ、ちょっと皆……え? 本気?」

 ミルが困惑している。つまりネタ程度で振った話題だったんだろう。それがこんな話になって焦っていると。
 ……なるほど。

「よーし、出発は明日の夜だ! 皆、ちゃんと準備していくぞ!」

『おぉー!』

「なんでもするから、それだけは! それだけは止めてください!」

 やめない。






〜☆〜


 只今、昨日から何十時間後もたった夜の十時だ。
 夏といえども、こんな時間になれば夜は暗くて夜空は綺麗で、誰も居ない町は静かだ。
 たった一つ、いつもと同じ点があるとすれば、それは間違いなく、この集団だろう。

「ね、眠い……!」

「嘘つけ。全員、今この瞬間のために昼寝したんだぞ」

 そう。探検隊の朝は早く、そして夜も早い。
 六時半から七時の間に起きて、そして八時までに準備。そしてそこからちょっと時間を空けて依頼を受けるなどと、かなりハードスケジュールだ。
 ただし夜も早く、大体七時か八時には寝ている。
 だがエンジェルは子供なので六時には寝ている。だから、今日は一切仕事せずに昼寝したのだ。決してサボリでもなんでもない。

「幽霊廃坑へ肝試し! 夏といえばこれだろ! さ、行くぞ!」

「や、やだー! 怖いものは怖いー!」

「パジャマに逃げ込むな! パジャマはジャマ、さぁ行くぞほら行くぞ!」

「うわぁー!! フィリア、レインー!!」

「仕方ないけど、これ全員参加なのよね」

「ミル。気味の度胸を鍛えるいい機会だよ。さ、来るんだ」

「つ、蔓の鞭で引っ張りながらいいこと言わないで! ……あ、あー!!!!」

 ミルの悲鳴は、虚しくも夜空へと消えていくのであった。





 ――赤熱を帯びた脚による突きが、岩盤を抉る。
 炎を纏ったパンチは向かい来る無数の岩の飛礫を、避けられないものだけを的確に打ち抜き、必殺の跳び膝蹴りは壁を易々とぶち破る。
 その衝撃でこの場所が崩れるかと思ったが、思ったより頑丈でびくともしない。

「……静かな夜だ」

 普段、秘密裏に使っているこの坑道も今は夜ということで使っておらず、そのポケモン以外は誰も居ない。
 トロッコや線路はそのままで、たまに鉱石などが残っている事もある。
 そんな中、このポケモンはいた。

「今日もこの場で、我々の作戦への一歩を踏み出しました。ボス」

 そのポケモンは何かの気配に気付くと同時に、どこかへ向かってつぶやく。
 それは傍から見るとただの独り言で、しかしそのポケモンはそのボスとやらに言葉が通じたと見ると、すぐさま修行を始める。

「――英雄よ、我と相見えるとき。それが貴殿の最後だ」

 その言葉は、誰にも聞こえず。




次回「神速の立体戦in廃坑」

ものずき ( 2013/11/28(木) 20:55 )