ポケモン不思議のダンジョン空の探検隊 エンジェル〜黒と白の12の翼〜







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第四章 蒼海の王子
第四十六話 別れ
 フィオネの雫を求め、奇跡の海へと足を踏み入れたラルド。奥底でギャラドスとの戦いを乗り越え、雫を貰い――?






〜☆〜


 誰もいない、無人のトレジャータウン。
 おやつの時間で、更に人通りもほぼないことから店は全て休業。二十四時間開店、安心と信頼のカクレオン商店も今日ばかりは休みだ。
 そんな無人の街を、荒い息を立てて走る一人のポケモンがいた。
 そのポケモンはかなりよろよろと歩きながら、それでもなんとか目的地――エンジェルの家を目指して走っていた。

「――もって、来たぞ!!!」

 階段を駆け下り……はせず、ほぼ落ちたといってもいいような形で降りると、すぐにフィオネのしずくを差し出す。

「ら、ラルド! その怪我、どうしたの!? 大丈夫!?」

「それよりも、雫を持ってきた! これでマーレを助けてくれ!」

「あ、ああ。分かったよ。……それにしても、本当に間に合わせるとはね」

 あの対決の後、雫以外ほぼ回復もせずにありとあらゆる強化技をかけたので、ラルドの体は既にボロボロの状態だ。
 それでも間に合わせようと走り続けたラルドは、やはり凄いのだろう。

「よし、準備は整ってある。さっさとよこしな!」

「ほら、これが雫だ……ちゃんと持ってきた」

 ラルドの手に握られていた雫は少し温かく、汗もついていたが走る際の振動や、その他の衝撃で傷ついた形跡は見られず、ラルドが必死に守って走っていた事が分かる。
 ペルーはラルドの頑張りを背に、せっせと雫を材料に薬を作る。

「ハァ、ハァ……体が、痛い……な」

「もしかしてラルド、解放を一時間以上やったの?」

「当たり前だろ、俺のせいで……マーレは苦しんでるんだ。幸い、体の痛みには慣れてる。一日寝れば、すぐ、よくな――」

 それを最後に、ラルドは倒れた。今までの疲労がたまりにたまったのだろう。体の傷を見て、どれだけの攻撃を受け、どれだけの激戦を繰り広げ、どれだけ転んだのか。医療関係に詳しくないミルでさえ、容易に想像できる。

「……ラルド、今は休んでてね。きっと、マーレもすぐによくなるから……」

 ミルは藁ベッドを用意すると、その上にラルドを寝かせる。
 そして、数時間後――




〜☆〜




 ――光が眩しい。
 照りつける朝の日差しが、目を閉じているはずなのに眩しく思える。寝起きの体であちこちの体の感覚がまだ少し薄く、意識もはっきりしていない。
 体ももう少し休みたいらしいのか、動かない。なら、このまま二度寝でもいいかとさえ――

「って、んなわけあるか! ……あれ、朝?」

「あっ、みんな! ラルドが起きたよ!」

「あら、案外早かったじゃないの」

「まさか、あれほど疲労が蓄積していたのに、一晩でここまで回復するとはね」

「おう、朝飯の用意はできてるぞ。疲れてる上に晩飯抜きだ、いやでも食わせてやるからな」

 ……あまりにも普通すぎて、ラルドは一瞬夢かと思い、自身の頬をつねる。
 当たり前だが痛い。

「……気でも狂ったか?」

「ちゃうわ! ……いや、俺の記憶だと、なんか凄いシリアス場面だった気が……こんな日常展開にいきなりなるなんて。って、そうだ、マーレは?」

 あたりを見回しても、マーレは見当たらない。

「ああ。マーレなら、ギルドでゆっくりと、君の寝ているものよりもっと上質なベッドで寝ているよ」

「五月蝿いな! ……でも、よかった。助かったのか」

「……本当にすまないね。僕が勝手にリーダーバッジを持っていったばかりに」

「いいんだよ。遅かれ早かれ、こうなってたことだろうし。……あー、お腹空いたから、朝ごはん食べさせてくれよ」

 昨日、ほぼ何も食べずに走って戦い、そのまま眠ったラルドのお腹はぺこぺこで、腹の音もなっている。
 気を抜いたらそのまま倒れそうなくらい、ふらふらだ。

「ほらよ」

「サンドウィッチか。いただきまーす」

 野菜で木の実をはさんで、それをパンではさむ。簡単そうだが、ヒイロのアレンジでかなりおいしくなっている。いっそのこと探検隊やめて料理人になれと思うくらいだ。
 たまに悪戯でマトマが挟まっていたりするので慎重に食べなければいけないが。

「あれ、お前らもう食べたのか?」

「現在時刻は十時だよ。とっくに食べてるさ」

「あ、そうなの。昨日も今日もよく寝るなぁ、俺」

 そういい、笑いながらもサンドウィッチを食べるラルド。
 挟まっている木の実はどうやらラルドの好きなものだったらしく、お腹が空いているのもあってかかなりの速さで食べ終わる。

「うん、ごちそうさまっと。……で、まだ俺に何かいうことあるだろ」

「あれ、ばれちゃった?」

「馬鹿にするなよ。これでも一応リーダーなんだから」

「変な所でリーダーっぽくされてもねぇ」

「だー、五月蝿ぇ!! さっさと用件を言え! ……大体、察しはつくけど」

 こんな状態で、後ろめたそうに隠していることといえば、十中八九マーレ絡みのことしかないだろう。
 さらに、後ろめたそうにしているということは。

「別れのときは、必ず来るとは思ってたよ。それにお前たちが悪いんじゃないし。どちらかといえば、子育てを甘く見てた俺が悪いんだよ」

 希少なポケモンを安易な気持ちで育てようとした、自分の責任だと、ラルドは思う。
 孵ったとき、海へ返してやればこんなことにはならず、マーレは本来歩むべき道を歩めただろうと、そう思っている。

「で、いつなんだ? 別れるときって」

「……なるべく早いほうがいいからって、今日の夕方だってさ」

「夕方、ね」

 現在時刻、十時。そしてミルの言う夕方とは恐らく四時か五時だろう。
 そしてその時間まで、六、七時間はある。

「んじゃ、マーレのところに行ってくるよ。様子を見に」

「うん。行ってらっしゃい」

「はいはいっと」

 ラルドは階段を上っていく。ただちょっとギルドへ行くだけなので、なにも持っては行かない。
 ――今日を以って、マーレとお別れだと思うと、いつか来ると思っていたとはいえやはり寂しさがこみ上げてくる。
 どこか、日常にぽっかりと穴があいたような、そんな感覚がラルドを襲っていた。

「俺がちゃんとやってれば、もっと長くマーレといっしょにいられたのかな」

 つぶやく声は、誰にも届かない。




〜☆〜




「よ、ペルー。昨日ぶりだな」

「ああ、ラルドか。体の方は無事なんだろうね」

「お陰ですっかり元気になったぜ。ほらこの通り」

 ラルドは手を振ると、元気だということを見せ付ける。
 
「んで、マーレは大丈夫か? どんな状態だ?」

「かなり回復してきてるね。特効薬と雫を使ったからね、治ってもらわなきゃ困るよ。……それで、訊いているのかい?」

「別れの事? ああ、うん。一応」

 いずれ別れるだろうとは思ってたけど、早かったな。と笑いながらいうラルドを見て、ペルーはなんとも言いがたいような表情になるが、直に元へ戻る。

「とにかく、今は寝てるからね。絶対安静なんだ。こんな忙しい中、聞きにきたのはそれだけかい? ならさっさと帰りな! こちとらギルドの会計役で忙しいんだよ!」

「分かってるよ。見たかったけど、まぁ仕方ないか」

 絶対安静なら仕方ないと、ラルドはさっさと家へ戻る……前に、ふと脚を止める。

「あ、そうそう。ペルー、ありがとな。昨日はマーレの看病とかしてくれて」

 それだけいうと、駆け足で家へと戻るラルド。
 ペルーは当たり前だよ、とつぶやくと、さっさと仕事へと戻っていったのであった。






「とはいっても、やることなんにもねぇな……暇すぎ」

 精々、特訓くらいだろうか。その特訓も今のラルドでは負担がかかりすぎて、より疲労がたまりすぎて怪我する未来しか見えない。
 みんなも色々とやることがあるのか、シルガ以外は出て行っている。

「……ラルド」

「なんだよニート。言っておくが留守番なんて言い訳は聞かないぞ。お前もやることくらいあるだろ」

「お前もだろう。……お前はもう、覚悟はできてるのか?」

「覚悟って、別れる覚悟? そんなの最初からできてるよ」

 こんないきなりだとは、流石に思っていなかっただろうが、それでもラルドはいずれは別れがくるものだとは思っていた。だから最初から予想はしていたのだ。

「……そうか。ならいい」

「なんだよ、柄にもなく心配してくれてるのか? 安心しろよ、俺は大丈夫だぜ?」

「……じゃあな。留守番、頼んだぞ」

「はいはい。任された」

 シルガも皆と同じ様に、なにかをしに外へと出掛ける。
 今現在、エンジェルの家にはラルドが一人っきりだ。

「……あーあ」

 いつもなら、マーレといっしょに遊んだりして時間が潰せるのだろうが、そのマーレはいない。しかも、今日でお別れだ。
 マーレのことをろくに調べもしなかった自分が悪いのだが、やはりどこかに寂しさを感じてしまう。

「俺、いい父親にはなれそうにもないな」

 別れの時まで、あと少し。




〜☆〜




 現在時刻、四時三十分。
 マーレが海へと帰る――つまり、お別れの時間だ。
 海岸には、ペラップとエンジェルの面々。そしてマーレに、プリルの友達のトドゼルガというポケモンがいた。

「では。リンドさん。後は頼みました」

「ああ。了解した」

 ペラップはリンドと呼ばれるトドゼルガになにか――マーレのことを頼み込むと、リンドは快く了承する。
 
「らるー。どーしたの?」

「……なにがだよ」

「なんか、らるもみんなも、へん!」

「ああ。そうだろうな」

 マーレは起きていて、ラルドに引っ付いている。今からマーレを引き離し、リンドに任せる。たったこれだけ、たったこれだけのことすればいいだけなのに、覚悟は決めていたはずのラルドも悩んでしまう。
 だが、これもマーレのためだ。ここにいては、マーレは苦しいだけなのだ。

「……マーレ。お別れだ」

「お、わかれ?」

「ああ。俺たちとお前は、今日限りでお別れだ。もう二度と会うこともないだろ」

「へ?」

「お前は海で暮らす。俺たちは陸で暮らす。だからここで、お別れだ」

 そういって、マーレを引き離そうとするラルドだったが……思った以上にマーレの力が強く、引き離せない。

「ちょ、離れろ! ここでお別れだって言ってるだろ!」

「やー! らるといっしょにいるー!」

「この分からず屋が……ッ!?」

 何とか引き離そうとしていると、ラルドの中になにかが流れ込んでくる。
 無邪気で無知な、子供の感情。そう、マーレの感情がラルドに流れ込んでいるのだ。

「……これは」

 マナフィ特有の能力なのかは分からないが、こうしてマーレの気持ちが流れ込んできているのは事実だ。
 ただ離れたくないと、ラルドと離れたくないと心の底から思っているらしい。
 だがラルドは、それを引き離してでも海へとマーレを帰さなければいけない。

「……っ、“電気活性≪アクティベーション≫改”」

「!?」

「ラルド、なんでそんな……」

「俺なりの覚悟みたいなものだよ。さて、と」

「え、う、強い……ひゃあ!!」

 ラルドは先程とは違い、軽々とマーレを持ち上げるとリンドへと歩み寄る。

「リンドさん。後は頼みます」

「分かっている」

 暴れるマーレを、ラルドはリンドに渡す。リンドは暴れているマーレをものともせず海へと帰っていく。

「らるー!! らーる!! みぅー!! みんなー!」

「……!!」

「ラルド。なにも言わなくていいの?」

「いいよ。俺が言う言葉なんて、ないからな」

 先に帰ってると、ラルドはそれだけいうと走っていく。
 その後姿を見たミルは、とてもとても小さく見えた。

「らるー! らるどー!!」

「……ッ」

 マーレの声が、どんどん遠くなっていく。走るたびに、聞こえづらくなってくる。
 そして、遂には聞こえなくなり――

「じゃあな、マーレ」

 夕焼け空のした、ラルドは誰にも聞こえない声で返事をした。






「……やっぱり。ここにいた」

「ミル、か」

「家に帰ってもいないから心配したよ。晩御飯もできてるし、帰ろ?」

 現在、時刻は六時半だ。日も段々と暮れはじめ、夕日も沈みかけている。
 今ラルドとミルがいるのは海岸だ。あれからラルドは、森に身を潜め、皆が海岸から居なくなった頃を見計らって海岸へ戻っていた。

「……なぁミル」

「なに?」

「なんで人って、いずれ別れることは分かってるのに、いざこうして別れてみると……こんなにも悲しいのかな」

「……ラルド、悲しいの?」

「そりゃ、ま」

 ラルドだって心を持ち、感情だって人並みにある。今まで普通だった日常が、大事な人がいなくなれば誰だって悲しくなる。

「……覚悟してたのにさ、やっぱりいざとなると悲しくなるんだよ。これって、変だろ?」

「……変じゃ、ないと思うよ」

「なんでだ?」

「覚悟なんて、所詮心構えだもん。こうなるって分かってても、覚悟してても、それでもやっぱり実際そうなったら応えるよ。転ぶのを分かってても転んだら痛いのと一緒で」

「……その心構えが大事なんじゃないのか?」

「大丈夫、大丈夫って思ってても、怖いものは怖い。ただいきなり来るよりはマシってくらいだよ」

 実際、ラルドも覚悟はしていたのに、やはりいざそうなってしまうと心が折れてしまう。
 覚悟など、あってないようなものだ。

「覚悟を決めても、苦しい物は苦しい。つらい物はつらい。……でも、それでも覚悟を決められる人は強い人なんだと思う」

「え?」

「苦しいって分かってるのに、辛いって分かってるのに、それでも覚悟を決められる。そういう人は、やっぱり強いんだよ」

「……そんなもんかな」

「……私ね。今のラルド、羨ましいんだ」

「は?」

 ラルドは一瞬、訳が分からなくなる。こんなにも悩んでいる状態の自分の、どこか羨ましいのだろうかと。

「私は、そんなに強くないもん。できる限り辛い事からは逃げたいし、覚悟も決められない。ディアルガの時だって本当は逃げ出したかったし、ラルドが隣に居てくれなかったら私、たとえディアルガを倒せたとしても逃げてたと思うよ」

「……でもお前は、くじけてた俺を救ったじゃないか。挫けず、ディアルガの足止めまで」

「それはラルドを信じてたからだよ。ラルドならやってくれるって。覚悟じゃない。確信してたから、私は頑張れたんだよ」

「ああ」

 確信していたから、頑張れたというミルを臆病者ととるのか、それでも足止めできたんだから凄いと褒めるのかは人それぞれだろう。
 だがラルドは、そのどれでもない。

「……お前、底なしのお人よしだな」

「え!?」

「普通、あんな化け物相手にしてるのに、信じ続けられるって。……凄いな」

 それが、ラルドの感想だ。
 底なしの馬鹿というわけでもなく、普通の臆病者がラルドでさえ心が折れたバケモノを相手に、ただラルドはやってくれると、確信するほどの信頼だけで立ち向かっていったのだ。
 凄いといわず、なんといえるのか。

「そ、そうかな……へへ」

「気持ち悪いぞ」

「えぇ!!?」

「本当に……あーあ、お腹すいたな。帰ろーぜ」

「え、ちょ、ちょっと待ってよー!」

 走っていくラルドを追いかけて、ミルも走っていく。
 ラルドの中でミルの評価が、また一段と上がった瞬間だった。




次回「幽霊廃坑」

■筆者メッセージ
またまた更新が送れてしまいすいません。何度も書こうと思っていたのですが、疲れて眠ったり厳選で時間がとられたりと、気付けばいつも深夜に。
これからはちょっと頑張ります。

次回「幽霊廃坑」
ものずき ( 2013/11/24(日) 20:01 )