第四十四話 一難去らずにまた一難
マーレと名づけたマーレとの楽しい日々を過ごすエンジェル。だがその幸せに、気付かないうちに罅が入っていって――?
〜☆〜
朝。気持ちのいい、とても清々しい朝だ。
ポッポが囀り、波の音が心地よい。潮風も丁度よく、ラルドは絶好のタイミングで目覚めた。
日差しが照りつけるこの夏――六月といってもこの世界では一ヶ月のほとんどが雨とかではなく、ただ普段より雨が多いだけでそれ以外はそこまで変わらない。
ラルドは少し痛みがする腰を伸ばし、目をこすって。
「……ん? ミルが、起きている、だって?」
「あ、おはようラルド。やっと起きたんだね」
「お、おお。で、どうしたんだ一体。こんな朝早くにおきて」
「朝早く? ラルドなにいってるの? もう朝の十一時だよ?」
「!?!?」
ラルドはがばっと勢いよく起きると、なるほど確かに日が完全に昇っている。これは間違いなく十一時だろう。
だとすれば、ラルドは昨日眠った――夜の七時から、十六時間も眠っていた事になる。
「う、うわぁ! 寝坊だぁ!! ……って、あれ? ほかの奴らは?」
周りを見るが、誰も居ない。ミル以外、誰もだ。
朝食を食べた形跡はあるので、恐らく朝食を食べた後にどこかへ四人ででかけたのだろう。四人、だとすれば探検だろうか。
そう考えて、ラルドはリーダーバッジを探してみる、がどこにも見当たらない。
「探検だって。あのね、パッチールたちのプロジェクト? でトレジャータウンの探検隊みんなで一度そのプロジェクトPをやろう、って企画でさ。新しく難しいダンジョンが見つかったんだって」
「なるほど。それで誰も居ないのか。ってことは、トレジャータウンにも?」
「うん。珍しくこの町の探検隊のほとんどが出掛けちゃったから、ギルドも今日はしまってるんだよ」
「……わぁー!! なんで起こしてくれなかったんだよ!」
「お、起こしたもん! でも、ラルドの電気袋から電気がバチッって出たから……」
その言葉を訊いて、腰の痛みがなんなのかを理解する。ミルの体当たりだ。
「くそっ……ま、今日くらいはゆっくりするか」
「嘘だー! ラルド、この所マーレちゃんに構ってばっかりだったよ! 私に全然構ってくれないし!」
そう、この所ラルドはマーレにばかり気を使い探検にもほとんど行っていない。一応体がなまらないようにと、特訓は夜中にやってはいるが、それも申し訳程度だ。
「あーはいはい。じゃあなにするか? トランプでも……ん?」
ラルドはマーレ、と聞いて辺りを見渡すが、どこにもいない。
「おいミル、マーレは?」
「さっきうみー、って言いながら出て行ったよ。三十分前に」
「ふーん……ま、あいつも三十分くらいなら心配ないだろ。今すぐ迎えに行くぞ」
「ぶー……でも、心配だから私も行く! それでみんなでいっしょに遊ぼ!」
「お前は本当に楽しい事しか考えてないのな」
とりあえず顔を洗い、歯磨きをするとラルドは早速海岸へと行く。マーレの永長速度も恐ろしいもので、今では自分で朝起きて顔を洗えるようになり、少しの間目を離していても心配ないようになっていた。
だからこそラルドもそこまで心配せず、のんびり海岸へ向かっていた。
「……お、見事なまでに人が少ない」
ガルーラやカクレオンはともかく、探検隊が人っ子一人いないのは驚いた。カフェに行けば探検隊ではないバリヤードや、面倒くさがりのタルイーズなどは絶対にいるだろうが別にそこまで用があるわけではない。
「おや、ラルド、それにミルじゃないか」
「あ、ペルー!」
「よう焼き鳥。こんな所まで来てなんだ? 買い物ついでに寄ろうとしたのか?」
「いや、マーレのことで少し心配になったんだよ。で、マーレは家にいるのか?」
「海岸に行くって言って三十分帰ってこないって言うから、今から行く所」
「なるほどねぇ。ま、マーレなら無事だろうけど……」
そういうペルーの顔は、それでもどこか心配そうだった。
「大丈夫だって。そんなに気になるんなら、急いでいこうぜ!」
「あ、待ってよ!」
「あ、コラお前たち! ……ったく、ちっとも変わっていないね。あの二人は」
無邪気にはしゃぎ、マーレと変わらないラルドとミル。その笑顔は、後の悲劇などとても想像はしていないようで。
――そして、海岸へとたどり着く。
「……お、マーレだ」
海岸へつくと、マーレが目に付いた。
海につっぷしているが、水タイプなので息ができないことはないだろう。
「おーい、マーレ! もう帰るぞー!」
「早く帰ってトランプしよーよ! 私、こう見えてもばば抜き強いんだよ!」
「おーい……って、聞こえてないのか?」
もしかすると寝ているのでは、と考えるがそれはないだろう。幾らマーレでも、そんなことはしない。
「ひーっ、ひーっ、お前たち、急ぎすぎだよ……おや、マーレが倒れてるようなんだが……?」
「どうしたのかな。おい、マーレ」
本気で寝ているのではと思い、ラルドはマーレへと近づき、
――そのとても熱い体に触れた。
「っ、おいペルー! マーレの体が熱いぞ!」
「な、なんだってぇ!?」
「ね、熱!? どど、どういうことなの!?」
「知るか!」
「お、お前たち! とにかくマーレを家へ運ぶんだよ! 私はギルドから色々とってくる、早くするんだよ!」
「あ、ああ!」
急に訪れたマーレの熱。それは偶然ではなく、必然だった。
だんだんと、終わりが近づいてくる。
たった一週間の、エンジェルとマーレの日常が、段々と。
〜☆〜
「……これは……」
――現在、エンジェル宅。
そこでは藁のベッドで寝かされたマーレが、荒い呼吸をしながら眠っていた。
沸騰するのではないか、というくらい熱い体が、その状態が熱だということを示していた。
「ぺ、ペルー! マーレはどうなっちゃうの!?」
「……熱だ。それも高熱で、恐らくこうして寝かせておいても治る見込みはないだろう」
「なんで、そんなことに!」
昨日までは普通だったはずだ。と、ラルドは昨日の記憶を探る。
いつもどおり遊んで、いつもどおり最後に海岸で遊んで、そして帰って。
「……待てよ。確かあの時」
記憶を探っていく中、ラルドは一つ思い出す。
マーレは帰り際、少し息切れをおこしていた。だがそれは微かに聞こえる程度で、遊びづかれただけだろうと思い気にはしなかったが。
「まさか、あれか……!?」
「……いきなり違う環境に住めといわれて、適応できるポケモンはそういない。しかもマーレはマナフィという、稀少で、前例もない。こうなることは、必然だったんだろう」
「じゃ、じゃあどうすればいいの!?」
「以前、どこかで聴いたことがある。フィオネ、というポケモンが作り出すしずくは、海で暮らすポケモン達にとって万能薬だそうだ。それがあれば、もしかすれば」
「本当か!?」
マーレを治す手がかりを得て、ラルドは早速探検の用意をしようと、リーダーバッジを……。
「リーダーバッジが――あ」
確か今日、プロジェクトPで新たにダンジョンが発見されて、それでフィリアたちが持っていったのだ。
つまり今回、探検をするにしても、リーダーバッジがないということは。
「慌てるんじゃないよ。いいかい、フィオネは西にある奇跡の海に要るといわれている。……でも」
「な、なに?」
「……そこへは片道一時間はかかる。生憎ワタシは医療はあまり得意じゃないんだ。後一人、人手がないと、恐らく三時間と持たないだろう」
「そ、そんな」
ペルーだけでは、三時間と持たない。そしてそれは最短で行ったとしても間に合わないだろう。それをどうにかするには。
この中の誰か一人で、奇跡の海を突破しなければならない。ならば。
「なら、俺が行くよ」
「え……」
「……それしか方法がないんだ。奇跡の海って言われてるくらいだから、俺の方がミルより相性もいいし、ミルの方がこういうことには向いてるだろ。無駄な所で器用だし。俺と違って」
「で、でも」
「――いいかミル。これはリーダー命令だ。ペルーといっしょにマーレの看病をしろ。その間に、俺はフィオネの雫を取ってくる」
「でも、片道一時間だよ? 私がペルーの助けをしたところで、一時間増えるかどうか」
そう、ミルは医療関係にはからっきしだ。
フィリアならばニート時代に呼んだあらゆる書物の中で、医療関係の知識を引っ張り出し、より貢献できるだろうが、ミルは違う。
ただの応急処置くらいしかできないのだ。
「なら、三時間半だ」
「え」
「三時間半以内に、俺はここに戻ってくる。絶対だ」
例え時間ぎりぎりになったとしても、体が壊れる覚悟で解放や電気活性≪アクティベーション≫を使用すればいい。
「……分かったよ。私も、努力する。だから、絶対かえって来てね!」
「ああ」
オレンの実などは腐るほど倉庫にあり、その他色々、あまるほどある。
探検の準備を完了次第、奇跡の海へ直行だ。
「奇跡の海は手ごわい。幾らお前が強いからといって、油断するんじゃないよ」
「分かってるよ」
油断は探検においてもっとも避けるべき、恐るべきものだということは今までの探検で習った。
確実に、そしてより迅速に帰ってくるためにも油断などする暇はない。
「じゃあな。行ってくる」
「うん、行ってらっしゃい」
その言葉を最後に、ラルドはバッグを取ると急いで倉庫へと向かう。
――もう、誰も失わないように。
〜☆〜
それから約一時間が過ぎた。
片道一時間の名は伊達ではなく、しかも途中で橋がボロボロだったりとかなり足止めをくらってしまったが、なんとかたどり着けた。
ここは奇跡の海、その入り口だ。
「……とりあえず流されるか」
海系ダンジョンは流されて入るのが苦痛だが、今はそんなことを言っていられる暇もない。マーレが苦しんでいるのだ、それくらい我慢しなければならない。
早速海流へ飛び込むと、ラルドは早速流される。急で息もできず、苦しい。だがそんなことを思っているうちに奇跡の海内部へと入っていたらしい。
「ぷはぁっ! くそっ、全身びしょぬれだ」
電気で乾かすが、少し焦げたのか焦げ臭い。
「ここが、奇跡の海か」
その光景は、まさに奇跡だ。
閉ざされた海以上に住み心地がよさそうで、海も煌めいていて、とても幻想的だ。但し、ここがダンジョンでなければの話だが。
「……」
とりあえず周りを見渡した後、ラルドは高速移動で移動する。一秒も惜しい今、技のエネルギーなど考えている暇はない。
バッグの中身はほとんどがオレンの実とピーピーマックスで、不思議玉はほとんど入れていない。つまり、モンスターハウスも自力で切り抜かなければいけないというわけだ。
「……おおおぉぉぉ!!!」
「ギャアアァ!!」
階段を探すため、高速移動で走り抜けるラルド。そんなラルドを止めようとしているのか、ホエルコ二匹が向かってくる。
――が。
「邪魔だどけ! “雷電パンチ”!!」
「「ギャッ!!??」」
その速度のまま繰り出される“雷電パンチ”の前にはたいした脅威でもなく、そのまま吹き飛ばされ目を回す。
そんなことは気にせず、ラルドは階段を目指してただ走る。
「ギャアッ!!」
「ッ、トゲが五発……ってことはパルシェンか!」
ラルドが最初の頃、お尋ね者として倒した事もあるポケモン、パルシェンだ。
強力な兵器にも耐えうるその甲殻は、非常に硬い、が。
「んなもの、“雷”!」
「ギ、ギャアアアァァァ!!!!!??」
その甲殻を閉じる前に、内側を電撃で撃つ。それでパルシェンは倒れる。
今のラルドに、ダンジョンの敵ポケモンに構ってやれる時間などない。できるだけ早く戻らなくてはならないのだ。
「ギャアッ!!」
「ドククラゲか!」
水毒タイプで、蠢く数多の触手を操る奇妙で気持ち悪いポケモンだ。
絡み付くを食らえばいっかんの終わりといってもいい――ならば、近づかれる前に倒せばいいだけだ。
「“十万ボルト”!」
「ギィィイ!!」
強力な電撃がドククラゲを襲い、あたりを眩い光で照らす。
その光が収まった後には、黒焦げになって目を回したドククラゲのみが残されていた。
「待ってろよ、マーレ……!」
早く帰る、ただそれだけを目指して走る。階段を目指して走る。
そうして、一階層目をあらかた探索し終え、最後の部屋へ到達すると、
「「「ギャアアッ!!!」」」
「ちっ、モンスターハウスか!」
まるで待ち構えていたかのように、そこからポケモン達があふれ出る。その数なんと、十を軽く越えている。
ユレイドル、マンタイン、キングドラ、ラプラス、ランターン……様々な強敵が、ラルドを標的にしている。
「……上等だ。お前らまとめて、ぶっ飛ばす」
その言葉を合図に、ラルドの体の筋肉が刺激される。
“電気活性≪アクティベーション≫”の発動だ。
「“爆雷パンチ”!」
「ギャッ!!」
ラルドの強力な雷の拳がマンタインを襲う。その拳がマンタインを捉えようとする寸前、ランターンがマンタインを庇い、ラルドの拳に直撃する。
そのまま吹き飛ばされていくも、爆雷パンチの威力ほどダメージを受けているようには見えない。
恐らくランターンの特性、蓄電のせいだろう。
「んなもの、“メガトンパンチ”!!」
「ギャアッ!!」
ラルドは電気が効かないと見ると、単純な力でごり押そうとメガトンパンチを繰り出す。が、直前でランターンのシグナルビームによって吹き飛ばされる。
「ぐっ……っと、うおっ!?」
そして倒れた場所を、キングドラとラプラスがそれぞれハイドロポンプと冷凍ビームを的確に撃つ。
それを何とかよけたが、余波がラルドを襲う。
「ぐっ……最大電力、“ディスチャージ”ィッ!!!」
負けじとラルドも、放電の上位互換、それもかなりの電力で放つディスチャージで対抗する。が、ランターンが盾となりランターンを含め五匹が残った。
「はぁ、はぁ……“メガトンキック”!」
「ギャ!!?」
そんな厄介なランターンに、ラルドは最大速度でメガトンキックをお見舞いしてやる。幾ら蓄電とはいえ爆雷パンチの拳そのもののダメージもあり、一撃で沈む。
その隙を突いてか、マンタインが飛び跳ねるでラルドを攻撃しようとするも、ラルドはこれを予知していたかのようなタイミングで避けると雷電パンチを叩き込む。
これで、残りはユレイドル、キングドラ、ラプラスだ。
「はぁ……行くぞォ!!」
「「「ギャアッ!!!」」」
ラルドはバッグからピーピーマックスを取り出して飲むと、掛け声とともに走り出す。それと同時に、相手も走り出した。
ラルドは尻尾を硬化させると、ユレイドルの原始の力、ラプラス、キングドラのダブルハイドロポンプを間一髪で避けると、硬化した尻尾の一撃――“アイアンテール”をユレイドルに食らわせる。
当たり所が悪かったのか、ユレイドルは幸いにもその一撃で沈む。
「これで残りは、お前らだけだ……!!」
「「ギャアッ!!!」」
最後の二匹、キングドラとラプラスは寄り添いあうと、大きく息を吸い込み、水タイプの中でも高威力の技、“ハイドロポンプ”を全く同じタイミングに、さらに先程よりも溜めたのだろうか、大きいものを繰り出してきた。
「そっちが水二つなら、こっちは雷二つだ! “暴雷”!!」
それに対してラルドは二つの雷球、“暴雷”を繰り出す。
二つの技は真っ向からぶつかり合い、強力なエネルギー波を繰り広げあう。
そして――ハイドロポンプは破れ、暴雷が二匹を纏めて引き裂いた。
「「ギャアアアァァァッ!!!!??」」
「十匹、撃破!」
その部屋に残っているのは、十匹のポケモンと疲労したラルド。
第一層目からこの調子は少しまずいが、そんなことを言っている暇はない。急いでポレンの実を食べると直に立ち上がる。
「待ってろよ、マーレ」
――残り、二時間二十分。
〜☆〜
あれから、三十分の時が過ぎた。
残り時間は大体、一時間と五十分あたりだろうか。この五十分でなんとか雫を手に入れないと、本格的に不味いだろう。だが、疲労を蓄積していてはいざという時に困る。
ラルドは今、五分だけ休憩をしていた。
「……」
これまでの探検を思い出していたが、かなりの苦戦を強いられていた。
奇襲などはなんとか対処できてはいるが、如何せん一人ということでモンスターハウスなどの多勢に無勢な場面では苦戦を避けられない。
だが、そう苦労ばかりある訳では無い。こういう階層が多く最深部があるダンジョンは確実に最深部の階層が浅いという特徴がある。
「よし、休憩終了!」
傷にオレン果汁を塗ると、ラルドは早速最深部へと向かう。
奥底まで、あともう少しだ。
ここは奇跡の海最深部。
争いはなく、平和で、水ポケモンが休息を求めにやってくる場所だ。
この場限りではダンジョンという概念から解き放たれ、皆がみな、争いなどしなくなるといわれている。
そんな場所で、フィオネたちは遊んでいた。
「……あ! あれって、まさか!」
そんな場所に一人、ラルドが現れる。
遂にフィオネを見つけた喜びに一瞬脱力しかけるも、すぐに力を入れなおす。一刻も早くマーレを助けないといけないのだ。
「おーい、お前ら――」
と、そんな時。
「ガオオオオォォォォ!!!!!」
フィオネたちとラルドの間を、強力な光線が通り抜けた。
「なっ!?」
その時発生した波にラルドは飲まれ、背中から倒れる。
一体何事かと起き上がってみると、そこにいたのは巨大で、まるで龍を思い出すような外見の、水タイプ、いや全ポケモンの中でもトップクラスで凶暴なポケモン。
きょうあくポケモン、ギャラドスがいた。
「ギャオオオ!!! たった今から、貴様らの雫はすべて俺様の物となった!」
「きゃあ!!」
「怯えても無駄だ! 貴様ら弱者のものは俺様の物、強者は全てを独り占めにする!!!! そうと分かれば、早速雫を渡せ!!」
「ちょ、ちょっと待て! いきなり現れてなんなんだよ!」
「あァ? ……なんだ、オマエは。ピカチュウ如きが俺様に逆らうのか? 身の程弁えてんのかァ!!?」
「……身のほど、だと?」
ここまで一人でマーレのためにがんばってきた自分に、この英雄に、身の程とはなにごとか。
そこまで来て、ラルドの堪忍袋の尾は切れた。
「……逆にお前、自分が今どういう状況が分かってるのか? 分かってないんだろうな、お前みたいな世間知らずの鯉のぼりくんには」
「あ、アァ!?」
「世の中、お前よりも強い奴がいるってこと、教えてやる……そこのお前ら! 下がってろ!!」
「あ、ありがとう!!」
そういって、フィオネたちはもぐって消える。
恐らく今から追えば捕まえられるだろうが、そんなことラルドが許さない。
「お前を倒して、雫を持ち帰る。これはもう決定事項だ、仕方ないな」
「ほざけェッ!!! 貴様如き、この俺様の敵でもないわ! ここへ来る途中に綺麗な石も拾ったからな、負ける道理がない!!!」
「それは――こっちの台詞だァ!!!」
始まる。凶暴なポケモン、ギャラドスとの戦いが。
始まる。マーレの生死を賭けた、命がけの戦いが。
黄のオーラを纏いし、翡翠の瞳を持つ英雄の戦いが、始まる。
――残り時間、一時間三十五分。
次回「型破りなパワーアップ」