第四十一話 タマゴ
また、いつもの日常を取り戻したエンジェル。そんな中、ギルドへ向かったラルドはソーワから、閉ざされた海というダンジョンの存在を聞き――?
〜☆〜
「というわけだ。俺たちの次の目標は閉ざされた海、そしてそこにある秘宝だ!」
「君、自分の欲望を抑えるということを少しは学習した方がいいと思うよ」
「生物は逆らうことのできない欲求がある……つまりはそういうことだ」
「食欲、睡眠欲、性欲。うん、金欲なんてないね」
見事なフィリアの突っ込みなど、今のラルドには聴く耳持たず。
ラルドは早速鞄から地図を取り出すと、閉ざされた海の場所を示す。
「いいか、今回の目的はここの探検。そしてあわよくば秘宝とかがないかの探索だ。勿論、俺は探検の方に力を注ぐけど、敵がいなかったら秘宝探索とかしてていいからな?」
「ラルド、欲望にはチャックをつけて封じようね」
「うるせー! いいか、敵は強大だ。何しろ海だ海。もしかしたら、伝説のポケモンが出てくるかもしれない。ルギアとか、カイオーガとか!」
「ま、マジかよ」
「騙される人がいるわけないって言おうとしたらこのザマよ」
ラルドのうそにまんまと騙されるヒイロ。だが仕方がない、ヒイロだからだ。
ラルドはそんなこと気にも留めず、閉ざされた海への情報をかき集めていた。主にフィリアから。
「フィリア、ここにはどんなポケモンが出る?」
「僕もよく分からないけど、どうやら水系がほとんどらしいよ。後、噂に聞くと超巨大ポケモンが出るって」
「なるほど、超巨大ポケモンか。これは本当にルギアとかが出るかもしれないな?」
「こ、怖いよラルド!!」
そういってミルを脅かすラルド。幾ら真面目にしようとしても素がこうなので、やはりいつもどおりに戻る。
そしてミルを十二分に脅かし終えると、ラルドは椅子を用意し、その上に乗る。
「いいかお前ら。目的地は閉ざされた海……! 海だが、一応足場は確保できる。でももし足場を崩されたら終わりだと思え」
海系ダンジョンの足場は、物凄く柔らかい。一箇所が崩れたから他も崩れるなんてことはないが、足場のしたから攻撃してくる可能性だってある。
「奥には財宝ざっくざっく。なくても何度でも挑めばいい……! 探検もできて、儲かって一石二鳥。さぁ、余裕ある金持ちライフに向けて出発だぁ!!」
「お、おー!」
ラルドが手を上げ声をあげ、周りが若干戸惑いながらも意気込む。
そして今日も、エンジェルは探検をする――
「あ、ミルとシルガは補欠な」
「えっ!?」
「……!?」
――但し、二人を除いて。
〜☆〜
まず探検のパーティだが、これはラルドが独自で決める。
けして変えられないラルドを除いて、まず考えられるのはフィリアだ。幾らラルドが強いといっても、それは万能ではない。
対処できなかった場合、蔓の鞭というある程度の距離ならば自由に動かせられる技を持ち、相性抜群のフィリア。
そして、水を扱い、そして姑息な手に関しては一級品で水技を扱うレイン。
ミルとシルガに関しては、ミルは確かに強いがラルドとフィリアがいる以上今回の探検は向いていない。シルガも、あらゆる状態に対処できる柔軟さを持つがそれほど苦戦する訳でも無いだろう。
ということで、近距離特化のヒイロが最後のメンバーになった。
「よし、アイテムは持ったか? 特に雑用係のお前! 有用なアイテムは持っただろうな!?」
「ざ、雑用係じゃないわよ!」
「そうかな? おい、そこの単細胞! 剣の手入れはしたか? 切れ味が無けりゃお前なんてただの雑魚だ!」
「な、なんだとォ!?」
「最後に! そこの睡眠頼りの……あ、ごめんなさい。睡眠の種は勘弁を!」
「よろしい」
現在地は交差点。そこで最終確認を行っていた。
家に残る二人は、それぞれ暇なのでなにかやるらしい。シルガはラルドを追い越すための特訓、ミルは悪魔のポフィンが予想以上のアジだったらしくなにか改良を加えるらしい。訂正、改悪だ。
帰ったら安息じゃなく、苦しみが待っているんだろうと今のうちに覚悟を決める。疲れて帰って、覚悟していない地獄を味わうなど、あまりにも救われないからだ。
「さぁ、準備は整った。いいか、気を抜くな。相手は未知のダンジョンだ。曲がり角を曲がればいきなりルギア、なんてことにもなりかねない」
「そ、それは流石に無いんじゃない?」
「それくらいの気持ちでいろってことだ。そうだな、海系ダンジョンだからな。もしかしたらホエルオーが群れでいるかもしれない」
全長十四メートル級のが群れなんて、なんの悪夢かといいたいがそれくらいの気持ちで居ないと、秘宝に逃れられてしまう。
今回の探検に対する情熱は、ラルド史上、かなりのものだ。
「準備万端。今回の探検で忘れてはならないのは、油断大敵だ! いいか、油断するな、油断した瞬間に俺からのキツイ鉄拳が落ちてくるからな」
「味方を殴るのはダメだよ?」
「安心しろ。お前ら二人にはただのパンチだ。ヒイロには……そうだな、爆雷バレットくらいは」
「ッざけんな!! あんなパンチ、もう二度と喰らいたかねェよ!!」
あの技を一度受けたヒイロだからこそ、あの技の脅威を語れる。そして、その経験で語る一言は正しく強烈だ。
あれならば、二発くらいでホエルオーも倒せるんじゃないかとヒイロは思っている。
「冗談だよ。んじゃ、そろそろ行こうか――出発進行!」
――“閉ざされた海”。
そこには様々な水系ポケモンが生息しており、正に世界中の水ポケモンの憧れの地といってもいいだろう。
様々な海流が流れ込むことで様々な環境のポケモンが適応でき、さらに食料もある。これだけでもう楽園だ……但し、そこがダンジョンじゃなければ、の話だが。
「ここが、閉ざされた海ね」
「閉ざされたって言う割には、普通に海流にオープンな海だけどよ」
どうやら閉ざされた海は内部のみがダンジョン化されていて、入り口は普通のようだ。そして、そこから海流が入り込んでくる。
今ラルド達がいるのはダンジョン内部だ。入り口からここに入る方法は実に簡単、流されればいいだけだ。
そのため、現在四人はぬれていて、ラルドに至ってはぜーぜーと肩で息をしている。
「炎タイプのヒイロが普通で、水に対して有効な電気タイプのあんたがなんでつかれてんのよ」
「お、俺はカナヅチなんだよ……あぁ、やっぱり水は怖い」
「私が怖いっていいたいわけ?」
「安心しろ、水にも電気にも強い草の方が怖い」
すぐ後ろで睡眠の種をちらつかせるフィリアに身震いをしながら、ラルドは一歩を踏み出す。
「いくぞ。閉ざされた海、攻略開始だ!」
そして、エンジェルは新たなダンジョンへと足を踏み出し――
「うわっ!?」
――開いていた穴に足をとられてこけるという、不安なスタートを切った。
「それにしても、ここは敵が少し多いな……っと、“雷パンチ”!」
「“蔓の鞭”! ……スターミーの発光のせいだろうね。一度攻撃を加えると、すぐに発動するから厄介だよ」
「ま、敵が多いから早く強くなれるけどさ。あー疲れた」
今回の探検は、今までよりは比較的楽だった。
それでも罠を踏んだりいきなり襲われたりとあるが、それはどこのダンジョンでもあることだ。今更気にすることはない。
まずラルドの雷パンチ、十万ボルトで体力を削り、それで倒れたら終わり。倒れないならフィリアの蔓の鞭で止めを刺す。
「実に素晴らしい。素晴らしすぎて、自分の頭脳が恐ろしくなるね。ははっ」
「テメェじゃなくてフィリアの考えた態勢だろうが。威張ってんじゃねェぞ!」
「ほう。リーダーの俺に口答えをすると? 今ここで強制送還してやってもよろしいんですよ? え?」
「こいつはぶっ殺す! ここでぶっ殺す!」
「ブロッコリーが食べたいわね」
「君たちはいつも思うけど、マイペースすぎやしないかい? ま、僕もだけど」
緊張感に囚われないのがこのチームのいいところだが、やはり囚われすぎないというのは危険だ。その分、シルガが補っていたが彼は今ここにはいない。
結局、レインやフィリアといった女性陣が気を配る事となる。
「いいか、俺はリーダーだ。つまりお前らの上司といってもいい。部下の功績は上司のもの、上司の失敗は部下の物と昔から決まっているだろう」
「なら上司らしいことしやがれ! 毎日毎日やることなけりゃあぐうたらするか特訓するか! 俺らのためになることやれや!」
「い、言ったな!? お前、俺の奇想天外、奇天烈な発想でどれほどの敵を退けてきたか! なぁフィリア?」
「……」
「む、無視はきついですぜ姉御」
騒ぐラルドとヒイロなど気にせず、フィリアは周りに注意を払いつつレインと話をしている。例えエンカウントしたとしてもこの二人はすぐに戦いに集中するので気を配って注意するだけでフィリアはかなりの仕事をこなしてるといってもいい。
「あ、横から……ラプラス!? うわぁ、珍しいわね! 仲間にするのよ!」
「無理だよ」
たまにダンジョンのポケモンを倒せば、倒した相手に服従して仲間になる、なんて話を耳にすることはあるが、それも極僅かな確率だ。
最も、その確率を上げるアイテムも存在するのだが、それも希少だ。
「ギャアッ!!」
「“水の波動”ね! それなら私も……“水の波動”!!」
二つの水の波動はぶつかり合い、強力な衝撃波を発する。そして次の瞬間には爆発し、両方とも雲散していた。
が、それでもやはり相手のほうが力が勝っていたようで、少量の水が飛んでくる。
「さ、流石ラプラス! 一筋縄ではいかないわね!」
「なんでそこまで……“エナジーボール”!」
「人間時代に、文明が滅びる前から希少だって教えられてきたからよ! ライラの上でも興奮してたんだから! “電棘”!」
生命の力を凝縮した一撃と、電気をこめた針は見事にラプラスに直撃する。だが、それでは倒れなかったのか、口から冷気を漂わせ――それを発射する前に、背後からの斬撃に倒れた。
「はっ、油断大敵だァ」
「言い換えれば背後からの不意打ちともいう」
「ここでは油断した方が負けなんだよ。そこに卑怯もへったくれもねェよ」
「ま、そうだな。“雷電パンチ”」
「ギャッ!?」
ラルドが気付いていないと思い背後から近づいてきたスターミをラルドは振り返る瞬間に雷を纏った裏拳で殴りつけ、最後に蹴り上げることで倒した。
その間にスターミーは発光せずに倒されたため、敵は寄ってこない。
「流石にいきなり背後からよってこられたら吃驚するな。ま、ちょっと技を出す気配を出しすぎたあのが運の尽きだな」
技を出すとき、ポケモンは自身の体で作られているエネルギーを雷や水といったものに変換する。そして自分のタイプのエネルギーに変換するときに何故かは分からないが増幅され、威力が上がる。
自身の苦手な技が扱えるのも、そういったことが理由だ。
そしてラルドはそのエネルギーを感じ取り、すぐに反撃したという訳だ。
「ま、真後ろでやられりゃ誰でも気付くわな」
「そりゃそうだ。……と、今の所は順調だな」
順調すぎて、この先なにか悪い事が起きるのではないかと疑うレベルだ。
ラルド、ヒイロが先制。その後、仕留め切れなかった場合は女性陣が追撃。それでも倒れない場合はもう一度ラルド達が攻撃と、なんとも完璧な戦術だ。
「でも、楽すぎるんだよな……こんな探検、探検じゃないというか……」
「そういうのを、確かフラグって言うんだろ? テメェはなんだ、そういうことが起きて欲しいのか?」
「もうちょっと難しいほうがいいかなと。罠も危険なのが少ないからな」
エネルギーが減る罠が今までで一番危険だったが、ピーピーマックスは持ってきているし、そこまで痛手じゃない。
結果、相性の問題もあり今回はかなり楽なのだ。
「……ん?」
そうして、少し時間が過ぎたときだ。
なにか、小さい揺れのようなものが感じ取れた。それも、気付いているのはどうやらラルドだけみたいで。
「おい。今、なにか揺れたりしなかったか?」
「はぁ? テメェは遂に感じもしねェことを感じれるようになったのか?」
「キチガイ」
「気を違えた人」
「フィリア! お前それ、言葉こそ違うけどレインと同じこと言ってるぞ! ……じゃなくて、なんか揺れを感じたんだよ」
間違いない。床が揺れている。
なにかの技か。まさかほかの探検隊が戦っているのか。それとも――
「――ギャオオオォォォォ!!!!」
「う、うるさっ!?」
「な、なんだい、この音は!?」
「耳が……ッ!?」
低く、重低音で、姿が見えない場所から放たれた咆哮のはずがここまで届き、耳にダメージを与える。
その咆哮は大気を震わせ、水を振動させ、強力な衝撃波を生む。
そう、その咆哮の主とは。
「ほ、ホエルオー!?」
今確認されているポケモンの中でも最大の体長を持ち、その分重く、そして強い。体長十四メートルから繰り出されるのしかかりが厄介なポケモンだ。
「いたのかい……ラルド」
「俺のせいじゃねーよ」
「はっ、誰が来ようと、俺が倒してやんよ……“エアスラッシュ”!!」
先手必勝。ヒイロの剣から繰り出される風の刃が、ホエルオー目掛けて飛んでいく。
が、その程度で倒れるホエルオーではない。それを咆哮で打ち消すと、お返しとでも言わんばかりの水の波動を撃ってくる。
その巨大な口から放たれる水の波動もまた、巨大だった。
「お、大きすぎるだろ!?」
「ちっ、“爆炎切り”!!」
「“リーフブレード”!!」
炎と草の斬撃は水の波動をなんとか切り裂く。だが、打ち出したホエルオーは涼しい顔だ。
「強いわね……“電棘”!」
レインから放たれる電棘も、ホエルオーにとっては文字通り蚊に刺された程度だ。振り向くまでもなく、そのまま水の波動を放とうと――する前に、雷がホエルオーを襲った。
「ギャオ!?」
「“雷”……はっ、油断大敵だよ馬鹿」
「ギャオ……オオオォォォ!!!」
今のがかなりのダメージとなったのか、今度は背中から大砲のように水をだす。
それは、自分の体力があればあるほどに威力が増すという、“しおふき”だ。
かなりの高度まで飛ばされたそれは、勢いをつけてラルド達目掛けて落ちてくる。その威力は、床を軽々と突き抜けるほどだ。
「ッ、“ディスチャージ”!」
「“水の波動”!」
「居合い“乱れ桜”!」
「“紅蓮霊”!」
それを、ラルド達はそれぞれの技で防ぐ。元々、こういう場合はミルの守るで防いでいたのだが、今ここにミルはいない。
「くそっ、大きすぎるだろ! “十万ボルト”!」
「ギャアオッ!!」
“十万ボルト”と“水の波動”の激突は、十万ボルトがやや押されながらも相殺しあう。やはり、あの体から繰り出される技はどれもが強力だ。
「ギャアアァァ!!」
「“ダイビング”!?」
このまま遠距離攻撃では埒が明かないと考えたのか、ホエルオーは海中へもぐる。それは正しく、穴を掘るの水上バージョン。“ダイビング”だ。
穴を掘ると違って厄介なのは、こういった巨大なポケモンに使われると足場が大幅になくなるということだ。
そして、相手側のデメリットはほばなし。
「みんな、気をつけろ!」
「分かってるわよ!」
「面倒くせェなァ!!」
もしここにシルガがいれば、波導で有る程度の予測はできたのだろうが……とラルドはそこまで考えてふと思った。
エンジェルは、この二人を主にしていると。
シルガの探知能力と身体能力の組み合わさりはまさに万能といった所で、あらゆる作戦に対応する柔軟さを持つ。
ミルも後方支援に加え、強固な防壁をもち、かなり頼りになる。
「……いい加減、そろそろ新チームであらゆる組み合わせに対応する特訓くらいしなきゃな」
勿論、主なダメージソースのラルドに、作戦担当のフィリア、強力な攻撃力をもつヒイロ、卑怯で姑息な手を使うレインとバランスはいいが、やはりあの二人はエンジェル内でも探検の大黒柱といったところの立場になっている。
「でもまぁ、今は俺たちだけだからな……っと、うおっ!?」
ラルドが危険を感じ取り、その場から全速力で離れた瞬間。
床が崩れ、水をとび、そこから巨体が飛び出し、そのまま地面へ落ちる。
「あ、危ねー!! 死ぬかと思ったぞ!」
「実際、かなりの巨体だからね。幾ら君でも死ぬんじゃないかな?」
「ふざけるなよ。久々の強敵だ、死んでたまるかよ……でも、ちょっと苛々したから次で倒すか」
「ああ、そりゃ賛成だ。次の攻撃で倒そうぜ」
「そんなこと、本当にできんの?」
「ははっ、可笑しなこというなお前は。……俺は英雄だ、それくらい、訳ないぞ」
そういって、青白く体を光らせるラルド。同じく、剣に灼熱の炎を纏うヒイロ。
目の前には、大口を開け、今にもラルド達を喰らわんとするホエルオー。
「さぁ、行くぞ……“電光石火”!」
「でりゃあッ!!」
「グオオォォォ!!!」
目の前の巨体へと挑む勇敢な二人を、今にも飲み込まんと大口を開け迫るホエルオー。
勝負は一瞬。その一瞬で、どちらがやられるかがわかる。
「“爆雷パンチ”ィッ!!」
「“爆炎切り”ィッ!!」
「グオオオォォォッッ!!!!」
そして交差する、一閃――顎をアッパーで殴られ、その顎を燃え盛る剣で切り裂かれる。紛れもなく、ホエルオーの敗北だった。
「ふぅ……“超帯電≪ボルテックス≫”解除っと。それにしても手こずったな」
「はっ、俺にかかりゃあこんな奴、ただデカいだけの木偶の坊だぜ!!」
「調子に乗れば、それだけ油断ができる。調子に乗るのも程々にね。……それにしても、まさか本当にやるとはね。君達の成長スピードには本当に驚かざるを得ないね」
「私も驚いたわ。努力すれば、私もいつかこれレベルまで強くなれるのかしら」
「その代わりに、頭が筋肉にでもなりそうだけどね」
「言えてる」
「!?」
上げて、そして落とす。自然な流れで行ったそれは、二人の心に傷をつけることになる。というか、誰でもそうなる。
「魔王に小悪魔なんて、なんていう悪役」
「あら、小悪魔だなんて。それは褒めて言ってるのよね?」
「魔王だなんて、それほど強いってことなのかな?」
「すいません! すいません!」
睡眠の種を取り出したフィリアと、片手で水で作り出した手裏剣をもつレインに誤まるラルド。
と、そこでふと疑問に思った。
「おいレイン。その手裏剣、なんだ?」
「ああ、これ? 人間に代々伝わる、忍者の武器よ! それを水で作り出したってわけ」
「器用だな……水手裏剣か」
「ええ。これなら使うエネルギーのコストも低いし、手数で攻める私にピッタリだわ」
「お前、本当に忍者とかそういうの向いてるんじゃないか……?」
苦笑いをしつつ、心の中では素直に褒めるラルド。何故だか分からないが自分のところには器用な奴ばかりだな、と思う。
例外はミルとヒイロだが、そもそもあの二人が起用になった所でいいことなど一つもない。
「……んじゃ、とっとと進むか」
――そして、それから一時間のときが流れた。
途中でモンスターハウスに遭遇したり、そこでラルドが相手が水タイプということで無双をしたり、かと思えばスターミーの発光によりまたまたホエルオーと遭遇したり。
閉ざされた海に存在するあらゆるポケモンのうち、ほとんどと戦い……そして。
――奥底へとたどり着いた。
〜☆〜
「……ここが、閉ざされた海の奥底か」
「一層海っぽくなってるな。うぇ、苦手だぜ」
「あら、塩水じゃない、これ」
「それに冷たいから、どうやらここは海水を取り込んでいるらしいね」
ようやくたどり着いた、閉ざされた海奥底。
閉ざされた海の階層は、奥底を合わせて二十。キザキの森とほぼ同じで、キザキの森の水バージョンとでも言ったところか。
巨大なホエルオーに多くの技を操るラプラスと、強力なポケモンもいるがエンジェルの前ではそれなりに手ごたえのあるモンスターとしかならない。
故に、ここまでの探検は正直、四人にとって楽だった。
「……お! 見ろ、あそこあそこ!」
「あれは……宝箱だね」
「おー! さぁ行こう、さぁ行こう! さっさと持って帰って鑑定してもらおう!」
少し向こうに宝箱を見つけたとたん、走り出していくラルド。子供のような顔で走りだすその光景は、まるでどこかの無邪気で馬鹿な耳長兎を思い出すようで……。
と、いつの間にかラルドは宝箱をバッグの中へ入れようとしていた。
「はっはっは! これは取った者勝ちだからな! もう取り消さないからな!」
「あ! テメェずりぃぞ! 子供か!!」
「子供で結構、リーダーがルール、ルールがリーダーなんだよ馬鹿! ……あ、痛っ!」
「少しは大人しくしたらどうだい」
子供のようなことを言うラルドの頭をフィリアが叩くと、その拍子で宝箱を落としてしまう。
「……おまけだよ」
「えっ、ちょっ、おまっ――」
そしておまけに蔓の鞭でラルドの体を持ち上げると、ロープを空中でまわすように回転させ――そのまま投げ飛ばした。
「あああぁぁぁぁ!!!!」
そのまま勢いよく飛ばされたラルドは意外に吹き飛び、出口のワープスイッチ……その近くへ顔を埋める。
勿論、顔面からだ。
「ぎゃふんっ、……ああぁぁ! 鼻が痛い!」
「あんたは黙っときなさい!」
「くっ……ん?」
鼻を涙目で押さえ、バッグのオレンの実を取り出そうとバッグを漁るラルド。
そして取り出し、その果汁を鼻へ塗ろうと果汁を搾り出し……そこで気付いた。
「これ、なんだ?」
ラルドが抱きかかえられるほどの大きさで、水色でまるで水に覆われたような、真ん中に赤と黄色のなにかがある……丸い、卵の形をしたなにかがあった。
とりあえず触ってみるが、なんともない。ただ少し冷たいくらいで、ほかにはなんともない。
おそらく、なにかのタマゴだろう。
「……ま、とりあえず持って帰るか」
未知のものを持って帰り、その謎を明かす事が探検隊の醍醐味とも言える。探求していくうちに、なにかを知るという行為こそが探検隊だとも言える。
その他にも勿論、戦って経験を積んだりと、それ以外でも色々あるが。
「ラルド! もうそろそろ帰るよ!」
「ん、あ、おう!」
急いでそのなにかをバッグに入れると、走って三人の元へ急ぐ。
――そのなにかが少し動いたことなど、少しも気付かないで。
次回「誕生」