ポケモン不思議のダンジョン空の探検隊 エンジェル〜黒と白の12の翼〜







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第三章 秘密のランクと秘密の組織
第三十九話 会議
 不死鳥フィレア・イグニルを相手に、苦戦するもフィリアの作戦やラルドの発想で追い詰め、そして――?






〜☆〜


 フィレアを殴り、そのまま落ちてゆく。重力に逆らえず、そのまま落ちていく。その感覚はジェットコースターなどで感じるふわっとしたような、そんな感じから一気に風圧で胸を思い切り殴られたように息ができなくなる。
 そのままフィレアとともに滝のほうへと落ちていって、そして――

「“蔓の鞭”!」

「うおっ!」

 ――蔓の鞭によって受け止められる。
 突然止められたので少し驚くも、ラルドは少し安心する。このまま落ちていったらどうなるかは目に見えていたからだ。

「もう、水は被りたくないからな……ありがとうな!」

「どうも。……で、フィレアは無事倒せたかい?」

「ああ。あの感触は倒せたな」

 下の方で大きな音がする。恐らく、フィレアが水の中に落ちたのだろう。その巨体が落ちた事で水が跳ね上がるが、流石にラルドの位置までは来なかったらしい。

「やったぁあ!! 倒せたんだ!」

「アリシアの時と比べると、かなり被害は少ないからね。楽勝、ではないけどかなりの進歩だよ」

「当たり前だ」

「おーい、なんか勝利に喜んでる所悪いんですが、降ろしてくれない!?」

「分かったよ」

「え、ちょ、おまっ――」

 その後、大きな水飛沫が上がった。




「ぶわっくしょおん!!!」

「おう、大丈夫か?」

「そりゃ、水浸しになって、更に雨に打たれて風に当てられりゃ寒いに決まってる! は、は、はっくしょん!」

 あの後。
 水浸しになって上がってきたラルドは、フィリアに調べたいことがあるからフィレアを上げて来い、と再び突き落とされ若干鳴きながらフィレアを上へと引っ張り上げた。

「レイン、この雨晴らせよ……」

「無理よ。日本晴れ、しかもフィレアレベルよりも上じゃないとこの雲は晴らせないわよ」

「くっそ……で、お前は俺がこんなになってる間、なにをしてた!」

「私? どうせ役に立たないだろうしね。これを見なさい」

 そういって、レインはバッグから瓶のようなものを取り出した。中には少し青っぽい液体が入っていて、薬品のような臭いが微かにする。

「それはなんだ?」

「前に、店で貰った瓶をバッグに入れっぱなしだったのよ。そこにオレン果汁を三つほど入れてみたの。回復も早くなるんじゃない?」

「……ああ」

 ラルドはちらりと、気付かれないようにミル達を見てみると物凄く変な顔をしていた。
 恐らく理由はこの濃縮でもなんでもないただのオレン果汁のせいだろう。オレンの実は安定して普通の味で美味しいが、稀に果汁を混ぜると不味くなる。

「レイン。いいか、オレンの実はそのまま食った方が回復もできるし美味しいしでいいんだぞ。まぁ飲んでやるけど――酸っぱ! なにこれ酸っぱい!」

「は? 何言ってんのあんた?」

「酸っぱいんだよ! え、なにこれ、腐ってんのか!?」

「……い、言っただろう。こいつが作るものは、全て酸っぱくなると」

「知ってたけど! 知ってたけどさ!」

 この酸っぱさは幾らなんでも予想外すぎて、ラルドの顔は酸っぱさで歪む。口の中の傷にその果汁が染みて更に痛みで顔が歪むも、なんとか耐える。
 オレン果汁は多少苦くなる事はあっても、酸っぱくなる事はコイキングが滝登りを覚えるくらいない。予想できるはずも無かった一撃に、エンジェル全員倒されたようだ。

「くぅ……で、フィリア。なんであんな作戦だったんだ? しかも完全に運任せじゃねーか」

「だから言っただろう? 運も作戦のうちだと」

「確かに言ってたけど、まさかお前が運に頼るとは思わなくて」

「ああ……まぁ、単純に言えばシルガがフィレア相手には決定打を持ち合わせてないからだよ」

 シルガの戦い方は、剛が柔で言えば柔だ。
 元々の才能と、見切りを完全に使いこなし、更には波動で力の流れさえも読み恐らく警戒しなければどんな一撃も受け流されてしまうだろう。
 だが、柔を基本とする戦い方は、剛よりも決定打が乏しい。力を利用するため自分の強力な一撃というのがそれほど必要でもないからだ。

「だから、誰かに立場を入れ替える必要があったと?」

「そうだね。ま、僕とレインがあたっていたら最悪だったね。レインはシルガ以上の決定力不足、僕もそうだね」

「なるほど。……完全に運任せじゃねーか!!」

「ふふっ、まぁ、それほどまでに厳しい状況だったということさ。短期決着にはあれしかなかったし、ラルドが偶然にもシルガの代わりになってくれたからね」

「いきなり空中に放り出されたんだぞ……?」

 ラルドとて、空中にいきなり放り出されたら驚くに決まっている。かぜが体を突き抜け、心臓が浮くような感覚。
 それをいきなり体験させられるのは、どんなに精神を集中させた者でも驚くだろう。

「それにしても、君のパンチ。あれは凄かったね」

「そうそう! あのパンチってなんなの!? 気になってたんだ!」

「“電気活性≪アクティベーション≫改”を発動して、それで爆雷パンチをやるんだ。そしたら予想外の威力で、爆雷パンチのもうワンランク上の爆雷バレットになった」

 あれは、必死に努力して電気活性≪アクティベーション≫改を完成させたときだ。
 どれくらいの力を得たのか試したくて、試しに砂浜へいって地面へ思い切り爆雷パンチを放った所、とんでもない威力になり砂がほとんど吹き飛んだ。
 その結果が、あのとんでもない威力の爆雷バレットだ。

「ま、発動して解除した途端に、発動時間と比例して酷い筋肉痛がくるからな。一日経てば治るけど」

「流石、回復力は本当に化け物よねー」

「そうだよねー」

「とりあえず今からお前らを兎の丸焼きと焦げ鼠にしてやれるんだが……どうする?」

「「ごめんなさい」」

「三人とも、雑談はそこまでにして、フィレアを引き上げるよ」

 はーい、と。三人は気の抜けた声で返事をする。
 そして、その気の抜けようこそが、フィレアとのつらい戦いが終わったということを表していたのであった。




〜☆〜




「それで、どうするんだ?」

 水浸しで体から発せられる炎も小さくなり、気絶しているのか目を閉じて口を開け、ぐったりとしているフィレア。
 頬には拳の跡が残っていて、恐らくここにラルドがその拳を叩き込んだのだろうということを表していた。

「……まず、フィレアの持っている結晶を調べようか」

 そういい、フィリアはフィレアの胸元を探る。意外に毛が長いのか、少しフィリアの手が埋まるが無事に見つけられたのか引き出そうと手を引く。
 ――が。

「ッ、わっ!?」

「な、なんだ!?」

 いきなりフィリアが手を思い切り引いたかと思うと、なにやら苦痛の表情を浮かべていた。
 恐らく、結晶に触ったせいだろう。

「やっぱり、そんなに苦しいのか……?」

「……よくはいえないけど、悪感情が流れ込んでくるって言ったらいいのかな。身が千切れるような感覚で……フィレアの悪感情も含んでいるんだろうね。前に触ったときはこんなに苦しくなかった」

「そうなのか……なら、俺も触ってみようかな」

「あ、危ないよ?」

「安心しろよ。馬鹿とクール君よりは絶望とかの悪感情の耐性はついてるつもりだぜ」

 なにせ、あれほどの絶望と挫折を感じたのだ。そうそう簡単に悪感情に負けるラルドではない。
 ラルドは胸元に手を入れ、探る。するとなにかに当たったのかそれを持ち、一気に引き上げた。

「……これが、闇の結晶って奴か」

「ま、禍々しいわね」

「邪悪な雰囲気が漂ってきやがる……」

 黒に妖しく輝く水晶、それは引き込まれるような美しさを持ち、同時に触れたもの全てに思わず手放したくなるほどの悪感情を送り込む、闇の結晶。
 だが、何故かラルドはなにも感じはしない。

「怪しいけど、それほど苦しくないぞ?」

「頭がおかしいのかい?」

「酷い!」

 だが実際、ラルドはこの結晶に対してそこまでの悪感情はない。フィリアが過剰だったんじゃないかと思えるほどに、ラルドは普通だった。

「……私も、ちょっと苦しいくらいね」

「俺もだ」

「俺は……おえっ、無理だ!」

「わ、私もダメ……!」

 レイン、シルガ、ラルドは水晶を持てて他三人はもてない。
 フィリアはこれに何か法則性がないか探り、最初に未来組ということを思い出したがそれらが関係しているとも思えない。
 フィリアは直にその思考を停止すると、別の疑問を口にする。

「これは、一体どんな方法で作られているんだろうね?」

「悪意でできてるって言ってたよ?」

「いや、材料じゃない。製造方法だよ。こんな物を作り出せるなんて……」

 解放と同じような効果を得られるチート水晶など、聞いたこともない。
 もしそんなものが量産できるというなら、敵はかなりの戦力を持っているといってもいいだろう。ただ、解放と同じ効果を得るのは正気を失い黒のオーラを纏ったときだけだが。

「それこそ、かなりの科学者かそういった特殊な能力を持った者しか無理だろうね」

「でもよ、そんな奴が居たら今頃世界は大変なことになってんじゃねぇか?」

「その辺も踏まえて、これを作り出した人物はかなり狡賢い性格をしているね。自らは決して表舞台に出ず、こうして幹部の一人を捕まえたというのに証拠もほぼ手に入らないなんてね」

「でも、黒い水晶に関しての情報はここにある。ここの資料室にはもうなにも無かったからな。後は、こいつをギルドに送り届けてライラに乗って帰るか」

 少なくとも、こんな場所で話し合っているよりは家に帰った方がより考えも纏まりやすいだろう。今は雨も降っているし、フィレアから聞き出さないといけないこともある。こんな所で目覚められては折角の苦労が水の泡になってしまう。
 今、ラルド達に出来ることは唯一つ、早く帰ることだけだ。

「そうだね。雨も強くなってきたし、これ以上天候が荒れない内に帰ろうか」

「ライラ、どうしてんのかな……怒られそうな気がする」

「ライラは優しいからね! ラルドみたいなことするわけないじゃん!」

「……確かにな」

「がははっ! そうだそうだ!」

「言えてるわね」

「くそっ、いつか、いつか酷い目見せてやるからな……覚えてろ!」

 と、いつもの調子に戻りつつあるエンジェル。
 このまま元気に、プリルに支部壊滅の六文字を叩きつけてやろうと、ラルドは帰ってからの想像をして――



 ――瞬間、世界が影に呑まれた。



〜☆〜



「……ん?」

 一瞬、視界が黒く染まり、あらゆる情報がシャットアウトされ――そしてまたあらゆる情報が耳から、目から入ってくる。
 その感じは正に夢から覚めたときと同じようで、自分が今まで眠っていたかのような錯覚を覚えるが、直にそれを振り払う。今まで起きていたのに急に眠るなどありえないからだ。

「っと、ちょっと疲れたのかな。一瞬、眠ってたみたいだ――は?」

「っ、どうしたの? ……え」

 ラルドは、驚愕に満ちた表情で見つめていた。
 ――今先程まで、フィレアが居た場所を。

「は……は?」

「ふぃ、フィレアが……フィレアがいなくなっちゃったよ!?」

「ど、どういう……こと、だい?」

「急にいなくなった、としか考えられまい」

「で、でで、でもどうやって!?」

「どういうこった!?」

 今先程まで、ほんの数秒前まで居たはずのフィレアは跡形もなく、ただ小さな黒い何かを残して消え、その黒い何かも徐々に小さく消えていく。
 一体どういうことなのか。

「な、んだ。どういうことだ……?」

「……これは、一体」

 黒い何かは完全に消え、フィレアに繋がるであろうものはなくなった。
 ラルド達は勝負には勝ったものの、最後の最後で敵の手がかりを逃したのであった。




〜☆〜




 翌日。朝の九時だ。
 ミルもすっかり起きる時間。朝食も済ませ、普段ならもう探検準備を済ませて何時間かトレジャータウンを歩いて無駄話をして、そして探検へ出掛ける。そんな時間。
 だが昨日の激戦で疲れきった六人は、今朝食を取った所だった。

「……はぁ、疲れた」

 皆が疲れの表情を見せている。それは化け物じみた体力のシルガだってそうだ。
 かなりの負担がかかるであろうクイックショットを二回使い、更には解放もしたのだ。疲れないほうがおかしい。

「回復速度は化け物並みのお前が、俺たちより疲れているとは思えん。一晩、いつもよりも長く眠れたはずだ。どうせもう走り回れるくらいにはなっているだろう」

「え? 激戦とはいえ一晩寝たら走り回れる元気くらいは……あるぇ?」

 幾らなんでも、走り回ることすらできない程ではなかっただろ、とラルドは心の中で突っ込む。それも、自分達が強くなったからなんだろうなと、グレイシア戦の時とのレベルの違いを教えてくれる。

 だが、実際はラルドの異常な回復力の前に、あの激戦が敵わなかっただけだ。

「私、もうちょっと眠りたかった……寝てもいい?」

「悪いけど、こんな下らないことで睡眠の種を使いたくないんだ」

「普通に喧嘩を止めるのに使ってるよね?」

「喧嘩はもしかしたら、チーム内に亀裂が入るかもしれない。僕はそれを未然にしようとしているさ。ミルのは単なる睡眠欲だろう?」

「ぐぬぬ……!」

「喧嘩だけで亀裂が入るようなチームじゃねぇだろ、このチームは」

 もし喧嘩だけで亀裂が入っていたら、今頃このチームは罅だらけになっているだろう。主にラルドとシルガの。
 だが、最近はラルドも我慢するという行為を覚え、喧嘩も少なく――

「この溝鼠との関係になら是非とも亀裂を入れたい物なんだがな」

「あーああー聞こえなーい!! フィリアが睡眠の種持ってるから聞こえないー!!」

「子供かあんたは!」

「君の好きな爆裂の種を入れてあげても良いんだよ? ……それより、今日は僕から提案があるんだ」

「あー……提案?」

「そう、提案さ」

 シルガの声を聞くまいと五月蝿かったラルドはその声を止めると、提案という意味に首を傾げる。

「僕達は最強のギルドマスター、プリルからレイヴンの情報を持ってくるの命令を直々に受けた。これからはレイヴンと直接対決すると思ってもらうよ」

「無事に情報を持ってきて、しかも支部を壊滅させたからな。そりゃまぁ、頼られるとは思うけど」

「そう、なのに僕達は相手のことは何も知らない。なら話し合うしかない」

「……いや、会議って言ってもさ、なにを話し合えばいいんだよ。あの結晶のことか? それならジュエルが関係しているらしいけど」

「結晶に関しては今は情報が少ないからね。……なにもレイヴンに関してだけじゃないよ。メンバーも増えたことだし、気を引き締めるということで会議をしようということさ」

 レインとヒイロが増えた事で、エンジェルのこれまでも大きく変わる事になった。
 まずは料理係がヒイロに変わったこと。料理は女がやるという常識が根付いている……が、エンジェルではそうじゃない。
 まずフィリア。一応できるが美味しいわけでもなく、不味い訳でも無い。中途半端な味だ。
 そして残りの二人は論外。シルガはフィリアよりマシといったところで、ヒイロを除くとラルドが一番上手い。なので今までラルドが作っていたがヒイロが仲間になったことでチームで一番料理が上手いヒイロに変わった。

「って、なんで女のお前らが俺たちより下手なんだよ……」

「ニートだからねぇ」

「そりゃあ食べ物があればラッキーな未来で生きて来ましたし」

「お母さんやお姉ちゃんに家事は任せっきりだったよ!」

「お前らって奴は、お前らって奴は!」

 だが、変更点は料理だけではない。
 レインの主力である電棘、それに必要な鉄のトゲ……その材料費だ。
 貯金は三十万Pあるので大丈夫、と普通の生活をしていれば思うだろう。というか普通の探検家ですら思うだろう。
 だが、このチームは道具に頼る。とにかく頼る。爆裂の種も無駄に買い、睡眠の種も無駄に買い、鉄のトゲも買いに買い。
 最近では入院したりして、このままでは金がなくなってしまう。

「これからは、少し爆裂の種を押さえるか。まだまだ金はあるにはあるけど、余裕は持ちたいからなぁ」

「僕も睡眠の種を少し控えるよ」

「……!」

「でもストックはたくさんあるんだ。喧嘩は必ず止めるからね?」

「……」

 一瞬、気が緩んだラルドだったがすぐにまた気を引き締める。どうやら、ラルドは睡眠の種の地獄からは逃れられないらしい。

「ま、まぁいいや。とりあえず、金の事に関しては今は少し節約すればまた元通りお金持ち生活に戻る」

「探検に必要な道具以外、一人当たりに一ヶ月与える2000Pで遣り繰りしてもらうよ。勿論、銀行から勝手にお金を出して使ったら次の月は1000Pに減らすよ」

「!?」

 約一名。驚愕の表情に満ちているがそれも気にせず、さっさとフィリアは別の話題に進もうとする。その一名も、今逆らったら減らされると分かっているのだろう。渋々といった表情で落ち込んだように顔を下げる。

「諦めろミル。あいつには、あいつにはどうやったって勝てないんだ……!」

「うぅ……でも、私は諦めないよ! 必ずやフィリアを倒してみせる!」

「その意気だ! さぁ行け勇者ミル、あの大魔王を倒すのだ!」

「か、覚悟ー!」

「下らない漫才している場合じゃないよ」

「へぶっ!」

 蔓の鞭でミルの頭を叩くと、フィリアは今度こそ別の話題に進む。勿論ラルドにも同じ罰を与えている。

「はぁ……それで、本題だよ。レイヴンに関してのことで、話し合おうか」

「……レイヴン」

 最初の邂逅は、普通にパッチールのカフェでグレイシアと会ったことだ。あの時、ラルドは何にも思わなかったが、後々レイヴンと判明する。
 それは空の頂で、一ヶ月前から雪が降る異常気象や山のポケモンの強化など、より険しくなった空の頂を登りきった頂上でそのグレイシアが待ち構えていた。
 そのときは、ラルド自慢の電気活性≪アクティベーション≫や高速移動による超スピードから繰り出される爆雷パンチを後一歩、という所で防ぎきる。

「そして、次がレインの肉体を取り戻しにいった時のことだ」

 ラルドが『俺』から『僕』へと意識がチェンジし、レインの肉体を取りもどそうと出掛けた先で、グレイシアと再び見えることに。
 ラルドの意識が『僕』なこともあり、苦戦するがなんとか『僕』の機転で相手の防御を突破。そしてそこで、闇のオーラを始めて見る事になる。
 結局は解放時の莫大なエネルギー波によるパンチ、バーストパンチによって最強の防御を破壊し、勝利したわけで。

「それに、敵は君を神子といっていたね。君はなにか神託でも受けたことはあるかい?」

「いや、ない」

「そうか。でも、これでハッキリしたね。敵は君を、積極的ではないが狙っているということだ」

 フィレアも神子を異様に嫌っていたようだと考えられる。
 連盟から直々に依頼された影滝島の探索で、いきなりレイヴンと邂逅。なんやかんやあって、無事にフィリアを倒し実質支部壊滅へと追い込んだわけだが。
 最後のフィレア戦で、フィレアは神子を忌々しそうに言っていたのだ。

「……俺を神子として狙っている理由……」

 神子といえば、シャーマンなど女性が多いイメージがある。だが、相手が言う神子とは、こういう意味とは違う意味ではないかとラルドは考える。
 たとえば単純に、神の子という意味とか。なにか神から与えられたとしか考えられない特殊な力をもっているなど、そういった……。

「……まさか、全解放か?」

「全解放がどうかしたの?」

「いや、神子の意味だよ。もしかしたら俺は、全解放ができるからそう呼ばれてるんじゃないかと」

 もしそうだとすれば、神子を忌々しいといったことにも説明がつくだろう。
 相手は今まで秘密裏に行動してきたが、グレイシアとラルドが接触したことで、念のためにラルドを調べたのだろう。そこで全解放の秘密を得る。
 そして、こうして相手の計画を掻き乱すかのように現れたラルドを目の敵にしているのではないかと。
 以上が、ラルドの推論だ。

「うーん、オープンに全解放の話をしたのが問題だったんだろうな。カマイタチの奴らに三人いっしょにかかってきてみろ、とか挑発してたときに聞かれてたんかな……?」

「なに言ったのよ、あんた……」

「いや、ちょっとハイテンションだったからな……俺を倒すとかいったから、俺には第二第三の秘密兵器があるとか言ったんだ。んで詳しく説明しろとか言われて」

「全解放のこと喋ったの? アホなの? 馬鹿なの?」

「アホでも馬鹿でもないです。……ま、このことはどうでもいいだろ。で、他には?」

 とりあえず、敵はこちら……というより、ラルドを狙っているというか、目の敵にしていることは分かった。
 ならば他に話すべきは、相手の目的だろうか。

「相手の目的かぁ。世界征服とかかな?」

「いやいや、ここは世界を壊して私も死ぬ! みたいなんじゃない?」

「どんなヤンデレだよ、それ。普通にミルの言う通りに世界征服だろ」

「……もしかすれば、星の停止をまた進行させようとしているのかもな」

「ちょ、縁起でもないこと言わんといてください。あんだけ苦労したのに、またやられちゃ俺たちのがんばりが水のバブル」

 あんな体験をもう一度したいなんてマゾな奴はほぼいないだろう、とラルドは心の中で思う。
 実際、苦しい戦いを潜り抜け、最終決戦で心を折られ、また立ち上がってなんとか倒すも体ぼろぼろな状況を買って出る奴なんて居ないだろう。

「闇の結晶なんて、不気味なものまで作り出しているからね。あれは触ると悪意が流れ込んでくる代物だったけど……君たち三人は無事だったんだよね?」

 フィリアはあの時、自身に流れ込んだ言いようのない、気持ちの悪い感情を思い出す。それだけで身震いするほど、気持ちが悪かったのだが。

「ああ。多分、フィレアとその他の悪意と、俺のディアルガ戦での絶望は比べるまでもなく俺の方が大きかったんだろうな。あんなの屁の……なんとかだ」

「河童ね。ま、私も未来世界の絶望に比べればマシといったところでしょうね」

「俺もだ。……もしかすれば、そこの鈍感鼠は鈍感すぎて悪意や憎しみに気付かなかっただけかもしれんがな」

「ほう、お前、俺の活躍見てもまだそんな事いえるんだ? へー……おい、全解放で全身骨折かここで土下座。どれがいい?」

「お前こそ、ここで海へ放り投げられた後に爆裂の種を当て、浮かんだ所を波動弾で止めを刺されるか今ここで自身の発言を詫びるか、どちらがいい?」

「君達、睡眠の種はまだ有り余っているんだよ? ……まぁ、敵の詳細をほぼ知らないのに、目的なんて話し合うべきじゃないのかもね」

 と、なんの結果も出ないまま相手の目的についての話は終わる。

「じゃ、他になに話すんだ? もうなにも話すことねぇだろ?」

「そうだなぁ……最後に、フィレア消失については話し合いたいけど、あれはなにも話し合う事無いだろ」

 突然、視界が黒く染まったと思えばまるで夢から覚めたように一気に脳へ情報が入り込んでくる。まるで一瞬だけ眠らされていたような感覚だったと、ラルドは思い出す。

「そうだよねー。一瞬からだが浮いたような感じがして、なんだろって思ったらいきなりフィレアが消えてたんだもんねー」

「僕も同じかな」

「奇遇だな、俺もだ」

「俺も俺も!」

「私もよ。瞬きした瞬間にいなくなったんだもの、吃驚しちゃったわ」

「……は?」

 なにを言っているんだと、ラルドは思考が一瞬停止する。
 あの感じは間違いなく、寝て、そして起きたときの感じだ。間違っても瞬きした瞬間などではない。

 ラルドはそのことを口に出そうとする――が、その前にフィリアがぱんぱん、と両手で音を鳴らす。

「はいはい終わりだよ。会議といっても、現段階じゃこれで限界かな? これ以上はただの想像になるからね。各自、今日はもう自由にしてもらっても構わないよ」

「わーい! 終わったー!」

「ミル、いっしょにカフェに行きましょ」

「……寝るか」

「俺は素振りでもするかな!」

「……あ、ああ」

 何故、ラルドと皆の、あの現象の認識が違っているのか。何故、ラルドだけがそう感じたのか。
 何故なのか、何故なのか。
 幾ら考えても答えは出てこないが、きっとまたレイヴンと関わりあったとき、その答えも自ずと見えてくるだろうと、自分で納得する。
 きっと、そうだろうと。










『あの感じ……まさか』




次回「閉ざされた海」

ものずき ( 2013/09/29(日) 21:20 )