第三十七話 満ちた不死鳥
フィレアに対抗すべく、解放したラルドだったが不意をつかれレインが攻撃されそうになる。だが間一髪の所でシルガとヒイロが助け、エンジェルとフィレアの全面対決が――?
〜☆〜
「ぜひ教えて欲しいモンだなぁ!! “エアスラッシュ”!」
「“エアスラッシュ”!!」
始まった、エンジェルとフィレアの総力をかけた対決。舞台は雨乞いの雨には及ばないが、雨が降る影滝島、その大滝。
まずはヒイロが自らの剣でエアスラッシュを繰り出す、が筋力馬鹿のヒイロが放ったエアスラッシュでも空中のエキスパートのエアスラッシュには塵に等しいのか、簡単に雲散する。
「ちっ、“真空波”!」
そんな強力なエアスラッシュを、シルガは真空波で完璧に打ち消す。
「ナイスだ、シルガ! テメェもいいところあんじゃねぇか!」
「お前に倒れてもらっては、大幅な戦力低下につながるからだ」
「おいおいあんまし褒めんなよ!!」
「これ褒めてるのか? ……“エレキボール”!」
「“波動弾”」
二人が来て、戦力が大幅に上昇したのでラルドは解放を解除していた。そもそも解放は余程の出来事じゃないと使わない。解放がチート臭くて楽になりすぎているという理由もあるが、一番の理由は体力消費が激しいという事だ。
十分経てば無条件で体が痛む諸刃の剣を、いつでも使う馬鹿は居ない。
「“フログモス”!」
「ッ!?」
ラルドとシルガの放ったエレキボールと波動弾。それらはまっすぐフィレアに向かっていく、が直前でフィレアの吐いた赤い煙のような物に包まれ、そのまま燃えてなくなる。
「な、なんだ今の!?」
「エネルギーを燃やし尽くすガスか……? どちらにせよ、これでまた一歩攻略から遠ざかったな」
「はっ! あんなもん、熱くもなんともねぇな!」
「そりゃ、炎タイプのお前だったら耐えれるかもしれないけどな、俺たちなら余裕で絶えられるんだよ」
今の所、フィレアの攻撃は普通の炎攻撃。なんでも切り裂くエアスラッシュ。今の技を焼き尽くす煙、と非常に厄介な技のラインナップだ。
「しかも、瘴気のせいか飛行速度も結構増してきてる、これじゃ不利なままだぞ!」
「仕方がないだろう。あのグレイシアのようになっていないだけマシだと思え」
「無理だよ! “十万ボルト”!」
「“竜の怒り”!」
「“フログモス”!」
どれだけ攻撃しようと、あの厄介な煙で三人の技は燃やし尽くされてしまう。だがあちらの攻撃は確実にこちらの体力を削ってくる。
「このままじゃ、この状況をどうにかしてもあの黒いオーラが出たら逆戻りだぞ!」
「焦るな」
「そうだぜ、冷静に相手の弱点を見極めてこそ、真の強者だ!」
「一番冷静から程遠い奴がなに言ってるんだよ!」
「よそ見してんンじゃねェゾ雑魚共ォ! “原始の力”ァ!!!」
「ちぃっ、“爆炎切り”!!」
約二十個にも及ぶ岩を、ヒイロは自分と後ろにいるフィリアに当たりそうな岩を強力な炎を纏った斬撃で破壊する。
それに続いて、ラルドやシルガも、電撃連波や波動連弾で破壊する。
「“炎の渦”ゥッ!!」
「“炎の斬波”!」
互いの技がぶつかり、小規模の爆発を引き起こす。
それでもフィレアの方に分があったのか、フィレアには衝撃が来ていないが、ラルド達には来て少量ながらもダメージを受ける。
「ぐっ……くそっ、普通に相殺しようとしても地で負けてるから、生半可な技じゃ逆にこっちがやられるぞ!」
「んなこと、分かってらァ! でもよ、どうしようもねェぞ!」
「……いや、待て」
「ん、なんだ? 作戦の一つでも思いついたのか?」
なにか思いついたんだろうか。と、ラルドはシルガの話に耳を傾ける。
「……フィリア! 一つ聞く、奴に攻撃を与えられる事ができれば、なにか良い案を考えられそうか?」
「そりゃあ、選択の幅は広がるけど……当てられるのかい?」
「舐めるな。……奴に攻撃が当たらないのは、俺たちの技が奴にたどり着くまでに見切られてしまうからだ」
「そりゃそうだ」
ラルド達の攻撃が遅い訳では無い。ただ単純に、距離が離れすぎているのだ。
しかも相手は空にいる。そのせいで勢いも自然と弱まっていく。そこへフィレアの飛行能力と有る程度の動体視力があれば、完全な追尾性能でもない限り当たる攻撃も当たらない。
「それならば、見切られなければいい話だ。丁度いい技がある」
「なんだ、波動連弾みたいな奴か?」
「違う。……見ていろ」
そういうと、シルガはその技を使う為の体勢をとる。
それは、間違いなくクラウチングスタート。そう、クラウチングスタートの体勢だった。
しかしクラウチングスタートを知らないフィリア達はなんの体勢か分かっていない。今この場でなんで走ろうとしてるんだ? と思っているのは未来組の三人だけだ。
「なぁシルガ。お前走りたいならこれが終わってからで良いだろ……?」
「誰が走るといった! ……ふん、丁度いい。この技をお前に見せ付けるためにも、少しあの焼け鳥の気を引け。そして動きを封じろ」
「焼け鳥って、お前なぁ……現在進行形で焼けてるから仕方ないけどな」
「なら早く封じろ……そうだな、俺がサインした瞬間の一秒でいい」
「一秒って……分かったよ。一秒だけだぞ!」
一秒。この間になにができるのかと思いつつ、ラルドはそれを信じてシルガのサインを待つ。
その間は、フィレアに勘付かれないように攻撃するのみだ。
「“エアスラッシュ”! “火焔霊”!」
「“十万ボルト”!!」
ヒイロは片方ずつの剣で二つの技を、ラルドは得意の十万ボルトを放つが、フィレアには掠りもしない。
だが、今はその方がいい。
シルガから気を引くということが、今のラルドの役目だからだ。
「さぁ、俺に注目しろ! “雷”!!」
「お望みどオり、注目して攻撃し続けてやろうカァッ!?」
そういうと、翼を引きエアスラッシュの体勢に入る。
だが先程よりも確実に違うのは、翼が燃え盛る炎を纏っているという事だ。
「喰らエェッ!! “サンスラッシュ”!!」
そうして高速で振られた炎の翼は、光り輝く白い刃を生み出し、その刃はこちらへと高速で向かってくる。
それは雷と激突し、そして……雷は触れた瞬間に引き裂かれる。というより、焼き切れる。
「んだありゃあ!?」
「超高熱の斬撃だろうよ! しかも直視できないくらい眩しいから、当たると焼ききれて死ぬぞ! 多分!」
ヒイロが放った火神楽のようなものだろうと、ラルドは予想してみる。
斬るよりも焼ききるに特化した刃、恐らくフィレアのものもそのようなもので、ヒイロのよりも何倍も高熱なのだろう。
事実、あんなに白くて直視できないほど、太陽のようだったのだ。
ラルドは間一髪でそれを避けると、それは近くの岩を溶かしきってしまう。
「……ラルド、行けるぞ」
「! やっとか!」
これをどうしようかと、ラルドが悩んでいるとシルガがやっとOKのサインを出す。
実際は数十秒だったのだが、何かを待つとき、人は時間が長く感じる。それがラルドにも適応されただけだ。
ラルドにサインを出したシルガは、まっすぐフィレアを見つめる。そして頭の両方についている房を浮き上がらせて、波導でフィレアの姿を完璧に捉える。
「あいつの動きを止めるんなら……“暴雷”!」
ラルドが放った二つの雷は、上空へと進んでいく。
狙いは勿論、フィレアでもなんでもない。
「なにを……!?」
「弾けろ暴雷!」
「ッ、――!?」
そのまま暴雷は、天へと昇っていき……雷の如き轟音を撒き散らして、弾けた。
「が、アアァァァッ!!?」
「う、うるせぇッ!!!」
その轟音は、離れているフィレアのすぐ側で起きたためフィレアは急な轟音に耳を塞ぐ。それでも余韻が残っているのか周りの状況がつかめていないらしい、辺りに炎を撒き散らしている。
その威力は遠いヒイロが耳を塞いでいるのが物語っているだろう。
「今だシルガ! あの馬鹿面に、なんでもいいからぶち込んでやれェエッ!!!」
「分かっている。……見ておけ、これが――」
そうして、ラルドがシルガの方を向いた瞬間。
「――俺の技だ」
シルガは既に、フィレアの顔面を貫いていた。
「……は? いつの間に!?」
「こ、こ、この野郎ォ……!!」
「ふん。どうだ、自分の顔を蹴られる感覚は? ――“波動纏装解放弾≪バーストショット≫”!!」
「ゴハァッ!!?」
そこからの超至近距離の衝撃に、フィレアは耐え切れずに後ろに倒れてしまう。
勿論、蹴りなのでシルガの脚もやられてしまうだろう。二重に見える程の陽炎ができるほどの熱を纏っているフィレアだ。只ではすまない。
そのままシルガは重力に身を任せ、落ちていく。
「ちょ、ちょっと待てぇえええ!!!!」
「し、シルガァ!? どうなってんだ!?」
「え、えぇえ!? シルガぁ!?」
「一体どうなってんの!?」
「全く、こういう場合の事も考えたらどうだい……“蔓の鞭”!!」
落ちていくシルガを、フィリアは自身の蔓で掴む。
多少、重力とシルガの重さで蔓が下がった物のそれで離すようなフィリアではない。きちんと掴むと地面へとおろす。
「っと、どうだ。この技はいけるか?」
「なぁ、お前あいつを蹴ったとき熱くなかったの?」
「波動で何とか防いだ……で、フィリア。どうだ?」
「……それが一体どういう技なのかを教えてくれたら、大丈夫そうだ」
「……神速の応用だ。神速の速さを、スタートダッシュの一瞬にすべて込めてそのまま相手に突撃する技だ。難点は溜めと狙いに時間が掛かる事。そして一直線にしか行けないということだ」
なるほど、とフィリアは頷いてからなにか考える。
神速はその圧倒的な、それこそ見えないような速さで相手に突撃するという絶対に先制できるという技だ。シルガのは不完全で、リオルの体では完璧な神速なんて使えないためぶれは見えるが、それでもぶれだ。
そしてそれをもっと早くするのではなく、一瞬の加速に使う事であの爆発的な加速を生み出したというわけだ。
「……テメェら……中々やるじゃアネェカ……」
「へっ、どうだ! ザマァみろってんだ!!」
「俺がやったんだぞ。何故貴様が威張る」
「いいだろ別に。そういうお年頃と考えてみれば……で、フィリア。作戦は?」
フィリアにはさっきの技を実際に、どんな技かを見せて、しかも説明までした。なんとかなりそうというその言葉にうそ偽りはないだろう。
「そうだね……なら、これからの戦いは僕の指示通りに進めてもらおうか。僕の護衛をしていたミルとレインも、戦線復帰だ」
「あ、あんな化け物を私も相手にするの? 冗談よね?」
「冗談になる状況だったらよかったね。……作戦はそれだけだよ。但し指示が一秒以内に動くんだ」
フィリアの作戦、それはただフィリアの指示通りに動くという事だけで……もっと無茶な指示が来るだろうと思っていた三人は思わず動きが固まる。
シルガは何が来ようと予想なんてしてもいないので動じない。ヒイロはフィリアの言う事すべて肯定なので驚く必要がない。
「それでいいのか?」
「フィリアの言う事に間違いなんてねぇよ!」
「ヒイロの言う事は間違いだらけだけどね。まぁ、こればっかりはどう転ぶか分からないけどね……シルガ」
「ああ、分かった」
フィリアは最後にシルガの目を見ると、シルガは何かが伝わったのか返事をする。
「さァてトォ、話し合イは終わったカァ!? 終わったンなら死ネェッ!!!」
「ああ終わったよ! ……って、瘴気がまた一段と増してるぞ……」
「そのもう一段階上の闇のオーラを纏う前に倒すために、僕の指示に従ってね。……ミルはなるべくレインの速度にあわせて“シャドーロアー”、レインは“水の波動”!」
「分かった、“シャドーロアー”!」
「“水の波動”!」
ミルとレインの同時攻撃、それは化け物組と比べると若干遅く、フィレアが避けられない道理はない。
フィレアは素早く、華麗に攻撃を避けると攻撃に転じる。火炎放射だ。
フィリアはそれをみんなに避けるように指示し、避けた所でまたミルとレインに攻撃を指示する。
「おいフィリア、なんで俺たちに攻撃をさせないんだ?」
「後向こうとこちらで二、三回打ち合うまでかな……ミル、レイン。それぞれ反対側から攻撃!」
「“シャドーボール”!」
「“シーストライク”!」
黒い球と水の光線。それぞれタイミングを崩すよう違う速度だったのだがフィレアは関係ないとばかりにそれをかすりもしないような程遠くに回避する。
「次、ミルは“スピードスター”! レインは“水の波動”二つ!」
「ハッ、ンなァモンくらうわきャねェだろうがヨォ!!!」
その言葉通り、ミルの必中のスピードスターと二つの水の波動は、普通のポケモンならかすったりしてもいい攻撃を軽々と、しかも必中のスピードスターを紙一重で避ける。
本来、必中とはある程度の追尾性能と至近距離なら確実に当たる。それらと他の条件で必中と呼ばれる。それが当たる前に、至近距離で避けれたという事はフィレアの飛行能力を再認識させられる。
「……そろそろかな。ミル、“シャドーボール”、レインは“シーストライク”! ラルドは“十万ボルト”!」
「やっとか! “十万ボルト”!」
「“シャドーボール”!」
「“シーストライク”!!」
再び放たれる攻撃。それに加え、今回はラルドの十万ボルトも加わっている。
だがフィレアの飛行能力の前にはさして問題はないだろう。フィレア自身もそう思い、また寸前で回避しようと自ら攻撃へと進んでいた。
――だが。
「ッ、ギャアッ!!?」
「へ!? あ、当たった!?」
近づいた瞬間、ラルドが放った電撃に直撃。その場で動きを止めた後、残る二つの攻撃が直撃する。
「どういうことだ!?」
「簡単さ。ただお世辞にも早いとはいえないレインの攻撃とミルの攻撃の速度を合わせる事で、フィレアにその速度に慣れてもらう。相手は四天王だからね。慣れるのも早いだろう」
「……ああ、なるほど。それでなれきった所に俺の電撃か」
「君はなんで指示をださないのかと言っていたからね。普通より少しは強力な電撃を放つだろう。それも相俟ってね」
つまりだ。フィリアの指示による作戦その一とは、言うなればリズムゲームで一定の間隔でやっていたら、いきなりその間隔をぶち壊すような速さのリズムが流れてきたと。そのようなものだ。
それも気をつけていれば対処できただろうが、フィレアは二人の攻撃の遅さを舐めてかかって直前で回避しようとしていた。対処などできるはずもない。
「クッソ……テメェ中々やるじゃあネェカアァ!?」
「これ、怒りのボルテージが益々上がってないか?」
「そんなものだよ。それより次は、ラルド。“電撃波”!」
「分かったよ! “電撃波”!!」
必中の電撃波。これが次なるフィリアの作戦の初撃だ。
一体これからどう展開していくのか……それはラルドには分からないが、とりあえず指示通りに動く。
「アァ、今度は騙サれネェぞ!」
そして、先程の油断で自分が傷ついたのを自覚しているのか、より一層陽炎を強くして電撃波を避ける。
しかも、先程はまだまだ余裕を残していたのか、今では体の炎もあってか炎の弾丸のように思える速さだ。
「ヒイロ、竜巻!」
「オーケーフィリア!! 喰らいやがれ、“竜巻”ィッ」
「ハッ、当たるわけネェだろうがヨッ!!!」
本来空中にいる相手には有効なはずの竜巻。だが、それさえもフィレアの飛行に支障を来すことはできない。
それどころかフィレアは竜巻の風を即座に読み、その流れで加速する。
そして、そのまま、俺たちへと向かってくる。
「はあぁあ!?」
「吹き飛べゴミ共ォッ!!!」
加速した巨体は、全てを薙ぎ払うかのような風を撒き散らしながらこちらへと向かってくる。威力は、攻撃が二倍になった状態のラルドでもなんとか受け止められるレベル。それを少し超えたくらいだろう。
「おいおい! こりゃどうしろと!?」
「……ラルド。あれを受け止めて」
「無理だよ! 熱すぎて無理だよ!」
フィリアからの無茶な命令に応える気は、ラルドには一切ない。もし受け切れたとしても、その時は自分の体に一生のこる傷がつくかもしれない。
「ちっ……フィリア。お前の計算がずれるかもしれないけど、ちょーっと荒技使うぞ」
「……暴雷かい?」
「違う。こうするんだッ!!」
「アァ、遂に諦めたカァ?」
ラルドはフィレアへと走り出す。
当然、フィレアとラルドの差はどんどん埋まっていく。それとともに、ラルドの体が熱くなっていく。近づくだけでこれだ。生身で触れるなど考えるだけでも寒気がする。
「なら死アルのみだ! このまま圧死するか、熱死するかは分かラネェがなァ!!」
「ははっ、笑えない冗談言ってんじゃねぇよ。それに、あるのは死じゃねぇ……!」
そして、ラルドとフィレアが触れ合いそうになる直前……ラルドは体を倒して寝転がる。
「お前の馬鹿面だ! こんがりバードさんよ!!」
「なにヲッ……!?」
そのままフィリア目掛けて、ラルドの上を通り過ぎていこうとするフィレア。だがそうは問屋がおろさない。ラルドもおろさない。
ラルドは直に両手両足を上へと上げ、電撃で体を包んだ直後――
「“衝撃電流最大火力≪インパルスフルファイア≫”!!」
「ぐ、ウ――」
フィレアのお腹に手を置いて、その一瞬で衝撃を伴う電流を流し込んだ。
その衝撃は両手だけでなく両足からも流れた結果、尋常じゃない衝撃がフィレアを襲う。その威力は、フィレアの巨体が吹き飛ぶほどだ。
だがその威力故、吹き飛んで受け流すことができないラルドに強烈な反動が襲い掛かる。骨が軋み、大の字の形になってしまう。
が。
「どうだ、参ったか!?」
「テンメェ……ゴハッ」
ラルドは耐え切り、フィレアは予想外の攻撃により血を吐き、動きもふらふらだ。ふらふらの種を使っていないのに、ふらふらだ。
そしてフィリアはこの予想外の事態を一瞬で把握する。
「今だ! みんな、総攻撃用意!!」
『おぉっ!!!』
その言葉で、皆がそれぞれ特大の技を作り出す。
ミルはシャインロアーを、フィリアはエナジーボールを、シルガは五十に渡る波動弾を、レインはシーストライクを、ヒイロは火竜砲を。
それぞれの大技が完璧に作り出され、そして……!
「今だ、一斉発射!」
フィリアのその一言により、全てのエネルギーがフィレアへ集中した。
〜☆〜
五人のエネルギーがフィレアに集中射撃され、白い光と共に爆音と爆発を撒き散らす。その威力はすぐ側にいたラルドにもおよび、わずかだがラルドにもダメージが及び、吹き飛ぶ。
だがそれは、今のフィレアに与えたダメージを考えれば小さい物だろう。
「ぐっ、ぼっ……はぁ、とりあえず、これでフィレアは倒せたか?」
「君が攻撃していないし、二人も解放はしていなかったからね。……でも、これだけの攻撃だ倒せないほうがおかしいよ」
「だよな」
そんな若干の不安を心に秘めつつ、煙が晴れると、そこには……傷つき倒れたフィレアの姿があった。
「……ほっ。どうやら無事に倒せたみたいだな」
「君のアッパーが効いたのかもね。この後、シルガの技を使った作戦に繋げる予定だったんだけどなぁ……とにかく、後は連盟にフィレアを転送しよう。その後……色々と考える事もあるからね」
フィリアの考える事、それは間違いなくフィレアが言っていた事だ。
「連盟についても、色々考えなきゃならないね」
「そうだね。プロローグさんがやっと東から頭出してきたからね」
「……それについては触れないでくれないか。本の影響を受けたんだよ」
「中二病ここに極まれり……あ、すいません。睡眠の種は自重してください」
フィリアがスッとバッグから睡眠の種を取り出すのを見て、ラルドは弄りを中断する。フィリア相手に弄る機会なんて早々に来ないのでラルドとしてはもっといじりたかったのだが。
「んじゃ、その調子でエンディングを超えて、エピローグさんが西に沈むまで考えてくれよ? 智将さん」
「いい加減にしないと、君の穴という穴全てに君の好きな爆裂の種をぶち込むよ?」
「キャッ、お茶目さん……おえっ」
「吐くくらいなら最初から言わない方がいいだろうに……さ、みんな! フィレアとの戦いは終わった。これからバッジでギルドに行って、支部を潰して来ましたとでも言えば――」
「――潰シタ、だと?」
不意に聞こえた、ラルド達の勝利に水をさす発言。
その声はどこまでも低く、そして感じたくなかったが久しぶりに……舐め回されるような不快感。
「んなっ、んだと……!?」
「まさか……ッ!?」
「ぎゃ、アハハァ。テメェラ全員、ナニイッテンダァ? 支部ノ中にハ沢山の部下がイルゥ……消耗しタカテルワキャネェダロ?」
野太く不気味で気色の悪い、そんな声だったフィレアが片言になるにつれて一層不気味さだけが増していく。
その胸元からは、大量の真っ黒なオーラ。
そして、その目は怒りで満ちていた。
「ま、まだ倒れてないの!?」
「化け物なの!?」
「バケモノ? バケモノダッテェ? チゲェ、チゲェヨ。オレハ、オレハアアアァァァ……不死鳥ダアアァ!!!!」
その言葉が最後、フィレアは炎に包まれ、そして――
「ギャアアアオオオォォ!!!!」
――全ての傷を癒し、言葉を失ったバケモノが誕生した。
次回「不死の終結」