ポケモン不思議のダンジョン空の探検隊 エンジェル〜黒と白の12の翼〜







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第三章 秘密のランクと秘密の組織
第二十九話 影滝島逃亡劇@
遂に影滝島へと足を踏み入れたエンジェル。波導や電磁周波など、道具もあって完璧だと思われた安全な調査は音を立てて崩れ去り――?






〜☆〜


日光が少しも差さない程の厚い雲に覆われた島である、影滝島。
そんな島に足を踏み入れた理由は、レイヴンと呼ばれる秘密組織の支部の調査だった。のだが、完璧な作戦はガーディという種族のポケモンの特技により音もなく崩れ去る。
そして、更に日が差さない湿った枯れた森に、透明状態が解除されて、実体が見える状態の僕は潜んでいた。

「ふぅ、はぁ……どうやら撒けたみたいだ」

そんな湿った枯れた森の中で一人荒い呼吸を治しつつ、僕は現状の確認を急ぐ。
現状の確認といっても、至極簡単だ。ただ敵がガーディが誇る強力な嗅覚を頼りに僕たちを発見。現在ガーディを頼りに追い掛け回されているということだ。
しかもガーディ自体のタイプが炎ということもあり、更にはあの場に居た親衛隊と名乗る二人も草とは相性が悪い。

…………。

五分が経つが、全然来ない。臭いを頼りにしているならとっくの昔に追いつかれてもおかしくないはずなのに、どうしてだろうか。
と、疑問に思い出した所で後ろからいきなり巨体が飛び出す。それを間一髪でよけると、直さまその襲撃者の顔を見る。

「ギャハッ……寸前で気付くたァ、テメェ中々やるなァ」

「アーボック……!」

できれば一番会いたくない敵だった。
それは、あの中で絶対に勝てなさそうな相手だったからだ。
炎タイプとはいえ、ガーディは未進化。自分自身も未進化だったが負ける気はしない。マグガルゴも炎はあるが岩もあるため、与えるダメージは普通となる。
が、アーボックだけは例外だ。毒は草に強く、草は毒に対抗する術を持たない。
ノーマル技の“居合い切り”や“枝垂桜”はあるにはあるが、それだけでは負けてしまう。

今の自分に出来ることは、逃げる術を考えることだけだった。

「ギヒッ、アーボックってのは種族名だろォ? 俺様には“コーク・ネビュラ”っつー名前があるんだよ! 分かったらその胸に刻んどきな糞蛇ィッ!!」

「喋っても居ないのにそこまで嫌われているだなんて、同属嫌悪かい?」

「その通りだ! 捕食者にもなれねェ蛇を、俺は嫌う!!」

「……」

捕食者にもなれない蛇、か。
それは、未進化だから無理だ……ではないのだろう。実力の問題じゃない。
このアーボック――コークがいうのは、無慈悲に相手を引き裂けるかどうか、なのだろう。敵に情けをかけず、静かに歩み寄り、丸呑みにする。その覚悟。
当然だが、僕は一般人だ。お金持ちでも、ニートでも、精神だけは一般人のつもりだ。
そんな覚悟があるわけがない。

「となれば、ここはやっぱり逃げるしかない、か」

「っ、逃げンじゃねェよッ!!」

「断る。生憎だけど、僕はそこまで強くは無いんだ」

僕はコークに背を向けると、持ち前の俊敏さでどんどん距離をとっていく。アーボックという種族に比べて僕たちツタージャ系統は素早さを重視した種族だ。
同じ蛇系でもわけが違う。

「くそが、待ちやがれ!!」

「だから、断るって言っているだろう?」

太陽が出ていればもう少し楽に引き離せたのだが、広範囲に渡り積乱雲で覆われたこの島は、時の狂いのせいもあってか晴れる事がない。

「……っと、危ないなぁ」

そのまま引き離そうとスピードを上げようとすると、後ろから溶解液が連射される。当然全てをよけるのだが、流石あのグレイシアの親衛隊とでも言うべきか。触れた地面が溶けている。
喰らったらひとたまりも無さそうだ。

「っ、このままじゃ逃げ切れそうにもないね」

“溶解液”、または“ヘドロ爆弾”を避けながらの全力疾走ではやはり差を開けない。スタミナもなくなって来た。
ならば足止めをしたいところだが、生憎縛り玉や足止め関係の類は全部あの鈍感鼠に渡してある。なので無理だ。
ならば、必然的に攻撃、という手段しか残っていない。が、これも避けたい。下手すれば相手が怒り狂い、縦横無尽に暴れるかもしれない。

「ああもうっ、どうして現実はこんなにも僕に対して非情なんだいっ!!」

「ギャハハッ、愉快な踊りと同時に叫ぶたァ、随分余裕があるじャねェか?」

「ふっ、必死に逃げ回っているのに、それを踊りだなんてね。どういう教育をされてきたんだい?」

「ギャハハハッ、テメェみてェな奴らとは一味も二味も違う教育だよォッ!!」

そう言いながら、僕ほどではない物の俊敏な動きで僕を追ってくる。
一度狙いを定めた獲物は逃さない、ということだろうか。

「だが、いい加減飽きて来たな。ギヒッ、さっさと終わらせてやんよ!!」

そういうと、コークは口を閉じ、溜める動作をすると――

「“毒針”!!」

――大量の紫色に光る毒エネルギーの針、それを広範囲に放った。

「くっ!?」

僕はそれを避ける術を持たない。当たりそうな毒針はなるべく“枝垂桜”や“エナジーボール”で相殺していると、遂にコークが目の前にまで飛び出してきた。
圧倒的な巨体の前に、一瞬僕は立ちすくんでしまう。
そんな隙を、捕食者たるコークが見逃すはずも無かった。

「“炎の牙”!!」

「あぐっ!?」

燃え盛る牙による噛み付きは、草タイプである僕には重すぎる一撃だった。これがダストシュートなどの毒系の攻撃技じゃなかっただけマシともいえるが、それでも重い。
焼けるような熱さの牙が体に食い込もうとしている。もうダメだ、耐え切れない。

「ここ、までなのか……?」

意識が朦朧とする中、僕はすっと目を閉じ……ようとした瞬間、突然牙が抜ける。

「ギャッ!?」

「ッ、鉄の、トゲ?」

そして、アーボックを怯ませた正体はほかでもない、鉄のトゲだ。
だが普通の鉄のトゲは、投擲して少しでも足を止めてくれればいいほうだ、とも言いたくなるような威力の低さだ。それをこんな威力で出せるのは、この島では一人しか居ない。

「レイン!」

「へっへーん! レイン様登場っー!!」

後ろを見れば、橙色の体をした藍色の目を持つピカチュウ、レインがいた。
鼻を高くして、胸を張って遠回しに褒めて、といってるようにも見えるがそんな場合じゃない。
精々足止めになればいいだろうという物は、やはり強化しようと一撃では足止めにしかならない。

「くそがッ……一体なんだってんだ」

「私が投げたのよ。あんたがそこの可愛い箱入り娘、もといニートを襲おうとしていたからね。無理矢理は嫌われるわよ?」

「無理矢理じゃなくても、お断りだけどね……“枝垂桜”!」

「ゴハァッ!?」

ノーマルタイプの飛ぶ斬撃は、まっすぐコークに向かっていき、そして直撃する。高速の鉄のトゲよりは威力も高いため、コークも地面に倒れこんでしまう。

「テメェら……覚悟しろォッ!!」

が、大したダメージは与えられなかったのか直に起き上がってしまう。そして僕の方を向くと、口から少量のヘドロ爆弾を連射してくる。

「うわっ!?」

「ちっ、はずしたか」

それでも避けられる早さだったので僕はそれを避けると、一気にレインの要る場所まで走る。
レインは両手に鉄のトゲを持っていて、いつでも戦闘できるといった感じだ。

「レイン、無事だった?」

「ああ。もし消毒液とかあればいいけど、オレンの実だけで十分だよ」

「オッケー。なら早速、前衛を任せられるかしら?」

「分かった」

先程は逃げるだけしかできなかったが、今は違う。レインがいるだけでも勝てる確率は十分上がる。
逃げても逃げても追いかけてくるのなら、もう倒すしか方法はない。

「援護、頼むよ」

「任せなさい、っと!」

それだけいうと、僕はコークへ向かって走り出す。レインもそれと同時に“電棘”を二つ発射。それは狂いもなくコークへ向かい、そして直撃する。
二つ同時はさすがにダメージになったらしく、怒り狂った表情でこちらを見つめている。

「“枝垂桜”!」

「“ヘドロ爆弾”!」

そして、僕とコークの戦闘は始まった。
飛ぶ斬撃で牽制をしつつ、隙を作り、確実にレインからの援護を当てられるように仕向ける。
今回の作戦は相手の体力を地道に削っていくという戦法だ。どんな強力な技を使えようと、安全第一を考えて行動。そして地道に削り、倒す。
コークのタイプがもっと別のなら楽だったのに、とどうしようもないことを考えながらコークの懐に向けて走り出す。

「“エナジーボール”!!」

「“ベノムショック”ゥッ!!」

ベノムショック。
相手が毒、若しくは猛毒状態に陥っている場合に限り、威力が二倍になる毒タイプの中でも特殊な技だ。
だが今回、僕は毒状態になっていないので威力はそのままだ。しかもこの技は毒状態の相手に当たったときに限りのみ威力が二倍になるので、技を相殺するのにはむかない、がそこは相性でカバーらしい。

「ちょこまかと……“アシッドボム”!!」

「あぐっ!?」

そのまま離脱……とはいかずに、直前に技を背中に受けてしまう。
アシッドボムとは、毒タイプの技で多数の毒爆弾を相手に向けて放つ、小さい威力の技だ。が、その威力の低さのほかに必ず特殊防御を二段階も下げるという効果を持つ。

「……これで、特殊技は何が何でも受けてはいけなくなったね」

「ゲヒッ、特殊技以外にも気ィつけなきゃならねェこともあるだろ雑魚蛇ィッ!!!」

アーボックの真髄。それは鉄をも破壊するほどの力による締め付けだ。
その威力は人間時代に存在していたという動く鉄塊をも壊せるという、フィリアたちにようなポケモンが受けたらひとたまりもない。
が、戦闘だけに集中しすぎて今のフィリアは気付いていない。

「“ベノムショック”!!」

「“リーフブレード”!!」

強力な毒の衝撃を、リーフブレードで切り裂く。
無数の毒爆弾を、グラスミキサーでかき消す。
強力な毒の波を、種爆弾の衝撃で逸らす。
そして後ろからの援護を確実に当てる、そんな戦い。

だがそんな戦い方がいつまでも続くはずが無かった。

「くそがァッ!! この俺が、最強の防護壁の親衛隊である俺が! 何故こんな小物相手に苦戦する!?」

「君が、僕たちより弱いって言じゃないかな?」

事実、あのグレイシアよりこのアーボックは格段に弱い。あの防御と氷柱の猛攻に比べれば生易しい攻撃だ。
これならあの化け物組一人だけでも倒せる。ラルドなら特に。

「このくそが……お望みと有らば、ぶち殺してやるよ雑魚共ォッ!!!」

コークはそう叫ぶと、標的を僕からレインへと変更する。
もともとこの作戦は、微量なダメージを重ねていくといったものだ。そのため僕が常時標的でならないといけない。
だが生き物は怒り狂った場合の方が冷静に判断できる場合もある。コークの場合、正にそうだったらしい。

「“毒針”!」

「へ? み、“水の波動”!!」

咄嗟に球体の水を作って毒針を退ける。小規模の爆発が起こるが、それでもコーク自体にはそれほどダメージは通っては居ない。
あっという間に目の前にたどり着いたコークは、舌なめずりをしながらレインへと向かっていく。それは正に捕食者だ。

「ひっ……こ、来ないで」

「ギヒッ、ギャハアッ。そのまま怯えた面しとけ弱肉。テメェは強者に食われる運命なんだよォ」

「れ、レイン!」

危ない、だが間に合わない。フィリアも全速力で走るも、やはり追いつかない。晴れた状態ならどうにかなったのかもしれないが、どうこうできるものでもない。
つまりレインを助けられる状況ではないということだ。

「レイン!!」

「ギャハハッ! 喰われろ弱肉ゥッ!!」

「キャア――」

そしてコークがその大口を開け、今正にレインを飲み込もうとした瞬間。

「――なんて、私に似合う言葉じゃないでしょうに」

「あ?」

レインの姿が掻き消え、その掻き消えたレインの後ろからまたレインが現れる。

「ァ?」

流石のコークもこれには驚いたのか、目を丸くし、しばらく新たに現れたレインを凝視していた。
それはフィリアも同じだ。食べられそうになった友人がいきなり消えて現れたのだ。驚かない方がおかしい。
だがこれも、技だ。

「“身代わり”っていう技よ。あなたと私の技が作り出した小規模の爆発。あの隙に作らせて貰ったわ」

「あ、あの時だとォ!?」

あの、いきなり襲い掛かってきた咄嗟の瞬間の間に二つも技を発動していたのだ。
レベルが低いレインがこんなに戦闘慣れしているのはおかしいと、フィリアも傾げる。が、その理由はレインが自ら言った。

「あの程度、未来世界では日常茶飯事よ。あれくらいの出来事で一々驚いてちゃ生きてけないわ」

「なっ」

なるほど、レベルが低いレインが妙に戦闘なれしていた起因は未来世界での経験があったからなのか。とフィリアは納得する。
が、コークは知らないから、分かるはずがない。ただ自分より弱い存在に一杯食わされたということだけだった。

「テメェ、よくも、この俺をォォッ!!」

「五月蝿いわね。ちょっと黙ってくれる?」

レインは自身の頭ほどの水の弾を作り出すと、コークの顔に向ける。それが少し威力の高い物である事はなんとなく分かった。
故に、コークもさっさと始末しようと氷の牙で噛み付こうとしてしまった。

「私相手に氷なんて、随分馬鹿なことしたわね……ま、見たところあんたと私の力量はそれほど離れていないようだし、一撃で楽にしてあげるわ」

そして、その水球をコークの口に照準を合わせ、拳を限界まで引く。そのフォームは随分と様になっている。
そのまま水球ごと丸呑みしようとでも言わんばかりの勢いで迫るコークに向けて、レインは水球を――殴った。

「喰らいなさい。“シーストライク”!!」

「ヒ、ギャヒッ!?」

そのまま勢いよく発射された水の光線にコークは避けられるはずもなく、冷気をまとった口に直撃してしまった。
それだけでは問題ない。まだ倒れるはずがない。
だが冷気を纏っていたのが問題だった。口は完全に凍りつき、開けることもできずに閉める事もできない。
そして急に口内を襲った異常な冷たさに、コークは勢いよく体を後ろに引き、そのまま地面に思い切り頭をたたきつけ気を失った。
つまり最後は、コーク・ネビュラの自爆だったというわけだ。



枯れた森戦。フィリアVSコーク。レイン途中参戦。

勝者、フィリア&レイン。




次回「影滝島逃亡劇A」

ものずき ( 2013/06/26(水) 21:09 )