第二十八話 影滝島上陸
探検隊連盟から届いた極秘依頼、それは暗躍する秘密組織レイヴン支部の調査だった。俺たちは調査のため、影滝島へと――?
〜☆〜
時刻は、五時三十分。
俺たちが出発してから既に六時間が経過しており、最初、ミルがトレジャーバッグの他に持ってきていたバッグから林檎やらお菓子やら出して皆で食べながら談笑していたが、話のネタが尽きて終わってしまう。
そして現在、ラプラスの背中に揺られ、俺たちは熟睡中であった。
「ん……ふぁあ。……良く寝た」
「おや、起きましましたか」
「ああ……というかライラ、お前眠たくならんの?」
「はい。僕は少し特殊ですから」
時の海を渡れるのに特殊て。俺より特殊だぞお前。回復速度が尋常じゃない俺に言われたくないのも分かるけど。
まぁ、別にそんな事はどうだっていいか。今は寝起きだが頭もすっきりしてる。今知りたいのは影滝島の地形だ。
「ライラ、影滝島ってどんな地形なんだ?」
「そうですね、大雑把に言うとXのような形で……斜め左下の方は他と比べて若干細く、他は太いです」
「よくわからんが、なるほど。で、他になんかないか?」
「そうですね、影滝島は昔村があったそうなんです。そのため廃墟なども多いと訊きます」
廃墟、か。大方その中の一つが根城なんだろう。
だとしたら厄介だな。
「何故ですか?」
「俺の思考を読むのは止めろ。……廃墟があるって事は、隠れる場所が多い。それは俺たちにも、向こうにとっても大きな利点だ」
「いいではありませんか」
「良くない。こちら側が隠れても、向こうも隠れてたら意味がない。もしかしたら俺が気付かない所から見つけられる可能性が十二分にある」
あれ、俺なんで今回こんなに頭回るんだろうってくらい頭回るんだけど。どうした、頭が遂にいっちゃったのか?
まぁいいや。逆に言えば、そこを気をつければ今回の調査は楽勝だ。
「あぁ……で、なんかいきなり暗くなってきたんだが」
「入ったんですよ。最悪の海域に」
は? 最悪の海域? こいつは何を言ってるんだ、影滝島が最悪だ何て……おい、ちょっと汗をたらすんじゃない。怖いだろうが!
「影滝島の周辺海域は可笑しくてですね、強大な渦が周りを囲んでいます。それを抜けたら今度は厚い雲に覆われた島。影滝島は蒸し暑く、高確率で雷雨が降ります」
「へ?」
「最近はダンジョン化の影響が抑えられたというのに、何故かまた新しいダンジョンが発見されてきています。そしてここは、ダンジョン化ではない方面での影響を受けているのです」
え、ちょっと待て。時の狂いがなくなったのに、新ダンジョンだと? ふざけるなよ、俺たちがどれだけ苦労して時の狂いをとめたと思ってるんだ。
また狂い始めたのか?
「原因が分かりませんけどね。……とにかく、その影響でここ最近暴風雨が吹き荒れます。そうなったら、深追いはせずに僕の所へ戻ってきてくださいね?」
「お、おう」
寝起きの体になんて難しい事を言うんだ! こっちはすっきりしてても元の素材が悪いから難しい事は分からないんだよ! 分かったら分かりやすく言ってくださいお願いします。
「……渦は渦潮で相殺します。ですが、雷雨はどうしようもありませんよ?」
「別にいい。送ってもらうだけでも有りがたいんだ。それよりあと何時間でつく?」
「そんなに掛かりません。三十分くらいです。……さてと、もう休んでおいて下さい。恐らく調査は物凄い疲れるでしょうから」
「ああ。じゃあ、俺は少し横になるとするか」
ライラに言われて、俺は横になる。ぐっすり眠ってすっきりしているため、寝れないが。
影滝島か……一体、どんな場所なんだろうな。
そして、その頃。影滝島上空では。
「へぇ……遂に来たのねぇ……英雄が」
煌めく炎を身にまとう者が、狂った海を進む者達を見つめていた。
〜☆〜
そして三十分。
荒れ狂う渦を抜け、サメハダーの群れを何とか抜けて、厚い雲に覆われた島、影滝島にようやく到着した。
ライラの背中で寝ていた皆を起こし、ライラに礼を言うと俺たちは早速目の前の景色を堪能する。
「なんか暗いね」
「雲に覆われてるのもそうだけど、周辺の海のせいか蒸し暑くて潮風があるせいで機械類はあまり持ち込めない。船の移動も難しいからね」
「ふーん、なんかいやな雰囲気」
「なんか苦手だぜ! 湿った場所は炎の天敵だな!!」
「五月蝿い」
「お前ら静かにしろ。敵に見つかったらどうする気だ」
調査だぞ調査。見つかったら元も子もない。
さて、と。目の前には何もない殺風景な廃墟が広がっていて、その少し奥には森がある。そして恐らく、そこを抜けるといくつもの廃墟が広がり、その内の一つに支部があるのだろう。
「この島の地形は一応全部把握しているから、見つかる可能性も低くなるよ」
「あるぇ? 俺の努力って一体……」
あの後寝転んでても暇だから、ライラに地形を細かく聞いてがんばって暗記した俺の努力を返せ! このニートが!!
「今、罵倒されたような……?」
「糞ニートが」
「ラルド、それはちょっと……」
事実だから言い返せないだろう? ふははっ、これが自宅警備員の限界よ!
「あんたも一年くらい家に引きこもってた時期あるんだけどね」
「しかも、引きこもりじゃなくなっても村の役には立っていなかったな」
「……ゑ?」
「二人揃ってニートコンビだね!」
「「う」」
俺とフィリア、二人揃って動きが止まる。まさかミルに図星を指されて動きが止まる日なんて繰るとは思わなんだ。
まぁとにかく、うん。少し脱線しすぎてた。
「さぁ、この廃墟にも敵が居るかも知れないからな。シルガ、頼む」
「ああ……こちらには気付いていないが、四人ほどいる」
四人か。ここ以外にも上陸する場所は山ほどあるし、戦力の大半は本拠地に置いてあるのだろうか? ……良く分からないが、まぁいい。
ここで俺の出番だ!
「んじゃ、ミル。守るで皆を守っとけ」
「え? 何するの?」
「ちょっといいことだ――“電磁周波”!!」
俺を中心として、円形に電磁波が広がっていく。
普通よりもかなり多くの電気を使うので苦労するが、その分効果はいい。
俺を中心として円形に広がる電磁波は、俺の視界の先まで雲散する事はなく、また電磁波と同等の効果を秘めている。
ただしこれは見つかっていない場合でしか使えない。電磁波の移動速度が遅いのだ。ゼロ距離で放たないと一対一ではまずあたらない。
「「「「ッ!!!」」」」
おっと、全ての見張りに当たったようだ。
声を上げる隙もなく、見張りは痙攣して倒れる。一応動ける事には動けるのだが、突然の事なのでパニックでも起こしたのだろう。
まぁ、そんなことはどうだっていいか。
「よし、行くぞ!」
「なんか、凄い事になってきたよ」
「どっかの研究所にでも侵入してるみたいよね」
「おぉ、なんか楽しくなってきたぜ!」
ダメだこいつら、早く何とかしないと……!
「もうなにしても無駄だろうね。仕方ないね」
「馬鹿が二人も増えるとは、英雄も末だな」
「俺悪くねーし! 悪いのはこいつらだろ!」
「あっ! ……ラルド、人に責任を擦りつけたらリーダー失格だよ?」
「思いつきで良いこといってんじゃねぇ!!」
もういやだこいつら。何しても這い上がって……いや、下がっていきやがる。
もうフィリアに任せるしかないね。俺には手におえない。
「もういい。先進むぞ」
呆れるほど思いつきで行動する馬鹿兎と、ゴーストデビルさん家のレインと単細胞のヒイロ。
早くも俺の脳は処理が追いつかなくなり、この調査の後フィリアが現実逃避をしだしたのは言うまでもないだろう。
……ないよな?
「知るか」
「酷い!」
こいつは何だかんだで手がかからないかららくだ。フィリアもシルガはクールキャラじゃなくて無関心キャラだから楽だ、とか意味不明な事を言っていた。
まぁ、楽なのは俺も思うな。
「……森に入るぞ。シルガは波導探知を常時発動だ」
「より精密にする為には動けなくなるのだが」
「ヒイロ、シルガを背負え」
「何で俺が!」
「ヒイロ、僕からも頼むよ」
「フィリアの言う事なら仕方ねぇな! ほら!」
おぉ、これは扱いやすい。
とにかく、シルガの探知能力は本物だ。波導は全身から常に放出されている、生き物である限り絶対にある。生命力を具現化みたいなものらしい。まぁその理屈じゃ生命力を攻撃に使ってるわけだし、ありえないだろうから違うだろう。
そして、今のシルガは半径五百メートル内に要るものを探知する。当然、姿もだ。
「……十人。内四人が電磁周波範囲内にいる」
「よし、分かった」
俺は早速電磁周波を使うと、シルガが波導で四人が倒れた事を探知する。
よし、これでこの森は抜けたも同然。残り六人もシルガの探知能力で近づいてきた瞬間に電磁周波で黙らせたらいい。
シルガによる探知、俺の電磁周波による拘束。これが揃えばある程度の場所には乗り込める。
「支部に乗り込むためのドロンの種もある……これで、調査は成功したも同然だな」
ドロンの種。効果は十分間の間だけ食べた人間の姿を消すという物だ。これを十二個もってきている。
一個1000Pと高額で、それを十二個なのだから合計12000Pも使う事になった。
が、今回はそれに見合うだけの依頼だ。なにせ、連盟からの依頼なのだから。
「ふっふっふ。ここで成功すれば、強力な後ろ盾を得る事になる。だから俺たちは絶対に失敗してはならない!!」
「皆、ラルドが凄くそれっぽいこと言ってるよー!!」
「ラルドらしからぬ発言だね」
「なになに? キャラ変更するの?」
「はっ、今更かよ!」
「お前ら五月蝿いぞ! 俺だって好きでこうなったわけじゃない!!」
この探検隊のリーダーやってたら誰でもこうなるわ。まともな人間が一人しかいないってどういうことだよ。これもう文句言ってもいいだろ。
確かに最初の頃の俺と比べたら信じられないほど変わったな。多分、あの頃の俺に今の俺が会っても信じてはもらえないだろう。
「……100m先に出口発見。注意して進め」
「あ、ああ。分かった」
念のために全員にドロンの種を渡すと、俺たちは注意しながら進んでいく。後、ミルご自慢の視力は役に立たない。入り組んだ森の中では、やはりは波動よりは役に立たない。寧ろ波動の方が役に立ちすぎるのだ。
そして、俺たちはシルガの波導と保険のミルの視力で森を進んでいき、遂に出口を発見する。不思議のダンジョンじゃない分簡単だったな……。
「……どうだ、いるか?」
「……二十人だ。全員、こちらを向いている」
こちらを向いている? ……もしかしたら、誰かの合図で全員が同じ方向を向くとか、そういう集団行動が凄いのだろう。
だが偶然にもこちらを向いているとなれば、ドロンの種を服用するしかない。
「よし、みんな。早めにドロンの種を食べておいてくれ。それに予定よりも早かったから、念のためもう一つ渡すぞ」
「はーい」
「やっと、それらしくなってきたわね」
「いや、調査なんだからばれないほうがいいだろ」
みんなが種を食べると、一斉に姿が消える。
こうなるともう誰も見えないのだが、そこは手探りでみんなの姿を確認し、手を繋ぐ事で解決だ。
「よし、みんな、いるか?」
「ああ」
「こいつをおぶってるから分かんねぇよ」
「……俺には波導があるからな」
流石シルガ、いくら姿を消そうが波導がある限りはこいつが見つけられない、なんてことにはならないか。
まぁこれで準備万端だ。足音や匂いなどは消せないが、慎重に行けば足音は立てずに済むし、匂いで察知とかいないだろ普通。
「じゃ、行くぞ」
俺が先に進むことで、皆も一歩遅れて前に進む。
皆が違うタイミングで歩いたら危険だし、こけてしまうかもしれないからだ。
枯れ枝や木の葉を踏んで見つかるなんていう前時代的な展開になんて会いたくないからな。
「……二十人。確かにいるな」
「前衛に十。中衛に五。後衛に三。一番後ろに二人いる」
「そうか、分かった」
ならとるべき行動は一つ。視界の隅から隅まで敵を捕らえた瞬間、俺は体から微弱な電気を大量に発生させ、一気に解き放つ。
“電磁周波”は前衛と中衛を巻き込むと、痺れさせる。麻痺状態は動ける物のやはりいきなりのことで動けなくなったらしい。
そして、後衛も巻き込むというところで――何かに打ち消される。
「気付かれたか」
まぁ、それでも前衛と中衛を無力化できたのだ。十二分な仕事をした。後はこの混乱に乗じてこの群れを突破して、支部に一気に近づく!
あの考えなしに突撃するだけの馬鹿がこんなのになるなんて、とか思ってる奴。俺は知的で賢いからな?
……と、言いたかったのだが。
「ッ!?」
俺たちがこの集団を突破しようと歩いていると、いきなり死角からヘドロが飛んでくる。
が、幸い歩いていたのもあってか直に反応はでき、一滴たりともあたってはいない。
……そんなことはどうでもいい。それよりも重要な事がある。
「なんで、俺たちの場所が!?」
「ギャハッ、ギャハハハァッ」
「がーでぃたち、よくやったんだなー」
「「「ガウッ!!」」」
とても気味の悪い、体を舌で舐められているかのような錯覚を覚える笑い声。そして、なんとも鈍間そうな声と犬の声。
それはコブラポケモンのアーボックと、ようがんポケモンマグカルゴ。こいぬポケモンのガーディだった。
「逃がすわけねぇだろ糞が! テメェらはここで八つ裂きして丸呑みだァ、ヒャッハーッ!!」
「なんでだ、ドロンの種による透明化は完璧のはずだ。」
「ギャハッ、テメェらまだ見えねぇのかァ? 俺たちの優秀な番犬ガーディ。こいつらの嗅覚は凄ェ、テメェらの臭いなんか一発で分かっちまうんだからよォッ!!」
「くそ……誰だ、お前達は!!」
「あァ!? もう分かってんだろ英雄。俺たちは――“レイヴン”の四天王に仕える、親衛隊だよ!!」
……いや、そこまでは知らなかったけどな。知らなかった情報有り難う。
また新しい言葉が出てきたな。四天王……つまりこれは、あのグレイシアのことを指すのだろう。これが四天王だから後三人も要るのか、嫌だな。
しかも親衛隊だと? うわぁ、より一層面倒くさくなったな。
「俺はアリシア様に使える親衛隊の一人ィッ!! そして、横にいるこのマグカルゴはこの島を牛耳る四天王“フィレア・イグニル”様の親衛隊だァッ!!」
「よろしくなんだなー」
いや、無駄な事は一切切り捨てるんだ。今この状況は不味い。俺でもわかる。
フィリアの顔もいつものような顔じゃない。これはもう秘策も思い浮かばない……この状況だけなら何とかできるが、俺たちが見つからずに支部にたどり着くという目標だったのは何も楽したいからではない。いや楽な方がいいが、もし見つかってしまうと援軍が来てしまい、下手すれば支部を恐ろしいほどの人で守るかもしれないからだ。
「……リーダー命令だ。メンバー全員、逃げろ」
もう仕方ない。このまま戦ってはいずれやられてしまう。
ならもう逃げるしかないじゃないか。
それに無駄な戦いは避けなければいけない。もし何らかの攻撃で、ここら辺に現れるファイヤーが逆上して怒ってしまえば、下手をすれば俺達全員全滅だ。ジ・エンドという奴だ。
俺達は背を向け、一目散に走り出す。捕まれば終わりだ。絶対に捕まってはならない。
幸い俺には仲間がある程度近くなるとメンバーバッジがどこにあるのかリーダーバッジが教えてくれる機能がある。広範囲で半径十メートルでどこかにいるとしか分からず、確実に分かるのは半径三メートルというものだがそれでも十分だ。
「お前ら、絶対に、絶対に見つかるなよッ!」
『おぉっ!!』
どこから聞こえたのか分からない、さまざまな声。それらは直に遠のく。
午後六時十五分三十一秒。
悪夢の逃走劇の幕が今――上がった。
次回「影滝島逃亡劇@」