第二十七話 ランク7の大仕事
未開の地、クレバスの洞窟にて、無事ボスを倒しブレドを救出したエンジェル。そして、それから一週間後――?
〜☆〜
朝。それは最も憂鬱で、そして眠たい時間だ。
ミルは九時になったら起きるから、ぐっすり眠れてるんだろう。何故かどれだけはやく寝ても必ず朝九時に起きるのだ。体内のリズムが正確すぎる。
まぁ、なんやかんやで一週間。あれから発見した金100000Pを貰った。レイダースでも発見できなかったという点が大きかったのだろう。これでしばらくは依頼を受けなくても大丈夫だ。いやまぁ、受けるけど。
そしてシークレットランク。これがなんなのか、いまだはっきりとしていない。プリルに聞いても分からない、焼き鳥に聞いても分からない。らんらんららーん、らんらんららーん。
「はぁ……疲れた。なんか面白い事無いかー?」
「君は、一日に一回は疲れたって言ってるよね。なにか労働でもしたのかい?」
労働? ははっ、このチームを纏め上げるだけで労働さっ!
「このチームの個性が強すぎて……そういやフィリア、お前、確か俺たちがクレバスの洞窟に出掛けている間調べ物するって言ってたよな。なにしてたんだ?」
「調べ物といっても、ただの暇つぶしだよ。前に僕の家に帰ったときに取ってきた本の一つさ。見てみるかい?」
「うん? ……ま、朝は暇だからな。見てみるか」
今はヒイロが朝食を作っている最中だ。なので、後十分くらい暇な時間が続く。
読書なんて柄じゃないけど、まぁ読んでみますか!
「ほうほう……なぁフィリア、この本なんなんだ? サンダーとかフリーザーとかファイヤーとか、なんか聞いたことのない言葉が一杯有るんだが」
「サンダー、フリーザー、ファイヤー。伝説の三鳥だね。それぞれ強力な雷、氷、炎を操るといわれてるね。サンダーは無尽蔵ともいえる電撃を、フリーザーは空気中の水分を少量の冷気で凍らせる事が、ファイヤーは不死ともいえる生命力を持ってるんだ」
「へぇ……んじゃ、このライコウとかエンテイとかスイクンってのも、伝説ポケモンなんだな」
「伝説の三犬だね。雨雲を背負い、強力な炎を操り、汚染された水を浄化する。その本は伝説のポケモンや神話について詳しく書かれていることだから、説明文もあるはずだけど」
えっ、本当に? ……あ、本当だ。三十ページくらい使って様々なポケモンの絵描いた次のページに説明文がついてる。
というか今見たらディアルガもあったぞ。やっぱり元は綺麗な色してたんだな。
「でも、神話レベルになってくると正確な情報は得られないからね。ディアルガも、時を操る神としか書かれていないからね」
「へぇ……お前、いつもこんなの読んでるのか?」
「まぁね。僕の取り柄なんて、情報力と頭脳でしかないからね」
「良く言うな。実力だってあるだろ」
解放をせずに戦ったら結構苦戦するだろうし、普通の奴らと比べたらフィリアは結構強い。いや、俺の取り柄は強い事だけだから、抜かされないようにはするけど。
「あぁあ、こういう伝説ポケモンと戦ってみたいな」
「この前のグレイシアでさえ苦戦したのに、伝説ポケモンなんて夢の又夢だね。もっとチーム全体の力量を上げなきゃダメだよ」
そうだよな。俺たちの今のレベルで、勝てるわけないよな。
最弱固体でレベル40くらいなら倒せる気がしないでもないでもない。が、やはり希少な存在だからな。普通では見ることさえできないだろう。
「ま、気長にやっていけば、伝説のポケモンの一匹や二匹には会えるだろうな」
「そんなものだったらいいけどね」
いや、今まで幻のポケモンや伝説のポケモンにもあえてるし、会えることには会えるだろう。
流石にディアルガレベルになってくると正攻法ではあんな所行けないし、無理だろうが。
「おーい、飯できたぞー」
「お、待ってました!」
「良いにおい〜」
おっと、ミルが香りでおきたようだ。
さっきからずっと海を見ていたレインもいつの間にか水を用意してたし、シルガも既に座っている。なんでこいつらご飯のことになるとここまで行動が早いのか。
馬鹿だな、俺みたいにさっきから先に座ってればいいのに。
「人のことを言える立場かい?」
「ずっと座ってたお前に言われたくないです」
ここで、エンジェルの基地の紹介をするとしますか。
まずは端のほうにある台所、必要最低限のもの以外はあまりない。
次、湧き水場、これは元々あるから別にいいか。
そして次、俺達六人が不自由なく食事できる大きさのテーブル。これは台所の側にある。
藁のベッドとかは寝るとき以外は束ねて置いてあるから、この基地は結構充実してると思う。台所とか、色々な物も含めて凄いよな。ポケモンって。俺もポケモンだけど元は人間だからな。
「いただきます」
まぁでも、そんな疲れも目の前のこの料理を見れば吹き飛ぶんだけどな! さすがヒイロ、戦いも料理も有能で、シルガより有能だな。
今若干、シルガの俺を見る目が完全に敵を見る目に成ったのは気のせいだろう。とりあえず寝るときにはシルガをまず縛っておくか。あの悲劇は二度と起こさせない。
「あぁ、俺の一日で四回の癒しの一つ目が、俺に訪れてる……!」
「気持ち悪いよラルド?」
「きもい」
「イカレてやがる」
「同意」
「元々じゃないか。気にすることはないよ」
「ちょっとお前ら屋上へ行こうか……久々にキレちまったよ……」
と、下らない談笑をしつつ、ラルド達は朝食を完食する。
因みに皿洗いもヒイロで、炎タイプなのに水に触れて大丈夫なのか? と聞いたら「尻尾の炎も水に浸かっただけでは消えないし、水を克服するために必要だ」とかなんとか。よっぽどレインと引き分けたのが応えたんだろうな。ま、レインは何でも仕掛けていいって条件で戦ったから、別にいいか。
因みにレインがとった戦法は自分の周りすべてに爆裂の種を埋めるという物だった。そこでひるんだところを“水の波動”で攻撃、最後はヒイロがレインをなんとか倒すと同時に爆裂の種を踏んだため、引き分けとなった。
「はぁあ、なんかすることないかー?」
クレバスの洞窟から基地へ戻ったとき、俺はあまりの温かさに思わず涙が出た。
それから一週間、クレバスの洞窟での寒さという名のトラウマで探検には出ていなかったのだ。ダンジョンと聞くと連想して寒さを想像してしまうから。
が、色々あって、それも治った。そろそろ探検に出掛けなければいけない頃だろう。
「……そういえばラルド、僕が朝、ポストを見ていたらこんなのが入っていたよ」
「こんなの? ……最近、こういう依頼多くなったな」
探検隊は、普通はギルドに張られている掲示板を見て依頼を決める。元々、未知の場所の開拓が仕事の探検隊だが最近は未知のダンジョンも少なくなってきたからだ。
その為、探検隊は試験が必要だったのだが、最近少なくなってきて、俺たちの活躍でこれ以上増える事はないだろうから廃止の目途が立ってきた。
逆に救助隊は最近多くなってきている。遭難者の量はどれだけ開拓しようが増え続けるので、試験も必要ない。遭難者もほぼ事前に開拓されているダンジョンでしかいないため危険も探検隊ほど少なくはない。
救助隊は地域によって決まっているため、特定の場所で活動する物がほとんどの為、拠点を立てる。なんでもマンキー建設業者みたいなのがいるらしい。
が、探検隊も最近は拠点を持つようになり、こういう依頼が増えてきたのだ。
「えっと、なになに……は?」
「どうしたんだいラルド? ……え?」
「なになに、どうしたの? ……へ?」
「なにやってんのよあんた達……はい?」
「おいおい、どうしたんだテメェら」
「……さぁな」
えっと、うん。もう一回見直そう。
「なになに、依頼者、探検隊連盟。ふんふん……はい〜?」
探検隊連盟。
それは探検隊を纏め上げるための組織であり、ギルドをいうものを考案したのもこいつらだ。豆知識として月一回会議をするらしいが、まぁそれはおいておこう。
その有名な探検隊連盟から直々の依頼ともなれば、当然重要なのだろう。
「えっと、ほうほう……なるほど、そういうことか」
「どういうこと?」
「調査だ。“影滝島”っていう場所の」
影滝島。かげろうじま。……どういう場所だ?
「影滝島……光がほぼ当たらず、周辺が厚く、日本晴れが通用しない程の厚い雷雲で覆われていて、なにより有名なのは巨大な滝があることだね。おそらくだけど、滝壺の洞窟よりも勢いが強い」
「へぇ……でも、なんでそこまで分かってる場所を探索しなきゃならないんだ?」
「ラルド、依頼紙に何か挟まってるみたい。なんだろ?」
「ん? 本当だな、どれどれ?」
依頼の紙を広げるとひらひらと落ちてきた小さな紙を、俺は広げて読んでみる。
極秘情報と書かれているそれは、ブレド・インセクトという名前が書かれている。
ブレド・インセクト、その名前を聞いて俺はすぐにシークレットランクを連想する。要するに、極秘、シークレットは秘密……なるほど、シークレットランクのみに依頼されるのか。
「なになに、『先日は氷の中に閉じ込められていた所を助けていただき、もう一度礼を言うでござる。それで、本題でござるが主らは有名な探検隊と聞いた。それを見込んで、一つ頼みがあるでござる。秘密組織“レイヴン”の下っ端を捕まえてそこに支部があるという情報が得られたでござる。……ああ、レイヴンというのは……詳しくはその地域にいる最強のギルドマスターに聞いて欲しいでござる。とにかく、その支部がある影滝島を調査してきてほしいでござる。PS絶対に戦ってはいけないでござるよ!』……レイヴン?」
なんか、やけにフレンドリーな手紙だが重要なのはわかった。
そして……レイヴン。前に聴いたことがある。確か……そうだ、あの時だ。
ありえない程堅い、最強の壁を作り出すグレイシア。そいつが言っていた。
「というか、プリルって最強のギルドマスターなのか!?」
それが一番驚いた。最年少ギルドマスターランクなのは知ってたが、流石に最強まではいってはいないだろうと。舐めてかかってた。
まぁ伝説といわれるレイダースのリーダーの歳では既にギルドマスターの座についていたらしいから、最強になる才能を持っているというのも納得だ。
「それより、なんなのレイヴンって。会社? 組織?」
「さぁ、それよりさっさとプリルの所に行こうぜ。さっさと話を聞いて、この依頼をこなそう」
「それがいいだろうね」
「じゃ、早く行こうよ!」
さてと、まぁ行きますか。
レイヴンについて調べれば、あのグレイシアのことも分かるかもしれない。何故俺達を狙ってきたのかを知るために。
そしてあいつが持っていたあの黒い結晶……あれについても、なにか調べなければいけない。フィリア達に聞いたら人々の悪意の結晶らしい。
なんにせよ、どういう立場の組織なのか……聞きに行きますか!
〜☆〜
〜プクリンのギルド地下三階〜
「ん? お前達、何のようだ?」
「よう焼き鳥。久しぶりだな」
俺の目の前にいるのは、焼き鳥ことペルー。
因みに磯の洞窟での傷はもう既にない。あれから三ヶ月くらいは経ってるし、もう大丈夫だろう。ギルドでの扱いも非常食に戻りつつあるからな。
「いい加減その呼び方はやめないか! ……で、何かようなのかい?」
「ちょっとプリルにな。極秘だから、通してくれ」
「……極秘なんて、卒業からたった三ヶ月で。お前達、一体何をしたんだい?」
「ちょっと人助けだよ。それより早くしろ、こっちもこっちで色々忙しいんだ。爆裂の種とか爆裂の種とか、最近種類の値段が少しだけ上がってきてるんだよ」
「変わらないねぇ……まぁいいだろう。親方様の部屋は分かるな?」
「ああ、サンキューな」
久しぶりの再会で、もう少し話したいがなんせ極秘の情報だ。早々に聞いて準備しなければ間に合わないような依頼だろうし、なにより秘密組織なんてものだ。もしかしたら重大な事かもしれない。
「さて、と。入りますか」
因みにここには俺一人できた。フィリアを連れてきて一字一句すべて記憶してもらう事もできたのだが、それではリーダーの威厳という物が……え、元々ない? そんなわけないだろう。
俺はノックをすると、ドアノブを回す。そしてそのままあけると、宝箱や宝が一杯置かれた……倉庫のような親方部屋がそこにはあった。
「あれ、もう来たんだ。早いねー」
「ああ。早い方がいいと思ってな。……じゃ、お前の方にも届いてるのか?」
最年少ギルドマスターにして、最強のギルドマスター。それだけの実力と地位を持っているからか、そういう極秘情報は真っ先に回ってくるのだろう。
プリルの少し真剣な表情に、思わず息を呑んでしまう。
「うん。遅かれ早かれ君にはいうつもりだったんだけどね、英雄の君は大事な戦力だからね♪」
「そうか。……で、詳しく聞かせてもらおうか。こっちもレイヴンについて聞きたいことは山ほどある」
「……どうやらその様子だと、もう接触したみたいだね」
うぐっ、図星だ。というかなんで分かった?
……まぁいいか。別に連盟は敵じゃない。情報を与えておいて損はないだろう。
「ああ、超堅い氷壁を作り出すグレイシアに出会った。黒い、悪意の結晶って奴を持っているらしい……今はどこにいるか分からないけどな」
「なるほどね。新情報だよ。……じゃ、こっちもそろそろ言おうかな。……レイヴンというのは、半年前から姿を見せ始めた秘密組織だよ。時の停止事件が終わった頃――つまり、三ヶ月前から活発化してきたんだ」
「……準備が整ったのか?」
「さぁね。それは分からないよ。……だけど、レイヴンの支部に近づいた物はこういうんだ。曰く、砲弾でも壊せないような堅い壁が行く手を阻んだ。曰く、空から太陽が落ちてきた。曰く、気付いたら謎の打撃にやられていた。曰く、近づいた瞬間意識を奪われていた……どれもこれもがありえないような話だよ」
確かに、普通じゃ信じられないような話だ。
だが実際にその一つを見た俺は違う。奴の壁は、確かに砲弾如きでは破られない。バーストパンチという、もう少しうまく使えるようになったらレイダースさえも倒せてしまうかもしれない。そんな攻撃でしか壊せない。
「だが、俺の実体験と統合してみたら……堅い壁が行く手を阻む。そして空から太陽……炎の塊が振ってきた。そして、気付いたらやられていた、という速度の打撃。そして、近づいた瞬間に意識を失う……おそらく念能力だな」
ありえる。砲弾でも壊せない壁という確かな情報があるのだ、必ず他三つも合っているだろう。
「更にレイヴンには、下っ端も多数要るようなんだ。今まで見ただけで、なんと百人!」
「百人!? ……いや、見ただけだ。実際はもっといるだろうな」
「そう。そして、そのレイヴンは今かなり大きな組織になっていっているんだ。僕達探検隊連盟……いや、国が頭を悩ませているんだ」
国が頭を悩ませるほどの大きな組織、レイヴン……ワタリガラス、大鴉と読むらしい。
「なるほど、極秘情報なのも納得だ」
「連中は、考古学者を狙っているんだ。狙いはジュエルだって」
「ジュエル……? そりゃまたなんで」
「分からない。けど、連中が何かを企んでるのは確かなんだ。……それで、レイヴンの支部は一度見つかると、絶対に場所を変えてあるんだ。隠れて見つけようにも警備が厳しくてね、空からも太陽のような攻撃をするポケモンを警戒して無理だ」
「だから下っ端を捕まえて情報を、ね。で、何で俺達なんだ?」
今回、それが一番の疑問だ。
ほかにも有名な探検隊、探検家は一杯いるだろうし、かのレイダースにでも頼めば言い話だ。俺達に依頼する意味が分からない。
「言っただろう? 君たちが英雄だからさ。神様を打ち倒した実力を見込んで、頼むよ」
「……」
さて、どうするか。
俺は確かにレイヴンのことを知りたい。なぜだか知らないが、あっちは俺たちのことを狙ってきている。もしかしたら空からの太陽、気付いたらやられている速度の打撃、そして意識を奪う……それらが一斉に襲い掛かってきたら、全解放でも厳しい。
翼もあるし、仲間もいるから大丈夫だろうけど。
「……はぁ、分かったよ。危険だけど、引き受けてやる。ついでにその支部とやらも潰してきてやるよ」
「なるべく戦わないでね。なんでも、その周辺でファイヤーが目撃されたらしいから」
「ファイヤー? サンダーじゃなくてか?」
雷雲なら、無尽蔵ともいえる雷を持つサンダーのほうが居そうなのに。不死とも呼べる生命力のファイヤーが、なんでだ。
「分からない。相手のことは解らない事だらけなんだ……でも、忠告しておくよ。前、君達はその一角と戦ったんだろう?」
「あ、ああ」
「多分、その時期にフィリアとシルガが入院したのはその一角と戦ったせいだろう? しかもかなりの重症を負って」
「……」
「悪い事は言わないよ。絶対に、何が何でも……レイヴンと真正面から戦っちゃダメだよ。それが分かったら……早く調査に行ってきてね♪」
「はいはい、っと。分かりましたよ親方様」
とりあえず、必要な情報も手に入った。後はこの情報を全てフィリアに伝えて、調査をすれば今回の依頼を達成、そこで何らかの情報を得られれば更にいい。
ま、とりあえず皆に伝えて準備をするとしますか!
〜☆〜
「れ、レイヴン?」
「大鴉、またはワタリガラスという意味だよ。……それにしても、まさかあのグレイシアが、そんな大規模組織のメンバーだったなんてね」
「ああ、驚きだ。というか、お前とあのグレイシア知り合いだったのか? 相当憎まれててたけど」
「知らないよ」
聞いた話を話し終えると、フィリアは早速考え出す。
「恨みなんて、引きこもってたときに城の人たちに暇つぶしした事くらいしか……」とか言っているが一応考えている。
というか、そういやこいつ引きこもりニートだったな。忘れてた。それで暇つぶしに城の図書館にある本を全て読破したらしい。だからこんなに頭いいのか。
「うーん、考え付かないね。彼女の名前も聞いたことがない」
「そうか。じゃあ早急に迅速に一瞬で準備しろ。その影滝島とやらを早く見てみたい」
「リーダーの好奇心で動かされる私達って一体……」
「権力を振りかざせば、友情は消えていっちゃうよ?」
「だからミル! なんでお前はそういうときだけ良いこと言うんだよ!」
ミルが最近悪知恵を覚え始めて胃が痛くなってきそうなラルドです。
ラルドです……。
「僕はもう穴が開いていそうだけどね」
「流石常識人。格が違った」
「ふぃ、フィリア! 死んじゃうの!?」
「大丈夫だよミル。僕が死ぬわけないでしょ?」
「ふぃ、フィリア〜!」
なんの茶番だこれ。子供が親に泣きついてるのか?
ふむふむ、フィリアが母親で、レインが父親か? あいつはちょっと男勝りだからな。父親でいいだろう。ミルの保護者第二号だし。
「……ちょっと、失礼な事考えたでしょ」
「考えてません」
失礼な事は考えてないな。うん。
それよりも早く準備をするとしますか。何を買おうか……爆裂の種と、オレンの実と、他には不思議玉か。ダンジョンではないので、林檎は要らないだろう。
「そういえば。ラルド、倉庫に預けてる林檎の数が凄いことになってたよ」
「え、本当か?」
「確か、六十個くらい……ガルーラのおばちゃんにはご贔屓にしてもらってるし、ここら辺はギルドがあるのに探検隊が少ないから倉庫の容量は普通の探検隊の二倍くらいだけど」
「流石に溜め込みすぎたか。……じゃあ、今回の調査にも持っていくか。一人五個ずつ」
影滝島の場所を一応確認しておいたのだが、これは南西にあって、周りに何もない。孤立した、孤島ということだ。
当然そこには船で行かなければならないのだが、警戒される距離に入ってはダメだ。途中からは泳がなければいけない。
が、海の中には凶暴なポケモンが多い。サメハダーやキバニア。安全だが存在自体が危険とも言えるこの世で最大の大きさを持つホエルオー。
絶望的だが、一つだけ、船よりも快適で、そして見つかりにくい乗り物がある。
ライラだ。ライラに乗れば、確実に船よりも早く見つかりにくい。
あいつは時の海を泳ぐ特殊すぎるラプラスだ。当然、のりものポケモンと呼ばれるだけあって背中に俺たちが乗ってもビクともしない。
そして、それから一時間後。
時刻は十一時。準備は三十分程で終了し、残りの三十分は夜まで帰ってこれ無さそうなので昼食だ。あまった林檎の料理で、倉庫の林檎は一気に二十個に減った。
そして、今俺たちは、海岸へと続く林道にいた。
ライラはあの事件の二ヶ月の間、海岸に居座るといっていた。恐らく居るだろう。
「……おっ、居たいた。おーい! ラーイラー!!!」
海岸に出ると、波打ち際で休憩しているライラの姿があった。あいつは丸一日寝ずに泳いでも平気だったが、やはり休憩はするのだろう。特殊とはいえ体力の限界はある。
俺? 俺はちゃんと一日八時間はキッチリ眠るタイプなんだよ。
「おや、ラルドさんではないですか。何かようですか?」
「ああ。ちょっと頼みごとがあるんだけど」
「どこに行くんですか? 幻の大地ですか?」
「いや、あんな所、もう二度と行きたくない。……影滝島って所だ」
「影滝島ですか」
ライラはうーん、と後ろを向いて唸ると、再び前を向く。
「分かりました。影滝島ですね? 今からなら半日は架かりますが、よろしいですか?」
「ああ。それと、できる限り静かに、誰にも見つからないように言ってほしいんだ。極秘の調査依頼を受けてるんだよ」
「極秘、ですか。分かりました、できる限り見つからないようにします。僕は“白い霧”も使えるので恐らく見つかる事はないでしょう」
おおっ、白い霧も使えるのか。なんという高性能乗り物。乗り物じゃなくて乗り者か? まぁいいけど。
とにかく、これで見つかる確率も一気に低くなってくる。
「じゃ、乗らせてもらうぞ。六人だけど、大丈夫か?」
「大丈夫です。僕はのりものポケモンですから」
「そうか。じゃあ……頼むぞ」
俺たちはライラの背中に順番に乗っていくと、出発の合図をする。
揺れる波間、煌めく日差し、とか何とか言っちゃう俺。
まぁとにかく、準備は整った。
「よっし! さぁ、影滝島に向かって――出発進行!!」
「「「「おぉー!!!」」」」
「「おー」」
極秘の依頼、影滝島にあるレイヴン支部の調査。
俺たちは一丸となって、その調査を必ずやり遂げる。俺たちが揃えば勝てない敵なんて居ないだろう。多分。
……そして、再び悪夢が舞い降りる。
次回「影滝島上陸」