第二十五話 吹雪の島
バリヤードの話を聞き、半ば無理矢理に吹雪の島へ行くことになったエンジェル。後五分の法則と言う魔の手にかかりつつも、遂に吹雪の島へと――?
〜☆〜
――吹雪の島。
それは、ダンジョンの床が氷でできており、階を登っていくごとに吹雪の強さが増し……レイダースが苦難の末突破できた報告では、二十階では周りが見えなかったとか……メンバーも後ろにいる者しか見えなくて、やっと出られたと思ったらそこには大きなクレバスしかなかったとか……出口が複数あるらしいので、その中の一つにハッサムはいたのだろうか?
というか、二十年も前に行方不明になってたんなら死んでるだろうな。普通は。それこそ氷漬けで保存でもされていない限り。
……と、お喋り(?)が過ぎてしまったようだ。
「なに格好付けてんのよ。誰もあんたの思考なんて読めるはずないじゃない」
「それ言った本人が既に矛盾してるんですがねぇ」
「細かい事まで気にするからモテないんだよ」
「そこ! 五月蝿い!」
「お前も着実とレベルアップしているぞ? 鈍感スキルが」
「スキルレベルは100超えてるわね」
「それもはや廃人な件……」
100て……。
因みに、俺の力量≪レベル≫は50も行っていない。測定する機械があるわけないので、推測だが。
確かに解放すればレベルは上がらずとも攻撃力や防御力、素早さなどが上がるし、レベルだけ高ければいいという訳では無いが、それでもまだ最高レベルである100の半分にも達していない。
ほら、あれだ。技術だけ高くなってそれにレベルが追いついてないってやつ。
「ふっー……さて、いざ気合を入れなおうそうとしたら……寒さが今更になって感じてきたんだが」
「根性」
「気合」
「何とかしてね」
「ミル、お前の毛皮を俺にくれ」
割と本気で。
……さて、下らぬ茶番はここまでにして……行きますか!
「俺はこの探検で、生か死を選ぶことになるぜ!」
「ならないわよ」
「ならないよ」
「なったならそれで笑いものだがな」
「お前ら冷たいぞ!?」
そう、まるでこの吹雪の如く……あ、すいません。ちゃんと探検します。
〜☆〜
さて、吹雪の島一階の感想だが。
寒いな。尋常じゃないくらいに。まだ次の階段見つけてないけど、これが二十倍になるっていうなら俺は喜んで強制帰還スイッチ押すぜ。なぁに、心配は要らない。今後行かなければ良い話しだ。
「そんな訳にはいかないよ、ラルド。なんていったって、今日は私がラルドより優位に立てる唯一の探検なんだから!」
「殺す!」
「……あんた達、いっつもこんな探検してるの?」
「「当たり前だろ(でしょ)?」」
はぁ……、と頭を抱えてレインはその場に座り込んだ。
え? 俺たち何かした? いや、特に何もしてないと思うよ。いつもどおりの探検を……と、ミルと目と目で意思疎通をして確認を取ったが、なにも変わった天はない。
ならば、一体何が……?
「探検についてどれだけ危険か、とか調べてた私が馬鹿みたいじゃない」
「おいおい、どういう意味だよ。俺たちはとってもまじめに探検をだな……」
「いい? 本当の探検隊ってのは、普通は周りに気を配ってる物なの。罠とか、敵とか!」
「そうか? 俺たちも配ってると思うけどな……あ、ミル」
「“シャドーボール”」
とりあえず後ろから敵が着てるとミルにサインを送ると、それと同時に後ろを向いてシャドーボールを打ち出す。
その直撃を受けたいのぶたポケモンのウリムーは吹き飛び、目を回して倒れた。
「……へ?」
「凄いだろ。ミルと決めたサインなんだ。こうすると後ろから敵が、んでこうすると右後方から、で、こっちは……」
「……あんた達、目と目以上のなにかで語り合ってるの?」
いや、そんな大層なものじゃないぞ。
と、ミルと全く同じタイミングで言ったらまた溜息をつかれた。心外だな……。
「でもなぁ、致命的な弱点が一つだけあるんだよな」
「そうそう!」
「なによ?」
それはな……。
「ミルのお頭が悪いと言う点だ。それさえなければ完璧なコンビネーションプレイ的な何かを繰り広げられたはずなのに」
「さっきだって、サインとか関係ないんだよ。ただ後ろから音が聞こえただけなんだよ」
「……一瞬でも驚いた私が馬鹿みたいじゃない」
失礼な、これでも一晩寝ないで考えたんだぜ?
なんか、ほら、格好良くないか? 窮地に立たされたときに、敵に見えないようにサインをして指示とは別の動きで相手を倒すみたいな……あ、格好良くない?
「……茶番を繰り広げるのはいいが、もう少し周りに注意を払え。敵がいるぞ」
「本当? ……あ、本当だ。イノムーがいるよ!」
「イノムー……いのししポケモンね。ウリムーとタイプは同じだけど、レベルが段違いに高いわ。それに、“地震”も覚えてるでしょうね」
説明有り難うございました。やっぱり今まで俺が相手の情報が分かってたのも全部レインの知識のお陰か。
と、“地震”というのは広範囲にわたり強力なゆれを引き起こし、レベルが高い物が行うと直撃した地面はひび割れクレーターのようになるらしい。
とはいっても、本当に小規模なのだが。
「じゃ、さっさと倒しますか……行くわよ」
「私も手助けするよ。レインだけじゃ不安だしね」
「ちょっと、それどういう意味よ!」
ただ単に、今まで探検した事のないお前じゃ不安と言う事だと思うが……?
実際、ヒイロと引き分けたとはいえこいつはヒイロにとって技的にも戦い方でも天敵のようなものだからな。
「ふん、私の実力を見て、精々腰を抜かさないようにする事ね……!」
レインは自らの手に、自らが最も得意とするエネルギーを体中から掌へ集め、形成すると……一気に解きはなった。
「“水の波動”!!」
形成された窮状の水は、イノムーに直撃すると同時にはじけとび、イノムーを吹き飛ばす。こんな威力があるのはミルが文字通り“手助け”をしたからだ。
味方の攻撃と特攻を1,5倍にする、レインのタイプ的にいえば電気タイプなのでどうやっても無理なタイプ一致による威力倍加がミルによってできたような物なんだけどな。
レインはミルに手助けしてもらったにもかかわらずふふん、と上機嫌な態度で「どうよ?」みたいな態度だ。
うん、物凄いムカつく!
「そんな態度できるのかな? あれくらいの敵なら俺でも倒せるぜ? もっと格上を倒さないとな?」
「はぁ? ……いいわ、そこまで言うんならやってあげようじゃないの」
「やってみろ。っと、そんなこと言ってるうちに来たみたいだぜ、次の敵さんが」
「ギャアォ!!」
俺たちを襲おうとやってきたポケモンは……。
「マリルリね、みずうさぎポケモン。最終進化系と言う事でその水系攻撃も一段と威力を増している……いいわね、このポケモンを倒せば私のレベルは鰻上りよ!」
「そこまではいかないだろ」
だが、自分よりもレベルが上の相手と戦ったら凄い量の経験値がもらえる。いや、実際はレベルが低いからなのだが、今絶賛レベル上げ中のレインにとっては申しぶんない敵だろう。
ちなみにレインが繰り出せる電気技は最高でエレキボール(一mくらいで消える)だ。うん、はっきり行ってこいつに電気技の才能はない!
……が、電気を使えないピカチュウってどうよ。ってことであの電気を伝授した。
「一撃では倒せなくても、何回もやれば……!」
バッグから鉄のトゲを数本取り出すと、右手でトゲを持ち、投擲の構えをとる。
だが、レインはレベルも低く、筋力もあまりないひ弱なピカチュウだ。レベルは25くらいは行っていると思うが、それでもまだ弱い。
だから俺は、筋力など関係ない。あくまで科学的な投擲方法を伝授した。
「いっけ――」
投げるときの体勢は勿論だが、それ以上にこの投擲方法は重要だ。
なんせ、ただこめればいいというものじゃない。反発する力が均等になって初めて撃てるのだから。
さて、ここまで言ったら分かる人もいるんじゃないか? ……そう、その超次元的な投擲方法とは!
「――“電棘”!!」
NとSの電気を利用した、電気同士の反発。
それが俺の伝授した反発する電気……そして、そこにレインの悪知恵が働いた結果がこれだ。
鉄のトゲにN、もしくはSの電気を流し込み、そしてそれと同時に同じ量のN、Sの電気を手にまとい投げつける。
少しのずれなら問題ないが、大きくなってくると狙いがずれる。
「ギャア!!」
そしてその直撃を受けたマリルリは……少し怯み、そして刺さったトゲの痛みで更に怯むが、致命傷にはならなかっようだ。
が。
「まだまだよ!」
「ギ、ギャ、ギャア!!」
連続で放たれる鉄のトゲに、さすがのマリルリも耐えられはしないらしく……十発でようやく倒れた。
「ふぅ……ああ疲れた。やっぱりレベルが低いと鉄のトゲも多く使う事になるわね」
「ピカチュウの賢さの一つに、ごうわんでもあればいいのにな」
賢さ。
それはグミを食べると上昇する、一種の隠された力だ。
それが、グミを食べて賢さが上がるたびに、その力が目覚める……と言うと、すごそうに感じるがそこまで凄いわけじゃない。
ちなみに賢さごうわんは、投擲道具のダメージを1,5倍にする賢さだ。
「はぁ……もっといい種族になりたかった。幾ら魂がピカチュウになってるからって、体までピカチュウになるなんて酷いじゃない」
「離れていても心と体は繋がってるんだな。……ということは、体より先に魂が俺の中に入ったってことか」
幾らなんでも、時の回廊を出てから体が変化するなんて奇妙な事態にはならないだろう。
……そして、沈黙。
「……不味い」
さて、ここで質問。
人ってさ、無言になったら周りに集中が行くと言うか、意識をするだろ? 今まで話に夢中になってたのが、いきなり無言になって、それで初めて「そういえば寒いなぁ」って感じる具合に。え? そんなことないって?
……まぁ、俺はそれに当てはまるんだよ。……だから、急に無言になったためか……。
「寒い! 寒さが気になってしょうがない!」
まだ比較的おとなしいとはいえ、吹雪は吹雪。寒くないわけがない!
冷たい風に冷たい雪。そして止めを刺すかのように吹雪。
すいません、降りていいですか? と思わず敬語で、しかも本気で言いたくなる。
…………。
あれから一時間。
既に階数は十五まで行き、レイダースの報告によると後五階らしい。
だが、幾ら一年も経たないうちに急成長し、一時期中央都市は勿論、他の町でも有名になり、本人たちの知らない所で隠れファンができたエンジェルでも、この過酷な環境は厳しいだろう。
何せ、彼らには致命的な弱点がある。解放も使え、メタグロスやフーディンなどのポケモンには遠く及ばないものの並みのポケモンよりは賢い頭脳をもってしてでも。
なにより彼らはまだ子供なのだ。
ラルド十四歳、ミルも十四歳、フィリアも十四歳、ヒイロも十四歳。但しシルガとレインは十五歳。
人間でいえばまだ中学生で、体が出来上がっていく途中……つまり、発展途中の体なのだ。しかも、完全に体が出来上がるのは人間で言う高校生を卒業する頃でなければならない。
が、ポケモンのポテンシャルは恐ろしい。十六歳にもなれば、体はもう出来上がっているだろう。
「寒い……寒い……」
「死ぬ……脳が凍って死ぬ」
「こ、この寒さはさすがに……寒ッ!?」
「……はぁ」
が、それにも達していないのだ。
かの有名な探検隊レイダースも、名が売れ始めたのは十七、八とこの世界基準で言えば物凄く早い時期で、あれから五年経った今ではもう二十を超えている。
「ごめんねレイン。私もう無理だよ」
「もう疲れたよ、パトラッシュ」
「寝るなー! 寝たら私の水鉄砲を賭けるぞ!」
「やめて死んじゃう」
そんな条件の中、エンジェルはいつものペースを崩すことなく。
今日も死と隣り合わせの探検を送るのであった。
〜☆〜
そして、あれから一時間。
たった五階のために、ここまで時間を使うとは思っていなかったが、この島の環境を見れば早い方だと気付くだろう。
霧包山では霧に包まれていて見えなかった緊急脱出用の通路。今回は吹雪で見えなくて、その見えないのが階段と置き換えたものだ。
強力な吹雪のせいで前が見えず、頼りのミルもそこまで遠くは見通せなかったらしい。
だが、苦労の末やっと……二十階。
運命の分かれ道へとやってきたのである。
「……分かれ道は、五つ」
「うち一つは底が見えない程のクレバスが広がる氷の地」
「……情報によれば、クレバスが広がっているのは一番右らしい」
「なら、迷わず左だよね!」
「ストォープッ!!」
なんか迷う暇もなく一番左の道へと進むミルを俺は慌てて抑える。
考えても見ろ、ここからハッサムが居る所へたどり着ける可能性は4分の1。一つはずれが減ったのは喜ばしいが、それでもまだ四つも選択肢がある。
さて、どう選ぶ……?
「私は一番左!」
「私は一番右の、その隣ね」
「俺は左だ」
ここでいう左とは、一番左の右側の左である。ややこしい。
……残るは真ん中だが、これも望みは薄い。洞窟ならば外と繋がっていて空気の温度や風向きやらが中とは違ったものになってくる。
だが真ん中からは今俺たちがいる場所とほぼ変わらない風だ。何故分かる、とかいわれても反論できない。だって検証してでの確証一割、勘九割だしな。
「……俺は」
一番左、そういいかけたとき。
シルガの言った洞窟に、なにやら傷のような物はついているのを俺は見た。
「……? これは、まさか」
「え、ちょっと、シルガの言うとおりにする気!?」
「ラルド、正気なの!?」
「正気だよ。もし間違っていても、また帰ってこればいいだろ」
と、気軽に言うものの、それは不可能に近い。
この洞窟は、不完全な不思議のダンジョンのようなものらしい。一度抜けたら、元の形から別のものへと形を変える。
そのため、レイダースは探索を中止したのだ。本当かどうかは分からないけどな。
「……!」
そして近づいていったとき、俺は見た。
その傷が、丁度矢印のようになっているのを。
その傷跡が、なにか硬い物で抉られているような傷なのを。
「あれ……この抉られた後、何?」
「見事に矢印の形になってるわね。……見たところ、“メタルクロー”で抉られたんでしょうね。爪かなにかで削られたような後も残ってるわ」
見ただけで技を分析するなんて、さすがレイン。パネェ。
っと、ふざけてる場合じゃない。こんな傷ができるのはこのダンジョンにはいないだろう。鋼タイプの技なんて、使える奴はいない。
ならば可能性は只一つ、探検家ハッサムがつけた傷だ。
「よし! この道に行くぞ!」
「え、ちょ、本当に行くの? 罠かもしれないわよ?」
「無駄だよレイン。この目のラルドは、たとえ止められても行くよ」
「行くぞ! まだ見ぬ世界へ!」
右手を挙げ、胸を張って洞窟を突き進む。今までの探検が無駄じゃなくなると思うと心なしか嬉しくなってくる。
ラルドの歩き方も、スキップへと変わり始める。半不思議のダンジョンとはいえ敵の居ない洞窟など今までの探検と比べれば遠足のような気分にもなってくる。
「……出口か!」
そして、ようやく光が見え始めた。それは外が有ると言う事だ。
これで巨大なクレバスでした、なんてオチは洒落にならない。
因みにミル達はゆっくり歩いてきている。俺のスキップには着いてきていないのだ。全くノリの悪い奴らだなぁ。
「そんな事はどうでもいいか。出口が先だ!」
出口へ向かって走り出すその姿は、まるで無邪気な子供のようだ。実際、無邪気な子供なのだが。
と、そんな事を今のラルドが考えるわけもなく、笑顔のまま出口へと向かい、そして――
「――う、うおおぉぉぉ!!!」
――そこにあったのは巨大な尖った氷で周りを囲まれ、圧倒的な存在感を示す洞窟の入り口だった。
「凄いな……」
前に戦ったグレイシアの“永久氷壁”ほどではないものの、それなりの硬さの氷。それに囲まれた洞窟の入り口。それは存在感を放つには十分すぎた。
そうそう、グレイシアといえば。
あの後、俺達は連盟に連絡した。と言っても手紙だが、ペリッパーたちにかかれば半日も架からないうちに届く。
しかも俺が頼んだのはカイリュー便だ。音速の速さで飛べると言う彼らにかかれば、それこそ一時間で届いてしまう。
それで、連絡した内容がお尋ね者の捕獲だ。どうしてもお尋ね者を運べなかった場合にのみ連盟が捕獲してくれる。
が、あの場にグレイシア――アリシアは居なかった。
失神から立ち直ったとしても、体は満身創痍。回復道具もなかったみたいだから、回復はありえない。
現場にはなにやら引きずった後があり、途中で途切れていたそうだ。
「途中で途切れてるなら、やっぱりあのグレイシアが匍匐前進で移動でもしたんだろうな」
……まぁ、考えても仕方がない、か。
「やっとついた!」
「ふぅ、疲れたわね」
「……なるほど、氷に包まれた洞窟か」
「ん、三人とも、やっと来たのか」
遅かったな、と声をかけると、俺は直に前を向きなおす。
そこにあるのは一つのダンジョン、恐らく探検家ハッサムが挑んだであろう洞窟。
そして、俺たちエンジェルが挑もうとしている洞窟。
「……さて、と」
俺は深呼吸をし、後ろを向く。
見る限りでは、どうやら皆もやる気のようだ。
「まだここで外観を見ていたいとか、そんなのもあるかもしれないが……そんなのは後でもできる。今俺たちがやるべきことは只一つ!」
俺は右手を挙げ、そして大きな声で宣言した。
「――探検しようぜ!」
「「おおぉぉー!!!」」
「おぉ」
巨大な氷の洞窟に、探検家ハッサムと呼ばれるほどの実力を持つ探険家が行方不明になったダンジョン。
そんな場所に英雄たち――いや、探検隊エンジェルは挑むのであった。
次回「クレバスに潜む幽霊」