ポケモン不思議のダンジョン空の探検隊 エンジェル〜黒と白の12の翼〜







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第三章 秘密のランクと秘密の組織
第二十四話 探検家ハッサム
ヒイロとの激戦を繰り広げた日から三日。五人目問題など、色々な問題がある中、俺はいつもどおり現実逃避をして――?





〜☆〜

……現実逃避。
それは現実を直視できない者達が逃げ込む最高にして最大の言葉であり、そしてそこからニートや引きこもりになる人もいる。
俺は当然、アウトドア派だからそんな事にはならないけど……ほら、息抜きって大事だよな?
とりあえずいい報告は、なんとシルガさんが退院しましたー。パチパチパチ!!
……ええそうですよ、帰ってきた途端にヒイロと口げんかして亀裂が入りましたよ。しかもレインとヒイロの五人目問題もまだ解決してないんだよ!

結論、現実逃避するしか……ないよな?

「はぁ、“暴雷”を撃ちたい」

「手前達の店は壊さないで下さいね〜」

軽い忠告を受けてしまったが、侵害だな。俺はどこでも技を放ちたい狂人じゃないぜ? ただ雷によって破壊された地面や床をみるのもストレス発散に繋がるかどうかの実験をだな……。

なんて下らないことばかり考えていると、後ろから声が掛けられる。

「おや、君は“英雄”かい?」

「ん? ……あ、あんたか」

俺の目の前にいるのは……バリヤードだ。
パッチールのカフェにはよく来るのだが、ほぼ絶対と言っていいほどこいつはここにいる。毎日じゃないのかもしれないが、それでも俺が行くときには絶対に来ている。
そして話してみて分かったが、こいつは暇なときにパッチールのカフェで時間を潰し、本職は情報屋らしい。
だから噂や伝説、その他もろもろの事もよく知っているのだ。

「で、今回は何を聞かせてくれるんだ?」

「うーん……そうだ、最近耳にした噂なんだけどね」

バリヤードの話は、聞いていて面白い。別に普通の話をしているはずなのに、何故か興味をそそられる。
これが話し上手を極めた者なのだろうか。そうなのだろう。
そして今回もワクワクするような話が待っていた。

「昔、二十年位前かな」

「二十年前と言うと、世界の法律や有力者たちが大きく変わった時期だよな」

二十年前。
それは、各地の王などが大きく変わり、貴族などの者達も一緒に変わった……その時から丁度、救助隊や探検隊が一般的に知られた頃。
そして、中央都市ができた頃とのことだ。……バリヤードから訊いたんだけどな。

「そうだよ。よく覚えてたね……それで、その時期に名が広がりだした有名な探険家がいたんだよ」

「へぇ……どんな名前なんだ?」

「名前は“ブレド・インセクト”。種族はハッサムで、探検家ハッサムと呼ばれていたらしい。知らない人はいないんじゃないかってくらい有名だったらしいよ」

種族名で呼ばれる、か。
探検隊か救助隊でも、種族で呼ばれる探険家は少ない。なぜなら同じ種族のポケモンが山ほどいるからだ。
その沢山いる種族の中でも、とりわけ有名なポケモンのみが種族名で呼ばれるのだが……まさかそんなに有名な奴なのか。

「とは言っても、今じゃ知っている人のほうが少ないけどね」

「で? それがなにかあったのか?」

「そうそう。その探検家ハッサムの名が廃れた理由は、なんと突然居なくなっちゃったからなんだ」

「居なくなった?」

「そう。当時難関ダンジョンだった内の一つ……“吹雪の島”に挑んでね」

げ、と俺は反射的に声を上げてしまった。
吹雪の島は、強烈な寒さと強力なポケモンがいるので有名で、そしてなによりも階数が多いのが一番有名だ。
確かにすごいのでは五十階とかあるし、ゼロの島という所ではレベル1から九十九階なんて無茶苦茶なルールで挑むらしいから、それと比べると生易しいと言えるのだが。
ただそこへ行くにはダイヤモンドランクじゃないとダメらしい。しかも確実に突破できるであろうランクはスーパーからとか……それでもまだ見つかっていない場所も多く、噂では更にすごいダンジョンが抜けてから正しいルートを進むとあるとか。まぁ、複雑に別れているらしいけどな。

「凄い探検家だったらしいよ。弾丸の速度のパンチを繰り出し、本来低いはずの威力の技で相手をばったばったとなぎ倒す。……まぁ、それも特性“テクニシャン”のお陰だったんだけどね」

“テクニシャン”とは、本来低いはずの威力を、この特性を持つポケモンが使う事で威力を上げる事ができるのだ。
加えて、弾丸の速度と同じと言われる、恐らく“バレットパンチ”を主に使っていたとは。流石有名なだけある。

「で……どういった用件で?」

「そこのダンジョンに行ってみないかい? 場所も教えるし、なにより探検家ハッサムにはなにか特別なランクが与えられているらしいよ。そして、それを譲渡する権利も、ね」

「……はぁ、お前って交渉のセンス絶対にあるよな?」

「これでも昔は、そこそこ名の売れた商人だったからね」

商人って、しかも名が売れてたのかよ。
言わずもがな、商人と言うのは駆け引きが最も重要となる職であり、また駆け引きを有利にする為の状況に合わせての言葉が大事だ。
不利な条件下から一発逆転の交渉術、いやぁ俺には無理だね!

「はぁ、俺寒い所嫌いなんだけど?」

「大丈夫だよ。ほら、防寒具も用意してるし」

「……お前はどれだけ俺にその場所へ行ってほしいんだよ」

「ほら、浪漫があるじゃないか。それに、吹雪の島は年がら年中吹雪が続いてるせいか、国のトップレベルの探検隊……“レイダース”でも抜けるのは厳しかったそうだ」

「は? ちょっと待て、そんなの俺無理じゃないか?」

「大丈夫だよ。防寒具もあるし、なにより君達は世界を救ったんだよ?」

世界を救ったとかいわれてもな。俺はそんな世界を救ったと言えるほどの実力を持ってるとは思えないし。
ま、あれは俺の中では俺自身の力で世界を救ったとは言えないな。誰からの助けも借りずとかの意味じゃなくて、誰かから力を借りなきゃ世界を救えないわけだしな。

「ま、考えておく……ははっ、また厄介ごとが増えた」

「そんな意地悪いわないで欲しいな」

「ああ分かったよ、行けばいいんだろ? じゃあな、俺は戻るぞ!」

「あっ……炎タイプのポケモンがいるなら連れて行ったほうがいいよー!!」

「分かってる!」

炎、といえばヒイロしか居ないが……でもなぁ。

今のあいつが許してくれるかどうかが……はぁ。



〜☆〜



「嫌よ」

「でっすよねー!!」

いやぁ分かってた。わかってけどさ、希望くらいは持ってもいいと思うわけよ。な?
……今の状況、レインに頼み込んで断られた。実にシンプルで面倒くさい構図ですよ。というかなんでリーダーの俺が頼み込まなくちゃいけないんだよ。畜生……。

「だって、あいつ私と引き分けたのよ!? 対戦まで頭ねじ切れるんじゃないかってくらい作戦考えて、やっと引き分けに持ち込んだのに……あんた人としての自覚はあるの!?」

「しょうがないだろ! 吹雪の島は、俺だって知ってるくらいの難関ダンジョンだぞ!?」

「確かに世間知らずのあんたがそれほどまでに言うダンジョンなら、難関なのかもしれないわよ? でもなんであいつに先を譲らなきゃならないわけ?」

「俺が寒いの苦手だからだよ!!」

「ミル、“目覚めるパワー”」

「分かったー」

そこから先は、あんまり覚えてない……。
五分後、無事に氷の中から脱出できた俺は顔面蒼白だったらしい。よかった、春で。

「あんた、防寒具とか貰ったんでしょ?」

「貰ったけど、寒い物は寒いんだよ! 苦手なんだよ!」

「はぁ? ……分かったわ、あんたは私に打ち殺されたいわけね」

「そうは言ってない、ってうわぁッ!?」

意地と意地のぶつかり合いというか、片方は思い切り自己中心的な考えなのだが……レインは自分の技をラルドに向かって何発も打ち込み、その被害は基地内のメンバーにまで及ぶ。

「……おい鈍感鼠。貴様一体俺に何をした?」

「俺じゃないって、俺じゃ……」

「問答無用。そして悪霊退散」

「私もう幽霊じゃないわよ!」

そして始まる大乱闘。うわぁ、地獄絵図ってこんな身近にできる物なんだね。僕知らなかったよ!
……な? 現実逃避してもいいだろ?

「ラルド、諦めなよ」

「ミル、お前まで俺を」

「だって私、毛は一杯生えてるしね!」

「裏切り者オオォォぉぉ……」

そして更に飛び交う波動の嵐。レインとシルガの争いで地面は削れ、藁は一応飛ばないようにくくっているのだが、やはり技同士のぶつかり合いによる爆風には耐えられないらしい。
流れ弾も俺に当たりそうな……うおっ、危ねっ。

「お前ら……分かった、骨は丁寧に粉にしてあげるから……そこを動くなよ、性悪鼠に駄犬」

「しょ、性悪ってあんたねぇ……」

「駄犬だと? 鈍感鼠には言われたくはないな」

「俺のどこが鈍感なんだ? 言ってみろよ駄犬」

「気付いていない時点で貴様はもう鈍感だ、鈍感鼠」

「駄犬は駄犬らしく骨でも舐めてろ」

「鈍感鼠は鈍感鼠らしく、猫にでもやられてろ」

目と目だけで戦う駄犬と鈍感鼠、やはり昔から喧嘩してきたからか、目だけで互いの言葉が波動なしでわかるようになったらしい。
そしてその隙のない戦いに、性悪鼠は立ちすくんでいた。

「ね、ねぇ……こいつら、目と目で語り合う関係なの?」

「うん、少し誤りがあるような気もするけどね。まぁそんなものとでも思ってくれて構わないよ」

「おーい、メシできたぞー!! そこの駄犬も、さっさと黙ってメシ食え」

「貴様、俺に指図をするか?」

「あァ? ここの飯係は俺だぜ?」

「知るか。それはあの鈍感鼠……というか、戦闘狂が勝手に決めた事だろう」

「誰が戦闘狂なんだよ!」

冷静と熱血、正反対の二人が対立するのは考えていないわけじゃなかった。
人にも相性と言う物があり、今の所の力関係はフィリア、俺、レイン、シルガ、ヒイロ、ミルだろう。
え? なんでフィリアが一番上なのかって? ……お前はあれに逆らうつもりか?
因みにミルが最下位なのは触れないでおこう。

「あんたも大概、力関係では低いと思うけどね」

「いや、あの、俺リーダーだよ?」

「権力だけ振りかざしても、そこに本当の友情は芽生えないんだよラルド?」

「なんかミルにそれっぽいこと言われた。でも権力なのか、これ?」

「リーダーに命令されて仕方なく……しくしく」

「お前の嘘泣きはやめろ、扱うタイプがタイプだけに本当に涙なのか分からなくなる」

そうだ、レインは性悪であり、ゴーストデビル。嘘泣きも上手い。もし二つ名がつくとしたら俺は性悪鼠か嘘泣き鼠をあげたいと思う。
ネーミングセンスがないって? ははっ、自覚済みだよ!!

「……君達、仮にも食事の合図がきた時なんだよ。少しくらい大人しくしようとは思わないのかい?」

でた。
この中で最も常識人で、最も地位が高いツタージャのフィリアだ。
ただ、フィリアはシルガと論的な対決をしても敗れたし、いくら常識人とはいえ何故権力がここまで上がってしまったのか。
理由は二つ有る。
一つ目は先程も言ったとおり、常識的なことに関してはフィリアの右に出る物は居ない。シルガは異常だからな。うん。
二つ目は……ヒイロだ。
流石元婚約者と言うべきなのかはしらないが、こいつフィリアに対してだけは文句のもの字もない。しかもフィリアの敵になるものは全て斬るとか言い出す始末。

結果、優秀な常識的頭脳と意図も簡単に扱える仲間がいて、フィリアに逆らえる物はこの中にいなくなっていた。
しかもフィリアには、史上最悪の兵器がある。

「もし、食事中、もしくは……ありえないと思うけど、このまま言い争いを続ける場合、僕の試作品の睡眠の種がうっかりみんなの口に運ばれちゃう事になるんだけど、いいかな?」

「分かったぜフィリア!」

「分かりました逆らいません」

「うん、分かった!」

「……」

「いや、あの、すいませんでした」

流石だ、たった五つの種を見せただけでここまで人を従わせるなんて。
そこに痺れもしないし憧れもするわけがない! ただの恐怖による政治と変わらないじゃねぇか!

「はぁ……んじゃ、一斉のーで」

『頂きます!!』

やっぱり、食事の前にはこれがないとな。なんかマナー的に悪いよな。
それにしても、ヒイロの飯は美味い。自分自身で料理ができるとか言って登場したのは、どうやら慢心でもなんでもないようだ。
因みに昼食はホットサンドだった。突っ込みはしないでね♪ ……おえ。

「ふぅ……ご馳走様でした」

そしてあっという間に食べ終わる。材料にそれぞれの好みのグミを入れているせいなのかはしらないが、普段より美味しくなっていた。

「おう、片付けはやっておくから、置いておくだけでいいぜ」

「ああ、分かった。……じゃ、俺は準備でもするか」

「えー、食べ終わって直行くの? 私、まだ食べたいんだけど」

「御代わりは一応あるにはあるけどよ、お前じゃ直食べちまうんじゃねぇか?」

「失礼だよ! これでも私はレディなんだから、お淑やかなんだよ!」

「口に食べ物入れて喋ってた時点でどうかと思うぞ。後、食べ物入れてるくせに無駄に流暢に喋るな」

要らない所で無駄なスキルを上げるなよ。そんなのあった所で何の賞もメダルももらえないぞ。

「君たちに対する無視≪スルー≫スキルは日々鍛えられているんだけどね」

「ん? 何か言ったか?」

「いいや、別に何も」

はて、気のせいかな……今スルーなんて酷い単語が聞こえたような聞こえていないような気がしないでもない気が。
というよりフィリア、お前絶対に言ったよな?

「そんな事を言うからには、相当自信のある証拠と論があるんだよね?」

「え、い、いや……畜生!」

「流石フィリア! その知的な部分も凄ぇぜ!!」

おいそこヒイロ、俺に止めを刺すな。
……と、言ったようにヒイロはフィリアに絶対な忠実の僕となっている。下僕ではない所がフィリアの優しい所だよな、うん。

「……で、吹雪の島には誰が行く?」

最近、また懲りずに新しい技を開発したけど、役に立たないからなあれ……100000Pという莫大な出費を抑えるべく、前々から計画していた技だが、あれ鉄の箱? に入れなきゃならないしな。それに、俺の手をそこにずっといれなきゃ成らないんだが、俺自身がその熱に耐えられない。
結果、その新技は早くもお役ごめんとなってしまったわけだ。鉄に包まれてる場所でもないと使えない品。

「ヒイロは入れたいが……レインも入れるか?」

「そうよ。それでいいのよ」

ふふん、と途端に上機嫌になるレイン。
いや、ちょっと待て。あそこに行くならフィリアかシルガの方がいいじゃないか。

と、何故かミルは絶対に入れる事になっているという、如何にもラルドのさり気なすぎる鈍感がみれた所で、ラルドは一つの結論にたどり着く。
その結論とは、古来より伝わりし、今のポケモンの技術の基盤と言っていい人間でさえも使ったと言う……最高に運任せで公平な決める手段。

じゃんけん!

「さぁ、行こうぜ……俺はこの右手にすべてをかける!!」

「あんたリーダーでしょ。邪魔邪魔、あっち行った。しっしっし」

「ラルドは要らないでしょ。リーダーなんだから」

「副リーダーも必要と言えば必要なんだけどね。リーダーと違って一ヶ月に一度は変えられるけど」

「鈍感鼠はくたばっておけ」

「フィリアの言うとおり!!」

……ダメだこいつら。本気で俺を除外しに架かってる。
いいじゃないか別に。勝てる確率は変わらないだろうし、俺が勝っても意味ないだろ。負けても勝っても関係ないんだぞ?

「……ねぇフィリア。ラルドがなんか物々独り言いいながら、へのへのもへじ書いてるよ!」

「しっ、見ちゃダメじゃないか」

あるぇ?
と、俺に対する理不尽な暴力も幕を閉じ、遂に最高の対決が始まる事になった。

「さぁて。準備はいいかな?」

「ラルド、あんたうざいわよ。……いいわよ、いつでもかかってらっしゃい」

「ラルドが言い終わると同時に出すんだよね……緊張してきた」

「特殊なルールなんだね。まぁ、僕には勝利しか見えないけどね」

「手前ら、手加減はしねぇぞ! ……フィリアは特別だ」

「吠える事しか能のない蜥蜴は、おとなしく地面に這いつくばって四足歩行で歩け」

ルールは簡単、と言っても少し手を加えたけどな。
俺が「最初はぐー」と言ったら皆がぐーを出す、これは万国共通だ。
そし次に、「じゃーんけーん」と、無駄に伸ばして言う。ここまでは普通だ。問題は次だ。
最後の「ほい」のタイミングが誰にも分からない、俺の言葉の速度についてこられる物だけが初めて勝負の権利を得られる。
因みに制限時間は二秒。随分遅いが、勝負の権利ぐらいゆるくていいだろ。

あ、ミルは四足歩行だから声で言うんだぜ。

「じゃあ、いくぞ」

場には沈黙だけが静かに訪れ、そこには呼吸音、心臓の音などが微かながらも聞こえるだけ。後は互いの威圧感が漂う。
ある者は使うはずのない前足が振るえ、ある者は悪女の笑みを浮かべ、ある者は冷静な態度で、ある者は燃え盛る炎のオーラをまとい……というか本当に纏うな! やめろ!
……こほん、そしてまたある者は勝利を確定したような笑みを浮かべている。
では行くぞ。

「最初はぐー」

ここで皆がぐーを出す。普通ならみんなで言うのだが万が一……と言っても、ここで不正なんてできるはずもない。

「……僕はグーを出すよ」

おお? 心理戦か……まぁいいか。こいつに余程“忠実”な奴じゃない限り、こんな言う事を信じるわけがない。

「じゃーんけーん……」

ぐっ、と皆の緊張の高まりがピークに達する。全員が全員、硬直したように動かなくなる。
が、フィリアだけはまだ余裕そうにそれぞれの出そうとしている利き手を見ていた。

なんだ? なにかあるのか? ……いや、細工なんてしてないし、いいだろう。

「ぽー……」

ぽー、と言った時点で口を開いて声を出そうとした馬鹿が居たが、寸前で泊まってしまった。畜生、面白い物が見れると思ったのに。
まぁいいか。

「ん」

「「「「「!!!」」」」」

それぞれの利き手が一瞬で前へ出される。その間約一秒。
そしてそれぞれが出した手の形……と、声はどうなのか。それでは行ってみよー!!

「結果は……ヒイロ、パー。シルガ、チョキ。ミル、チョキ。フィリア、チョキ。レイン、チョキ」

「はァアァ!!?」

「一人勝ちじゃなくて、一人まけ……ぷっ」

「あァ? てめえ、やられてぇのか!?」

「抑えて抑えて。というか、お前も綺麗に一人負けしたな。なんでだよ」

「フィリアがグーを出すと言ったからな。悪いが利用しようと思ったんだが、これは予想外だったな!」

その後、なんとも豪快な笑いをした後「じゃ、俺は剣の練習でもしておくか!」などと行って出て行ってしまった。
因みにまだ探検隊に入ってはいないので、レインが勝ったとしても今日中にいけるかは分からない。

「さて、じゃあ次行くぞ」

「ふっふっふ、私は絶対に負けないわ」

「私だって、負けないんだから!」

「二人とも、静かにしなよ」

「……勝つ」

それぞれの意気込みは最高潮まで達している。
誰かが負ければ、その時点で終わりだ。それミルなのか、レインなのか、フィリアなのか、シルガなのかは分からないが……だが、次で決まるのは確かだ。

「最初はぐー、じゃんけんぽん!」

「「「「!?」」」」

四人の驚いた顔が見える。ふふふ、どうやらタイミングをずらして来ると思っていたらしい。馬鹿め、こっちだって対策がない分けないだろう。
急いでやったためか、全員がワンテンポ遅れて……最終的に勝ったのは、ミル、レイン、シルガの三人。
因みにフィリアは「普通に立っていたら勝っていたんだ……ぐー、ちょき、ぱーのどちらかを出すとき、そのどれかの形を出そうと手が動いた瞬間……ぶつぶつ」などと少し得な知識を得てしまった。

まぁ、兎に角。

「今回、吹雪の島探検メンバーは……ミル、シルガ、レインの三人と俺が行く事になった。ヒイロよりもレインの方が先に加入するけど……まぁ、いいか」

でも、あれ面倒くさいんだよな……。
この前、俺が世界に戻ってから一ヶ月くらいのときにエンジェルの人数報告をしに行った時の事だ。
俺やシルガが表面上は行方不明になっていたが、戻ったとの事で報告をしなければならなくなったのだ。
その一ヶ月の間はほとんどが探検の勘を取り戻すために探検に出掛けていたのだが、それも仮登録のようなものだったから行けていたらしく、正式に登録しろとのこと。
正直、プリルがやっていると思っていたのだが「ごめんねー、正式にはしてなかったんだー」とか何とか。

その時の質問が、面倒くさく……さっき言った誰が仲間になるのか、は正式登録するシルガと俺で、そのときは前借じゃないのでそれは言われなかった。ただ、確実に言われるだろう。

「じゃあ、今から行くか……ペリッパーの所に行けば、渡してくれたっけか」

ペリッパー郵便局。
様々な手紙を各地へ送り届け、時には大陸横断なんて無茶な事もするらしい。
まぁ、当然お金は掛かる。距離に応じて増えていくのだが、探検隊加入書は探検隊連盟が半分負担してくれるらしく、あまりかからない。
それでも1000Pはかかるんだけどな。林檎をざっと四十個分の金額。
確かに、東の方にあるこのトレジャータウンは、中央都市からも結構離れてるんだけどな。
因みにトレジャータウンは西と東で別れており、今俺たちが持っている世界地図も東半分の地図だ。西で有名なギルドは様々あり、中にはプリルと互角に近い実力を持つものも多数いる。というかギルドマスターランクは皆、それほど実力は離ていないらしい。

「行ってらー」

「ああそうだ、レイン。あれ実戦で使ってたけど、ダンジョンでも使うのか?」

「うん、そのつもり。私の実力はこの中でも最低だけど、あれがあれば結構活躍できると思うからねぇ」

「おばさんっぽく言うな、お前は」

「なんですって? ……まぁいいわ。じゃ、有りっ丈の鉄のトゲを買ってきて」

「ちょ……ああ、これでまた資金が減る」

「100本くらいでいいわよ」

高ぇよ! という前にレインに「さっさと行った!」と言われる。おい、可笑しい。俺の強化ガラスのハートに罅が入っていくんだが……?

「ラルド」

「おお、ミルか」

ミルは、ミルは俺を攻めないよな……? あぁよかった。これで俺のハートも超回復――。

「私にはスペシャルリボンを買ってきてね♪」

――パリーン。
そんな音が鳴ったと錯覚したと同時に、俺は泣きながらエンジェル基地から出て行った。



〜☆〜



後日。
加入書を死ぬ気で書いて送ってもらった頃にはとっくに夜だった。
七時を回り、帰ったときには皆が皆、寝息を立てていた。
お腹すいたなぁ、とか、眠れないなぁ、と思いつつ、眠りに就いたときには……加入許可証が届く頃。とどのつまりが朝だった。

「……不味い、三時間しか眠れなかったんだが」

「ラルドなら大丈夫だよ、あはは」

時刻は九時。
ミルが自分の感覚で早起きと感じる時間であり、普通ならとっくの昔に朝食を食べ終え、探検に行くための準備、もしくは休憩を既に終えている時間帯だ。
そんな中、俺は夕食も朝食も食べれず、三時間しか寝ていないと言う最悪の事態に陥っていた。

「朝食は簡単な物で済ませたよ。一応作り置きもしてあるし、今からでも食べたらどうだい?」

「ああ、そうするよ……」

そうして俺は、ラップというもので包まれた作り置きの料理を食べる。ああ、米があるっていいよな。人間の時の数少ない記憶の中でも、米はよかったな。
沢庵と一緒に食べるとなおおいしい。ただ、沢庵はないけどな。流石人間だ。俺の記憶の中にある食事を、滅んでまで後世に伝えてくれる。そこに痺れる憧れるゥッ!!

「……で? いつ行くの?」

「そうだな。できるだけ早く行ったほうがいいし……ふぅ、十時くらいでいいんじゃないか?」

最後の一粒まで食べると、水を飲んで食べ終える。あ、米だけじゃないからな?
ちなみに、この世界にも魚や肉の元は存在する。……肉の元って表現したのは、ほら、魚と違って同種だから、さ?

「そういや、モーモーミルクあるか? 朝の目覚めには丁度いいだろ」

「湧き水でキンキンに冷やしたのなら。ほら」

「さんきゅ」

モーモーミルクを投げ渡された俺は、思わず手から離しそうになる。
冷たすぎるのだ。幾ら湧き水が冷たいとはいえ、ここまで冷えるとは。これは、飲んだらどうにかなりそうだな。
と思いつつ、ごくごくと一気に飲み干す。モーモーミルクとはミルタンクというポケモンから取れた牛乳であり、美味しさは人間でさえも好んで飲むほどだったらしい。確証はないだろうが。

「ぷはぁ。美味かった」

「どう、これで少しは目覚めたかしら?」

「ああ、今から寒い所行くのに、冷たい牛乳飲むのは何かある気がするんだけどな」

例えば冷水を頭から被る事になるとか、真っ白な雪が大量に降り注いでくるとか、まぁそんなことが起きたら間違いなく直に逃げ帰るけどな。
あ、リーダーバッジはもう治ってるからな。ついでにもう壊れないようにしてもらった。
それでも余程の衝撃を与えない限り壊れないだけで、技の直撃なんかを受けたら少し凹むし、あのグレイシアレベルになってくると即破損だな。

「それでも凄いんだけどな。科学の力ってすげー」

「遂に狂っちゃったか。まぁその兆候はあったけどね」

「ラルド、頭大丈夫?」

「なぁ、これって虐めだよな? な?」

……まぁいいか。
さて、と。時刻は九時十五分。計算すると、後四十五分は眠れる事になる。とは言っても、一度寝たら四十五分じゃ足りなくなって後五分法則の罠に嵌ってしまう!!

「……じゃ、ミル、シルガ、レインの三人は探検に向けて準備! フィリアはごろごろ過ごしてもいいぞ!」

「いや、僕は調べ物でもしようかな」

「そうか……なら、吹雪の島突破を目指して……三人とも、頑張ろうぜ!!」

「「おおぉー!!!」」

「……おー」

かくして、探検隊エンジェルによる吹雪の島の攻略が、幕を開けたのだった。



ちなみにその後、ラルドが後五分の法則に嵌ってしまったのは言うまでもない。



次回「吹雪の島」

■筆者メッセージ
遅れすぎましたがなんとか投稿!最近本格的にヤバイ…。

次回「吹雪の島」お楽しみに!
ものずき ( 2013/05/05(日) 21:43 )