第二十三話 炎の剣士と雷の拳士
いきなり現れ、いきなり勝負を突きつけてきたヒイロ。始めは断っていたはずのラルドだったが、何故か戦う事になり――?
〜☆〜
ここは海岸。ミルと俺との思い出の場所。
ミルと出会い、そしてまた出会った。『俺』の中での一番の宝物だ。場所が宝物、というのもおかしい物だけどな。
そして、そんな宝物で……俺とヒイロは戦う事になったのであった。
「ルールは簡単だ! どちらかがまいったって言うか、戦闘不能まで陥る!!」
「あぁ、いいぜ。精々泣き言言わないようにしてくれよ?」
「それはこっちの台詞だぜッ」
勝負、というのはこの世の中珍しくもなんともない。
ダンジョンの敵以外と実力を確かめ合うために戦ったり、時には公式の大会が開かれたり、と様々な分野でバトルというものは取り入られている。
簡単に言うと力比べだ。
勿論、それにもルールはきちんと存在しており、一般的なのは相手が戦闘不能になるまでだ。
どちらかが死ぬまで戦う、なんてのが存在してると風の噂で聞いたこともあるが、どうせ裏の組織とかそんな感じの奴らが主催なのだろう。
「はぁ……あんた達、本気でやる気なの?」
「勿論だ。こいつには、ちょっとお灸を据えてやらなきゃいけないみたいだしな」
「はっ! それはこっちも同じだぜ英雄。ちょっと焼きいれてやるから、覚悟しとけ!!」
ヒイロは二本の剣を背中に背負った鞘から引き出すと、それに炎を纏わせる。
「なるほど、両方の剣に炎を纏わせられるのか」
「ああそうだぜ。俺の一族に伝わる剣と、中央都市一番の鍛冶屋に頼んで造ってもらった、世界最高の剣! 俺が負けるなんて、ありえない話だ!!」
「それは分からないぜ?」
あっちも炎を纏わせるのならば、こっちだって準備はする。
俺がその技名を言い放つと、体が少し青白く光っていき、体から常時発生しているはずの静電気さえもが出なくなる、
“超帯電≪ボルテックス≫”だ。
「手前も、準備は整ったみたいだなァ!」
「ああ、おかげさまでな。……さて、と」
ラルドは両手に雷を纏わせると、左手をヒイロに突き出しこういった。
「下らない言い合いは終わりにして――バトル、しようぜ!!」
「おぉッ!!」
その合図とともに、ヒイロとラルドは互いの元へと飛び出していった――。
〜☆〜
「“雷電パンチ”!!」
「“十字火”!!」
超帯電状態で溜められた、強大な電力から繰り出される“雷電パンチ”。それと同時に二刀による上から下へ、左から右へと繰り出される十字架型の斬撃がぶつかり合う。
それが激突し、小規模の衝撃波があたりを襲う。すると両者は一旦距離をとり、今度はヒイロによる炎の渦に仕込まれた飛ぶ斬撃。“炎の斬波”がラルドを襲う。
「“電撃連波”!!」
が、ラルドもそれをただで食らうはずもなく、五つの電撃波によりそれは相殺される。
「くそっ! “火柱”!」
「今度は極太の炎の斬撃かよ……“十万ボルト”!!」
二刀から放たれる極太の炎の斬撃と、十万ボルトがぶつかり合い、両者の技は雲散する。
「あぁ、くそッ!!」
「……」
両者の技の威力は、ほぼ同じ。
ならばどうするか? ここでミルならば、変則的な動きの技で相手を追い詰めるだろう。フィリアならば、お得意の素早さで攻撃をすり抜けるだろう。シルガならば、攻撃を避け、その隙に攻撃するだろう。
ならば、俺はどうなのか?
「……簡単だ、真正面から殴り飛ばす!!」
「やれるもんならやってみやがれェッ!!」
ラルドは右手に雷を、ヒイロは一本の剣を鞘に収め、一刀に力を込める。
「“爆雷パンチ”!!」
「“爆炎切り”!!」
強大な雷の拳と、強大な炎の剣が、真正面からぶつかり合う。当然先程のような小規模の衝撃波で済むような威力ではなく……辺りの砂を吹き飛ばす爆発が起きる。
そんな爆発の中で、体重が軽い二人が吹き飛ばされないはずもなく、そのまま砂浜へ背中を打ち付ける事となる。
「がっ……痛ぇな、こんちくしょう」
「へっ、これくらいで痛がるなんて、随分と気楽な修行を送ってきたんだな」
「なんだとッ!?」
俺が挑発すると、ヒイロは怒りながらも直に起き上がる。俺もそれに続いて起き上がるが、あいつに傷はみられない。
一方こっちは、何故か砂のつぶてが俺を集中狙いして、しかも落下地点に石があったために背中が猛烈に痛い。
これが運の違いだというのか、やっぱり今日は不幸だ。
「まぁいいか……さて、と」
実力的には、ほぼ同じだ。
ただし、向こうのほうが力が強い。今まで二刀だったから普通に拮抗できていたのかもしれないが、一刀になった途端に馬鹿力になっていた。
いや、二刀にかける力を、通常の人の一刀並みにする為にあいつも修行したのだろう……そして、その結果がこれだ。
「なんていう力だよ。鉄も切れるんじゃないのか」
「当たり前だッ……鉄は切れるが鋼は切れねぇ、が今の俺の実力だ」
「弱いな」
「あぁ!? 手前、今なんて言った!?」
その言葉で、文字通り火がついたようだ。主に剣の方が。
一刀を両手で持つと、直後剣に風が纏う。しかも並大抵の風じゃない。
「俺の強さ……見せてやる!!」
そのまま風を纏う剣を振り下ろすと、少し遅く風の斬撃は砂を切り裂きながら俺の方へと向かってくる。
どうやら飛行タイプの技のようだ、が。
「俺に飛行タイプなんて、効果はいまひとつだぞ?」
電気と飛行じゃ、飛行の方が相性が悪い。恐らく“エアスラッシュ”だと思われる風の斬撃は、ラルドの“エレキボール”により相殺された。
「くそっ、よりにもよってエレキボールなんて覚えてやがったのか手前!!」
「当たり前だ。俺のレベルで覚えていない方が不思議だろ?」
エレキボールとは、その名の通り電撃の球である……が、少し特殊な技であり、相手より素早さが高ければ高いほど、その威力も増していく。
更にピカチュウには相手の動きと素早さを制限する麻痺状態に陥らせる“電磁波”と“高速移動”を覚える。
加えて、ラルドには“電気活性≪アクティベーション≫”があるのだ。
(素早さに関しては、あいつよりも格段に上だ……見極められるかはともかく、エレキボールの威力を底上げすれば……!)
勝てる、俺はそう確信した。
あいつは見たところ、パワータイプだ。素早さはそこまで高くはない。これで空を飛べるリザードンになったらそれこそ終わりだが、ヒトカゲじゃそこまで怖くない。
なによりもヒトカゲとピカチュウじゃ、素早さの基礎からして違う。
「そこを動くんじゃねぇぞ!! “火焔霊”!!」
「“高速移動”!」
俺が“高速移動”をすると同時に、ヒイロは“火焔霊”と言う技を繰り出してきた。どうやら前に戦った鬼火みたいな技を強化した物みたいだ。
「よし、これで……」
エレキボールの威力もアップした、と言いかけた所で、ヒイロが剣を鞘に収めた。
「……?」
「不思議そうに見んじゃねぇ!」
なにやら叫んでいるが、俺にはそれよりもその行動に疑問を感じる。
奴の攻撃の主力は剣だ、恐らく二刀をあれほどまでに扱える馬鹿力があるので、拳だけでも十分だとは思うが、それでも俺の方が武器なしには慣れている。
ならば、何かの技の予備動作だろう。
「そんなもの、阻止してやる……“十万ボルト”!!」
「“火炎放射”!!」
電撃と炎、二つの技はぶつかり合い、小規模の爆発を引き起こす。そのせいで煙が立ち込める中、その煙の中に突撃するほど俺も馬鹿じゃない。
だが、この時突撃していたらあんなに苦戦する事は無かっただろうと後の俺は思っていた。そんな事、今の俺が知る由もないが。
「……? 太鼓の音?」
どんどんどん、と太鼓の音が煙の中から鳴り響く。
前までならその正体も直分かったが、それはレインの魂が居たおかげだったようで、今の俺にはなにがなんだかさっぱり分からない。
「……あ、これは不味いわね」
と、なにやら外野のレインがつぶやいた。おいそれどういう……。
「――おっしゃぁ!!」
ドン! と一際大きな音が鳴り終わると、煙が晴れて中からヒイロが出てくる。が、少しも変化した様子はない。
「おいヒイロ、お前何をした?」
「そんなモン、自分で考え……」
再び二刀を鞘から取り出し、剣を交差させると――
「“火切”!」
「……なッ!?」
――一瞬で、間を詰めてきた。
「ぐあぁッ!!」
「俺からの第一撃だぜ、ありがたく受け取っときな!」
そのまま炎を纏った刀で切られる。それも、並大抵の攻撃力じゃない。
「これは……まさか、“腹太鼓”!?」
「正解ィ!!」
俺が正解の技を言うとともに、剣を振り下ろしてくる。が、さっきのような状況でもない限り食らうわけがない。
(“腹太鼓”ってことは……なるほど、それでさっきも)
腹太鼓とは、自らの体力を半分も削る代わりに、自らの攻撃力を底上げすると言う技だ。
攻撃力、つまり力を底上げするのでスタートダッシュもより早くなり、素早さを上げる技じゃないものの脚の力も上がるので、ちょっとは早くなるだろう。
「ちっ……痛いじゃねぇか、この野郎!!」
「あぁん? 油断した手前が悪いだろうが!!」
再び先程の技、“火切”を放ってくるが、それはもう見切った。あ、いや技の方の見切るじゃないぞ?
「ぐっ……血が流れるじゃねぇか」
相手の武器は剣だ。当然切られたら血も流れるし、肉も切られる。それは通常よりも早くスタミナを減少させて、更に疲労が増す。
正に、原始的かつ強力な武器。それが剣だ。
「でもな、俺もただでやられるわけじゃないぜ?」
「はっ! どの口がそんな事を言えんだよ!?」
そういい、“火焔霊”を放ってくる。が、幾ら手負いとはいえそれを避けられない程ではない。
そして回避と同時に、一旦バックステップでヒイロから距離を取る。
「この糞野朗がッ……ちょこまかと動き回りやがって!!」
「おいおい、沸点低すぎやしないか? ……まぁいい」
相手は“腹太鼓”で攻撃力が底上げされ、恐らくだが高速移動や電磁波、“電気活性≪アクティベーション≫”を重ねがけしても相殺される可能性が高い。
ならば、今こそ“アレ”の出番だ。
「でも、あれは発動時の隙大きいからな。あいつの動きを止めておかないと、なッ!!」
俺の頬にある電気袋が今までにないくらい青白く光る。それは、溜め切れない程の電気が溜まった証拠だった。
俺は両手をヒイロに向けると、巨大な雷球を二つ作り出し……。
「食らえよ、最大火力……“暴雷”!!」
それを解き放つ。
暴れ狂う雷は、しかし少しの狂いもなくヒイロへ向かっていく。その威力は解放をしていない状態のラルドが放つ、最高の攻撃だろう。
当然、ヒイロもそれを相殺するために隙ができる。
「そんなモン……“火竜砲”!!」
ヒイロの方も巨大な炎の斬撃を放ち、相殺を試みる。が、やはり電気タイプの中でも最強の一角の技“雷。しかも二つと来たものだ。そう易々と相殺されては困る。
片方の雷撃は相殺したものの、もう片方の雷撃がヒイロを襲う。その時に響いた雷鳴は砂浜の砂を軽く吹き飛ばすほどのものだった。
「ごっ……があぁぁ!!?」
幾ら解放をしていないとはいえ、通常のポケモンは解放すらできない。事実上、これが俺が普通に出せる最高の攻撃だ。
そしてその片方が、見事に直撃した。
「よし、今のうちだ」
そんな中、俺はヒイロが今いる――俺が昔、気絶していた場所より少し後ろ――から二十歩離れた場所にいた。
体の力を抜き、しかし電撃は常に全開にしなければならない。並大抵の集中力、技術力じゃ無理だ。なにより体が持たない。
「いくぜヒイロ。これが俺の新技……“電気活性≪アクティベーション≫――改”!!」
今まで青白く光っていた体が電気を纏う。しかも少し身に纏う雰囲気が変わったようにも思える。……が、それ以上の変化は見当たらない。
「――“エアスラッシュ”!」
「ははっ、やっと復活か」
実際、俺の技が完全に発動するまで十秒と少ししか架からなかったのだが、楽しいときの時間の過ぎ方は早く感じ、詰まらないときは遅く感じる。
そして、楽しみをまつ時間も遅く感じる。
とりあえず俺はそれを軽く避けると、ヒイロの方を向きなおす。距離が取れていたため軽く避けられたのだ。
「はぁ、はぁ……手前、良いモン持ってんじゃねぇか……」
「手前も、俺をこの状態にさせるに十分なものを持ってるじゃねぇか」
「違いねぇ」
あっさりと自らの実力が高いことを認めるその様は、ナルシストと言ってもいいかもしれない。いや、俺の方がナルシストなのかもしれないけどな。
「だが、それで俺をどうするつもりだ糞鼠。攻撃力MAXの俺に叶うとでも思ってんのか?」
「逆に言うぞ。お前は俺に叶うとでも思ってるのか?」
「なに?」
それはそうだ、あいつは攻撃力の上昇。俺は筋肉の強化。しかも電気活性≪アクティベーション≫の比じゃない。
物理的な攻撃力上昇と、生物的な攻撃力上昇。どうみてもこちら側が有利だ。
「はっ! ……ならその実力、見せてもらうぜェッ!!」
「来てみやがれ、二流が」
片方は二刀、片方は右手だけ。この状況は、ヒイロの馬鹿力をよく知るものならば、絶対にラルドが不利だと思うわけで……事実、今まで空気だったレインでさえも、ラルドの方が不利だと思った。
もっとも、ラルドはそうは思っていないらしいが。
「二刀流、秘儀――」
「“爆雷――」
そして、ヒイロの二刀流の秘儀と、強化されてから初めて人に撃つ、ラルドの技が……。
「――“火神楽”ァッ!!」
「――パンチ”!!」
ぶつかり合う。
その時に起きた衝撃波は、今までの物とは比較にならなかった。
二人が激突した場所にあった砂はほとんどが吹き飛び、流砂のように戻っていく。
周りにあった木も少し揺れる。が何より吹き飛んでたのは中心地に居た二人だ。
ヒイロの方は海岸の洞窟の入り口まで吹き飛ばされ、ラルドに居たってはクラブが現れる崖の方まで吹き飛ばされていった。
当然、近くで二人の戦いを見ていたレインも吹き飛ばされるが、近くとはいえ崖よりも向こうに居たためか、転げるくらいで済む。
「……ふぅ、疲れた」
「がっ……ごはっ……!?」
そして二人は、ラルドは無事だがヒイロはダメージを食らった、だ。
幾ら二刀で力が分散しているとはいえ、ヒイロが秘儀とまで言う“火神楽”という技を片手で相殺、しかも相手に大きなダメージを与えたのだから。
「剣を巨大な炎で纏い、斬る、というよりも焼き切ることに特化した技か。なるほど、電撃に守られていなかったら俺の手は今頃取れてただろうな」
「くそっ……手前、なにしやがった……ッ!?」
「ん? ただ、筋力を最大限まで高めただけだ」
筋力を刺激し、身体を活性化するという技“電気活性≪アクティベーション≫”。攻撃力が6で、素早さが4上昇すると言ったらわかりやすいだろう。
ならば、攻撃力に全てをかけてみたらどうなるか?
それがこれ、電気活性≪アクティベーション≫改だ。
「素早さは4から上は無理だし、実質速さを捨てたってことになるけどな。全く、どっかの山で「素早さも必要」とか言ってた俺をぶちのめしたいぜ」
無論、空の頂きで、である。
「さてと。ヒイロ、お前はこれでも俺に叶うつもりか?」
「……ッ!!」
体力を半分削ってまで底上げした攻撃力を、こうも簡単に破られたのだ。悔しくて、自分の無力さを思い知る。
だが見たところ、ヒイロにはまだ隠された力があるように思える。
理由? ……簡単だ、まだこいつがやられる前と目が変わっていないからだ。
「あァ……いいぜ、見せてやるよ。俺の、今まで誰にも見せてこなかった技をなッ……」
「当然、それくらいはしてもらわないと困る」
やはり、あったみたいだ。隠し技が。
しかも恐らく、俺のような技……自身を強化する技だろう。そうじゃなければここまで自信に満ちた顔はしない。
「行くぜ……“解放”!!」
「はっ?」
瞬間、ヒイロは赤い、真紅のオーラに包まれる。勿論瞳も真紅に染まっていく。
オーラが発生するときに、強力な衝撃波も発生したが俺はそれ以上に驚いていた。なににかって?
こいつが、解放を知っている事にだ。
「……どうだ! これが俺の最終兵器、“解放”!!」
「なっ……お、お前。“解放”って名前をどこで」
俺の場合は、レインが俺の体内に居たから分かった事で、しかもシルガも居たので知る機会は幾らでもあった。
だが、こいつは違う。一からこの技術を習得し、名前まで知った。
「あァん? ただの気まぐれだよ。俺の力を最大限まで引き出す……いや、解き放ってくれるだろ? だから“解放”だ」
「あぁ、そういうことか」
なんだよ、そういうことか……あぁ、吃驚した。てっきりこいつも何か関係があるのかと疑ったじゃないか。
……さて、ならより戦闘に集中しないといけないようだ。
(俺の知る限り、解放使用者を取り巻くオーラは、拳などに纏わせると纏った物を守ってくれる……当たり前だが、攻撃力も間接的に上がる)
俺も解放使用者だし、殴り合いの時には拳にオーラを纏わせるから、そこらへんのことはわかる。
……しかも、いつもは60%や70%の力で、30%くらい増えただけだろ? 大丈夫だ、って言えるレベルじゃないんだよなぁ、解放って。
「これは、俺もしたほうがいいか……?」
「あァん、手前何言ってやがる……それよりもだ、この状態の俺には……勝てねぇぜェッ!?」
ヒイロは二刀のうち、一刀を納め、その一刀を逆さに持つ。
その動作に、俺は反射的に電気活性≪アクティベーション≫を改から普通のものへと変化させた。
そしてそれは、どうやら正解だったようだ。
「喰らえ……“火斬”!」
「くっ!?」
下から上へと、空を切り裂くような炎の刀に、俺は反射的に後退することで避ける……が、そんな事はお見通しだと言わんばかりに、そのまま空振った反動を利用して鞘に収めた二刀目を引き抜く。
「もういっちょ、“噴火斬”!!」
「“高速移動”!」
一撃目はどんな技か分からなかったが、二撃目となるとどんな技かもわかっているために避けやすくなる。
寧ろ二撃目に火力が上がるような技は、あまり使えないだろう。特にシルガみたいな奴を相手にすると尚更だ。
「でも、まぁ……素早さが上がってる」
「当たり前だ! 今の攻撃も、よく避けれたもんだぜ!?」
「……これは、俺も久々に本気を出すか」
約三週間ぶりの、俺の本気。
正直、今の俺の実力はどうなっているのか……あの時のグレイシアの、最強の防戦を破った技も、あの硬い氷壁だから使えたわけで……ただのポケモンに当てたら、それこそ殺してしまう、なんてことにもなりかねない。この野朗に限ってそれはないと思うけどな。
「あんまり普段は使う事はないんだけどな、今回は特別だ。お前を俺の全力を以ってして倒す」
「はっ! なにがだ!?」
「……お前の使うその技術、使えるのは何もお前だけじゃないってことだよ!」
超帯電≪ボルテックス≫。
電気活性≪アクティベーション≫。
電気活性≪アクティベーション≫改。
解放。
俺が使える強化技を全て使わないと勝てなくなるほどに、こいつは成長した。解放を使えていなければ解放は使わずに住んだだろうが、それでもこいつは一般的には強い部類だ。寧ろ強すぎる。
「じゃ行くぜ、俺の全力……“解放”!!」
「ッ!?」
辺りの砂を吹き飛ばし、ヒイロをも怯ませるほどの風圧が発生する。それらは全て発動時のエネルギーにより発生した物だ。
そして、その中心地に居た者は、翡翠色のオーラに身を包み、同じく翡翠色の瞳を宿す。
これが俺、“エメラルド”の解放だ。
「さぁてと、ヒイロ君よ……お遊びもここまでにしようぜ?」
「……はっ、確かにな」
両方とも、感じていた。
恐らく今から五分もしないうちに、決着がつくであろうことを。
だから両者は今から手加減はせずに、本気と本気のぶつかり合いをする。
それは……少なくとも、レインからすれば別次元の存在だったであろう事を、後に聞かれたのはまた別のお話。
「行くぜ……“影分身”!」
「っ、陽動かッ!?」
まずは自分の分身を増やし、最終的には二十匹までに増やす。そうすることで俺の位置が掴みにくくなるため、攻撃を受ける心配も軽減する。
加えてあいつは馬鹿正直に攻撃するので、より心配も軽減する。
……そう思っていた自分が馬鹿でした。すみません。
「「「「“十万ボルト”!!」」」」
幾ら分身とはいえ、声を上げれぬ訳じゃない。二十匹の俺(その中の一匹だけが本物)から放たれる十万ボルトは、確実にヒイロを狙い打って……?
「はっ、そんなので怯むわけ……ねぇだろうが!!」
が、やはり解放使用者。一筋縄ではいかないらしい。
「“竜巻”!」
「なっ……うわぁっ!?」
二刀をそれぞれ左と右の横向きに持ち、自分自身が回転すると同時に振り回す。
するとどうだろうか、飛行タイプの技“竜巻”が発動して、瞬く間に十万ボルトを弾いていくではないか。
当然、その風力に分身たちが耐えれるはずも鳴く……ものの数秒で、全ての分身たちが消え去った。
「くっ……これは、ただの“竜巻”じゃないな?」
「あァ、そうだ。これは斬撃による竜巻だぜ! ……ま、風力もあるけどな」
やはりか、竜巻が起こった範囲の砂浜が切り裂かれたかのように穴が開いていた。直に戻ったのだが、ポケモンが繰り出す竜巻ではあんな威力はない。
「んじゃ、そろそろ最終決戦と行こうぜぇ……“逆鱗”!!」
「なっ、なんだとッ!?」
“逆鱗”。
体が壊れることもいとわず、相手が死のうとも構わず、ただ縦横無尽に暴れ続ける……多少リミッターをはずしているが、今のヒイロは既に全てのリミッターをはずしている。これは最高で最悪な……連撃技だ。
勿論、デメリットもある。それは使用後混乱する事だ。
「ぐ、ぐ……がああぁぁぁ!!!」
「ぐぅ!!」
狂喜乱舞。
今のこいつを現すには、十分な言葉だ。
狂ったように叫び、だが瞳には狂ったような喜びがある。そして繰り出される予測不能の斬乱舞。
正気をなくす事で、瞳や動作から相手が次の動きを予測するのを阻止する……それがこの“逆鱗”だ。
横、横、縦、下、右上斜め、左上斜め、そしてそれをまるでXのように上から下へと切り下げる。
俺はそれを何とか避けると、一旦距離をとる。
「ちっ……あの一撃さえ決まれば、絶対に勝てるんだけどな」
あの一撃、とは俺が電気活性≪アクティベーション≫改状態の時にだけ使える、力だけなら圧倒的にバーストパンチを上回る威力だ。
その名も“爆雷……うおっ!?
「あ、危ないぞ! お前は人の命をなんだと思ってる!?」
「うおおぉぉぉ!!!!」
暴れ狂うヒイロが繰り出す乱舞の太刀を、俺は全て紙一重で避ける。見切ると言っても、これを見切るにはシルガレベルでもない限り無理だ。
俺は見切る事に特化しているわけでもなく、というかほとんど特化してる点はない。
「このっ……“ディスチャージ”!!」
「があぁッ!?」
全てを巻き込む大放電、“ディスチャージ”。こういう一対一では本来あまり使えないのだが、こういう風に相手の攻撃を中断させると言う点では非常に優秀だ。
「がぁ……はぁ」
お、どうやら“逆鱗”が終わったようだ。
なら、絶対にあの状態……こいつを上手くいけば、楽に倒せる。“混乱状態”に陥る事になる!
「よし! 少々卑怯だけど、仕方ない事だよな」
「ぐっ……があぁぁ!!」
突っ込んできた。両手の剣に炎を纏わせ、右手を上に上げ、左手を右に向ける。最初のぶつかり合いのときに使った、確か“十字火”って技だな。
「おいおい……同じ技を、しかも混乱状態に使われるなんて、俺を舐めるなよ?」
「がぁッ!!」
そのまま上から下へ、右から左へ一閃。炎の斬撃はまるで十字架のように見えるが、俺はそれを上に跳んで避けると、“雷”を食らわせる。
混乱状態、それは一定の技を受ける、もしくは使う事でなる状態。頭を少し狂わせ、幻覚を見せるというものだ。
ただ、狂うだけなので最高でも三分で治るし、治らなくても狂いが元に戻る時もある。
「ぐおおぉぉぉ!!!?」」
「っち、まだ倒れないのかよ」
“腹太鼓”で体力を半分まで減らし、更に幾多もの激突や、攻撃を食らわせたはず。自然回復があるとはいえ、これは脅威の耐久力だ。
ただの負けず嫌いの線もあるのだが……まぁ、その線の方があると思う。
「でも、まぁ……もうすぐだな」
「ぐぅぅ……」
治るので、最短でも三十秒。そんな早く治る事はないだろう。
「さぁ、さっさと終わらせようぜ……“爆雷パンチ”!!」
迸る雷を手に纏い、ヒイロの方に向かって走る。幾ら奴でも、これをまともに食らえばひとたまりもないだろう。
なんたって、あのディアルガにも通った一撃だ。しかもあいつは混乱してるし、防御もできな――
「ぐ……はぁッ!!」
「!?」
い、そう思った瞬間にヒイロは剣を交差させて、俺の拳を受け止める。こいつの馬鹿力も相まってか、当たるときには雷パンチよりも威力が低くなっていts。
……え、これって、まさか。
「はぁ、はぁ……治ったぜ」
「はぁあ!? なんでこういうときに限って、三十秒で治っちゃうかなぁ!?」
いや、うん。俺だって薄々感じてたさ。今日最初に不幸だ、と思ってから二回目不幸だ、って思ったときにね。でもさ、少しくらい希望あると思いたいじゃん? ね?
結果、俺は今日不幸だよ! やったねアンラッキー!
「畜生……覚悟しろよ、テメェ」
「いや、なんで俺が逆切れされないといけないんだよ……だが、いいな。やってみろ!!」
「あぁいいぜ、二度と日の目を見れなくしてやるよ」
俺の筋肉を刺激する電気を操作し、十秒かけて“電気活性≪アクティベーション≫改”にする。
本当に微弱な電気を、微妙な変化を織り交ぜてやるからな。結構疲れるんだよ。
「さぁ……来てみろ、俺渾身の一撃を叩き込んでやる!!」
「あァ、いいぜ。……行くぞォッ!!!」
二刀のうち、一本を鞘に収め、その一本に最大級の炎を纏わせる。どういう原理かは知らないのだが、炎は瞬く間に剣を包み込み、やがて元の剣より一回り大きい炎の剣へと変化した。
「食らえ、俺の渾身の一撃!」
そうして、更に真紅のオーラを纏わせると――
「“三火突き”ィッ!!」
――三本に見える速度の突きを、俺に向かって繰り出す。
勿論、俺だって黙ってやられるわけがない。が、あの一撃を繰り出すために、これは避けられないのだ。
「くっ……ぐうぅぅッ!!」
できる限りの回避で直撃は避けたものの、炎が掠る。その際なにか焦げたような気がするが、まぁいい。
この一瞬を、俺は待っていた!
「うおらぁあ!!」
「な、なんだと!?」
突きを避けた俺は、俺の腹の近くにあった剣の柄を横なぎに振るう。するとヒイロは右手もいっしょに弾かれた事で、体勢を崩す。
そして真正面にヒイロのお腹!!
「喰らいやがれ!!」
“爆雷パンチ”と同じくらいの電撃を宿し、しかし込める力はその二倍。
その一撃は、弾丸の如し。
「――“爆雷バレット”!!」
「がぁぁあぁッ!!!?」
その直撃を受けたヒイロは、いとも簡単に吹き飛んでいき……そして、砂の上に落ちるときには、既に目を回していた。
ということはつまり、この勝負……俺の勝ちだ!!
「よっしゃぁッ!!!」
勝利の雄たけびを上げ、思い切り右手を上げる。あれだけ苦戦して。やっと勝てたんだぜ? 嬉しいだろ?
因みにその後、レインから五月蝿いと言われ殴られた。怒ってもいいよな? な?
〜☆〜
後日。
あの日の翌日、清々しい朝だ。こんな日には紅茶か珈琲を飲むに限る。いや珈琲は苦くて飲めないんだけどね。
まぁ、俺みたいな凡人は素直に水を飲んでおこうか。
「……で? なんでお前がここにいるんだ?」
「お前を倒すために、この探検隊に入らせてくれ!」
「……ラルド、これどういうことなの?」
「いや、分かるわけないだろ」
「私が基地内に入れたのよ。この馬鹿蜥蜴なら、即戦力になるでしょ?」
確かに。昨日の戦いで、俺を苦戦させた事は間違いないのだ。多分あれがなかったら負けてたと思う。
しかも料理は得意みたいな発言してたし、仲間にするには問題ない……が。
「すみません。剣収めてくれないですかね?」
「いつでもお前を倒せるようにだ!」
「物騒なんだよ! なんで憩いの場で戦わなきゃいけないんだよ!!」
「戦いは昔からやってきたことだ!」
「なぁ、俺リーダーなんだぞ? リーダーの言う事は聞こうぜ?」
「はっ! どうせ成り行きか、一緒の奴が頼れなかったんだろ!?」
「図星です」
「ラルド!?」
だってしょうがないじゃないか。あれだよ、あの時は夜に虫が耳に引っ付いたってだけで叫んだんだよ?
お陰で、寝不足の日が何度か続いたよ。
「……はぁ、分かったよ。仲間に加えればいいんだろ?」
「ああそうだ!」
「でもさラルド、加入書は一つしか毎月に配られないよ?」
「知るか。レインとヒイロが戦えばいいんじゃないのか?」
「はぁあ!? あんた正気? あんな化け物じみた、それこそあんた達化け物組と同じ様な力持ってるのよ!?」
「大丈夫だって。できる限りお前が有利のルールにするから」
いやまぁ、とっくに加入書は届いてるからな。特訓ばかりで送るの忘れてたよ。
「……じゃ、俺は寝るぞ」
昨日までずっと特訓続き、しかも昨日に関しては苦戦するような戦い。
更に不幸ときた物だぜ……ふぁあ。
ああ、眠い。
次回「探検家ハッサム」