第二十一話 新たな仲間はオレンジピカチュウ?
エンジェル全員が苦労して破った“永久氷壁”。それすらも上回る“絶対氷壁”に苦戦するも、『俺』の一撃により粉々に砕け散り――?
〜☆〜
……もし今の状況を現すのなら、一言で言うと「有り得ない」だ。
エンジェルの化け物組の一角であるシルガの渾身の攻撃、それでさえも少し大きな罅を入れる程度で収まった“永久氷壁”。
そして、それさえも上回る“絶対氷壁”を、目の前のピカチュウ――ラルドはいとも容易く、氷壁を打ち砕いた。手に電撃も纏っていなかったし、電気活性≪アクティベーション≫も発動していなかった。
だが砕いた。
「……ア、え?」
「へへっ、何でこうなったか分からないって顔してるな? 実際俺も考え付いたときは本当に出来るか疑ってたからな……タイミングが重要だしな」
と、非常に流暢に喋るラルドであったが、彼の右手は大きく震えており、あのパンチだけで大きな負担がかかったのだと一目で分かる。
というか実際、かかったのだ。
「ナンデ、なんで、“絶対氷壁”が……ッ」
「そう怖い顔するなよ。こっちだってそれ相応の痛みは感じてるんだぜ?」
解放という特殊能力が発動される際、使用者により違いは有れど爆発的なエネルギーが発生すると言うのは、シルガから聞いた。
なら、それを活用しない手はないだろう。
「唯一の欠点は、雷を纏ったり活性化も危険だから出来ない事だ。雷は纏おうがエネルギー発生時に雲散するしな。活性化は負担が大きすぎる」
そう、解放時の爆発的なエネルギーを使用した大技。恐らくどれだけ活性化しようと、エネルギーだけならば絶対にラルドでは追いつけない程の強さ。
そして、最高のリスクを負った攻撃。
「俺はどれだけ汚くても、仲間を守るためならどんな力でも活用させてもらう。最も、他人を利用するなんかはできないけどな」
「クソッ、私ハ、私は……“レイヴン”を守る、無敵の盾のはずなのに!!!」
「俺という無敵の矛があるのに、無敵の盾なんて存在するはずないだろ」
最強の、無敵の、英雄と謳われた者のいるチームでさえ壊す事が、壊す気力さえ起きなかった盾を、この英雄はあっさりと壊した。
だから、こんな事をも吐き捨てれたのだ。
「お前の氷がどれだけ堅くても、身体はそれほどでもないだろ?」
「ヒッ……ひっ」
「じゃあな。これで――終わりだァッ!!!」
右手がだめ、なら左手を使えば良いじゃない。
利き手である右手とは逆の位置にある左手、その左手に電撃を纏わせると、右足を大きく上げる。
そして――
「“爆雷パンチ”!!」
「あァぁア!!?」
――右足で地面を踏み、思い切り殴った。
「あ……!」
そのままアリシアは吹き飛ばされ、洞窟の壁へと思い切りぶつかる。
「……自分を鍛えすぎて、自分をを鍛えなかった事……それがお前の敗因だ」
エンジェルを打ち負かしたグレイシアのアリシアVS英雄エメラルド。
勝者――エメラルド。
〜☆〜
「ふぅ、疲れた。やっぱり慣れるには時間がかかるな、これ」
これ、というのは勿論“バーストパンチ”の事だ。この技は相手に触れると同時に力を解放すると言う、とんでもないタイミングが重要になってくる技なのでタイミングを合わせるだけでも難しかった。
それに、やはり解放の爆発的エネルギー発生時は身体が非常にデリケートになるらしく……まぁ、蛹に大きな衝撃を与える、とでも思っておいてくれ。
実際はそこまでじゃないものの、かなりの負担がかかる。
「爆雷パンチも、もう少し強化しないといけないか……でもあれで一応闇のディアルガにだってダメージは通ったんだけどな」
「……」
未だに口をぱくぱくさせているミル、そろそろ現実に戻ってきてもらわないとダメだな。
「おーい、起きてるか?」
「お、お、おおお起きて……る」
「大丈夫か? どうしてこうなった?」
「ら、ラルドがあの堅い氷壁を一撃で砕いちゃうからだよ!!」
「しょうがないじゃないだろ。砕いちゃったんだから」
右手による、爆雷パンチ以上のパンチ、それを思い切りぶつけてやったからな……欠点としては、あの状態ではどう頑張ろうと電気活性≪アクティベーション≫ができないってことだ。
ただの解放なら、それも大丈夫なんだけどな……。
「っと、それよりシルガ達を早く連れて行くぞ! バッジが壊れてるから、手作業だ」
「えぇッ!? ……まぁ、でも。一人くらいなら……」
「何言ってるんだ? 二人だよ。二人で三人を運ぶんだ」
「え、どういうこと?」
ミルは本気で訳が分からないらしい。そもそも俺がここに来た目的はそれであって、ミルが言う依頼の為ではないのだ。
予め『僕』に言ってもらったはずだが、こいつは過激な戦闘の末に忘れてしまったのだろうか。
「レインだよ、レ、イ、ン!」
「あ、そっか!」
やっと思い出したのか、右前足で左前足の掌を叩くミル。因みに四足歩行の生物が二足歩行、しかも四足歩行の体勢のままで手を叩くのは二足歩行の生物でもできないだろう。当然強く地面に顎を打ち付ける事になる。
「じゃ、お前はフィリアとレインを運んでくれ。俺はシルガを運ぶ」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 何で私が二人を!? ラルドの方が力があるよ!?」
「俺はさっきのパンチの反動でろくに物ももてないんだよ。右手だけが」
そう。あの技は強い代わりに、反動が物凄い。
本来の力を出すと言う事は、もの凄く負担が掛かると言うのは既に周知の事実。しかも解放の唯一デリケートな一瞬を狙って殴るのだから、負担は大きすぎる。
神経も痺れるし、正に一発限りの大技だな。
「穴抜けの球もダンジョンから脱出するだけで、直接帰られる訳でも無いからな。ほら、さっさと行くぞ」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 依頼はどうするの!?」
「ああ、それなら。ほら」
「えっ……いつの間に」
驚くミルの目の前には、透明に輝く宝石があった。勿論比喩ではない、あのグレイシア――アリシアも“氷のジュエル”と言っていたのだから強ち間違いないだろう。
さっきも“レイヴン”がなんとかかんとか、みたいなことを言ってたし、もしかしたら強力なアイテムだったりしてな。
「んじゃ、依頼の物も取り返した。レインも救出できた。後は帰るだけだな!」
「えっ、ちょっと待ってよ!!」
急ぐラルドを追いかけて、慌ててレインを巨大氷柱の真下から移動させて背中に乗せて走るミル。その背中にはピカチュウ一人とツタージャ一人を乗せている。
考えて見れば激戦の後の副リーダーに、こんな労働を任せるなど酷いでは済まされないくらいの仕打ちなのだが……。
リーダーである鈍感鼠には、どうやら鈍感なだけあって気付かなかったようだ。
〜☆〜
「いやぁ、ありがとうございます! この恩はどうしたらいいのやら……」
「いや、別にいいけど……あんた、あんな珍しそうな物を持ち歩いてるなんて、何者だ?」
今、俺の前にいるのは依頼者であるヒメグマ――“ハニービ・ベアイス”という者だった。
正直リングマに進化するということでヒメグマに対しては少しの恐怖と言うか、なにか得体の知れない感情を抱いていたのだが、このヒメグマを見た事で少しその感情も和らいできた。
「ああ、私実は考古学者でして、世界中のありとあらゆる遺跡を調べているのですよ。一応これでも、名の知れた考古学者なんですよ?」
「考古学者もそんなに知らないんだけどな。とりあえずその数ある遺跡の中で発見したのか?」
「そーです! それはジュエルといって、そのジュエルが適合するタイプの技を強化してくれる非常に救助、探検隊にとって嬉しい一品! しかも新発見されただけでこれ自体は世界中の人間時代から存在する洞窟や鉱山などに埋まっている、正に人間時代からの神秘!!」
長いお話、どうもありがとうございます。と心の中だけで言っておく。正直ここまで長ったらしい説明されるとは微塵も思わなかった。
この人は職業に病んでるな、間違いない。俺の言葉は10%の確立で当たる!
「確かに人間が滅んで千年、色々な影響を受けて人間時代の物は少なくなってきていますが、それでもなお生き残るジュエル! それは人間時代の秘密を解く鍵になるのでは? と我々考古学者は考えているのです。そして私はそれを解明すべくジュエルを……」
「あぁ!! 長ったらしい、三行でいいだろ!!」
「まぁ確かに、初対面の人には理解しずらいでしょう。それでは理解してもらう為、そして依頼の報酬としてこのジュエルを差し上げましょう」
「え?」
ハニービが取り出したのは、黄緑と赤茶色と白、そして青色と黄色の色をしたジュエルだった。
え、あれ? それ人類の神秘じゃないの? いや確かに俺元人間だけどさ……。
「それぞれ草、格闘、ノーマル、水、電気のジュエルです。効果は先程言ったとおりです」
「へぇ……って、なんで水?」
「報酬用に取ってきたのがこれだけだったからですよ」
「えぇえ!? ジュエルって重要だったんじゃないの!?」
「私の家には同じ種類が五個はありますから。コンプリートはしてるんです。……それに、こういうのは我々よりも探検隊の方の方が素晴らしい使い方をしてくれるでしょう」
相変わらず長い説明で頭が可笑しくなりそうだが、それ以前にこんな短時間でそんな取れるのか、と思うとなんか一気に価値が下がってきた。
これは、あのグレイシアも普通に採取してた方が良かったんじゃないのか?
「いえいえ、私は他の方より少し特殊な発見方法があるので。こんな短時間で取れるのもそのせいです」
!? こ、心を……読まれた、だと?
「いえ、後半は思い切り口に出てましたよ?」
「あっ、そうなのか」
それにしても、草、格闘、ノーマル、水、電気……あれ? 俺文句言っちゃったけどこれ物凄く奇跡なんじゃないの? 俺達のタイプに都合よく組み合わさるなんてさ。
「では私はそろそろこの辺でお暇させて頂くとしましょうか。後ろのイーブイさんも少々冷却させないとダメでしょうし」
「良く分かってるな」
そう、この話の中でミルが一言も喋らなかったのは、まずハニービの言葉の量に少し怯
え、次に難しい話で黙り、後半になると爆発をしていた。え? 後ろにいるのになんでわかるって?
ミルのことなら誰よりも熟知しているんだ、それくらいは分かる。
「では、良い探検を!」
「じゃーな。もう二度と失くすなよ!」
「はいー……あ、ジュエル落とした!」
「……何がはいだ、何が」
俺が忠告した瞬間にジュエルを落とすなんて、もしかしたらアリシアに奪われたのってただ落ちてたから拾っただけじゃないか? と思ったりもしたが違うな、あいつ普通に奪ったって言っちゃってたな。
「さて、と。ミル、皆の状態は?」
「シルガとフィリアは病院。特にシルガは危険な状態だから、結構治るのに時間がかかるだろうってさ」
「俺なら直に治るのにな……不便だよな」
「ラルドと一緒にされたら、この世の中で応急処置って言葉が緊急手術と同じになっちゃうよ!!」
「どういう意味だ!?」
全く、この耳長兎は……最近知恵が働き始めたな。ははーん、さてはフィリアに知識を教え込まれたな?
だが残念、俺はミル程度に負ける程度の知能じゃないぜ!
「ま、それならこの世全ての視力検査も最高が二じゃ無理だよな。誰かさん基準に考えると」
「どういう意味!?」
「そのまんまの意味だよ……さてと、肝心のレインだが」
ミルとのやりとりを一旦終わらせて、今度はレインの方を見る。まだレインが中にいるのは確かだし、魂が戻ってないからずっと寝たきりだけどな……。
まず43cmくらいの大きさで、ミルより3cm大きいくらいだな。だけど最大の疑問は……体の色が橙色ってことだ。
「目の色も、さっき見たけどちょっと可笑しかったからな。やっぱり俺達みたいに可笑しくなったのか?」
「ラルドだって、解放して数分は目が翡翠色のままでしょ?」
「だって、こいつ解放なんてしてないんだぞ?」
因みに俺とシルガの目の色をそれぞれ言うと、俺は翡翠色、目に優しい色だ。そしてシルガ……白銀の、なんか見ていて負けた気分になる目だ。
でもこちはなんか……奥ゆかしいっていうか、引き込まれるような藍色なんだよな。
「流石未来組。私達現代組じゃ追いつけないよ」
「顔の骨格が変わるまで殴り続けられるか、それとも四肢を切断されたいか、因みに切断方法は電撃で焼ききるな」
「すいませんでした!!」
「分かればいい」
っと、少し遊んでしまった。
それより、早くレインを元の体に返してやらないと……えっと、こういう時ってどうするんだっけか?
「とりあえず触れてみたら何とかなるか」
と、レインの体に触れてみた……その時!
――――
「な……で、こん……惨劇……」
――――
一瞬、目眩がするとともに視界が暗転し、一筋の光が迸る。そこから開かれた世界は……辺りが暗く、白髪の男と一緒に何もない荒野にいる……そんな光景だ。
しかも中央に何か居たな、黄色い髪の男が……。
「ら、ラルド? どうしたの?」
「あ、ああ……どうやらレインに触れたときに“時空の叫び”が発動したみたいだ」
“時空の叫び”。
星の停止事件では非常に重要な鍵となった、対象物に触れるとその者の過去、未来どちらかをランダムで見れる不思議な不思議な能力。
そして同時に、ランダムと言う所で非常に使い勝手が悪かったり。
例えば誰かに触れたとして、その誰かが凶悪な犯罪を犯す映像≪ビジョン≫が見えたとしよう。
だが、それが過去か未来なのか、使用者には一切分からない。これが過去ならば手遅れ、未来ならまだ希望はあると言った感じだが。
「ともかく、レインを早くからだの中に直さないと……早く戻れよ」
そして経つこと数十秒。数十秒とは言えどもう直一分になるくらいの数十秒で……あ、一分立った。
「ああもう! ふざけんなよレイン! 手前いつまでもどらない気だ!? このままカップラーメン出来上がるまで待てってか!?」
勿論この場にカップラーメンなどない。寧ろこの世界でカップラーメンなど、まだ上流階級のポケモン用の保存食で、しかもこの世でも有数の金持ちだけの保存食だ。
俺達庶民は、せいぜい菓子パンやチーズや干し肉だけでいいんだよ! いや実際はそんなに貧相じゃないけれども!
「ああもう! いいからとにかく戻れ!!!」
狂ったように叫ぶ俺。傍から見たら「ママー、あの人なーに?」「しっ、見ちゃダメ!」の構図が出来上がってしまうような光景でも、当の本人である俺には全く自覚がないのでとめるのは無理だ。
「…………ちっ」
「ん? 今、何か言ったか?」
「ううん、何も」
あれ、可笑しいな。確かに今舌打ちするような声が俺の直近く……真下くらいから聞こえてきたような気がするんだけどな?
「……あんた、そこまで分かってるなら誰が舌打ちしたかも分かるでしょ?」
「え? あれ? ミル、何か言った?」
「……ラルド、ボケてるの? それともぼけてるの?」
あれ? 可笑しいな。俺としてはボケてもぼけてもいないんだが、もしかしたら地底人か!?
と言ったらミルに溜息混じりに「馬鹿だね、ラルドは」と言われてしまった。
もう一度強調して言おう、“ミルにため息混じりに言われた”。
もう一度言おう、ミルに――
「うるさいわね。何度も言わなくても誰にも伝わらないから大丈夫よ」
「いいや、画面の向こうの人には伝わる……ってあれ? なんでレイン動いてるの? しかも何で俺の思考分かるの?」
なんだろうか、さっきから疑問が多すぎやしないか、俺。
確かに俺は自分が不思議だと思った事は気分が良ければ即座に調べるタイプの人間、もといポケモンだが……今は調べる気分だな。
「まず第一問目、あんたから私の体に魂が伝わって私が動けるようになった。第二問目、長い間繋がってたから常人以上にあんたの思考が読めるようになった。OK?」
「オーケー。全然オーケー!」
なんだろうな、この高揚感。湧き上がる感情を抑えきれないって言うか、今すぐその長い間につながっていたと言う現実を抹消したと言うか。
とりあえず後ろから殺気がびしびしと刺さってくるのですが、それはどうしたらいいのでしょう?
「そんなの私に聞かないでよ。ただでさえ何日かぶりに動けて、視界や動きも覚束ないんだから」
「ああ、そうか。体は子供、頭脳も子供だもんな」
「うるさいわね」
それにしてもなんていうか、これがレインの実体アリバージョンか……。
なんか人間時代の言葉で、覚えてる内の一つに「ツンデレ」って奴があるんだが、こいうのは「ツンツン」って言うんだろうな。
「……それはともかく、後ろで凄い殺気放ってるミルも、そこで戯言ほざいてるレインの体が戻ったんだから祝いの言葉の一つはかけてやろうぜ! 折角元に戻ったんだしな」
「次言ったら殺すわよ?」
「怖っ、そんな言葉ミルでも使わないぞ!?」
「ラルド、殺すよ?」
「殺気と同調してて物凄く怖いです」
……さて、と。ギャグパートもここまでにして。
「まぁ、色々弄ったけど……シルガやフィリアは居ないけど――」
俺は息を思い切り吸うと、膨らんだ胸から叫ぶようにして言葉を吐き出す。
「――ようこそ、世界の英雄がいる探検隊“エンジェル”へ!!」
「そして、体が戻っておめでとう!」
「……はぁ、あんた達も面倒くさいのに、これに加えてあのシルガまで要るなんて……英雄なんてただの世界の呼び名で、実体はそんじょそこらの探検隊よりも三味くらい面倒くさい探検隊なんじゃないの?」
「大正解! そんなレインにはこの探検隊加入書にサインをしてもらおうか!!」
「持ってたの!? というかどこから取り出したの!?」
「そりゃあリーダーだからな。いつでもどこでも気に入った奴を仲間にする為にトレジャーバッグに入れてある!!」
実際、月に一度連盟から配られるのだが、ラルドはそれを読みもせずにバッグに入れているので、偶然偶々入っていただけなのだが。
しかもくしゃくしゃになっていて、しかも所々破けている。
「……破けてんじゃないの。これ」
「本当か? ……げっ、本当じゃねぇか。次に来るのいつなんだよ」
「今日から三週間後くらいだよ」
「あぁ、そうか……まっ、正式には入ってないけど一応仮って事で!」
仮入隊、って言葉もあるくらいだし、大丈夫だろ。
「ま、私なんかで良ければ……所でチームリーダー変更って」
「認めるか」
チームリーダー変更、それはどの探検、救助隊でも一年に一回だけ許されるという……その名の通り、チームのリーダーを変更するのだ。
勿論、チームのリーダーを変えるということはそれほど重要な事であり、その為に一年に一回しか使えないようになっているのだ。
そして関係ないが、一度探検隊を解散すると他の探検隊には一ヶ月たつまで入れない。
「冗談よ。確かに頭は使えないけど、実力はあるみたいだしね」
「ふざけるなよ? 俺は今まで他の誰も思いつかないような技を生み出してきたんだ!」
まずは超帯電≪ボルテックス≫。帯電しながら充電すると言う、充電の加速化だ。本来ならば充電していようと一定量の電気が溜まると知らず知らずの内に少しずつ放散されていき、充電を終えるのも遅くなる。といってもこれが普通なのだが。
だが、その普通を充電中に帯電する事により解決したのがこの技。でも普通のポケモンがやれば爆発するかもしれないから注意しようね!
「そして俺の一番のお気に入りは“電気活性≪アクティベーション≫”!! どうだ、あれ中々面白いだろ?」
「ただでさえ本来の力を出してるくせに、更に筋肉刺激しただけじゃない」
「うるさいな」
まぁ、色々な技に改良の余地あり、だな。
実際“電気活性≪アクティベーション≫”も俺は力の増強に注ぎたかったわけだし、スピードはそんなに要らないんだよな……。
「で、これからどうするんだ? 俺はガラガラ道場に行きたいんだが」
「あんた、折角新しい仲間が手に入ったって言うのに、なんで歓迎パーティの一つもやらないわけ?」
「回りくどい言い方しないで腹減ったって言えばいいだろ。ミル、セカイイチ持ってきてくれ」
「え、そ、そんなぁ……分かったよ」
因みにミルが落胆したわけは、普段絶対にセカイイチを食べさせてくれないからだ。こちらの地方ではリンゴの森以外ではあまり取れず、希少価値の高いセカイイチだが主に救助隊が活動する地方ではセカイイチがよく取れ、普通にカクレオンの店で売っている。
というか、店にいるカクレオン達と違う地方のカクレオン達は皆兄弟とか知り合いだとかいう噂があるのだが……こちらでセカイイチが売り出されるときは、結構高い。
「だから大食いのミルには食べさせないんだよ」
「なるほど」
「わ、私は大食いじゃないよ! ただ夜中にお腹が空きやすくて……」
「夜食べたのに夜食だとか要って盗み食いする馬鹿の姿が、そこにはあった」
「消化が早いのよ。その癖良く眠るのよね」
「金食い虫だな」
最近、林檎本来の食べ方にも飽きてきたからな。林檎のカキ氷とか、林檎を摩り下ろして木の実につけて食べるとか、とにかくなんというか……ギルドより豪華になったな、と思える自分も要る中こんなので豪華な気分になれる自分もいるんだな、と思える自分も居た。
ああ、早くキッチン届かないかな。なんか林檎パイとか木の実グリルとか、そんなものがこの世には存在しているらしい。
勿論食べた事はないし、見たこともない。
「あれから頼んでからの間、どれだけの事件が起こったよ?」
「空の頂でベトベトン達と退治、それだけで時間たつ。それで凍えの霊域で勝負。だね」
「しかも一週間経ってないうちにだよ?」
一週間、それは短いようで長い時間。空の頂に居た時間だって相当長かったし、宴のときも一日騒ぎまくったけど結局次の日にこんな事になるし」
「あんたには神様でも憑いてるんじゃない? 事件に合わせてくれる」
「俺の異常な回復速度を見てると、本気でそう思えてくるから困る」
うーん、本当にこの回復速度は本当に異常だからな……なんだろうな。本当。
「……そういえばさ、レインって最初からラルドに憑いてたんだよね?」
「ええ、そうよ?」
「じゃあさ、レインが私とラルドを除いたらエンジェルで一番の古株なんだよね?」
「あ、そっか」
「いや、それは可笑しい」
だってさ、こいつが話しかけてきたときっていつだったと思う? ヨウム戦だぞ? なんでチームに入ってさえいないフィリアよりも、俺に話しかかけるのが遅れるんだよ。そんなの絶対可笑しいぞ!!
「はぁ……」
そんなレインも、俺の考えは駄々漏れだろう。その希少な藍色の目を閉じ、溜息をつく。
おいおい、なんで溜息をしたのかは分からないけどそれじゃ幸せが逃げるぞ?
「で? これから私は何をすればいいの?」
うーん……なにをすればいいのか、決めてないな。だって帰ってきたばかりだもん、しょうがないね!
うわ、自分でやってて気持ち悪いな。
「とりあえず、フィリア達が完全回復するまで一ヶ月くらいは掛かるって言われたからな……」
いや、正確に言うとフィリアは病院にいる期限が短い。一週間から二週間くらいもあれば、完治はするらしい。が、やはり急な運動は身体に悪いらしいからな。三週間は鍛える事もできないだろう。なんか居合い斬りの強化版みたいな技もあるらしいから、見てみたいな。
が、シルガの怪我は深かった。
腹が貫かれ、血も大きく流れ、瀕死の重傷とのことだ。常人なら死んでも可笑しくない怪我らしい。やはりあいつは異常人だったか。
が、そんな冗談も流石に言えないようなパニックに陥っていた俺は、「え、シルガ死ぬのか? いや、あいつがそんな死に方するわけないだろうし……」とか考えてた俺をぶち殺したい。
「とりあえず、今まで身体を少しは動かしてきたわけだからな。一週間もリハビリすれば常人みたいに活動できるだろ?」
「まぁ。確かにそれくらいにはなるわね」
「じゃ、リハビリ終了後にはお前の力を見たいから、道場で俺と対戦な」
「はぁ!? あんたと対戦なんて、死ねとでも言ってるの!?」
レインの反応は至って普通だ。多少名を馳せた探検隊も、一応倒せるレベルに俺は位置している。え、ナルシストじゃないのかって? 残念、本当だ。
ダイヤモンドランクの探検隊なら苦戦するレベル、ウルトラなら勝てるかどうかぎりぎりのレベルだな。
しかもレインは一般人並みだ。もしかしたら隠された力でも隠されてるのかもしれないが!
「隠されたって五月蝿いわよ」
「ああ、そうだった?」
「って、私はどうすればいいの!?」
ああ、そっか。ミルを忘れてた。
「ミルは普通に、別に何らかの変化がある訳でも無いし。あいつらの状態を見ておいてくれ……生憎だが、俺はこいつの特訓に付き合わなきゃならないからな」
「なによ、別に一人でするわよ」
「はぁ、戦い方も知らないような奴がなに言ってやがる……ま、ここから病院も結構離れてるし、最後の方にレインに往復で走らせるのもいいからな。二週間の内にも行くときがあるから、理解しとけよ」
「うん! 分かったよ」
? なんかニコニコしてて不気味だな……俺、なんか変なこと言ったか?
「じゃ、とっとと寝て、明日には道場にでも行くか!」
夕日を背に背伸びをし、その直後に「今日の晩飯ってなんだ?」と聞くあたり、本当に気楽に考えているのか、それともそう考えるようにしているのか。
真相は分からないが、とりあえず――
――今がよければ、それでいい。
次回「緋色の剣士、来る!」