ポケモン不思議のダンジョン空の探検隊 エンジェル〜黒と白の12の翼〜







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第二章 新たな五人目の仲間!
第二十話 怒らせてはいけない
何とかアリシアの“永久氷壁”を崩し、倒す事に成功したエンジェル。だが倒しきれていなかったのか、シルガがやられてしまい――?





〜☆〜

「……“絶対氷壁”」

「ソウヨ。私ノ組織デノ二ツ名……私最強ノ技、“絶対氷壁”」

フィリアの声に反応して、その疑問に答えるアリシア。どうやら話を聞く限りでは、先程皆が苦労して壊した“永久氷壁”よりも強度があるらしい。
そして、それを裏付けるかのように居合い“乱れ桜”や“シャインロアー”を放っても削る事さえできない事実。正に絶対防御だった。

「それでも僕達は、勝たなきゃならないんだ……後ろにいる、レインや依頼の為にも!」

「依頼……? アァ、アノ“氷のジュエル”ノ事カ」

闇のオーラを纏いながら、アリシアは依頼について答える。薄々そうではないか、と思っていたフィリアだが、やはりアリシアがあの依頼書に書いてあるお尋ねものらしい。
そして☆6なのは……この“凍えの霊域”に逃げ込んだからだろう、僕達は難なく突破できたが、本当は少し強敵が多いダンジョンなのだ。

「君が、その氷のジュエル? を奪ったのかい?」

「エエ、ソウヨ。……モウ、何モ言ウ事ハナイワヨネ?」

アリシアの雰囲気が、がらっと変わった。まだ恐怖もあまり感じない殺気だったのが、言葉を言い終えると同時に強力な殺気へと変化した。それはミルが足を震わせるほどだ。
体には黒い、闇のオーラを身に纏い、そして強力な殺気を持つ……こんなに恐怖の要素があって、恐怖しない者はいるだろうか? 居たとしたら、アリシア以上の実力者か、それ以外は単なる馬鹿だろう。

「ジャア、始メマショウ……“刺死氷柱”」

「! ミル、ラルド!! 君達はシルガを回収してくれないか!?」

フィリアの真下から突き抜ける強烈な殺傷能力を持つ氷柱。それを何とか避けるとフィリアは二人に指示を出す。やはり、戦いが始まっても、未だ氷柱に刺されているシルガは危険だ。
もし人質にされでもしたら……その時点で、エンジェル全員がお陀仏だ。

「う、うん! 分かったけど……フィリアは!?」

「僕が囮になるから、その隙にって事だよ。……じゃあ、後は頼んだよ!!」

「ふぃ、フィリア!!」

ミルが叫んで止めようとするも、フィリアは聞く耳を持たずにアリシアの居る“絶対氷壁”へと向かっていく。こうなればもう誰にも止められない。
ミルも探検隊の一員であり、しかもフィリアとは親友と言っていいほどの仲だ。当然、その事も理解しているだろう。

それでも、ミルは引かなかった。

「待ってよフィリア! もしかしたらシルガみたいになっちゃうんだよ!?」

「大丈夫さ。シルガは君を助けるために、自ら貫かれに行った。あの攻撃も避けられない攻撃じゃないしね」

「で、でも!!」

「……ミル、いい加減にしなよ。シルガを助けるためには誰かが犠牲にならなければいけない、誰かがアリシアの気を引かなければ、シルガを助けるなんて不可能だよ」

そういうフィリアの顔は、至って真面目で、至って本気で……本当に覚悟ができていた。
確かにフィリアの言うとおり、シルガを助けるには氷柱を壊すか溶かすか、どちらかをしなければ絶対に助けられない。
だが、壊すとなればそれは大怪我をしているシルガにとって、どれくらいのダメージを与える事になるのか分からない。だとすれば、必然的に溶かすしか選択肢はない。

そして、フィリアは熱系でシルガに被害が加わらないであろう技を、“ソーラーブレード”しか持っていない。それも氷全部を溶かしきるまで時間がかかる。

「ラルド、君は“電気ショック”で氷を溶かしてくれないかい?」

「……分かったよ」

「ら、ラルド! ……それなら、私だって!」

「いいかいミル。君は強力な技をいくつも持っているし、なにより広範囲の技に対して、それを防ぐ術を、君は持っている」

けれど、フィリアは持っていない。“ソーラービーム”で一気に氷柱を吹き飛ばそうにも、全て吹き飛ばすのは当然ながら無理だ。
他にも、フィリアはエナジーボールを化け物組みたいに幾つも放つ事はできない。できたとしても一斉に五個が限界だ。

「ラルド、君はシルガの氷を溶かしてくれ。そしてミル、君は……ラルドの護衛係を勤めて」

「ふぃ、フィリアァ!!」

ミルも心では分かっている、脳では分かっている。だが、それ以上に仲間が酷い目に合うこと。そんな事は目にしたくはない。
それが大事な大事な、大切な仲間であり親友であるならば、それはまた大きくなる。

「大丈夫だよ。僕は死なない。流石にやられはするだろうけど……おっと」

ミルとの話の最中にも、アリシアは待つなんて事してくれるはずもない。あの殺傷能力が高い氷柱五十本、それも邪悪なオーラを纏った……その中の一本をフィリアに狙いを定めて撃ってくる。

「もう始まるのか……じゃあねミル、僕が倒れようと、君にはラルドが付いている。いざとなればリーダーバッジで皆を強制帰還させればいい」

「ふぃ、フィリア……」

「……ラルド!!」

「なにかな?」

「『僕』の方も、『俺』の方も……絶対にミルを守ってね」

「……」

「それが僕の、最後の頼みだよ」

言い終わると同時に、フィリアはアリシアの所へと走る。“絶対氷壁”があるというのに、絶対の防御が待っていると言うのに、フィリアは止まろうとはしない。
それがフィリアにできる事だから。

「分かったよ。『僕』も『俺』も……『僕』の命を懸けても、ミルを守り通す」

「フィリア……」

「……ミル。辛いだろうけど、シルガを助ける事が『僕』達にできる最後の……」

「……分かってるよ。私だって、いつまでも泣いてちゃダメだもんね」

「! ……それじゃ」

「うん! 行こ、ラルド……シルガを助けに!!」





〜☆〜

……ちらりと横目で見ると、そこではフィリアが戦っていた。
幾つもの氷柱を避け、『僕』達に被害が加わらない様に戦っている。勿論、ミルも偶に来る流れ弾や、こちらを狙ってくる氷柱を破壊してくれている。
一方、『僕』はなんとも地味で、それでいて大変な作業をしていた。

「ラルド、まだ溶かしきれてない?」

「“十万ボルト”は強すぎるから、一応“電気ショック”で溶かしてるけど……まだ無理だよ」

「そうなんだ……あっ、“シャドーボール”!!」

ミルは悲しげな表情を見せると、直に又氷柱を壊す事に集中し始めた。恐らくフィリアを気にかけているのだろう……やられるのも時間の問題だ。
この作戦、全ての鍵を握っているのは『僕』だ。幾ら護衛をしていようと、幾ら気を引いていようと、シル兄を助けなければ意味がない。
でも、焦って電撃を強めるとシル兄が危ないし、慎重になりすぎて弱めたらより遅くなってしまう。

「だから、二つの方向から当てれば……」

右と左、両方から電気ショックを与え続ける。そうする事で熱もより与えられるだろう。これで時間は短縮できる。

「……段々と、溶け始めてきた」

そんな作業を三分間やり続けた結果、ようやく氷も溶け始めてきた。恐らく十分もあれば完全に溶けきるだろう。

「よし、このままいけば……って、うわっ!?」

が、それを邪魔するかのように氷柱が飛来、希望を打ち砕こうとしているかは分からないが、実は先ほどから『僕』ばかりを狙っていた。
幾らフィリアが気を引いているとはいえ、隙だらけのアリシアが見逃してくれるはずもない。

「わっ、ごめんラルド」

「いや、『僕』は大丈夫だけど……これは」

心なしか、フィリアに攻撃をする氷柱より、こちらに向かってくる氷柱の方が多い気がする。アリシアもあんな風貌で、恐ろしい姿になってはいるがやはり思考は働いているのだろう。だとすれば厄介極まりない。

「とりあえず、後十分……どうにか持ちこたえて。そしたらシル兄を助けられるし……それに」

この世で最も、危険な者の逆鱗に触れる事になる。

「そしたら、アリシアは必ず……倒される」

「……それが私達が倒すの?」

「それは分からない。もしかしたら倒すかもしれないよ? でも、今は『僕』を守ることに集中して」

「えっ? ……わわっ、“シャインボール”!!」

話している途中に『僕』達を狙って又もや氷柱が襲ってくる。しかも、その数約二十本。
初撃のシャインボール一発だけでは一本だけしか壊す事は叶わず、その後“シャインロアー”で全ての氷柱を吹き飛ばす。

「……どうにか耐えてね。フィリア……」

そんな『僕』の呟きはフィリアに届いたのか、いや、届かないだろう。

そして、『僕』の願いも――。





〜☆〜

……氷柱が辺りを飛び交い、そしてその氷柱を避ける黄緑色の物体。
その黄緑色の物体の正体は……僕、フィリアだ。
あれから五分、僕は幾つもの氷柱を避け、いくつもの攻撃を放ち、そして完全無欠の防御の前に弾かれた。
そして出た結果は……あの氷壁は異常なまでの堅さを誇っている、恐らく名前的にもさっきアリシアが言った言葉通りでも、この“絶対氷壁”は“永久氷壁”よりも堅いだろう。

「“枝垂桜”!」

「発射」

アリシアが僕が技を放ったと同時に氷柱を発射してくる時点で、もう僕の攻撃を防ぎきれると分かっているのだと、もう僕はアリシアを倒す手段は持っていないのだと完全に相手は分かりきっていた。
そして勿論、僕もそんな事は百も承知だ。

「でもね、仲間を……一度背中を預けた相手を、そう易々と見捨てるなんて事はできないんだよ」

「ソンナ事ハ関係ナイ」

「そうだったね。“エナジーボール”」

あの時、闇のオーラを纏ったときから話し方に恐怖を感じたが……間近で聞くと、確かにこれは不気味だ。
黒に包まれたその姿、そしてそこから出る不気味な音……ミルならば直に震えだすだろう。

「……“枝垂桜”」

「イイ加減ニ、ソノ技ハ効カナイト……分カレ!!」

どんな攻撃でも、この氷壁の前では無に等しいダメージしか与えられない。実際、僕の居合い“乱れ桜”でも傷一つ残せやしない。

「良いよ別に。僕の狙いはあくまで……」

フィリアはそういうと、シルガの方をちらっと見る。どうやら氷柱も最初のときより随分小さくなっており、もう少しで完全に溶けるだろう。
そしてそれまでの間、僕はこいつの気をミルが守りきれる程度まで削がなければいけない。
そしてミルが壊せる一斉発射の氷柱の量は……約三十本。残り二十本は向かわせるわけにはいかない。絶対にだ。

「あと少しなんだ……そのまま大人しくしておいてよ! “水平翠斬”!!」

「ソンナモノ……」

ただ気を引くための攻撃、負けると分かりながらの攻撃。それがどれだけ虚しく、そして重大で、自分にとって屈辱的か……体験してみないと分からないだろう。
だが、それがどんな感情なのかは……分かるだろう。

「……! あれは、氷が溶けかかっている……?」

もう一度、シルガの方を見るともう既に氷が溶けきっていた。間違いないだろう、どこかの耳長兎よりは信憑性はないが、それでも順調な事は確かだろう。
それ故なのか、僕は気付けなかった。

「甘イ!!」

「え……あっ」

前方から襲い掛かる、氷柱の嵐に気が付かなかった。

「“棘氷柱”!!」

「しまっ――うわああぁぁあ!!!??」

氷柱の嵐に飲み込まれ、幾多の傷を受けて……気を失う。
最後に見たのは、禍々しい、幽霊よりも凶悪な笑みを浮かべているアリシアの姿だけだった。





〜☆〜

あれから十分。
結果から言うと、氷柱は溶けきった。電気ショックをずっと当て続けると言う作業にも疲れが見え始めた頃だが、その兆しが見えてきた丁度その時……氷柱は跡形もなく溶けた。
シル兄が倒れ掛かってきて、それを受け止めるときに少々重かった……とか考えたが、無事に救出できた。

「……シル、兄」

「し、シルガァ!!」

「ハァ……ハァ……」

不味い不味い不味い、不味いが三つ揃ってなお不味い。
体力の減りが尋常じゃ無いくらいだ。恐らく氷柱の冷たさもあってより体力を消費していたのだろう

「とりあえず……シル兄、ほらっ、オレンの実だよ」

「……」

「まぁ、食べる事なんて出来るはずもないよね。なら……オレンの実を絞るしかないよね」

「なるほど! オレンの果汁をシルガの口の中に入れるんだよね!!」

「そういうこと。じゃあ早速」

『僕』はオレンの実をきつく絞る。これでもか、と言うほど絞りだす。これで大量のオレンの果汁がシル兄の口の中に入っていき、体内へ行き渡った事になるんだけど……果たして大丈夫なのか。もしかしたら残念、オレン果汁ではあんまり体力は回復しないんだよ、みたいなドッキリはないだろうか。ないだろうね。

「……あっ、ぐっ」

「やった! 息を吹き返したよ!」

「そ、それじゃシルガが死んでたみたいじゃ……とりあえず、睡眠の種を飲み込ませる事ってできる?」

「眠らせて体力回復を図るんだね? 分かった……念のために、眠ったらオレン果汁を傷口にも塗っておこう。多少の殺菌作用もあるって聞いたしね」

流石としか言いようがない程の活躍ぶりを見せてくれるオレンの実、殺菌能力があるというのは確か昔何処かで聞いたからなのだが……これがオレンの中のオレンである、オボンの実ならばどうなっていただろう? もっと体力回復が早まっていたか……。
と、そんな事を考えつつもさっさともう一度オレン果汁を搾り出し、睡眠の種と一緒に流し込む。シル兄がぐっすりと眠り込んだ所を見計らって、『僕』は残った果汁を傷口に塗りたくる。え、もっと丁寧に? 知らないよ、こっちは焦ってるんだよ。

「よしっと、これで後数十分は持つと思うよ」

「じゃあ、早くシルガをリーダーバッジで……きゃっ!」

「ど、どうしたのミル。って、うわぁ!?」

シルガの超簡単な緊急処置が終わり、一息をつく暇もなくリーダーバッジでシル兄を強制帰還しようとした所に、なにやら少し大きい物体が飛んできた。背丈的に、『僕』と同じくらい……って、まさかッ!?

「こ、これは……フィリア!!?」

「ど、どうしたのこの傷! それに……血、血も」

「何かに引き裂かれた跡が無数にある。多分、致命傷とまではいかないでも……確実に、あの氷柱の攻撃だよ」

何か鋭利な物で切り裂かれた跡、フィリアにはそれがあった。が、それでも抉り取ったような跡にも見えなくはない。幾ら鋭利にとがっていようと、あんな氷柱が一斉に発射されてスパスパと切り裂けるわけがない。確実にあの氷柱は攻撃を受けた物を――抉る。

「……後ハ、アナタ達ダケ」

「ひっ!?」

「な、なんなんだ。あの姿」

凶悪、という言葉ではない。人を恐怖の底まで引きずり落とせるまでの雰囲気を持ち、そして地獄の亡者にでも睨まれた様に体が動かなくなる、そんな目をしている。
狂怖、それが一番このポケモンに似合う言葉だ。間違いない、そう断言できる。

「黒いオーラまではさっきまで一緒だった。でも……あまりにも雰囲気が違う。それに、なんだ。あの赤く光った目」

「こ、怖い……」

「安心シロ。楽ニ逝カセテヤル……貴様ラ仲良クナ」

「逝かせる、なんて言葉聞いて安心なんかできないよ!! ……ミル、立って」

「ひっ……ね、ねぇラルド」

「なに?」

「こ、怖いんだけど……」

そうだろうね、なんて言ったって僕も同じだからね。
幾ら感情がなくなったといっても、まだ日常生活において必要な分は残っているからね。当然恐怖なんかもある。人並みにね。
でもミルは人並み以上の臆病者だ、偶々外を除いたときに、そんな正確だと言う事は分かっている。
そして当然、そんな臆病者がこんな一般人でも足が震えそうなくらいの恐怖を目の前にして……怯えないわけがない。

「ミル、良く聞いてくれ。後五分経ったら、ラルド――『俺』が目覚める」

「え、ラルドが!? ……でも、無理だよ」

今『俺』が目覚めるって聞いたとき、明らかに過剰な反応とってなかった……? 気のせい?
いや、もしかすると……!

「あの“永久氷壁”を、ラルドは壊せなかった。それよりも強い氷壁を前にして一体なにができるの……?」

「できる。今の『俺』なら……感情を人一倍に持っている彼なら、きっとこんな状況も逆転してくれる」

完全無欠に最強の、誰にやられようとも絶対に屈しない、どれだけやられようと、絶対に勝つ事までやめない。そんな子供みたいな精神。
だがそれは時に、非常に強力な精神となる。

「だから、君はここで待ってて……『僕』はちょっと、足止めしてくるから」

「そ、そんな! もし仮にラルドがあの氷壁を崩せるとしても、ラルドが傷ついちゃ意味ないよ!!」

「……いつ『僕』が、攻撃をするって言った?」

「……え?」

「僕がするのは、ただ普通の“警告”さ」

じゃ、待っててね。とだけ伝えると、『僕』はアリシアがいる“絶対氷壁”……その表面まで、ピカチュウ特有の身軽な体と素早さであっという間に移動した。
まぁ、人間時代から逃げ足だけは唯一評価されていたから、もしかしたらそれが反映されていたのかもしれないけどね!

「さて、アリシアさん。今から『僕』から君へ伝えるのはただの警告だよ」

「警告? 何ダ、貴様ガ私ヲ倒スノカ?」

「とんでもない。『僕』はただ一般的でひ弱な元人間。生粋のポケモンさんに勝てるわけないじゃないですか、やだー」

「フザケテイルノカ?」

「いや、真面目中の大真面目。警告……つまりね、『俺』を舐めるな、って事だよ」

『僕』は至って真剣な顔つきで、嘘も何も混じりけがない……そんな表情で、アリシアを見つめる。
まぁ正直言えばガグブル、つまり体は超震えてるよ? さぁ、大地も一緒に震えよう! 多分悲惨な事になるけどね。

「フフフッ、アノ英雄ヲ舐メルナ? 寧ロ、ドウシタラ舐メレナイヨウニナルノカシラ?」

「いや? それはこの後の君の状態を見れば分かるよ。それより君声怖いねー。まるで未来世界のポケモンみたいだ」

「何ヲ言ッテイル……用ハ済ンダカ? ナラバサッサト死ネ!!」

「いやまだ三分しか経ってないからね? 後二分待ってくれるかな?」


と、『僕』の必死の叫び声に耳を傾けようともせず、数多の氷柱を発射してくる。酷い、ひどすぎる。お陰で右腕が持っていかれそうになったじゃないか。
……あの、あれだけ大口叩いておいて悪いんですが……帰ってもよろしいでしょうか? あ、ダメですか。残念です。

「うわぁ! やめてよ本当……感情があの頃のままだったら確実に失神してたよ!?」

「知ルカ」

「怖い……さてと、残り一分三十秒。どう切り抜けるか?」

「食ラエ……」

「簡単だ、それは……!!」

そう、実に簡単な事だ。ミルでも猿でも、一瞬で分かること。

「“鴉吹雪≪ヴリザード≫”!!」

「逃げる!!」

そう逃げる、皆も一度はしたことがあるだろう? 背中を見せると言う最高の危険度を持ちながら、タイミングがよければ相手から離れられると言う史上最高の技。
相手のほうが圧倒的に力量≪レベル≫が高ければタイミングなんて見計らえないが、非力な『僕』があの世界で生き延びた方法の中でも最も信頼できる方法。

だが、あんな鴉の形をした吹雪に追いかけられたら、絶対に逃げ切る事なんてできない。

「はぁ、はぁ……の、残り一分!」

「冷気増加。膨張」

ちらっと後ろを見ると、なんと冷気で出来た鴉が段々と膨らみ始めるではないか。うわー、怖いなー。

「って、本気で怖いいぃぃぃ!!?」

どうせ、あれでしょ? 爆発するんでしょ?
やめてよ、『僕』は凍りつく趣味なんてないんだ。あるとしたらなんだろう、爆発させる事かな?
いやぁ、爆発って気持ち良いよね。あの爽快な気分、すかっとしない?

「って、現実逃避はしちゃだめだよね……って、うわぁ!?」

「避ケルナ」

アリシアさん、氷柱も発射してくるから非常に辛いんだよ。避けるのはしんどいんだよ? って言ってもどうせ聞く耳なんてもってくれないだろう。
仕方なく、“高速移動”で加速して素早さを上げ、攻撃を回避できるようにしているが、これももう時間の問題だ。
なんで時間の問題かって? 簡単だ、鴉吹雪が段々と大きくなってきているのだ。もうその大きさは後三十秒くらいで破裂しそうな勢いだ。因みに後三十秒。

「はぁ、はぁ……」

そしてもう一つ、問題があった。
それはこの攻撃の最中、狙ったのかは分からないがリーダーバッジだけを見事に綺麗に壊してくれたのだ。
これで、アリシアを倒す以外に生き残る術はなくなった。

「……さてと、いい加減これでおしまいにしようか」

「遂ニ、ヤラレル勇気ガデキタノカ?」

「いや違う。君をやれる時間が来た」

「私ハ何時間経トウト、絶対ニ倒サレナイゾ!?」

「いや、倒されるね。……さてと、ミル!!」

「ふぇ!?」

いきなり声をかけられて吃驚したのか、ミルはびくっと体を震わせる。『僕』もこんな時にいきなり声をかけられたら吃驚するからね、当たり前だよ。

「ミル! もうすぐ『僕』は『俺』になる!」

「えっ、そ、そんなぁ!?」

「でも、『俺』を信じて! 『俺』は絶対に負けないし、諦めない!!」

「そ、そりゃラルドは一番最初から見続けてきたから知ってるけど……そ、そんな事じゃなくて!」

「そして『僕』は今一度の休憩を取る! だから皆に伝えておいて――さよならってね」

「凍テツケェッ!!」

その一言の最後、『僕』の目の前で鴉吹雪≪ヴリザード≫は――砕け散った。





〜☆〜

……冷気があたりに漂い、何もかもが凍り付いた世界。
ここは“凍えの霊域”奥地。本来は巨大な氷柱があることで有名で、こんなに凍り付いた氷世界ではなかった。
ならば何故こんな世界になったのか? それは人々の悪意を吸収し、パワーアップしたグレイシア……アリシアの仕業だ。
そしてその中で、強力な冷気の爆発を“守る”で防ぎきり、体のどこも凍っていない三人組が居た。

というか、それは――

「……ふぅ、やっと戻った」

――俺の仲間だった。

「ナ、ナンデ……何故、貴様ガ動ケル!!」

「何でかって? それは、そんな物決まってるだろ?」

「ら、ラルド……」

驚愕に満ちた目と、安心と希望で満ち溢れた目。どちらも真逆で、正義と悪と様々な面で違っていたが……唯一、共通していた点は。

「俺が、エンジェルのリーダー。“英雄”ラルドだからだよ!」

視線の先に居るもの……ラルドを見ていたと言うことだった。

「何故ダ、何故アノ冷気ノ爆発ヲ受ケテ凍ラナイ!?」

「だからさっきも言っただろ? いやまぁ、ネタバレしちゃうと電熱でちょこっと氷を溶かせば俺を拘束する氷は緩くなる。後は意識がある内に雷を放つ。これで内側から氷を破壊できる」

「ナッ……」

「意識が変わった、あの一連の動作の直後にそんな事出来る訳が無いって顔してるな? 残念だが、これは現実だ」

アリシアが驚愕に満ちた目でなお見つめるその者を、一言で表すと言うのならば……“異端”、もしくは“異常者”。
そして、“英雄”。

「さて、と。お前は随分と俺の大事な物を潰そうとしてくれた」

「ソレガナンダ! 考エテモミレバ、貴様ナドニコノ“絶対氷壁”ガ壊セルハズモナイノヨ!!」

「そして、俺はお前を許さない。こうなったら例えお前の防御が強くとも、俺は絶対に勝つぞ? というより、こてんぱんに叩きのめすぞ?」

「フフフッ、ヤッテミナサイ。私ノ氷壁ハ最高ノ堅サヲ誇ッテイルノヨ!」

凶悪、か。
確かにこいつの姿は怖い、恐ろしい。と思うのが一般的だろう。俺だって、少なからず恐怖は感じてる。
と、思っていたか?

「良いか? お前がどれほど凶悪な姿に変わろうと、どれだけ醜態な姿に変わろうと……俺の中で恐怖と感じれる物は只一つ、“闇のディアルガ”だけだ」

あれほどまでに、凶悪で狂った神がいるか?
あれほどまでに、絶望と言う言葉が似合う物がいるか?
あれほどまでに、こちらを挫折させる物はいるのか?

いや、いないだろう。

「いいか。歯食い縛れ」

「何ヲ言ッテイルンダ?」

「お前は俺の仲間を傷つけた……その対価を、倍返しにしてもらおうと思ってな!」

それだけ忠告しておくと、俺はスタートダッシュの体制をとると……右手に力を入れる。
そして、今からこのグレイシアが目にするのは……自らの圧倒的敗北だ。

「……うおおぉぉぉ!!!」

「アノ時ト同ジダ、貴様ニ勝チ目ハ残ッテイナイ!!」

「はっ、冗談はやめてくれよ。寧ろ勝ち目がないのは……」

そのまま出来る限り、自分自身が出せる最大の速度で走る。ただ我武者羅に、右手の拳に大きく力をこめて。
今から繰り出すのは、あの時に架かっていた手の負担では絶対に出せなかった……一日一回限りの大技。

「手前の方だァッ!!」

「ソノママ砕ケ散レ!!」

そして、俺の右手が氷壁に触れると同時に――

「“バーストパンチ”!!」

――いとも容易く、氷壁は砕け散った。



次回「新たな仲間はオレンジピカチュウ?」

ものずき ( 2013/04/11(木) 21:36 )