第十九話 絶対氷壁VSエンジェル
『俺』から『僕』へと人格が変化すると言う事態になってしまったエンジェル。ミルの元に送られてきた依頼書の為と、レインを救う為に“凍えの霊域”奥地へ向かって――?
〜☆〜
「“十万ボルト”!」
「“氷盾”」
『僕』から放たれた電撃により、戦いの火蓋はきって落とされる。
十万もの電圧の電撃は、狂うことなくアリシアへ向かっていくが空気の水分を凍らせてできた盾により、それは難なく防がれる。
そして後ろから、“シャドーボール”が放たれる、がこれも氷の盾“氷盾”により完璧に防がれた。
「くっ……なんて堅さなんだ」
「ふふっ、私が出す冷気で造る盾は、鋼に匹敵する堅さ! あなたの電撃如きで、破られるわけがない!」
「それでも、この氷の盾は鋼程は堅くはないよね」
「そうよ、この盾はそれほど堅くない。でも、これはどう?」
アリシアの周りから出る冷気がより一層強くなる。すると、アリシアの周りに恐らく氷の盾と同じであろうドーム状の盾ができる。
「……それが、ラルドを打ち負かした盾?」
「いいえ。これじゃ軽く打ち破られる。英雄を負かしたのは、“永久氷壁”!」
永久氷壁、決して溶ける事も破られる事もなく、永久にそこに存在し続ける氷壁。それが“永久氷壁”。
確かにラルドに破られそうにはなったが、結局は破られなかった。結果が物を言うのだ。
「なら……“リーフブレード”!!」
「無駄よ! 斬撃だって通さない!」
結果は、アリシアの言うとおりだった。斬った後は残った物の、やはり斬るまではいかない。
流石に、この堅さは異常だ。
「なんて堅さなんだい!」
「ふふっ、この堅さに驚いてるわね? ……いいわ、私の強さの源を教えてあげる」
アリシアはフィリアの言葉に反応すると、懐から何か黒い物を出す。それは……あの、黒い水晶だった。
「あの時の水晶!?」
「でも、大きさはあの時の方がもっと小さい。恐らくあれの五倍はあるよ!」
「それにプラス、私自身の力がある。流石に空気中の水分を凍らせるなんて伝説の鳥ポケモンみたいな荒業、私自身ではできない。けど! 人々の悪意が結集した、この水晶を使えば、それも実現可能になる!!」
「人々の、悪意?」
確かに、あれが人々の悪意と言われても納得できるだろう。それ程、黒く、暗い水晶なのだ。あれは。
しかも大きさも段違いで、“十万ボルト”や“シャドーボール”を難なく防いでる姿を見ると、本当の事としか思えなくなる。
「そうよ! これは私達のボスの特殊能力で、水晶に悪意を映した物。そして……人の悪は善と同じ。それ以上の人もいる……そして、悪意が多ければ多いほど私達もパワーアップをする!!」
「……随分長い説明をありがとう。でも、敵に教えていいのかな?」
「あなたたちは今から消えるんだから、どうでもいいでしょう!!?」
「残念だけど、それはないね。……そろそろいいだろう? シルガ!」
「了解」
フィリアが大声を上げると共に、後ろから赤く燃え上がる脚を上げて現れたシルガ。
シルガはその大きな跳躍をしたまま、氷のドームの方へ向かっていき――。
「“赤熱落とし”」
――赤熱する踵を落とし、砕く。
「な、なに!?」
「ナイスだよ、シルガ! ……ミル!!」
「分かった!」
ミルは後ろから“シャインボール”を放つと、アリシアの方向へと寸分狂わず光球が向かっていく。流石は超視力耳長兎。命中率はいい。
「くっ! “氷盾”!」
だがアリシアもただでやられるわけもなく、氷の盾で光球を防ごうとする……が。
「なっ、氷盾が破られた!?」
「この技はタイプノーマル。ミルの特性“適応力”により、桁外れの威力になるんだよ……そして」
盾を破った光球以外の、残った光球がアリシアを襲う中……フィリアは自らが出せる最大の速度でアリシアの方向へ向かう。
「これが、僕の新技……」
「なに……っ?」
「“居あい切り”!!」
「――アァッ!?」
樹をも両断する斬撃に、体勢が整っていないアリシアが、相殺なんてできるはずもなく……斬られる。
悲鳴を上げたアリシアは地面に倒れこむと、斬られた箇所に手をつける。すると、そこには……。
「ひっ、わ、私の体に……血が!?」
「思い切り入っていたけど、“居合いきり”の威力が低かったからね。それほど斬れていないはずだよ」
「わ、私の、体に……血、血が!!」
フィリアの言葉も、今のアリシアには聞こえないらしい。最大の防御だからこそ、斬られるなんて今までほとんどなく、ましてや血が出るなど……絶対の防御だからこその弱点だ。
本当に、斬れただけでそれほど血が出ている訳でもないのだが。
「このッ……よくも!!」
「これは戦いなんだ。シルガに攻撃されたなら、打撃の跡がつくだけで済んだかもしれないね」
「くッ……もういいわ。見せてあげる。英雄を打ち負かした防御壁!」
アリシアがそういうと、周りが一瞬で冷気に包まれ始める。
「“永久氷壁”!!」
そして出来上がったのは、アリシアから半径一メートルを守る。最高の氷の防御壁。ラルドが繰り出す高速の雷の拳を打ち負かした氷壁。
それが“永久氷壁”。
「な……」
「これが、あのへたれ鼠を打ち負かした氷壁か」
「凄いね。確かにさっきの氷壁よりは堅そうだ」
「ふふふっ、こうなった私は誰にも止められない!! ……しかも」
アリシアが不敵な笑みを浮かべると、氷壁の周りで冷気が渦巻きはじめる。少し警戒しながら見ていると、先が鋭利に尖った氷柱ができる。
その数、約五十本。
「“棘氷柱”。その堅さは岩をも貫く!」
「それは厄介だね」
「私が打ち落とすよ! “シャインボール”!」
流石にこの数は厄介と見たのか、ミルが後ろから幾多もの光球を撃ちだす。
光球はミルの狙い通り、全弾氷柱に命中する……が、直に再生する。
「なんで!?」
「あなたが攻撃した瞬間に、私が強力な冷気を出して氷柱を作る。これで絶対に氷柱は尽きない!!」
「……水晶のエネルギーが無くなるまで、壊し続ければいいだけだ」
瞬間、十もの氷柱が“波動連弾”によって壊される。
が、少しの遅れがあったもののやはり直に再生される。
「無駄よ、絶対に壊せない! ……さて、じゃあ発射しましょ」
発射、そう言った瞬間に二十もの氷柱が打ち出される。が、皆相殺するなり避けるなりで、一つも当たっては居ない。だが、これも時間の問題だ。
ピーピーマックスを余分に持ってきているとはいえ、やはり四人となると消費も激しい。
しかも、消費しないようにするには、あのラルドさえも破れなかった氷壁を打ち下さなければならない。
そして更に言うと、この中でラルドが出すあの一撃以上の威力の技を出せる者は居ない。
「……ふっ、上等だ。俺がその氷壁を破った瞬間、俺はラルドを超える」
「『僕』も、『俺』の名誉を汚さないような戦いをするよ」
「私だって、絶対に負けないんだから!!」
「……じゃあ、グレイシアさん。僕達の本気……見せてあげるよ」
「ふふふっ、そう言ってられるのも今のうちよ。“永久氷壁”の力……特と見せてあげる」
アリシアは楽しそうに笑みを浮かべると、二十の氷柱をもう一度作る。
「発射!!」
「ミル、シルガ。君達は僕達が氷柱を壊している内に氷壁まで近づいて」
「了解」
「分かった!」
「ラルドは遠距離技で僕と一緒にに氷柱を破壊して!」
「分かったよ!」
フィリアの指示と同時に、氷柱がエンジェルに向かって発射される。が、ラルドとフィリアに遠距離攻撃で全て壊さされてしまう。
その隙にシルガとミルが氷壁を破壊しようとする――が、瞬時に作り直された氷柱によって阻まれてしまう。
「ちっ」
「ぜ、全然近づけないよ!?」
「当たり前よ。最高の防御に無尽蔵の攻撃。それが私の攻撃方法!!」
「……なら、君の体力が削りきれるまでやるまでさ!!」
「ふふふっ、どうやらそっちの方の英雄はあの技を使えないらしいわね……もう、私に敵はいないわよ!!」
……確かに言っていることは正論だ。だがラルド以上の攻撃を一人一人が出せなくても、皆が協力しあえばラルドのパンチよりも強力な攻撃が繰り出せるのは間違いない。だが、今は遠距離技、近距離技の攻撃でどちらの方が効果的になるのかを確かめなければいけない。
物理、特殊の強さでどちらに弱いのか、流石にあの氷壁にもその違いくらいはあるだろう。
「……いくよ」
フィリアは息を吸い、はく。そして、次の瞬間――
「“枝垂桜”!!」
「!」
――空中へ跳ぶと、五本の斬撃を飛ばした。
「そんなの、発射!!」
が、やはり数多の氷柱の前では無力に等しく、ある程度は壊した物の直に消え去った。
「……なるほど、飛ぶ斬撃ね」
「そうだよ。リーフブレードより威力は高い」
「ソーラービームは?」
「そんな事してたら、狙われてしまうからね!」
言い終わったと同時に、再び宙へ飛び“枝垂桜”を撃つ。五本の斬撃は少しも狂う事なく、氷壁へと向かっていく。
「いいわ。そんな余裕もなくすほどの、この氷壁の堅牢さを見せてあげるあ!!」
アリシアは氷柱を全て退けると、五本の斬撃を真正面から受け止めようとする。確かにフィリアのソーラービームは太陽の力を吸収して放つため、熱もそれなりに高い。加えてこの壁は氷だ。幾らあの時フィリア達を閉じ込めた氷壁よりこの氷壁が硬くても、協力なんてされたら直に破られる。だからフィリアが発射の溜めをしていたら直に攻撃する。
だから実質、今の状態のフィリアの一番強い攻撃である、この斬撃を止めれば一人は戦力外になったも同然。
そして、氷壁に向かっていった斬撃は当たった瞬間……弾けとんだ。
「ふふふっ、どう? これであなたは私には叶わないと……ッ!?」
「そんな事は分かっているよ。僕が放った理由は、君の気を引くためさ……二人を近くに行かせる為に」
「ありがとね、フィリア!!」
「……一対複数人では、必ず一人に気を向けてはならないと言う事を教えてやろう」
ミルはそのまま走って加速、シルガは両手を後ろに向けて“神速”で氷壁へ向かう。
「そ、そんな攻撃で! 私の氷壁は破られないわよ!」
「そうだろうな、だが……罅を入れることは可能だ」
「何を……ッ」
「見せてやろう、俺の中で最強……そして」
シルガの体が、蒼いオーラに包まれる。
「最速の攻撃を!!」
“解放”を発動したまま、神速で氷壁へ向かっていき、そして……。
「“波動双掌”!!!」
「ぐうぅぅッ!!!」
恐らく、それ相応に慣れていないと見えないであろう程の速度……そこから繰り出される、高速の双掌。
それは見事、氷壁の中心部を射抜き……罅を入れた。
「!?」
「まだ私も残ってるよ! ……“突進”!!」
そして、次の瞬間にはシルガはどこかへ消えており、後ろから現れたミルの“突進”……その攻撃が見事シルガの入れた罅に直撃し、更に罅を広げる。
「そんな、私の永久氷壁に……いえ、今のは隙を与えたからなったのよ。今度は、少しも隙を与えなければ!!」
「――残念、“今の”はまだ続くよ」
「……英雄!?」
アリシアも、自らの永久氷壁に罅を入れられて、そしてその元凶である二匹とその隙を作った一匹、それにばかり注意が入っていたのだろう。加えて、もう一匹はほとんど光栄でアシストしかしていない、影が薄い状態だった。
だから気がつかなかった。
「“雷パンチ”!」
「くっ……また罅が!」
『僕』が罅の入った場所に雷パンチを入れたせいで、罅も案外大きくなってきている。このままじゃ氷壁が割れるのも時間の問題だ。
だが、この事に遂にアリシアは怒り狂った。
「ああぁ!! もう許さない、あなた達は絶対に殺す!!」
自らのプライドが傷ついたからか、はたまた楽勝だと思っていた者達に追い詰められてきているからか……いや、どちらにせよ一緒だ。
生物が怒る、それは手っ取り早いパワーアップ方法だ。
火事場の馬鹿力なども、自らが危機に追い込まれるとリミッターを少し外すという上体の事を言う。
そして恐らく、アリシアもその状態だろう。
「幾ら策を練ろうと、幾ら小ざかしい手を使おうと……実力が私に叶わなければ、意味がない!!」
「ならば試してみるか? ……“波動弾”」
シルガは片手を前に突き出し、蒼い波動の弾……“波動弾”を放つ。が、氷壁に近づく寸前で下から突き出した氷柱によって貫かれ、雲散する。
「“刺死氷柱”」
「ほう、面白い……“波動連弾”」
「発射ァ!!!」
二十もの波動弾を一斉射撃するが、それ以上の氷柱の前には何の役にも立たなかった。しかも、氷と格闘という相性さもあるというのに、全くの互角の強さだったのだ。
先程とは威力も段違い、これは勝てるかいよいよ怪しくなってきた。
「無敵の要塞……正にそんな感じだね」
「ふぃ、フィリア。そんな事言ってる場合じゃないよ!」
「……あの罅の所に、どうにかもう一撃入れたならどうにか勝てるんだけど……」
「どういうことだい?」
「それは後のお楽しみだよ。……じゃ、シル兄! もう一回だけ、あの罅の所を攻撃して! なるべく特殊技で」
「……ちっ、分かった」
「なんで舌打ちなの!?」
シルガの舌打ちに、若干ショックを受けるラルド。だが直に立ち直るとアリシアの方向を向く。
「さて、次にその大きな罅に攻撃が入るとき……それはその氷壁が崩れるときだ」
「舐めるな! たかが後一回で、この氷壁が破れるわけがない!!」
「いいや破る。だから、大人しく攻撃させてくださいね!!」
『僕』は言い終わると同時に、“十万ボルト”を撃つ。それは何の狂いもなく罅の入った所へ向かっていくが……“氷盾”により阻まれる。
「やっぱり、一筋縄じゃいかないよね……なら!」
『僕』は右手に雷を溜めると、その大きくなっていった雷を一気に解き放つ。
「“雷”!!」
電気系の中でも、高威力で有名な、十万ボルトを軽々と超える荒れ狂う雷……それを思い切り放った。
『僕』は『俺』と意識を交換したばかりなので、うまく技を扱えないのだ。だから、この雷が『僕』に使える最強の攻撃。
「こんな物で、私の盾を壊せるとでも!?」
「!」
雷の前に現れた“氷盾”は、雷を真正面から受け止めた。流石に雷は強いのか、氷盾は砕けたが、雷も相殺で一杯だったのか雲散してしまう。
結局、『僕』の攻撃では何も意味が無かったのだ。
「……いや、意味は有るね」
「何を一人で、もう諦めなさい! あなたにもう手段などない!!」
「いや? そうでもないみたいだよ……知ってるかな。怒ったときって、視野が狭まるんだよ?」
「……ま、まさかッ!?」
アリシアは気付いたように、周りを見るが、もうその時には遅かった。
すぐそこに、フィリアが迫っていたのだ。
「そういうこと。言っていただろう? 一人ばかりに目を向けるなって……」
「や、やめろっ。やめろッ!!!」
「女の子が、そんな声を出しちゃいけないよ……じゃあね」
「や、やめ――」
「――“エナジーボール”」
フィリアが放った“エナジーボール”が、罅の入った場所に直撃する。すると、氷の中が輝き始め……強力な爆発が、氷から起こった。
当然そんな事になれば、氷壁は耐えれるはずもなく、崩れ去る。
「あ、ああ……」
「そして、これで……終わりだよ!!」
そのまま身を屈め、尻尾に力を入れると……次の瞬間。
「居合い“乱れ桜”!!」
「アアァッ!!?」
フィリアは後ろに移動しており、崩れ去った氷壁の場所に残ったのは……複数の細かい斬撃を受け、倒れたアリシアだった。
「……や、やった」
「……ふん」
「ま、僕にかかれば簡単だったね」
「嘘はつかないでよ。僕の頑張りがあって、初めて氷壁を崩せたんだから!」
そう、さっきの強烈な爆発の正体は『僕』が罅に攻撃したとき。その時に埋め込まれた“爆裂の種”だったのだ。
罅のせいで氷の段差やらで、種がうまく見えなかったのだろう。
「君、爆裂の種いくつ持ってきているんだい?」
「ポケモンになったからね、技を使いたいと思ってたからそんなに持ってきてないけど……十五個くらいかな?」
「「!?」」
「な、なんだって?」
「ラルドより感覚が可笑しいなんて……狂ってる、この子狂ってるよ!!」
『俺』でも、そのレベルになれば流石に多いと言っていたのに……『僕』はその逆。少ない。
可笑しいと言うレベルじゃない、これはもう狂ってやがるレベルだ。
「ははっ、とにかく。フィリアのあの、どうやったか分からない程の細かい斬撃で、無事にあのグレイシアを倒したわけだし……早くレインを助けようか」
「おぉー!!」
「いいね。一番小さい人が行くというのはどうだい?」
「私!?」
この中で一番背が高いのはシルガの70cm。リオルの平均だ。
そして次点でフィリアとラルド、60cm。因みにピカチュウの平均は40cmでラルドは異常なまでに高い。
そしてミル、40cm。イーブイという種族の大きさは30cmでありこちらもやはり大きい。
「シルガずるいー!」
「しょうがないよミル。君はそれでも大きいんだよ」
「『僕』も、異常な高さだからね」
「……」
ミルが駄々を捏ねている最中、シルガは微動だもしなかった。いつもの彼なら「黙れ。耳長兎」とかなんとか、言っていても可笑しくはないのに。
そして、その視線の先にはアリシアの姿があった。
「……まさか、な」
「じゃ、行ってくるね!」
シルガがつぶやくと同時に、ミルがレインの所に向かって走り出す。
その際、アリシアの口元が若干歪んだのを、シルガは見逃さなかった。
「ま、待て!! そこから先へは行くな!!」
「え、なんで……?」
シルガが“神速”を使い、走り出す姿を見てミルは困惑した。一体どうしたのだろう、と。
そして、ミルがそう思っているうちに……ミルの下の地面が、競りあがる音がした。
「え……?」
「くそっ……!!」
「“刺死氷柱”」
そんな声とともに、今、ミルの下から殺傷能力のある、先がとがった氷柱が飛び出して……。
「きゃ……きゃああぁぁぁ!!!」
「ちっ……“場所替え玉”!!」
ミルの悲鳴とともに、シルガは地面へ不思議玉を投げつけると……ミルとシルガが煙に包まれ、姿が見えなくなった。
「み、ミル! シルガ!」
「シル兄! ミル!!」
ようやく状況が分かった二人が叫んでももう遅く、煙の中からまず初めに出てきたのは……真っ赤な液体だった。
そして、それが血であることに、気がつくまでそう時間はかからなかった。
「あ……し、シルガ……」
「……ふ、ん。馬鹿が……」
「し、シル兄!!」
煙が晴れると、そこに居たのは……巨大な氷柱に腹を貫かれ、血を垂れ流し、今にも倒れそうなほど震えている……シルガだった。
ミルは場所替え玉の影響で先程までシルガが居た位置におり、全くの無傷だったのが唯一よかった事だ。
「なっ……まだ倒れないのかい!?」
「あ……私、は……負ケナイ」
ゆっくり、ゆっくりと立ち上がるアリシア。背後から闇のオーラが見えているのは錯覚ではないだろう。
「そんな……なんで、私なんかを」
「さぁ、な……ただ、あの糞リーダーに、難癖付けられるのが嫌だっただけだ……」
そういう間にも脚は震えており、本当に今すぐ治療してやらねば生命の危機に陥るかもしれない。
「……ぐっ、後は頼ん、だ……」
「し、シルガ! …このぉ、よくもシルガを!!」
「私、ハ……最高ノ防御ヲ持ツ者!! 負ケルナンテ有リ得ナイ!!」
「“シャインロアー”!!」
ミルは激昂して、光の咆哮を思い切り放つ。その威力はあまりの威力に反動で十秒間も動けなくなるという“破壊光線”にも引けはとらない。
そんな強力な咆哮だった。
「“絶対氷壁”!!」
「え、“シャインロアー”を……完璧に受け止めた!?」
「そんな、あの威力のだよ……くそっ、居合い“乱れ桜”!!」
フィリアもそんな光景を見て、そんな馬鹿な、とアリシアに致命的な大ダメージを与えた数多の斬撃を通り過ぎる瞬間に当てる……居合い“乱れ桜”を放った。
が、それら全てが弾かれる。阻まれる。
「……そ、そんな」
「こんな、氷壁が……」
「シル兄がいないのに、こんなの無理だよ……」
「サァ、始メマショウ
――弱い物虐めを」
三人に絶望を与えたのは、先程の“永久氷壁”よりも遥かに大きく、半径2mもあり……そして、先程の攻撃を受けていながら全くの無傷の氷壁。
――“絶対氷壁”だった。
次回「怒らせてはいけない」