第十七話 霊体ピカチュウの手がかり!
遂にシェイミの里での戦いを終わらせたエンジェル。そしてパッチールのカフェで馬鹿騒ぎした、次の日――?
〜☆〜
「う……ふぁあ」
朝、ポッポが鳴き始める時間帯だ。
フィリアやシルガはとっくに起きていそうな時間、そんな時に俺は起きた。
と、目を開けようとすると朝の日差しが直撃している位置だったのか、とても眩しい。因みにこんな事は既に数回経験している。その度にもう二度とないようにしよう、と思い結局繰り返す。
俺は目を軽くこすると、湧き水の位置まで移動し顔を洗う。勿論だが飲み水としても使うので、水を手ですくうと零しても大丈夫な位置まで移動して顔を洗う。
「……あれ、まだ誰も起きてない」
この時間なら、とっくにシルガやフィリアも起きてると思うんだけどなぁ、と思う。ミル? ナニソレシラナイ。
「でも、喋り相手誰もいないのか。なんか暇だな」
いつもなら、こんなことはほとんどないのに……やっぱり、昨日のパッチールのカフェでの馬鹿騒ぎが原因か。
「……そうだ、レインは起きてるよな」
確かあいつは魂だけだから寝る事なんてないんだよな……そう考えると、なんか可哀想だな。事故で魂だけが切り離されたなんて。
もう時の歯車事件も終わったんだし、体を見つけてやらないと。
――体を見つけてやらないと? 随分余裕があるのね。自分に――
「って、レイン!? いきなり話しかけてくるなよ!」
――ごめんごめん。でも良いじゃない? アンタが暇だって言うんだからこうやって私が話しかけてやってるんじゃない――
「五月蝿いな……それより、余裕があるってなんだよ」
――アンタ、あの氷壁を壊せずに、しかも自分の骨も折れてたじゃない? そんなので、私を助けるって?――
「うぐっ」
確かに、正論の中の正論だ。
俺はあの時、俺が持てる全ての力を放った。“爆雷パンチ”を放った後は、多大な電力を消費するから“電気ショック”さえまともに撃てなくなる。但し全力じゃなければ、解放状態と超帯電≪ボルテックス≫が合わさった回復力で元に戻る。
が、そんな俺最大の打撃技でも氷壁は破れなかった。確かに全解放さえできれば、ディアルガにとどめを刺した“ライジングボルテッカー”が放てるかもしれないが……。あれは雲の中で充電して、やっと放てたからな。あの時は超帯電≪ボルテックス≫時よりも電力があった。
「でも、あの時はまだ冷却途中だったんだぜ?」
――教えてあげるわ。あの氷壁は例え冷却が終了していたとしても、壊せただけで骨うは折れてたわ――
「え……?」
――発想自体はいいのよ。電気をあそこまで細かく、しかもそれを最大限に使うなんて普通じゃできないわ――
「まぁ、あれは俺最大の技を強化するために造った技だからな……」
――でも、アンタの体がそれに着いていけていない。幾ら全解放に耐え切ったとはいえ、それも一時的なものだしね――
え、全解放ってそんなに危ない物なのか? ……と言いかけたが、よく考えてみれば当たり前だった。
解放でさえ一時間が限界、というより十五分からは電気を上手く扱えなくなり、三十分もすれば体中を酷い激痛が走る。
だが全解放は、体の百二十%の力を使う。限界を超えた力なのだ。それゆえに、体への負担も並みのものじゃない。
「あ、そうか。だからあのグレイシアも技は良いって言ってたのか……」
――そうよ。しかも、私は自分の体のある場所へ行った事がある――
「え、じゃあそのまま帰ってくれば……」
――アンタ馬鹿? 私の体は半年も動いてないのよ? 力も技も、あのダンジョンを通り抜けるには厳しいのよ――
「……確か、“凍えの霊域”だったよな?」
――そうよ……はぁ、なんか疲れてきた。ちょっと休んでくる――
「ああ、じゃあな」
……それから、頭の中に言葉が響く事はなかった。
ただ、今思えばレインは相当苦しい立場なのは分かる。体がそこにあると知りながら、そこから脱出する事はできず、しかもこれだけの会話で力を使ってしまう。
幾らこいつが俺に馴染もうが、やはり自分の体に戻った方が楽になるだろう。
「とりあえず、パッチールのカフェへでも行って手がかりを探すか!」
右手の骨も、ほとんど完治したし。本当に化け物って言われても可笑しくないな、俺。
「……そういや、霊体の時はピカチュウの姿だったけど……本当の体もピカチュウだったりして。だとしたら俺とあいつとでピカチュウ二匹になるな」
エンジェルのメンバーも、遂に増えるのか……いやまぁ、実際正式な依頼を受けて行く時には四人でしか行けないからな。
五人で行けるとなると、依頼を受けずに普通に探検に行くとか……正式な依頼では四人でしか行けないのも、リーダーがチームの状態を見切れないとか、そういう理由だったと思う。
ただ、俺はチームの状態なんてほとんど見てないからな。
「とりあえず黄色グミでも持っていくか!」
俺はトレジャーバッグから黄色グミを取り出すと、ゆっくりパッチールのカフェへと向かった。
〜☆〜
「……うおっ、凄ぇ」
パッチールのカフェへ来てみると、昨日馬鹿騒ぎしたのが嘘のように片付いており、またいつものカフェへと戻っていた。
が、少し様子が可笑しい。
「? ……一部の奴らがなんか騒いでるけど、なんだ?」
不思議そうに見つつも、俺はドリンクスタンドへ直行する。横にあるビックトレジャーとかいうのは一度しかやったことがないが……いきなり壁が破られて、ルンパッパとキレイハナ数名が急に出てきて踊りだし、破られた壁へ戻っていったらいつの間にか直っていたという不思議現象の後にレアな技マシンを貰ったのは驚いた。
後から訊くと、あれが大当たりだったらしい。
「そういや、あの技マシンはフィリアが使ってたよな……どんな技マシンだったっけ?
」
確か、なんとか斬りだったか。前半の部分は忘れたな……特別な技マシンだって言ってたのは覚えてるけど、なにが特別かは忘れたな。
「……おや、ラルドさんですか」
「ああ。ちょっとな」
俺はクルルに黄色グミを渡すと、出来上がるのを待つ。正直渡すときに言うあの掛け声? みたいなのは必要なのか。
「……はい、できました〜」
「お、ありがと」
出来上がった黄色グミのジュースを受けとると、直に飲む。勿論一気にだ。
それにしても、流石黄色グミでできたジュースだ。電気タイプの好むグミからできただけあって物凄く美味しい。
俺の賢さも上がった気がするしな、うん。
「そういえば、今皆さんの間で話題になっていることがあるんですよ〜」
「話題?」
「そうです。ここから北に行った所にある、心霊スポットで有名な“凍えの霊域”という所がありまして〜。なんと、そこに夜な夜なピカチュウの霊が現れるらしいです〜」
「ッ!!」
“凍えの霊域”、それはレインの体がある場所で……それがどこにあるのか、俺はそれを探しにここまで来たのだ。
が、想定外の情報。幾ら“凍えの霊域”にあるとは言われてもどこにあるのか、またその名前が本当なのかで迷っていたのだが……確定的な証拠もついてきた。
「お、教えてくれ! それは地図でどこにあるんだ!?」
「おや、興味津々ですね〜。では地図を出してください〜」
俺は急いで地図を取り出すと、それを置いて急いで広げる。
「えっと、確か……そうそう、この辺です〜」
「この辺りって……まさか」
地図上、雲に覆われ見えない場所……その直下を指す。
「あ、危なかった……雲に覆われてたら行けなかった」
ただでさえ、この地図はダンジョンが書き記されている所が曖昧で、雲に隠されていたら特別な道でもない限り行くことはできない。
もし正確に書かれていたとしても、それではこんな地図には収まりきらないだろう。
「……ここが、“凍えの霊域”」
「はい〜、ただ注意してくださいね〜」
「注意?」
「なんでも、最近このダンジョンの奥地に凶暴なポケモンが住み着いたらしくて……ここへ行くときは、しっかりと準備してください〜」
「ああ、分かった。教えてくれて有り難うな」
「いえいえ、どういたしまして〜」
俺はそのまま後ろを向くと、ダッシュで拠点へと戻る。
だって凶暴なポケモンが住み着いているんだぜ? 凶暴=強い……つまり、強敵と戦える。
「……活性化に耐える為に、俺自身を鍛えなきゃならないしな」
そして、俺はサメハダ岩へ戻った。
〜☆〜
「う……ふぁあぁあ」
目が覚めると、目の前には岩の天井がある。いつもの光景だ。
波の音が聞こえ、藁のベッドが気持ちいい。羽毛を布で包み込んだ布団というものが中央都市にはあるのだが、私はこちらの方が好きだ。
「むにゃ……あれ、フィリアー? シルガー? ラルドー?」
皆、返事がない……フィリアやシルガは……寝てるだけなんだ。でも、ラルドはどこにいるんだろ?
「とりあえず顔を洗って……う〜」
私は湧き水の所までいくと、顔を水で洗い、水気を顔を振ることで飛ばす。勿論だが顔を洗うときはぬれても大丈夫な所でだ。
そのまま私は階段の方へ向かうと、表へ出る。
「う〜ん!! やっぱり朝はいいよね!」
暖かい日の光を浴びて、寝起きの体を伸ばす。これをすると背が伸びるとか何とか……あ、別に大きくなりたいわけじゃないからね?
「あ、そういえば郵便ポストになにか入ってないかな?」
新たに設置した郵便ポスト。私達探検隊はギルドを卒業、若しくは探検隊試験を受ける事で一人前の探検隊になれ、探検隊としてギルドにいた頃より様々な施設やダンジョンを受けれるようになる……だったっけ?
で、救助隊は初めから救助基地なるものを建て、そこを拠点に最初から一人前の救助隊になることができる。実力的には違うだろうけど……探検隊は試験を受けなければならないが、救助隊は受けなくてもいい。
この事から、救助隊の方が数が多いのだ。全部フィリアから訊いただけなんだけど。
「そういえば五年前、世界を滅ぼすかもしれない隕石をどこかの救助隊が止めた事件があったっけ……その人達も英雄って呼ばれてたらしいし、私達と似てるよね」
独り言を呟きながら、ポストの中身を見る。
するとそこには……なんと、一通の依頼書が入っていた。
「どれどれ……へぇ、お尋ね者なんだ」
依頼書には種類がある。
一つ目は物を拾ってきて、や届けるなどの比較的簡単で初心者が一番最初にこなしていく安全な依頼。といっても命を落とす危険性も零じゃないので、安全とは言い切れない。
二つ目はお尋ね者、お尋ね者にも種類があり、窃盗などの犯罪の重さと犯人の強さでランクは決まるが、ほとんどその犯罪の重さで決まる。
比較的軽い犯罪を犯した者が、実は世紀の大悪党だったなんてよくある話だ。
で、これはお尋ね者系……ランクは。
「え、えぇ!? ランクは☆6!?」
☆5、普通のランクの最高値はSだが、それを超えるランクがあるというのは常識だ。
ギルドで受けられるランクレベルは最高で☆4。それを受けられるのはダイヤモンドランク以上の探検隊だけだ。
それ以上は腕が立つ探検隊でも非常に危険で、☆レベルの最高は☆9。それも☆9になるなんて町を脅かす存在にでもならなければいけない。
一説には☆10があるという噂だが、あくまでも噂なので真相は定かではない。
「場所は……“凍えの霊域”? 確か最近発見されたダンジョンだよね」
半年前、私とラルドが初めて出会った時に、このダンジョンは見つかったらしい。
「依頼内容は……幽霊を見て、硬直している隙に珍しい宝石を奪われた?」
幽霊? 幽霊と言ったらゴーストタイプとか、そういう種族の類なんだろうけど……ゴーストタイプをみて硬直するなんて聞いたことがない。
虫タイプを見て失神するポケモンなら身内にいるのだが、ゴーストタイプを観てはないだろう。
と、言っているミル自身はゴーストが苦手なのだが、そこは見逃そう。
「だから取り返して欲しい、か」
実際、今の私達のランクはダイヤモンドランク。それも後少しでウルトラランクに昇格する。
フィリアから訊く限りでは、マスターランクに昇格する時に限り特別な試験があるらしいが……私たちにはまだ、確か後三つの昇格がある。ウルトラ、スーパー、ハイパー……だったはず。
「でも、ようやくこんなに高いランクの依頼も来るようになったのかぁ」
今までは最高でも☆5レベルの依頼しか来なかったのだが、ようやく☆6レベルが来るようになった。
「フィリアやシルガに報告しようっと」
私は上機嫌で家へ戻ると、急いで報告しようとする――が、皆まだ起きていない。
「皆、起きてないの? 昨日確かにカフェで騒いでたけどさ……そんなに疲れるものなの?」
しょうがない、後でラルドが帰ってきたら伝えよ……。
「もう一回寝ようかな。やることもないし」
私は特にやることもないので、藁のベッドに寝転ぶ。太陽の光が直撃するこの岩場の中で、藁の香りも太陽の匂いへと変化する。
「ふぁあ、おやす――」
「――うわあぁぁ!!!!」
さて、寝よう! という所でなにかが階段から転げ落ちてくる。お馴染みのドシン、という音が鳴る。
何事か、と私が飛び起きると、そこには……。
「うう……」
「ら、ラルド? 大丈夫?」
ラルドが居たのだが……少し変だ。普段のラルドとはなにか違う……顔や声はいっしょなのだが、雰囲気が違う。
ミルが小首をかしげていると、驚くべき言葉がラルドの口から出る。
「……あれ、ミル?」
「……あ、あれ?」
可笑しい、普段のラルドならばあれ、などとは言わずに「お、ミル」とか「み、ミルか」とか言うに決まってる。しかも言い方にまるで棘がない。
なんというか、丸くなったような……。
「うわぁ、もしかして人格が入れ替わっちゃった? 凄いね」
「へ?」
「あ、どうも初めまして。ミルさん。『俺』がお世話になってるね。『僕』です」
「へ……え」
私は次の瞬間、誰もが飛び起きるくらいの声を出して。
「えええぇぇぇえ!!!??」
盛大に、驚いた。
次回「『僕』との探検!」