第六話 空の頂き
遂にギルドを卒業し、新たな拠点へと移り住んだエンジェル、昔話に花を咲かせ――?
〜☆〜
……朝、か?
閉じた目に日光が当たって眩しい、それでも位置的には当たっていないほうだ。しかも適度な温度でもある。
冬には風もある程度防げると思うし、暑さも湧き水があるのでなんとかなる。
何度見てもいい場所だ。……それにしても何故、誰にも見つからなかったのだろうか。
いや、ここに住む奴らは全員善意の塊みたいな奴ばっかりだからな、空き巣なんてないだろう。
「ふわぁ……今、何時だ?」
「時間にして多分、八時だと思うよ」
「へー……フィリアか、おはよう」
「おはようラルド、いつもより遅かったね」
八時か、いつも俺が起きていたのは七時半が普通だったよな。八時の時もあったが、いつもではない。
ミルはいつもだけどな。
「ミルは起きてないよな?」
「当たり前じゃないか」
「当たり前だな」
生物が呼吸するぐらい当たり前だな、うん。
「そういやシルガはどうしたんだ? 姿が見えないんだが」
「外で朝日を見てるよ。ここまでほぼ毎日ね」
そう、シルガは帰って来てからの数ヶ月間、ずっと朝日を見ていたのだ。
早くに起きて、窓の外を見続け、日が昇る所を見る。途中からは習慣になっていたが、見る目だけは変わらなかった。
「……俺も、未来の記憶は思い出した方がいいのかな……」
「いや、あの記憶はお前にとっては危険だ。思い出さない方が良い」
「え、って、うわぁ!? シルガ、いつから後ろに!?」
「今だ……未熟者が」
「未熟じゃなきゃなんだっていうんだよ……ディアルガを倒したのだって、全解放のお陰だぜ?」
全解放、解放は全身のリミッターを解除し、体の器官を強化してより大量のエネルギーを扱えるようになった物。
全解放は解放とほとんど同じだが、強さは二倍位……それぐらいだったはず。
「……ああ、なにやらカフェの方が騒がしかったのだが。何かあるのか?」
「騒がしい? ……まさか!!」
騒がしい、つまり昨日言っていた……新情報の事!
新情報の時は絶対に二日前には人だかりができると言われていたらしく、それが大なり小なり絶対にだ。
そして……騒がしいと着たら、完璧に新情報発表の日だ。
「卒業してから暇だろうと思ってたし、実際今は何も無いし……暇つぶしに行ってみるか」
「いいね、僕も気になるよ」
「ならば俺は残る。人が集まる所に行くのは勘弁だ」
慣れてないと無理、か。
人間不信か? こいつは。
「じゃ、行こうぜフィリア。早く行ないと終わってるって可能性もあるからな」
「ああ、行こうか」
フィリアと二人で行動、考えてみれば初めてな気もするようなしないような……まぁ、いいか。別に変わる事なんて無いわけだし。
「それじゃ、出発進行〜」
「暇だからって、ミルの真似をするのは止した方が良いよ」
あ、バレた?
〜☆〜
ざわ……ざわ……ざわざわ……。
今のカフェ内は、そんな声で一杯だった。直前で興奮するのは分かるがもうちょっと静かにしてくれよ……因みにパッチール達は後ろを向いて立っている。情報の整理とか、その辺だろうか?
「……えー皆さん。お忙しい所、お集まり下さりありがとうございますぅ〜。今日は何と、皆さんに嬉しいお知らせがございますぅ〜」
ざわ……ざわ、ざわ……。
「皆さん、“空の頂き”という山はご存知でしょうか?」
「“空の頂き”?」
「ああ、僕知ってるよ、確か……」
あ、こいつは前のバリヤード……情報家なのか?
「東の方にある、物凄く高い山の事だよね。何でも、その高さは天にも届くって噂らしいけど、険しい山脈に囲まれているせいでそこに行くルートが開拓されてないんだ」
博識だな、って、あれ? 俺が知らないだけか、いやでもさっきのオクタンも知らなかったし……畜生。
「だから今まで、調査はほとんどされてないみたいだよ」
「はい〜その通りですぅ〜。よくご存知で〜。バリヤードさんが仰るように“空の頂き”はほとんど調査されておらず……未だに多くの謎に包まれているのです」
国、っていうかトップの探検隊が探しても見つからなかったって事か? 山脈が険しくても最難関ダンジョンよりはマシだろ。
「天に届くほど高く! そして多くの謎に包まれたミステリアスな山……ああ、なんて探検心を擽る響きなのでしょう! 行ってみたい、見てみたい!」
確かに擽られるし、見てみたいな。いけるかは分からないが。
それでも最近時の影響も0,1%ぐらいは直ってきたって話しだし……話、だし。
「そこで手間ども、プロジェクトPではその願いを叶えるべく……暫く前から、空の頂へ通ずるルートを開拓してきたのです……」
あ、あのリサイクルってプロジェクトPって言われてるんだ。知らなかった。
「そして先日、遂に! そのルート開拓に成功してのです!」
『おおぉ〜!!』
「しかも、しか〜も! ルート開拓に成功しただけではなく……なんと、山の麓に小さな隠れ里を発見してしまったのです!」
『おおおぉぉ〜!!!』
「隠れ里って、何か忍者みたいだね」
確かに、だからといって忍者が住んでいたらそれはそれで……入った瞬間、刃を向けられるかもしれないんだけどな。
「はい〜流石に忍者ではないのですが……その代わり、とても珍しい“シェイミ”というポケモンが住んでいるらしいですよ〜」
「シェイミ?」
「ええ、手前も知らない種族なので詳しい事は分からないのですが……とても可愛らしい形だそうですぅ♪」
「か、可愛い……」
「気になる……」
騙されるな、あくまで可愛らしい“形”なんだ。実際はどうなっているか、まずはそこからだ。
「それから更に! 調査チームの報告によると……シェイミの里に、空の頂へと続く登山道を発見したとの事! これは大発見ですよ〜」
「おぉ……最高じゃねぇか」
「この山はほとんど調査されてないので、お宝がザックザク、新発見がドッコドコ! かもしれません!」
「かもかよ!?」
「それに古い言い伝えでは、どんな宝にも勝る秘宝が眠るとも言われているのですッ!!」
まぁ勿論だが、探検隊というものは秘宝というワードが出れば余程疲れていない限り……拍手喝采が鳴り響き、様々な言葉が飛び交う。
「お宝!」
「新発見!」
「凄いッスー!!」
「はいー! それでは皆さんお待ちかね、シェイミの里の場所をお伝えしますぅ〜!!」
……地図からみても東で、ツノ山の近くか? そう遠くは無いんだな。
「詳しいことは現地に居るプロジェクトPの調査員に聞いてみてください〜。それでは皆さん、夢とロマンに向かって、張り切っていきましょう!!」
『おおっーーーーーー!!!!』
拍手喝采、この状況には凄いピッタリな言葉だ。
でも“空の頂き”か、今まで調査が断念されるほど難しい山脈に囲まれてるんだから、当然そこの敵も強いよな?
「さぁて、フィリア! 早速あいつらに報告だ!」
「分かっているから、もう少しゆっくり行かないかい?」
「善は急げ!」
「はぁ……分かったよ、行こうか」
「そう来なくっちゃな!!」
「君とミルは少し似てるね、主に面倒な部分が」
ん? なんて言ったんだ、最後。
〜☆〜
「――つまり、私が寝てる間にカフェに行って、シェイミっていう可愛いポケモンがいる里と“空の頂き”の情報と場所を教えてもらったと……これでいい?」
「OK、物分りが早くて助かるよ」
まず、簡単なことをフィリアに説明してもらえれば後は分かる。フィリアってば説明上手だからね!
私? 私は下の下の下下下くらいかな?
「相当じゃないか!?」
「そうかな、別に気にした事は無いけど」
「おい、気にしろよ」
「ここで断るのが私なんだよね、ふふん」
「手が滑って白いグミだけ燃やしてしまいそ……」
「やめてぇ!?」
ラルドの馬鹿! アホ! 間抜け!!
と伝えても、全部「お前よりはまだマシ」とか言ってくる……フィリア、助けて〜。
「僕は知らないよ、ミルも自分で対処するぐらいの力はつけないとね」
「そ、そんなぁ〜……し、シルガは」
「断る、俺が本気を出せば全員論破できるからな」
「……へぇ、言うじゃないか。なんなら僕と対決でもしないかい?」
「別にいいが、人間の脳を舐めるなよ?」
人間の脳なんて知らないから、助けてよ……うぅ。
「形勢逆転、というか変わらなかったな。大人しく空の頂へ行く準備をしておけ」
「え、もう行くの!?」
「――で、だから――」
「いや――だからといって――」
「当たり前だろ? 早く行って早く突破する、これが探検の基本だろ。普通に考えろ」
「私は普通じゃないの!」
「あー、はいはい。お前は普通より底辺だな」
むぅ……絶対にラルドの弱点を突いてやる! 知ってやる!
えっと、確か擽りと、他には……。
「――ということだ、異論は?」
「悔しいけどないね」
「だから言っただろう、勝てないと」
「人間も賢いと言う事だね……くっ」
「お前らも準備しろよ!」
他には……カナヅチなのと、あ。
――寒いのが苦手なんだった。
果たしてこれは、何か寒い事がおきる事の前兆だろうか?
次回「山での出会い、シーア登場!」