第一話 帰ってきたエンジェル!
あの砂浜で、奇跡の再会を果たした二人。それから数ヵ月後――?
〜☆〜
「ん……ふぇ、皆、お早う……」
「ん、ミルか。今日は早く起きたんだな」
「今日は休日だからだろうね、ミルは休日になると早く起きるから」
「子供なんだ、察してやれ」
「とか言いつつ、まだ寝転んでるお前もお前だ」
「昨日は疲れたんだ……お前が俺をモンスターハウスに放り込むから」
ここは、有名な探検隊が続出されると言う、最年少ギルドマスターランクのプリル・クリムが親方を務める、かの有名なプクリンのギルド。
その一室の、とある英雄が住まう――ただの部屋だ。
「でも……まだ眠いよぉ〜」
このイーブイの名は“ミル・フィーア”。家出して、このギルドに入ろうと長年サメハダ岩で暮らしてきた自他共に認める臆病耳長兎だ(み、耳長兎は認めてないよ!)
戦闘に関しては、そんじょそこらのポケモンじゃ叶わないほど、だが弱虫なので未だに敵が怖いらしい。
実家は知らない。
「ミル、二度寝はだめだよ。今日は皆と行きたい事がある、って言ったのはミルじゃないか」
このツタージャ、名を“フィリア・レヴェリハート”という。
一人称が女の癖に僕と、少し変わってる上に何と、この世界でも有名なレヴェリハート家という名家出身。
本人は気にしていなくて、名家出身だからか物知り。実力はミルと同じぐらいだったと思う。因みに調べごとをする時は本気で凄い。
家に居るときは重度の引きこもりだったようだ。
「寝たいのなら寝かせてやろうか? 但し永眠の方だが」
こいつはリオルの“シルガ・ルウス”、俺と同じ元人間だ。
フィリアとはまた違ったほうに賢く、それでいて冷静。昔は何を考えているのか分からないほど顔を歪ませない、読心術でもない限り分からないポーカーフェイスを持つ。
解放と言う特殊能力を持つ……が、正直どんなだったか忘れた。
「物騒だな、おい」
そして俺、“エメラルド”。
苗字の方は知らないが、名前はこうだった……筈、ユーレから聞いた後には誰にも聞いてないから分からない。
元人間に加え、俺の中には精神だけ切り取られたと言う“レイン・コキュート”という奴まで入っていてかなり五月蝿い。
――ちょっと、五月蝿いってどういう意味!?――
こんな風に。
俺自身も“解放”という特殊能力を扱え、更に“全解放”という解放を更に超えた能力も使える。
だが、どちらとも肉体疲労が半端じゃないので普段使う事はあまりない。
「まぁ、こんなので俺の日常は形成されている……正直、かなり悲しい」
「どういう意味!?」
「そのままの意味だ……それより、今日は行くんだろ?」
「うん、久々の休日だし……温泉行こうよ!!」
「昨日も聞いた台詞だ……確か」
――昨日、探検から帰ってきた後――
『ねぇ、さっきプリルが「明後日に大事な話があるから、明日は休んでいいよ」て、言ってたんだよ!』
『だからどうした?』
『だから……温泉行こうよ!!』
――時間は今に戻る――
「確かそう言ってたね。別にいいんだけど、ミル、顔を洗いなよ」
「うん、分かった! ……ぷはぁ、でね、それでそれで……」
「『実はあの温泉、疲労、肩こり、腰痛や頭痛に効くって話だけど……なんと、美容にも良いって話なんだよッ!!』だったよね」
「むぅ、フィリアが私の話を遮ってくるよ」
「一部の最後は出番なかったしね、別にいいんじゃないの?」
「な、なに一部って!?」
メタ発言はよろしくない……と、そんなこんなで現在こんな感じ。
と、俺が戻った後だけど……何とシルガも戻っていたのだ、曰く「仲間を置いて戻る気があるか? と聞かれたのでな、お前を鼻で笑ってやりたいので戻ってきた」とふざけた発言、だからモンスターハウスに放り込んだんだ!
後悔はしてない、だが反省もしてない。
お馴染みレインも復活、曰く――ああ、死のうが生きようが肉体に戻らない限り私はアンタと一緒だからね。アンタが復活すれば私も同じく復活するのよ――との事。
あれだけ皆の事を心配してた俺の心が……一瞬で崩れ去ったよ。
「……ふぅ」
でもリードは心配だ、リードは消えなかったか……まぁ、大丈夫だと思う。
「じゃ、そろそろ行こうぜ。入る隙間がなくなるぞ」
「でも、あそこへ行く方法はあまり知られてないから、人も居ないだろう……正に秘境だね」
秘境は言いすぎだろ……あれ? 俺達が最初にあそこへ行ったのってどういう方法だっけ?
「……そろそろ行こうか。もう道は整備されたし、そう遠くはないだろう」
「あの道をまた通るのは嫌だからね……」
あ、そうだ。滝壺の洞窟から流されたんだった。
〜☆〜
「おぉ、やっと着いたよ! 温泉に!」
「ここの温泉は美容効果の他に様々な効果があるからね……来て損はないよね」
えっと、疲労を取る他には、肩こり、頭痛、腰痛、だったっけか? 思い返せば体にいいんだな、この温泉。
「おぉ、エンジェルじゃねぇか!」
「エンジェルの皆さん、おはよう」
「おはよう、ヒメにヘス」
このヒメグマとリングマ、名前はヒメにヘス。
ミルが俺と会う前から知り合いだったらしく、一緒に遊んでたりもしてたらしい。
因みにヒメの方は早く進化したくて堪らないらしい。
「ここの温泉はいいわよ、疲れが取れるから」
「知ってるけど、そんなにいいのか?」
「おう、ここに来る前、ヒメの進化の為に特訓をしてたんだが……五分でその疲れも吹っ飛ぶ吹っ飛ぶでな」
「そんなに凄いんだ……なら早速入りましょー!!」
「み、ミル! 飛び込むな!!」
お湯がかかって全身が濡れる……ははっ、いいぞ。もう、俺は怒った。
「“アイアンテール”!!」
「なにを……ひゃあっ!?」
ミルの眼前に“アイアンテール”を叩き込む、そうすればお湯が弾け飛び……ミルに思い切りかかる!
「う……びしょびしょだよ」
濡れて毛が全身に張り付く、ミルみたいな毛が一杯あるポケモンは乾くのが遅いらしいが……いい気味だ。
「もう、ラルド! 許さないよ!!」
「上等だ!」
その後、フィリアに止められるまで掛け合いは続いたと言う……止める方法? そんなの睡眠の種に決まってるだろ。
次回「卒業試験」