ポケモン不思議のダンジョン空の探検隊 エンジェル〜黒と白の12の翼〜







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第一章 帰ってきた救世主
第十六話 空の頂き〜この里での最後〜
フィリアチームやフロンティアチームが着々とベトベトンを倒していく中、シルガは未だ戦闘中、しかも劣勢になっており――?





〜☆〜

……氷壁内部、シルガVSベトベトン。
ただ、普通のベトベトンよりも二倍の大きさで、普通のベトベトンよりも野太く低い声だ。
一方、そんな巨大ベトベトンと戦っているのは……傷だらけ、しかも今にも崩れ落ちそうなくらい震えている……リオルのシルガだった。

「はぁ、はぁ……“波動掌”ッ!!」

「ベトォッ」

「くっ……ぐあァッ!?」

殴った直後に来る、原因不明の衝撃。
その繰り返しを何回もしてきて、今、シルガの体をこんなふうにするには十分すぎる痛みだった。
勿論、その隙に攻撃するなどしている為にシルガが傷だらけになっており、今も攻撃しようとしている。

「く――“見切り”」

それを紙一重で避けると、今度は特殊技である“波動弾”を繰り出す。
が、それも効いた様子は無く、平然とそこに居座っていた。

「くっ……なんだこいつは、化け物か」

実際、普通の二倍の大きさのベトベトンに、更に原因不明の痛みを与え続けられているのだ。恐怖を植えつけられない方が可笑しい。
もっとも、シルガの場合は理解不能、の方らしいが。

「……今まで喰らい続けて分かった。あれは恐らく“カウンター”の類だな」

“カウンター”。
使い手の熟練度によって変わる技で有名であり、その昔“ソーナンス”という種族の探検隊が、本来は攻撃を喰らい、その威力を二倍にして返すと言う技。のはずが、技を喰らう寸前で跳ね返したと言う記録がある。
そのため、その探検家は一時期無敵を誇っていたが何でも桃色のポケモンに負けたらしい。

そして、これは恐らくそんな跳ね返し技の類の物だろうと、シルガはそう思っていた。

「だが……何故、攻撃を喰らっても平気な顔で跳ね返せる?」

カウンターでも攻撃を受け、その二倍の威力で返す。逆に言えばカウンターを狙っている時の攻撃は必ず当たるのだ。
なのに、こいつは苦の表情を一切見せずに跳ね返す。裏技のような技だ。

「だが関係ない。お前を倒し、外に出る!」

そう叫び、シルガはベトベトンへ向かっていくと……“真空波”を繰り出し、衝撃を吸収させる。
そして直撃した瞬間、ベトベトンへ近づき……“はっけい”を叩き込む。

「くっ……がはッ!?」

だが、やはり無理だった。
この状態が約十分間、ずっと続いてきた。勿論だがシルガの体はぼろぼろだ。

「はぁ、はぁ……」

ベトベトンがどうやってシルガの攻撃を無視して跳ね返せるのか、特殊技のときは跳ね返ってこなくても、打撃の時のみ跳ね返ってくるのか。
この二点を解明しない限り、勝利はほぼ不可能だろう。

「いくぞ……“解放”」

その為にはまず、受けるダメージを軽減させなければならない。その為、波動で棒を作る。
そして第一に、波動を実体化させる能力がある、とはいっても多大な精神力や体力を使う事になり、しかも少しでも自分の体力や精神力が揺らぐと直に消えてしまう。

「だが、この状況で出し惜しみなどはしない」

勝ち目のない安全な戦いより、勝ち目を見出す危険な戦い方。
元は死んだはずの命、いつ死のうが悔いはない……そんな考えだ。

「はぁっ!!!」

まずは力を込めた突きを入れる、がやはり聞いた様子はない。
次に上から殴り、殴り終えた瞬間下から上へと殴り上げる。がこれも効いた様子はこれっぽちもない。
痺れを切らしたシルガは、遂に怒涛のラッシュへと持ち込むが全て受け流される。

「くっ、ぐっ、はあぁッ!!!」

最後の三連撃、下、上、横一閃。十字の形に斬れるが、やはりヘドロの体にはダメージがない。
……が。

(……この状態では、衝撃を受け流せないのではないか?)

そう考えると同時に、棒で二つに分かれた上半身を横なぎに殴り、下半身二つを蹴りと拳で吹き飛ばし、氷壁に叩きつけられる。
流石のベトベトンもこれは受け流せなかったのか、ダメージを受けた様子だった。

「なるほど、この状態ならダメージを受ける……だが」

一々この状態にするのは大変だし、効率的にも悪すぎる。やはりどうしてダメージが通ったか、それを考えるのが一番良い。

「……すぐさま衝撃を逃す方法……いつも俺の攻撃を受けている時は止まっていた……」

更に言えば、あの時は体が宙に浮いていた。下半身は地面についていたが、それでも上半身だけのダメージを受けたのかもしれない。

「……衝撃を逃して、なにかの技で衝撃を跳ね返す……」

いくら考えようが、答えは出てこない。ヒントもあるし、何より元凶を調べればいい話なのだが……後一発しかあの衝撃を耐えることができない。もし二発食らえば負ける。
それだけは絶対に阻止しなければならない。

「しょうがない、か」

シルガは手に波動を纏わせると、走ってベトベトンへ向かっていく。そのスピードは、正に“神速”。

「これで、貴様の可笑しな技を――“見破る”ッ!!」

「ベトオォォ!!!」

シルガが叫ぶとともに、ベトベトンもシルガを威嚇し、その直後に攻撃に備えピタリとも動かなくなる。

(やはり、その場で静止しなければならないのか……だが、そんなものは最初から分かっている)

“見破る”を発動させている今のシルガは、波動と見破るを組み合わせる事でどんな技でも見破ることができるようになる。
勿論、どんな技でも見破ると言う事は、それだけ脳にデータがいくことなので、制限時間もある。

「……喰らえ、“波動掌”!!」

「ベトオォッ!!!」

シルガの攻撃が直撃した瞬間、ベトベトンの体に波ができる。ヘドロの体に衝撃を加えると、全身のヘドロが揺れ、こうして波ができる。
スライム状の物を地面へ落とすと解かるだろう。

「……ッ!?」

そして、問題はこの後だ。
その波が体の後ろへ行き、消えたと思いきや――突然、前へ来る。

「まさか……ぐふッ!?」

ある一つの考えが浮かんだ瞬間、体に衝撃が走る……が、そんなものは直に忘れて、考える事に移る。

「はぁ、はぁ……まさか、衝撃をそのまま返すというのは」

“カウンター”でもなんでもなかったのだ。この跳ね返しは。
それはスライムを落としたとき、地面に引っ付くだろう。それはスライムの粘着力も強く、また衝撃を跳ね返していたとしてもスライム自体の重さで衝撃だけで跳ぶ、なんてことはできないだろう。
だが、ベトベトンはどうだ? 跳躍するために衝撃を跳ね返すわけでもないし、さして粘着性があるとも言えない。特性に粘着があるからといって粘着力が凄いわけもない。
そもそもスライムでも全ての衝撃を跳ね返せる訳でも無いのだ。

強靭かつ柔軟な肉体。というかヘドロ体を持つベトベトンだからこそできる芸当だったのだ。

「ふっ……そういうことか」

真実が分かると同時に、シルガは不適な笑みを浮かべる。今のシルガの気持ちは、子供が謎を解いた時に感じるような、そんな気持ちになっていた。
いくら冷静で無表情で、十代とは思えないほど大人びていても、結局は子供なのだ。

「ならば、俺がすることはただ一つ」

氷壁が背中にぶつかる、ここが奴から一番遠い所だと言う事を証明している。しかも、冷たくてとても気持ちいい。
それは、シルガの心をリラックスさせ、集中力を高めさせるには丁度よかった。

「聞け。これから貴様を倒すにあたり、攻撃する回数は三回だ」

「ベトォ?」

「そしてその三回で……貴様は俺に負ける」

「ベ……ベトォ!?」

言葉が伝わったらしく、無茶苦茶に怒っている。無造作に“ヘドロ爆弾”を撃つその姿は、玩具を投げ散らかす子供を連想させる。

「あの記憶を思い出しただけで、そんなもの普通は連想しないがな」

再び“神速”でベトベトンへ向かっていくと、“波動一部纏装”を拳に纏わせ、そして――。

「――“波動激掌”!!!」

「ベトオォ!!?」

今、シルガが繰り出せる打撃系の技で二番目の威力を誇る技を叩き込む……が、やはり衝撃を跳ね返そうとベトベトンの体が波打つ。
だが、そんなものシルガもしっている。

「次が、俺が繰り出す最強の打撃技……“波動双掌”ッ!!」

「ベトッ!!?」

丁度、衝撃が真ん中あたりまで来た瞬間、シルガ最強の打撃技、双撃の波動掌による衝撃がベトベトンを襲い――二つの衝撃は、ベトベトンの体の中で弾け飛ぶ。

「ベ――!?」

瞬間、ベトベトンの体も弾けとび……あたり一面、ヘドロだらけになる。

「はぁ、はぁ……」

そして、シルガは片膝をつき、疲労により呼吸が苦しくなるも、片手を空に挙げ……こういった。

「三回の攻撃で負けるとは、体の鍛え方が足りんな」

少し分かりにくい、勝利宣言をした。





〜☆〜

パリ、パリパリ……パキンッ。

そんな音と共に氷壁は砕け散る。氷壁が大きいだけに砕けた時の氷の大きさも半端じゃなく、外にいる俺達には当たらなかったが、それでも危険極まりない。
しかもこの氷壁、二チームが閉じ込められていた氷壁より大きく、それだけに砕けたときに落ちる氷塊の大きさが半端じゃない。
ただ、これを見るのは本日二回目である俺とフィリアチームには関係なかったが。

「お、シルガ」

「やっと倒したのかい」

「ああ……少し、手こずったがな」

「どこが少しなんだよ、どこが。ボロボロじゃねぇか」

「だだ、大丈夫!? 凄い傷だけど……」

「寝れば治る」

嘘つけ、と言う俺の言葉に言い返しもせず、シルガはそのまま地面へ寝転ぶ。本当に体力が限界ギリギリだったのだろう。オレンの実もバッグに無かったし、どれだけの戦いだったのかが手に取るようにわかる。

「……両手の骨に罅が入っている。それに、体中の骨と言う骨が危険だ」

「はぁ? なんで体中の骨が危険になるんだよ?」

「内側に衝撃を加えられた、としか考えられないね……早急に里に戻って治療しないと、死にはしないけど何らかの障害を持つ可能生が……」

「じゃあ、自分達の出番ですね」

「……自分、達?」

自分達、というワードに少し引っ掛かる。一体誰と一緒にこの状況を切り抜けるんだ?

「ま、まさか……」

「その通りです。シーア」

何か不味いことでも思い出したのか、シーアの顔がどんどん青ざめていく。シーアの記憶にあって、しかも青ざめる程の嫌なこと? ……分かるわけがない。

「さて、まずはここらの瘴気を吸い込みましょうか。丁度、回復し終わりましたし」

シェイミという種族は空気の汚れを浄化するとき、多大な体力を疲労する事になる。汚れた空気を綺麗な水と空気に換えるなんて技を成し遂げるのだ、それくらいの代償は払わなければならない。

「……はあぁぁ……」

え? グラスは“シードフレア”を使ってないだろって?
……何でも、浄化する際にも結構な体力を消費するらしく、“リーフストーム”を全力で撃ったときに体力をほとんど持っていかれて、オレンの実もないからで十分間休憩していたのだ。
十分間、ていうのは丁度シルガが氷壁を砕いたときが丁度二十分だからだ。因みにフロンティアは十九分。一分違いだ。

「皆、伏せとけよ」

「分かってるよ……フロンティアも、伏せときなよ!」

「え? それってどういう……」

「いきます!!」

グラスがそういった瞬間、俺達を吹き飛ばすには丁度いい爆発が辺りを襲う。当然だろう、“シードフレア”は吸った汚れに比例して威力も上がっていく。過去に強力な毒ガスを吸ったシェイミが、森を吹き飛ばしたと言う事例も存在するとグラスが言っていた。

「ここなら安心だね、ラルド達が要る所と違って」

「そうでしゅね」

いつのまにか、爆風が届いていないであろう位置へ移動した者達の声が聞こえる……というか、いつそこまで移動した?
あ、勿論その者達の正体は分かってるよな? じゃあ大声で答えようか、せーの……。

「お前らいつそこに移動したんだ! ミル、シーア!?」

直後、ミルとシーアに向かって叫んだ俺が、力が抜けて二人のいる方向へ吹っ飛んでいったのは内緒の方向で。

「ぐっ……痛ぇ……」

「痛いのはこっちだよ、ラルド……」

「な、なんで都合よくみーたちに突っ込んでくるでしゅか……」

「知るかよ、こちとら骨折した所にミルの頭が当たって、凄い痛いんだよ……っ」

これは本当だ。吹き飛んだ時に受けた爆風で顔を一瞬顰めさせて、「まぁ耐えれるだろ」と思った矢先に「あ、これ耐えられねぇわ」くらいの衝撃だ。
この時ほどミルの石頭に怒りを覚えた日はないだろう。本当に。

「お……ふっ」

「ちょっと気持ち悪いよ、ラルド」

「知るかよ」

ああもう、痛いし罵倒を浴びせられるなんて……なんて世の中は残酷なのだろう。

「罵倒なんかじゃないもん、立派な忠告だよ」

「忠告って、お前な……」

「……あのさ、和んでる所に大変申し訳ないんだけど」

「ああ、大丈夫だって。気にしないで言ってくれ、キノサ」

「僕たち、色々大変だったから忘れていたんだけど、空の頂きに来た理由って頂上にお宝が眠っているって訊いたからなんだけど」

「「「……」」」

沈黙。但しシーアとグラスは除外だ。
汚れを吸い取り、空気も綺麗となったこの頂上……俺達しか人が居ないので、俺達が黙ると当然風が吹く音しか聞こえなくなる。
しかも今の俺達の表情、凍りつくって言うのはこのことを言うんだろうな。本当に表情が固まったままなんだぜ?

で、そんな沈黙の空気を最初に破ったは……。

「お宝、かどうかは知りません。がそれらしきものはありますよ」

「ほ、本当にッ!?」

「うおっ、ここまで戦ったかいがあったってモンだぜ!!」

「ですが、皆さんが想像しているような金銀財宝の類ではありませんよ?」

金銀財宝の類ではない? だとしたら一体どういった風なものなんだ?

「なんなの、それ?」

「今すぐ見れますし、言葉ではあまり表現できませんが……凄く綺麗なのは確かです」

「凄く綺麗? へぇ、財宝とかじゃないのに、お宝言わせるくらいなんだから、相当綺麗なんだろうな〜」

……あれ、なんか擬視感を感じるような気がするんだが、気のせいか?

「綺麗……宝物……」

どこかで訊いた事のある言葉、いや実際そこら中で聞きまくってるんだけどね。こういう風に苦労したあとにやっとお宝が拝見できる! って時に……。

「丁度、今の時間では星が最も輝きますからね」

グラスの自信たっぷりな表情。実際はグラス自身のことではないはずなのだがやはり里自慢の宝物だけあって鼻が高くなるのだろうか?
もしかしたら、俺たちが驚いたら「そうでしょう?」みたいな感じで言ってるけど、心の中ではあらぶってるとか、ありそうで困る。
と思っているうちに、グラスに案内され、周りが岩場になっており飛び降りたくても飛び降りれないようになっている頂上、その中で唯一岩がない場所へ来た。と言っても数歩しか歩いていないが。

「さぁ、では皆様。これこそがガイドたる自分達が観光客に必ず見せなければならない
、里がこの世で一番だと自負する――空の頂きの宝物です!」

グラスは少し改まり、丁寧にゆっくりと喋ると……前足で空を指した。

そこには――

「おぉ……」

「す、凄い……」

――星々が、夜という海の中で輝いている。とても幻想的な景色だった。

「これが、自然が魅せる最高の景色なのか……」

「……凄いや」

「私、ここへ来て良かった」

「俺もだ」

……この景色を見るすべての人が、今魅了されている。あの景色から目を離す事ができない。それだけの美しさ。
そういえば、さっき言っていた擬視感……あれは“霧の湖”で見た景色だ。
あの時、初めて死ぬかもしれない程の重傷を負い、あの日、初めて解放を使えるようになった、あの日、初めて“時の歯車”を見た。
何もかもが初めてなその日、俺にとって一番目に焼きついているのは霧の湖の景色だった。
あの噴水のように噴出す水流、その中からエメラルドグリーン色の光で照らす時の歯車。翡翠色に輝く噴水という光景は、忘れる事ができない程綺麗だった。

そして、これはハッキリ言ってそれをも上回る。

「シルガにも見せてやりたいな」

「じゃ、見せるかい? ……ほら、起きて」

優しい口調とは裏腹に、フィリアはシルガの口の中にカゴの実を無理矢理詰め込む。当然、水なんてものを一緒に飲み込ませてくれるはずもなく……疲れて眠っている所を、少々、というかかなりの無茶技で起こされる事となった

「ごほっ!? ごほっ、ごほっ……何事だ!?」

「別に何もないよ。ただ君に綺麗な景色を見てもらおうと思っただけ」

「……ならば俺は寝る」

「あれ、可笑しいね。カゴの実のストックがまだまだたくさんあるよ」

「……」

これでフィリアの勝ちが確定した。幾らシルガでもあの苦しみをもう一度味あわされる事になるのはいやだろう。
何故わかるかって? 俺もいやだからに決まってるだろ?

「ほら着てみなよ。多分、無理してでも起きて見る価値はあると思うよ」

「お前、俺が怪我人だということを分かっているのか?」

「だから肩を貸しているじゃないか。それとも何か、僕におんぶでもしてほしいの?」

「誰がお前などに」

フィリアに肩を貸してもらいながら歩いている状態のシルガ。そんな状態でシルガはフィリアを睨みつける。おんぶ発言が気に入らなかったようだが、考えてみればこいつ、腕の骨に罅が入ってたよな。
しかも、体中危険な状態だったっけ? あれ、起きたらだめじゃないか。

「どうだい、綺麗だろう?」

「…………ふん」

今の長い間、絶対に見惚れてたなこいつ。そりゃあそうだ、俺ほどの者を綺麗と言わしめる景色だからな。見惚れて当然だ。

「誰も、お前の弁解など聞いていないぞ」

「し、シルガお前! また人の心を読みやがって……」

「知るか。俺も聞きたくはなかった」

「嘘つけ!」

「嘘だ」

「切り替え早っ!?」

むかつくの中のむかつく、こいつは絶対に許さないぞ……とりあえず●●してから●●して、それから……。

「もうラルド、そこまでにしなよ。シルガ怪我してるんだよ?」

「ぐっ……分かったよ」

「耳長兎の言いなりになるとはな」

「ふざけるなっ! お前の命を助けてやったんだよ!」

「俺が負けるとでも?」

「逆に言わせて貰う。というか真剣に聞くぞ、お前その怪我で勝てると思ってるのか?」

まさか、頭に被害が及んでまともな思考ができなくなって、戦闘狂に……?

「馬鹿か」

「馬鹿じゃねぇよ!?」

「もう! ストップストーップ!!!」

「君達、ミルがこんなにも仲裁してくれているんだからやめいないかい」

「「断る」」

無駄な所で息ピッタリになる。畜生、こんな奴と同じタイミングで言うなん……て……?
何故か、いきなり不思議な睡魔に襲われた後……俺はフロンティアに面々が唖然とした表情でこちらを見つめる顔を見て、静かに意識を失った。



〜☆〜

「はぁ、二人にも困ったね」

「今に始まった事じゃないよ」

確かに、そう言われれば。
であった当初から、ラルドは少し不思議だし……そういえば、最初は爆発を起こしたんだっけ? あれには吃驚したなぁ。

「あ、あの……」

「その二人に、躊躇なく睡眠の種放り投げたけど……」

「二人とも怪我してるんだし、大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ。こいつら頑丈だし、片方なんか伝説のポケモンの攻撃を二回も耐えたんだ」

フィリアの話に嘘はない、全て本当だ。
私とラルドで戦ったとき、一回目はガードしたとはいえ直撃貰ったし……あれ、三回じゃなかったっけ?

「そうだよ。二人の頑丈さは私が保証するよ!」

「はは、だといいんだけど」

「……ところで、帰りってどうするんだ?」

…………。
場に沈黙が訪れる。今尾発言は恐らくリキさんだろう。なんとも空気をぶち壊す発言に、皆黙ってしまった。

「……確かに、帰りはどうするんだ?」

「そうだ、ゴンドラは設置できないし。そもそもフワライドなんてここに来れないよ」

「本当だ、一体どうすればいいの?」

フィリアに訊いても分からない、としか言わない。それはそうだ、なにせ今回が初めてなのだから。

「皆さん、慌てず落ち着いてください」

「で、でもこの山を下るとなれば、相当の困難が……」

「先程、シルガさんが危ない状況で里に早く帰らなければならないと言ったとき、自分は言いましたでしょう? 自分達の出番ですね、と」

皆が皆、頭に?マークを浮かべる中、グラスとシーアはとある花のまで立っていた。

「も、もしかして」

「はい。フロンティアの皆さんはご存知でしょう、自分たちシェイミ族は、グラシデアの花から出る花粉により、姿を変える――」

そこまで言うと、グラス、シーアの体が光り輝き始め、シェイミの形をした光が形を変えていき……遂に光がパァンとはじけた。
そして、そこにいたのは。

「――と」

先程の姿から一変、頭にあったブーケのような花々や草は黄緑色の草でできた髪のようなものに変わり、耳がついているであろう位置には小型化された翼がついており、瞳も垂れ目から攣り目へ、首もとには赤いスカーフのようなものがつけてあって全身が白と黄緑色で着色されたと言っても過言ではない、先程の姿からは違い可愛いから格好いい姿へとなっていた。

「うう、このフォルムは少し苦手です」

「良いじゃないですか、あなたの「でしゅましゅ口調」が「ですます口調」になって」

「でも、どうせまた重くなるんですよね?」

「良く分かっているじゃないですか」

「うう、憂鬱? です……」

「知らない言葉は使うものではありませんよ」

うわぁ、姿が完全に変わっちゃってる。似ても似つかぬことはないだろうけど、それでも元の姿があのグラスやシーアだとは思いつかないや。
元のシェイミは可愛い姿だし、こっちはどっちかというと格好いい姿だもん。

「き、君があのグラスちゃんやシーアちゃん?」

「そうです。先程の姿が“ランドフォルム”で今この姿が“スカイフォルム”です」

「そ、そうなんだ」

フロンティアの面々も、この変わりようには驚きを隠せないらしい。
そしてこの時、後に聞いた話ではランドフォルムの可憐な姿が好みだったらしいリキは絶望の淵にいたらしい。

「さて、この幻想的な夜の海。その中を泳いで帰る……これが、自分達からの皆さんへの贈り物です!」

「え、ちょ……うわぁ!?」

グラスとシーアは、私達七人を掴むと――夜空の海へと、飛び立った。

「きゃあああぁぁぁぁ!!!??」

「おぉ、空を飛べるなんて凄いな」

「高いな、流石空の頂だ」

「楽しいわ!」

「やべっ、気持ち悪くなって……」

個々の叫びはどうであれ、やはり皆この夜の幻想的な海を間近で観ると言うのは、例え高所恐怖症ではないがあまりの高さに怖がるミルも、目に焼きついていたと言う。



そして、遂に――里へ着いた。





〜☆〜

……周りが暗い。どこを見ても暗い。
闇があたりを覆っている、どこにも誰もいない。レインさえもがいない。
そして、その中央には――

……ルド。

ん、今、誰か俺を呼んで……。

ルド……ラルド!

「ラルド、起きてよラルド!!」

「ぐふっ!?」

急に感じた腹部への痛み、それは俺が寝坊してしまったときに主に感じる痛みと酷似していて――って。

「み、ミル! 寝起きに体当たりはするなって、何回も言っただろうが!!」

「ごめんごめん、でもラルドが何回揺さぶっても顔をビンタしても起きなかったから……」

「なんでビンタ!? お前は目覚ましビンタなんか覚えないだろ!? ……あ、ビンタされたって分かった瞬間頬が痛くなってきた」

「凄い、やっぱり自覚って大事なんだね」

「お前も自覚するか?」

「……退散!」

自覚するか、の意味は本人は絶対に分かっていないだろうが俺が見せた笑顔……性格に言えば右手に纏った電気を見せてからの笑顔に、ミルは驚いて逃げてしまった。
可笑しいな、こんな笑顔をしているのに。なんで逃げるんだ?

「……うぅ」

まぁ、退散と言っても壁に隠れてこちらを見ているだけなのだが……その長い耳が見えて完璧にバレています、本当に有り難うございました。

「はぁ……で? 何で俺はこんな病室にいるんだ?」

「ラルド、右手の骨が折れてたって自分で言ってたでしょ? しかも、診てもらったら全身の筋肉を痛めていたって言ってたし。ラルド、あの技なんかいも使った?」

「……」

あの技、というのは電気による活性化。電気活性≪アクティベーション≫だ。
確かにこれは、拳二つと脚二つで攻撃には実際は四回しか使用できないだろう。しかもあの時は移動用に技や超帯電≪ボルテックス≫を重ねがけをしたからな。危険な状態になるのは当たり前だった。
あれ? じゃあ、今俺に体当たりしたのって……。

そう思って、体当たりをされた腹部を見ると――急に激しい痛みが俺を襲った。

「あ゛、が……」

「ら、ラルド! 大丈夫!?」

「お前が元凶だろ……ッ!?」

そういい、ミルの額にデコピンをしようと手を動かそうとしたが……手は動かず、しかも痛みが来る。

「痛ッ……!?」

「あ、動かしちゃダメだよ! 筋肉痛の凄い版になってるんだから!」

「……いやそれ以上の酷いことになってるだろ、普通は」

まぁ、俺は生憎と普通じゃないんだけどな。

「そういや、シルガは?」

「隣の部屋にいるよ。結構重症らしいし、二人ともどんな戦いをしてたの?」

「解放にプラス、超帯電≪ボルテックス≫と電気活性≪アクティベーション≫を重ねがけして“爆雷パンチ”で殴ってた」

「もう、そんなことするから」

「ははっ、それでも砕けない氷の壁だったんだよ。俺が殴ったのは」

「えぇ!? そんな凄いパンチでも割れない!?」

ミルが凄い、というのも無理はないだろう。あの感触なら冷却が完了されていたならば絶対に砕けていた。
そもそもあの時、冷却最中でまだ二十分も経ってなかったからな。

「で、今何時なんだ?」

「もう九時だよ。いつもならラルド、起きてるけど」

「げっ……バレてたのか」

「でも、私も偶々水が飲みたかったから起きたんだよ。そしたら外で……」

ミルに見られたのがいつかは知らない。だが、恐らく今はもう完成済みの電気活性≪アクティベーション≫の練習中か、それとも“アレ”の……。

「凄い音でさ、私、耳も少しだけいいからあんまり眠れなかったよ」

なるほど、じゃあ電気活性≪アクティベーション≫は違うな。この技は多少の音しか出さないし。
やっぱり、“アレ”だったのか。

「ねぇ、なんでそんなに凄い音出してたの?」

「いや……言えないよ。これは俺自身が出せる最強の技で、隠しだまなんだ。いざというときに出した方が面白いだろ?」

「そのいざという時が今なんだよ!」

「いやいや、俺指一本動かせないからね? ……強いて言えば、俺の電気活性は隠し玉の威力を更に上げようと思いついた、いわば隠し玉のトッピングに過ぎないんだ」

「えー、嘘」

ま、今は結構電気活性≪アクティベーション≫の方が好きだけどな、と言っておくと、俺は再び瞳を閉じた。



〜☆〜



……少し風が吹いている、心地よい風が。
外ではポッポが鳴いている、これから察するに外はもう朝なのだろう。
少し目を開けると、窓から漏れる朝の日差しで眩しい。目を開けていられない。

全く、窓側に藁ベッド設置するなよ……ん?

「……ミル」

手になにか乗っている、そう感じた俺は横目でちらっと見る。するとそこには、幸せそうな顔で眠るミルの姿があった。

「ずっと看病してくれてたのか……熱とかじゃないから、一般的な看病より楽だろうけど」

それでも、あのミルが夜中まで必死に起きてくれていたのかと思うだけで、涙が零れ落ちそうになる。それだけ早寝遅起なのだ、こいつは。
具体的に言えば、七時か八時に寝て、九時か十時に起きる奴だ。
最高記録は、十八時間とかなりの時間だが。

「……お? 体が動く、動くぞ!!」

昨日、少し動かそうとしただけでも痛かったのに、もう治ってるなんてな。シェイミの里の医学は、世界一なのか?
ただ、右手は動かなかったが。

「ほっほっほ、別に医学でもなんでもない。ただの技じゃよ」

「おぉ、そうなのか……って、お前はあの時の爺さん!?」

不意に、気配も感じさせずにやってきた声。幾らなんでも扉を開ける音で気付くはずなのに……と、どうでもいい。

「なんで、爺さんがここに? 爺さんは患者なのか、医者なのか?」

「どちらでもない。そしてここはわしの家で、わしは尊重じゃ」

「なっ、そ、村長!?」

村長といえば、あの時、あのグレイシアが……村長を脅すのに手間取ったとかなんとか。
なるほど、それならあの時のすまんの発言も理解できる。

「で、医者でもないあんたの家でどうして治療なんか」

「シェイミたちには、“アロマセラピー”という技を使えてな。使用者次第では死者でさえ蘇らせる技だよ。ただし、使用者は十中八九死ぬがな」

「じゃあ、俺たちを治してくれたのも」

「わしじゃない。シーアとグラスだよ。お前さんはシーアに助けられたんじゃ」

……シーアが、俺を助けた?
ははっ、俺もまだまだだなぁ。守るべき立場の子供に、逆に助けられるなんてさ。

「そんなことはない。御主も十分子供ではないか、守られる立場なのはそちらも同じだ」

「……爺さん。人の心は勝手に読むものじゃないぜ」

「ほっほっほ。長年生きているとな、人の考えている事を表情で読み取る事ができるようになるものじゃよ。……それに、シーアは恩返しだと言っておったぞ?」

「恩返し?」

「そうじゃ。ほれ、これはお礼だと言っておったぞ」

そういうと、綺麗に包装された水色の箱を俺に渡してくる。これには見覚えがある、確か“空の贈り物”だったけか。

「“空の贈り物”、中に何が入っているかはお楽しみじゃが……贈り主の感謝の念が強ければ強いほど、贈りたい物へと変化していくと聞く」

「贈り主の感謝の念、か」

想いが強ければ強いほど、贈りたい物へと変わる。逆に言えば弱ければ贈りたい物とは真逆のものになる、か。
さて、どんなものが入ってる事やら。

「因みに、シーアは御主に――」

中に入っていたのは……。

「――オレンの実を上げたいと言っておったぞ」

「……ははっ、なるほど」

なんと、オレンの実だった!

「やっぱり、人助けっていうのはするものだな」

口元に笑みを浮かべ、俺は――泣いていた。

「ストック、できたな」



〜☆〜

あれから二時間、どうやら俺が起きたときは六時だったらしい。
二時間の間で、朝食をとったり、私宅をしたり、ミルを起こしたり……なんというか、旅行とかにいってる感じだな。行った事無いけど。

そして、遂に。

「ふぅ、やっと帰る用意ができた」

「ああ、そうだな」

「お前はなにもやってないだろ?」

「両手に罅が入っているからな。お前とは違い両手なんだ」

ミルとフィリアが一息ついたところで、喧嘩を始める二人。骨の罅が入っていたり、骨が折れていたとしても喧嘩する。ある意味では凄い二人だ。例え棺桶の中に入ったとしても喧嘩しそうだ。

「二人とも! もう帰るんだから、喧嘩はしないで!」

「そうだよ、ミルの言うとおりだ」

そう、俺たちは……今日、帰るのだった。

理由はパッチールのカフェで、空の頂きのことについて話し合う、という名目のパーティをすることになったらしい。丁度、俺達もそろそろ帰ろうかと思ってたし、丁度良いという言葉がこれほど似合う出来事も少ない。

「……ラルドお兄ちゃん達、もう帰るんでしゅか?」

「ん、ああ。空の頂は上りきったし、折れた骨も“アロマセラピー”で案外早く治りそうだし……それにしても、こんな便利な技ってある物なんだな」

「私達、シェイミ族。それも限られた人だけです。シーアと自分は、その限られた人だったようですが」

「リオルのお兄ちゃんは、多分荷物とか持っても軽かったらいいと思うよ!」

「……」

「お前、自分でも持てるって分かってたんだな!?」

再び喧嘩になりそうになるが、フィリアが尻尾で殴ることによりそれは阻止される。このチームでのフィリアの日常的な役割は、ラルドとシルガの抑制係だろうか。ミル? ミルは遅刻係だ。

「グラス、シーア。今までありがとう。この恩は忘れないよ」

「いえいえ、観光客様に最高の御持て成しをする。それがガイドの務めですから。それに、この里に起こる怪現象の原因を倒してくれた事ですから」

「倒してないけどな」

ただ、逃げられただけだ。多分、あそこで戦っていても負けるだけだっただろう。

「ありがとね、二人とも」

「……悪くはなかった」

「ありがとうございます」

ミルは頭を下げ、本当に感謝していると傍から見ても分かる。但しシルガ、手前はダメだ。なんだよ悪くはなかったって、お前はどこかの王様か、ツンデレか?

「……ま、なんだかんだ言って、シェイミの里での出来事は楽しかったしな。俺も感謝するよ」

「そ、そうでしゅか?」

「あなたはなにもしていないでしょう」

「いや、シーアと出会わなかったら、俺はこんなには楽しめなかったしな。シーアとグラスも仲違いになったままだったのかもしれないからな」

「……ラルドお兄ちゃん。ありがとうございましゅでしゅ」

「ははっ、お前はそのでしゅましゅ口調を早く治せよ」

「う、五月蝿いでしゅ!」

十一歳でもでしゅましゅ口調なのが自分でも恥ずかしいのか、顔を赤くするシーア。なんかミルを苛めてるみたいだな。
……あれ、楽しい?

「じゃあね、グラス、シーア!」

「二人の事は忘れないよー!!」

「また、来れるならば来よう」

「素直になれよ……じゃあな、二人とも。シーアは風邪とかひくなよ!」

「分かってるでしゅー!!」

「皆さんも、お元気でー!!」

二人との別れを済ませると、俺はバッグの中からバッジを取り出して……天へと翳す。

「転送!!」

そういうとともに、俺たちは黄色い光に包まれて――その場から、居なくなる。

「……これで、良かったんでしゅよね?」

「さぁ、あなたが良かったと思うなら良かったのでしょう。……自分は良かったと思いますが」

「でも……なんか、寂しくなるでしゅ」

「……なら、自分たちも久々に遊びましょうか。外で、思い切り」

「……!!」

シーアの顔がパアァ、と明るくなる。いくら仲違いをしていたとはいえ、姉は姉だ。シーアが最も信頼する、唯一の家族。

「さぁ、今日は心行くまで遊びましょう。なんなら、マスキッパさんたちやあなたのお友達も誘いましょうか?」

「はいでしゅ!」

「ふふっ、では行きましょうか」

「……ラルドお兄ちゃん」



――ありがとうでしゅ。



その日、パッチールのカフェでは探検隊たちが馬鹿騒ぎしたという。




次回「霊体ピカチュウの手がかり!」

ものずき ( 2013/03/13(水) 21:52 )