ポケモン不思議のダンジョン空の探検隊 エンジェル〜黒と白の12の翼〜







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第一章 帰ってきた救世主
第十五話 空の頂き〜四つの頂上決戦〜
ベトベターを倒し、後はベトベトンだけ……という所で、いきなりグレイシアというポケモンが襲ってきて――?





〜☆〜

バリバリバキッ。
という音と共に閃光が辺りを覆いつくし、一瞬遅れて雷鳴が轟き音が鳴り響く。
……この時の俺は、目を瞑っていた。結果を知りたくないのか、はたまたおそるおそる目を開けて、ゆっくり絶望か勝利の感情に浸りたかったのかは分からないが……ゆっくりと、目を開ける。

「……ッ!?」

「……危なかったわ」

結果は、俺の、負けだった。
“永久氷壁”と呼ばれた技でできた氷壁には、大きな罅が入っており、少し力を入れると崩れてしまいそうなくらいだったのだが……俺の右手の骨は折れ、激痛が身を走る。

「っ、がああぁぁぁあ!!?」

「ふふっ……技自体は強いわね」

「なん……だって?」

技自体、この言葉を俺が聞き逃すはずが無かった。
まぁ、その真意を聞いたとしても今の俺は右手をダラーン、と下ろしている状態。反撃なんてできるはずもなく、左手があるにはあるが直の不意打ちやら隙を攻められる、なんてのに対処できなくなる。

「発想はとてもいいわ。解放で100%となった力を更に活性化させる。代わりに筋肉を少し冷却させなきゃならなくなるらしいけど……あなた、ここに来るまでに使ったわね?」

「ッ……」

「ああ、この事を知っているのは事前に調べたからね……で、まだ規定の一時間が着てないみたいね。だから威力も少し下がっていたという訳ね。フルパワーなら危なかったわ……こっちも解放していたのに、凄いわね」

「な、お、お前も解放をしていただと!?」

いや、解放はシルガから訊く限りでは、発動した者のオーラが体中を包み、何か瞳の色も変わるとか何とか……でもこいつは、オーラも瞳も何も変わっていない。

「……あなた達の使ってるような、正規の解放じゃないことだけは教えてあげる」

「正規の解放……?」

なんだ、正規の解放って。
解放はすべて同じ物じゃないのか?

「ま、目的は達成できたし、いいわ。見逃してあげる」

「なッ……俺が見逃すとでも思ってるのか!?」

「ええ。考えても見なさい、片腕が使い物にならないピカチュウと、五体満足ほとんど傷がついていないグレイシア。どちらが勝つかなんて直に分かる事よ?」

「……くそ」

確かに、今の俺では間違いなくこいつには勝てない。片腕が折れていなくても五分五分かそれ以下、かもしれない。
それがどちらかは考えたくはないが、今の俺なら間違いなく以下だろう。

「ただ、あの氷はある程度の衝撃を与えないと、間違いなく崩れないけどね」

「なんだと!?」

「ああ、外からじゃ無理よ。それこそさっきの一撃でもない限り、崩れるのわね」

……残念だが、ここは諦めるしかない。腕が折れているのもそうだが、氷のドームを作ったのはこいつだ、ドームを操って中の奴らまで危険な状態になった……ということになったら俺のせいだ。

絶対に、諦めるしかないようだ。

「ああ、分かったよ……」

「案外素直ね……まぁいいわ、どうせ内側からも壊したりはできないだろうし」

「!?」

「逃げる準備は整ったわ。じゃあね、ばいばい」

「待て、嘘だったのか!?」

「そうよ。逃げるまでの準備……あのベトベトンには水晶を埋め込んでおいたし、十分で倒せるわけもない」

……そうか、皆が閉じ込められてからまだ十分と経っていない。そんな短い時間の中で、こいつがこんなにも自信満々になれるようなベトベトンを倒せるはずがない。
そして、近くで爆発音が聞こえる。恐らく未だ戦闘途中なのだろう。

「て、手前……」

「おまけに、あのリオルくんに当たったのは一番強くて大きい水晶入りだからね。絶対に助けは来な――」

い。
と、たったこれだけの言葉を、グレイシアは言う事が出来なかった。

何故なら――

「誰が、助けは来ないだって?」

「へへん! 私達だって、やればできるんだよ!」

「まさか、道具の併用からあんな大技とは……驚きましたよ」

「み、みーは怖くて何も出来なかったでしゅけどね」

「シーア、そこは言うべき所じゃないんだよ」

「み、みー?」

――こんな援軍が、もう既に来ていたのだから。

「なんで……お前達が……ッ!?」

「何故って、ベトベトンを倒したからに決まっているだろう? ……後、これ返すよ」

フィリアはバッグから一つの袋を取り出すと、勢いよくグレイシアに向かって投げる。

「……これは、水晶」

グレイシアはそれを、氷壁を解除して受け取ると、すぐさま中身を確認する。
中には……水晶が、ちゃんとあった。

「なんでだ……なんでお前が水晶をッ!?」

「何で僕限定なんだい? 僕が袋に入れたっていうのは四分の一の確率でしかありえないんだから、『達』をつければいいのに……まぁそうだね。気持ち悪くなって直に袋に入れたのだけど」

「っ、その喋り方。いつも、お前はムカつく……!!」

「いつも? 君の姿に覚えはないけど、ひょっとして知り合いだったのかな。だとしたら謝ろう」

「くっ……まぁいいわ。逃げる準備は既に整っている、熱くなってしまったのはあれだけど……じゃあね、エンジェル」

一瞬にして、憤怒の表情から冷静な表情へ変わる。だがその雰囲気は、未だ怒りが抜けきっていないようだ。
そのままグレイシアは一歩下がり、不適な笑みを浮かべると……急に“吹雪”を繰り出す。
こんな不意打ちに成す術なく、俺達は吹き飛ばされてしまう。

「うわぁッ!?」

「ひゃっ!!」

「くッ!!?」

眼を開けると、そこには……誰も居なかった。
当然、あの水色と青色で構成された体のポケモンはいないわけで……俺は脱力して、その場に座り込んでしまった。

「はぁ……なんだったんだ、今の」

「とりあえず、他の人達が氷壁から出てくるのを待とうか」

「と、いうか。お前達、どうやって出てきたんだ?」

「それは、ほら」

フィリアが指差す方向には、一mくらいの長方形の穴が開いていた……しかも綺麗に角度も合っている。
これは何か切れ味がよいもので斬られたとしか思えない。ならば、あのグレイシアが自信満々に語っていたくらいの強度の氷壁にいとも簡単に穴を開けたのは……フィリアだ。

「そ、僕の“ソーラーブレード”でね。先に穴も開けておいて、

「なるほど、さっきの爆発音はそれか」

「少しでも早くチャージする為に、太陽光が氷に反射されて集中する場所に移動していたんだけど、大変だったね」

すいません、ちょっと言っている意味が分からないのですが。
……まぁいいや。それよりも俺達が今からなにをすればいいのか、これが重要だ。

さっきのグレイシアがどこかへ行ったからか、霰もなくなって毒霧再発生になりかけているしな。

「ベトベトンはどうなったんだ?」

「あ、それ私が説明する!」

「うん、いいよ」

「はーい! えっとね、まずは――」





〜☆〜

所、というか時間変わってここは氷壁内部、まだフィリア達が閉じ込められて間もない頃。
要は今から、十分前の戦闘の様子と言う事だ。

「これは……さっきのグレイシアの仕業かな」

「凄い! こんなに大きい氷のドーム、観た事無いよ!?」

「これは……氷が苦手な私達にとって、最悪のステージですね」

「寒いのだけは苦手でしゅ……」

氷のドームなので、寒いのは確定となる。勿論この中で別に寒くても問題ないというのはミルだけであって、僕達三人はタイプ上冷気に弱く、シェイミ族は特別寒さに弱いとも訊く。
しかも目の前にいる相手は“毒”タイプのベトベトン。

……もう一度みてみても、“毒”のベトベトン。

「これは、ミルを主力とした僕とグラスとシーアのサポートになりそうだね」

だが、本来ミルはチーム内では自由なポジションとなっている。
何故かと言うと、彼女の技が関係してくる。“守る”や“突進”、“電光石火”という技で他にもタイプノーマルの攻撃技ばかり持っていて、前衛ポジションにいると勘違いしやすいが……彼女の中でも攻撃力が高い技と言えば“シャドーロアー”に“シャインロアー”など後衛からのアシストや護衛系の技なのだ。
この事から、普段は前衛の化け物組みを守るでアシストしたり前衛に出たり、後衛から狙撃するなど臨機応変に、戦況によって変化する。

流石進化ポケモン、周りの環境に直に馴染む。

「……」

一方、僕は基本後衛だ。
“ソーラービーム”やら“エナジーボール”などの攻撃がいい例で、偶々前衛に出たり。基本言っては悪いがダンジョンの敵みたいな弱いポケモンには感覚を忘れないために物理攻撃で倒すようにしている。こんな陣営、果たし状やお尋ね者戦でしか使う機会なんてないからだ。

「後、グラスは中衛……シーアは後衛だろうね」

「はい。で、どのように相手を?」

「……ミルは前衛と中衛、グラスは中衛からミルの援護。シーアは後衛で変化技をメインに戦ってくれないかい」

「は、はいでしゅ!」

「うん、分かった!」

後は……僕だけど、後衛でシーアを守りながら戦うのが一番いいか……いや、それでは早く倒す事ができない。
なら、僕のポジションは。

「僕は基本後衛、でも後衛じゃそんなにダメージが与えられないから、僕は前衛兼ね後衛にするよ」

「分かりました」

「よーし、頑張るぞ!!」

「みーだって!」

このチームでのダメージ源はミルだ。体当たり、シャドーボール、等々……ダメージは結構与えられる。
しかもグラスやシーアが“宿り木の種”などの変化技を使うとより効率が良くなり、十分もあれば倒せるだろう。

……僕、必要があるのかな?

「別にいいか」

そう悲観的になっていたら叶わないしね。

「じゃあ――行こうか」

僕がそうつぶやいた瞬間、ミルが“電光石火”で敵に向かっていく。そのスピードは流石、としか言いようがない。
グラスもミルの後に続いて走っていく、途中で“マジカルリーフ”を飛ばしたり、やはり援護に向いていそうだ。
一方、僕とシーアはここから攻撃だ。エナジーボールがメインで、マジカルリーフやいざとなれば僕が前衛に出たりと相手が二匹とはいえ善戦できるだろう。

「“シャドーボール”!」

「ベトオォ!」

先手必勝、ミルは走りながらも“シャドーボール”を放つ……が、それとほぼ同じタイミングで放たれた“ヘドロ爆弾”で迎え撃たれる。
その二つがぶつかったとき、小さな爆発が起こる。

「なら……“シャドーロアー”!!」

「べ、ベトォ!?」

シャドーボールでは相殺されると分かったミル、それならもっと威力の高い技を放とうと考え……シャドーボールの上位互換、“シャドーロアー”を放つ。
ベトベトンは再び“ヘドロ爆弾”を放つも、シャドーロアーの威力の前にはなすすべなく、そのまま破壊されベトベトンに直撃する。

「やった!」

「ベトォ……ベートオォ!!」

それが引き金となったのか、遂に怒り出したベトベトン。威嚇するかのようにミルを上から睨みつける。

「へへん! 今の私なら、一人でも……」

「! ミルさん、横へ飛んでください!」

「へ? ……うひゃあ!!?」

ベトベトンに一撃で大きなダメージを与えられた事に一瞬だけ油断するミル。勿論水晶により強化されたベトベトンがその隙を見逃すはずも鳴く……ミルの後ろから“のしかか”ろうとする。
それをグラスが注意し、間一髪のとところでミルはベトベトンがのしかかってくるのを避ける。

「観光客様に手出しをするとは……三途の川で、その汚い体を洗浄してきてください!」

グラスは口の前に黄緑色のエネルグー体を作り出すと、そのままベトベトンへ向けて放つ。その威力は里最強だけあって強い。

「ベトォ!!」

「ひっ、きゃあ!」

そして、もう一匹はミルが間一髪避けたところに、“ヘドロ爆弾”を放つ。流石にこれをよけるのは無理だったようで……直撃してしまう。
ヘドロだけあって、ミルの体は紫色のヘドロにまみれ、地面にヘドロが落ちる。

「……! 皆、ベトベトンをなるべく動かさないで!」

「な、なんで!?」

「ベトベトンが動けば、その動いた場所はヘドロまみれになる! もし、それを利用されたら……うわっ!」

「ふぃ、フィリアお姉ちゃん!」

前衛、中衛に対してベトベトンを動かすな、と命令している所にヘドロ爆弾が当たりそうになる。少し当たるも傷が少しできるだけで済み、残ったヘドロは地面にぶつかる。

(うっ……なんだろう、この嫌な感じは……?)

さっきからヘドロがそこら中にあり、このままでは地面が全てヘドロまみれになってしまい滑るなどのことが熾きるかもしれない。
だからヘドロ爆弾以外の原因……ベトベトンを動かせないようにしたのだけれど。

「無理だよ! ベトベトンの方が、力がありすぎるよ!」

「無理……ですッ」

「なら、しょうがないか」

僕が一時前衛に出て、ベトベトン達を拘束する!

「行くよ、“拘束の種”!」

「「ベトオォ!!?」」

ベトベトンの周りに種をまき、一気に発芽させて――出てきた蔦が、ベトベトンの身を拘束する。

「ベートォ!」

「無駄だよ、最低でも二十秒は持つようにしてある……それに、この時間を大切にしない僕達じゃないしね」

僕がベトベトンの横へ移動すると、すかさずグラスとシーアの“ダブルエナジーボール”がベトベトンを襲う。
そして……。

「行くよ、“シャインロアー”!!」

「「ベトオオォォォ!!??」」

とどめに、ミルの口から放たれる光の咆哮がベトベトン二匹を襲い――蔦ごと吹き飛ばした。

「これで、どうだい?」

流石にあれの直撃を受けて、大ダメージを受けない方がありえないだろう……。
事実、煙が晴れて見えてきたときにはベトベトンが目を回していた。

「やったぁ! 倒したよ!」

「時間にして、約五分と言ったところでしょうか」

「みー達は最強でしゅ!」

「まさか、こんなに早く終わるなんてね」

こんなドームを別々に造って、敵をそれぞれに分断したのは何か訳があったのかと思ったが、やはりただラルドと一対一の状況を創りたかっただけのだろうか。
だが、先程から戦闘音でも聞こえたわけでもなく、話し合いの途中か何かなのだろう。

「じゃあ、この氷ドームをどうにかしないとね」

静かに、氷壁の近くまで歩み寄ると、僕はその氷の性質を肌で感じ取る。

「……どうやら、生半可な衝撃や熱じゃ太刀打ちできないみたいだね」

「じゃあ、どうやって壊すんですか?」

「一点集中、もしくは……ッ!?」

グラスの極自然の質問。生半可な衝撃、又は熱じゃ太刀打ちできないと言っているのだから。
そして、それに答えるのも至極当然すぎることなのだが、フィリアは次の言葉を発することができなかった。

何故なら、ヘドロの塊とともに氷壁に叩きつけられていたからだ。

「ぐあっ!!」

「ふぃ、フィリア!?」

「なっ、まさか……まだ倒れていないのですか!?」

グラスが勢いよく後ろを向くと、ボロボロになりながらも何か凶悪な感じがするベトベトン、二匹が四人を鋭い眼光で睨みつけていた。

「まだ瀕死にはなっていなかったのですか、しぶといですね」

「……なら、僕達がやるべきことはただ一つだね」

そう、元々このベトベトンを倒して、氷壁を突破する事が目的なのだ。ベトベトンを倒さなければラルドに負担がかかるかもしれない。
そして、この壁を突破するのならば極限まで力を溜めて放たなければならない。ベトベトンの邪魔がある中、それができるだろうか?
確かにミルの守るがあるし、皆で相殺するなど方法はあるが……持つかどうかが分からない。

「だとすれば、この二匹をすぐにでも倒すと言う目的ができるよね」

「でも、どうするんですか? ミルさんの、あの光の光線でも倒せなかったじゃないですか」

「簡単だよ、もう一撃加えてやればいい」

シャインロアー、この技は恐らくノーマルタイプだ。そして、ミルの特性である“適応力”で威力が二倍になり、その威力はラルドの暴雷と同等か、それ以上かもしれない。
だが、ベトベトン達は推測でしかないが、シャインロアーの衝撃を受け流して、威力を少し軽減していたのだろう。

「逆方向から、ね」

シャインロアーをもう一発当てれば倒せるとも思える、だがもし倒せなかった場合には大きな絶望感が僕達を襲う事になるかもしれない。
なら、確実に倒そうとするほうが普通だろう?

「相手は恐らく強くなっている、感覚でわかる。化け物組みの解放と同じ様な感じだ」

「解放……といえば、あのリオルさんがなっていた、あの?」

「そう。自身の力を100%出せるようになる力だよ」

もしかしたら、ヘドロ爆弾を全方位で飛ばすなんて無茶もするかもしれない。そうなったら草タイプの僕達が危険だ。毒は草にとって、害でしかないからね。

「行くよ……拘束の種は多分、直に千切られると思う! だから、隙を突いていくしかないよ!」

「でも、どうしたらいいの!?」

「ミルはシャインロアーの射撃準備に入っていて! シーアはミルの援護!」

「りょ、了解!」

「了解でしゅ!」

で、僕とグラス。どちらが逆方向攻撃の役になるかというと……ここは、グラスが適任だろうね。

「確か、“リーフストーム”を使えたよね?」

「はい、まだ完璧じゃないですが……それで攻撃を?」

「うん、僕の主力攻撃は“ソーラービーム”だからね。“リーフストーム”はまだ使えないんだ」

「了解しました」

さてと、準備は整ったね。
ただ隙を作ってそこを突くだけじゃ、反撃される可能性もある。ならここは、じっくりと“考察”するしかないよね。

「……観察、考える。これが僕唯一の取り柄だからね」

と言っても、さっきからずっと考察はしている。
例えばベトベトン、この二匹はもう一匹が気を引き、その内に攻撃すると言う簡単な作戦を主に戦っている。
先程、ミルがのしかかられそうになったときが正にそれだった。
そして……攻撃面では、ヘドロ爆弾=シャドーボールの威力だ。ただこれがシャインボールならば先程言ったとおりの、特性適応力が発動して上回るだろう。

「ベト……ベトオォ!!!」

「!?」

そんな戦いの最中、突然片方のベトベトンが叫びだす。
野太くて低く、尚且つ威圧感漂わせるような声は恐怖という二文字を思い出させるようだ。

「一体なにを……?」

そんな行動をフィリアが“観察”していると、片方が小さくなり……いきなり大きくなった。
ここで考えてみよう、小さくなる、もしくは押し込まれていた物がいきなり飛び出したり、抑えていた物がなくなればどうなるだろうか?
簡単だ、勢いよく飛び出す。ただそれだけだ。

「まさか……」

そう、フィリアの予感が的中してしまった。
そのまま勢いよく飛び出したベトベトンは、体を分裂させ、辺り一面をヘドロ――ベトベトンの体――まみれにする。
今、ドーム内の地面ほぼ全てを覆っているヘドロがベトベトン自身だと思うと、少しグロテスクな感じも否めないが、そんなことを考えている暇は無かった。
何故か? それは足場が制限されたと言うことだ、奇跡的に誰にもかかっていないが、もうその場を動く事ができない。
ミルとグラスが丁度直線的になっているのが唯一の救いか。

「……もしヘドロの上を歩けば、触れれば毒にかかってしまう」

だが、片方のベトベトンを直線状の位置に移動させるのは、誰かがしなければならない。

「しょうがない、か。グラス! その場を動かないで、技を溜めておいてくれないか!?」

「了解しました、ですが失敗はないようにお願いします」

「分かってるよ。僕だって失敗なんてする気、少しもないからね」

まずは第一ステップクリア、で、ここからが問題だ。

「ミル、君は僕が合図をしたら、“目覚めるパワー”をできるだけ多く撃ってくれないか!」

「分かったけど、なんで!?」

「手品の前に、種明かしをするマジシャンがいるかい?」

第二ステップ、これはミルが重要となってくる。
僕の作戦では、ミルとグラスの技を同時に逆方向からあてるというどうやっても衝撃を逃せない方法で倒すと言う算段なのだが、ミルは目覚めるパワーを放った後に直、シャインロアーの準備をしないといけない。
もしかしたら威力不足になったりするかもしれないので、その場合の為にグラスには最高威力で撃ってもらいたいのだが、生憎草タイプの技なので、致命傷にはなりえない。

そして、第二ステップの準備。

「シーア、君は僕が合図したと同時に“浄化”を始めて!」

「な、なんで知ってるでしゅか!?」

「グラスからちょっとね。君なら、このくらいどうってことないだろう?」

「それは分からないでしゅけど……分かったでしゅ」

いいね。これで準備完了だ。
後は、僕がどれだけ相手の気を引けるかが重要になってくる。

「行くよ、“エナジーボール”!!」

「ベトォ!」

初手はまず“エナジーボール”。だがベトベトンもこの攻撃の対処は慣れたのか、簡単に相殺してくる。
次にエナジーボールがダメだと分かった僕は、接近戦……つまり“リーフブレード”で相手を斬るがやはりヘドロでできた体に斬撃は通らないようで、威力は全て受け流されてしまう。

「このッ……」

不味い、このままでは移動させることが叶わなくなってしまう。
毒タイプと言う事だけでも僕の苦手な部類なのに、防御が固すぎる。僕は化け物二人組みは勿論、ミルよりも決定力に欠けるんだ。
しかも、唯一の決定的な技“ソーラービーム”も太陽が昇っていなければ使えない。

「なら、これはどうだい!」

尻尾が黄緑色に光り、少し鋭くなる。“リーフブレード”だ。
だが何か違う。いつもならば斬るだけで終わるのだが、それは少し違った。

「リード、君の考え……貸してもらうよ!」

僕はそのまま、尻尾を横なぎに振るった! すると真横、水平な斬撃がベトベトンを斬り……真っ二つにする。

「ベトォ!!?」

「君は体がヘドロでできてるんだったね。なら、これくらいはどうって事無いだろう?」

ベトベトンやベトベターは何の変哲のないヘドロがX線を浴びて生まれたという。その為、臓器などはなく、汚い所にいるだけでずっと生活していける。
勿論、食事もできるし、一般ポケモンと同じように住め、と言われても普通に住める。

「体が二つに分かれた今なら……“蔓の鞭”!」

「ベベトォォ!!!」

上半身と下半身。二つに分かれたそれを蔓の鞭でグラスとミルの間へ移動させ、下半身へ上半身を叩きつける。

「ベトオォ!?」

当然、下半身からヘドロが飛び散り、ベトベトンは暫く動けなくなる。いくらヘドロといっても体が千切れているのだ。くっ付くまでに時間はかかる。
そして、その間に……。

「今だ! シーア、浄化開始!」

「は、はいでしゅ!」

シェイミという種族には特別な能力がある。
それは“大気中の毒素を分解して自身に吸収し、水と空気へ変換する”という能力だ。それにはシェイミだけが使えると言う“シードフレア”という技も含まれており、これは水と空気を体外へ放出するときに、一緒に爆発するというものだ。だが爆発と言っても衝撃波に近いものがあり、自らが瀕死になる代わりに高威力の爆発を引き起こす“自爆”や“大爆発”等とは違う。

そして、それは大気中だけの毒素しか分解できないのではない。ただ大気中の方がシェミにとっては圧倒的に楽なのだ。

「み……みいいいぃぃぃぃ!!!!」

見る見る内にヘドロが浄化されていき、綺麗な水となる。ベトベトンはそれを嫌がり、再びヘドロへ変えようとするが……先にフィリアが動いた。

「ミル! いまだよ!」

「オッケー!」

再びフィリアの合図。そして、ミルがそれを聞き逃すはずもなく、“目覚めるパワー”タイプ氷を地面に向かって放つ。
するとどうだろうか、浄化された水は瞬く間に凍っていき――遂にベトベトンを巻き込んで綺麗な氷の池ができる。

「今だよ二人とも!」

「はい……行きますよ」

「私もいくよ……」

溜めに溜めたグラスの“リーフストーム”、それにミルの“シャインロアー”。
今溜め始めたミルの方が威力は下だろうが、適応力で強化されるだろうし、威力が受け流されないのだから多少のズレはあってもいいだろう。

「“リーフストーム”ッ!!」

「“シャインロアー”ァッ!!」

対極の方向から放たれた、木の葉の嵐と光の咆哮。
その威力は凄まじく、ベトベトンに対して両方がぶつかり合った瞬間――大爆発を起こした。
その音は氷壁内部の為、反響し、少し耳障りだったのだが……その音を聴いた瞬間に、勝利が確定された。

「や……やった!!」

「ふっ、やりました」

「勝った、のかな」

正直疲れた、が素直な感想だ。
結局自分の見せ場は、あの“水平翠斬”だけだ。因みにアイデア提供はリード。いや、奪ったと言った方が正しいかもしれないけど。

「さて、じゃあこの氷壁をどうするかだけど」

「どうするの?」

「考えがあるんだ。丁度、シーアも限界だろうしね」

「い、いつまで……我慢しておけばいいんでしゅか……?」

汚れを吸い取り、水と空気に変換、それを体外へと衝撃波の如き勢いで放出すると言うケタはずれで強力な技。
そして、それを体内にとどめると言うのは勿論体に悪く、普通は吸い込んで変換した瞬間に放出しなければならない。
だが作戦により、こうして溜めさせている。

「さっきの衝突の直後じゃ、爆風で危険だからね。色々と収まった今、シーアの役割が発揮される」

「み……」

「ちょっと待ってね。……それっ!」

フィリアは爆発寸前のシーアを尻尾の上に乗せ、力をこめると……力いっぱい、天井に向かって投げた。
これでシーアが投げられるのは今日で二回目であり、不快な顔を一瞬だけするのだが直に別の顔へ変わる。

「も、無理……でしゅ」

そして、シーアが天井へ少し触れた瞬間――



――巨大な音とともに、凄まじい衝撃波が氷壁内部を襲った。

「きゃ、きゃああああ!!!」

「くっ……」

「やっぱり、あれだけのヘドロを浄化したら……強くなるよね」

ただ、そんな氷壁内部を震えさせる程の衝撃波でも、震えさせる程度だったらしく、所々に穴を開ける程度に収まる。
それでも良い結果だ。

「……太陽の光が、入ってきた」

これで準備完了。後は一番光が収束される所に移動するだけだけど……あそこか。

「さてと、偶には僕の活躍も見せなきゃね」

太陽光が集中するポイントまで移動すると、そのまま光を吸収する。その証拠に僕の尻尾が光っている。
本来ならば、ここでソーラービームとして放つのだが……おや、この水晶は?

「珍しいね……黒と紫の水晶なんて」

いや、さっきまでここには無かったはず。頂上にはグラスの説明により鉱石とかそういうのは発見されてないらしい、ならばあのグレイシアの持ち物だと考えるのが妥当だろう。

「取っておこうか」

僕は身を屈めて、それを取ろうとした……瞬間。

「う゛……」

強大な嫌悪感、吐き気、目眩、その他もろもろ……気持ち悪い感覚に身を襲われ、もしそれを一言で表すのならば負の感情……そういったものが、僕の中に流れ込んでくる。

「気持ち悪い……早く、袋の中に……」

僕は重要、もしくは貴重な物を入れる用の袋の中に水晶を直に入れて、すぐさまバッグの中に入れる。その後も少し気持ち悪い感情が続いた。

「ふぅ……じゃあ、行くよ」

ミル達は今、突撃の準備をしている。僕がこの氷壁を切り崩した時に備えてだ。
最も、僕は一mくらいの穴しか切り崩さないけれど、それは伝えていなかった。因みに理由は疲れるからだ。

「“ソーラーブレード”!!!」

一気に氷壁まで詰め寄ると、僕は高速でその太陽光の熱を帯びた尻尾と言う名の刀で……氷壁を切り裂いた。
いや、溶かし斬ったたという方が正しいだろう。凄まじい熱により氷を溶かし、どんな堅牢な氷壁であろうと切り崩す。

「突撃ー!!」

「おー! でしゅ!」

「あ、待ってください!」

無論、一mしか斬っていない。
計算すると、確かイーブイは平均全長60cm。シェイミは20cmなので計算すれば丁度1mだ。しかもシーアは子供なのでもっと小さい。のだが勿論、僕の全長はミルと同じなので入り込む余地なんてものは存在していない。

「やれやれ、皆、急ぎすぎだよ」

そうして、他の三人出て行って数秒後に、もう一人も出て行くのであった――。





〜☆〜

氷壁内部に閉じ込められて丁度、五分の時間が流れようとする頃。
こちらはもっと――酷い事になっていた。

ここはフロンティアが閉じ込められた氷壁、フィリア達と同じくベトベトン二匹が内部に一緒に閉じ込められている。
ただその強さは、フィリア達と一緒に閉じ込められていたベトベトンよりも強かった。

「うわぁ!!」

「うおぉ!!」

「きゃあ!!」

「「ベートーベートオン!!」」

氷壁内部はヘドロ塗れになっており、またどこからか飛んできた泥の爆弾にフロンティアは直撃し、またどこからか分からない場所からとても低くおぞましい声が聞こえてくる。

「くっ……まさか、こんなに頭がいいなんてッ」

「相手の姿を消す方法は分かってるんだけど、位置の特定方法が分からないよ!」

「ど、どうすんだ!?」

上からキノサ、サザム、リキの順番で叫ぶ。
そう、実は苦戦はしているものの相手がどうやって姿を消しているのかは分かっているのだ。その方法とは……あたり一面がヘドロなのと、ベトベトンの技の一つに“小さくなる”や“溶ける”といった技があるということだ。
まず辺りをヘドロだらけにして溶けるだけ、実に簡単な作戦なのだがフロンティアの面々はそれに気付いていないらしい。

「くっ……」

キノサは特性“ポイズンヒール”により毒状態になると逆に体力が回復すると言うものでヘドロには触れたとしても問題なく、サザムも鋼タイプの為に毒状態にはならない。問題はリキだ。格闘タイプで特性“根性”により状態異常になると攻撃力が上がるという特性だからといって、ベトベトンは防御も高く力尽きてしまう特性の方が多い。
なので、モモンの実を食べた瞬間に跳躍し、モモンの実と同等の効果のスカーフ、通称“モモンスカーフ”を付ける事によって毒状態にならずに住んでいる。

「これ、どうするの!?」

「とりあえず、徐々に相手の体力を減らしていこう! 一匹になれば“あれ”が使えるよ!」

「分かってるよ!!」

あれ、というのはこのチーム全員の連携技の事だ。それがこのチームが探検隊の実力が上位にまで食い込んでいる理由である。
これだけで、どれだけ強力な技かは分かるだろう。一つの技で上位に食い込む。ラルドは“解放”という特殊能力で英雄という地位にまで上がったが、こちらは連携技でだ。

ただ、エンジェルはチームとしての連携力も高い傾向にあるのだが。

「……一体、どうやって倒せば」

「周りを一気に攻撃って言うのは?」

「どうやってするんだよ!」

「時間差で攻撃って言うのはねぇのか……?」

時間差攻撃、代表的な者は“未来予知”と言う技だ。未来に攻撃を予知し、ぶつける。平たく言えば攻撃を未来に飛ばす、限りなく不可避に近い攻撃だ。

「……無い事は、ないね」

「本当かい!?」

「なんだ、それは!?」

「ベトベトン達に打ち落とされたら終わりだけど……やるのかい?」

「おおぉ! やるぜ!」

「教えてくれない?」

ヘドロの中に溶けたベトベトンを見破ると言うのは、“見破る”というそういうことに特化した技で無いと無理だろう。そもそも溶ける自体、防御を上げると言うものなのだ。

「それはね……ゴニョゴニョ」

「なるほどね」

「そういうことか!」

これで、最低でも一体は倒せる。
このベトベトン達は賢い、溶けてヘドロに身を隠してから“ヘドロ爆弾”を乱射。危ないので一点に集中して固まってサザムを盾にするということで防いでいたが、すぐに全員に効く“泥爆弾”へと変えてきた。
そして、そんな頭が良い敵の一匹でも倒す為のこの策は……随分と簡単だ。

「じゃあ、簡単だからね。準備はなしで行くよ……ゴー!!」

「「おぉ!!!」」

まずは、リキがヘドロの中心へと立つ。

「見せてくれよ。疲れる事の無い、一t近くのものでも軽く片手で持ち上げられる、お前の実力を!」

「ウオォォォ!!!!」

地面に向かって片手を向け、もう片方の手は奥に引っ込められ、筋肉がありえない程に膨張している。
そんな光景を見ていたら、何をするかなんて一発で分かる事だ。

「俺のォ、渾身のォ、“爆裂パンチ”を喰らいやがれエエェェッ!!!」

そのまま溜めていた力を一気に放出し、地面を凄い力で殴った。すると凄い衝撃波が発生し、ヘドロを一気に端まで押し寄せる。
勢いはヘドロで多少弱められたというのに、これだけのことができ、更に地面も少し揺れる。おそらく氷壁が揺れただけで外には影響がないだろう。
そしてゴーリキーはそのまま立ち上がると、じっと動かずにいる。その光景は正に強力と呼ぶに相応しかった。

「じゃ、行くよ……“種爆弾”!!」

種爆弾、種が爆弾の変わりになった技、とでも思えばいいだろう。
種=爆弾とするには種のほうが圧倒的に威力が低く、全部の種を当ててやっと同等かそれ以下というレベルだろうが、キノサは全てを片方のヘドロに当てた。
正確に言えば端に別れた右側の方で、左右のヘドロは現在ベトベトンの体を形成していて、バラバラになっても再生可能とか……と気持ち悪くなってしまうが、そこを重点的につく。
ドオォォン、という派手な音がなった後に、そこに残っていたのは何故か形が既に形成されており、気絶したベトベトンがいたのだった。

「さぁてと……後は君だけだよ!」

「べ、ベトォ!?」

本人たちは知らないだろうが、未だ十分もたっていない。八分くらいだろう。
そしてベトベトンを一匹倒し、もう一匹も倒そうとしている……もう既に、負けるということは確定しているのだが。

「もういっちょ、派手に行くぜ!!!」

「ベ……ベトオォ!!」

ベトベトンの最後の抵抗だったのだろうか、知らぬ間に至近距離まで迫っていたリキに“ヘドロ爆弾”を放たれるがギリギリの所で避けられる。

「俺達の必殺コンボ、第一ステップ――“ローキック”! からの……“爆裂パンチ”!」

「ベドオォォ!!?」

“ローキック”により地面からベトベトンを離し、かつダメージを与える。次に空中で、しかも受身なんて取れる体勢じゃない時に“爆裂パンチ”を当て衝撃を逃させずに吹き飛ばす。踏ん張りの利かない空中ならばより遠くまで吹き飛ぶだろう。
そして、次。

「“スカイアッパー”!!!」

「ベードオォ!??」

勢いよく吹き飛んでいる所を、下から上に強力な打撃を喰らわしてやる。元々、飛んで高い位置にいるポケモンを地上から跳躍してアッパー、とこういう時には非常に役立つ技だ。

「最後……“アイアンヘッド”!!」

「――、――!!!??」

最後は、上から下へと硬化した頭――自らの頭についたもう一つの口――で相手を叩きつけるという、コンボ技。
これには防御が高いベトベトンも只では済まず、悲鳴にならない悲鳴を上げて地面へ突っ込み……そのまま地面に埋もれた。

「ふぅ……終わったね」

「疲れた〜」

「俺が一番働いてるんじゃねぇか?」

「なに言ってるんだよ。俺だって上へ叩くとき、滅茶苦茶痛いんだからな」

「私だって、殆どの衝撃が乗ってる相手を下に叩きつけるんだから物凄く居たいのよ?」

と、戦いが終わった後は、皆この戦いでの愚痴を零す。ほとんどがコンボ技についてだが、ケンカなどには絶対にならない。それが探検隊七不思議だ。
そしてフロンティアはこの後、十分後に氷壁内部から出る事となる。



勿論、氷壁を壊すだけの力が残っていなかったとかではない……はず。





〜☆〜

そしてここは……とある、暗い空間。
そこでは、普通の二倍の大きさの少し傷ついたベトベトンと……傷だらけで体が震え、今にも崩れ落ちそうなリオルが……いた。

「はぁ……はぁ……」

「ベトォ……!!」

「……ぐっ!」

ベトベトンがリオルへのしかかろうとするも、それは難なく避けられ、その隙に攻撃される――が、リオルの方が悲鳴を上げる。

「がぁ……くっ、ぐっ!」

「ベトォ!!!」

今までのベトベトンより野太く、低く、まるで雑音のような声がリオルの耳を刺激する。そしてリオルは、その声を聞きながらこう呟くのだった。

「悪いが……まだ、外へは出られそうにも無いぞ……ラルド」



次回「空の頂き〜この里での最後〜」

■筆者メッセージ
約二週間も更新遅れました。最近忙しすぎ……。
クオリティも色々とあれですが、いつもどおりのエンジェルでお送りします。

次回「空の頂き〜この里での最後〜」お楽しみに!
ものずき ( 2013/02/28(木) 18:09 )