第十三話 空の頂き〜汚に染まる頂〜
マスキッパ軍団を撃退(?)し、着々と頂上へ近づくラルド達。だが途中、ニューラが倒れており、そこにグラス達も現れる。そんな中、何とかニューラを助け出す事に成功したラルド達は――?
〜☆〜
……ニューラを助け出した時には結構な時間が経っており、恐らくあいつらはもう九合目にいるだろう。
一方、俺達は九合目への道のりを歩いている途中なんだが……そこら中にエネルギー弾の後や葉が突き刺さっており、どれだけ暴れたのかが容易に想像できる。
「……で、どうやって追い越すでしゅか?」
「ふっ、俺も丁度その事を考えてた」
「格好つけても意味ないでしゅよ!」
「ははっ……さて、俺も策が無いわけじゃない」
そう、俺が何も考えずに行動するとでも思っているか? あ、思ってましたか。
……ま、まぁ。そんなことより策の方だが……簡単だ、予め用意している。
「レイン! 全解放ってどうやったら出来る!?」
………………。
あれ、レイン? レインさーん、起きてますー?
「起きてない……うわぁ!!」
「ど、どうしたしゅか?」
「やばいやばい……策が無くなった」
「ええぇぇぇッ!?」
どうするどうする……さっき貰った“電気のジュエル”は役には立たないだろう。ならどうする、どうしようか。
「畜生……レインの助言が消えた、もう何も残ってないぞ」
「ラルドお兄ちゃぁん! 戻ってくるでしゅぅ!!」
こんな事なら、もっとあいつら妨害すれば良かった……しょうがない。
「“解放”……更に“超帯電≪ボルテックス≫”!」
本来、肉体が使える自身の本当の力は約70%で限界ぎりぎりまでの力は使えない……はずが、解放はとある特殊な力により本当は肉体が崩壊する所を肉体崩壊→体力減少に変換し、しかもエネルギーなどを蓄える限度も増え蓄えるエネルギーが信じられないぐらい上昇するらしい。蓄える限度は無理でも肉体崩壊を体力減少に変換するのを無意識で使ってるポケモンも何億分の一の確率でいるらしい。
+超帯電、常に充電×帯電状態を今の俺が上乗せするとどうなるか?
「こうなるんだな……」
丁度、野生のエビワラーが来ていた。
じゃ、ちょっとウォーミングアップをさせて貰いますか!
「ウォッ!!」
「“ドレインパンチ”か、ならこっちは――“雷パンチ”!!」
レインが体の中にいるお陰で技の種類も読み解く事が出来るようになっている。ミルはどんな技かもお得意の視力で見破れるらしい。
実際、ミルが知らないはずだった技もなんとなく効果を見破っていた。
五kmでもまだ少し見え、十kmでやっと見えなくなるとかどこの超人だよ!
「グアッ!?」
「っと、何で押し負けたかって顔してるな?」
エビワラーのパンチ威力は確かに強いが……パワーだけでは勝てない。
「今時、パワーもスピードも兼ね備えなきゃ……なッ!!」
「グボァッ!!」
戸惑っている所に鳩尾へ蹴りを入れる。下から上へと蹴ったのでエビワラーは宙を舞い、そのまま地面に落ちる。
これだけで一発KOか。良かったよかった。
「ら、ラルドお兄ちゃん。一発で倒したでしゅか……?」
「ああ、後それだと俺がやられたみたいじゃないか。……本来の力+活性化だからな、体力半分を消費するけど威力は強いんだ……さて、と」
やはり解放は特殊だ、体がもう悲鳴を上げている。確かに解放に活性化を足せばこうなるのは目に見えていたが、それでも痛すぎる。
具体的には、ミルに目覚めの適応力×突進をモロに喰らった時並みだ。
「シーア、俺にしっかり捕まっとけよ」
「え、どういう意味でしゅ?」
「こういう事だッ!!」
姿勢を低くして、スタートダッシュを切る――瞬間、電光石火よりも何倍も速いスピードで走っていた。
勿論、ラルドには全力疾走している時と同じくらいにしか感じないが、シーアには空気抵抗により押し付けられる強さが半端じゃなく、じたばたしていた。
「ら、ラルド、お兄ちゃん……は、速すぎるでしゅ!」
「こうでもしないと、間に合わないぜ!!」
更に高速移動を重ね、一分も経たずに九合目につくことになる。
勿論、そこでシーアがアウトになったのは言うまでもなかった……。
〜九合目〜
「ふぅ、ふぅ……ラルドお兄ちゃん、速すぎてうまく息できないでしゅよ」
「御免御免……でも、仕方ないぜ?」
「それは分かってるでしゅけど……で、後何秒休めるでしゅか?」
「安全に勝つなら十秒。俺が死ぬけど勝てるぎりぎりなら三十秒」
「なら三十秒でしゅね」
……あれ、俺が死ぬんだぜ? いや比喩だけど、それでも下手したら動けなくなるんだぞ、危なくなったら……。
「頂上に敵はいないでしゅ」
パリンッ、と俺の中で何かが崩れ去る音がした。
実際は俺のガラス製のハートが崩れた音だが、俺のハートは強化ガラスのはずなんだぜ……?
「……畜生」
普段は強気な俺でも、本当に疲れているであろうシーアに反論なんて出来るはずもなく、同様に少し休憩をしていた……。
因みにだが、俺の強化ガラスのハートはしばらく戻りそうになかった。
〜☆〜
……頂上までの道のり、遂に来た。
さっきまで九合目に誰かが休憩していた痕跡があったので、恐らく突破はまだしていないだろう。道のりを突破しても、まだ少し未知があるらしいからな。
あぁ、ここまで長かったな……それも、これで終わりか。そう考えると楽だな。
「――それでも、“解放”と“超帯電≪ボルテックス≫”と“高速移動”に“電光石火”はきついぞ!!」
「み、みーだって我慢、してるんでしゅから! 我慢して、くださいでしゅ!」
「あーもう、息がしずらいんだったら喋るなよ!」
格好よく言えば限界を極め、超帯電≪ボルテックス≫で活性化。高速移動で素早さの基礎を上げ電光石火で最終底上げ。
シーアはさっきは両手に抱えていたが、今は背中に乗せている。あまりの速さにしがみついてきて痛い、呼吸もやりにくらしいが一応出来ていて、多分世界でも最速に近いと思う。同じ条件で素早さが元々高い種族がやれば高速じゃなくて光速レベルなんだろうな……。
「……! こんな時に限って敵かよ!」
しかもガラガラというポケモンで、こいつは地面タイプ。太い骨を持ち、頭に骨を被っている骨が特徴的な攻撃力が少し高いというポケモンだ。
俺からしたら地面と言うだけで天敵だが、“今”の俺なら苦じゃない。
「俺の解放の特徴はタイプ無視なんだ、例えお前が地面だろうが関係ない!」
走る途中、一瞬で左手に雷を収束し、一瞬で――
「“暴雷パンチ”!!」
――殴り飛ばす。
暴雷パンチは“爆雷パンチ”の所謂下位互換だ。勿論、威力は爆雷パンチには遠いがそれでも並大抵のポケモンなら一発で倒れるレベルだ。
ただ、強化されているからかは分からないがこのガラガラ、素早い反応で骨を盾にした。いくら強化されているとはいえこれまでこの速さの技を瞬時にガードした野生ポケモンは今まで居ず、結果骨を折って顔面に叩き込んだ物の、凄いと言える。
「……そういや、紫っぽい破片が見えたような……?」
「ラルドお兄ちゃん、気は抜くなでしゅ!!」
「って、ああ。御免。というか息できてるじゃないか」
「慣れてきたんでしゅ! ……そ、それよりほら!」
「ん? おお……出口だ!!」
実は速すぎて息が出来ないことはないが目をそんなに開けれなかったのだ。これがもし前に壁があった、とかなら大惨事だな。主に俺の顔が。
「遂に……やったー!!」
外から流れてくる光で外が見えない中、俺は何がいるかなんて事も気にせずに出口が見え、あと少しで頂上だという感情だけが体を支配していた。
そして――
「到ちゃ……く?」
「ふぇ?」
「え?」
「……?」
「?」
「え、な……えぇ!?」
おおっ、シーアが驚いた。というか背中で騒ぐな。
っと……これは驚いた、まさかここに四人全員揃っているとはな。
「ミル、フィリア、シルガ、グラス……速いな」
「君こそ、どんな裏技を使ったんだい?」
「大方、あれだろうな」
「えー、あれやったの? やりすぎると三日動けなくなるんじゃなかった?」
ああそうだ、全部位を二回使うと三日間寝込む事になる。でもまず強烈な痛みが一回目で襲ってくるからな。
この痛みは二ヵ月間でミルの“シャドーロアー”を間違えて当たってしまった時並みだ。
「驚きました、まさか追いついてくるなんて」
「電気タイプになった事が幸運だったぜ」
「ラルドお兄ちゃんは凄いでしゅよ! 絶対に勝てるでしゅ!」
「ほう……なら、戦ってみるか?」
! やばい、シルガが本気を出してきた。
蒼いオーラに包まれて、眼が銀に染まって……“解放”だ。
シルガの解放の特徴は波動の実体化なので、これは厄介になる……なら、こいつを早々に叩き潰す!
「面白そうだね」
「私もやる!」
「ならば、三匹で一斉だ……グラス、貴様は先に行け」
「言われなくても」
え、あ、あいつ抜け駆けしやがった! おい待てよ、この状況だけはやめさせてくれよ!
ちょ、シルガさん“波動弓”の準備はやめてください、フィリアさん“ソーラービーム”の準備もやめ……ちょ、ミルも“シャインロアー”なんてやめろよ!!
「……脚は使えない、手も左は……となれば右手か」
だが、相殺するうちにグラスが頂上についてしまう。
くそっ、どうすれば……!
「! ……そうだ、この手があった!」
「ど、どうしたでしゅか?」
なんだ、簡単じゃないか!
この技を喰らっても俺は死なない、重傷は負うかもしれないが絶対に死ぬ事はない。
逆に言えば勝利に全てを集中できる。
「流石に重傷を負うのは怖いから相殺しようと考えていたが……シーアの為だ」
「へっ?」
と、俺はそう言うとシーアを片手で持ち上げる。その手は勿論――右。
みればグラスは頂上へ近づいている、後数歩走る事であちらの勝ちだろう。
「行くぜグラス。受け取りやがれぇッ!!」
右手を雷で加速させ、全身全霊を込めた力で……。
「飛んでけぇッ!!!!」
思い切り、投げつけた。
「え……」
「なっ……」
「……!」
「え、えええぇぇぇぇぇ!? な、なんででしゅかぁッ!?」
その速度はグラスより速い、お陰で俺の右手は痛いが……それでもこれなら!
「行けええぇぇぇ!!!」
「死んじゃうでしゅー!!」
「はぁ、はぁ……なっ、シーア!?」
ちっ、出来ればこのまま気付かれずに行ってくれれば良かったんだが、俺のこれで気付いたか。
だが、この速度ならいける!
「ぬ、抜かされ……」
「――、――!」
シーアは涙を流しながら、声にもならない悲鳴を上げて――頂上にたどり着いた。
あ、不味い……謝らなきゃ殺される、一方的なエナジーボールで殺される。
「はぁ、はぁ……こ、これで」
安心すると同時に、息が漏れる。息が漏れると同時に力が抜ける。力が抜けると同時に……解放が解ける。
しかも、解放が解けるときの浮遊感は今でも好きになれなかったが、今だけは何故か好きになれた。
「はっ……痛ぇ!! 体が痛ぇ!!」
「う、うぅ。負けちゃったよぉ……」
「勝てる自信満々だったからね。まさかあそこで投げるとは」
「……人の気持ちも考えろ」
「しょうがないだろ、必死だったんだっぞ!?」
動かせない体を必死に起こしてまず初めにしたことは突っ込みっぽいもの……うわぁ、最悪だ。
でも、まぁいいか。これでシーアと俺の勝ち。シーアも十分強くなっただろうし、実際一匹は倒していたし……これで強化されたって言う原因も解ければ無事に終わる!
――な、なんですかコレはッ。
「? なんだ、グラスの声?」
「驚いてたみたいだよ、行ってみる?」
「まぁ、行ってみるかしかないよね」
「……あいつを助ける行為なんてしたくないんだがな」
「まぁまぁ、お前は俺を連れて行く係な」
「断る」
「!?」
おいおい、流石に嘘だろ? 俺歩けないんだが……。
「私が運ぶよ。さ、私の上に乗って」
「明らかに俺より小さい奴がなに言ってる。いいよ、自分で歩く」
「うぅ……」
「ミルの再開して早速の厚意を無碍にするなんて、君は頭の螺子がないのかい?」
「あるに決まってるだろ!?」
と、雑談をはさみつつ頂上へと向かう俺たち。
これがいつもの四人なんだな……と、身に染みる。確かにこれは緊張のきの字もないな。
「さて、どうしたん――だ!?」
「ねぇ、どうした――の!?」
「一体どうしたん――え?」
「……これは」
勝った。
そういう思いで、勝利に酔って、勝利の気分に浸っていて。
だがこの頂上を見た瞬間、それらのものが一気に吹き飛んだ。異臭、景色、全てが最悪だった。
本来は空気が澄んでいて綺麗と言われる頂上、だが今は眼に見えるほどの汚い空気で紫色に染まり、小さい湖のような場所も紫でドロドロになっており、異臭が鼻をつく。
「ど、どういうことでしゅか!?」
「なっ……何故これだけ汚くなっているのですか」
これは……確かに酷い、幾ら一ヶ月誰も来なくて手入れもされてないとはいえこれはないだろう。酷すぎる。
しかもこの異臭、この臭いは……ガス?
「いやぁ、やっと頂上に着いたよ」
「本当、苦労したわね」
「俺はもう一度昇りたいくらいだぜ」
「……お前ら」
「お、英雄じゃないか……って、うわっ! なんだこの空気!?」
やっぱり俺達の眼が可笑しくなったわけじゃないのか、誰でも臭いと言う空気、ガスみたいな……まさか。
「これ、まさか“毒ガス”か!?」
「い、いえ。それにしては毒性が低すぎます」
「――ベタァ」
この声……誰だ?
「べ、“ベトベター”!?」
「ベトオォ……」
「こっちには“ベトベトン”もいるよ!」
ベトベターにベトベトン、体がヘドロで出来ており、体内にもヘドロを造る臓器がある。近づくとその異臭に鼻がやられる。ベトベトンは鼻が退化していて自分の臭いに気付かず、またベトベトンが歩いた場所には三年間草木が生えてこないらしい。因みに触れると猛毒になる。しかもこちらを睨んでいて敵意を持っているのだろう。
と、レインは物知りだな、少なくとも俺には種族が分かるだけだな。
「合計十匹……ベトベトン五匹とベトベター五匹か」
「……逃げ道はない」
「えぇ!?」
「八方塞……という訳でもなさそうだけど、どうだい、倒すのかい?」
「当たり前です。この人達は元は自我を保っていました。知り合いでもありましたが……自我をもったポケモンが理性に帰ることほど、恐ろしい事はありません」
確かに。
ダンジョンの野生ポケモンは技の使い方を本能だけで覚えている。だが元々理性があったポケモンは技の深い部分もちゃんと理解しており、野生ポケモンよりも相性、威力、その他色々を理解して戦ってくる。
マスキッパ戦でも思ったが、ここでは自我を保った野生ポケモンが多い。何故だ?
「いきなりすぎて分からないけど、戦うしかないようだね」
「そうだね、私も本気でいくよ!」
「俺のパンチで吹き飛ばしてやる!!」
こいつら……ここは素直に有り難う、と言っておくか。
さてと、あちらは十匹、こちらは九匹。こちらの方が少ないと言えば少ないがそれでも幾ら理性があったとはいえこちらはかなりの実力を持った探検隊と、里最強、里子供最強、英雄探検隊……俺が自分で言うと自惚れみたいでいやだが、周りにそう呼ばれてるんだ。仕方ない。
「……さて、始めるか」
誰が呟いたか、その一言で俺達は戦いへと足を進めた――。
次回「空の頂き〜汚との頂上決戦!〜」