第九話 幼い心で決意を
シェイミの里に着き、グラス・ブロームと名乗るシェイミと出会ったエンジェル三人。リーダーを探そうと“ぐるぐる森林”に行くと、そこには――?
〜☆〜
……え? としか言い様が無かった。
いきなり木が倒れてきたと思ったら、エナジーボールが飛んできて。
見てみたらミルとフィリアとシェイミが居て、恐らくあのシェイミが撃ったのだろうと思っていたらさっきシェイミが言った言葉で又もや混乱。
「えっと……知り合いなのか?」
シーアはまだ気絶している、だが先程のシェイミの発言は見知っている者への発言だった。いや、あの村は人口百人に至るかどうかなので、全員が見知った顔だろうが……。
「はい、自分は“グラス・ブローム”と申す者です。以後宜しくお願いします」
「グラス……ブローム!?」
驚いた、まさかシーアと同じ苗字だとは。
つまりこのシェイミはシーアの……姉か兄的な存在で、家族って言うことか。
「あんた、シーアの姉か兄か?」
「いえ、我々シェイミには性別が存在しません。ですがあなた達の様に性別があるポケモンからすれば姉、が正しいでしょう。主に喋り方で」
「……女みたいな喋り方をする男も世界を探せば居るんだろうけどな」
「?」
まぁ、この時代からそういう系の人、というかポケモンが居たわけだ。極少数なんだがな。
「――で、シーアとは霧包山で出会ったんだが……どういうことか説明してもらいたいんだが」
「いいでしょう、ですがこんな森で立ち話なんて嫌でしょう? 里に戻り、自分達のm家で話します。勿論そこのシェイミも連れて」
「うぅ……」
! 今、少しだけだが声を出したな……やっぱり、意識も戻ってきたのか。
「では、戻りましょう。自分達の里、そこのピカチュウさんにとっては初の――シェイミの里へと」
グラスが回れ右、をすると、俺達は全員グラスの後ろにつき、案内されるがままに歩いていった……。
因みにその時、シルガは丘の上で死んだようにぐっすりと眠っていたらしい。
〜☆〜
――シェイミの里 グラスの家――
「成る程、つまり最近でもワープスイッチ事件は起きていて、俺が何も知らないままに掛かってしまった。それで丁度敵ポケモンに襲われたシーアとであった……って事でいいよな? というかそれ以外、言い方を知らないからな」
つまり霧包山でワープスイッチを踏んでしまう→霧に隠された別ルートに飛んでしまう→シーアと出会う→とある技により霧が晴れ、出口を見つけて霧包山を出る→森で助けられ、今に至ると言う事。
「はい、それでいいです。自分もまさか、こんなに早く見つかるとは思ってませんでしたから……で、あなたは?」
「……俺はピカチュウの“エメラルド”、ラルドと呼んでくれ。一応エンジェルのリーダーだ」
「成る程、世界を救った探検隊のリーダーですか……」
「っ、知ってたのか?」
「勿論、あなたが星の停止を止めなければ、今頃自分たちは止まってますから」
……こういうタイプの人間は苦手だ、言葉の中の言葉? 見たいな感じで皮肉を言葉に絡めたり、隠した言い方でいう。
つまり頭を使って物事を聞かなければならないため、俺の苦手な部類の奴だ。
「で、名前だけですか? 苗字も名乗ると思ってたのですが」
「……さぁな、俺は苗字を知らないし、これからも知ろうとは思わないし」
「そうですか、解かり易いご説明有り難うございました」
……やっぱり苦手だな。
「それよりもまず、何であんな所に子供が居たのか訊きたいんだが? お陰で要らぬ心配をしたんだが?」
「すいませんね。子供が遊び場を欲していたのに造らなかった物で……後、嘘はいいですよ」
!! バレ……てた、俺の性格と言うか、本心が!?
出会って間もないこんなシェイミに、何故……いや、相手は何かしている、というか知識を知ってるに違いないか。
「ね、ねぇ。私達さっきから蚊帳の外なんだけど……」
「ミル、ここは我慢だよ」
「……で、何で遊び場がないか訊きたいんだが」
「そんなの決まってます、危ないからですよ……いくら安全地帯とはいえ、敵が現れたケースも二、三度ありましたから」
敵が現れたケース、つまり一年ぐらい前からか。
それまで野生は居てもここまで拡大化していなかったし、強くも無かった。時の影響は本当に恐ろしい物だ。
「さて、もうこれでいいでしょうか? そろそろシーアを起こして質問しなければならないのですが」
「ああ、分かった」
と、ここで話は一旦中断だ。如何せん体がこういう話になれていなかった為か疲れた気がする。
俺はシーアを揺さぶると、名前を呼んで起こす。
「おいシーア、起きろ。お前の姉、又は兄が呼んでるぞ」
「へ……あ、らるどお兄ちゃん、おはようでしゅ……」」
「……お兄ちゃん?」
あ゛、まずった。
何か知らないが俺はシーアにラルドお兄ちゃんと呼ばれている。当然、俺はロリコンでもなんでもないが誤解は解かなければならない。
「言っとくが、無理矢理言わせただけじゃないからな」
「知っています」
「ああ、そうかよ」
「ふぁ……確か幽霊が出て、その後……ふわっ!? ぐ、グラスお姉ちゃん!?」
ちょ、待て。耳元で叫ばれたから……かなり、五月蝿いです……!
「シーア、あなたは一体どういうことをしてしまったか分かっていますか? あなたはともかく、連れて行った友達が怪我でもしてしまったらどうするつもりですか?」
「う……だって、グラスお姉ちゃん達が遊ぶ場所を……」
「じゃあ平気でダンジョンへ行きますか? 後先考えずに行動するからこうなるのです。軽率すぎるのですよ、分かっていますか?」
「う……ぅっ」
……反論する隙がない、これがシルガレベルになると互角に張り合えそうだが、生憎俺じゃあ無理だ。当然子供のシーアも無理だろう。
「はぁ……しょうがありません、今からお友達に謝りに行きましょう」
「な、何で!」
「どうせあなたが言い出したのでしょう?」
「で、でも皆が賛成したし、みーだってちゃんと皆に確認したでしゅ!」
「それでも」
「それに、悪い事を一緒にやっていなくても止めなかったら悪いでしゅし、一緒にやってたら尚悪いでしゅって、グラスお姉ちゃん前に言ってたでしゅ!」
……こいつ、本当に精神年齢と身体年齢がつりあわないな。シルガと比べたら尚思う。
「それは何年前の事ですか、今は今、昔は昔――」
「絶対に忘れちゃいけないって、言ってたでしゅ!!」
……しーん、とした空気がしばらく漂う。
ミルとフィリアは完全に空気で何もいえてない状態、ポカーン、といった擬音が似合うだろう。
俺もよく分からない、但しこれはシーアの唯一の反抗だという事は分かる。
なら――。
「おい――」
「――それは、貴様が悪いな」
! し、シルガ!? 何でこの場所が……ああ、波動か。
「? あなたはさっきのリオルさん、何の用ですか?」
「いや、この二人を探していてな。ついでに暇つぶし程度に“調査”も行ってきた」
ちょ、調査って暇つぶしでするものなのか? 教えてくれよ……というかそれよりも、一体何を。
「さて、さっき俺が言った事だが……貴様は自分を否定すると言うのか?」
「何を言いたいのです?」
「過去の行った言葉と矛盾した行いをするのは誰でも良くある、だが血が繋がった家族、しかも年下に対して言った言葉を、今と昔と言うだけで否定するのか?」
「はい、そうですが何か?」
「そうか――ならば貴様は、家族に顔向けもできんほどの“下種”だ」
シルガ、少しは落ち着け。確かに気持ちは分かるが、気遣いとかオブラートに包んで話すとかないのか?
と、心の中でだけ言っておこう。
「出会って間もない人に下種とは、一体どんな教育を受けてきたんですか?」
「貴様らとは一味も二味も違う、底辺の教育だ」
「捻くれているんですね」
「生憎、初対面だろうが何だろうが俺は自身の意見を言うぞ。捻くれているんでな」
……凄い、グラスと互角に喋ってるぞ。こいつ、フィリアに勝てたのはやっぱりまぐれじゃ無かったってことか?
「ならどうするんです?」
「簡単だ……ラルド」
「ああ、分かった」
なんだろうか、何となく……こいつの思いが、俺に伝わってきたような感覚。いや違う、同じことを考えていたのだろう。
全く、変な所でこいつとは意見が合うな。
「シーア、これから先はお前が決めろ。但し合法でだぞ」
「……空の頂に登る為にはガイドをつけた方が安全で効率がよいとあったが、俺達はどうしようか?」
「! ……なら、みーはラルドお兄ちゃんのガイドになるでしゅ! 怖いけど、ラルドお兄ちゃんがいるでしゅし……グラスお姉ちゃんを納得させてやるでしゅ!!」
納得、つまりシーアが皆に謝るのは可笑しいって言う事を納得させるためか。ただ登りきっただけでは納得させれるかどうか分からないが。
それと、ナイスだシルガ、としか言いようがない。こいつ本当はこうなる事を見越していたのか、それとも偶然か……分からないが、有り難うな。
「シーア、あなたは自分の言っている事が分かっているんですか? それにエンジェルにはあなたとは別のガイドがつきます、我侭もいい加減に――」
「なら簡単だ」
グラスの説教がまた始まりそうだったので、今度は俺が制止した。
何でって? そんな物、解決策があるからに決まってるだろう。
「ミル、フィリア、後は任せたぞ」
「……それは」
「まさか、ラルド!?」
一世一代、とまでは行かなくても案外大きな役割だ。別に俺は赤の他人がどうなろうと知ったこっちゃない、でもそれがこんなに近く、情も移ってしまった奴なら……助けるのが、探検隊って者だろう?
「俺、エンジェルのリーダー“エメラルド”は――
――チームを、一時脱退する」
次回「決闘、エンジェルVSラルド!」