第三十四話 正当な暴虐
俺が雷を受けそうになった瞬間、少し意識が途切れた。
その間、ほんの数秒の間にライボルトは大ダメージを受けていて――?
〜☆〜
「暴虐など、昔から持っている。……いや、持った」
「知るかぁッ!!」
俺は帯電≪ボルテージ≫をすると、高速移動+電撃逆噴射でライボルトに近づく。
そして、その速度のままの渾身の“メガトンパンチ”で殴った。
「ぎゃうん!!?」
いきなりの衝撃に目眩を起こしたらしい、少しふらふらしている。
その時に少量の赤い電気が迸ったのは、誰も気付いていなかった。
「強い……さっきのツタージャやイーブイよりは手ごたえがある……」
「うわぁあ!!」
そのまま、俺はメガトンパンチをアッパーにして殴る。
今の俺には、もう電撃なんて関係無かった。
「ふん、さっきのソーラービームは痛手だったがな……」
「ふざけんなッ!誰が先に攻撃した!?これは……正当防衛だッ!!」
「自らのしてきた事を自己正当化するか……ならば」
ライボルトが電撃波を撃つと、ラルドは少し動きが止まった。
その時、ライボルトはこう思っただろう。
――終わったな。
「喰らえッ!“オーバーヒート”ッ!」
「ぐぁあああ!!?」
赤く滾る業炎に、俺は吹き飛ばされ、大ダメージまで負ってしまった。
その時に回りに発散された青い電磁波も気付かずに。
「オーバーヒートのデメリットは、邪悪な種で直す。どうだ、これが我の本気だ!!」
恐らくだが、ミル達は雷と同時にオーバーヒートも喰らったのだろう。
そうじゃなきゃ、フィリアが一撃で遣られるはずが無い。草タイプだから。
「嬉しい誤算だな……」
「なんだ?まだ我に逆らおうと?」
「ああ……“落雷”」
ラルドは青い電撃を空に放った。
それは雷雲の中で増幅し……落ちる。
その威力は自然その者だ、ちなみにさっきのは普通の自然の雷。
「ふん、そんな雷。普通に避け――」
ライボルトが電光石火でその場から離れた瞬間だった。
――雷が地面直前でライボルトに方向転換をした。
「なっ……ぎゃああ!?」
「成功だな。それにしても醜いな、同じ電撃に遣られる様は」
「かっ……なんで、方向転換を……?」
「避雷針と、後一つは磁石だ」
「磁石……?」
ライボルトは急いで体を探るも、磁石なんてどこにも無かった。
何故、こちらに来た?
「お前にさっき赤い電気を流した。ざっと一万ボルトぐらいか?」
「なに……?」
「目眩のおかげで気付かれなかったからな……そして、今さっき俺が撃ったのは青い十万ボルト」
「つまり、どういうことだ!?」
「NとSの関係だ。NとSは互いに引かれあう。俺が撃ったのはS。お前が受けたのは……Nの電磁波だ」
つまり、Sが雷だとしよう。
そして、Nがライボルトでしかも避雷針まで持っている。
NとSは引かれあい、更に避雷針の効果でより確実になる。
「避雷針の効果があったからこそ、お前も耐えれたんだけどな……これがデメリットだ」
「はぁ、だが、充電をして電気を溜めて一気に解放すれば……」
「残念、ここら一帯にも青い電磁波を放っといた。お前が充電したいたのは大体わかったからな」
「策士……か」
多分、今の俺はこんな思考をする暇も無いほど怒っている。
実際、右手から爪が食い込んで血が出ている。
「十秒数えるぞ、その内に謝れ」
「我が謝ると思っているのか?」
「十……九……八……七……」
俺は構わずに数を数える。
本音はこんな暇にも殴りたい。
「余裕がある表情か、いいだろう。喰らうがいい」
「六……五……四……」
「行くぞ。“オーバー……」
「三……二……一」
ライボルトの口から業炎が姿を現し、そして……。
「ヒート”!!」
「零」
そして、爆炎が辺りを包み込んだ――。
〜☆〜
「ふぅ、やっと終わったか……?」
「ぐぅ……ボス。終わりましたか?」
「おぉ、我が同胞よ。そうだ、忌々しい侵入者は排除した。さぁ、皆はゆっくり休息を……」
「誰が排除したって?」
ライボルトは気が抜けていた。
てっきり後ろの奴ごと吹き飛んだかと思ったのだが……。
「探検隊エンジェル、“戦闘用兵器”リオルのシルガだ。覚えておけ」
「戦闘用兵器?……ふん、お前のいる探検隊は酷だな」
「違うな……あいつらは関係ない。一人を除いて」
「……?」
「――まぁいい。それより自分の身を案じろ」
そう、今ライボルトにはシルガが乗っている。
電撃を放とうにも、ラクライが近くにいるため全て無意味だ。
「俺はな、この世に一匹しかいない波動を使えるリオルだ……しかも、普通では覚えない技も全て覚えている。意味が……解かるか?」
「ふん、お前は手が蒼い何かに包まれている。さしずめそれが波動だな?」
「ああそうだ」
「ここまで変形させれるとは……なるほど。もし刃などに変形させたら、我はここで終わるな」
「お前が神の逆鱗に触れかけたから、俺は助けてやったんだ。これはその報い」
そう、ラルドは倒れた。
オーバーヒートだけでは倒れなかった。むしろ相殺していたのだが、シルガの“はっけい”によって気絶していた。
――この愚か者が。
「さて、俺は斬るのは得意ではない。波動掌が気に入っている」
「なにが……」
「だが気が変わった。お前達電気ポケモンが電気を放つように、俺は……」
「まさか……この零距離はやめろ!我が……」
「“波動纏装解放≪バースト≫”」
そして、全てが終わった――。
と、思った。
「終わったか……ぐあっ!?」
いきなりの電撃に、俺は成す術無く吹き飛ばされた。
これは……チャージビーム!?
「残念だな。もう一匹が倒された」
「お、お前は……?」
「私はこの群れの真のリーダーのようなもの……だ」
くそっ、予想外だ。まさか……ライボルトが……。
――二人いたなんて。
「お前達にはあまり非は無いが……これも掟なんだ」
(拙い、ここで……終わるのか!?)
――くそっ!!
その時、だった。
いきなり黒い弾がライボルトを攻撃した。
「これは……ッ!?」
「まさか……(こんな時に!!)」
シルガとライボルトが同時に弾が放たれた場所を振り向く。
そこには、探検家として名を馳せている。
「大丈夫ですか!?」
ユーレ・ディアレイがいた――。
次回「コソ泥と、水のフロート奪還」