第三十二話 荒立ちの雷
ここは――エレキ平原と呼ばれる、常に電気を帯びた、正に電気ポケモンのオアシスだ。
だが、デメリットも存在する。もしそんな場所で帯電なんかしようものなら、通常の電気容量を軽く超え、更には体が焼け焦げる。
ここに、そんな大惨事にはならなかったものの、少し焼け焦げたピカチュウがいた――。
〜☆〜
「く……し、死ぬかと思った……」
「周りには常に電気が空気と一緒に浮かんでるからね。電気技の威力もあがる、充電の速度も上がる。君にとっては天国じゃないか」
……確かにそれはそうだ。ここは常に電気を帯びている。
だからだ。だからこそ……。
「帯電したら死ぬほど苦しいんだよ!!」
そう、帯電すると自らが発する静電気に誘われて、周りの電気も帯電される。
当然、俺の帯電量にも限界はあるわけで……。
「拙いな……この先にモンスターハウスがある」
「え?じゃあ迂回して……」
こういう時にはシルガの波動を使った探知能力が役に立つ。
これでしか役に立てないからなぁ、くっくっく。
「――だが、この先に階段があるのだが?」
「え……?」
……俺は絶賛常時放電中。
感じの羅列だが、今の俺は電撃放射兵器と言うことになる。
つまり……。
「行ってらっしゃい!!」
「うわぁっ!?」
いきなりの衝撃に、俺は反応できずに……モンスターハウスに突っ込む。
一斉に敵ポケモンがこちらへ……って。
「これって……あれ?まさか俺一人?」
いやいや、後で誰かが来るんでしょ?……という儚い幻想は、砕け散った。
「頑張ってこーい」
「うわぁああああああ」
結局、安定の敵縛り玉を使うラルドであった――。
今、俺達がいるのは中間地点。主に休憩などに使われている。
あの後も何故か行く先々でモンスターハウスに何故か会い、その度に俺は苦労を重ねるのであった。
「ふぅ、やっと休める……」
「大丈夫?ラルド」
「大丈夫って言うんなら助けてくれ……敵縛りだまが無くなって来たよ。もう」
「良かったな」
本当に無口なリオルのシルガ。
だが、無口が故に言葉が単刀直入になる。
「つまり……滅茶苦茶に鬱陶しいって事だよ!!」
「……誰に話しているんだ?」
「ラルドには良くある事だよ。気にしないで」
「そういう優しさはいらないんだよミルゥ!!」
「このチームは緊張感をもう少し持って欲しいね。まぁ、緊張しないのはいいことだけど」
でも……いや、これはあまりにも酷いって解かってる。
普通なら「気を引き締めて行くぞッ!!」とか「油断はするな」とかの言葉が一言ぐらいはあっても、というより無きゃダメなはず。
だが……このチームにはそれがない。油断など、そういう注意が一部欠落しているのだ。
でも、さっきフィリアが言ったように、常に気楽なので、自分の真価を思いっきりに発揮できる。
そこが悩みどころなんだよね……と、フィリアは思っているだろう。さっき言葉に出してた。
「じゃあ、そろそろ行こうか。そこの化け物二人組みも。早くしないとあいつらがここに着いちゃうからね」
「あいつら……?」
「いや?こっちの話だよ」
なんか、嫌なフラグがたったような気もするけど……まぁ、いいや。
せめて今日だけは、安全な一日を送れますように。
脅迫犯を捕まえようと考えるポケモンが、安全とは何事かと言いたくなるぐらいであることをラルドは知らなかった。
〜☆〜
所変わって、ここはカクレオンの店の前。
そこでは、ショウとシンが、マルルとルリと話をしていた。
「へぇー、そんな事が……」
「はい、幸いエンジェルさんに頼めたので……」
「ミルちゃん達も、相当頑張ってるんですねー」
そんな雑談の中、彗星の如き現れる者がその雑談と言う輪の中に入る。
「ん?あなた達は……」
「あ、初めまして。マルルと言います。こっちは妹のルリです。あなたは確か……ユーレさんですよね?」
「はい。私はユーレ・ディアレイ。探検家ですよ」
「それで……今日はどういったご用件で?」
カクレオンが興味津々に聞く。やはり有名人には興味が尽きないらしい。
「いえ、ちょっと話をしているのを見かけたので……それで、どうかしたんですか?」
「いやはや、ちょっと質の悪い脅迫犯にこの子達が脅されまして……今はエンジェルの皆さんが取り返しに」
「エンジェルというと、あの?」
事前に探検隊は調べつくしたはずだが、いくつか見落としていた探検隊があった。
その中の一つがエンジェルらしく、その勢いは猛威を振るってるらしい。
しかも、そのチームのリーダーと、メンバーのリオルはいくら調べても経歴が解からない、所謂謎のポケモンだ。
「そうですよ。最近は更に強くなってるらしくて、登録から半年も経たずにゴールドランクですから」
「ほう、それは結構な実力者の集まりですね……いずれ有名になるかもしれませんね」
それは確かにありえることだった。
かの有名な探検隊レイダースも、半年も経たずにゴールドランクになったことで、更に人気が上昇したと言う。
「そうですねぇ。それだけの実力者ならば、きっと脅迫犯もぶっ飛ばせるでしょう」
「それで、エンジェルの皆さんはどこへ?」
確か、この時期だとエレキ平原辺りが危険な部類のダンジョン……。
そして、予想は的中する。
「確か……『エレキ平原』というダンジョンに行ったと」
「な、何ですって!?」
私は急いで救援に行くために走る(最もヨノワールに走るは可笑しいが)
「ど、どこへ行くんですかー!?」
「急がないと……エンジェルの皆さんが危ない!!」
私は本能のままに、エレキ平原へと向かった――。
〜☆〜
またまた所変わって、ここはエレキ平原の奥地。
特にここは電気が溜まってるらしく、所かしこで放電現象が起こってる。
「ここが……奥地?」
「さっさと水のフロートを見つけて帰ろう。疲れたよ」
「そうだね……あれ?あそこにあるのって、もしかして……?」
ふと、ミルお得意の視力で周りを見渡すと、そこには水のフロートらしきものがあった。
早速四人は近づき、持って帰ろうと手を伸ばしたその瞬間だった。
「きゃあッ!?」
――突然、閃光が辺りに迸った。
「な、なんだぁ?」
「まさか……もう来てたのか!?周期から照らし合わせたら、ここに来るのはまだ先のはず……!まさか、ここの電量が異常な程に増えたのか!?」
「……まさか……」
「とにかく、皆隠れろ!!」
そして、俺達は近くにあった岩陰に隠れる。
――頼む、見つけないでくれ……!
だが、そんな思いは無慈悲にも切り裂かれた。
「ふんっ、それで隠れたつもりか?まぁいい。我々にとっては好都合だ。獲物を狩る……な」
「ちぃっ」
俺は急いでそこから離れると、声の主に叫んだ。
「お前は誰なんだ!?今すぐに出て来い!!」
「ふん、よかろう……見せてやろう」
俺が叫んだ瞬間だった。
大きい雷が、俺の前に落ちた。しかもその威力は行違いで、目の前の地面が……大きく消えた。
「な……?」
「我々は――」
そして、一瞬の閃光と共に現れたのは――。
「我々はライボルト軍団ッ!貴様達、ここに何をしにきた!!」
ライボルトと、その手下らしき十匹のラクライだった――。
次回「無慈悲な暴虐」