第二十八話 遠征終了
ここは霧の湖――。
名前に霧とついているが、実際は霧なんて欠片も無い。
湖の間欠泉が少し噴出し、中に時の歯車があるせいでエメラルドグリーンに光って見える……幻想的だった。
――でも、なんだか胸騒ぎがするんだよな……。
〜☆〜
「と、時の歯車!?」
「あの時間の守り神がここに!?」
「はい。あそこのリオルさんは何故か知ってましたが……」
「……(絶対に俺の過去と関係しているな)」
俺はちょっとした確信を得る。
いやだって……レインが言ってたんだもん。
「はぁ、俺。今日疲れたー」
「大丈夫?ラルドは今日、滅茶苦茶頑張ったからね。休んでて」
「ああ……あー、電気放出……」
俺はいかにも疲れた表情で近くの岩に腰掛ける。
そういえば、レインは出てこれないんだよな……。
――大丈夫。あなたの精神を乗っ取ったら良いだけよ――
……普通に喋るな。
――いいじゃないの。あんた以外には聞こえてないんだから♪――
だからって喋るな!後ハイテンションキャラになるな!
――だから、私はハイテンションじゃ……あら?プリルが着たわね。じゃあ私はこれで。バーイ♪――
お、おい!聞きたいことが……!
「って、プリルなんかいないじゃないか……」
「ねぇラルド。ちょっとこっちに来て!」
「ん?なんだミル?」
俺はミルに呼ばれ、あっちへ行く。
それにしても眠いな……。
「なんだミル……って、うわぁ!?」
「ラルドを綺麗にしまーす!」
「別に汚れは流れますからね。しかもここの水も特殊ですし」
いきなり綺麗にすると言われ、湖に突き飛ばされる。
……待てよ?確か俺って……。
(拙い……俺、泳げないんだった……)
そう、俺は泳げない。
冗談でもなく、本当に泳げない。
――だからオチも解かってる。
(ここは誰かに助けてもらうまで我慢ってパターンだ。絶対そうだ、そう信じたい!)
だが、俺の思いは無慈悲に切り裂かれた。
「あれ?ラルド上がってこないね?」
(そう、そうだ!そのまま……)
「助けて終わりなんてオチ、つまらないよ。この小説の人気が落ちる」
ふぃ、フィリアテメェェェェェ!!!!
「ぶはぁッ!!」
俺は必死にもがく、もがき続ける。
だが、やがて体は疲れていき……。
「ぶくぶく……って、死んでたまるかぁ!!」
「おおっ、自力で上がってこれた」
俺は必死に壁をよじ登って、無事生還する。
それにしても……なんだろ、ミルがとても悪に見えた。
「でも、ラルドさっきまで汚れてたし。綺麗になってよかったね♪」
「み、ミル。お前狙ってやっただろ」
「何が?」
くっ、こいつ……笑顔とは、本心が読めない。
……まさかフィリアが肩入れしてるのか!?
「テメェ、フィリア。さっきからふざけんなよ!恩を忘れたか!?」
「それはそれ、これはこれ……あ、大丈夫だよ。僕が教えたんじゃない。シルガが教えたんだ」
「……ミル。ナイスだ」
この野郎……。
「ミル、お前はどうなんだ!?」
「さっきのお返しだよ♪」
俺なんかしたの!?ねぇ、誰か教えてッ!?
「皆さん。その大変なギャグムードをぶち壊すのは気が引けるのですが……どうかこの事は秘密にしていただけませんか?秘密がばれたら厄介なので」
「ん?まぁいいけど……」
と、俺が当たり前の如く承諾した瞬間だった。
「――なんだ、時の歯車なら持って帰れないね。草臥れ儲けの骨折り損だよ」
「え……?」
「でも、収穫の方が大きいかな?大丈夫だよ。秘密にしとくから」
いきなりプリルが現れた――。
って、これって拙いよな!?
「おい、プリル。言っとくけどこの事は……」
「解かってるよ。秘密にしとく♪」
本当に大丈夫か……?
「そういえばシルガ。なんでグラードンが偽者だって解かったの?」
「波動が出ていなかったからな。しかも伝説ともなれば、波動がより強いはずだ。それが微塵も感じれないなんて……可笑しいにも程がある」
「さすがだね……」
「……ん?誰かがこちらに来るぞ?」
皆でシルガを褒めるが、シルガはそれを無視し、現れた複数の波動を感じ取る。
まさか……時の歯車狙いか?
と、思っていたが違うようだった。
「あ、皆さん。こちらを見てください」
「なーに?……うわぁ、綺麗〜」
「そうだね。さっきより幻想的になったよ」
おいおい……複数の波動の正体とかもうどうでも良いんだね、お前らは。
「おーやーかーたーさーまー!!」
……ん?この声は……。
「親方様!それにエンジェル。大丈夫だったか!?」
やっぱり、ギルドの面々だった。しかも話かけて来たの焼き鳥≪ペルー≫かよ……。
「いや?大丈夫じゃなかったよー。ユクシーが念力で創り出したグラードンにこれでもかって言うぐらい遣られて……まぁ、最終的には勝ったけどな?」
「きゃー!凄いですわー!!」
「ふふっ、成長したわね」
ん?ソーワとフウさんか……。
え?なんでフウだけ”さん”付けするかって?
……それはまた、別のお話。
「凄いでゲスね。あっしなら十秒でお陀仏でゲス」
「おう!凄いじゃねぇか!」
「凄いですよ!皆さん」
「グラードンって言っても、コピーだから本物の十分の一の力しか……あれ?」
なんで俺、そんなこと知ってるんだ……?
……いや、俺じゃなくてレインか。全く、要らぬ世話を焼きやがって。
あ、ちなみに上からビーグ、ボイノ、ディルだぜ。
「サーイとドツキは?」
「サーイは地面の中を掘り進んでると思いますわ!ドツキは……ベースキャンプでなにやら不思議な実験をしてますわ!」
「変な実験って……」
大丈夫か?ドツキ……。
「あ、皆も来てたのー?」
「親方様?どうかしましたか?」
なんでどうかしましたかって?
当たり前だ。プリルの顔がまるで新しい玩具を見つけた子供の様になっているからだ。
「丁度良い所だよ、こっちに来て見てよ」
「なんですの?親方様……こ、これは……?」
「素敵……」
「綺麗でゲス……」
さっきまでの景色のままでも、十分綺麗だった。
だが、この時間帯間欠泉が強く吹き出すらしく、今までの比では無いほどに噴出す。
しかも、時の歯車の光りもより一層強くなり、翠色の噴水となる。
更に上乗せでバルビート達が尻を光らせ、幻想さを増す。
こんな景色が、こんな辺境の地にある。
あまり信じられないが、もしかしたら……この景色こそが、霧の湖のお宝だったかもしれない。
「……綺麗だな……」
「……確かにな」
俺達は、この景色が終わるまで見続けたのであった――。
「じゃあ、ユクシー。さよならだね」
「はい、それと……ここの事は言わないでくれませんか?」
「解かってるよ。親方として、一言も喋らない」
「じゃあな。ユクシー。また遊びに来るよ」
俺達はベースキャンプへ戻る。
そして……。
「今年の遠征は、これにて終了!!」
プリルの一言で、皆が脱力したのは言うまでも無い。
次回「彗星」