第二十六話 解放
ここは……どこだ?一体、あの後どうなったんだ?
俺は……死んだのか?いや、さすがにそれは……。
……確か、フィリアが僕達ぐらいなら簡単に土に埋まれるって言ってたな……。
これは……死んだかも?
〜☆〜
「っ……こ、ここは……?」
「あら?起きたの?……でも、”起きた”は正しくないかな?」
「なにが……?って、うわっ!?」
俺が起き上がり、目を開けると、そこには……。
――半透明のピカチュウがいた――
「は、ははは、半透明のピカチュウ!?なにこれ幽霊!?じゃ、じゃあお経を……」
「幽霊じゃないわよ。しかもピカチュウなんて種族名で呼ばないで。私には『レイン』っていう、ちゃんとした名前があるんだから!」
「じゃ、じゃあレイン。起きたは正しくないって……?」
「普通に考えてわからない?ここはあんたの夢。私はあんたの夢に接続≪コネクト≫してるからここにいるんだけどね。他に質問は?」
なんだ、こいつ……?
「……なんか、ヨウムとかの時に聞こえてきた声と似てるんだけど」
「同一人物だからね。仕方が無い」
へー、同一人物か……。
……え?同一人物?
「私はあなたに宿る魂みたいなもの。まぁ、魂が肉体から切り離されただけだけどね。全く、亜空間のエネルギーは凄い……あ、余計な口出しはしないでね。こっちの話だから」
なに一人で言って一人で否定してるんだ?へんなピカチュウ……。
「全く、これだから時空移動のトラブルは怖いのよ。あいつもああなっちゃったし……」
「あいつ……?」
「ああ、いやこっちの話ですよ、はい」
なんだろう、このデジャヴ……。
ああ!あのハイテンションキャラ達と全く同じ……。
「あんなハイテンション過ぎるキャラ達を一緒にしないで!私はまともよ、少なくともあなたよりはッ!!」
た、確かに……。
俺は普通じゃないもんな。うん。
「そういえば、俺、血が流れてたはずだけど……」
「ここは夢の中。しかも今、現実のあなたは応急処置で血は止まってる……全く。ミルにも私にも感謝しなさいよ?あの子、あんたを助けるとか言って、自分がそういう事を出来ないのを忘れてて、途方に暮れていた所を私が助けてあげたんだから!」
「うん、随分と長い演説だったけど……ありがとな」
「全く!私に世話を焼かして……」
はぁ……ミル。そんな事とかは苦手だったんだな……。
「じゃ、ちょっと用があるんだけど。いい?」
「ああ、別に良いけど……?」
なんだ?雰囲気が……。
「あんたには、隠された力がある……それも特大の」
「へぇ……って、そんなのがあるなら早く力をくれよ!皆を早く助けなきゃいけないからな!」
「……やっぱり、あんたは記憶が無くなっても、根は変わらないのね……」
記憶が無くなっても……か。
そういや、こいつに聞けば俺の過去も……。
「無理よ。これだけは今はまだいえない」
「って、俺の心を読むな!!」
「だって、一心同体なんだから、聞きたくなくてもあんたの声が普通に流れてくるのよ。あ、来た来た。えーと「ふざけんな!今すぐ俺から離れろ!そしてなんだ!?一心同体って!!」うーん、ちょっと///も入るかな?」
「なっ……」
こ、こいつ……可愛い顔して、実は悪魔か?ゴーストデビルか?
「じゃ、ちょいと話が。もし、あんたの覚悟が本当なら、多分その力は解放するわ……多分」
「多分のところを強調するな!そしてなんだ!?覚悟ってッ!」
「私が言えるのはここまで。ほら、あなたの意識がもど……ってき……た」
「ちょっと……待てよッ!!」
瞬間、俺の視界が真っ黒になった。
〜☆〜
「ぐっ……ここは……?」
目が覚めると、そこは先程までいた奥地ではなく、少し戻った中間地点だった。
中間地点には狂ったポケモンが出現しないらしいが、本当かどうかは解からない。
……だが、俺は無事らしい。
「そういや、あの時。レインが言ってたよな……でもなんだろう。特大の力って……」
本当にどうなってるんだろう……俺の体。
元人間の可笑しなピカチュウってのは解かってるよ。
でも……記憶がないのは嫌だなぁ、せめて少しぐらいはあったら良かったのに。
「そうだ、あいつら……今頃グラードンと戦って……」
一瞬、皆がボロボロになっている景色が頭を過ぎったが、それは否定する。
シルガがいるんだ。あいつなら……いくらなんでも逃げてるだろ。皆を連れて。
「早く行かなきゃな……」
と、俺がもう一度奥地へ向かおうとしたとき……。
「ラルド……」
「へ?この声……ミルか?」
いきなり声がしたが、知っている声なので俺は驚かない。
だって、その声の正体は、ボロボロになった傷だらけのミル……。
――って、えッ!?
「お、おいミル。お前どうしたんだ!?その傷……」
「ぐ、グラードンが予想以上に強くて……皆も頑張って善戦して、グラードンも追い詰めたんだけど……不意打ちを喰らっちゃってね。フィリアとシルガは護りきれたんだけど、肝心の私が……」
「じゃ、じゃあ。あいつら……」
俺はあの想像が再び頭の中を過ぎる。
まさか……な。
「ミル。お前はここで休め」
「え……?」
「俺が……あのグラードンを倒す。絶対に」
「ら、ラルド!待って……ぐぅ」
俺は睡眠の種をミルの口に投げ入れる。
もうお約束のパターンだが……。
「あいつらが危険な目にあったら……リーダーである、俺の責任だ」
そして、俺は奥へと向かっていく――。
〜☆〜
やぁ、僕はフィリア。普通のツタージャ……ではないが、僕自身は普通のつもりだ。
今は訳あって、生死の狭間といっても過言ではない状況にいる。
……シルガは普通にグラードンの攻撃を避けれているが、あんな化け物二人組みよりか弱い僕は何発か受けている。
まぁ、効果はいまひとつなんだけど……。
「それでも、結構つらいんだけど……」
「おい、油断するなよ。一瞬の油断でラルドもミルもああなったんだからな」
「解かってるよ。全く……」
まぁ、本当のことなんだけどね。
不意打ちの奇襲で二人とも……まぁ、ミルはラルドよりましだけど。
「それよりも……どうする?ミルかラルドがいないと、あの作戦使えないよ?」
「そうだな……あのグラードンが本物じゃないのなら、この作戦も通じるはず……」
僕達は今は岩陰に隠れ、グラードンから隠れている。
だが、見つかるのも時間の問題だ。
「どうしよう……エナジーボールで先制する?それともソーラービームで大ダメージを狙う?どっちにしてもダメージは期待できるけど、ソーラービームは今、日照りが働いてるから直に撃てるよ?」
「……なら、お前がソーラービームで怯ませて後に、俺が『波動纏装解放≪バースト≫』で追撃する。その間にお前は逃げて、体力を回復しろ。そしてお前が回復したら次は俺が……」
「つまり、交代制だね?解かったよ……『ソーラービーム』ッ!!」
「グゥアオオオオオッ!?」
僕はグラードンにソーラービームを直撃させる。
いきなりの攻撃を予想していなかったグラードンは転倒する。
そこへ、シルガの最大威力の波動纏装解放≪バースト≫を放つ。
グラードンには予想外の攻撃すぎたらしく、大ダメージを与える事が出来た。
「よし!後は引き下がるだけ……」
「グォオオオオッ!!!!」
「ッ!!危ない、避けろフィリア!!」
「え?なにが……」
瞬間、僕の目の前に泥の塊が現れる
しかも、それは一撃で壁を粉々にするほどの威力。
この体力で直撃をしたら……――死ぬ。
「こんな所で僕は終わるのか……あんまりだよ」
そして、僕は死を覚悟した。
〜☆〜
「はぁ、はぁ。疲れた……暑い、でも……皆が……ミルも今頃休んでる頃だろうな……俺がその隠された力とやらを発動させれば……」
俺は絶対に皆を助けなきゃ……ッ!!
俺の責任だ。リーダーなのに……。
「はぁ、もうすぐだ……」
そして、俺は再び奥地へ来た――。
「はぁっ、グラードンは……って、うわっ!?」
俺は出てくると同時に、爆風に吹き飛ばされた。
空中にシルガが見える……恐らくあの何とかバーストってやつだな。
それからフィリアがこっちにきて……って、あっ!!
「危ないッ!!」
フィリアに襲い掛かる泥の弾丸を、俺はフィリアを突き飛ばすことで回避させた。
ちなみに俺もちゃっかり避けてます。
「はぁ、死ぬかと思った……って、ラルド!?寝て無くていいのかい?」
「ああ、暑くて……それより、グラードン。ちょっと暴走してないか?」
「ああ、あの後グラードンが暴走してね……ちょっと厄介さ」
そうか……確かにあれは厄介だな。
「なぁ、フィリア。ミルが中間地点にいると思うから、看病しに行っててくれ。なーに、心配するな。俺とシルガが化け物だって前に言ってただろ?」
「ああ、でも相手は……」
「大丈夫だ。確信は無いけど……あいつは本物じゃない。偽者……恐らくユクシーってのはゴーストかエスパータイプで、幻影かなにかのグラードンを創ったと思う……」
「よく知ってるね……」
勘だ、と言いたいところだけど、あいつが教えてくれたんだ。
とは言えずに、勘とだけ言っておいた。
「じゃあね。絶対に死なないでよ?」
「フラグ立てるなよ……じゃあな」
そして、フィリアは中間地点へと戻っていく。
俺は完全にフィリアが行ったのを確認すると、グラードンのほうへ向く。
「おい、グラードン。今度は俺が相手だッ!!」
「グォオオオオッ!!」
「ん?この声は……」
グラードンがシルガ以外に吠えた事を不審に思い、こちらを見た。
どうやらシルガも俺を確認したらしい。こちらへ来る。
「よう、シルガ」
「……どうやら、雨になにかを聞けたんだな。……それで、解放は?」
「は?解放?」
「知らない……とすると、あいつはまだ教えていない……ふん、漬け込む隙など要らないだろうに」
なにやら変な言葉がこいつの口から出るが、俺はそんなもの気にしない。
「こいつは……俺が倒す」
「ふん、解放も満足に出来ないひよっこが……俺はそんなのをしなくても強いがな」
こいつ、自分も出来ないくせに……。
待てよ?解放って……もしやあの秘められた力のこと!?
「なぁ、シルガ。解放ってどうやるんだ?」
「ん?知らないな。お前自身が思うようにやればいいだけだ」
「そんな物か?俺の力って」
「当たり前だ。特殊な力も、純粋なお前にとっては意味をしれば簡単だ……まぁ、灯台下暗しと言うだろう。それと同じだ……っと」
シルガはグラードンのマッドショットを華麗に避ける。
やっぱり、慣れたら避けれるのか……。
「ああ……って、シルガ!危ない!!」
「ん……って、おいっ!!」
瞬間、俺の体が動く。
また大ダメージを受ける……と思っていた。
だが、俺を周りには、水色の壁があった。
「守る……?」
――呼ばれて飛び出てなんとやら、レイン様のご登場♪――
って、なんつーハイテンション……なんだよいきなり……。
――今、ここの時間は止まっている。……この水色の壁は時間の流れを無視できるの。疲れるけどね――
なんのために……?
――ミルたちにもかけておいたから。解放の準備は整った。後はあなた次第……あなたが正しいと思ったことをやりなさい――
シルガと同じ事を言った……なんか深い意味でもあるのか!?
――じゃあね。皆を……”護りなさい”――
そして、時は動いた。
くっ……一体なんだったんだ?あれは……。
そういえば、やりたい事をやれって言ってたけど……どういう意味だ?
「おい、大丈夫か?ラルド」
「ん?あ、ああ……ぐっ!?」
何だ?この傷……。
そうか、時が止まった瞬間に当たったのか……。
不幸だな。俺って。
「だが、浅い傷ですんで良かったな……」
「ああ、そういや。ミル達もそろそろ……」
「グォオオオオ!!!!」
俺が言葉を口から出した直後に、グラードンがその鋭い爪を俺達に向けて放つ。
切り裂く……やばいぞ。
と、覚悟をきめた次の瞬間。
――紫と翠の弾がグラードンの手を直撃した――
「ミルとフィリア……か?」
「うん!遅くなったね。二人とも!」
「全く、ミルが起きるのが遅いから、タイミングが……」
「お前らは前線で戦っておけ。俺達が援護射撃をするからな」
「元からその積もりだよ!ミル、行くよ!」
「うん!」
二人はそのまま突っ込んでいく。
大丈夫かな……。
「……ラルド」
「なんだ?」
「お前は……少し眠っていろ」
「何を……ッ!?」
俺の意識、今日は消えすぎじゃないか?
という暇もなく、俺の意識が再び消えた。
〜☆〜
えー、私はミル。どこにでもいる極普通のイーブイ。
まぁ、いきなり元人間というピカチュウのラルドと会ってから、毎日が夢の様になったけど。
「ねぇ、シルガ。ラルド、大丈夫……って、なにしてるの!?」
「こいつの精神に接続≪コネクト≫している。お前達がボロボロになっている光景を映す……グラードンを倒すためだ。お前達はなんとかギリギリまでボロボロになっててくれ」
「え?いきなりだなぁ……でも、うん解かった。皆が助けるためなら仕方が無いよね」
「僕も頑張るよ。これはさすがに笑って冗談とかは無さそうだからね」
皆が皆、シルガの秘策に賛成する。
そして、シルガの体が蒼い光に包まれると……。
「接続≪コネクト≫……開始!」
瞬間、周りが蒼い光に包まれた――。
〜☆〜
ここは……?ああ、また夢か……?
……って、あれ?景色が歪んで……。
――おい……聞こえるか?――
ん?シルガか?おい、なんで俺を気絶させ……。
――これを見ろ……――
そう言い放った瞬間、俺の頭になにかが入り込む。
夢として現れたのか、俺は別にたいしたことじゃないと思った。
だが、見えたのは信じられない光景だった。
――皆がボロボロになって、倒れているところだった――
しかも、グラードンが止めを刺そうとしたところで……映像は途切れた。
――今はまだ生きているが、何れこうなる。……お前が解放しなければ、お前の大事な仲間は――死ぬ――
え……?嘘だろ……?
嘘だよな!!だって、お前もついてるんだから!!
――だから、一度だけ問おう。……お前の今したいことはなんだ?――
俺の今したいこと……それは――
――皆を護ることだッ!!
〜☆〜
あれから約一分。
そんな短い時間も、ミル達には長く感じれた。
こんな化け物を相手にできるなど、ほんの一握りのポケモンしかいない。
それこそプリルや他のギルドマスターがチームを組んで……やっと倒せるぐらいの強さ。
それが伝説だ。
「早く……して」
「これは流石に拙いよ……恐らくペルー達も来るだろうけど……」
「早くして……二人とも……」
本当に拙かった。恐らく思考が回っていたときのグラードンの方がマシだ。
こっちのグラードンは、確かに闇雲に攻撃しているが、威力が桁外れに高い。
それこそ、近くの岩盤を軽く突き抜けるぐらいに。
「くっ、また攻撃か……」
「守る……って、あれ?発動しない?」
「連続で使いすぎたんだ。拙い、マッドショットの直撃は……」
「グォオオオオオッ!!!!」
グラードンは最大級の咆哮を放つ。まるで自分の勝利が確定したのを喜ぶように。
そして、最後にミルは残りメンバーの名前を言う。
「シルガ……ラルドォッ!!」
そして、無駄だとも解かりながら目を閉じ、いつも助けてくれるピカチュウが、いつものように着てくれると信じた。
――ミルッ!!――
幻聴かもしれない、確かにその可能性を信じた私が馬鹿だったかもしれない。
でも……おそるおそる目を開ける。
すると、そこにはエメラルドグリーンの瞳をした、若干ボロボロのピカチュウがそこにはいた。
「ふぅ、大丈夫か……あ、フィリアは突き飛ばしたんだけど、お前は間に合いそうに無かったんだ……まぁ、無事でよかった」
「うん……って、これって……///」
「うん?普通に抱っこをしているだけだが……」
今のミルの状態は、世間で言う”お姫様抱っこ”だった。
しかも、ラルドはそんなの気にしない。
「な、なんでそんな平然と……」
「どうしたんだ?ミル」
「い、いや。別に恥ずかしくなんか……」
ラルド……ありがとね、助けてくれて。
〜☆〜
今、俺はどうなっている?
ミルを助けたのはいいものの視界にいきなり入ったからな……。
しかも、妙にスピードが上がってるし。
ミルの目を見たら、そこに映る俺の瞳の色が……エメラルドグリーンだったり。
「もしかして……解放が出来た?」
「ああ、出来たな。特殊な力を持つものだけに与えられる能力≪ちから≫……解放」
「よっしゃ!!じゃあ、後はグラードンを倒して、霧の湖を見つけて……」
「っ///……って、ラルド!!危ないッ!!」
浮かれるラルドに、グラードン渾身の切り裂くが襲い掛かる。
だが、ラルドは両手をグラードンの手に翳し……。
「大丈夫。おりゃあっ!!」
瞬間、ドンッ、という音と共に、ラルドの足元が崩れる。
崩れるといっても、少しだけの小さな物だったが。
そして……切り裂くは完璧に止められた。
「グオッ!?」
「行くぜ、グラードン……エンジェルの逆襲、開始ッ!!」
次回「時を護りし湖」