第二十二話 霧の湖 前編
ここは海沿いの崖――。
あしばが悪く、更に海の勢いが強く、偶に崩れることがあるという……。
ただ、そんな場所にも、一応休憩できる場所はあった。
そこにエンジェルはいた――。
〜☆〜
「ふぅ、疲れたー」
「ふぁ〜あ、眠いよ〜」
「もう一時だよ?」
「口が動くのならさっさと動け」
あまりポケモンが乗ると崩れてしまいそうな場所、そこに俺達はいる。
……と言っても、あまり狭くは無いけど。
「なぁ、ここまで来るのにどれだけのダンジョン潜ったと思う?」
「ある時は獣道で有名な【獣燐の森】やら、ある時はゴーストポケモンの溜まり場となる【霊の墓場】やらに」
「偶々強いポケモンに合わなかったから良かったものの。あそこのポケモンのレベル高いんだぞ!?」
俺の正論に反論できないって事はないけど、普通休むぐらい良いだろ!
それに……。
「モンスターハウスに入ったとき、放電の連発だったんだからな?!」
「凄い凄い(棒」
「ふざけるなッ!」
「まぁ、ラルドも頑張ったんだよ?五分ぐらいは良いんじゃない?」
おお……女神ミルが現れた。
「そういうミルも。休みたいんだろ?」
「ギクッ!?」
フィリア!お前もシルガの仲間か!
「失礼な。こんな野蛮狼と一緒にしないでくれ」
「何だと?」
って、何で俺の心読めたし!?
シルガを何気に怒らしたし……。
「とりあえず。早く進もう。この【沿岸の岩場】を抜けたら次は【ツノ山】だし」
「ハードだな……じゃあ、早く行こうぜ」
「はーい」
俺も疲れたし、一番乗りでベースキャンプへ直行だ。
と、思って足を踏み入れた沿岸の岩場……。
そこでは、恐怖が俺を待っていた。
――沿岸の岩場――
「『十万ボルト』!」
「『ブレイズキック』」
「『突進』!」
「君達、働くねー」
あれ?今、なんか可笑しな声が……。
あ!フィリアの野郎、休んでやがる!!
「お前、働けよ!!」
「嫌だね。林檎食べてるんだ。食事中は騒いだらいけないだろ?常識だろ?」
「そうだけどな、戦闘中に林檎を食べる奴があるか!?」
絶対に俺の意見はご最もといわれるはずだ!!
当たり前だろうな。うんうん。
と、思っていたのが失敗だった。
「いや……腹が減っては戦は出来ぬって言うし……」
「それはそれ、これはこれ!ほらシルガからも何か言ってやれ……」
「いやー、林檎はおいしいなー(棒」
こいつら……。
「ほらほら、二人もちょっとふざけすぎだよ?」
おお!女神再び!!
「しょうがない。じゃあ、早く行ってベースキャンプで食べよう」
「ワンパターンだな」
「だめだこいつら……早く何とかしないと」
「じゃ、じゃあ行こうよ」
この遠征。俺達のチームだけグダグダになりそう……。
それよりも、早く行って休みたいんだが……。
「君も五月蝿いね……ん?何かがあそこにいるよ?」
「なにその説明みたいな言い方」
「でも本当にいる……?って、あ!!」
「おお?何だ?この距離でハッキリ見えたのか?」
ここから何かがいる距離は、決して肉眼でハッキリと見えるような距離ではない。
もちろん、イーブイという種族は目が良いわけではない。
それでも見えた……?
「で?何がいるんだ?」
「えーと、マリルリ……え?」
「へ?いやいや、そんなにレベル高いのここにいたっけ?」
「さっきからこんなトラブルばっかりだし、可笑しくは無いよね」
確かに色々なダンジョンで必ず一匹はレベルが高いのに会うが……。
それでも最終進化形態は無いわー。
「ここは、目潰しの種で……」
「あ、こっちに来た」
「ここは先制しなきゃ、『エナジーボール』!」
「何してんのぉーー!!?」
俺が目潰しの種を投げようとした瞬間、フィリアがエネジーボールを放つ。
いきなりの攻撃に怒らないポケモンは……いなかった。と言いたいところだったが、それが普通だった。
「お前なぁ……うおっ!?いきなり『ハイドロポンプ』?!」
「当たり前だな。うん」
「ちょっと眠ってて、『シャドーセリエス』ッ!」
「ミルも頑張るねぇ」
ミルは少しのエネルギーで抑えようと、高威力の『シャドーセリエス』を放つ。
当然の如く、全てのシャドーボールが直撃する。
「止めだ!『電撃連波』!!」
そして、ラルドが止めの『電撃連波』で攻撃する。
それも全て当たり、マリルリは戦闘不能に……。
「――って、うわぁあ!?」
ならずに、ラルドに『ハイドロポンプ』を当たる。
しかも、直撃なので大ダメージになる。
「ふん……『波動纏装』」
「いきなり本気かよ……?」
「獲物を狙うのならば、常に本気だ」
瞬間、シルガの姿が消える。
未完成『神速』だ。
「終わり……だ。『波動掌』」
技名を放った瞬間、蒼い波動に包まれたはっけいが、マリルリを吹き飛ばす。
その威力は折り紙つきだ。
「狩猟完了……波動纏装解除」
「無駄に疲れた……なぁ、もうすぐ出口だよな?」
「うん、と言うか、あそこに出口あるでしょ?」
と、言われたとおりにフィリアの指差す方を見ると、そこには出口が。
しかもご丁寧に出口と書かれた看板が。
「誰が書いたんだ?」
「さぁ?それより早く出よう。ちょっと蒸し暑くなってきた」
「そうだね。早く行こう」
「はいはい。ああ疲れた」
ちゃっかり苦労役になったラルドであった。
ちなみにいつもの苦労役はフィリアだが、あまり苦労はしていない。
やはり世代も交代と言う事か……?
「じゃ、続いてツノ山に行こうか。まだ二時だし」
「早く着きそうだな……」
「でも……お腹すいたー!」
「セカイイチでも食うか?」
うわっ!?いつの間に持ってきたし。
……それにしても、何でこんな甘い林檎があるんだろう……。
「ふぁひはふぉー(ありがとー)」
「はへははらはへへない!(食べながら喋らない!)」
「お前もな」
「ばれたか……」
「隠せてねーし!」
こいつらは……今が遠征と言う事を忘れてやがったな?
……俺も忘れてたけど。
「あれ?ここに入り口が二つあるよー」
「ツノ山が目的だけど……ここはやっぱり……」
「うーん、ツノ山が目的だから……やっぱりここは」
「「右(左)でしょ」」
あれ?フィリアと意見が食い違った?
……どうしようか、ちなみに俺は右な。
「ここは右って相場が決まってる!!」
「いやいや、だって右だとありがちじゃない?それなんかここに小さな穴が開いてあるし、どうせここに戻ってくるんだろ?そっちに行ったら」
「いやいや、解からないだろ、そもそも……」
「右だからね。早く行こうよ」
うわっ!?いきなりミルが現れた。
でも右賛成か、よし、賛成意見来たコレ。
「シ、シルガは!?」
「残念だが、ここは右で間違いない」
「そ、そんな……」
落胆してる、馬鹿め。
それにしても、なんでシルガが知って――。
「この前、修行の前の肩慣らしならぬ足慣らしでここに来たとき……」
「とっくに攻略済みな落ち!?」
「まぁ、そうだろうね」
「早く行こうよ。もうお腹が空いてきたよ」
「「早ッ!?」
なんか、今日は早いって言葉を使うのが多い気がする……。
そして、二時間後……。
――ベースキャンプ――
「うわっ!?霧が深い!」
「あれから結構疲れたね……」
「まさか虫ポケモンがいるなんて……おかげでシルガが死んでるよ」
「ピクッ……ピクッ……」
あれからなんやかんやでベースキャンプへ到着した一行。
だが、そこにはすでに他のチームが見えた。
「あら、もう着きましたの?」
「早いわね。新入りさん」
「フウさんにソーワ。先に来てたのか?」
「凄いね、私達より先に来るなんて」
「あら?新入りなのにこんな早くに来れる事は珍しいですわよ?」
まぁ、途中に虫ポケモンが出なければ時間的に勝てそうだったんだけど……。
「そういえば、今回の遠征の目的ってなんなんだ?」
「ペルーは後で話すって言ってたけど……私達も予想はついてるわ」
「なんなの?」
「僕も大体解かったけどね」
え?フィリアが解かった……だと?
ああ、そういえばこいつって、名家だったっけ。だから知識も豊富なのか。
「目的は……【霧の湖】という場所らしいですわ!」
「霧の……湖?」
瞬間、頭の中になにかがよぎる。
だが、それはほんの一瞬の出来事であり、何が過ぎったのかは知らない。
でも……変な感触だったのは確かだ。
「しかもそこには、【時の歯車】があるって噂もあるんですわよ!」
「それにね、私達が途中聞いた情報だと、なんとそこには伝説のポケモン。ユクシーがいて、もし霧の湖に行けたとしても、そのユクシーに『記憶』を消されちゃうらしいの」
「記憶を……消す?」
記憶……じゃあ、もしかして俺の記憶はユクシーに消された可能性も……?
と、考えていたが、現実に引き戻される。
「おーい!エンジェル。お前達のテントがあるから、そこで休め!」
「空気読めよ……じゃ、またな」
「また話が聞きたかったらいつでもいらっしゃい」
「お待ちしますわー!!」
じゃあ、また明日!!
と、挨拶をして、俺達は自分達専用のテントへ入る。
そして、そのまま時は流れた――。
「勘違いをしないといいがな……」
闇夜に赤く光る目は、赤い石を森へ入る道の途中へ置き、言葉を漏らした。
その月明かりに照らされた姿は、正に狼だった――。
次回「霧の湖 後編」