第二十話 遠征前夜
今日は、遠征発表の日から六日目……。
明日が遠征なので、頑張って修行に励む者も、ゆっくり休む者もいた。
そして、その中で……。
「行くぞ!!『波動弾』!!」
「へっ、そんなもの……『電撃波』!!」
と、こんな風に戦っているのは、シルガと俺だ。
え?何故、いきなりそんな展開なのかって?
……この理由は、少し時を遡った話だ……。
〜☆〜
「皆、今日は久方ぶりに、親方様が朝礼に出るよ」
あれ?そんなに出てなかったっけ、プリル。
だって、親方だよ?そんなのダメだろ。
――って、俺達の初めての朝礼でも、出てなかったじゃん!!
まさか……おいおい、そっれは訴えれるぞ?
「永らく仕事に出掛けていたらしいが……何でも、時の歯車を盗んだ犯人への対処の会議だそうだ」
「きゃー!!さすが親方様ですわー!!」
「さすがだな、それでこそ親方様だ!」
あれから一ヶ月ぐらい経ってるんですけど……。
……って、あれ?何で時の歯車?俺達の最初の時から出席してなかったよね?
「じゃ、親方様!!出てきてください!!」
絶対、このギルドではこれが日常茶飯事なんだろうな……。
「ぐぅ……ぐぅ……」
プリルが出てくると、俺はどんな事を言うのか、少し胸の鼓動が早くなる。
だが、真実は違った。
「ぐぅ……ぐぅ……」
へ?嘘だろ?まさか……。
寝てやがるッ!?
「……ヒソヒソ(出たぜ、親方の寝ながら朝礼に来るの)」
「……ヒソヒソ(きゃー、久しぶりに見たですわ!!)」
「……ヒソヒソ(お茶目な親方……)」
上からボイノ、ソーワ、フウ、という順番だ。
しかも最後、何だよ……。
「有り難いお言葉、有り難うございました。親方様」
えっ!?あの言葉解かるの!?
どう聞いても、「ぐぅ……ぐぅ……」としか言ってなかったよね!?
「なぁ、ミル。何て言ってたか解かったか?」
「ううん、全然解からなかった」
「だろうな……」
おいおい……何で解かるんだよ!!
「じゃあ皆、今日も張り切っていくよー……と、言いたい所だけど、今日は皆、休みな!!」
「え?」
「明日に遠征が控えてるんだ。それなのに探検で怪我なんかされたら、堪ったもんじゃない」
案外、言わないでも解かるな。
まぁ、俺は休まないけどな!!
「なぁ、ペルー。必要な物を買うとかはいいか?」
「ん?ああ、別に良いぞ。遠征の準備ならなんでも」
「へぇー、『何でも』、だな?」
「ああ、どうしたのだ?そんな『何でも』を強調する……って、うわぁああああ!!!??」
ペルー、悪いけど、少しの間眠っててくれ。
へへっ、これで……道場に行ける!!
「よっしゃあ!!皆は休んでるし、誰にも文句は言われなーい!!」
俺は『高速移動』で道場へ向かう。
……って、あれ?どこにあるんだろう……。
――トレジャータウン――
「えーと、確かタマゴ預けやの直横……あ、あった!!」
ラルドはラッキーというポケモンが経営する、タマゴを預かる施設の横にある、いかにもオンボロな道場にやって来た。
それにしても、ボロボロだな……。
「ガラガラ道場……?ガラガラ?ああ、中が空いてるのか」
俺は名前を勘違いして、中へと入って行った。
「ここが……ガラガラ道場?」
「何だよ、本当にガラガラだな」
「そうそう、ガラガラ……って、うわぁあ!?」
「そんなに驚くな。五月蝿い」
え?嘘?何で……シルガがいるんだ!?
「俺もここに来ようとしたんだ。そしてら、ペルーに引き止められてな……」
俺と同じだな……まぁ、俺は力ずくで来たけ……。
「仕方なく『ブレイズキック』で吹き飛ばしてきた」
「俺より質が悪いっ!!」
「自分もやったくせに、何を言っている」
へ?何故ばれた?
「お前の波動を見れば一目瞭然。と言うか、元からペルーが焼き鳥になてっていたしな」
「更に焼きを入れたのか……極悪非道だな」
「お前もな」
全く……何でここに来たんだ?こいつ。
……あれ?そういえばここの主は?
「ん?何か書いてあるぞ?」
「え?何々、『しばらく留守にします。タダで使っていいので、自由に修行の場として使ってください』だってさ」
「……それは好都合だな」
「同感」
もし暴れすぎて、追い出されたら堪ったもんじゃないからな。
じゃあ……。
「一時間後……ここで会おうぜ」
「その時には、俺は全ての間をクリアしているな」
「……間って何だ?」
「なっ……!?」
え?何?その「そんなのも知らないのかよ……」って顔!?
「それぞれ「ノーマル、飛行の間。悪、炎の間。岩、水の間。草の間。電気、鋼の間。氷、地面の間。格闘、エスパーの間。毒、虫の間。ドラゴンの間。ゴーストの間』という具合に分かれている」
「多いな……じゃあ、俺は『氷、地面の間』に行こうか」
「俺は『エスパーの間』だ。その後に色々行くがな」
じゃあ、俺はこのままタイムアタックで全制覇をするんだな?
燃えてきたぜ……。
「じゃあな!!また一時間後に!!」
「その時は俺がお前を倒してやる」
そして、一時間後――。
〜☆〜
「へへっ、行くぞシルガ!!」
「来るなら来いッ!!」
あれから一時間。
俺はシルガと戦っている。
それにしても、結構強くなった気がするな……。
「『雷パンチ』ッ!!」
「『見切り』」
ラルドは初手に雷パンチを放つが、見切りで避わされる。
それはまるで、最初に戦ったときのようだった。
「『電撃波』!!」
「『波動弾』」
ラルドも負けじと『電撃波』を撃つが、『波動弾』で相殺される。
すると、小爆発がおき、煙が漂う。
当然、ラルドは視界が利かないが、シルガには『波動』があった。
それは、確実に相手を見つけれる、正に隠れて闇討ちするには、絶好の特技だった。
「へっ、俺はこんなのに惑わされ無えぜ!!」
「どうだか……『はっけい』!!」
シルガは煙から一気に現れ、『はっけい』を撃つ。
だが、それは当たらなかった。
「『見切り』!!」
「なっ……!?」
俺は見切りを使い、シルガの隙を狙う。
そして……。
「最高出力!!『雷……」
「ッ!!」
「ダブルパンチ』!!」
「ぐぉお!?」
俺は両の拳で、がら空きになったシルガの背中を思いっきり殴りつけた。
それを受けたシルガは、衝撃により、地面に叩きつけられる。
「ぐっ……波動弾!!」
「残念、見切り」
まるであの時の立場が逆転したかのような戦い方をする二人。
だが、シルガやラルドも、あの時とは実力が違った。
「負けるか……ッ!!」
「へへっ!!呆気なかったなぁ!!」
「なっ……に?」
「行くぜ!!止めだッ!!」
ラルドは手に電撃エネルギーを集め、一気に解放した。
「行くぜ……『チャージビーム』ッ!!」
「負けて堪るか……行くぞ『波動纏装』」
瞬間、チャージビームはシルガに直撃し、小さな爆発を起こした。
「やったか!?」
「何がだ……?」
「へ……?」
俺は後ろからの声に振り向く。
すると、青い光を手に纏ったシルガを見た。
「『波動掌』」
「ぐわぁあ!!?」
いきなりの攻撃に、手も足もだせずに直撃を食らうラルド。
その威力は、あの時よりは小さいが……。
「それでも……喰らうな」
「当たり前だ」
何だよ……じゃあ、俺の本気を見せるぜ、負けてちゃ悔しいからな!!
「じゃ、行くぜ!!帯電【ボルテージ】改!!」
「っ……?」
ラルドが技名を言うと、体が青白く光り、体に電気が奔る。
しかも手の毛が青白い光りを纏って逆立っていた。
その姿は、普通の帯電【ボルテージ】より、強いのは一目瞭然だった。
「汚名返上だぜ……」
「汚れてないだろ?まだ……な」
「強がってられるのも、今の内だぜッ!!」
そういうと、俺は消えた。
いや、高速で走った。
シルガも一瞬戸惑ったたが、直に未完成の神速で追いついてくる。
「終わりだ!!『十万ボルト』!!」
「『波動弾』!!」
お互いに技がぶつかりあい、相殺しあう。
その力は、丁度互角だった。
そして、三十分後……。
――探検隊の間――
あれから戦い続けた俺達は、いつの間にか『探検隊の間』にいた。
だが、一向に戦いは収まらない。
「決着が着かねぇな……おいシルガ。次で最後にしようぜ」
「ん?どうした?へばったのか?」
「違ぇよ!!」
「まぁいい。行くぞっ!!」
そういうと、シルガは真空波で作った衝撃で、空中へ跳んだ。
これは……あれか。
「行くぞ……波動掌ッ!!」
「あの時と同じか?まぁいい、行くぜ、五十万ボルトッ!!」
あの時と同じ技で、俺達はぶつかりあう。
おそらくここが潰れるだろうが……俺達はそこまで計算していなかった。
そして――。
「「行けぇえええ!!!!」」
爆発を引き起こした――。
〜☆〜
「あっ!二人とも、どこに行ってたの?」
「ちょっと……なぁ?」
「ああ、ちょっと買出しに……」
「買出しに行って、そんなに傷つくわけ無いでしょ?君達今から寝なさい」
時は変わり、今はあの十分後ぐらいだ。
あの後?……あの探検隊の間って所が潰れて、それで俺達は逃げてきた。
ついでに買い物もしたんだけどなぁ……。
「じゃ、睡眠の種」
「オイ待て!飯が食えない……ぐぅ」
「俺は直に回復す……ぐぅ」
「さすがフィリア、凄いね」
相変わらずのフィリアの無茶ぶりは、俺達を軽く眠らせれた。
だって、疲れてたんだもん!!
しかも……飯が食えなくて、俺達は朝を迎えた。
と、思ったのだが、俺は早く寝すぎたのか、目が覚める。
「あ〜……あれ?夜〜?」
突っ込みがいないと、こんな事も只の戯言になる。
そういえば……寝てたんだっけ?それで……って、今何時!?
俺は時計を見る。すると……。
「三時……だと?」
中途半端な時間に起きたな俺!?
……まぁ、いいや。なんか外を歩いとこうかな……。
そういえば、バルコニーがあるって言ってたな……行ってみよう。
そして、俺はバルコニーへと、足を運んだ。
〜☆〜
「ふぅ、眠れないなぁ……」
一人バルコニーで佇むのは、イーブイのミルだった。
しかも、かなり落ち込んだ様子で。
「はぁ、ちゃんと遠征に貢献できるかな……?」
私、ちょっと自信無いや……。
イートさんと戦ったときも、本当にギリギリだったし……。
と、心が折れるのを自分で加速させていた時。
――随分元気な声が聞こえてきた、しかも聞き覚えが……。
「おーい!!ミルー!!」
「ラルド……?」
「どうしたんだ?眠れないのか?」
「うん、それもあるけど……」
遠征に自信が無いなんて……言えないや。
「どうした?まさか遠征でちゃんと手柄立てれるかな?とか思ってるのか?」
――って、え!?何で解かったのッ!?
「そんなの、長い付き合いだからな。せめてチームの中では」
「って、何気にまた私の心読んでる!?」
「知らず知らずに口に出てるぞ?お前」
え?……え?本当に?
……恥ずかしい……。
「まぁ、そんな事は気にすんな」
「でも……」
「個人個人の手柄じゃなく、チームの手柄だぜ」
「え……?」
何のことだろう……?
「この前、お前の日記が落ちてたんで見てたら、そんな事が書かれてあった」
「勝手に見ないでよ!!」
「ゴメン、でもな、もしお前が手柄立てれなくても、俺が頑張るだけだ」
で、でも、私が少しも立てれなかったら……。
「まず、遠征にいけるかはまだ解からないだろ?……絶対行けると思うけど」
「うん……」
「気にすんな、さっきも言ったろ?『個人の手柄より、チームの手柄』この言葉の意味は、お前が一番解かってると思うぜ。俺は」
「ラルド……」
なんだか……胸が温かい……。
「心配すんな、俺が助けてやるから。その代わり、サポートとか、俺が再起不能になったりしたら、お前が頑張れよ?」
「うん……ラルド」
「何だ?」
「その……ありがと……ね」
「礼は要らねえぜ?お前の言葉を使っただけだしな」
まぁ、そうだけど……。
でも。
「それでもありがとう。ラルド♪」
「ああ、こっちもありがとな。ここまで来れたのはお前のお陰だ」
「へ?」
私なりの満面の笑みできっちりお礼の言葉を言ったのに……逆に感謝された?
「お前が誘ってくれなかったら、ここに俺はいなかったし、今頃多分死んでたし」
「そ、そんな事は無いよ」
「本当だって、だからさ。ありがとな、ミル」
「/////」
い、今の私の顔、どうなってるんだろう……。
あ、赤いのかな……?
「どうした?ミル。顔が赤いぞ?」
(やっぱり!!」
どうしよどうしよ!!……そうだ!!
「わ、私今から部屋に戻るね。じゃあね!!」
「ああ、俺はここにしばらくいるからな。明日に備えておけよー!!」
「わわわ、解かってる!!」
私は急いで部屋に戻る。
明日は頑張って、ラルドを見返そう!!
そうすれば、この気持ちも取り払えるかも……。
じゃあ、明日。またね。
次回「遠征出発」