第十七話 最悪の助っ人
ドクローズの事件から四日が経ったある日――。
俺達はいつも通りの生活を送っていた。
俺はあの時に、帯電≪ボルテージ≫の副作用か、骨を折ったが……。
まぁ、今日から探検の仕事再開だ……と思っていた。
だが、事件が起きた。
〜☆〜
「ふぁ〜あ、おはよう〜」
「お?起きたか?今日は早いな」
「ふぇ……?ラルド……?」
俺はラルド、極々普通のピカチュウ。
……そういうのは冗談で、本当は元人間のピカチュウ。
記憶喪失で、自分が何か解からなかったが、最近シルガという俺の過去を知る者が現れた。
……まぁ、俺の過去を教えるって素振りは無いけどな。
「早く行くぞ。朝礼に」
「え〜?ちょっと寝癖直させて〜」
「しょうがねぇな。早くしろよ?」
「ふぁ〜い」
俺は少し笑いながら言う。
何故って?当たり前だろ?
ミルの寝癖が……凄い事になっている。
だって耳なんかトゲトゲになっていたし……。
何より、首の白い毛が……爆発してる。
もうこれは、黄色くなったらサンダースと間違われても不思議じゃないぞ?
「ねぇ、ラルド」
「何だ?」
俺は笑いを堪えながら答える。
こいつが嫁になる人、絶対に毎朝「寝癖治して〜」とか言われるんだろうな……。
まぁ、それはこいつと親しくなった、その人の責任……。
「寝癖直して」
前言撤回、こいつとチームになったら絶対に寝癖を直せと言われるので、こいつとチームになる人は注意しよう!!
「……はぁ、男に頼む?普通」
そういいつつ、丁寧に寝癖を直すラルド。
しかも、プロ顔負けの技術で……。
「これで良いか?」
「わぁ!!ありがとねっ!」
ミルは部屋にある鏡をみて、ラルドに感謝の言葉を言う。
そういや、ミルが逆らえないぐらい怖くなった事って無いよな……。
「ミル。そろそろ行くぞ」
「うん、解かってるって」
俺達はこれから何が起きるかも知らずに、朝礼が行われる大広間へと向かった――。
〜☆〜
「遅れたか!?」
「ん?ギリギリでセーフだよ」
「そうか……ミル。良かったな」
「うん……はぁ、はぁ」
安心するラルドとミル。
だが、まだ余裕のある時間に部屋を出たのに何故、こんな息が荒くなってるかって?
……実はラルド達。梯子を降りてきて、それでフィリア達に聞いていた。
何故こんな風になったかって?
「全く、あの焼き鳥≪ペルー≫め……まだ時間に余裕あるから買い物に行って来い?ふざけんじゃねぇぜ全く……」
「まぁ、修行の一環だと思えば大丈夫だよ」
「そうだな……後で焼き鳥にしよう」
「ラルド!?」
俺は手に電気を纏わせる。
しかも電気ショックなどの生温い物ではない、『十万ボルト』だ。
……だが、それはペルーの表情と焦りから止める事にした。
「おぉい!!皆いるか!?」
「何だ?ペルー、そんなに慌てて」
「何ですの!?」
「何か事件!?」
「事件どころじゃない……実はな、一週間前に……」
ペルーは非常に慌てて、何回かかんだが、それでも伝えきった。
「キザキの森の『時の歯車』が盗まれたんだ――」
「え……」
「「「「えぇぇぇぇぇぇ」」」」
この言葉に、ギルドの弟子達全員が驚き、許さない、などの言葉を上げる。
当たり前だろう、時の歯車が盗まれたのだから。
……ところで『時の歯車』って何?
「なぁ、ミル。時の歯車って?」
「各地の時を平常に動かす為の……いわば『時の守り神』だよ」
「へぇ……ミル。物知りだな」
「こ、こんな事は常識だよ///」
少し褒められた事が嬉しいのか、顔が赤くなっている。
しかも、手を組んでる……。
おいおい……転ぶぞ?
「と、言うわけだ……保安官達が今、捜査に全力を注いでいる……だから気にしないで、今日も修行を頑張れよ。じゃあ、今日も張り切っていくよーー!!」
「「「おぉぉぉぉ!!!!!」」」
絶対に時の歯車を盗んだ者を捕まえてやる!!
とか何とかを、皆が思ってるんだろうな……。
「じゃあ、俺達も行くか……」
「ああ!忘れてた。今日はあるポケモン達が来るんだ」
「え?」
「きゃー!誰ですの!?」
ハイテンションだな、ソーワさん。
一体誰が……っ!?
「臭っ!?」
「何この臭い〜!」
「鼻が曲がる……!!」
「……大体予想はついた」
この臭い、どっかで……。
っ!!そうだ、あの時だ!!
『行くぞ……毒ガス!!』
もしや……あいつらが!?
と、思った俺の予想は、見事に当たっていた。
「遠征に助っ人してくれるというので、来てもらったんだ。皆さん、どうぞ入って来てください」
俺の予想は最悪の形で解かる事となる。
何と、臭いの塊がこちらへ来たのだ。
「ぐっ……」
「臭いぃ……」
「鼻……が……」
「真空波」
シルガは無難に空気を巻き込む『真空波』を、臭いの元凶に向かって撃つ。
それは見事に臭いを巻き込みながら直撃する。
「クククッ、危ねぇじゃねぇか……」
「や、やっぱり……」
「……何でこいつらが……」
真空波の直撃を避け、梯子から姿を現せたのは……。
スカタンク――クロドだった。
「クククッ、手痛い御歓迎ご苦労」
「お前なんかに誰が歓迎なんてするか」
「へへっ!!強がりを!」
「ケッ、『弱い犬ほどよく吠える』ってか?」
「自分達の事を言ってるのですか?」
俺はこのムカつく連中に敬語で返して悪口を言う。
それにしても、敬語って言いにくいな……。
「これから遠征までの間、この三匹がこのギルドに住み込む事となったので、よろしく頼む」
「ヘイヘイ!!ペルー。ちょっと質問だ!」
「何だ?」
「なんで時の歯車が盗まれて一週間も経ってからそんな連絡するんだ?別に次の日でも……」
「……」
余計な詮索してやらないでくれ……。
いいぞ、もっとやれ。
まぁ、どうせ今日になってプリルが「あ、そういえばキザキの森の時の歯車が盗まれたんだったー」とか言ったんだろう。
本当なら、あの時……滝壺の洞窟の時に言うんだったろうな……。
「じゃ、皆さん。自己紹介を」
「ヘヘッ、俺はズバットのイングだ」
「ケッ、俺はドガースのバルンだ」
「クククッ、そして俺はスカタンクのクロド。この探検隊ドクローズのリーダーだ。覚えておいてもらおう。特にそこの四匹にはな……」
そう言うクロドの視線の先には――俺たちがいた。
「忘れたくて困ってるんですよ?こっちは」
俺はまたもや敬語で悪口を言う。
こんな奴らと一緒にいるなんて……絶対に嫌だな。
「何だ?知り合いか?」
この焼き鳥≪ペルー≫が……余計な事言いやがって……。
何でこいつはそういう邪魔な事しか言わない?
「ええ、まぁ。今は喧嘩していますが、仲直りも兼ねてここに……ね」
「……」
俺に向かって睨むクロドを、俺はにらみ返す。
……絶対に打ち殺す。
「……まぁ、今日も張り切っていくよ。各自持ち場につきな!」
「へーい」
そして、俺達は視界にあいつらをいれずに(俺だけかもしれない)地下一階に向かう。
――地下一階――
「ふぅ、何であいつらが……」
「関わらなかったらいいだけだよ」
「そうだな……お!いい依頼がある!」
「お尋ね者じゃ……無いね。いいよ、読んでみて」
「えーと……」
え?何これ?つまり、え?直訳すると……。
「知り合いが病気になったから、どんな病に効く、『ガバイトの鱗』という物を取ってきて下さい。後、ガバイトは自分の認めた物にしか自らの鱗を差し出さない……だとよ」
「え……」
「付き合ってもらうぜ。ミ・ル」
ここにはミルと俺しかいない。
例の如く、あいつらは買出しだ。
つまり……今、こいつの味方はいない。
「自分が言った事が、仇になったな」
「えぇぇぇぇ!!!??」
次回「迷宮の中の竜」