第十六話 誇りを賭けろ
あれから俺達はギルドから出て、あるダンジョンの奥地に来た。
『波紋の水辺』と呼ばれる場所だ。
波紋の水辺と呼ばれる所以は、氷柱と同じ原理だ。
氷柱は寒い場所で水の粒が落ち、それが凍り、一本の氷柱となる。
ここは、ダンジョンになるまでは氷柱が連なっていたが、ダンジョンとなると、温度が通常とは違い、少し温かくなる事がある。
その為、水の粒は凍る事無く、湖に落ち続けている。
それが波紋となり、このダンジョンの名前の由来となる。
そこに、俺達は来た――。
〜☆〜
「ルールは?」
「一対一、時間制限無し。どちらかが降参するまで続ける」
「ほう、威勢はいいな」
「当たり前だ」
静かに睨みあう二人。
が、スカタンクの方が少し迫力がある。
「そういや、お前の名前は?」
「クロド・スカルだ」
「そうか。俺はラルドだ」
二人は軽く自己紹介するものの、既にチャージ......エネルギーを溜めている。
特にラルドは『充電』があるので、チャージをするのが早い。
「行くぞ……毒ガス!!」
クロドは口に溜めた毒ガスを、一気に噴射する。
が、ラルドはそれを避ける。
毒ガスの恐ろしさは、ある意味でイングとバルン戦で身に染みたからだ。
「遅い、『十万ボルト』!!」
ラルドは十万ボルトをクロドに当てると、すぐさまバックステップで、その場から離脱する。
実はこの戦い方、シルガから教わったのだ。
教わった、と言うより真似をした、と言う方が正しいが。
「ちっ!!辻斬り!!」
「『見切り』」
クロドは振り返りの時に『辻斬り』を放つが、見切りによって避けられる。
通常、ピカチュウと言う種族は見切りを覚えない。
が、リオルだってそうだ。それを怪しく思い、ラルドはシルガに聞いてみた。
見切りの使い方を――。
「何でピカチュウが見切りを……!?」
「考えてる暇があるのか?電撃波!!」
ラルドはすぐさま体制を変えると、電撃波を撃つ。
が、クロドも負けておらず、守るで電撃波を防ぐ。
ラルドは守るを解いた瞬間のインターバルを突き、『電磁波』を撃つ。
それはギリギリで避けられたが、攻撃パターンなど、強さは解かった。
今度は、何でこいつ達がゴールドランクなのか不思議だった。
「ちっ……『火炎放射』!!」
「なっ……!?」
クロドはその隙を見抜き、突いた。
炎タイプでは高威力での、『火炎放射』で。
「ぐう……ッ!?」
「クククッ!!こっちは実力があるんだ!!だからここまで上り詰めたッ!!」
「ヘっ……それなりの実力はあるのか……」
「強がれるのも今の内だ!!辻斬りっ!!」
クロドは好機≪チャンス≫と見て、辻斬りを連続で放つ。
その斬る攻撃に、ラルドは屈する。
(見切りの特性を……突いてやがる)
ラルドはあの時のシルガの立場になって、こんなにも厄介なのか、と改めて知った。
「休み隙など与えないっ!!」
「ちっ……『十万ボルト』!!」
ラルドも負けじと十万ボルトをクロドに向かって撃つ。
それは直撃し、クロドのペースを崩す。
「かは……ッ!?」
「まだだ!!雷……」
「ちっ!!『捨て身タックル』!!」
「パンチ!!」
ラルドの『雷パンチ』と、クロドの『捨て身タックル』がぶつかる。
が、やはり体格の大きいクロドの方に分があり、ラルドは力負けする。
「雑魚が……っ!!」
「残念、十万ボルト」
「なっ……!?」
クロドはそこに倒れているラルドが消えたと同時に体に衝撃が奔る。
その正体は、雷を手に纏ったラルドだった。
「何で……っ!?」
「『身代わり』だ。さっきの突撃の時に、作らせてもらったよ」
「早い……っ!?」
「見切りと混合したんだ。お前の技の軌道を見切って、絶妙なタイミングで身代わりを……って、うわっと!」
そう説明するラルドに、容赦なく『辻斬り』を放つ。
が、見切りにより、それをラルドは冷静に避ける。
「行くぜ……帯電≪ボルテージ≫!!」
そういうと、ラルドの体が光りだす。
帯電だ。
「プラス……充電!!」
それに足して、ラルドはあの時の様に帯電に充電を重ねる。
シルガ戦の時と同じだったが、決定的な何かが違っていた。
それは、時間だった。
〜☆〜
「あれから結構な時間経ったけど……ラルド、あんまり疲れてないよ?」
「確かに……どうしてだろう?」
「あれから結構練習してたんだよ。あいつは」
「え?」
「それで、知らず知らずの内に帯電への耐性がついたんだろうな。恐らく……」
シルガはラルドの方を向き、こういう。
「あいつも気付いていない……だから怖いんだがな」
「えっ……?」
「見てろ。五分で終わる」
そして、戦いに移る――。
〜☆〜
「行くぞ……五分で終わらせる」
「ふざけるな……っ!!」
クロドは高速でラルドに近づき、『火炎放射』を噴く。
だが、それはラルドの『高速移動』で容易に避けられる。
――あんまり強くないな――
そう思い始めたその時だった。
「ぐっ……俺が……負けるかぁ!!」
「っ!?」
突如、クロドがミル達に火炎放射を放つ。
それを止める為、俺は守るを展開する。
すると、緑の壁が現れ、火炎放射を防ぐ。
が、それがクロドの作戦だった。
「クククッ!引っ掛かったな!!『捨て身タックル』!!」
「なッ……!?」
ラルドは予想外の攻撃に受身を取れず、吹き飛ばされ、湖へドボン、と言う音と共に落ちていく。
クロドは勝ち誇った様子で「雑魚が……手こずらせやがって……」と言って、オレンの実を食べる
そして、それから三十秒が経つが、ラルドは今だ上がってこない。
もしかしたら……と、最悪の考えが『二人』を過ぎる。
そう、二人を。
(あいつ……か)
そして――。
〜☆〜
う、うん……?ここは……?
そうか、俺、皆を守って……技の直撃喰らって……。
一体どうなったんだ……?
――気を持って――
え……?誰だ……?
――あなたの……誇りを言いなさい――
何がだ……?ってか、誇りって……?
――早く……言ったら、あなたの体を癒すぐらいなら……――
俺の誇り……?
――無いわけは無いでしょ?私が……知ってるのだから――
そんなの……決まってるだろ……。
――早く……――
ミルやフィリアや……言いたか無ぇーけど、シルガや、皆と一緒にいる事だ。
――了解、行くわよ……――
〜☆〜
「クククッ、死んだか?」
「ラルドォッ!!」
「くっ……!!」
(湖が少し紫になった……あいつの力か……)
瞬間、湖が黄色く染まる。
それは、とても短く、とても激しい物だった。
「何だっ!?」
「え……っ!?」
「何だ……?」
「来るぞ、放電が。耳を塞いどけ」
シルガの言葉の約三秒後、放電があたりに広がる。
その音は激しく、ボイノのハイパーボイスと同じ、もしくはそれ以上の音量が耳を襲う。
それが収まるった直に、クロドの姿が元いた場所から消えていた。
「な……にが?」
「人を勝手に死なすな」
「お前は……一体何者だ!?」
「ただの一般人さ」
「なっ……嘘をつくなっ!!」
いや、まぁ確かに普通では無いが……。
元人間なんて、それこそ信じられない。
「それよりな……お前の誇りを賭けろ」
「何だ!?」
「お前の誇りを賭けろ、それを俺が……砕いてやるよ」
「ふん……良いだろう。教えてやる……」
クロドは少し後ろへ下がると、一気にこちらに突進してくる。
『捨て身タックル』か……。
「俺の誇りは『絶対強者』である事だ!!絶対に負けない……最強の強者である事だッ!!」
「そうか、じゃあ俺の誇りを賭けてやる。俺の誇りは……」
ラルドは五つの電撃波を作り出し、そして撃った。
「皆と一緒にいる事だッ!!」
それはクロドに直撃し、クロドの紫の体が少し黒くなっていた。
「ぐう……負けるかァ!!」
が、クロドも負けておらず、そのまま『突進』していく。
だが、今ラルドが帯電状態だと言う事をクロドは忘れていた。
「へっ!!そんなので俺を倒せるか!行くぜ、止めの……」
「『捨て身タックル』!!」
「帯電解放!!チャージビームッ!!」
ラルドは帯電で溜めた雷を全て解放した技――チャージビームを放つ。
それは相当な物だったのだろうか、クロドを一発で返り討ちにした。
「ぐおっ!!?」
「へっ、見てろって言っただろ……」
「何を……っ!?」
「『お前の誇りを賭けろ、それを俺が……砕いてやるよ』ってなっ!!」
そして、ラルドはゴールドランクの探検隊に勝った――。
ちなみにこれは余談だが、この騒動のせいでラルドは腕の骨を折ってしまったらしい……?
本当ですけど。
次回「最悪の助っ人」